2020年5月24日 (日)

地形図を見るサイト-スウェーデン

2008年に紙地図の印刷方式を、オフセットから少量多品種の生産に適したデジタル方式に切り替えたスウェーデンだが、2018年6月限りでついに紙地図の刊行自体を止めてしまった。これに代える形で、国の測量機関であるラントメーテリエト Lantmäteriet(以下「国土測量庁」と訳す)が、専用サイトで閲覧・ダウンロードのサービスを提供している(下注)。まずはそれを見ていこう。

*注 スウェーデンの地形図の概要については、本ブログ「スウェーデンの地形図」参照。

(以下の記述は2020年5月現在の仕様に基づく)

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ゴットランド島 ヴィスビュー Visby, Gotland
のデジタル地形図(高度陰影図)
 

国土測量庁の地形図サイトは複数ある(下注)が、どれも似たり寄ったりの基本機能で、表示される地図も同じものだ。本稿では「私の地図 Min karta」と呼ばれるサイトの使い方を説明する。

*注 現行地形図データが見られるものでは、「私の地図」のほかに、
 ・1世代前の「地図検索と地名 Kartsök och ortnamn
 ・地図印刷に特化した「地図印刷 Kartutskrift
 ・地図のエラーを投稿する「地図改良 Förbättra kartan
 の各サイトが存在する。

 

「私の地図 Min karta」
https://minkarta.lantmateriet.se/

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「私の地図」初期画面
 

初期画面にはスカンジナビアの小縮尺図が表示され、使用言語はもちろんスウェーデン語だ。下部には、クッキー使用に関するメッセージが出ている。右下のチェックボックスで答を返せば、メッセージは消える。ヘビーユーザーでない限り、設定を保存する必要性は低いので、「同意しない」で問題はない。

使用言語に関しては、トップメニューに切り替えボタンがある。画面左に並ぶボタンの中の「トップメニューを表示/非表示」をクリックすると、最上部にメニューが現れる。ここで英語(English)を選択する。このメニューは、「トップメニューを表示/非表示」を再度クリックすれば消える。

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言語の切り替え
 

画面左のボタンメニューの意味は、下の画像に示したとおりだ。また、「ボタンの説明を表示/非表示」をクリックすれば、英語の説明が表示される。

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ボタンメニュー
 

デフォルト表示されている地図は「地形図」だが、これを拡大していくと、黒い線がぎっしり詰まった異様な図になるだろう。これは地籍界と地籍(住居)番号を描いたレイヤーが、重ね表示されている状態だ。レイヤーを消すには、左の「背景図を選択」ボタンをクリックして、サブウィンドウにある「Show property boundaries」のチェックをはずす必要がある。

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(左)デフォルトでは、地籍界レイヤーを重ね表示
(中)地籍界レイヤーを非表示に
(右)空中写真や高度陰影図への切り替えができる
 

また、このサブウィンドウでは、表示地図の切り替えができる。表示可能な地図・空中写真は以下のとおり。

Map:地形図
Aerial photo:最新の空中写真(オルソフォト=正射写真)
Elevation map:高度陰影図
Aerial photo ca. 1960:1960年ごろの空中写真
Aerial photo ca. 1975:1975年ごろの空中写真

それぞれに、先述の地籍界 property boundaries レイヤーを重ねることができる。これは紙地図の「土地区画図 Fastighetskartan」に相当する機能だ。

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表示される地図・空中写真の例
 

また、ノルウェーと国境を接する山岳地帯では、紙地図「山岳地図 Fjällkartan」の仕様で表示される。夏場と冬場のトレッキングルートをはじめ、キャンプサイト、避難小屋など野外活動に関する情報が盛り込まれている。

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山岳地図の表示仕様
 

地図を拡大縮小するには、左上隅の+-ボタンを使うほか、画面をダブルクリックしても一段階ずつ拡大する。また、マウスホイールを使うと、連続的に拡大縮小できる。

地名で検索するには、左の検索ボタンを使う。経緯度やUTM座標値による検索ができない代わりに、地名検索は精密で、地番(住居番号)単位まで可能だ。ところが、Stockholm(ストックホルム)といった都市名などで検索しようとすると、市内にある小地名がすべて候補として表示されてしまい、使い勝手がよくない。

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地名検索
 

任意の地点の位置情報を知りたいときは、画面上でクリックすると、住所(地番)、UTM座標値、標高値が表示される。

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任意の地点の位置情報を表示
 

地図をプリントするには、まずPDFファイルを作成してPCにダウンロードし、それを印刷するという手順を踏む。

左メニューにあるPDFへの書き出しボタンをクリックすると、サブウィンドウが表示されるので、フォーマット(用紙大と縦長/横長)を選択する。地図画面でハイライトされているエリアが、印刷範囲になる。これは、画面をドラッグすることで移動させることができる。印刷範囲がこれでよければ、サブウィンドウの「Export to PDF」をクリックする。これでPC上にダウンロードのメッセージが表示されるだろう。

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PDFへの書き出しフォーマット指定
 

旧版地図はどうだろうか。ウェブサイトで見られるものとしては、1:100,000「参謀本部地図 Generalstabskartan」(北部内陸では1:200,000)の地形図のほか、1:20,000~1:50,000「郡経済地図 Häradsekonomiska kartan」、1:10,000~1:20,000「経済地図 Ekonomiska kartan」などに限られる。戦後の「4色地図」や色名ブランドのシリーズ(グリーンマップなど)は一切含まれておらず、提供体制も現行データに比べれば貧弱だ。

公式サイトではないが、刊行停止直前の地形図ラスタデータを公開している奇特なサイトがあった。1:50,000のデータは紙地図の図郭単位に切り出されていて、使いやすい。GPSアプリで使うことが想定されているようだが、適宜プリントすれば、紙地図の代用にもなる。なお、本稿末尾に記載するとおり、これらのデータはすでにオープン化され、著作権も放棄されているため、二次利用に制限はない。

Svenska kartor för nedladdning(スウェーデン地図のダウンロード)
http://bengt.nolang.se/kartor/

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初期画面
 

国土測量庁には、「歴史地図 Historiskakartor」という名の旧版地図サイトがある(以下、英語版で説明)。しかし、シームレスな地図画像が用意されているわけではなく、スキャンされた刊行図葉の画像を個々に表示する方式だ。そのため、まず検索対象の絞り込みが必要になる。

「歴史地図 Historiskakartor」
https://historiskakartor.lantmateriet.se/

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「歴史地図」初期画面 英語版
 

初期画面で提示されているのは、地図上でエリアを選択する方法だが、これは相当ピンポイントまで指定しないと、「選択した範囲が広すぎる(=ヒット件数が多すぎる)」というメッセージが出て、先へ進めない。そのため、効率的に検索するには、「Advanced search(高度な検索)」を利用するとよい。

高度な検索では、アーカイブを選択しなければならない。4つ挙げられているうち、「参謀本部地図」は3番目の「Geographical Survey Archive(総合地図製作所 Rikets allmänna kartverk アーカイブ)」に含まれる。

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アーカイブの選択
 

後は、Map Series(地図シリーズ)、County(県 Län)をドロップダウンリストで選ぶと、Page(図葉)のリストに、候補となる図番・図葉名が表示されている(下図上)。この中から選んで、「Search」ボタンをクリックすると、適合する地図ファイルへのリンクが現れる(下図下)。

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(上)その他の項目を選択
(下)検索結果の表示
 

画像圧縮方式は、DjVu方式とPNG方式が選べるが、画面で見るだけなら DjVu がよいだろう。PNGはダウンロードできるが、解像度が低く、細部は読み取れない。なお、精細印刷に用いる高解像度のTIFFファイルや印刷サービスは有償になっている。

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DjVu方式で表示
 

同様の地図コレクションサイトを、ストックホルム大学も開設している。こちらは画面表示される画像はなく、TIFF形式のZIP圧縮ファイルを直接ダウンロードする形だ。図番や図郭(収録範囲)は、同じページで公開されている索引図で調べることができる。しかし、このZIPファイルはサイズが300MB前後あり、ダウンロードには相当の時間を覚悟しなければならない。

ストックホルム大学-地図の部屋 Stockholms universitet - Kartrummet
https://kartavdelningen.sub.su.se/kartrummet/

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「地図の部屋」初期画面
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図番を選んでTIFFダウンロード
 

参謀本部地図だけなら、イェヴレ Gävle にある鉄道博物館 Järnvägsmuseet のコレクションの中にも見つかる。こちらは10MBまでのJPEGファイルで表示されるが、150dpi程度の解像度があり、細部を読み取ることも難しくない。ただし、オリジナル図に加刷や書き込みが入っている。

鉄道博物館コレクション Järnvägsmuseets Samlingar - Samlingsportalen
http://www.samlingsportalen.se/all/digitala_biblioteket_vag_generalstaben.html

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鉄道博物館コレクション
参謀本部地図一覧
図名の後の数字は同じ図葉が複数あることを表す

スウェーデン国土測量庁が作成した地図のうち、1:50,000とそれより小縮尺のものは無償開放されており、商用/非商用を問わず自由に使用できる。閲覧サイトでは、画面に表示される縮尺の値が「200m以上」のものがこれに該当する。2017年9月1日からは、これらに CC0ライセンス(パブリックドメインに配置し、著作権を放棄)が適用された。二次利用の場合、出典の明示は推奨されているが、義務ではない。

それ以外の大縮尺図は著作権で保護されており、二次利用には国土測量庁の許可を要する。

Contains data from Lantmäteriet, Sweden

■参考サイト
国土測量庁 Lantmäteriet http://www.lantmateriet.se/

★本ブログ内の関連記事
 スウェーデンの地形図
 スウェーデンの山岳地図
 スウェーデンの道路・旅行地図と地形図地図帳

 地形図を見るサイト-デンマーク

2020年4月26日 (日)

地形図を見るサイト-デンマーク

世界に先駆けて2002年に紙地図の更新を廃止したデンマークだが、その後2013年に、国が作成する地理データを、過去のものを含めてすべて無償開放した。商用と非商用を問わず、複写、配布、公開、変更、他の素材との合成が、出典を明示するだけで(下注)無制限に可能となった。国土の状況を記録した地理データは公共インフラの一部であり、誰でも必要な時に容易に利用できるようにすることが、社会価値の創造に貢献するという考え方に基づいた措置だ。

*注 出典の記述形式については本稿末尾に記載。

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リレベルト Lillebælt(小ベルト海峡)付近の
1:25,000地形図(4cm地図)
 

現在、デジタル地図は言うに及ばず、紙ベースの旧版図(下注)も高精度のスキャニングによりデータ化され、専用サイトで公開されており、国外からもアクセスできる。今回はその状況を紹介しよう。

*注 デンマークの地形図の概要については、本ブログ「デンマークの地形図」参照。

(記述は2020年4月現在の仕様に基づく)

SDFE地図ビューアー SDFE kortviser

地図作成を担当する政府機関、データ供給・効率化局 Styrelsen for Dataforsyning og Effektivisering (SDFE) は、国土の地理データを公開する「SDFE地図ビューアー SDFE kortviser」というサイトを運営している。表記がデンマーク語のみであるのが惜しいが、現行図とともに19世紀中盤以降に作成された1:20,000~1;25,000図も見ることができ、利用価値は高い。

SDFE kortviser
https://sdfekort.dk/

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初期画面
 

初期画面では、左側に提供されている地理データのカテゴリーの一覧があり、上部に操作ツールが並んでいる。操作ツールのうち、印刷、検索などを選択するとドロップダウンリストが出てくる。その意味するところは下の画像のとおりだ。

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上部メニュー
 

左メニューに見えるデータのカテゴリーに、さまざまな地図データが包含されている。そのうち地形図類は、下の2行、「Historiske baggrundskort(旧版ベースマップ)」と「Baggrundskort(ベースマップ)」にある。前者は過去データ、後者は最新のデータだ。それぞれ内容を簡単に記しておこう。

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左メニュー
 

旧版ベースマップ Historiske baggrundskort

オルソフォト Orto(foto)
 正射写真、すなわち地表の高度差や、写真の中心からの距離によって生じる歪みを修整した空中写真で、1999年から2008年にかけて3年間隔で撮影されたものがシームレス画像で見られる。

地形図 Topografisk kort
 1953年から紙地図の最後となった2001年までに更新された1:25,000全国地形図(「デンマーク地形図 Danmarks Topografiske Kortværk」、略称 DTK)のシームレス画像(下注)。20世紀後半の国土の状況を表している。

*注 画面に記された期間は、地図の刊行年 Publication year ではなく、更新年 Revision year を示している。以下も同じ。

平板測量図 Målebordsblade
 地上測量(平板測量)の成果に基づく1:20,000地形図。19世紀中盤から20世紀前半にかけての国土の状況を表している。なお、南ユラン(南ユトランド)Sønderjylland は1865~1920年の間プロイセン領だったため、同国が作成した1:100,000地形図が別項目(プロイセン平板測量図 Preussiske målebordsblade 1877-1920)として立てられている。

(現行)ベースマップ Baggrundskort

オンライン地図 Skærmkort
 各種主題図の背景図に用いるために設計された簡易仕様のデジタル地図。Skærmkort(スケアムコート)は画面地図を意味する。なお、SDFE地図ビューアーの初期画面でも、このデータで透明度を上げたもの(Skærmkort dæmpet)を使っている。

ジオデンマーク GeoDanmark
 デンマークの地理データベースの3本柱の一つで、地名 Stednavne、標高モデル Højdemodel 以外の地理データを扱う。

デジタル地図 DTK
 紙地図(地形図 Topografisk kort)の後継である現行の地形図ラスタデータで、Kort25(1:25,000)から Kort500(1:500,000)までの5段階の縮尺図が見られる。なお、1:25,000は紙地図の図式に従ったデータ(Kort25 klassisk)が用いられている。

地理データは、それぞれのメニューの右端にあるスイッチアイコンをクリックすると表示される(アイコンは緑色に変わる)。複数の地理データを選択することは可能だが、画面に表示されるのは最上段にあるものだけだ。ワンタッチでレイヤーを切り替える機能はないようだ。

したがって、下位の地理データが見えるようにするには、上位の地理データを閉じる(=再度クリックしてアイコンをグレーに変える)か、レイヤーの上下を入れ替える(=項目ごとドラッグアンドドロップする)必要がある。

下の画像では、不要なカテゴリーを畳んで、見たいカテゴリーを展開し(画面左)、次にデフォルト表示されている Skærmkort dæmpet を閉じ(画面中)、見たい DTK50/Kort50 を開く操作をしている(画面右)。

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カテゴリーから地図を選択
 

これでDTK50/Kort50(現行デジタル地図1:50,000)が表示される。

地図を拡大縮小するには、+-ボタンを使うほか、ダブルクリックでも行える。図上でダブルクリックすると、1段階ずつ拡大する。Shiftキー+ダブルクリックで1段階ずつ縮小する。また、マウスホイールを使うと、連続的に拡大縮小できる。

地名で検索する場合は、右上の検索窓に入力すると、候補が表示される。例として、フュン島の中心都市オーゼンセ(オーデンセ)Odense を検索しよう。ドロップダウンリストの中から「Odense kommune(オーゼンセ自治体)」を選択する。

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地名検索画面
 

該当のエリア(オーゼンセ市域)が、赤色で面塗りされた形で現れる。

面塗り(選択表示)を消去するには、上部メニューにある消しゴムアイコンを選択してから、地図上の面塗り部分をクリックする。このアイコンはこうした画面で選択したものを解除する場合に使うものだ。

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地図表示画面
 

現行地形図だけでなく、旧版地形図も同じ要領で表示が可能だ。時代順に選択していくと、市街地や交通網が発展するようすをつぶさに追うことができて興味深い。

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後期平板測量図に切替えた例
 

地図をプリントするには、上部メニューの「Udskriv(印刷)」をクリックする。すると、印刷形式を指定するウィンドウが表示される。印刷フォーマットは、「A4 liggende(A4ヨコ)」がデフォルトになっている。タテ形にするなら「stående」と記されているものを選択する。またこのとき、印刷範囲 Udskriftsområde が地図画面に赤枠で表示されるので、マウスで位置を調整することができる。印刷形式の指定が終わったら、「Udskriv(印刷)」ボタンをクリックする。

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印刷手順
 

下の画像のようなポップアップブロック Popup blokeret の警告が出るかもしれない。続行するなら、「Hent(ダウンロード)」ボタンを選択する。中止する場合は「Luk(閉じる)」だ。印刷データはPDF形式で生成される。

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ポップアップブロック
 

歴史地図オンライン Historiske kort på Nettet

シームレス画像を扱うSDFE地図ビューアーに対して、もとになった地形図単体のスキャン画像を提供するサイトが「歴史地図オンライン Historiske kort på Nettet」だ。ここにはビューアーにはない各図葉の改訂版が網羅されているほか、18世紀の王立科学協会地図も取得できる。

Historiske kort på Nettet
https://hkpn.gst.dk/

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初期画面
 

初期画面には、地図のカテゴリー別タブが並んでいる。全国地形図は左から3番目の「Topografiske kort - landsdækkende」にある。

タブをクリックすると、ドロップダウンリストが現れる。名称だけでは区別がつかないので、下の画面画像には各地図群の作成期間を添えている。

科学協会 Videnskabernes selskab(1766-1841)
 同国の近代測量の先駆けとなるデンマーク王立科学協会 Kongelige Dansk Videnskabernes Selskab の平板測量図。18世紀後半から19世紀前半にかけて銅版印刷により刊行された縮尺1:120,000図および1:360,000等の広域図。

平板測量図等 Målebordsblade o.l.(1842-1971)
 上記「SDFE地図ビューアー」の項参照。19世紀後半から20世紀前半にかけて刊行された1:20,000図。

センチメートル地図 Centimeterkort(1953-2001)
 上記「SDFE地図ビューアー」で「地形図 Topografisk kort」と称されているものと同じで、20世紀後半に刊行された1:25,000図(=4cm地図)。なお、センチメートル地図の呼び名は、縮尺を実長1kmが図上何cmになるかで表すことに由来する。

見たい時代のものを選択すると、次に地名選択のドロップダウンリストが現れる。

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地図の種類と地名の選択
 

一例として、同じように「Odense(オーゼンセ)」を選択すると、該当する図葉の一覧が現れる。下の画像では、1:20,000の図番3616 Odense図葉が9種所蔵されていることがわかる。最初の測量は1863年だが、地表の経年変化を反映させながら1970年まで何度も更新されている。このリストで見たい図葉があれば、左端の「Vis(見る)」リンクをクリックする。

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所蔵図葉表示画面
 

別タブに地図画像が表示される。ここにも簡単な操作メニューがあり、「Metadata(メタデータ)」は当該地図の属性データ、「Kopi(コピー)」はファイルのダウンロード機能だ。

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地図表示画面
 

ダウンロード形式はPDFかJPEGで、さらに後者は、選択範囲を指定する方法と地図画像全体を対象とする方法の二択になっている。選択範囲を指定する場合、「Vælg udsnit(範囲を選択)」ボタンをクリックする。これで、地図上に表示された印刷範囲を示す赤枠がマウスで移動できるようになる。画面に「Ønsker du at forsætte?(続けますか?)」とメッセージが表示されるので、続行するならOKボタンをクリックする。

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印刷手順
 

このほかにデータ供給・効率化局は、ポータルサイト「地図サービス Kortforsyningen」を設けている。ここから各種地図データをダウンロードできる。上記サイトで扱っていないフェロー諸島やグリーンランドの地図もある。ただし、実行するにはユーザ登録(無料)が必要だ。

Kortforsyningen - download
https://download.kortforsyningen.dk/
 初期画面 > Topografiske kort(地形図)

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初期画面
 

グリーンランドの地形図は、初期画面の上位にリンク(Grønlandske data と表示)があるが、フェロー諸島は初期画面に見当たらない。まず「Topografiske kort(地形図)」を選択し、次画面左上にある Korttype(地図形式)のドロップダウンリストで「Færøerne(フェロー諸島)」を選択する必要がある。

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地図形式の選択
 

冒頭に記したように、これらのデータはパブリックドメインに位置付けられており、無償で二次利用が可能だ。ただしその場合、以下の文言により出典を明示しなければならない。

「Contains data from Styrelsen for Dataforsyning og Effektivisering(データ供給・効率化局からのデータを含むの意)、データセットの名称、データセットを当サイトから取得した年月またはデータサービス名」

記述例
「Contains data from Styrelsen for dataforsyning og effektivisering, "Kort 25", April 2020」
(データ供給・効率化局からのデータを含む、「Kort 25」(1:25,000図)、2020年4月)
「Contains data from Geodatastyrelsen, Matrikel kort, WMS Service」
(データ供給・効率化局からのデータを含む、地籍図、WMSサービス)

使用した地形図の著作権表示
Contains data from Styrelsen for dataforsyning og effektivisering, "Kort 25" and "Lave Målebordsblade", April 2020

★本ブログ内の関連記事
 デンマークの地形図
 デンマークの地形図地図帳
 デンマークのサイクリング地図
 フェロー諸島の地形図
 グリーンランドの地形図

 地形図を見るサイト-スウェーデン
 地形図を見るサイト-オランダ

2020年4月19日 (日)

地形図を見るサイト-イギリス

イギリスの国土測量を担っているオードナンス・サーヴェイ Ordnance Survey(OS、英国陸地測量部)は、地形図を公開するウェブサイトを設置していない。旧版図を含めて、地形図の提供を原則有償としているためだ。かつては地図を通販する「Get-a-map」という自局サイトで地形図データが使われていたが、今は別仕様のデジタル地図に切り替えられてしまっている。

しかし、OSの許諾を得たいくつかの民間サイトで、現行地形図(下注)の閲覧が可能だ。また、旧版図についても、刊行後50年を経過した時点でパブリックドメインに移行するため、まとまった量を公開しているサイトが存在する。その中から主なものを紹介しよう。

*注 OSの刊行する地形図については、本ブログ「イギリスの地形図-概要」参照。

(記述は2020年4月現在の仕様に基づく)

現行地形図

チャールズ・クロース協会 Charles Close Society

現行地形図がみられるサイトの多くは、1:50,000(ブランド名:ランドレンジャー Landranger)とそれ以下の小縮尺図の公開にとどまっている。OS図を研究対象としているチャールズ・クロース協会のサイトもその一つだ。

Charles Close Society - Modern OS Mapping On-line
http://www.charlesclosesociety.org/OSMap

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初期画面
© Crown copyright 2020
 

初期画面はロンドン市内の1:50,000だが、この地図画像が現れるまでに少し時間がかかるかもしれない。操作機能は単純で、地図画像の移動、拡大縮小、地名または郵便番号による検索のみだ。

地図の拡大縮小は、画面左上のスケールバーで行う。拡大すると、残念ながら1:25,000地形図ではなく、等高線なしの市街図になる。縮小すると、OS 1:250,000図、次いでOS 1:550,000図が現れる。

地名による検索は、初め少々とまどうだろう。画面左上の "enter a place/postcode(場所/郵便番号を入力)" と表示のあるボックスに地名や郵便番号を入力して、その下の "Find(検索)" ボタンをクリックするのだが、ボックスの表示がすぐに "enter a place/postcode" に戻ってしまうからだ。よく見るとその下に "Select a place(場所を選択)" と書かれたボックスが現れている。その右端のVマークをクリックすると、候補の地名一覧が表示される。ここから、見たい場所を選択する。

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地名による検索手順
 

このサイトには、他の地形図公開サイトを列挙した広範なリンク集もあり、たいへん参考になる。この画面の上部にある、"For Historic OS mapping online see HERE" または、左メニューの "Online Resources" から、リンク集に移れる。

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リンク集
 

Streetmap.co.uk

1:50,000図のサイトがいくつかあるのに対して、1:25,000図が見られるサイトは(OSとの契約料が高額(?)なためか)、Streetmap.co.uk ぐらいだろう。賑やかな広告が画面の余白を埋め尽くし、いささか目障りだが、1:25,000図の詳細がわかる貴重な存在になっている。

http://www.streetmap.co.uk/

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初期画面
 

初期画面には地図画像はなく、見たい場所の地名や郵便番号をまず入力しなければならない。ここでは街路名、経緯度、ナショナルグリッドの値などでも検索が可能だ。試しに "London" と入れてみると、60件以上の地名がヒットした。

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地名による検索手順
 

見たい地名を選択すると、ようやく1:50,000図が現れる。右下のスケールバー(Zoom Control)で一段階拡大させると、1:25,000図になる。さらに拡大するとA-Z図風の市街図になる。縮小側では1:100,000、続いて1:200,000と表示されるが、データはOSの1:250,000図を用いている。どの縮尺も紙地図に比べればかなり拡大表示されており、細部まではっきり読み取れる。

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地図表示画面
© Crown copyright 2020
 

なお、図上にホテルの位置を示すアイコンなどが表示される場合があるが、これはOSの地図記号ではないので、地図の右上にある "Icons off" をクリックして消すことができる。

地図の表示枠を拡げるには、右下の "Map Size" アイコンで、大きいほうのタイルイメージを選択する。

地図をプリントするときは、"Print" アイコンをクリックすると、印刷プレビュー画面が現れる。プレビュー画面でも、右下にある+-ボタンで地図の縮尺を変更できる。また、"Portrait" ボタンで縦長に、"Landscape" ボタンで横長に切替えられる。ただし、プリンタ側でもそれに合わせて縦/横の設定を変更する必要があるのはいうまでもない。

旧版地形図

スコットランド国立図書館 National Library of Scotland (NLS) 

イギリスの旧版地形図をウェブ上で見るなら、迷わずスコットランド国立図書館 NLS の公式サイトを訪れるべきだ。ここでは、16世紀から1960年代までのスコットランドに関する膨大な地図画像が無償公開されている。OS図については、収録範囲がイングランド及びウェールズにも及んでおり、充実度では間違いなくイギリス随一だ。

National Library of Scotland - Map Images
http://maps.nls.uk/

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初期画面
 

初期画面には、地図データへの多様なアプローチが提示されているが、左の項目列にあるテーマ別索引がわかりやすい。"Maps of Scotland" ではスコットランドの地図が年代順に、"County maps" ではカウンティ(郡)別にまとめられている。また、"Ordnance Survey maps" にはOS図のシリーズ(旧エディション)別リンクがある。

その "Ordnance Survey maps" へ進んで、次の画面で "1:25,000 maps of Great Britain - 1937-1961" を選んでみた。これは「暫定版Provisional Edition」と呼ばれた最初の1:25,000図シリーズだ(下注)。

*注 1:25,000のシリーズについては「イギリスの1:25,000地形図 I」参照。

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操作選択画面
 

こうしたシリーズものは、区分図の単体画像と、隣接図を貼り合わせたシームレス画像の2種が用意されている。単体画像は "graphic index"、シームレス画像は "seamless layer on a Google maps" からリンクしている。また、図番がわかっている場合は、その下の "Browse list by sheet number" で直接選択できる。

単体画像の場合は、図郭の選択画面が現れるので、左上のボタンで拡大して、見たい図郭を選択する。

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図郭選択画面
 

選択した図郭に応じて、右側に候補となる図葉のサムネールが表示されるので、必要なものを選択する。

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図葉選択画面
 
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図葉表示画面
 

シームレス画像の場合は、縮小画像が表示されるので、必要に応じて画面左上の+ボタンで拡大する。また、背景レイヤーをたとえば空中写真などに変更して、地表のようすを地形図と照合することもできる。この際、透明度は左メニューのスライドバーで調整する。

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シームレス画像表示
 

さらに、画面上部にある "Full Screen/Draw" でフルスクリーン化、"Spy" で背景レイヤーの上に拡大鏡風に重ねる方法、"Side by Side" で、2枚のレイヤーを左右に並べる方法も選択できる。

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Side by Side(並列表示)の例
reproduced with the permission of the National Library of Scotland https://maps.nls.uk/
 

このようにNLSのサイトは、単なる地図画像の表示にとどまらず、よりわかりやすく見せようという工夫が各所に施されており、使い慣れれば地図の世界を自由自在に回遊できるようになるだろう。

惜しいことに、スコットランド政府の予算で運営されているためか、イングランド及びウェールズに関するOS図のコレクションは不完全だ。それでも、イングランドにもウェールズにもこれに比肩するような地図画像公開サイトは未だ構築されていない。

A Vision of Britain

NLSが公開するイングランド及びウェールズの1インチ図は、19世紀から20世紀への変わり目に刊行された「改訂ニューシリーズ Revised New Series」が最も古い。それ以前、19世紀前半に作られた最初の1インチ図「オールドシリーズ Old Series」を公開しているのが、「A Vision of Britain」だ。

A Vision of Britain - Historical Maps
http://www.visionofbritain.org.uk/maps/

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初期画面
 

これはポーツマス大学地理学部 Department of Geography of the University of Portsmouth による広範な歴史資料サイトだが、"Historical Maps" のページに、照会できる地図のリストがある。

1行目の "Ordnance Survey First Series 1:63360" が、1インチ図オールドシリーズのことだ。4行目、8行目、10行目にも1インチ図(1:63360)シリーズの名があるが、これらは上記NLSのコレクションにも含まれている。

それでは、1インチ図オールドシリーズを選択するとしよう。次の画面では、湖水地方 Lake District の北辺付近の図が現れるだろう。

 

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地図表示画面
 

これはシームレス画像になっており、マウスドラッグで移動できる。また画面の下方には、シームレス画像に該当する区分図の情報とともに、サムネールが表示されている。ここからデータのダウンロード(zip圧縮、5MB程度)も可能だ。ただし実行前に、許諾条件の承認と簡単な問いに対する回答が必要になる。

どういうわけか、地名による検索はこの画面ではできず、「A Vision of Britain」のトップページに戻る必要がある。そうでなければ、地図画面右下に表示されている位置図の赤枠を地道に動かしていくしかないようだ。

現行および旧版地形図を公開しているサイトは他にもある。「官製地図を求めて-イギリス」の「地図閲覧」の項を参照されたい。

なお、OS図は、刊行後50年を超えた時点でパブリックドメインに移行するので、各公開サイトの許諾条件(商用不可、引用元の明示など)に従い、二次利用が可能になっている。

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 地形図を見るサイト-フランス
 地形図を見るサイト-ベルギー
 地形図を見るサイト-オランダ

2020年4月 5日 (日)

イギリスの1:50,000地形図

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戦後の1インチ~1:50,000シリーズの変遷
 

イギリス陸地測量部 Ordnance Survey (OS) が刊行する1:50,000地形図には、当初「第1シリーズ」と「第2シリーズ」の区別があった。その後、販売促進のためにブランド名がつけられ、今ではその「ランドレンジャー Landranger」の名で知られている。各シリーズの成立過程と特色を見ていこう。

第1シリーズ First Series

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第1シリーズ表紙
 

1マイル1インチ図(1:63,360、以下1インチ図という。下注)から1:50,000図への転換は、イギリス地形図史上、エポックメイキングな出来事の一つだった。長い歴史をもつ1インチ図は地図ユーザーに深く浸透しており、切替えの期間中、隣り合う図葉が異なる縮尺になっては、実用上著しい不便が生じる。そのため、切替えの手順は慎重に計画された。

*注 転換前の1インチ図については「イギリスの地形図略史 III-戦後の1インチ図」参照。

具体的には、1:50,000全204面をイングランド北部のランカスター Lancaster を通るラインで南北に分け、南の103面は1974年3月、北の101面は1976年2月にそれぞれ一斉に刊行することとされた。

大量の地形図を短期間で準備するために、新たな描画はせず、1インチ図第7シリーズ Seventh Series の最終版を写真拡大し、新しい図郭に合わせて切り貼りするという方法が取られた。全面改訂されたのは18面で、他の図葉は部分改訂にとどめられた。これらは「第1シリーズ First Series」と呼ばれたが、実態は、正式図である第2シリーズが揃うまでの暫定版の位置づけだった。

表紙は、1インチ図の赤をマゼンタに置き換えただけで、デザインに変化はない。図名の下にあった「One-Inch Map」の語句は、「1:50 000 First Series」に改められている。

1インチ図と1:50,000を同じエリアで比べてみよう(下の画像参照)。1インチ図に比べて、縮尺1:50,000の図では地物が1.27倍大きく描かれる。いわゆる「でか字版」と同じで、読み取りが楽になる反面、1インチ図を見慣れた目に大味に映るのはやむを得ない。

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同じエリアの1インチ図(左)と1:50,000第1シリーズ(右)
市街地、等高線、2級道路の色が置換えられ、森林の記号が省かれた
1-inch 158 Oxford & Newbury 1967年
1:50,000 164 Oxford 1974年
© Crown copyright 2020
 

図式は1インチ図のままだが、配色が変更されているので、ずいぶんと明るく開放的に感じる。最も目立つのが市街地(総描家屋)の塗りで、アミの色が黒からオレンジに置き換えられた。等高線と2級道路 Secondary road の塗りも、茶色をやめてこのオレンジを使っている。一方、高速道路 Motorway の塗り色は、水系で使われている青になり、赤で塗られた幹線道路 Trunk road や主要道路 Main road(一級道路)と区別された。1km間隔のグリッド(格子)と図郭外に記された値も、黒から青に変えられている。

色のほかにも見直しが多少ある。森林は、1インチ図で範囲を表す塗りの上に、針葉樹か広葉樹かを示す樹木を象った記号を置いていたが、1:50,000では完全に省かれた。そのため、樹相が判断できなくなった。

等高線は、1インチ図の50フィート間隔のままで、数値のみメートルに換算表記されている(下の画像)。そのため、付された値は低い方から15m、30m、46m、61mと来て、76mが最初の計曲線だ。次が91mになるが、参考資料によれば、61や91は逆さにすると19、16と誤読される恐れがあるため、南向きの斜面にのみ(つまり正位置で)記されているという。

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同じエリアの1インチ図(左)と1:50,000第1シリーズ(右)
標高点、等高線の数値はメートル換算に
北向きの斜面(右図の左上)には61mと91mの記載がない
1-inch 28 Inverness 1961年
1:50,000 26 Inverness 1976年
© Crown copyright 2020
 

図郭は、1インチ図の縦45km×横40km(実寸は縦約71cm×横約64cm)に対して、1:50,000は40km四方(実寸80cm四方)をカバーしている。縮尺が大きい分、用紙も一回り大きくなり、従来図の下にあった凡例などの整飾は、図の右側に移された。

下図は1974年現在の1:50,000索引図だ。左端に注釈が追加されており、「(中央の破線より北側では)1976年に1:50,000が刊行されるまでの間、1インチ図の入手が可能」とある。このように1976年には、北半分の第1シリーズの一斉刊行が予定されていた。しかしその間にも次の第2シリーズの図葉の製作が進んでおり、初めから第2の仕様で刊行された図葉が半数近くの44面にのぼった。

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第1シリーズ索引図
 

第2シリーズ Second Series

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第2シリーズ表紙
 

1インチ図の拡大版だった第1シリーズに対して、「第2シリーズ Second Series」は、各種資料に基づいて新たに編集・描画された1:50,000オリジナルの地図群だ。刊行開始は1974年、すなわち第1シリーズと時を同じくする。というのは、第1を一斉に刊行しておき、第2は完成したものから順次刊行して第1を置き換えていくという計画だったからだ。

そのため、最初に完成した図番176、177のロンドン市街と図番115のスノードン Snowdon は、第1なしで初めから第2での刊行となった。なお、表紙デザインには変化がなく、図名の下の記載が「1:50,000 Second Series」である以外、前シリーズと見分けがつかない。

1:50,000用の図式が適用されたことで、1インチ図式のままだった前シリーズとはいくつかの点で異同がある。

まず、注記のフォントだ(下の画像)。前シリーズはギル・サン Gill Sans の斜体やローマン Roman を使っていたが、イメージを一新すべく、サンセリフのユニヴァース Universe に統一が図られた。等高線は、1:10,000の再測量の成果を使って10m刻みで描かれ、メートル化を完了した。さらに国際化に対応して、凡例の一部に、フランス語とドイツ語の訳がつけられている。

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同じエリアの第1シリーズ(上)と第2シリーズ(下、注)
注記フォントがユニヴァースに統一された
1:50,000 26 Inverness 1976年
*注 ランドレンジャー図で代用
© Crown copyright 2020
 

鉄道記号では、複線と単線の区別が廃止され、鉄道発祥の国というのに、堂々たる幹線も心細げなローカル線も一括りに扱われるようになった。利用者にとって図示するほどの重要性はないという判断だろうか。同時に、狭軌鉄道の記号も見直され、1インチ図式の梯子形から、日本の私鉄複線に似た細い実線に短線2本を頻繁に交差させる記号に変わった。また、踏切には LC(Level crossing の略)の注記が付された。イギリスでは立体交差が主流であり、少数派かつ危険を伴う平面交差は伝統的に目立つ描き方がされている。

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第1シリーズ(上)と第2シリーズ(下)の地図記号
鉄道の単複線・軌間の区別が廃され、踏切の記号が改訂された
 

描画の自動化を進めるために、手描きの記号は廃止されるか、パターンに置き換えられた。たとえば砂丘、泥や小石交じりの浜、藪、ヒース、荒れ地、汀線など土地の状況を表すものがそうだ。また、伝統的な教区界 Parish border も記載されなくなった。

一方で、追加された記号もある。インフォメーションセンター、駐車場、展望地、キャンプ場など、レジャー関連の情報を示す記号だ。OSは地形図をベースにしてこうした情報を記載した旅行地図 Tourist map を、1インチの時代から多数製作してきた(下注)。しかし、汎用図に盛り込むようになったのはこのときからだ。記号の種類は図式改正のたびに増やされ、地図の性格をより余暇を楽しむ人に応えるものにしていった。

*注 1インチ旅行地図については「イギリスの地形図略史 IV-旅行地図の系譜」参照。

ランドレンジャーシリーズ Landranger Series

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現行ランドレンジャーシリーズ表紙
 

「ランドレンジャー Landranger」は造語で、土地を歩き回る者といった意味がある。OSではすでに1:25,000の旅行地図「アウトドアレジャー Outdoor Leisure」(1972年~)や、1:250,000の「ルートマスター Routemaster」(1978年~)など、マーケティング戦略の一環で縮尺別のブランド名付与を試みていた。

1979年からこれが本格的に実行され、1:50,000図には「ランドレンジャー Landranger」の名が与えられた。また、1985年には、表紙に風景写真が配されるようになり、店頭での訴求力がいっそう高まった。シリーズ名は変更されたものの、図郭変更や図式改正を伴っておらず、従来のシリーズ区分の定義には合わない。そのため、愛称がついただけで、第2シリーズはまだ終わっていないという見方もある。

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ランドレンジャーシリーズ表紙の変遷
 

1970年代の第2シリーズと最新のランドレンジャーシリーズを、同じエリアで比べてみると(下の画像)、40年間の経年変化は別として、後者はずいぶん賑やかに見える。特に、中央に横たわっている森、エッピング・フォレスト Epping Forest で顕著だ。要因の一つは、いったん廃止された樹種を表す記号(図では広葉樹林)が復活したことだろう。面積当たりの記号の密度も、日本の地形図より高い。

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同じエリアの第2シリーズ(左)とランドレンジャーシリーズ(右)
森林の記号が復活し、レジャー情報も多数追加
177 East London 1974年及び2016年
© Crown copyright 2020
 

もう一つの要因は、駐車場(白抜きの P )やナショナルトレール(赤のダイヤ)といったレジャー情報関連の記号や注記が加わったことだ。レジャー情報はすでに第2シリーズで盛り込まれていたが、記号の種類は当時に比べて倍増している。ビジターセンターやパークアンドライドを示す記号が新設され、展望台には180度と360度の区別さえされた。トレールやサイクリングのルート上に赤や緑の目立つ記号が並び、アクセスランド Access land が薄紫の境界線で囲まれた。

こうしたデータに埋め尽くされて、近年のランドレンジャーはかなり濃密な図面になっている。第2シリーズの初期はまだスポットカラーの6色刷だったが、1978年からプロセスカラー(CMYKの4色)印刷が採用され、色数の制限がなくなったことも影響しているだろう。

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現行のランドレンジャーシリーズ索引図
© Crown copyright 2020
 

最後に、参考資料に記されていたおもしろい話題を一つ紹介しておこう。これは図番196に描かれたワイト島 Isle of Wight の海岸線だが、崖の記号に紛れて人名らしきものが読みとれるというのだ。Birse、Mike、Bill など、これだけ並ぶと単なる空似とは言えないだろう。地図作成に携わったスタッフの名を記念に書き留めたものだろうか。

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ワイト島の断崖に隠された人名?
上図左からREV(TREV?), BIRSE, ROB
下図左からMIKE, BILL と読める
196 The Solent & Isle of Wight 2016年
© Crown copyright 2020
 

次回は、1:100,000以下の小縮尺図について。

本稿は、Tim Owen and Elaine Pilbeam, 'Ordnance Survey: map makers to Britain since 1791', Ordnance Survey, 1992; Chris Higley, "Old Series to Explorer - A Field Guide to the Ordnance Map" The Charles Close Society, 2011; Richard Oliver, 'Ordnance Survey maps: a concise guide for historians' Third Edition, The Charles Close Society, 2013 および参考サイトに挙げたウェブサイトを参照して記述した。

■参考サイト
Ordnance Survey http://www.ordnancesurvey.co.uk/
The Charles Close Society https://www.charlesclosesociety.org/
FieldenMaps.info http://www.fieldenmaps.info/info/

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2020年3月29日 (日)

イギリスの1:25,000地形図 II

「パスファインダー Pathfinder」の名を冠した1:25,000の第2シリーズは、1989年に全国(下注)をカバーした。1:50,000よりも明らかに詳細な情報が得られるようになったが、期待に反して、シリーズの販売数はいっこうに伸びなかった。他方、同じ縮尺でも利用者から好評を博していた商品群がある。それが「アウトドアレジャーシリーズ Outdoor Leisure Series」だ。

*注 ここでいう全国とは、OSの担当範囲であるイングランド、ウェールズ、スコットランドを指す。

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パスファインダーに比べ、アウトドアレジャーは
道路区分が着色され、レジャー情報(案内所、駐車場など)も充実
(上)第2シリーズ(パスファインダー)
  1067 Winchcombe & Stow-on-the-Wold 1990年
(下)アウトドアレジャー
  OL45 Cotswolds 1998年
© Crown copyright 2020
 

アウトドアレジャーシリーズ Outdoor Leisure Series

前回も触れたように、これは第二次大戦以前からある縮尺1マイル1インチ(1:63,360)の旅行地図 Tourist map(下注) を、より大縮尺の1:25,000でも実現しようという意図から生まれたものだ。

*注 1インチ旅行地図については、「イギリスの地形図略史 IV-旅行地図の系譜」で詳述。

1:25,000図は詳しい分、収録範囲が狭い。そのため、旅行では何枚も用意しなければならず、利用者に敬遠されがちだった。そこでアウトドアレジャーシリーズは、できるだけ少ない面数でカバーできるよう、特大の図郭を採用した。そのうえで部分改訂を施し、1インチ旅行地図のようにレジャー情報を追加した。さらにアピールのために、利用目的を想起させるブランド名を初めてつけた。

最初の図葉は1972年刊行の、イングランド中部、ピーク・ディストリクト Peak District の中心部を描いた「ダーク・ピーク Dark Peak」だ。第1シリーズ6面を集成したもので、図郭は縦20km×横26kmと、第1シリーズ(縦横とも10km)の5倍以上ある。表紙には、黄土色の地色に、ハリー・ティットコム Harry Titcombeが描いた山野を背景に野鳥が舞う彩色画があしらわれた。

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野鳥のイラストをあしらった初期のアウトドアレジャー表紙
(左)黄土色の表紙は、第1シリーズをベース(基図)とする
(右)レモン色は、第2シリーズがベース
photo from www.charlesclosesociety.org
 

追加されたレジャー情報はまだ少なく、ピクトグラム記号ではキャンプサイト、ユースホステルなど10数個だ。観光の見どころは注記部分に青のマーカーが引かれ、公共通行権 Public rights of way とともに、代表的なフットパスや国立公園界などが緑で記されている。

この企画は当たり、15,000部が売れたという。それを受けて翌年以降、ヨークシャーのスリー・ピークス Three Peaks、スコットランドのケアンゴームズ Cairngorms などと続刊された。当初、ベースの地図は第1シリーズだったが、第2シリーズが利用できるようになると、それに移行していった。両者は表紙の色で区別でき、前者は黄土色、後者はレモン色だ。

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アウトドアレジャー図の例
Brecon Beacons National Park Eastern area 1976年
© Crown copyright 2020

1984年からは、表紙が風景写真に変わり、個々の図葉に図番も振られた。付番方式に特別な法則はなく、単に他の図葉と区別するための番号だ。地図印刷がプロセスカラー(CMYKの4色)方式になったことで、道路区分など、色による表現が豊かになった。この頃の図はまた、陸地部分に地色として、表紙のそれを薄めたような黄色が塗られているのが特徴だ。

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表紙は風景写真になり、図番も記載
 

1インチ図の場合、旅行地図と汎用図は用途が異なるとして、最後まで並行して販売されていた。1:25,000も同じ扱いだったが、1986年に、アウトドアレジャーと図郭が完全に重複するパスファインダー(第2シリーズ)の図葉は廃刊とされた。前者の影で売れ行きが鈍く、維持するのが困難と判断されたからだ。

1998年時点の索引図(下の画像)を見ると、アウトドアレジャーの図番は1から45まで振られている。ただし、欠番が3つあるので、実際の刊行は42点ということになる。おそらくこれがシリーズの最終到達点だろう。このあと2002年3月に、後述するエクスプローラーブランドに統合され、30年続いたシリーズは消滅した。

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アウトドアレジャー索引図(1998年)
エクスプローラー(オレンジ色のエリア)がすでに南部をカバーしている
 

エクスプローラーシリーズ Explorer Series

現在1:25,000図には、「エクスプローラーシリーズ Explorer Series」の名が定着している。刊行中のすべての1:25,000図が、このブランドを象徴するオレンジ色の表紙をまとっている。シリーズの刊行開始は1994年3月のことだが、当時OSの担当者は、将来これが全国をカバーするようになるとは考えてもいなかっただろう。

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エクスプローラーの表紙はオレンジ色
 

アウトドアレジャーシリーズの商業的成功は、図郭の大型化と、旅行情報を重視した編集の有効性を実証した。これは国立公園とそれに準じる著名観光地が対象だったが、同じスキームを他の旅行適地にも拡大しようとしたのが、エクスプローラーシリーズだった。

最初に刊行されたのは、イングランド最北の貯水池キールダー・ウォーター Kielder Water、ロンドン北西郊のチルターン・ヒルズ Chiltern Hills(南北2面に分割)、サマセット州のメンディップ・ヒルズ Mendip Hills(東西2面)の計5面、続いてランズ・エンド Land's End やボドミン・ムーア Bodmin Moor など、知られたエリアの図葉が刊行されていった。

地図の仕様はアウトドアレジャーに準じており、地色の薄黄色が省かれたほかに大きな違いは見られない。基本は片面刷りだが、両面刷りの図葉もあった。図郭の大きさはパスファインダー(第2シリーズ)の約3倍で、完全に重複するパスファインダーは置き換えられ、廃刊とされた。

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(上)アウトドアレジャー、陸地に地色あり
  OL17 Snowdonia 1996年
(下)エクスプローラー、地色以外に仕様の違いはない
  108 Lower Tamar Valley 1997年
© Crown copyright 2020
 

こうして1:25,000は、レモン色のアウトドアレジャー、オレンジ色のエクスプローラー、緑色のパスファインダーのシリーズ3本立てになったのだが、併存した期間は短かった。市場のさらなる開拓と商品管理の効率化を目的として、1996年後半に、パスファインダーをエクスプローラーに置き換えていく方針が決定したからだ。

全国をカバーするのに、前者では1372面が必要なところ、大型図郭を採用する後者であれば415面と、7割もカットできる(下注1)。これは管理上有利なだけでなく、利用者にとっても価格差(下注2)を超える経済的なメリットがあった。方針に沿って、刊行のペースは1997年半ばから加速された。

*注1 パスファインダー1372面のうち、一部の図葉はアウトドアレジャーシリーズで代用されたため、未刊行のままとなった。エクスプローラー415面には、アウトドアレジャーからの転籍45面を含む(2003年現在)。
*注2 1995年の価格表による1面あたりの価格は、パスファインダー3.95ポンド、エクスプローラー4.50ポンド、アウトドアレジャー5.25ポンド。

エクスプローラーの図郭は、ナショナル・グリッドにとらわれず、旅行適地や市街地が極力複数の図葉に分割されないように設定されている。そのため、図郭の大きさは一定でなく、隣接図葉との間に重複を持たせたものも多い。図郭の重なりは、先行する1:50,000ランドレンジャーシリーズと同じ考え方だが、索引図を見る限り、より不規則で複雑だ。

図番は、国土の南西端、シリー諸島 Isles of Scilly を101とした昇順で、シェトランド諸島 Shetland Islands の北東端が470になる。付番方式が、北東端を1とするパスファインダーやランドレンジャーと真逆なのは、エクスプローラーの整備がイングランド南部から段階的に進められたことによる。

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現在のエクスプローラー索引図(2016年)
© Crown copyright 2020
 

パスファインダーの置き換えがかなり進行していた2002年3月、最終的な体系整理が実行に移された。それがアウトドアレジャーの、エクスプローラーシリーズへの統合だ。後者の図番はすでに確定しており、付け直しは利用者の混乱を招くため、旧アウトドアレジャー図葉は、接頭辞OLをつけたうえで、もとの図番が維持された(例:OL10)。表紙は橙色に統一されたが、右肩にある図番の背景色には今もオリジナルのレモン色が残されている。

2003年3月、パスファインダー最後の図葉がエクスプローラーの新刊に置き換えられて、1:25,000は単一のシリーズ「エクスプローラー」への集約を完了した。

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統合後の表紙
図番(表紙右肩)に「OL」がつくのが旧アウトドアレジャー図葉
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モバイルダウンロードサービスが導入された最新の表紙
 

次回は、1:50,000について。

本稿は、Tim Owen and Elaine Pilbeam, 'Ordnance Survey: map makers to Britain since 1791', Ordnance Survey, 1992; Chris Higley, "Old Series to Explorer - A Field Guide to the Ordnance Map" The Charles Close Society, 2011; Richard Oliver, 'Ordnance Survey maps: a concise guide for historians' Third Edition, The Charles Close Society, 2013 および参考サイトに挙げたウェブサイトを参照して記述した。

■参考サイト
Ordnance Survey http://www.ordnancesurvey.co.uk/
The Charles Close Society https://www.charlesclosesociety.org/
FieldenMaps.info http://www.fieldenmaps.info/info/

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 イギリスの1:250,000地形図 I-概要
 イギリスの1:250,000地形図 II-歴史

2020年3月22日 (日)

イギリスの1:25,000地形図 I

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1:25,000シリーズの変遷
 

イギリスの1:25,000地形図は、さまざまなレジャー情報が多数盛り込まれていて、旅行地図指向の編集方針が前面に出ている。だが、その起源はやはり軍用地図だ。

19世紀、フランスに代わり軍事大国として台頭したドイツは、早くから1:25,000を全国地図の基本縮尺に位置づけていた。それに対してイギリスの既存体系は、6インチ図(1:10,560)の次が1インチ図(1:63,360)で、中間がない。実長1kmが図上9.5cmにもなる6インチ図では、1日の行軍に何面も必要で実用的とは言えず、かといって1インチ図(同 約1.6cm)は、野戦計画に用いるには精度が足りなかった。

1914年、第1次世界大戦の開戦に際して陸軍省 War Office の要請で、イースト・アングリア East Anglia を対象に縮尺1マイル2インチ半(1:25,334)の地図が作成された。これが、イギリスでの1:25,000のルーツと言えるもので、戦時中、範囲がイングランド東部各州に拡張された。戦間期には、フランス式の1:20,000による GSGS2748軍用図シリーズも刊行された。

1:25,000が軍用図の標準縮尺に採用されたのは、1931年のことだ。それに基づき1940年から、GSGS 3906軍用図シリーズの作成が始まった。地図は既存の6インチ図を写真縮小し、1kmグリッドを付したもので、第二次世界大戦中にイギリスとアイルランド全域の図葉が作成された。

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GSGS 3906軍用図シリーズの例
44/66 NW 1941年
ベリック・アポン・トゥイード Berwick upon Tweed
6インチ図を約42%縮小しているため、地物も注記も読めないほど細かい
等高線は茶色の線で上書きされている
reproduced with the permission of the National Library of Scotland https://maps.nls.uk/
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上図と同範囲の1:25,000暫定版
岩礁の描き方が6インチ図とよく似ている
NT95 1954年
reproduced with the permission of the National Library of Scotland https://maps.nls.uk/
 

暫定版 Provisional Edition

すでに1938年に、オードナンス・サーヴェイ Ordnance Survey (OS) の将来を検討するデーヴィッドソン委員会 Davidson Committee が1:25,000の民生化を提唱していた。しかし、実際の刊行は、戦争終結後の1945年11月になる。

これは、1インチ図用に収集した情報で改訂しているものの、ベースは戦前の6インチ図であるところから、「暫定版 Provisional Edition」と呼ばれた。南岸ボーンマス Bournemouth とプール Poole の一部をカバーする図番40/09が、最初の1面だ。

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暫定版初刊 40/09の全体画像
 

図郭はナショナル・グリッドの縦10km×横10kmで、図番の左2桁は図葉が属するグリッドの参照値を示している。右2桁は図葉を含む100kmグリッドの参照値だが、後にアルファベットに置き換えられたので、40/09は SZ09という表記になった。

製作コストを抑えるために当初、黒、青、茶色の3色刷だったが、まもなく灰色を加えて4色刷とされた。灰色は総描建物の面塗り、地籍界、樹種を表す記号、公園域のアミなどに使われ、見栄えにも貢献している。マイルとヤードの縮尺が図の外枠につけられたが、用紙の節約を理由に、凡例(記号一覧)は省かれ、別刷りで配布する形が取られた。

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第1シリーズの索引図
100kmグリッドをアルファベット2文字
その中の10kmグリッドを数字2桁で表す
SZ09は、グリッドSZの左上隅に位置する
 

暫定版1:25,000図の特徴は、描写の繊細さだろう。土地の所有区分を表す地籍界が記載されており、耕地や放牧地の境界だけでなく、市街地の各住戸に付属する庭の敷地まで読み取ることが可能だ。帝国単位(ヤード・ポンド法)に基づく6インチ図から編集しているため、等高線は25フィート(7.62m)間隔で、図郭の外側に記される到達距離もマイル表記のみとなっている。

用紙は普通紙と、耐久性の高いリネン紙(1954年まで)の2種が用意され、平図または厚紙の表紙がついた折図で販売された。メートル尺に慣れない利用者のために、表紙には About 2 1/2 inches to One Mile(1マイル約2インチ半)の記載が見られる。

*注 リネン紙版は、表紙にClothなどと表示されている。

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暫定版表紙
(左)1940年代はもみ皮色の厚紙を使用
(右)1950年代半ばからは索引図なしに
 

暫定版は、1956年11月までに計2,207面が刊行された。これでイングランド、ウェールズ、スコットランドのローランド Lowland 地方、そしてハイランド Highland の沿岸まで、OSの担当範囲の約80%がカバーされたが、残るハイランドと島嶼の大半、計605面は間に合わず、次の第2シリーズに完成が持ち越された。

第1シリーズ First Series

1インチ図の第7シリーズ Seventh Series 刊行に取り組んでいた当時のOSにとって、1:25,000の整備は最優先事項ではなかった。加えて、安定した需要のある1インチ図に比べて、新参の1:25,000は売れ行きも芳しくなかった。

ようやく1956年に、デヴォン州南西部の11面が「正規版 Regular Edition」として試験刊行される。暫定版との違いは、森林域を塗る緑の版が加えられて、5色刷になったことだ。1インチ図の改訂資料を使い、新市街地などの経年変化が組み込まれたが、図郭には変更はなく、再描画も行われなかった。

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正規版5色刷の例、森林に緑のアミがかかる
SX46
image from https://ooc.openstreetmap.org/
 

1965年からは後述する新シリーズの刊行が始まるが、予算不足で進捗は遅かった。そのため、置き換えまでの間、暫定版と正規版が最小限の改訂を加えて印刷され続けた。1968年に、これらを「第1シリーズ First Series」、仕様の異なる新シリーズを「第2シリーズ Second Series」と呼び分けることになった。

表紙も頻繁に変更されている。1インチ図の赤色に対して、青基調を維持しながらも、1965年から斬新な拡大鏡のイラストが登場した。拡大モデルにされたのは、架空の地名に置き換えられているものの、デヴォン州のベリー・ポマロイ Berry Pomeroy という村だ。タイトルが1:25,000ではなく、敢えて 2 1/2 inch map(2インチ半図)と書かれているのが興味深い。

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第1シリーズ表紙
(左)拡大鏡イラストのデザイン
(右)飾り気のない一体型青表紙
 

しかしこれはコストカットのために早々と見直され、1970年から地図用紙の裏面に表紙部分を印刷する形に変わった。デザインも、イラストが姿を消し、ライトブルーで塗りつぶしただけの無粋なものだ。表紙の面には、索引図やナショナル・グリッド、参照系の説明とともに、初めて凡例も記載されている。この一体型表紙の地図は、透明ケースに入れて販売された。

「第1シリーズ」は数を徐々に減らしながらも残り続け、1986年6月に刊行された3面の改訂版が最後となる。

第2シリーズ Second Series(パスファインダーシリーズ Pathfinder Series)

1インチ図の図郭の実寸約71cm×63cmに比べ、「第1シリーズ」の図郭は実寸40cm四方で、1/3程度しかない。学校の教材としては机に広げられるちょうどいい大きさだが、徒歩旅行のルートは1面で収まらないことが多く、利用者の不満を買っていた。

そこで図郭を、「第1」の縦横10kmから縦15km×横20kmに拡大したシリーズの刊行が発表された。図番も北から南へ連番で付与され、977面でグレートブリテン島をカバーする計画だった。1960年に、図番856のイルフラクーム及びランディ Ilfracombe & Lundy 図葉が試験刊行されたが、後が続かなかった。縦15kmは、100kmグリッドの付番方式に合わず、使いにくいとされたのだ。

再検討の結果、図郭は、「第1」のそれを東西方向に2面つなげた縦10km×横20kmに変更することになり、1965年12月に第1弾が刊行された。これが「第2シリーズ Second Series」で、図番は NT27/37 のような形式をとる。

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第2シリーズの索引図の例(地図表紙を拡大)
第1シリーズの東西2面分を一つの図郭に
 

当初はまだ6インチ図から編集されていたので、等高線も25フィート間隔だ。しかし、1969年から大縮尺図がメートル尺(1:1,250、1:2,500、1:10,000)で測量・描画されるようになり、それを資料として等高線が5m間隔で描かれるようになった。一方、色版は、「第1」で使われていたグレーが黒のアミで代用され、黒、青、茶、緑の4色刷りだ。そのため、市街地などでは錯雑感が生じており、この点は「第1」のほうに分がある。

「第1シリーズ」の図面が、ヴィクトリア朝らしい装飾的な雰囲気を残していたのに対して、「第2」のデザインはよりシンプルで現代風だ。それには、注記のフォントが、代表的なセリフ体であるローマン Roman からサンセリフ体のギル・サン Gill sans に切り換えられたことが大きく影響している。

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第1シリーズと第2シリーズの違い
(上)第1シリーズ(暫定版)
SE65, SE55 1954年
reproduced with the permission of the National Library of Scotland https://maps.nls.uk/
(下)第2シリーズ(パスファインダー)
664 York (West) 1991年、665 York (East) 1989年
© Crown copyright 2020
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(上)第1シリーズ
SP12 Stow-on-the-Wold 1950年
(下)第2シリーズ(パスファインダー)
1067 Winchcombe & Stow-on-the-Wold 1990年
© Crown copyright 2020
 

表紙は緑色になり、「第1」との区別を明確にした。6インチ図から編集されていた時期はまだ拡大鏡のデザインだった(下画像右)が、メートル尺への完全切替え後は、表紙に索引図が現れた(下画像左)。必ずしもわかりやすい図ではないとはいえ、ともかくこれで図郭の範囲や隣接図の図番を確かめることができた。

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第2シリーズ表紙
(左)初期は拡大鏡デザイン、地図のモデルは別の村に
     photo from www.charlesclosesociety.org
(右)緑地に索引図が入る
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第2シリーズ(パスファインダー)表紙
(左)第2シリーズの語句が消え、索引図に1:625,000図を背景に使用
(右)索引図の単純化、新図番の強調
 

1979年に、1:25,000に対して「パスファインダー Pathfinder」というブランド名が与えられた。直訳すれば、小道(あるいは進路)を見つけるものだが、その意図はおそらく、公共通行権 Public right of way の記載開始を告知することにあっただろう。汎用図として設計されていた1:25,000の、旅行地図へ傾斜していくきっかけがここに見られる。

図番にも変化があった。1986年から、北から南へ通しで振られた新しい図番が、従来のグリッド図番と併記されるようになったのだ。初期の表紙デザインでは、まだ従来図番のほうが目立つが、最終形では主客が逆転し、索引図も含めて通し番号が強調されている。

大縮尺の再測量が遅れたため、1970年の時点で完成していたのは、全国約1400面のうち78面に過ぎなかった。1989年12月に、最後の欠番となっていたSX54/64(Pathfinder 1362)ニュートン・フェラーズ及びサールストン Newton Ferrers & Thurlestone 図葉が刊行され、「第2シリーズ」は、初刊から24年を経てようやく完結した。

ただし、国立公園その他の旅行適地を対象に、図郭を拡大した1:25,000旅行地図「アウトドアレジャー図 Outdoor Leisure map」が1972年から別途作成されており、それらがカバーするエリアでは、区分図の「パスファインダー」は刊行されないままとなった。

一応の完成を見た1:25,000図の体系だが、2000年代に入ると、マーケティング指向の事業改革がそのラインナップを再び一変させることになる。続きは次回に。

本稿は、Tim Owen and Elaine Pilbeam, 'Ordnance Survey: map makers to Britain since 1791', Ordnance Survey, 1992; Chris Higley, "Old Series to Explorer - A Field Guide to the Ordnance Map" The Charles Close Society, 2011; Richard Oliver, 'Ordnance Survey maps: a concise guide for historians' Third Edition, The Charles Close Society, 2013 および参考サイトに挙げたウェブサイトを参照して記述した。

■参考サイト
Ordnance Survey http://www.ordnancesurvey.co.uk/
The Charles Close Society https://www.charlesclosesociety.org/
FieldenMaps.info http://www.fieldenmaps.info/info/

★本ブログ内の関連記事
 イギリスの地形図-概要
 イギリスの地形図略史 I-黎明期
 イギリスの地形図略史 II-1インチ図の展開
 イギリスの地形図略史 III-戦後の1インチ図
 イギリスの地形図略史 IV-旅行地図の系譜

 イギリスの1:25,000地形図 II
 イギリスの1:50,000地形図
 イギリスの1:100,000地形図ほか
 イギリスの1:250,000地形図 I-概要
 イギリスの1:250,000地形図 II-歴史

2020年3月15日 (日)

イギリスの地形図略史 IV-旅行地図の系譜

第一次世界大戦後の1920年代、1インチ図は軍用地図から脱皮して、戸外に繰り出し始めた市民に受け入れられていく。前々回紹介したように、この「ポピュラーエディション Popular Edition(大衆版の意)」は、エリス・マーティンが描くイラスト入りの表紙が評判となって、売上げを急激に伸ばした。

既定の図郭で区切られた汎用図のポピュラーエディションと並行して、主要都市や旅行適地がうまく収まるように図郭を調整・拡大した集成図が製作された。これらは「地域図 District map」、「旅行地図 Tourist map」と呼ばれ、1920年刊行の「スノードン山 Snowdon」を皮切りに40種以上が製作された。

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ポピュラーエディションの旅行地図表紙
(左)Snowdon 1920年
(中)The Chilterns 1932年
(右)汎用図柄(Forest of Bowland)
photos from www.charlesclosesociety.org
 

表紙には、同じように旅心を誘うカラーの風景画が配されており、そのほとんどが彼の筆によるものだった。1991年のOS創設100年の際、これらの表紙を絵葉書にして10種×4セットが製作されたので、今でも当時の人々を魅了した牧歌的画風を振り返ることができる。

手もとに、1925年に刊行された「湖水地方 Lake District」の旅行地図がある。リネンで裏打ちした丈夫な紙が使われ、図郭は汎用図のそれを縦に約1.5倍した大きさだ(横幅は若干短い)。地図は汎用図のアウトラインを用い、緑、ベージュ、カーキー、オレンジなど色版の絶妙な組み合わせで、等高線に段彩を施している。地形の起伏が強調される代わり、汎用図では緑に塗られる森や公園のエリアは無着色だ。

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同 旅行地図の例
Lake District 1925年
 

現代の旅行地図とは違い、情報の追加は、ナショナルトラストの管理区域とユースホステルの位置にとどまる。しかも後者は、教会や郵便局と同じ小型の記号で、容易には見つけ出せない。その点でまだ道路地図の域を出ないのだが、当時の旅行者にとっては、図郭が大きく(通常図を複数買うより経済的)、色の効果で地形が見えるというだけでも十分な価値があっただろう。

旅行地図は、第二次大戦後の「第7シリーズ Seventh Series」でも引き続き刊行された。1960年代の索引図ではすでに点数が絞られ、スコットランドのケアンゴームズ Cairngorms からイングランド南岸のニューフォレスト New Forest までの計9点になっている。

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第7エディションの旅行地図表紙
(左)New Forest 1965年
(中)Dartmoor 1972年
(右)Ben Nevis & Glen Coe 1975年
 
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1965年の索引図
 

下図はその一つ、「ダートムーア Dartmoor」図葉だ。地勢表現では段彩にぼかし(陰影)が加わり、地勢がより実感できる。ぼかしは、初め汎用図の「第5エディション Fifth Edition」で試みられたものの、利用者の評判が芳しくなく定着しなかった。それ以来1インチ図では使われず、旅行地図にのみ見られる。

段彩は一般的な茶系の濃淡ではなく、1000フィート以上では藤色や灰青という斬新な配色が特徴だ。「バスカヴィル家の犬 The Hound of Baskervilles」の舞台でもある高地の寂寥感を表現しようとしているようで興味深い。

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同 旅行地図の例
Dartmoor 1972年
© Crown copyright 2020
 

旅行地図がみなこの仕様かというと、そうではない。「ニューフォレスト New Forest」図葉では、等高線を省き、地勢はぼかし(陰影)のみで表現する。緩やかな丘陵地で、等高線を描くまでもないという判断だろうか。その代わり、色を植生分布に割り当てているのだが、ミントグリーンの森以外は境界を明示せず、水彩画のようにグラデーション処理する。オレンジはヒース Heath(灌木の茂る荒野)、黄緑はダウンランド Downland(草に覆われた丘陵)を表しているが、なかなか冒険的な試みだ。

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New Forest 1965年
 

スコットランドの「ベン・ネヴィズ及びグレン・コー Ben Nevis & Glen Coe」図葉は、また趣が異なる。低地はシャトルーズグリーンだが、100フィート以上は段彩ではなく、ハイライトにクリームイエロー、シャドーにグレーの精妙なアミを置く2色法を用いている。スイスの地形図を思わせる美しい地勢表現だ。森林に掛けられたアップルグリーンとの相性も良く、OSの過去の製品の中でも出色の出来栄えといえる。

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Ben Nevis & Glen Coe 1975年
© Crown copyright 2020
 

1インチ図は、クルマや自転車での移動ならともかく、トレッキングのような徒歩旅行に使うには必ずしも十分な縮尺ではない。細部が描ききれていないため、現地では想像で補わなければならない場面に遭遇しがちだ。それで1972年からは、より縮尺の大きい1:25,000の旅行地図も刊行され始めた。国立公園その他の旅行適地を対象にした集成図で、「アウトドアレジャー図 Outdoor Leisure map」と命名された。

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1:25,000アウトドアレジャーシリーズ表紙
Brecon Beacons National Park Eastern area 1976年
 

地図は、汎用の1:25,000図をベースに使用しているが、段彩やぼかしは入らず、レジャー情報の記号を青色で付加しただけのいたってシンプルなものだ。最初は1インチを補完する役割だったと思われるが、次第に刊行点数が増え、1990年のカタログでは30面を数える。そのうちに汎用1:25,000も、同じような旅行情報を加えたエクスプローラーシリーズ Explorer Series に転換されたことで、最終的に両者は一体化してしまった(下注)。

*注 詳しくは別項で記述予定。

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同 旅行地図の例
Brecon Beacons National Park Eastern area 1976年
© Crown copyright 2020

さて、1インチの旅行地図はその後どうなったのだろうか。

前回述べたとおり、汎用図のほうは1974~76年に1:50,000に後を譲って、絶版とされた。ところが、旅行地図は運命を共にしなかったのだ。1990年時点でも流通していて、カタログに8点が上がっている(下注)。シリーズの名称は「ツアリングマップ・アンド・ガイド Touring Map and Guide」に改称されたが、これは地図の裏面に詳細な旅行ガイドを盛り込んだ仕様になっているからだ。

*注 この時点でツアリングマップ・アンド・ガイドの総数は14点あるが、残り6点はハーフインチ以下の小縮尺図。

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1:50,000縮小による旅行地図表紙
(左)Peak District 1992年
(中)Lake District 1994年
(右)The Cotswolds 1997年
 
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1994年の索引図
 

驚くことに、ベースマップの多くはもはやオリジナルの1インチ図ではない。1:50,000の第2シリーズをわざわざ1マイル1インチ(1:63,360)に縮小したものに置き換えられている。初期の1:50,000(第1シリーズ)が1インチ図の拡大版だったことを思えば、先祖返りのような話で、そうした手数をかけてまで、20年以上も1インチ図を維持していたのだ。1インチ図の需要の底深さを知る思いがする。

下図はその一つである「ピーク・ディストリクト Peak District」図葉だ。注記のフォントがユニヴァース Universe で揃っているので、原版が1:50,000図であることがわかる。1インチ図時代と同じように、段彩とぼかしが施されて美しく、その点では旧図と比べて遜色がない。惜しむらくは印刷のプロセスカラー化で等高線がシャープに出なくなったために、やや締まりのない図面になってしまったことだ。

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同 旅行地図の例
Peak District 1992年
© Crown copyright 2020
 

凡例では、レジャー情報が増強されている。通年開設かシーズン中かの区別があるインフォメーションセンターをはじめ、駐車場、ピクニックサイト、キャンプサイト、展望地、キャラバンサイト、ゴルフ場、トレール、ユースホステルなどが赤色の記号で示され、旅行者の関心が高い場所には赤のマーカーも引かれている。

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同 旅行地図の凡例(一部)
 

ツアリングマップ・アンド・ガイドシリーズは、図葉によって1999年まで改訂が行われたが、2001~02年ごろ、ついに絶版になってしまった。しかし、旅行地図で培われた編集のコンセプトは、より充実した形で、1:50,000のランドレンジャーシリーズ Landranger Series や、1:100,000以下のトラベルマップシリーズ Travel Map Series に継承されていく。

さて、メートル尺に切り替えられた地形図体系は、その後どのような構成になったのだろうか。次回からその概要を紹介しよう。

本稿は、Tim Owen and Elaine Pilbeam, 'Ordnance Survey: map makers to Britain since 1791', Ordnance Survey, 1992; Chris Higley, "Old Series to Explorer - A Field Guide to the Ordnance Map" The Charles Close Society, 2011; Richard Oliver, 'Ordnance Survey maps: a concise guide for historians' Third Edition, The Charles Close Society, 2013 および参考サイトに挙げたウェブサイトを参照して記述した。

■参考サイト
Ordnance Survey http://www.ordnancesurvey.co.uk/
The Charles Close Society https://www.charlesclosesociety.org/

★本ブログ内の関連記事
 イギリスの地形図-概要
 イギリスの地形図略史 I-黎明期
 イギリスの地形図略史 II-1インチ図の展開
 イギリスの地形図略史 III-戦後の1インチ図
 イギリスの1:25,000地形図 I
 イギリスの1:50,000地形図

 イギリスの旅行地図-ハーヴィー社
 北アイルランドの地形図・旅行地図

2020年3月 1日 (日)

イギリスの地形図略史 II-1インチ図の展開

230年に及ぶ歴史の中で、イギリス陸地測量部 Ordnance Survey (OS) の看板商品である1マイル1インチ図(以下、1マイル図という)とその後継である1:50,000図の仕様にはさまざまな変遷があった。下表はその一覧だが、印刷技術の進歩や利用者のニーズの動向を反映して、特に20世紀前半に様式の頻繁な変更が試みられている。また、イングランド及びウェールズと、スコットランドは第二次世界大戦まで別の体系で作成されていた。それぞれシリーズやエディションの名で呼ばれているので、時代順にその背景や特徴を見ていこう。

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OS 1インチ図および1:50,000のシリーズ一覧

オールドシリーズ Old Series

「オールドシリーズ」は、前回紹介したとおり、OS最初の1インチ図群だ。初めてOS名で刊行された1805年のエセックス州図(図番1、2、47、48)を皮切りに、1870年代まで約70年の間作り続けられた。銅版刷、墨1色の地形図で、地勢はケバで表されている。

おりしも産業革命で都市化が進む時期に当たるが、特に初期の図にはまだ多くの山野が残り、昔ながらの村里が点在している。カッシーニ出版社の復刻図の解説者は、このシリーズについて「数世紀前の農耕期から20世紀の劇的な都市化に向かう重要な推移の前夜に関するイギリスの記録である」と言っている。

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オールドシリーズの例
93 NE York 1858年(部分)
This work is based on data provided through www.VisionofBritain.org.uk and uses historical material which is copyright of the Great Britain Historical GIS Project and the University of Portsmouth
 

「オールドシリーズ」は、イングランドとウェールズを網羅するが、図郭や図番は、途中で方針が変更されたため、不揃いなものとなった。まず図郭は、最初に作業が行われた南東部でグリニッジ0度を基準に配置されたが、後の南西部では西経3度を基準に整列された。そのため中央部の図郭にしわ寄せが来て、東西方向が他よりかなり狭くなっている。

また、これを北に延長していくと極端に細長い図郭が生じてしまうため、北部(図番91~94より北側の図郭)は、新たな基線プレストン=ハル線 Preston to Hull line を用いて測量することになった。オールドシリーズの索引図はこの3者の接合体だ。さらに、1面が大きく扱いにくかったので、中期以降は、本来の図郭を4等分した縦12×横18マイル(約19×29km、下注)の範囲の小型図郭で刊行された。

*注 実長1マイルが図上1インチで表されるので、図面の寸法は12×18インチ(30.5×45.7cm)になる。

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イングランド及びウェールズの
オールドシリーズの索引図
image from www.charlesclosesociety.org, © Chris Higley, 2013
 

図番は1から110まで通しで振られているが、初期の南部が南北方向の千鳥式付番、その後手掛けた中部と北部は東西方向の千鳥式と、まるでパズルのようだ。4等分図郭はこれにNE(北東部)、SE(南東部)、NW(北西部)、SW(南西部)の区別がつく。

なお、スコットランドの1インチ図整備は1856年からで、「オールド」に対応するグループはない。

ニューシリーズ New Series

イングランドとウェールズの混沌とした旧体系を整理したのが、1872年に刊行が始まった「ニューシリーズ」だ。その図郭は、もともとプレストン=ハル線の北側で設定されていた既存の4等分図郭を南へ延長した形になっている。小図郭が全面的に採用されたのは、石版から亜鉛版への移行で単位部数あたりの印刷コストが低下したことが背景にある。図番は北西端を1として、東へそして南へと通しで振られた。

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イングランド及びウェールズの
ニューシリーズ~第4エディションの索引図
image from www.charlesclosesociety.org, © Chris Higley, 2013
 

この頃には1マイル6インチ図(1:10,560)や同25インチ図(1:2,500)などの大縮尺測量がかなり進行しており、1インチ図はその成果を用いて編集されている。地勢表現には等高線(下注)が用いられ、これを「アウトライン版 Outline edition」と呼ぶ。さらにケバを茶色で加刷したいわゆる「ヒルズ(山または丘陵)版 Hills edition」も刊行されたが、予算不足のため、一部の図葉にとどまった。

*注 等高線は標高50フィート(約15m)に1本引かれた後、1000フィートまで100フィート(約30m)間隔、その後は250フィート(約76m)間隔で引かれた。

一方、スコットランドでは、このニューシリーズに対応する形で、「第1エディション First Edition」の刊行が1856年から開始されている。1面で縦18×横24マイル(約29×39km)の範囲を表し、イングランドの小型図郭より一回り大きい。等高線で地勢を表現したアウトライン版と、等高線の代わりにケバで起伏を描いたヒルズ版の2種の形式で刊行された。

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スコットランドの
第1エディション~第3エディションの索引図
image from www.charlesclosesociety.org, © Chris Higley, 2013
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スコットランドの第1エディションの例
32 Edinburgh 1858年
reproduced with the permission of the National Library of Scotland https://maps.nls.uk/
 

改訂ニューシリーズ Revised New Series

OSの現状を調査し報告するために1892年に設置されたジョン・ドリントン卿 Sir John Dorington を長とする委員会は、OSの測量業務に関していくつかの重要な提案をした。その一つが、それまで大縮尺図の整備に合わせて行っていた1インチ図の改訂を、専任の測量隊により独立して実施させることだった。交通網の発達や市街地の急速な拡張で、既存図の内容は時代遅れになっており、更新サイクルを15年以内に短縮して、できるだけ現況を反映させようとした。

翌年から改訂作業が始まり、1895年からその成果が続々と刊行されていった。これが「改訂ニューシリーズ」で、1899年までにアウトライン版がイングランドとウェールズをカバーした。ケバを黒または茶色で加刷したヒルズ版も、ほとんどの地域で作成された。

図郭はニューシリーズと同じだが、地図記号には異同がある。たとえば、鉄道記号は複線以上と単線が区別されている。従来の梯子型は単線に用いられ、1つおきにコマを黒塗りした旗竿型を複線の記号とした。

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改訂ニューシリーズの例 234 Gloucester
(上)アウトライン版
(下)ヒルズ版
This work is based on data provided through www.VisionofBritain.org.uk and uses historical material which is copyright of the Great Britain Historical GIS Project and the University of Portsmouth
 

改訂ニューシリーズでは、1897年から刊行されたカラー版が特筆される。初期は5色刷りで、地物・注記には黒、等高線に赤、地勢を表すケバに茶色、水部に青、道路の塗りに黄褐色か赤茶色を配した。1901年からは、さらに森林の範囲に緑色のアミを掛けて、6色刷りとした。なお、複線鉄道の記号が旗竿から黒い太線に変えられたのは、このカラー版からだ。また、地図を折り畳んで、厚紙の表紙をつけるという今日のOS地図のスタイルも、このシリーズで始まった。

もともとこれらはスイスで1870年に開発されたもの(下注)で、色分けにより地形や地物の可読性が高まり、表紙つき折図で野外への携帯が容易になるとして、陸軍省が早期の実現を求めていた。だが実際に刊行されると、軍人以上に一般市民に好評で、販売の重点もそちらに置かれるようになる。

*注 スイス最初の多色刷地形図、ジークフリート図については、「スイスの地形図略史 II-ジークフリート図」で詳述。

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改訂ニューシリーズの表紙
(左)イングランド及びウェールズ版
(右)スコットランド版
photo from www.charlesclosesociety.org
 

スコットランドでは、1896年から「第1」と同じ図郭で「第2エディション Second Edition」が刊行され始めた。等高線で地勢を表現するアウトライン版と、暗褐色のケバを加刷したケバ版の2種類がある。

第3エディション Third Edition

イングランドとウェールズでは、2度目の全国改訂が1901~12年に行われ、その成果が1903年から刊行された。地図自体はニューシリーズとほとんど変化がないが、見出しに「Third Edition」と記されていることから、第3エディションの名で呼ばれる。これもカラー版があるが、従来の縦12×横18マイルを範囲とする小型図郭は途中で放棄され、1906年から縦18×横27マイル(約29×43km)の大型図郭に移行した。

スコットランドにも「第3エディション」があり、1905年から7色刷のカラー版が登場している。オークニー Orkney やシェトランド Shetland などの島嶼部は、図郭を結合した集成版で刊行された。

第4エディション Fourth Edition

同じく3度目の改訂を反映したものを「第4エディション」と呼ぶが、後述する1911年の方針変更で放棄されたため、一部の図葉が刊行されただけに終わっている。

ポピュラーエディション Popular Edition

次の第4次改訂では、等高線とケバにぼかし(陰影)も加えて、12色刷りの精巧な地図にする予定だった。しかし、1914年の第一次世界大戦勃発で計画は中止を余儀なくされた。戦後再開された作業では、製作費や時間を節約するために、等高線のみのシンプルな地勢表現で改訂を進めることになり、1919年から刊行が始まった。イングランドとウェールズ全146面で、戦間期のイギリスを記録する図像資料だ。

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ポピュラーエディションの表紙
(左)イングランド及びウェールズ版
(右)スコットランド版
photo from www.charlesclosesociety.org
 

地図カバー(上の写真参照)にも記されているとおり、内容は「等高線を描いた道路地図 Contoured Road Map」になっている。開発の背景には、戦後の旅行ブームがある。戦争の緊張が去り、一方で自動車の量産も始まったことで、個人で気軽に遠出できる環境が整いつつあった。19世紀の地形図は主として軍事上の必要性から製作されており、市販品はあくまで軍用図の払い下げの位置づけだった。ところが、旅行のための地図の需要が高まったことで、民間市場に特化した製品への方向転換が始まったのだ。敢えて「第5エディション」(下注)と言わず「ポピュラーエディション Popular Edition(大衆版の意)」と名付けられた理由も、そこにある。

*注 後述のように、「第5エディション」は次の第6次改訂を指す用語になる。

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ポピュラーエディションの例
107 N. E. London 1914年
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同 107 N. E. London 1914年
 

「ポピュラーエディション」の特徴を一言でいうと、わかりやすさだ。図郭は、第3エディションの大型(18×27マイル)が踏襲されたが、内陸部は図郭の重複が排除され、歴史的に最も整った索引図となった。等高線は50フィート間隔で描かれ、ケバを伴わない分、地物や注記が明瞭に読み取れ、すっきりした図面に仕上がっている。

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イングランド及びウェールズの
ポピュラーエディションの索引図
image from www.charlesclosesociety.org, © Chris Higley, 2013
 

道路地図としては、高速走行に適した道路に赤、通常の道路に黄色、それ以外の道は黄色の縞と塗分けることで、利用者の経路選択を手助けしている。また、遠出に欠かせない鉄道駅については専用の記号も登場した。以前は線路記号に沿わせた黒抹家屋に Station ないし Sta. と注記するだけだったが、ターミナルには矩形、それ以外には円の記号を付し、目立たせるために後の版では赤で塗られた(下図参照)。

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ポピュラーエディションの凡例
 

カバーに、エリス・マーティン Ellis Martin が描くイラストを配置したことも特筆される。木の茂る谷を見下ろし、穏やかにパイプをくゆらせながら一休みしているサイクリスト(傍らに自転車が描かれている)の絵柄は、大衆向けの製品であることをアピールするとともに、人々をまだ見ぬ土地への旅に誘った。

野外での酷使に耐えられるように、地図にはリネン(亜麻布)で裏打ちされた紙が使われており、その他、耐水紙を使用したもの、地図を別々のパネルに切り分けたうえでリネンを裏打ちしたもの(下注)も見られる。

*注 いずれも地図カバーに記載があり、裏打ち紙は Mounted on Cloth、耐水紙は on Place's Waterproof Paper、切り分け式は Dissected などと書かれている。

スコットランドでも、同時期に「ポピュラーエディション」が作成されている。全92面で、図番はスコットランド内で完結する。ただし、「国」境に位置するイングランドの図番3と5はスコットランドの図番86と89を兼ねているので、グレートブリテン島全体で見た場合は2面少なくなる。また、各図葉に1マイル程度の重複を持たせているのはスコットランド独自の仕様だ。

表紙はイラストではなく、スコットランド王室の紋章をあしらった独自のデザインが用いられた。

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スコットランドの
ポピュラーエディションの索引図
image from www.charlesclosesociety.org, © Chris Higley, 2013
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スコットランドのポピュラーエディションの例
72 Glasgow 1925年
reproduced with the permission of the National Library of Scotland https://maps.nls.uk/
 

第5エディション Fifth Edition

イングランドとウェールズでは1928年から1インチ図の全国改訂が行われ、1931年から「第5エディション」の刊行が始まった。特徴の一つは、図法(投影法)の変更で、従来のカッシーニ図法に代わり、今も続く横メルカトル図法 Transverse Mercator projection が採用されたことだ。

「第5」では、第一次大戦前に計画されながら中断していたぼかし(陰影)つきのバージョン(表紙に Fifth (Relief) Edition と表記)が実際に刊行された。1インチ図としては例外的に美しい図面ではあったが、価格が高くなったため、利用者の評判は良くなかった。それで1934年から、ぼかしのない廉価版も刊行されることになった。

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第5エディション ぼかし版の例
144 Plymouth 1928~29年
 

2種の異版が容易に識別できるように、表紙の背景は、前者の赤に対して、後者は青色になっている(下の画像参照)。予算不足で刊行が遅れたため、1937年から大型図郭を導入して、早期の完成を目指した。しかし、第二次世界大戦の勃発で計画は中止され、結局完成したのは全146面のうち30面強で、イングランドの1/5をカバーするにとどまった。

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第5エディションの表紙
(左)ぼかし(陰影)Relief 版は赤表紙
(右)アウトライン Outline 版は青表紙
photo from www.charlesclosesociety.org
 

第二次世界大戦とその後の動向については、次回詳述する。

本稿は、Tim Owen and Elaine Pilbeam, 'Ordnance Survey: map makers to Britain since 1791', Ordnance Survey, 1992; Chris Higley, "Old Series to Explorer - A Field Guide to the Ordnance Map" The Charles Close Society, 2011; Richard Oliver, 'Ordnance Survey maps: a concise guide for historians' Third Edition, The Charles Close Society, 2013 および参考サイトに挙げたウェブサイトを参照して記述した。

■参考サイト
Ordnance Survey http://www.ordnancesurvey.co.uk/
The Charles Close Society https://www.charlesclosesociety.org/
National Library of Scotland - Maps https://maps.nls.uk/
Stanfords http://www.stanfords.co.uk/
Cassini publishing http://www.cassinimaps.co.uk/

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2020年2月22日 (土)

イギリスの地形図略史 I-黎明期

まずは下の絵葉書をご覧いただきたい。中央に配置されているのは、イギリスの測量機関オードナンス・サーヴェイ Ordnance Survey(略してOS)の創設200年を記念して1991年に発行された切手(4種セットのうちの1枚)の拡大図だ。オリジナルの24ペンス切手は右側に貼られ、初日印が押されている。

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OS創設200年記念切手の初日印はがき
 

地図は、イングランド南東部、ケント州にあるハムストリート Hamstreet という小村の18世紀末ごろの姿を描いている。これは、OSが創設後初めて刊行した1マイル1インチ地形図(以下、1インチ図という。下注)の一部分だ。

*注 実長1マイル(1609.344m)を図上1インチ(25.4mm)で表す地形図。分数表示では 1:63,360になる。

OSは、政府の一機関であった軍需局 Board of Ordnance(下注)の測量部門を発祥とする。Ordnance Survey という組織名もこれに由来しており、日本語に訳すときは旧 陸軍の「陸地測量部」を当てるのが慣わしだ。組織の成立過程は、イギリスにおける地形測量と地図作成がたどった歴史に他ならない。

*注 ordnance は、兵器などの軍需品を意味する言葉。軍需局はもともとロンドン塔にある王室の兵器庫の管理部局だったが、やがて陸軍や海軍に軍需品その他の装備を供給し、国内外の兵器庫や要塞を所管する大規模な政府組織に発展した。

話の発端は1745年、スコットランドで起きたジャコバイト軍の蜂起(下注)だ。そのとき、軍需局副局長であったデイヴィッド・ワトソン David Watson は、作戦用の詳細な地図の必要性を痛感していた。この地方を表す地図は1680年代の測量に基づくものしかなく、縮尺もまちまちで非常に不完全だったからだ。ワトソンは、カンバーランド公爵ウィリアムにそのことを進言した。

*注 1688~89年の名誉革命で追放されたカトリック勢力であるジャコバイト軍が、王位回復を狙って起こした内乱。

最後の戦い(カロデンの戦い Battle of Culloden、1746年)でイギリス軍が勝利した後、国王からの裁可が下り、カンバーランド公爵の命で1747年からスコットランドで軍用測量が始まった。実務の進行を委ねられたのは、ワトソンの有能な民間人助手であったウィリアム・ロイ William Roy だ。彼が率いた6個の測量隊による精力的な作業の結果、1752年にハイランドの大半が、1755年までにスコットランド南部の地図が、それぞれ完成する。図上1インチが実長100ヤードになる縮尺1:36,000で描かれたこの地図群は、後に「カンバーランド公爵図 Duke of Cumberland's Map」と呼ばれるようになる。

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カンバーランド公爵図 インヴァネス周辺
(c) The British Library Board
 

その後、ロイは英国陸軍工兵隊 Royal Engineers に籍を置き、イングランド南部その他の測量などに従事するが、とりわけ彼の名を高らしめたのは、晩年に指揮したグリニッジとパリの両天文台間の相対位置の測定、いわゆる英仏測量 Anglo-French Survey だ。1784年から1790年にかけて実施され、その結果、英仏海峡をまたぐ広域の三角測量網が構築された。

三角測量を始めるには、まず地上の見通しの利く土地に基線 Base Line を設定し、その正確な長さを測定する必要がある(下注)。最初の基線は、ロンドン西郊ハウンズロー・ヒース Hounslow Heath に設けられた。

*注 基線は測量の基準となる三角形の一辺。基線の長さが決まれば、その両端から見通せる任意の一地点への角度を測定して、地点の座標値(経緯度)を求める。

下図は、時代が下がって1945年の1インチ図だが、基線がまだ「General Roy's Base(ロイ将軍の基線)」の注記とともに破線の記号で描かれている。図にはまた、基線西側のヒースロー Heathrow 集落周辺に「Aerodrome(飛行場)」という注記が見つかる。第二次世界大戦後これが拡張されてイギリス最大の国際空港になり、今ではその敷地が基線を横断してしまっている。

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General Roy's Base の注記がある1インチ図
170 London SW 1945年
(c) The British Library Board
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上図と同じ範囲の現在図
基線の北端をヒースロー空港の用地が横断
Image from OpenStreetMap, License: CC BY-SA
 

ロイは1790年に亡くなるが、1年後の1791年、軍需局は、彼が確立した三角測量網に基づき、イングランド南部の地図作成に着手した。作業に用いるラムズデン経緯儀が新たに購入され、OSの沿革年表はこのことをもって組織創設の承認としている。

イングランド南部を最初に手掛けた理由は、ほかでもない。海を隔てたフランスでその頃、封建制を崩壊させた市民革命、いわゆるフランス革命(1789~99年)の嵐が吹き荒れていたからだ。とどまるところを知らない勢いに周辺諸国は深刻な脅威を感じ、対仏同盟を結成して牽制した。1793年、イギリスはフランスから宣戦布告を受ける。南東海岸は、フランスが侵攻してきたときに防衛の最前線となるため、地図作成は急務だった。

1795年に、リッチモンド公爵 Duke of Richmond の資金により、進行中の測量成果を使ってサセックス州 Sussex の1インチ図が刊行されている。続くケント州 Kent の実測は1マイル6インチ(1:10,560)の精度で始めたものの、作業を加速させるために途中から1マイル3インチ(1:31,680)に落とされた。こうして描かれた原図は、1マイル1インチ(1:63,360)に縮小編集のうえ、銅版印刷に付された。

OS最初の1インチ図とされるケント州図4面は1801年に完成した。ただし、この図の刊行者名はOSではなく、サセックス州図と同じく宮廷地理学者W・H・フェイドン W. H. Faden だ(下注)。また、地図には隣接州域が描かれず、空白にされている。こうした仕様の違いから、後世の分類では、作業を指揮したOS長官ウィリアム・マッジ William Mudge の名にちなみ、「マッジ図 Mudge map」と呼ばれ、1インチ図の初期シリーズ「オールドシリーズ Old Series」には含まれない。

*注 OS自体が刊行するのは下掲のエセックス州図からだが、名義は「三角測量部 Trigonometrical Survey」だった。OSの名が初めて記載されるのは、1810年刊行のワイト島 Isle of Wight 図(オールドシリーズ第10面)。

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ケント州全図
マッジ図を1/2に縮小(=1インチ2マイル)し、原図4面を1面にまとめた集成図
1807年刊行のため、隣接する州のエリアも描かれている。

Image from http://www.mernick.org.uk/cc/kentmap/
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上図の部分拡大
 

テムズ河口の南側に位置するケント州の次は、河口北側のエセックス州 Essex が作成対象とされ、1805年に完成した。続いて1809年にはデヴォン州 Devon の図ができあがった。こうして1820年ごろには、イングランドとウェールズの1/3で図化が終了した。すでに1795年ごろには測量事業をイングランド全域、可能ならイギリス全土に拡大するという遠大な構想が立てられており、各図にはそれを踏まえた全国規模の図番が振られた。

その1820年、急逝したマッジの跡を継いで2代目のOS長官 Director General に就任したのが、トーマス・コルビー Thomas Colby だ。彼はマッジの助手として、以前から測量作業に携わっていた。

次の対象地域は、1801年にイギリスに併合されていたアイルランド島だった。測量は1824年から始まり、コルビーは現地に滞在して、直接指揮に当たった。新しい計測器具(下注)を導入し、地名の系統的な収集法を確立するなど、地図作成技術の進歩にも貢献した。長官職にありながらも、彼は相変わらず測量隊と、山野を渡り歩く長旅を共にする。そして作業が終わりに近づくと、巨大なプラムプディングを用意して山頂で慰労会を催すのを信条としていたという。

*注 コルビーの補正棒 Colby's compensation bars として知られる。

アイルランド島の計画は、全域を1マイル6インチの縮尺(以下、6インチ図)でカバーするという壮大な規模で、1846年までかかった。

冒頭で述べたように、地形図の作成は当初、軍事目的だったが、しだいに国内の民生需要も高まった。その背景の一つは、鉄道の建設ブームだ。知られているように、ジョージ・スティーブンソン George Stephenson が自作の蒸気機関車ロコモーション号で、ストックトン~ダーリントン間に鉄道を開業したのは1825年だ。続くリヴァプール=マンチェスター鉄道の成功で、1830年代半ばには最初の鉄道ブームが起き、1840年代には支線網の建設が熱を帯びる。こうした鉄道路線のプランニングに、OSの正確な測量図が活用された。

別の背景としては、1836年に成立した十分の一税転換法がある。これは古代からタイズ Tithe、すなわち十分の一税と呼ばれ継承されてきた物納制(下注)を、金銭での支払いに置き換える税制改革だが、実行には、課税対象となる土地の境界を示す地図の整備が不可欠だった。

*注 十分の一税は本来、土地の農作物や漁獲物の1割を教区牧師に寄進していたのが由来。修道院の解散等により、世俗地主がこれに代わった。

しかしそれには、1インチでは精度が足りず、アイルランドと同様に、グレートブリテン島でもより詳細な地図の必要性が叫ばれるようになる。1840年からOSは、6インチ図作成に着手する。翌1841年には陸地測量部法 Ordnance Survey Act が制定され、測量目的であれば測量士が私有地に立ち入ることができる法的権利が与えられた。

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6インチ図
Gloucestershire XXVIII.NE 1882~83年
This work is based on data provided through www.VisionofBritain.org.uk and uses historical material which is copyright of the Great Britain Historical GIS Project and the University of Portsmouth 

1854年からは農村部でさらに詳細な1:2,500(実長1マイルが図上25.344インチになるため、25インチ図と呼ばれた)の整備も始まった。この頃、どの縮尺を基本図とすべきかについては、6インチ派と1インチ派の間で長い論争があったものの、比較的広域を1面に表せる1インチ図は、これら大縮尺図からの編集で存続することになる。最終的にイングランドとウェールズで1インチ図刊行が完了するのは1870年、スコットランドでは1895年のことだ。

その後の1インチ図の展開については、次回に。

本稿は、Tim Owen and Elaine Pilbeam, 'Ordnance Survey: map makers to Britain since 1791', Ordnance Survey, 1992; Chris Higley, "Old Series to Explorer - A Field Guide to the Ordnance Map" The Charles Close Society, 2011; Richard Oliver, 'Ordnance Survey maps: a concise guide for historians' Third Edition, The Charles Close Society, 2013 および参考サイトに挙げたウェブサイトを参照して記述した。

■参考サイト
Ordnance Survey http://www.ordnancesurvey.co.uk/
The Charles Close Society https://www.charlesclosesociety.org/
National Library of Scotland - Maps https://maps.nls.uk/
Stanfords http://www.stanfords.co.uk/
Cassini publishing http://www.cassinimaps.co.uk/

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 アイルランドの地形図-概要

2020年2月14日 (金)

イギリスの地形図-概要

イギリスの国家測量機関であるオードナンス・サーヴェイ Ordnance Survey(OS、英国陸地測量部)は、1791年、兵器庫や要塞を管理していた軍需局 Board of Ordnance の測量部門としてスタートし、以来約230年間、国土の測量と地図作成に携わってきた。

OSの所管範囲はイングランド、ウェールズとスコットランド、すなわちグレートブリテン島と周辺島嶼だ。歴史的経緯から北アイルランドには別の地図作成組織があり、王室属領 Crown dependency であるマン島とチャンネル諸島も、OSが事業協力しているものの、各行政府が所管する(下注)。

*注 ただしマン島の1:50,000図はOSの刊行物。OS所管外の地形図についての詳細は、本ブログ「北アイルランドの地形図・旅行地図」「マン島の地形図」「英仏海峡 チャンネル諸島の地形図」参照。

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1インチ図の例
173 East Kent 1969年
 

そのOSが刊行する地図の縮尺別一覧を以下に掲げる。

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OS地図 縮尺別一覧
 

1:10,000以上の大縮尺図はデジタルデータのみで提供されるため、紙地図として一般の店頭に並んでいる最大縮尺は1:25,000の「エクスプローラー Explorer」だ。これと1:50,000の「ランドレンジャー Landranger」がOSの主軸製品で(下注)、トレッキングその他の野外活動に有用な情報がふんだんに盛り込まれている。

*注 1:25,000については「イギリスの1:25,000地形図 I」、1:50,000は「イギリスの1:50,000地形図」参照。

一方、1:100,000の「ツアー Tour」は、全国をカバーするものではなく、人気のある観光エリアに絞って刊行されている。1:250,000「OSロード」(下注)とともに、旅のプランニングやドライブの際に使う縮尺図だ。最小縮尺の1:550,000「OSルート」は、両面印刷によりこれ1点でOS所管の全域を収録する。

*注 1:100,000および1:550,000については「イギリスの1:100,000地形図ほか」、1:250,000は、「イギリスの1:250,000地形図 I-概要」参照。

地図の縮尺は、もともと帝国単位(ヤード・ポンド法)に基づいていた。上表の右側の欄に示したとおり、各縮尺図の通称は、実長1マイル(1609.344m)が図上何インチで表されているかを示している。たとえば6インチ図 6-inch map は、1マイルを図上6インチで表した地図だ(下注)。同様にハーフインチ図は、1マイルを1/2インチ(=2マイルを1インチ)で表したものになる。ただし、小縮尺の1:633,600は1/10インチ図と言わず、10マイル図(実長10マイルを図上1インチで表す)と表現する。

*注 6-inch map は略称で、正しくは six inches to the mile map(1マイル6インチ図)という。

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1インチ図の縮尺
マイル、ヤード、キロメートルの順に縮尺が並ぶ
 

これら帝国単位による縮尺図は、おおむね1970年代までにメートル法に基づくものに置き換えられた。同時に、図上の標高値や等高線間隔もメートル表記に改められた。しかし、現地の道路標識に記される距離や制限速度がそうであるように(下注)、実生活ではいまだにマイルやヤードが通用している。それで地図の上でも、到達地への距離表示はkmとマイルの併記だ。

*注 ちなみに道路標識に 50m などとあるのは、50マイルを意味する。短距離はヤードで表す。

図式の特徴をいくつか挙げておこう。

地勢表現は、中縮尺図と小縮尺図で明らかに描き方を変えている。中縮尺図である1:25,000、1:50,000は等高線のみで、段彩やぼかしは入らない。こうした視覚的効果は大陸諸国の地形図でよく使われるが、OSでは1930年代の1インチ図で一度試みられたきりだ。イギリスの中縮尺図は線描主体で、絵画的要素は乏しい。段彩とぼかしは、1:100,000以下の小縮尺図で初めて加えられる。

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地勢表現の違い
(左)1:50,000は線描主体
(右)1:250,000は段彩やぼかしで地形を立体的に見せる
© Crown copyright 2020
 

地図記号では、鉄道の駅に小さな正円を使うのがユニークだ。日本でも時刻表の路線図ではおなじみだが、イギリスの地形図では1:25,000のような駅構内の範囲が示せる縮尺でも、中心位置に正円を置く。さらに円に赤の塗りを入れるので、市街地でも見つけやすい。また近年は、LRT、狭軌線、路面軌道などに適用されるライトレールの記号(日本の私鉄記号に似ている)が新設されたが、こちらの駅(電停)は黄色に塗られる。

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鉄道と駅の表示
赤の円がヘビーレールの駅、黄の円はライトレールの停留所
1:25,000 220 Birmingham 2015年
© Crown copyright 2020
 

イングランドとウェールズの図葉には、公共通行権 Public rights of way の記載がある。公共通行権とは、私有・公有を問わずその土地を通行できる法的権利のことで、現 図式では4種類の記号が設定されている。すなわち、歩行のみ可能なフットパス Footpath(自然歩道)、乗馬での通行も可能なブライドルウェー Bridleway(乗馬道)、クルマなどの通行に制限があるバイウェー Restricted byway(脇道)、公共交通に開放されているバイウェー Byway open to the traffic だ。

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公共通行権(左)と遺跡(右)の記号
 

下図左はコッツウォルズの一角だが、フットパスが網の目のように走っているのが読み取れる。しかし、これらは必ずしも明瞭な道とは限らない。牧場や林の中など、道のないところを横断していることもしばしばだ。なお、スコットランドでは通行権の定義が異なる(下注)ため、地形図に表示はない。

*注 イングランド及びウェールズの法では、州議会で指定されたルートに通行権が発生するので、そのルート(道路とは限らない)が図上に明示されるが、スコットランドの法では、一定の条件を満たす道路に自動的に通行権が生じるので、明示は必要とされない。

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フットパスの表示
1:25,000(左)では緑色、1:50,000(右)では赤で示される
菱形の記号はナショナル・トレール等のルートを表す
OL45 The Cotswolds, 163 Cheltenham & Cirencester
© Crown copyright 2020
 

歩き旅に役立つ情報はこれだけではない。凡例には、公共通行権と並んで、「他のパブリックアクセス Other Public Access」、「アクセスランド Access Land」(イングランドとウェールズのみ)という項目が見られる。前者には、ナショナル・トレール National Trail のような長距離自然歩道や、パーミティド・フットパス Permitted footpath、すなわち通行権は設定されていないものの、土地所有者が通行を許可している道、といった地図記号が含まれている。

一方後者は、誰でもローミングする(歩き回る)ことが法的に許可された土地、アクセスランド Access land に関する記号だ。かつてはナショナル・トラスト National Trust などの管理地が濃い紫色の太枠で括られていた。現在は、2000年施行の田園地帯及び通行権法 Countryside and Rights of Way Act に基づくアクセスランドの範囲を、レモン色で面塗りし、オレンジ色のアミの枠線で囲んで表す。

OSの地図は、こうした歩道や土地の権利について一般市民に示し、広める役割を担っている。

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「他のパブリックアクセス」と「アクセスランド」の記号
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アクセスランドは淡い黄色で塗られ、オレンジ色の枠で囲まれる
1:25,000 Eastbourne & Beachy Head
© Crown copyright 2020
 

古きものをこよなく愛する国民気質の表れか、遺跡の記載が多いことにも注目すべきだろう。考古遺跡は、ローマ時代とそれ以外を、注記のフォントで区別さえしている。下図右には、斜めに走るほぼ直線の道路があるが、これはローマン・ロード Roman Road(ローマ時代の軍事道路)のフォス・ウェー Foss way をなぞっている。そのため、周辺には当時の旧跡が点在しており、注記が各所に見られる。

こうした古代の道や鉄道の廃線跡 Dismantled Railway(下注)などの記載は、地表の状態を写し取るという地形図の趣旨を超えている。小道 Path などに再利用されているものはもとより、地表に痕跡がない区間でも、破線の間隔を狭めた特別な記号でルートを示しているからだ。廃線跡をこれだけ律儀に描いている地形図は、イギリス以外ではあまり見かけない。

なお、廃線跡の記号表示は1:50,000に限って見られるものだ。1:25,000では注記のみになるが、帯状に延びる地籍界によって廃線跡を識別することができる。

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遺跡や廃線跡の表示
廃線跡は1:25,000(左)では地籍界で判別できるが、
地籍界を描かない1:50,000(右)では別の記号で示される
OL45 The Cotswolds, 163 Cheltenham & Cirencester
© Crown copyright 2020
 

旅行情報 Tourist information もまた多彩だ。1:25,000の凡例には37種、1:50,000でも18種のピクトグラム記号が用意されている(下の画像)。さらに、トレールやサイクリングルートには円や菱形の記号が点々と置かれ、図上で容易にたどることができる。汎用図として見ると錯雑感がなくもないが、活用する人には専用地図に匹敵する価値があるだろう。

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1:25,000の旅行情報の記号群
 

地図は数年ごとに最新版に置き換えられるが、おのおのの版のことを「エディション Edition」と呼ぶ。1950年代から英数字方式で管理されており、大規模な改訂はアルファベット(A、B、C…)で、その間の小改訂は数字(1、2…)や記号(/* など)で表していた(例:A/*、A/*/*、B1、C2/)。これは地図の整飾部分にひっそりと書かれていたが、2015年6月版から省かれた。

OSの地図は、厚紙の表紙の中に折り畳まれている。これは1897年に1インチ図に導入されて以来の伝統だ。地図用紙の材質も早くから工夫され、普通紙と並んで、これにリネンの裏打ちを施した堅牢なバージョン(表紙に mounted on cloth と表示)があった。リネン紙版は1967年後半まで販売されていた。

最近はそれに代わるものとして、ラミネート加工紙版が登場している。ややごわごわするが、耐水・耐擦性があり、イギリスの変わりやすい天気に持ち出しても心配がない。これはブランド名に「アクティヴ Active」をつけて呼ばれ(例:ランドレンジャー・アクティヴ Landranger Active)、普通紙版と並行して刊行されている(下注)。

*注 販売サイトでは、普通紙が Standard、加工紙は Waterproof などと案内されている。

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ランドレンジャー・アクティヴの表紙の例
 

紙地図は、OSの公式サイトや、スタンフォーズ Stanfords をはじめ同国内のネットショップで販売され、国外にも送ってくれるので、入手は容易だ。モバイル用データも利用可能だが有償で、月ぎめか年ぎめで利用契約を結ぶ必要がある。

2015年からは、紙地図とモバイル機器とリンクさせる興味深いサービスが開始された。地図表紙に「モバイルダウンロード Mobile download」のロゴがついていれば、対象の商品だ。これは紙地図と同じ範囲のデジタルデータがダウンロードできるというもので、アクセスに必要なキーコードが表紙の裏面にスクラッチ印刷されている。説明書きによれば、デバイスに専用アプリをインストールし、このキーコードを入力すると、ダウンロードが可能になる。

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モバイルダウンロードのロゴがついた新表紙の例
 

OSは現在、ビジネス・イノベーション・職業技能省 Department for Business, Innovation and Skills の所管下にあるが、組織的には、特定の省庁に属さない事業執行機関 Executive agency だ。そして財務面では、担当事業の運営財源のうち 50%以上を自己収入で賄うことができるトレーディング・ファンド Trading fund とされている。そのため、地形図データの販売を積極的に行っており、OSのロゴをつけた民間事業者の出版物が多数出回っている。

このような事情もあって、OSではウェブサイトを含め、地形図を無償公開していない。しかし、OSの許諾を得たいくつかの民間サイトで閲覧が可能だ。また、刊行後50年を超えるものはパブリックドメインに移行するので、スコットランド国立図書館 National Library of Scotland などが公開サイトを構築している。各URLは「官製地図を求めて-イギリス」の「地図閲覧」の項を参照されたい。

ここまでイギリスの地形図の主な特徴を見てきたが、こうした実用本位の仕様はどのように形成されてきたのだろうか。全国測量が初めて実施された18世紀に遡って、時代順にその過程を追ってみよう。続きは次回に。

本稿は、Chris Higley, "Old Series to Explorer - A Field Guide to the Ordnance Map" The Charles Close Society, 2011; Richard Oliver, 'Ordnance Survey maps: a concise guide for historians' Third Edition, The Charles Close Society, 2013 および参考サイトに挙げたウェブサイトを参照して記述した。

■参考サイト
Ordnance Survey http://www.ordnancesurvey.co.uk/
The Charles Close Society https://www.charlesclosesociety.org/

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