旅行地図

2020年3月29日 (日)

イギリスの1:25,000地形図 II

「パスファインダー Pathfinder」の名を冠した1:25,000の第2シリーズは、1989年に全国(下注)をカバーした。1:50,000よりも明らかに詳細な情報が得られるようになったが、期待に反して、シリーズの販売数はいっこうに伸びなかった。他方、同じ縮尺でも利用者から好評を博していた商品群がある。それが「アウトドアレジャーシリーズ Outdoor Leisure Series」だ。

*注 ここでいう全国とは、OSの担当範囲であるイングランド、ウェールズ、スコットランドを指す。

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パスファインダーに比べ、アウトドアレジャーは
道路区分が着色され、レジャー情報(案内所、駐車場など)も充実
(上)第2シリーズ(パスファインダー)
  1067 Winchcombe & Stow-on-the-Wold 1990年
(下)アウトドアレジャー
  OL45 Cotswolds 1998年
© Crown copyright 2020
 

アウトドアレジャーシリーズ Outdoor Leisure Series

前回も触れたように、これは第二次大戦以前からある縮尺1マイル1インチ(1:63,360)の旅行地図 Tourist map(下注) を、より大縮尺の1:25,000でも実現しようという意図から生まれたものだ。

*注 1インチ旅行地図については、「イギリスの地形図略史 IV-旅行地図の系譜」で詳述。

1:25,000図は詳しい分、収録範囲が狭い。そのため、旅行では何枚も用意しなければならず、利用者に敬遠されがちだった。そこでアウトドアレジャーシリーズは、できるだけ少ない面数でカバーできるよう、特大の図郭を採用した。そのうえで部分改訂を施し、1インチ旅行地図のようにレジャー情報を追加した。さらにアピールのために、利用目的を想起させるブランド名を初めてつけた。

最初の図葉は1972年刊行の、イングランド中部、ピーク・ディストリクト Peak District の中心部を描いた「ダーク・ピーク Dark Peak」だ。第1シリーズ6面を集成したもので、図郭は縦20km×横26kmと、第1シリーズ(縦横とも10km)の5倍以上ある。表紙には、黄土色の地色に、ハリー・ティットコム Harry Titcombe が描いた山野を背景に野鳥が舞う彩色画があしらわれた。

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野鳥のイラストをあしらった初期のアウトドアレジャー表紙
(左)黄土色の表紙は、第1シリーズをベース(基図)とする
(右)レモン色は、第2シリーズがベース
photo from www.charlesclosesociety.org
 

追加されたレジャー情報はまだ少なく、ピクトグラム記号ではキャンプサイト、ユースホステルなど10数個だ。観光の見どころは注記部分に青のマーカーが引かれ、公共通行権 Public rights of way とともに、代表的なフットパスや国立公園界などが緑で記されている。

この企画は当たり、15,000部が売れたという。それを受けて翌年以降、ヨークシャーのスリー・ピークス Three Peaks、スコットランドのケアンゴームズ Cairngorms などと続刊された。当初、ベースの地図は第1シリーズだったが、第2シリーズが利用できるようになると、それに移行していった。両者は表紙の色で区別でき、前者は黄土色、後者はレモン色だ。

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アウトドアレジャー図の例
Brecon Beacons National Park Eastern area 1976年
© Crown copyright 2020

1984年からは、表紙が風景写真に変わり、個々の図葉に図番も振られた。付番方式に特別な法則はなく、単に他の図葉と区別するための番号だ。地図印刷がプロセスカラー(CMYKの4色)方式になったことで、道路区分など、色による表現が豊かになった。この頃の図はまた、陸地部分に地色として、表紙のそれを薄めたような黄色が塗られているのが特徴だ。

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表紙は風景写真になり、図番も記載
 

1インチ図の場合、旅行地図と汎用図は用途が異なるとして、最後まで並行して販売されていた。1:25,000も同じ扱いだったが、1986年に、アウトドアレジャーと図郭が完全に重複するパスファインダー(第2シリーズ)の図葉は廃刊とされた。前者の影で売れ行きが鈍く、維持するのが困難と判断されたからだ。

1998年時点の索引図(下の画像)を見ると、アウトドアレジャーの図番は1から45まで振られている。ただし、欠番が3つあるので、実際の刊行は42点ということになる。おそらくこれがシリーズの最終到達点だろう。このあと2002年3月に、後述するエクスプローラーブランドに統合され、30年続いたシリーズは消滅した。

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アウトドアレジャー索引図(1998年)
エクスプローラー(オレンジ色のエリア)がすでに南部をカバーしている
 

エクスプローラーシリーズ Explorer Series

現在1:25,000図には、「エクスプローラーシリーズ Explorer Series」の名が定着している。刊行中のすべての1:25,000図が、このブランドを象徴するオレンジ色の表紙をまとっている。シリーズの刊行開始は1994年3月のことだが、当時OSの担当者は、将来これが全国をカバーするようになるとは考えてもいなかっただろう。

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エクスプローラーの表紙はオレンジ色
 

アウトドアレジャーシリーズの商業的成功は、図郭の大型化と、旅行情報を重視した編集の有効性を実証した。これは国立公園とそれに準じる著名観光地が対象だったが、同じスキームを他の旅行適地にも拡大しようとしたのが、エクスプローラーシリーズだった。

最初に刊行されたのは、イングランド最北の貯水池キールダー・ウォーター Kielder Water、ロンドン北西郊のチルターン・ヒルズ Chiltern Hills(南北2面に分割)、サマセット州のメンディップ・ヒルズ Mendip Hills(東西2面)の計5面、続いてランズ・エンド Land's End やボドミン・ムーア Bodmin Moor など、知られたエリアの図葉が刊行されていった。

地図の仕様はアウトドアレジャーに準じており、地色の薄黄色が省かれたほかに大きな違いは見られない。基本は片面刷りだが、両面刷りの図葉もあった。図郭の大きさはパスファインダー(第2シリーズ)の約3倍で、完全に重複するパスファインダーは置き換えられ、廃刊とされた。

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(上)アウトドアレジャー、陸地に地色あり
  OL17 Snowdonia 1996年
(下)エクスプローラー、地色以外に仕様の違いはない
  108 Lower Tamar Valley 1997年
© Crown copyright 2020
 

こうして1:25,000は、レモン色のアウトドアレジャー、オレンジ色のエクスプローラー、緑色のパスファインダーのシリーズ3本立てになったのだが、併存した期間は短かった。市場のさらなる開拓と商品管理の効率化を目的として、1996年後半に、パスファインダーをエクスプローラーに置き換えていく方針が決定したからだ。

全国をカバーするのに、前者では1372面が必要なところ、大型図郭を採用する後者であれば415面と、7割もカットできる(下注1)。これは管理上有利なだけでなく、利用者にとっても価格差(下注2)を超える経済的なメリットがあった。方針に沿って、刊行のペースは1997年半ばから加速された。

*注1 パスファインダー1372面のうち、一部の図葉はアウトドアレジャーシリーズで代用されたため、未刊行のままとなった。エクスプローラー415面には、アウトドアレジャーからの転籍45面を含む(2003年現在)。
*注2 1995年の価格表による1面あたりの価格は、パスファインダー3.95ポンド、エクスプローラー4.50ポンド、アウトドアレジャー5.25ポンド。

エクスプローラーの図郭は、ナショナル・グリッドにとらわれず、旅行適地や市街地が極力複数の図葉に分割されないように設定されている。そのため、図郭の大きさは一定でなく、隣接図葉との間に重複を持たせたものも多い。図郭の重なりは、先行する1:50,000ランドレンジャーシリーズと同じ考え方だが、索引図を見る限り、より不規則で複雑だ。

図番は、国土の南西端、シリー諸島 Isles of Scilly を101とした昇順で、シェトランド諸島 Shetland Islands の北東端が470になる。付番方式が、北東端を1とするパスファインダーやランドレンジャーと真逆なのは、エクスプローラーの整備がイングランド南部から段階的に進められたことによる。

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現在のエクスプローラー索引図(2016年)
© Crown copyright 2020
 

パスファインダーの置き換えがかなり進行していた2002年3月、最終的な体系整理が実行に移された。それがアウトドアレジャーの、エクスプローラーシリーズへの統合だ。後者の図番はすでに確定しており、付け直しは利用者の混乱を招くため、旧アウトドアレジャー図葉は、接頭辞OLをつけたうえで、もとの図番が維持された(例:OL10)。表紙は橙色に統一されたが、右肩にある図番の背景色には今もオリジナルのレモン色が残されている。

2003年3月、パスファインダー最後の図葉がエクスプローラーの新刊に置き換えられて、1:25,000は単一のシリーズ「エクスプローラー」への集約を完了した。

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統合後の表紙
図番(表紙右肩)に「OL」がつくのが旧アウトドアレジャー図葉
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モバイルダウンロードサービスが導入された最新の表紙
 

次回は、1:50,000について。

本稿は、Tim Owen and Elaine Pilbeam, 'Ordnance Survey: map makers to Britain since 1791', Ordnance Survey, 1992; Chris Higley, "Old Series to Explorer - A Field Guide to the Ordnance Map" The Charles Close Society, 2011; Richard Oliver, 'Ordnance Survey maps: a concise guide for historians' Third Edition, The Charles Close Society, 2013 および参考サイトに挙げたウェブサイトを参照して記述した。

■参考サイト
Ordnance Survey http://www.ordnancesurvey.co.uk/
The Charles Close Society https://www.charlesclosesociety.org/
FieldenMaps.info http://www.fieldenmaps.info/info/

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 イギリスの1:50,000地形図
 イギリスの1:100,000地形図ほか
 イギリスの1:250,000地形図 I-概要
 イギリスの1:250,000地形図 II-歴史

2020年3月 8日 (日)

イギリスの地形図略史 III-戦後の1インチ図

戦時改訂 War Revision

第二次世界大戦の勃発により、進行中だった1インチ図(1:63,360)の第5エディションは刊行できなくなってしまった。完成したのはイングランド南部だけで、他の地域は前世代のポピュラーエディションのまま残された。陸地測量部 Ordnance Survey (OS) の喫緊の課題は、軍用地図の準備だった。「改訂英国系 Modified British System」の1kmグリッド(方眼)を加刷したこの1インチ図は、「1940年戦時改訂(版)War Revision 1940」と呼ばれる。新市街地の描写を、多くの場合ハッチングで輪郭を示すにとどめた応急版だった。

その後、平時の水準に近い4色刷で「第2次戦時改訂(版)Second War Revision」が作成されていく。最終的にイングランドとウェールズの大半をカバーしたが、スコットランドには及ばなかった。こうした戦時の1インチ図は平図(折り畳まない状態)のまま刊行され、表紙は付けられていない。

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ポピュラーエディションにグリッドを加刷したスコットランドの軍用図
「陸軍省版 War Office Edition」の記載がある
72 Glasgow 1947年
reproduced with the permission of the National Library of Scotland https://maps.nls.uk/
 

ニューポピュラーエディション New Popular Edition

戦争直前の1938年に、OSは次の第6エディション Sixth Edition の開発作業に着手していた。これは図郭をナショナルグリッド National Grid で整列し、従来別体系だったイングランド及びウェールズとスコットランドとを共通体系化するという画期的なシリーズになるべきものだった。

しかし戦争で作業は中断する。終戦後の1945年にようやく刊行が始まり、1947年12月にイングランドとウェールズで完了した。これが「ニューポピュラーエディション New Popular Edition」だ。名称が「第6」でないのは、ポピュラーエディションに基づき、応急的に作られたことを象徴している。

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ニューポピュラーエディションの表紙
 

戦前の印刷原版は、1940年11月のサウサンプトン空襲の際に焼失してしまったため、残っていた複製原版が利用され、「第6」で計画された図郭(縦45km×横40km)に合わせて切り貼りされている。内容は、第5エディションや戦時改訂などの資料で補われているが、全面改訂ではないので、戦後の国土の状況を完全には反映していない。

また、スコットランドについてはこの作業も実施されず、既存のポピュラーエディションにナショナルグリッドを加刷しただけになった。下図は「ニューポピュラーエディション」のカバー裏面に印刷された一覧図だが、イングランド及びウェールズは新図郭で、「第6」の通し図番が採用されているのに対し、スコットランドはまだポピュラーエディションの図郭・図番のままであることがわかる。

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ニューポピュラーエディションの索引図
 

「ニューポピュラーエディション」の表紙(上の画像参照)は、イラストに代わってライオンとユニコーンが盾を支えるイギリスの国章が上部に配された。地図用紙は、ポピュラーエディションのバリエーションを踏襲して、紙、リネン裏打ち紙、用紙切り分け・リネン裏打ち(下の画像参照)の3種が作成されている。

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ニューポピュラーエディションの例
用紙を切り分け、リネンを裏打ちした版
180 The Solent 1945年
 

第7シリーズ Seventh Series

複製原版を使わざるを得なかったニューポピュラーエディションは、印刷の質も十分でなく、あくまでピンチヒッターの位置づけだった。これに代わる新版1インチ図の製作は1948年に始められた。当初これは第7エディション Seventh Edition と呼ばれていたが、後にNATOの用語に従い、「第7シリーズ Seventh Series」に変更された。「エディション」は、シリーズに属する図葉のバージョンを表す用語になった。

「第7シリーズ」は、戦争のために幻となった第6エディションの思想を受け継いでいる。すなわち、OSの担当エリアであるイングランド、ウェールズ、スコットランドを、ナショナルグリッドに基づく統一体系でカバーした初めての1インチ図だ。1952年から刊行が始まり、1961年に全190面の刊行を完了した。その後も改訂が続けられたが、1974~76年にメートル尺の1:50,000に全面的に置き換えられたので、1インチ図としては最後のシリーズとなった。

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第7シリーズの表紙
(左)初期のアールデコ様式
(右)後期の赤表紙
 

図郭は「第6」で設計された縦45km×横40kmの規格が用いられ、隣接図との重複域を持たないのが原則だ(下注)。ただし、海岸や主要都市を含む図葉では敢えて重複させて、海域ばかりの図や、中心部の2面分割といった不便が生じないようにしている。

*注 図郭の位置も大半が「第6」(「ニューポピュラー」含む)と同じだが、例外的にロンドン北東部および北西部 London N.E, & N.W. の図葉は若干南に移動し、隣接図との重複域がとられた。

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第7シリーズの索引図
 

図面は6インチ図(1:10,560)から新たに編集されたため、ニューポピュラーと比べると、注記文字や描線がはるかに鮮明かつ明瞭だ。初期の版では地名がまだ手書きされていたが、まもなく写真植字に移行し、作業のスピードアップが図られた。

初期の刊行図は10色刷で、色調の豊かさが視覚的に高級感をもたらしている。しかし、コストダウンの要請で見直しがかけられ、1961年から6色刷となった。具体的には、水部の塗りがライトブルーから青のアミに、総描家屋の面塗りがライトグレーから黒のアミに、植生記号とグリッドがグレーから黒に、地方道路がクロームイエローから茶に置き換えられている。10色刷と6色刷の違いは、総描家屋の塗り方で容易に識別できる。

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第7シリーズの例
(上)10色刷、地名は手書き 100 Liverpool 1961年
(下)6色刷、写植字体 同 1966年
 

第7シリーズで新たに盛り込まれた情報が、イングランドとウェールズの公共通行権 public rights of way(下注)だ。1949年制定の国立公園及び田園地帯へのアクセス法 National Parks and Access to the Countryside Act 1949 に基づき指定されたルートを描いた各州の公式図が、資料として使われた。

当初法律で指定されたのは、歩行専用のフットパス(自然歩道)footpath と、乗馬も可能なブライドルウェー(乗馬道)bridleway の2種のパブリックパス public path で、地図上では通常の道路と区別すべく、前者は赤の点線、後者は破線で描かれている。

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第7シリーズの凡例(一部)
中央に公共通行権 public rights of way の記述がある
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公共通行権の描画例
パブリックパス(赤の点線・破線)が山野を網の目のように走る
89 Lancaster & Kendal 1965年
 

地図用紙にはふつうの紙のほかに、伝統的なリネンの裏打ち紙(表紙に mounted on cloth と表示)もまだ使われていた。丈夫なため、野外での使用で重宝されていたからだ。しかし1967年後半をもって、リネン紙版の生産は中止された。

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リネン裏打ち紙を使用した例
107 Snowdon 1962年
 

販売用としては、平図(折り畳まない状態)と表紙付き折図の2種があった。表紙には当初、上下に1インチ図を象徴する赤い帯と国章を配したアールデコ風デザインが用いられたが、1969年に、赤一色に収載範囲の概要図を拡大しただけの、いささか飾り気のないデザインに置き換えられてしまった(上の画像参照)。

OSの代表的地形図として、1マイル1インチ図は1805年から約170年の長きにわたって製作が続けられてきた。その間に生じた交通網の発達や都市化の進行など、国土の顕著な変化が丹念に記録されており、これらを同じ縮尺で追跡できる意義は大きい。

また、1インチ図をはじめとする帝国単位 Imperial unit に基づく縮尺図は、帝国主義時代を通じて、世界中に散在していたイギリスの旧植民地にも拡大された。アイルランド、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、インドなど主要国で20世紀半ばまで作成され、膨大な過去資料の集積を形成している。

しかし、地形図におけるメートル法の使用は世界的な趨勢となっていた。OSもそのことを強く認識しており、1974年、ついに1:50,000への転換の時を迎える。その現代の縮尺図に話を進める前に、汎用1インチ図から派生した旅行地図 Tourist map についても紹介しておこう。

続きは次回に。

本稿は、Tim Owen and Elaine Pilbeam, 'Ordnance Survey: map makers to Britain since 1791', Ordnance Survey, 1992; Chris Higley, "Old Series to Explorer - A Field Guide to the Ordnance Map" The Charles Close Society, 2011; Richard Oliver, 'Ordnance Survey maps: a concise guide for historians' Third Edition, The Charles Close Society, 2013 および参考サイトに挙げたウェブサイトを参照して記述した。

■参考サイト
Ordnance Survey http://www.ordnancesurvey.co.uk/
The Charles Close Society https://www.charlesclosesociety.org/
National Library of Scotland - Maps https://maps.nls.uk/
Stanfords http://www.stanfords.co.uk/
Cassini publishing http://www.cassinimaps.co.uk/

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 イギリスの地形図略史 II-1インチ図の展開
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 イギリスの1:50,000地形図

 イギリスの復刻版地形図 I-カッシーニ出版社
 アイルランドの地形図-概要

2018年3月12日 (月)

アラスカの地図

ヨーロッパへ初めて出かけた1980年代、極東から北回りルートで飛ぶ航空機は、途中給油のためにアラスカ州のアンカレッジ空港 Anchorage Airport に寄港していた。乗客も全員降ろされ、出発準備が整うまで空港で待つことになる。展望デッキに上がると、冷え冷えとした曇り空の下、地を這う針葉樹林の黒い帯と、その先にアンカレッジ市街の高いビル群がいとも小さく見えた。

北米大陸最北部にあるアラスカは、人の想像力を揺さぶる土地だ。面積は172万平方km、本土で面積ベスト3のテキサス、カリフォルニア、モンタナ各州をすべて収めてもなお余りがある。アラスカ湾岸パンハンドル Panhandle の温帯雨林から、北緯70度ノース・スロープ North Slope の北極ツンドラまで(下注)、気候の変化に伴って動植物相もすこぶる多彩だ。

*注 パンハンドルは、回廊状の領土をフライパンの柄に見立てたもので、南東部の沿岸地帯をアラスカ・パンハンドルと呼ぶ。またノース・スロープは、ブルックス山脈 Brooks Range の北斜面に広がる永久凍土地帯。

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ワンダー湖 Wonder Lake に映る北米最高峰のデナリ(マッキンリー)山 Mount Denali (McKinley)
Photo from wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

あのとき筆者が目にしたアラスカはそのごく一角に過ぎず、全体を見渡そうとすれば、地図に頼るほか手段はない。数年前、アンカレッジから発信されている野外活動情報サイトのグッズショップ(末尾の参考サイト参照)で、そのような地図を数点購入したことがある。アラスカを知る手がかりとして、今回はそれを紹介したい。

アイマス・ジオグラフィクス Imus Geographics

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アイマス・ジオグラフィクス
「アラスカ」表紙
 

アラスカ州全域の詳細地形を描いた1枚ものの地図では、アイマス・ジオグラフィクスが2004年に発表したものがお奨めだ。大判用紙の折図で、縮尺は1:3,000,000(300万分の1)。

「この56.25×28.5インチ(横143×縦72cm)の旅行地図は、今までにないアラスカを見せてくれるだろう。賞を獲得したデザインにより、そこに存在するものが見られるだけでなく、あなたが見たいと思うアラスカが見られるのだ。(中略)ぼかしによる詳細な地勢表現の実例と豊富な情報を一つのシートに融合させたアラスカの地図は、他にはない。」

気負ったようなショップの紹介文だが、あながち誇張でもない。確かに、地形の起伏を表現するぼかし(陰影)と、植生や裸地など地表の状況を描写するベージュやアップルグリーンなどの彩色が、図面上でうまく調和している。小縮尺図というのに眺めたときに深い満足感があるのが、何よりの証拠だ。さらに、おびただしい数の居住地名や自然地名が注記され、余白に加えた地名索引がレファレンスとしても役立つ。アメリカ測量地図会議 American Congress on Surveying and Mapping が催す地図デザインの年次コンペで「ベスト・レファレンス・マップ」を受賞したのも頷けよう。

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サンプル図。表紙の一部を拡大
© 2018 Imus Geographics
 

アラスカをテーマにした同社の地図には、ほかに縮尺1:100,000の「チュガッチ州立公園 Chugach State park」がある。アンカレッジ東郊の雄大な自然公園域を描く中縮尺図で、濃い目のぼかしによる地勢表現で立体感が強調され、こちらもたいへん美しい。

■参考サイト
Imus Geographics http://www.imusgeographics.com/

ナショナル・ジオグラフィック「アラスカ・アドベンチャーマップ」

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アラスカ・アドベンチャーマップ 表紙
 

一方、旅行地図業界の第一人者たるナショナル・ジオグラフィック National Geographic も、アラスカをテーマにした1枚ものの地図を何点か製作している。そのうち、アラスカ全域を図郭に入れたものが図番3117「アラスカ・アドベンチャーマップ Alaska Adventure Map」だ。アドベンチャーマップは比較的広域の旅行適地を対象にしたシリーズで、等高線とぼかしで描いたメインの地図と、その周囲に、人気観光地の案内がカラー写真とともに配置してある。

アラスカ図葉は縮尺1:2,250,000(225万分の1)で、片面に北部(実際はメインランド)、もう片面に南部(パンハンドル、アラスカ半島、アリューシャン列島)が配されている。アイマスの製作方針が地図表現に集中しているのに対して、こちらはベースマップの精度が高いとは言えず、特に川や湖沼のような水部の表現はどうかと思うほど大雑把だ。盛り込まれた地名の数もアイマスとはかなり差がある。

代わりに充実しているのが旅行案内だ。シリーズの他図葉と同じく、公園や保護区の境界が明確に色分けされ、野外活動適地が目を引くピクトグラムで示される。余白に地名索引もあるので、検索が可能だ。必要な情報がすぐに引き出せるというのは、定評あるシリーズの強みだろう。もちろん実際に現地で使うには縮尺が粗すぎるので、より大縮尺のトレール・イラストレーティッド Trail Illustrated シリーズ(下注)と併用する必要がある。

*注 本シリーズについては「アメリカ合衆国のハイキング地図-ナショナル・ジオグラフィック」で詳述。

■参考サイト
National Geographic Maps - Trails Illustrated Maps
http://www.natgeomaps.com/trail-maps/trails-illustrated-maps

では、地図帳形式の刊行物はどうだろうか。米国本土でもライバル関係にある2社が、州別地図帳シリーズにアラスカ州を取り上げている。

デローム「アラスカ アトラス・アンド・ガゼッティアー」

デローム DeLorme 社の「アラスカ アトラス・アンド・ガゼッティアー Alaska Atlas & Gazetteer」だが、中綴じ体裁が基本のシリーズ(全48巻、下注)だ。しかしアラスカ州版は、カリフォルニア州版と同じく平綴じにされている。他の州はせいぜい100ページ前後なのに対して、アラスカは156ページ(索引含む)と1.5倍のボリュームがあるからだ。平綴じはノドの部分がしっかり開かないため、見開きの地図には向いていないが、そうせざるを得ないほどページ数が必要なのだ。

*注 本シリーズについては「アメリカ合衆国の州別地図帳-デローム社」で詳述。

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アラスカ アトラス・アンド・ガゼッティアー 表紙
 

異例なのは綴じ方だけではない。地図の図式も他州版と異なっていて、地勢表現はぼかしをかけず、等高線のみ。道路区分も色分けせず、線幅による簡易仕様だ。ベースにしている地図はUSGS(米国地質調査所)の1:250,000地形図データで、等高線、氷河、植生などの表現はほぼそのまま使われている。道路区分はデロームの旧来図式(下注)である赤の実線等に変換され、居住地名はフォントや配置が見直されているものの、両者を見比べても違いは目立たない。

*注 近年の本土各州版は、道路に二重線(くくりのある)記号を使っている。

縮尺は、集落が一定程度分布する南東部が1:300,000で、もとの地形図を凝縮したイメージだ。生の地形図をこれだけ買い揃えるのは不可能に近いので、大変お徳と言える。一方、残りの地域は1:1,400,000(140万分の1)と、非常に小さな縮尺にとどまる。それも、元データを拡大したらしい大雑把な造りで、前者との精度上の落差は極めて大きい。

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サンプル図。表紙の一部を拡大
© 2018 DeLorme
 

ベンチマーク・マップス「アラスカ ロード・アンド・レクリエーション・アトラス」

ライバルであるベンチマーク・マップス Benchmark Maps の「アラスカ ロード・アンド・レクリエーション・アトラス Alaska Road & Recreation Atlas」は2016年の刊行で、同社の州別地図帳シリーズ(下注)では最も新しい。

*注 本シリーズについては「アメリカ合衆国の州別地図帳-ベンチマーク・マップス社」で詳述。

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アラスカ ロード・アンド・レクリエーション・アトラス 表紙
 

小縮尺図から順に縮尺を拡大して、スムーズに詳細区分図まで読者を誘導する内容構成が、ベンチマーク地図帳の特徴だ。アラスカ州版の場合、まず「アラスカへの道 Roads to Alaska」で、本土からカナダ領を経由してアラスカに至るハイウェールートが示される。これで本土の読者に距離感と方向性を理解させた後、次ページの1:7,920,000のアラスカ全図に移る。

しかし、3番目のリクリエーション・マップス Recreation Maps は、全域を数面の区分図で示す従来方式とは趣向が違う。アンカレッジ、フェアバンクス、ジュノーといった主要都市周辺と、インサイド・パッセージ Inside Passage やドルトン・ハイウェー Dalton Highway(下注)のルートが特集されているのだ。アラスカの旅行適地は限られるので、メイン図で描き切れない細部を説明する役割に切り替えたようだ。

*注 インサイド・パッセージは、外洋を避けてアレキサンダー諸島 Alexander Archipelago のフィヨルドを抜ける南東岸の航路。ドルトン・ハイウェーは、内陸のフェアバンクス Fairbanks から北極海岸を目指すハイウェー。

メインの区分図は、デロームと同様、エリアによって縮尺が異なり、南東部が1:316,800(5マイル1インチ)、それ以外が1:1,267,200(20マイル1インチ)から1:2,534,400(40マイル1インチ)だ。デロームより縮尺がやや小さくなるが、地勢描写は縮尺に応じた詳細さを保っていて、どの図も見応えがある。

デロームの等高線図に対して、ベンチマークは繊細なぼかしと彩色を駆使して、地勢を視覚的に実感させる。1995年以来、同社が実績を積んできた描法だ(冒頭のアイマス・ジオグラフィクスも、これに学んだのは間違いない)。驚いたことに、さらにアラスカ版では1000フィート(305m)間隔の粗い等高線が加えられている。これはむしろデローム図式を真似た形だが、傾斜角の変化が小さい氷河や、緩やかな起伏の周氷河地形では、高度情報を補うために有用と判断したのだろう。

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サンプル図(表紙の一部を拡大)
© 2018 Benchmark Maps
 

■参考サイト
Benchmark Maps http://www.benchmarkmaps.com/

両地図帳とも地図表現だけでなく、文字による旅行情報の充実にも力が注がれている。とりわけ釣り場の情報が抜きんでて多い。デロームは淡水魚、海水魚を合わせて約400か所について、獲れる魚の種類や利用可能な施設のマトリクス表が付される。ベンチマークも負けておらず、500か所近くのリストアップがある。しかし、これでさえ釣り場とされているのは主要道周辺の湖沼などに限られ、奥地の自然はまったくの手つかずだ。想像を超えたアラスカの広さを地図はよく伝えている。

今回紹介した地図のうち、1枚ものは、筆者も利用したオンラインショップ Alaska Outdoors Supersite Store https://alaskaoutdoorssupersite.com/alaska-store/ で取り扱っている。地図帳は日本のアマゾンや紀伊國屋などのショッピングサイトにある。

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2018年3月 3日 (土)

アメリカ合衆国のハイキング地図-ヨセミテ国立公園を例に

巨大な鑿で気の向くままにそいだような花崗岩の断崖が、幾重にも折り重なる谷間の風景は、19世紀半ばに注目されて以来、常に人々の心を惹きつけてきた。ユネスコ世界遺産にも登録されたヨセミテ国立公園 Yosemite National Park は、西海岸カリフォルニア州の中央部にある代表的観光地だ。全体の広さは3000平方kmを越える(東京都の1.4倍)が、多くの人がかの絶景を一目見ようと、中心部で回廊状に延びるヨセミテ渓谷 Yosemite Valley に集まってくる。

自然が産み出した巧みな造形美をさまざまな方向から眺められるように、一帯には整備されたハイキングトレールが張り巡らされていて、その案内役となるべき地図も多数作られてきた。今回は、筆者の手元にある範囲で、ヨセミテを地図の上から俯瞰してみたい。

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ディスカヴァリー・ビュー Discovery View(別名トンネル・ビュー Tunnel View)からのヨセミテ渓谷の眺望
左の断崖がエル・キャピタン El Capitan、
右の滝はブライダルヴェール滝 Bridalveil Falls、
最奥部にハーフ・ドーム Half Dome の頂部が覗く
Photo by Joe Parks at wikimedia. License: CC BY 2.0

USGS(米国地質調査所)

連邦の公的測量機関である USGS はかつて、「国立公園地図 National Park map」シリーズを作成していた。通常の地形図をベースにして、対象となる公園区域を1面に収録したいわゆる集成図で、エリアの広さに応じて、縮尺も用紙サイズもさまざまだった。その中に、「ヨセミテ国立公園および周辺 Yosemite National Park and Vicinity」図葉がある。

大判用紙に印刷された縮尺1:125,000の地図で、手元にあるのは1958年版だ。地勢表現は、200フィート(約61m)間隔の等高線にぼかし(陰影)を加えている。ぼかしのタッチがやや精彩さを欠き、低地の緑と重なると色が濁るという難はあるものの、広大な公園の地形の概略がこれによって手に取るようにわかる。

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1:125,000「ヨセミテ国立公園および周辺」の一部
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「ヨセミテ渓谷」
(通常版)表紙
 

それとは別に、ヨセミテ渓谷に焦点を絞った縮尺1:24,000の「ヨセミテ渓谷 Yosemite Valley」図葉もあった。1958年が初版で、1970年に部分修正が加えられた。こちらは横長の用紙を用いて、東西に15kmほど続く渓谷をカバーしている。等高線間隔は40フィート(約12m)で、日本の1:25,000(10m間隔)と同じような感覚で眺めることができる。

この図葉には、等高線のみの通常版と、ぼかしと連続的な段彩を入れた「ぼかし版 shaded relief edition」の2種が存在する。もちろん後者のほうが見栄えは格段によく、丹念に描かれた濃いぼかしで、険しいU字谷の情景を見事に再現している。段彩は単純な高度別ではなく、平坦な谷底面がアップルグリーン、谷壁が薄いベージュ、浸食を免れた高位面が卵色と、地形の特性に従った色分けにされているところが興味深い。

両図とも、特徴的な岩山や滝などの名称注記があり、主要トレールも細い破線で記されている。しかし、主目的はあくまで地形描写で、そのことは地図の裏面全面を使って溪谷の地形学的な成立過程が詳しく解説されていることでもわかる。このため、旅行地図としては情報不足で、民間会社の地図製品の代替になるものではない。

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1:24,000「ヨセミテ渓谷」(ぼかし版)の一部
冒頭の写真は、図左端にある Discovery View から右(東)方向を見ている
 

ナショナル・ジオグラフィック・マップス National Geographic Maps

前回紹介したナショナル・ジオグラフィックのトレール・イラストレーティッド・マップス Trail Illustrated Maps で公園全域を収録するのは、図番206「ヨセミテ国立公園 Yosemite National Park」(縮尺1:80,000、部分図は1:40,000)だ。さらに、縮尺を1:40,000に拡大した4面シリーズ(図番306~309)もあり、図番306「ヨセミテ南西部-ヨセミテ渓谷およびワウォーナ Yosemite SW: Yosemite Valley & Wawona」にヨセミテ渓谷が収まる。

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トレール・イラストレーティッド・マップス表紙
(左)図番206「ヨセミテ国立公園」
(右)図番306「ヨセミテ南西部」
 

USGS地図由来の等高線の上に、緑とベージュで森林と裸地を描き分け、コントラストの強いぼかしをかけるスタイルは共通だ。ただ、肝心の渓谷中心部が、宿泊キャンプ禁止のエリアを示す藤色で覆われ、せっかくの地勢表現が目立たないのは惜しい。その点、トレールについては黒色の太い破線なので、ベースが何色であろうと識別性に対する影響は小さい。

ただ、USGSの1:24,000図を見た後では、1:40,000という縮尺は小さく感じられる。渓谷に焦点を絞った拡大図がついていれば言うことはないのだが。

■参考サイト
National Geographic Maps - Trails Illustrated Maps
http://www.natgeomaps.com/trail-maps/trails-illustrated-maps

トム・ハリソン・マップス Tom Harrison maps

地元カリフォルニアのサン・ラフェル San Rafael に本拠を置くトム・ハリソン社も、州内各地のハイキング地図を多数刊行している。土地鑑をもつ強みで、ヨセミテ国立公園が図郭に入るものだけでも実に8面を数える。国立公園全域を収めるのは、縮尺1:125,000の「ヨセミテ国立公園 Yosemite National Park」だ。ほかに、人気の高い南部高地を拡大した1:63,360「ヨセミテ・ハイカントリー Yosemite High Country」、ヨセミテ渓谷に絞った1:24,000「ヨセミテ渓谷 Yosemite Valley」、ハーフ・ドームを中心に渓谷の上流部を収めた1:31,680「ハーフ・ドーム Half Dome」などがある。

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トム・ハリソン・マップス表紙
(左)「ヨセミテ国立公園」
(中)「ヨセミテ・ハイカントリー」
(右)「ヨセミテ渓谷」
 

ベースはUSGS地図で、それにぼかしを加えたものだ。トレールはドイツの官製旅行地図のように赤の破線で示され、地点間距離も入っている。さらに、幹線格であるジョン・ミューア・トレール John Muir Trail などは縁取りで強調され、ルートを追いかけるのが容易だ。

■参考サイト
Tom Harrison Maps https://tomharrisonmaps.com/

ウィルダーネス・プレス Wilderness Press

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「ヨセミテ:
渓谷および周辺高地」
表紙
 

同じカリフォルニア州のバークレー Berkeley にある出版社ウィルダーネス・プレスの目録にも、地形図を使ったハイキング地図がある。公園全域をカバーする縮尺1:125,000の「ヨセミテ国立公園及び周辺 Yosemite National Park & Vicinity」と、対象エリアを絞って縮尺を拡大した1:62,500の「ヨセミテ:渓谷および周辺高地 Yosemite: The Valley & Surrounding Uplands」だ。

地勢表現は等高線のみで、第一印象はUSGSの地形図そのものだ。ただし、地方道を表す赤の旗竿が黒に変えられており、鉄道記号のように見える。代わりにトレールが赤の線で描かれるが、地点間距離は記されていない。上記2社の製品に比べると、ぼかしが施されていないこともあって、地図としての面白みに欠けるのは事実だ。しかし地名索引が付き、裏面には規制事項、気候、ルート案内、体験可能な野外活動などヨセミテの旅行案内がぎっしり記されており、文字情報の量で旅行書出版社の面目を保っている。

■参考サイト
Wilderness Press https://www.wildernesspress.com/

ルーフス・ガイド Rufus Guides の絵地図

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「ヨセミテ渓谷への地図と案内」表紙
 

絵になる景色に囲まれたヨセミテが、絵心を誘うのは当然のことだ。ルーフス・ガイドは、カリフォルニアとその周辺にある名だたる観光地の鳥瞰絵図をいくつか作っているが、その一つに「ヨセミテ渓谷への地図と案内 Map & Guide to Yosemite Valley」がある。

横長用紙の片面全面を使って、渓谷の絵図が刷られている。比較的淡い色調の水彩スケッチだが、谷間や高原を覆う森の木々の細かさと、輪郭をなぞるにとどめることで強調された岩山のボリュームが好対照をなし、風景の特徴がよく捉えられている。もう一方の面はルーフスならではの公園ガイドで、渓谷と周辺のビューポイントをカラー写真つきで解説し、地形の成因、公園の歴史、動植物相、野外活動のあらましがコンパクトにまとめてある。蛇腹折りでかさばらないし、お土産にするのもよさそうだ。

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「ヨセミテ渓谷への地図と案内」表紙の一部を拡大
© 2018 Rufus Graphics
 

■参考サイト
Rufus Guides http://www.rufusguides.com/

カルト・アトリエ Carto Atelier の絵地図

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ヨセミテバレー・
ツーリストマップ表紙
 

最後に紹介するのも絵地図だ。「ヨセミテバレー・ツーリストマップ Yosemite Valley Tourist Map」と表紙に日本語が併記されているが、日本製ではなく、スイスで刊行されたものだ。収載図には1997~98年のコピーライト表示がある。

同じ絵地図のジャンルでもルーフスとは趣がまるで違う。こちらは、巨匠H・C・ベラン H.C.Berann のそれを連想させる美しい鳥瞰絵図で、アルネ・ローヴェーダー Arne Rohweder 氏の筆になるものだ。渓谷の西(下流)側から東を見た図だが、幻想的かつスケール感のあるイメージ(下図参照)は、もはや写真を超越している。絵図の隣には、ぼかしで地勢を描き、植生をパターンで表現した国立公園の1:350,000全体図がある。裏面はUSGSの1:24,000地形図で、他社図と同じようにトレールが橙色で強調され、観光情報のピクトグラムが配されている。地勢のぼかしも入り、これだけでも十分なハイキング地図だ。

発行所のカルト・アトリエは、現在、ゲコマップス Geckomaps(Geckoはドイツ語でヤモリの意)の名で引き継がれ、ローヴェーダー氏やその協力者によるヒマラヤその他、世界の観光地のイラストマップを多数扱っている。このヨセミテの絵地図は筆者のお気に入りの一冊なのだが、悲しいことに同社の現行カタログには見当たらない。

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ヨセミテバレー・ツーリストマップ表紙の一部を拡大
© 2018 Arne Rohweder
 

■参考サイト
Geckomaps http://www.geckomaps.com/

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 アメリカ合衆国のハイキング地図-ナショナル・ジオグラフィック
 アメリカ合衆国の地形図-新シリーズ「USトポ」

2018年2月25日 (日)

アメリカ合衆国のハイキング地図-ナショナル・ジオグラフィック

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図番201
「イエローストーン
国立公園」図葉表紙
 

アメリカ合衆国(以下、米国)で山野歩きに持っていける地図(印刷図)は、と問われたら、米国森林局 U.S. Forest Service とナショナル・ジオグラフィック National Geographic の両シリーズが思い浮かぶ。いずれもUSGS(米国地質調査所)の地形図をベースに、トレールのルートや関連情報を加えた旅行地図だ。地域を限定すれば、ほかにも選択肢はあるが、全国的に主要エリアをカバーするのはこの2種のみだろう。

ただし、前者は国有林 National Forest に対象を絞った地図で、販売所も限られている(下注)ため、使い慣れた人以外にはなじみが薄い。それに対して、後者は国立公園その他刊行範囲が広く、かつショッピングサイトなどで気軽に買えるところが魅力だ。

*注 ショッピングサイトで全国の図葉を扱うのは、同局の直販サイトやUSGS、一部の地図専門店など。

ナショナル・ジオグラフィック・マップス National Geographic Maps は、自然科学雑誌の刊行で知られたナショナル・ジオグラフィック協会 National Geographic Society(以下、協会という)の地図部門だ。1世紀にもわたり、雑誌の付録地図はもとより地図帳、壁貼り地図、地球儀とさまざまな種類を世に送り出してきた。その中で確立されたものの一つが、ハイキングやトレッキングのための地図シリーズ「トレールズ・イラストレーティッド・マップ Trails Illustrated Maps」で、これまでに250タイトル以上が出ている。

下記参考サイトで見られる索引図によると、刊行エリアは、米国本土からアラスカ、ハワイ、さらに一部はカナダ領内にも及んでいる。

■参考サイト
National Geographic Maps - Trails Illustrated Maps
http://www.natgeomaps.com/trail-maps/trails-illustrated-maps

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サンプル図
(1501「アパラチアン・トレール」マップガイドの表紙を拡大)
© 2018 National Geographic Maps
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表紙の変遷 228「シェナンドー国立公園」
(左)1997年改訂版
(中)2002年改訂版
(右)2015年版
 

まず東部では、メイン州からジョージア州まで帯状に長く連なる図郭が目を引く。いうまでもなくアパラチアン・トレール Appalachian Trail、約3,500kmのルートを追うもので、全行程が計13点のマップガイド Map guide(地図入りガイドブック、図番1501~1513、縮尺1:63,360)に収まる。また、それと重なる矩形の図郭は1枚ものの折図(740~790番台、下注)で、周辺の国有林 National Forest にも網がかかっている。

*注 3桁の図番は大判用紙を折った1枚ものの地図、4桁は地図入りガイドブックを示す。他地域も同じ。

大陸の背骨を成すロッキー山脈では、コロラド州からユタ州にかけてのエリアが広くカバーされる。とりわけコロラド・フォーティナーズ Colorado 14ers の高峰群が集中するあたりでは、官製図のような整然とした図郭の折図(100~130番台、その多くが縮尺1:40,680)が設定されて壮観だ。グランドキャニオン Grand Canyon、ザイオン Zion その他、グランドサークル Grand Circle と呼ばれる著名な自然公園分布域でも、必要な地図が揃っている。

西部では、ワシントン州からオレゴン州にかけてのカスケード山脈 Cascade Range(図番818~827など)と、セントラル・ヴァレー Central Valley の東にそびえるシエラネバダ山脈 Sierra Nevada Mountains が中心だ。とりわけシエラネバダでの布陣は手厚く、縮尺1:63,360でほぼ全域を覆う(800番台)だけでなく、人気の高いヨセミテ国立公園 Yosemite National Park ではさらに詳しい1:40,000の区分図4面(図番306~309)も用意されている。

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マップガイドの表紙
(左)1501 「アパラチアン・トレール スプリンガー山~ダヴェンポート峠」
(中)1302 「コロラド・フォーティナーズ」
(右)1001 「ジョン・ミューア・トレール」
 

道路地図ばかりか歩くための地図でさえ、等高線などの地勢表現が省かれたいわゆるプラニメトリックマップ(平面図)が使われることのある米国では、等高線入りのハイキング地図は貴重な存在だ。特にトレールズ・イラストレーティッド・マップの場合は、等高線に加えて、濃いめの精妙なぼかし(陰影)をかけることで、真に迫った地勢表現を実現している。用紙は耐水・耐擦性を備えた合成紙だが、これも「バックカントリー・タフ backcountry tough(=過酷な使用環境にも耐えられる)」なだけでなく、発色の良さで見栄えを高めている。

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凡例(201「イエローストーン国立公園」より)
図葉によって記号の種類は多少異なる
 

上画像が凡例だが、ハイキング地図とはいえ、車が通る道も含めて道路網全体を強調するデザインであることが見て取れる。そのうえで、自動車道(ハイウェー Highway およびロード Road)は二重線、歩く道(トレール Trail およびパス Path)は太い破線で描き分け、さらに色で細分化するのだ。

画像ではわかりにくいが、ハイキング・トレール Hiking Trail の記号は黒で、許可を受けたオフロードバイクも走行できるモータライズド・トレール Motorized Trail は紫色が充てられている。同様に、舗装された自転車道 Paved Bike Path は緑、雪原や雪渓を行く冬用トレール Winter Use Trail は黒の太い点線だ。さらに有名トレールは、シンボルマークと緑やオレンジのマーカーでルートが強調される。地点間の距離(マイル表示)が記されている場合もある。

そのほかピクトグラムの記号でも、キャンプ地、ピクニックエリア、トレールの出発点 Trailhead、駐車場、見晴らし台、有料エリア、休憩所、野生動物観察地、自転車ルートの路面状態など、さまざまな情報が描かれる。余白には文字情報、たとえばトレールに関する距離、高度、所要時間、難易度などのデータや、域内で行えるレクリエーションでの諸注意などが記され、地図1枚で、野外活動に必要な情報がひととおり得られるようになっている。

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サンプル図
(1001「ジョン・ミューア・トレール」マップガイドの表紙を拡大)
© 2018 National Geographic Maps
 

あるマウンテンバイクの専門サイトでは、このシリーズを次のように紹介していた(以下は要約)。

「USGS地形図は専門的で、読図に精通している必要がある。また、かなり古く、ときには最後に編集されてから20年から40年経過している。こうした問題のほとんどすべてを切り抜ける優れた地図として、トレールズ・イラストレーティッド・マップを参考にされたい。極めて正確なUSGS地図をベースに使用するこの地図は、常に更新され、図郭内にあるすべてのトレールを表示している。マウンテンバイクや乗馬のためのトレールも表示されている! 無料ではないが、費用(約10ドル)を支払う価値はある。」

ナショナル・ジオグラフィックの地図は、日本のアマゾンや紀伊國屋などのショッピングサイトでも扱っている。品切れの場合、米国のアマゾン http://www.amazon.com や地図専門のオムニマップ http://www.omnimap.com/ のサイトを覗いてみるとよい。いずれも日本へも送ってくれる。

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2017年7月16日 (日)

ニュージーランドの旅行地図 II-現在の刊行図

刊行が終了した DOC の旅行地図に代わって、ニュージーランドでは2017年7月現在、2社がトラック(自然歩道)をテーマにした地図を刊行している。いずれもニュージーランド土地情報局 LINZ の地形図(以下LINZ図、下注)を基図に直接使わず、独自に開発したグラフィックスを駆使した意欲的な製品だ。

*注 LINZ図については、「ニュージーランドの1:50,000地形図」「ニュージーランドの1:250,000地形図ほか」で詳述。

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NewTopo Map表紙Tongariro Northern Circuit
2017年版
 

NewTopo Map

ニュートポ社 NewTopo(NZ)Ltd. のニュートポ・マップは、全部で41面ある。北島最北端のレインガ岬 Cape Reinga から、オークランド、ウェリントン、クライストチャーチなど都市近郊の山野、果ては南端スチュワート(ラキウラ)島に至るまで、同国のトランピング(徒歩旅行)ルートをおよそ網羅している。もちろん、グレート・ウォークス Great Walks(下注)と称されるDOC推奨の主要トラックも含まれている。

*注 ニュージーランド・グレート・ウォークス New Zealand Great Walks は、ワイカレモアナ湖 Lake Waikaremoana Great Walk、トンガリロ・ノーザン・サーキット(周遊道)Tongariro Northern Circuit、ワンガヌイ・ジャーニー Whanganui Journey、アベル・タスマン(エイベル・タズマン)海岸 Abel Tasman Coast Track、ヒーフィー Heaphy Track、ルートバーン Routeburn Track、ミルフォード Milford Track、ケプラー Kepler Track、ラキウラ Rakiura Track の全9路線から成る。

地図は耐水紙に印刷され、折図にして保護用の透明ケースに収められている。用紙はA1判またはA3判で、両面刷のものもある。縮尺は、エリアの広さや自然歩道の長さに応じて1:30,000から1:150,000までさまざまだ。定縮尺でないため、図が替わると距離感覚にややとまどいが生じるが、1kmグリッドが掛けられているので、実用上の問題はないだろう。

地勢表現は、等高線とぼかしで描かれる。等高線は20m間隔で、観察する限りではLINZ図のラスタデータがそのまま用いられている。急傾斜地でも間引かれないので、サザンアルプスのような山岳地帯では線が凝縮され、それだけで立体的に見えるほどだ。しかし、不思議なことに計曲線がなく、等高線に高度値も振られていない。そのため、標高点以外の場所で土地の高度を読み取るのは難しい。

ぼかしは、後述する Geographx社の製作と記されている。LINZ図より総じて柔らかい色合いだが、稜線の影が山麓に落ちるさまをシャープに描くといったユニークな描法も見受けられる。等高線に対する疑問点を別にすれば、地勢表現は明瞭で美しい。かつ色調を抑え気味にすることで、主題である自然歩道や必要な注記を引き立たせる配慮がなされている。

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NewTopo Mapの例 Wellington Outdoors
(c) NewTopo, 2017
 

地図記号はいたってシンプルだ。車道 road は、赤の縁取りと黄色の塗りで表される。自然歩道は3区分で、ウォーキング・トラック walking track が赤の太線、トランピング・トラック tramping track は同 細線、トランピング・ルート tramping route は点線だ。ルートの所要時間や危険個所などの注記も施されている。施設関係では、山小屋 hut、キャンプサイト、シェルター、トイレ、展望地、駐車場の記号がある。また、図中に頻出する fb の注記は、footbridge(徒橋)のことだ。

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NewTopo Mapの凡例(一例)
 

NewTopo社のサイト(下記参考サイト)に、刊行図の一覧が挙がっている。更新も比較的頻繁に行われているようで、6割の図葉がこの3年間(2015~17年)の改訂版だ。

■参考サイト
NewTopo http://www.newtopo.co.nz/

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Geographx Map and Track Guide表紙 Milford Track
2016年版
 

Geographx Map and Track Guide

Geographx社のマップ・アンド・トラックガイドは、グレート・ウォークスにテーマを絞った全9点で、2013~14年に初版が刊行された。同社サイトではまだ全図葉が初版とされているが、実際は第2版も出ている。Geographx社はウェリントンに拠点を置く地図デザインスタジオで、DOCの展示物をはじめ、さまざまな地図の製作を受託し、世界最大の地図帳アース・プラチナ Earth Platinum では国際的な賞も獲得している。

地図はA1判の耐水紙に両面印刷されている。一部の図葉を除いて、片面がルートの平面図(正射影図)、反対面はより広域の鳥瞰図(斜射影図)という配置だが、一目見て、他の地図に比べて極端に暗い図面であることに驚く。地色になっているのは、くすんだベージュや焦茶を使った裸地や溶岩流と、フォレストグリーンのパターンで表される森林だ。さらに、湖や海などの水部には沈んだサックスブルーが充てられ、氷河や万年雪も純白ではなく灰味がかっている。

このような地色の上に濃いぼかしが掛けられるので、あたかも薄暮の景色を眺めているような錯覚に陥るのだが、地勢を読取りにくいのかというと、そうではない。暗いなりに陰影がうまく表現できている。デザイナーの意図は、むしろベースの明度を落とすことによって、自然歩道や注記を際立たせるところにあるのだろう。

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Geographx Map and Track Guideの例 Milford Track
(c) Geographx, 2017
 
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Geographx Map and Track Guideの
凡例(一例)
 

タイトルになっている自然歩道は、最も鮮やかな黄色の実線で描かれる。その他のトレールやルートは同じ黄色を使った点線だ。車道はそれより薄い黄色が置かれる。地図記号はほかに、山小屋(数種類に区別)、キャンプサイト、シェルター、ビジターセンター、トイレ、滝、展望地などがある。施設の記号は大きく、明るい色でよく目立つし、ミルフォードやルートバーン図葉に見られる滝 waterfall の記号は、実景を模した傑作デザインだ(上図の左上方に適用例がある)。

白抜きで描かれた等高線は20mまたは40m間隔で(図葉によって異なる)、一般的な計曲線や等高線数値も具備している。その点で地形図の条件をも満たしているが、強い印象を与えるグラフィックスの上ではあくまで脇役だろう。主な区間の距離や所要時間は、図中ではなく、図の余白にまとめて記載されている。また、タイトルの自然歩道については、山小屋の位置を明示した縦断面図も用意されている。

裏面は、おもて面の描画範囲の周辺も取り込んだ広域図だ。同じように暗い色調だが、こちらは斜めからの投影であることと、視点が上昇し、地表の高度も強調されているので、おもて面よりグラフィックの迫力が増した印象がある。道路や施設の描写はおもて面に準じたものだが、等高線は省かれている。

■参考サイト
Geographx http://geographx.co.nz/
トップページ > Printed Maps

2種を比較すると、品揃えではニュートポが圧倒的に豊富だ。とりわけトンガリロ国立公園などでは、広域図からエリア限定版まで、行動範囲に応じて数種の図葉から選択することもできる。しかし、グレート・ウォークスに的を絞るなら、Geographxも十分ライバルになりうる。グラフィックも、ニュートポの従来様式がいいと見るか、Geographxの斬新さを評価するかは、好みの分かれるところだろう。

表現されている情報は、図葉によって粗密があるようで、優劣はつけがたい。たとえば、トンガリロ図は、ニュートポにも展望地や所要時間が詳しく記されているが、ミルフォード・トラックでは、DOC図のようにキロ程や展望地のトピックを記した Geographxのほうが勝るからだ。

最後に日本での入手方法だが、ニュートポの製品は同社サイトで直販している。ただし、1面ごとに送料込みの価格で決済されてしまうので、多数購入する場合は、同国内の地図商(「官製地図を求めて-ニュージーランド」参照)に発注するほうが割安になる可能性がある。Geographxのそれは、ポットン・アンド・バートン社 Potton & Burton のショッピングサイト(Geographxのサイトに直接リンクがある)や同国内の地図商で扱っている。

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 ニュージーランドの1:50,000地形図
 ニュージーランドの1:250,000地形図ほか
 地形図を見るサイト-ニュージーランド
 ニュージーランドの旅行地図 I-DOC刊行図

2017年7月 8日 (土)

ニュージーランドの旅行地図 I-DOC刊行図

国立公園や森林公園をテーマにしたパークマップ Parkmap、山野を行く道に焦点を絞ったトラックマップ Trackmap など、自然保護局 Department of Conservation (DOC) の旅行地図群は、ニュージーランドのアウトドアには欠かせない案内役だった。しかし、その更新は2006年版が最後となった。DOCは紙地図(オフセット印刷図)の刊行事業から撤退し、ビジターセンター等で配布する無料リーフレットを除いて、旅行情報の提供はウェブサイトに移された。今回は、DOCが刊行していた旅行地図の全体像を振り返ってみたい。

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DOCの案内板は緑地に黄文字が目印

これらの旅行地図は、もともと地形図と同じく、土地測量局 Department of Lands and Survey(1987年から、測量・土地情報局 Department of Survey and Land Information)の刊行物だった。当時からDOCは情報提供者として製作に協力していた(下注)のだが、1996年のニュージーランド土地情報局 Land Information New Zealand (LINZ) 設立に伴う事業整理が行われたときに、旅行地図の所管が全面的にDOCに移されたのだ。

*注 DOC設立は1987年。それまで土地測量局が担っていた一部業務と、林務局 Forest Service、野生生物局 Wildlife Service の機能がDOCに統合された。

DOCの旅行地図は、いくつかのシリーズに分類されている(シリーズ名と図葉一覧は、本稿末尾の表を参照)。

国立公園シリーズ National Park series (NZMS 273シリーズ)

国立公園 National Park の区域を図郭内に収めた地図で、トンガリロ Tongariro、アーサーズ・パス Arthur's Pass、フィヨルドランド Fiordland など、全部で 11面が刊行された。測量・土地情報局時代のカタログでは、「国立公園内のエクスカーションを計画する自然愛好者にとって理想的な地図」と紹介されている。

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国立公園地図表紙の変遷
(左から)
旧シリーズ Tongariro National Park 1975年版
新シリーズ(NZMS 273) Arthur's Pass 1980年版
測量・土地情報局時代 Nelson Lakes 1995年版
DOC時代 Egmont 2003年版
 

区域の面積によって、縮尺は1:50,000~1:250,000と幅がある。内容も図によって異なるが、おおむね地勢は等高線とぼかし(陰影)で表現され、この上に、植生が自然林、灌木林など何パターンかに分けて塗りで表される仕様だ。地図記号では、道路・鉄道、各種トレールのほか、ビジターセンター、宿泊施設、山小屋・シェルター、トイレ、駐車場など、野外活動に必要な情報が示される。後の版になると、裏面に当該国立公園の特徴や、入域時の注意事項などの文章がカラー写真とともに加えられて、ガイドブックの要素を兼ね備えたものになった。

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ピクトグラムを多用した公園地図の地図記号(一例)
 

NZMS 273シリーズは、1975年の「図番4 トンガリロ国立公園 Tongariro National Park」を皮切りに順次刊行されていき、1993年の「図番8 ウレワラ国立公園 Urewara National Park」で11面が出揃った。既刊図の更新も2006年まで行われた。

NZMS 273は、高度や距離をメートル法で表わすシリーズだが、多くの図葉は、それ以前のマイル・フィート(帝国単位)を使っていた時代から、独自のシリーズ番号で刊行されていた。これは以下の旅行地図にも言えることだ。旧版の刊行は1950年代にまで遡ることができる。

南島アーサーズ・パスの図葉で新旧を比較してみた。下図の上は帝国単位の1971年版(NZMS 194)、下がメートル法の初版となる1980年版(NZMS 273)だ。等高線が、旧版の500フィート(152m)間隔から、新版では100m間隔へと詳しくなり、図左端に見える氷河の描き方も変わったが、色使いなど図の持つ雰囲気は引き継がれていることがわかる。

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公園地図の例
(上)マイル・フィート表示 NZMS 194 Arthur's Pass NP 1971年版
(下)メートル表示 NZMS 273-01 Arthur's Pass NP 1980年版
Sourced from maps of NZMS 194 and NZMS273 Arthur's Pass NP. Crown Copyright Reserved.
 

森林公園シリーズ Forest Park series(NZMS 274シリーズ)

森林公園 Forest Park は国立公園ほど規制が厳しくない自然公園で、本シリーズでは1977~1993年に12面が刊行された。改訂版も2006年まで出されている。縮尺は1:25,000~1:150,000。このうち、タラルア Tararua 森林公園とルアヒネ Ruahine 森林公園は、帝国単位時代から地図があったが、他はNZMS 274シリーズになって初めて製作されたものだ。なお、地図の表紙には、Parkmap とのみ書かれる(下注)ので、国立公園シリーズと区別はつかない。

*注 さらにDOC時代になると、すべての市販旅行地図が Parkmap とされた。

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森林公園地図表紙の変遷
(左から)Rimutaka and Haurangi 1984年版、
Ruahine 1995年版、
Tararua 2006年版
 

自然歩道地図シリーズ Trackmap series(NZMS 335シリーズ)

山野を縫う自然歩道(トラック track、下注)のトランピングは、同国の野外活動の中でもとりわけ人気が高い。上記シリーズでも自然歩道は描かれているが、縮尺1:250,000の「フィヨルドランド Fiordland」図葉に含まれるミルフォード・トラック Milford Track のように、小縮尺のため、詳細が描けないルートの情報を補うのが、このシリーズだ。「全国のポピュラーなウォーキング・トラック、トランピング・トラックをカバーする。慎重に詳細を描いた地図は、アウトドアにじっくりとアプローチする徒歩旅行者にうってつけ」とカタログは宣伝している。

*注 トレール trail のことだが、ニュージーランドではトラック track と呼ぶ。そのうち、日帰りできる程度の道はウォーキング・トラック walking track、踏破に何日もかかるものはトランピング・トラック tramping track(長距離自然歩道)と使い分ける。なお、山頂に上るのが目的の道ではないので、本稿では「登山道」の訳語は使わない。

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自然歩道地図表紙の変遷
(左から) Milford 1991年版、
Routeburn & Greenstone 1995年版、
Kepler Track 2003年版
 

シリーズに含まれる自然歩道は、ミルフォードのほか、ルートバーンとグリーンストン Routeburn & Greenstone、ホリーフォード Hollyford、セントジェームズとルイス峠 St James & Lewis Pass(下注)、ケプラー Kepler の5面で、縮尺は1:50,000または1:75,000だ。1991~96年に刊行され、最後の更新版は2003年に出された。国立公園シリーズのように、NZMS 335 としてまとめられる以前の単発シリーズも存在する。

*注 正式名はセントジェームズ・ウォークウェー St James Walkway。

主題である自然歩道は、黒の破線で目立つように描かれ、起点からの距離が記される。沿線の宿泊所や山小屋、展望地、トイレなど歩きに欠かせない施設情報とともに、展望地から何が見えるかや小屋の歴史などが赤字で加筆されていて、図上でルートを追っていくだけでも楽しい。

地勢表現は、公園地図と同様だ。残念なことに、1:50,000でも等高線間隔は100mと粗い(下注)。山岳地帯に詳しい等高線を引くと、自然歩道や注記が識別しにくくなるという判断かもしれないが、いささか物足りない。ユーザーからの指摘もあると見え、「詳細な地勢のナビゲーションは、NZMS 260(1:50,000地形図)をご参照ください」と図面に弁解の一言が添えられている。

*注 同国の1:50,000地形図の等高線間隔は20m。

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自然歩道地図の例 Milford 1991年版
Sourced from NZMS map 335-01 Milford. Crown Copyright Reserved.
 

ホリデーメーカーシリーズ Holidaymaker series(NZMS 336シリーズ)

上記のシリーズ以外の旅行適地の地図をまとめて、ホリデーメーカーシリーズと銘打っている。ホリデーメーカー Holidaymaker とは、休日を楽しむ人、あるいは行楽客という意味だ。縮尺は1:50,000~1:150,000。寄せ集めのシリーズとはいえ、取り上げられたエリアは、北島のロトルア湖群 Rotorua lakes、タウポ湖 Lake Taupo、南島のバンクス半島 Banks Peninsula、クイーンズタウン及び中央オタゴ湖群 Queenstown & Central Otago Lakes など、魅力的な場所ばかりだ。

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ホリデーメーカー地図表紙の変遷
(左から)Lake Taupo 1988年版、
Queenstown & Central Otago Lakes 1994年版、
Marlborough Sounds 2006年版
 

これも帝国単位の旧シリーズを引き継ぐものが多いが、NZMS 336シリーズとしては、1987年の「図番9 スチュアート島 Stewart Island」から1996年の「図番2 グレートバリア島 Great Barrier Island」「図番11 コロマンデル Coromandel」までの計9面がある。更新も2006年まで続けられた。

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ホリデーメーカー地図の例
Marlborough Sounds 2006年版
Sourced from NZMS map 336-07 Marlborough Sounds. Crown Copyright Reserved.
 

公式旅行地図シリーズの各図葉の名称 name、縮尺 scale、版年 editions (部分改訂を含む)の一覧を下表に掲げる。参考までに、現 図葉の前身となる旧シリーズ former series のデータも添えてある。例えば、国立公園シリーズの図番1 Arthur's Pass は縮尺1:80,000、1980年から1996年まで6版ある。右側は旧シリーズで、NZMS 58 の Plan of Arthur's Pass National Park と、NZMS 194 の Arthur's Pass National Park がそれに該当する。

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公式旅行地図シリーズ一覧
University of Auckland - NZ Cartographic and Geospatial Resources Repository の公開資料および Department of Survey and Land Information 製品カタログを参考に作成

冒頭で述べた通り、2007年の業務再構築により、DOCによる紙地図の刊行は中止となった。今でも国内外の地図商でこれらの製品を取り扱っているところがあるが、地図の内容はすでに10年以上更新されていないことに留意する必要がある。現在、DOCは紙地図に代えて、オンライン地図で最新情報を提供している。

DOC Maps - General map viewer
http://maps.doc.govt.nz/mapviewer/

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DOC Maps - General map viewer初期画面
 

DOCが管理している公共保護地域、国立公園、海域保護地域、海洋哺乳動物保護地域、山小屋とキャンプサイト、自然歩道の情報が閲覧できる。ベースマップはベクトル地図(デフォルト)、空中写真 Satellite、地形図 Topo、地勢図 Terrain から選ぶことができる。また、図中の記号をクリックすると、施設や自然歩道名などの情報が表示される。

このオンライン地図や、DOC公式サイトにあるリーフレット(PDFファイル)で、公園と自然歩道の概要は掴めるようになっている。しかし、トランパー(徒歩旅行者)の間では紙地図の需要も根強くあるらしく、2017年7月現在、2種類のトラックマップが刊行されている。次回は、これについて紹介する。

■参考サイト
DOC http://www.doc.govt.nz/
Land Information New Zealand (LINZ) http://www.linz.govt.nz/

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2016年3月21日 (月)

台湾の1:25,000地図帳

台湾の民間会社が作る地図は、国の地形図データをベースにしながらも、おおもとの官製地形図に比べてはるかに進化している。その先導役を務めたのが上河文化社で、2001年刊行の「台灣地理人文全覽圖」全2巻は、台湾全土を縮尺1:50,000でカバーする画期的な地図帳だった。これはその後3回の全面改訂を経て、現在に至る(本ブログ「台湾の1:50,000地図帳」で詳述)。

今回紹介するのは、内容から見てその延長線上に位置する地図帳だ。「台灣1/25000全覽百科地圖集(台湾1:25000全覧百科地図集)」全4冊。北から南へ4つに分冊され、主要都市で言えば第1冊に台北、第2冊に台中・花蓮、第3冊に嘉義、第4冊に台南・高雄・台東の市街地が含まれる。

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台灣1/25000全覽百科地圖集第1冊
(左)表紙(右)裏表紙の索引図
 

刊行しているのは旅行書出版の大手、戶外生活圖書股份有限公司(英語名 Outdoor Life Books Co.,Ltd. 以下、戸外生活社)だ。判型は、B4判の上河文化社版に比べて一回り小さく、ほぼA4判の21.5×30.5cm。日本の道路地図帳によくあるタイプだ。そのため1冊あたりのボリュームは450ページ前後、4冊合せて1800ページを超える大著になっている。

タイトルの示すとおり、メインの地図の縮尺は1:25,000(図上1cmが実長250m)で統一されている。等高線は10m間隔で、精度も高そうだ。そこに明瞭なぼかし(陰影)が加えられ、地色もアップルグリーンの低地から、標高1500mあたりを境にベージュ系へとシームレスに変化する。細かい起伏や山襞が手に取るようにわかり、平地、低山と高山域の違いも一目瞭然になる。

筆者はつい地形図としての出来栄えに目を奪われがちだが、この地図帳の真価はそれを超えて、百科地図と銘打った内容そのものにあるだろう。地図記号や注記で与えられる情報の豊かさが尋常ではないからだ。

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凡例
 

詳細は図例(凡例)をご覧いただくとして、まず道路の記号を見てみよう。赤色の高速公路から無色の農道小径まで、記号形状ではなく塗りの色で区別するのが特徴だ。主要道路は日本の道路地図のそれよりやや太めに描かれ、道路網の骨格を強調しようとしている。加えて、市街地のたいていの街路、郊外でも郷道/区道まで、道路名が確実に記載されているのには驚く。道路記号に重ねて記し、かつ字体にいわゆる教科書体を使っているので、視認性も良好だ。

描く対象はクルマの走る道ばかりではない。山地には百岳歩道や古道といった登山道、平地には各所に自転車のマークを添えた自行車道(自転車道)のルート表示が見られ、自然に親しもうとする人々のニーズにも応えている。

公共施設や観光施設を表す地図記号にも、実に多くの種類がある。古典的な幾何学模様から現代風イラストや企業のロゴまでデザインも様々で、眺めるだけでも飽きることがない。おもしろいのは日本の地形図記号との共通点だ。交差する警棒を象った警察局、「公」の字に由来する其他政府機関、赤十字マークの衛生所、「文」の字の大専院校(大学、専門学校)、逆さくらげの温泉、それに三角点、水準点などいくつも見つかる。日治時期の官製地形図から引き継がれてきたのだろうか。

対する名勝與休旅場所(名所とレジャー施設)のくくりでは、一般的な宿泊施設やレジャー施設の記号の間に、古蹟、牌楼、原住民祭典、廟舎、民族祭などご当地らしさが窺える。南の島とあって、柑橘、草苺、水蜜桃、葡萄、揚桃と果樹園の記号もバラエティに富む。いずれも一見して認識でき、かつ旅情を誘うものばかりだ。こうしたカラフルで発想豊かな記号が、地図上の至る所に散りばめられ、律儀に固有の名称が付されているのだ。

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表紙の一部を拡大
 

大小の行政地名や自然地名、道路・街路名、そして地図記号に伴う固有名称を加えれば、注記は膨大な数に上る。しかし、フォント(字体)を選び、色を分けることで区別を可能にしているのは見事だ。漢字表記のため文字数が少なくて済むという利点はあるにせよ、ただでさえ記載事項が錯綜する市街地にこれだけの地図記号と文字情報を収めるのは、並大抵の工夫ではないだろう。

巻末には索引集がある。こちらも充実していて、項目数の最も多い第1冊では130ページにも及ぶ。リストは行政機関、学校、交通関係、観光施設、街路名などに分類され、クロスリファレンス(相互参照)とともに、住所と電話番号が付される。山岳の項では標高、等級、三角点番号までセットになっている。

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第2冊~第4冊表紙
 

「台灣1/25000全覽百科地圖集」が1:25,000地形図の地図帳としてだけでなく、台湾の道路地図、旅行地図としても秀逸だということがご理解いただけただろうか。お断りしなければならないが、この地図帳は2012年3月の刊行で、すでに4年が経過している。当時、台湾在住の方から情報を頂いていたにもかかわらず、今まで紹介しそびれていた。そのため、出版社のサイトによれば、第1冊については単品販売がすでに終了しており、第1冊が入用ならセット販売を選択するしかない。

最後に注文方法だが、戸外生活社のウェブサイトに発注書(信用卡訂購證と記載)のPDFファイルがある。決済用のクレジットカードの内容を含め、必要事項を記入して同社に直接FAXすればよい。同社では日本語によるメールの問合せにも対応している。

■参考サイト
戸外生活社 http://www.outdoorlife.com.tw/
戸外生活社 台灣1/25000全覽百科地圖集
http://www.outdoorlife.com.tw/Taiwanview25K.htm

なお、戸外生活社は、上記地図帳のほかに「台灣全覽地圖百科大事典」という全5冊の地図帳シリーズを最近完成させた。こちらは市街、近郊、村落・丘陵地、高山によって1:5,000から1:40,000まで縮尺を変え、観光写真も付けた合理的でビジュアルな編集を特色としている。筆者としては、全国地形図のもつ意義に照らして、全土を一律の基準で製作する「百科地圖集」の方針を支持したいところだが、実用性の点ではこちらも捨てがたい。

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2016年2月 9日 (火)

スコットランドの名物地図

その土地ならではの名物を求めて訪ね歩くのは、旅の大いなる楽しみだ。スコットランドが目的地ならさしずめ、湖のほとりに静かにたたずむ古城、あるいはスモーキーな香りに満ちたスコッチ・ウイスキーの醸造所。それからお土産には、タータンチェックの小物がよさそうだ。コリンズのピクトリアルマップシリーズ Collins Pictorial Maps Series は、4点の主題図でスコットランドの代表的な名物のありかを親切に教えてくれる。

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アイリーン・ドナン城 Eilean Donan Castle
Photo by DAVID ILIFF at wikimedia. License: CC-BY-SA 3.0
 

刊行しているのは、ニューヨークに本拠を置く世界有数の出版社、ハーパーコリンズ HarperCollins。しかし、元をたどれば19世紀前半の創業で、タイムズ地図帳やハーフインチ図の刊行によりイギリスを代表する地図出版社として名を馳せていたバーソロミュー社 John Bartholomew and Son の製作だ。バーソロミュー社はスコットランドの首都エディンバラ Edinburgh が拠点だったので、地元愛あふれる地図があったとしても何の不思議もない。

シリーズは古いものでは1970年代から幾度か改訂が重ねられていて、そのつどカバーデザインも変化してきた。現在は藍地のカバーに統一されている。一種ずつ特色を見ていこう。

「スコットランドの古城地図 Collins Castles Map of Scotland」

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これは、スコットランドの古城や要塞化された邸宅の位置を地図上に克明にプロットしたものだ。その数、実に735か所に上る。ベースマップは縮尺約1:1,000,000(100万分の1)のスコットランド全図と、特に存在が集中する地域、グラスゴーからエディンバラにかけてや、アバディーンシャー北部の拡大図だ。地勢を表す段彩を施し、交通網(主要道路と道路番号、鉄道、空港)や観光案内所が記されている。

凡例によると、リストアップの基準は、今日でも何か興味を引くものが残る石造りの城、宮殿、要塞化された邸宅で、12世紀のモット城 motte castle(土盛りした基部に建てられた木製の構造物)の一部を含むが、中世の堀で囲まれた敷地や湖上住居(人工島)crannog は含まない。

地図上では、施設の記号が3色に分けられているが、これは公開の可否を表している。すなわち緑は、通常訪問者に開放されているもの(例えば観光施設や宿泊施設化されているもの)、橙は、ふだん外側からよく見える城や城跡(ただし私有の場合がある)、赤は私邸で原則非公開だ。

記号には連番が振られていて、併載のABC順索引とすぐ照合できる。この索引を見れば、城・邸宅の名称、公開可否、クロスリファレンス(地図との相互参照)のほか、築造形式と時代、連絡先電話番号、ウェブサイトまでわかる。余白には古城の写真がキャプションつきで散りばめられ、お薦めの名城10か所、子どもが特に喜ぶ場所5か所というコラムもある。一読すれば、ある程度の予備知識を仕入れることができる。

「スコットランドのウイスキー地図 Collins Whisky Map of Scotland」

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スコットランドで操業中のウイスキー醸造所とウイスキー関連の見どころを地図に落とし込んだもので、醸造所108か所、関連観光施設4か所が網羅されている。ベースマップは古城地図と同じ体裁だが、緑~茶系の定番的段彩を使った古城地図に対して、こちらは灰紫系で統一され、陰鬱な冬景色を想像させる。

醸造所を表す記号は、キルン Kiln と呼ばれる麦芽を乾燥させる建物を象っている。これも公開の可否で3色に分けられ、緑は通常一般公開しているもの、芥子色は事前予約者のみに公開するもの、赤は非公開の施設だ。併載の索引は、醸造所名、会社名、公開可否、クロスリファレンス、連絡電話番号、ウェブサイトのリストになっている。

たっぷり取られた余白には、原料となるピート、水、大麦からウイスキーが作られる工程を写真つきで見せるコラムや、ジョニー・ウォーカー Johnnie Walker、J&B、バランタイン Ballantine's など世界に知られたブレンドウイスキーのブランドトップ10の紹介、その輸出先と輸出額を示す地図、スコッチ・ウイスキーに関する詳細情報の入手先など、さまざまなデータが列挙されて興味深い。

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ウイスキー地図(旧版)を縮小
中央のスコットランド全図の色調などは現行版と異なる。
(画像はAmazon.co.ukから取得)
 

■参考サイト
スコッチ・ウイスキー協会 Scotch Whisky Association
http://www.scotch-whisky.org.uk/

「スコットランドのタータン地図 Collins Tartans Map of Scotland」

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上記2種とは趣を異にしていて、スコットランドの氏族すなわちクラン Clan と、格子柄のタータン(日本でいうタータンチェック)の関係を地図で示そうというのがこの地図の趣旨だ。

用紙の中央に、17世紀初めにおける各クランの勢力範囲を塗り分けたスコットランド全図が配置されている。それを取り囲むように、2.5×4.0cm角のタータンの織り見本が整然と並んでいるのだが、その数なんと247種。スコットランド・タータン・オーソリティ Scottish Tartans Authority 承認のロゴがついているだけのことはある。

クランシップ(氏族制度)は中世、特に北部のハイランド地方で自治制度の基盤を成すものだった。ところが、名誉革命で王位を追われたジェームズ2世を支持してイングランド政府に抵抗したため(彼らはジャコバイト Jacobite と呼ばれた)、1746年、カロデン・ムーアでの敗戦を境に解体させられてしまう。それ以降スコットランドでも、生活慣習のイングランド化が浸透していくのだが、18世紀半ばにロマン主義の風潮が強まると、民族の誇りの象徴としてクランが再評価されるようになる。そしてあまり普及していなかった南部ローランド地方にも広まったのだ。

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タータン地図の一部を縮小
(画像はAmazon.co.ukから取得)
 

クラン地図を見ると、私たちにも馴染みのある名が並んでいる。Mac、Mc(息子の意)が前につくマクドナルド MacDonald(下注)、マッキントッシュ MacKintosh、マッカーサー MacArthur、マッケンジー MacKenzie、ほかにもキャンベル Campbell、カーネギー Carnegie、ダグラス Douglas、ゴードン Gordon など。

*注 マクドナルドだけでも Macdonald、MacDonald、Mcdonald、McDonald、M'donald、M'Donald など綴りには揺れがある。

19世紀後半にタータン・クレーズ Tartan craze(タータン熱)と呼ばれる流行期があり、このときクランとタータンの1対1の関係が定められた。この地図はいわばその見本帳のような体裁になっている。一口に格子柄と言っても実に多くの美しい組合せが生み出されていて、織り方の妙を目で追うだけでも見飽きることがない。

■参考サイト
スコットランド・タータン・オーソリティ http://www.tartansauthority.com/

「旧きスコットランド クラン地図 Scotland of Old Clans Map」

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これもクラン関連の地図だが、上記と同じクランの勢力分布図を取り囲んでいるのは、色も意匠もさまざまなクランの紋章だ。標語 Motto、兜の飾り Crests、盾形紋章 Arms の1セットで、その数174種を配した豪勢なイラストマップになっている。

兜の飾りのモチーフには、人物や鳥獣のほかに王冠、剣、帆船、竪琴なども見られる。盾形紋章も獅子、帆船、幾何学文様などバラエティに富む。いずれもクランに伝わる民話や伝説や史実が背景にあるのだろう。異国の紋章について語る知識は全く持ち合わせていないが、これだけ集まれば素人目にも圧巻だ。スコットランドに興味がおありなら、タータン地図とともに一度手に取ってみる価値はある。

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クラン地図の一部を縮小
(画像はAmazon.co.ukから取得)
 

■参考サイト
スコットランド族長常設協議会 Standing Council of Scottish Chiefs
http://www.clanchiefs.org.uk/

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 イギリスの旅行地図-ハーヴィー社
 北アイルランドの地形図・旅行地図
 アイルランドの旅行地図

2016年1月11日 (月)

ドイツのサイクリング地図-コンパス社とバイクライン

多彩なドイツ自転車道地図(サイクリングマップ)の世界は、3つの主たるブランドが支えている。前回は、BVAビーレフェルト出版社刊行のADFC(全ドイツ自転車クラブ Allgemeiner Deutscher Fahrrad-Club)公式地図を紹介したが、それと拮抗するラインナップを誇るコンパス社とバイクライン(エステルバウアー社)の製品を見てみよう。

コンパス社 Kompass は、緑の表紙のハイキング地図 Wanderkarte でつとに名高い(下注)。ドイツ語圏の書店の地図コーナーには必ず置いてあるような定番商品の一つだ。ハイキング地図といっても、実態は自転車道やスキールートも収録する総合旅行地図なのだが、これには一つの弱点があった。なんでも載っているばかりに、テーマの掘り下げが十分でない部分が見られたのだ。

*注 コンパス社のハイキング地図については「オーストリアの旅行地図-コンパス社」参照。

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コンパス
サイクリング地図
「東アルゴイ、プファッフェンヴィンケル」表紙
 

ハイキング地図の第一の目的はルートの位置の明示、つまり道に迷わないようにすることだ。次にルートの状況が重要で、同社の場合、歩き道にはヴェーク Weg(車輪を転がすことができる凹凸の少ない小道)、フースヴェーク Fußweg(それほど険しくない歩き道、英語のフットパス Footpath)、シュタイク Steig(山道、険しい道)が記号で描き分けられている。しかし自転車道は、マウンテンバイクルートとの区分があるだけで、道の主従関係も路面の状況も実際よくわからなかった。情報社会が進んでサイクリングを楽しむ人たちの要望レベルが上がると、目的により適合した地図が求められるようになる。コンパス社としても、従来品では満足してもらえないという判断があったに違いない。

赤い表紙の「コンパス サイクリング地図 Kompass Fahrradkarte」が現れたのはここ数年のことだが、早やドイツ全土をほぼカバーするまでに成長した。テリトリーは、オーストリアのチロル州 Tirol やイタリア側の南チロル Südtirol(上アディジェ Alto Adige)まで拡がっている(下注)。空白地域がまだ残るハイキング地図に比べても、目を見張る充実ぶりだ。

*注 コンパス社の本拠地はチロル州インスブルック Innsbruck なので、チロルを重視するのは当然のことだ。

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コンパスサイクリング地図 索引図
 

縮尺はハイキング地図の1:50,000に対して、サイクリング地図では、単位時間に稼げる距離の違いを考慮して1:70,000に縮小してあるが、これでもADFC地図(1:75,000)より心持ち大きい。地図は耐水紙に両面印刷され、合せて東西70km×南北60km程度のエリアを収録している。また、図葉によって、別刷りの1:20,000主要市街図が添付されていることがある。

内容はどうだろうか。地勢表現はハイキング地図を準用しているようだ。陰影(ぼかし)がかけられ、丘陵地でも起伏を読み取ることができる。官製地形図と並べても遜色のない水準だが、自転車道を引き立たせるために敢えてトーンを抑えている。

その自転車道には紫、橙、緑の3色が使われる。紫が長距離自転車道 Fernradweg、橙が主要自転車道 Hauptradweg、緑がそれらを補完する地方自転車道 Nebenradweg だ。いずれも実線で良好な道、破線で悪路を表現する(下図凡例参照)。長距離道と主要道には、道路地図のような区間距離が添えられ、走るときの目安にできる。地図記号を使った駐車場、宿泊施設、案内所その他の観光情報もひととおり揃っているが、自転車修理場や貸出し所といった、ADFCにある自転車特有の項目が見当たらないのは少々残念だ。

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コンパスサイクリング地図 2013年版
凡例の一部
 
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コンパス
広域自転車旅行地図
「バイエルン南部」
表紙
 

なお、もっと広域を一度に見たいという向きには、2015年に新たに刊行された「広域自転車旅行地図 Großraum-Radtourenkarte」がある。縮尺は1:125,000で、両面印刷の地図2枚を1セットにしている。手元の「バイエルン南部 Bayern Süd」の場合、東西215km×南北160kmと広大なエリアを概観できる。内容は上記サイクリング地図とほぼ同じだ。2015年末の時点ではまだカタログに4点しかないが、2017年にはドイツ全土を全12点でカバーするという。

この広域自転車旅行地図がADFCの自転車旅行地図(1:150,000)に、先述のサイクリング地図がADFC地域図(1:75,000)に対応するとすれば、ADFCの自転車旅行ガイドに対しては、「自転車旅行ガイド Fahrradführer」が用意されている。長距離自転車道などのルート案内が目的で、リング綴じ、横長、天綴じのフォーマットと、ADFCとまったく同じような体裁の製品だ。残念ながら筆者は実見していないが、公式サイトによれば、市街図には薬局、自転車修理場、ATMなど実用的な参考情報も掲載されているそうだ。

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コンパス広域自転車旅行地図
表紙の一部を拡大

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バイクライン
サイクリング地図
「プファッフェンヴィンケル」表紙
 

ドイツのサイクリング愛好者なら、エステルバウアー Esterbauer 社の名は知らなくても、「バイクライン bikeline」のブランドにはきっと馴染みがあるに相違ない。「何の気苦労もなく自転車を楽しむために」の一言をロゴに添えたセルリアンブルーの表紙の地図やガイドブックは、ADFCとともに書店の地図棚の常連だ。オーストリアを拠点にするエステルバウアー社は1980年代の創業で、サイクリング関係の出版を専門にしている。公式サイトによればすでに400点以上のタイトルがあるという。主力製品は、サイクリング地図と自転車旅行ブックで、言うまでもなく前者は1枚もの折図、後者は横長スタイルの冊子だ。

バイクライン サイクリング地図 bikeline Radkarte」は、ドイツの主要地域のほか、オーストリアやフランスのアルザス地方の一部もカバーする。縮尺は1:75,000で、他社製品と同じく、耐水紙に両面印刷されている。収録エリアは、東西65km×南北60km程度の範囲だ。余白に主要市街図が添えられている。

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バイクライン サイクリング地図 索引図
 

メイン図のベースマップは比較的簡単なものだ。標高データから生成したと思われる等高線は、山地では滑らか過ぎ、平地では不自然な形状なのだが、登山用ではないから地形の概観が掴めればいい、という考えだろう。交通路や市街地は正確に描かれているが、地勢と同様、色のトーンが落とされ、鮮やかな色を用いた自転車道との対比に効果を発揮している。3社のなかではルートの視認性(見易さ)が最も高く、この点が人々に長く支持されてきた理由の一つだと思う。

では、肝心の自転車道はどうか。凡例を下に掲げた。まず主要ルート Hauptroute とそれを補完する地方ルート Nebenroute、その他の自転車ルートという大きな括りがある。その中で自転車道 Radweg と自転車ルート Radroute を線の色で分類し、さらに舗装・未舗装、悪路、玉石舗装など道路の状況を線の形状で区別する。コンパス社よりはるかに親切で、実走調査が行き届いていることがわかる。ただ、紫、赤、茶、黄、ピンクと多くの色を用いたため、地図上でルートの主従関係、あるいはネットワーク構造が直感的に理解しにくくなっているのが惜しい。

道路状況以外では、区間距離、道路勾配、修理場や自転車貸出所、駐輪場の位置などサイクリングに役立つ必要な情報が網羅されている。ADFCの地図では図郭内を走る自転車道について文章による説明もついているが、バイクラインには特にない。その役割はガイドブックに任せて、地図はグラフィックによる情報表現に徹するものと決めているようだ。

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バイクライン サイクリング地図 2013年版
凡例の一部(和訳を付記)
 
Blog_germany_fahrradkarte8
バイクライン自転車旅行ブック
「長距離自転車道
ハンブルク~ブレーメン」表紙
 

これに対して、長距離ルートに焦点を絞ったブック形式のガイドは「自転車旅行ブック Radtourenbuch」の名称で刊行されている。会社の事業としてはこちらが本領のようで、テリトリーは、ドイツ語圏(ドイツ、オーストリア、スイス)にとどまらず、オランダ、フランス、デンマーク、スペイン、イタリアなどにも及ぶ。他社と同様の横長判でリング綴じだが、ADFCやコンパス社の縦開きに対して、バイクラインは左に綴じ目がある横開きタイプだ。

ここまでドイツをカバーする3社のサイクリング地図を概観してきた。それぞれに特徴があって、一概に優劣はつけがたいのだが、敢えて私見を述べれば、情報の種類と量ではADFC、地図自体が洗練されているのはコンパス、地図の見易さではバイクラインが優位に立っている。とはいえ、机上で眺めているのと実走で参照するのとでは、着眼点が変わるに違いない。実際に使ってみた感想をお持ちの方は、ぜひコメントをお寄せいただきたい。

これらの地図は、日本のアマゾンや紀伊國屋などのショッピングサイトでも購入できる。"Kompass Fahrradkarte" "bikeline" などで検索するとヒットする。

■参考サイト
コンパス社 http://www.kompass.de/
エステルバウアー出版社 http://www.esterbauer.com/

★本ブログ内の関連記事
 ドイツのサイクリング地図-ADFC公式地図
 ドイツの旅行地図-ライン渓谷を例に

 オランダのサイクリング地図
 デンマークのサイクリング地図
 オーストリアの旅行地図-コンパス社

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