ベルリン東郊の小路線-ブーコー軽便鉄道
ブーコー軽便鉄道 Buckower Kleinbahn
ミュンヘベルク(マルク)軽便鉄道駅 Müncheberg (Mark) Kleinbahnhof ~ブーコー(メルキッシェ・シュヴァイツ)Buckow (Märkische Schweiz) 間 4.9km
標準軌(1435mm)、直流600V電化
1897年開業(750mm軌間、蒸気鉄道)、1930年標準軌改軌および電化、1998年運行休止
2002年保存運行開業
![]() 保存電車479/879形、ブーコー駅にて |
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ドイツの首都ベルリン Berlin の東郊には、森や野原と農地が混在する平原地帯が広がっている。そのなかに小規模ながら個性的な鉄道路線がいくつか見つかる。いずれも標準軌幹線の駅と、その幹線が経由しなかった町とを結ぶもので、運行にかかわる事業体もその町の公営企業や保存団体だ。ドイツ鉄道 Deutsche Bahn (DB) やベルリン市交通局 Berliner Verkehrsbetriebe (BVG) といった大手の路線では見ることのできない独特の雰囲気をもつこの小路線群を訪ねてみよう。
![]() ベルリン東郊の鉄道路線図(市内路面軌道、Uバーンを除く) |
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ベルリン中心部から東へ50km、ブーコー Buckow(下注1)は、森と湖が織りなす景観でマルク・スイス(ドイツ語ではメルキッシェ・シュヴァイツ Märkische Schweiz、下注2)と称される自然公園の拠点になっている小さな町だ。
*注1 Buckow は(ブッコウではなく)ブーコー [ˈbuːkoː] と発音する。
*注2 マルク Mark は、正式にはブランデンブルク辺境伯領(マルク・ブランデンブルク Mark Brandenburg/Markgrafschaft Brandenburg)といい、かつてはベルリンを中心として東西約400km、南北約200kmの範囲に広がっていた。
ベルリンから東へ延びる鉄道が開通したのは1867年のことだ。これはプロイセン東部鉄道 Preußische Ostbahn と呼ばれ、当時プロイセン領だったケーニヒスベルク Königsberg(現 ロシア領カリーニングラード Калининград/Kaliningrad)を経てロシア国境に至る長距離の主要幹線の一部だった。先行開業していたオーデル川 Oder 以東への短絡線として、沿線の小さな町には目もくれず、遮るもののない平原地帯を一直線に進んでいく。
![]() ブーコー湖北岸の眺め(2012年) Photo by Lienhard Schulz at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0 |
ブーコーも、そして次回取り上げるシュトラウスベルク Strausberg も、当時はこの幹線鉄道に見放された町の一つだった。しかし、1892年に地域振興を図る目的で鉄道の建設要件を緩和するプロイセン軽便鉄道法 Kleinbahngesetz が成立すると、様相が一変する。
各地で雨後の筍のように鉄道の建設ブームが巻き起こり、ブーコーでも負けじと1893年に、東部鉄道のミュンヘベルク Müncheberg 駅と町を結ぶ鉄道計画が発議された。建設費を抑えるために軌間750mmの狭軌線とし、蒸気機関車で運行する。地元自治体や民間の資本拠出で鉄道会社が設立され、1897年7月に約5kmの路線が開業した。
![]() ミュンヘベルク駅舎(2012年) Photo by Andre_de at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0 |
![]() 地形図にブーコー軽便鉄道のルートを加筆 Basemap from OpenStreetMap, License: CC BY-SA |
鉄道の出現はまた、別のブームを呼び覚ました。マルク・スイスの静かな湖畔にベルリン市民の関心が集まり、夏場の行楽客が増加したのだ。狭軌の蒸気列車では集中時の輸送をさばききれなくなったため、会社は、改軌と電化という抜本的な設備更新に踏み切った。1930年5月に鉄道は標準軌化され、同時に直流800Vの電気運転が始まった。東部鉄道は非電化のままだったので、孤立した電化路線だった。
第二次世界大戦後の東ドイツ体制下で鉄道は国有化されて、組織的にはベルリンSバーンの管轄となる。電化開業時から走り続けてきた車両の老朽化に伴い、1980年から82年にかけて製造された2両編成の新車3本が調達されて旧車を置き換えた。これはベルリン・シェーネヴァイデ Berlin-Schöneweide の国鉄修理工場の製造で、車体にはSバーン車両、動力系には直流600Vの路面電車ゴータカーの設備がそれぞれ転用されている。対応して、架線電圧も600Vに改められた。
![]() ミュンヘベルク軽便鉄道駅で発車を待つ保存電車 |
しかし、ドイツ再統一後は自動車交通の増加で、鉄道利用者が減少する。変電所の設備更新を回避するため、1993年からはディーゼル動力のレールバス運行に切り換えられた。翌1994年、ブーコー線はDR(東ドイツ国鉄)の他の路線網とともに新生DB(ドイツ鉄道)に継承されたが、すぐに不採算路線として整理対象に挙げられる。運行期間の短縮を経て、列車の運行は1998年9月の夏ダイヤ最終日をもって終了した。
その後、路線は保存団体のメルキッシェ・シュヴァイツ鉄道協会 Eisenbahnverein Märkische Schweiz e. V. に引き継がれた。協会の目的は、もとの電気運転の復活だった。変電所の改修は数年に及んだが、その完成により再び架線に電流が通され、車庫に眠っていた電車が自走できる環境が整った。こうして2002年9月から、ブーコー軽便鉄道全線で夏の間、オリジナル車両の走行シーンが見られるようになったのだ。
![]() フラクトゥール文字で記されたブーコーの駅名標 |
![]() ブーコー駅構内、ミュンヘベルク方を望む |
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昨年(2025年)6月、私は、北ドイツを巡るうちの半日をブーコー訪問にあてた。この年は4月19日から10月5日の間の土日祝日が運行日で、1日8往復が設定されていた。
軽便鉄道の起点であるミュンヘベルク(下注1)へは、ベルリン市内のオストクロイツ Ostkreuz 駅またはリヒテンベルク Lichtenberg 駅から、RB26系統の列車が30分間隔で出ている(下注2)。オストクロイツからの所要時間は42分、気軽に行ける郊外の行楽地だ。
*注1 正式名は地方名を添えた Müncheberg (Mark)。
*注2 ニーダーバルニム鉄道会社 Niederbarnimer Eisenbahn AG (NEB) が運行事業者で、「オーデルラント線 Oderlandbahn」の愛称が付されている。
![]() ボンバルディア製タレント Talent が運用されるRB26系統(2007年) Photo by MPW57 at German Wikimedia. License: public domain |
ところがこの時は、運悪く途中のシュトラウスベルク以遠が工事運休で、バス代行になっていた。ミュンヘベルクまであと18km、列車なら15分なのだが、並行する道路は約5km南を通るB1(連邦道1号線)しかない。鉄道がいかに沿線集落を無視して敷かれたかがわかるが、そのため代行バスは、距離およそ30kmの大迂回で、35分かけてようやくミュンヘベルク駅前に到達した。
さらにこの駅自体、ミュンヘベルクの村の中心部から3.5kmも離れたさびしい森の中にある。駅前には民家が散在するものの、商店などはまったく見当たらない。不案内な土地なので、きょろきょろとあたりを見回しながらホームに出た。2番線では、代行バスからバトンを受け継ぐ本線コストシン Kostrzyn(下注)行きの列車が客待ちしている。
*注 コストシン Kostrzyn はRB26系統の終点で、オーデル川 Oder を越えたポーランド側の国境の町。ドイツ語名はキュストリン Küstrin。
![]() (左)シュトラウスベルク駅前から代行バスに乗る (右)ミュンヘベルク駅のコストシン行き列車 |
そのホームの中央部に地下道に降りる階段があり、大きな案内板が掛かっているのに気づいた。「マルク・スイスへはこちらから直接行けます。ブーコー軽便鉄道、トンネル(地下道)を通って7番線へ」。これなら迷うことはない。
親切な案内に従って長い地下道を抜け、階段を上がると、駅裏の森に囲まれた荒地の先に、クリームと赤茶のツートンをまとう2両編成の電車が見えた。ミュンヘベルク発の一番列車だ。バスの到着が10時11分で、軽便鉄道の発車が10時20分。バスがほぼ定時に走ってくれたおかげで、なんとか間に合った。
このコンクリート張りの短いホームは軽便鉄道専用(下注)だが、DB駅舎とはずいぶん距離がある。どう数えれば7番線になるのかわからないが、昔はこの間にも多数の側線が広がっていたのだろう。
*注 正式名はミュンヘベルク(マルク)軽便鉄道駅 Müncheberg (Mark) Kleinbahnhof。
![]() (左)軽便鉄道の案内板 (右)荒地の先に軽便鉄道の電車が |
電車は、上述のとおり東ドイツ時代の1980~82年製で、電動車479.6形と制御車879.6形がペアを組む(下注1)。車体はベルリンSバーン276形からの転用だが、乗降扉は仕様が異なり、中央1か所のみだ。ブーコー軽便鉄道の駅はホームが低く、乗降ステップを要するため、ハルバーシュタット式 Halberstädter(下注2)と呼ばれるこの設計が採用された。
*注1 現存3編成の車番は479.601~603と879.601~603。これは1992年にDB体系に準じて改番されたもので、保存車両の車体にはDR時代の車番(電動車ET 279 001, 003, 005と制御車ES 279 002, 004, 006)が記載されている。
*注2 中央に乗降扉をもつDRの客車群 Mitteleinstiegwagen は、ハルバーシュタット鉄道修理工場 Raw Halberstadt で製造されていたのでこう呼ばれる。
車内に入ると中央室があり、その両側に、クロスシートを並べた客室が配置されている。当時ブーコーに納入された3編成はいずれも現存し、稼働可能な状態だという。ちなみに、テューリンゲン登山鉄道の山上区間を走っている479.2形(下注)も、これと同時期に製造された姉妹車両だ。
*注 本ブログ「テューリンゲン登山鉄道(旧称 オーバーヴァイスバッハ登山鉄道)」参照。
![]() 電動車479.6形(手前)と制御車879.6形 |
![]() (左)出入口のある中央車室 (右)クロスシートを配置した客室 |
ホームでそそくさと写真を撮って、車内に入った。乗客はほかに、お母さんと子供2人の家族連れのみ。本線がバス代行で、アクセスしにくい時期だからだろうか、案外少ない。
そこへ鉄道のスタッフが肩からバッグを提げた別の少年を連れてやってきた。この少年が検札を担当しているようだ。「こんにちは、切符を」と声がかかったので「ブーコー往復お願いします」と返す。往復の運賃は7ユーロ。手際よく鋏を入れてくれたのはエドモントン式の硬券ではなく、カード型の乗車券だった。裏面に479.6形の写真が配してある。
![]() 検札を担当する少年 |
![]() カード型の往復乗車券、下は裏面 |
そうこうする間に、列車はおもむろに動き出した。スタッフがまた客室に入ってきて「運転室へどうぞ」という。本来は子供向けのサービスだろうが、前方車窓にかぶりつけるのはありがたいので、私もお言葉に甘えた。
線路は駅から東向きに出た後、大きな左カーブで北を向く。初め畑地や牧草地も見えるが、やがて森に包まれていく。驚くことに、軌道にはPC枕木が敷かれていて、架空電化の設備とともに、保存鉄道が週に2日使うだけの走行線路とは思えない立派さだ。
![]() (左)運転室からの前面展望 (右)軌道にはPC枕木が敷かれている |
![]() 子供たちも興味津々 窓下部の旗はドイツ国旗とブランデンブルク州旗 |
時速40kmで進んでいくと、唯一の中間駅ヴァルトジーファースドルフ Waldsieversdorf が見えてきた。停留所 Haltepunkt には不釣り合いな大きさの駅舎が建っている。最寄りの村からの強い要望で、開業の9年後に設置されたそうだが、保存鉄道になった今でも利用されているのだろうか。時刻表どおりに停車したものの、乗降客はなかった。
30秒ほどで再び発車。線路はおおむね直線で、周囲は深い森が続く。しばらく座席に戻っていたが、時刻を見計らって前方を見ると、S字カーブの先に車庫らしき建物が覗いている。まもなく視界が開けて、枝分かれした側線群と、終点駅の頭端式ホームが現れた。10時32分ブーコー(下注)到着、所要12分のミニトリップだった。
*注 正式名はブーコー(メルキッシェ・シュヴァイツ)Buckow (Märkische Schweiz)。
![]() (左)ヴァルトジーファースドルフ停留所 (右)線路の周りは森が広がる |
![]() ブーコー駅構内に進入 |
![]() ブーコー駅に到着 |
駅舎は線路と直行する形に建っていて、一部2層の、鉄道の拠点にふさわしいどっしりした建物だ。正面玄関とは入口が別だったため、気づくのが遅れて行けなかったが、ささやかな鉄道博物館(有料)も開設されている。
駅前は、ヤナギの大木が植わるロータリー広場だ。しかし、日曜日のお昼前というのにクルマも人通りもなく、ひっそりとしている。駅が位置するのが町の南はずれだからだろう。ブーコーの町の中心までは800mほどの距離がある。折返しの列車に乗るつもりの私には、出かける時間の余裕がなかったが、列車を1本見送ってでも、趣のありそうな田舎町とマルク・スイス自然公園の湖沼群を一目見ておくべきだったと、今になって後悔している。
![]() 一部2層の大きな駅舎 |
![]() 駅務室入口 |
![]() 広場に面した駅舎正面 |
■参考サイト
ブーコー軽便鉄道 https://buckower-kleinbahn.de/
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