テューリンゲン登山鉄道(旧称 オーバーヴァイスバッハ登山鉄道)
テューリンゲン登山鉄道 Thüringer Bergbahn
(旧称 オーバーヴァイスバッハ登山鉄道 Oberweißbacher Bergbahn)
鋼索鉄道線:オプストフェルダーシュミーデ Obstfelderschmiede ~リヒテンハイン・アン・デア・ベルクバーン Lichtenhain a d Bergbahn 間 1.351km
軌間1800mm、最急勾配250‰、高度差323m
山上線(粘着式):リヒテンハイン・アン・デア・ベルクバーン~クルスドルフ Cursdorf 間 2.635km
軌間1435mm、直流600V電化
1923年開通
![]() 山上線クルスドルフ駅を出発する479.2形電車 |
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ドイツ中部、テューリンゲン州の山中を走るテューリンゲン登山鉄道 Thüringer Bergbahn は、ケーブルカー(鋼索鉄道)で上りきった後に、山上の平坦線が続くという2段構えの鉄道路線だ。しかも天気のいい日は、ケーブルカーに「カブリオ車 Cabriowagen」と呼ばれるオープン車両が据え付けられ、坂道を上下する間、山地の眺望が360度ほしいままになる。
このような鉄道が、他にないわけではない。このブログでも、スイスのミューレン鉄道(ラウターブルンネン=ミューレン山岳鉄道)Mürrenbahn やイタリアのリッテン鉄道 Rittner Bahn などの例を取り上げた(下注)。しかし、どちらも現在、登山区間はロープウェーに依存しているため、麓を走る鉄道とのつながりはない。
*注 詳細は「ミューレン鉄道(ラウターブルンネン=ミューレン山岳鉄道)」「リッテン鉄道 I-ラック線を含む歴史」「同 II-ルートを追って」参照。
それに対してテューリンゲン登山鉄道では、ケーブルカーの片方が車両を載せる運搬台車になっている。貨物輸送をしていた時代は、これを使って麓の路線と山上線との間で貨車を直通させていた。山上線用の電車も同じようにして下から運び上げたものだ。ケーブルカーなのに、晴れたらカブリオ、雨の日や冬場は窓のある車両と、臨機応変の置換えが可能なのは、台車装置があるからこそだ。
今回はこのユニークな登山鉄道のようすをレポートしたい。
![]() 鋼索鉄道線の運搬台車に載るカブリオ |
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テューリンゲン登山鉄道は、つい最近までオーバーヴァイスバッハ登山鉄道 Oberweißbacher Bergbahn と呼ばれていた。オーバーヴァイスバッハ Oberweißbach は山上にある町の名だ。路線は、麓を走る1900年開業のロッテンバッハ=カッツヒュッテ線 Bahnstrecke Rottenbach–Katzhütte、別名 シュヴァルツァタール線 Schwarzatalbahn から町への連絡手段として構想された。
しかし、麓との高度差は300m以上ある。建設費を抑えるには、線路を山腹に長々と引き回すより、ケーブルカーを設置して一気に上りきるほうが有利だった。建設は第一次世界大戦後の雇用創出事業の一環で実施され、1923年3月に正式に開通した。
当初、運営は州と地元自治体が設立した独自の鉄道会社が行っていたが、州公社を経て、1949年にDR(ドイツ国営鉄道=東ドイツ国鉄)の路線になった。そして、1994年のDR解体により新生DB(ドイツ鉄道)に引き継がれ、2002年からはその地方子会社が、シュヴァルツァタール線と一体で運営に当たっている。
![]() シュヴァルツァタール線125周年のリーフレット(一部) ケーブルカーと山上線も描かれている |
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私がここを訪れたのは、昨年(2025年)6月のことだ。ドイツ東部を巡っていた一日を、念願だった登山鉄道の乗車体験に充てた。この路線に最も近い主要都市は、テューリンゲン州の州都エアフルト Erfurt だ。そこから南へローカル列車を乗り継いで1時間30分、テューリンゲン粘板岩山地 Thüringer Schiefergebirge(下注)の深い谷の中に、起点駅のオプストフェルダーシュミーデ Obstfelderschmiede がある。
*注 テューリンゲン粘板岩山地は、テューリンガーヴァルト(テューリンゲン森)Thüringerwald の東に隣接する山地だが、より知られたテューリンガーヴァルトに含めて語られることも多い。
![]() テューリンゲン登山鉄道と周辺路線図 Basemap from OpenStreetMap, License: CC BY-SA |
![]() 詳細図 Basemap from OpenStreetMap, License: CC BY-SA |
エアフルト中央駅で乗ろうとしたシュタッドラーのレギオ・シャトル Regio Shuttle は3両編成だったが、車両の行先表示がDBアプリが示すものと違うのに気づいた。車掌氏に尋ねると、1両目に乗れとのこと。後ろ2両は途中のアルンシュタット Arnstadt で切り離されて、別方向へ行くのだった。
列車は市街地を出ると、一面の耕作地の中を延々と走っていく。やがて山に入り、シュヴァルツァタール線との接続駅ロッテンバッハ Rottenbach の3番線に到着した。ここで、1番線で客待ちしていたシュヴァルツァタール線の単行641形、赤い「クジラ」(下注)に乗り換える。
*注 その外観からドイツ語でヴァール Wal あるいはヴァールフィッシュ Walfisch(いずれもクジラの意)のあだ名がある。以前、別のローカル線でも見かけた。「テューリンガーヴァルト鉄道 I-DB線からのアプローチ」参照。
![]() (左)エアフルト駅から乗ったレギオ・シャトル (右)シュヴァルツァタール線の赤い「クジラ」 |
気動車は初めに一つ峠を越えた後、シュヴァルツァ川 Schwarza が刻んだ狭い谷を遡るのだが、右に左にきついカーブが連続し、速度はいっこうに上がらない。標準軌とはいえ、規格は明らかに軽便線だった。
オプストフェルダーシュミーデは、登山鉄道の開業に合わせて設置された棒線の停留所 Haltepunkt だ。しかし、ホームに降り立つと、登山鉄道側にはちゃんとした木骨造の駅舎があり、出札と売店が開いていた。今や登山鉄道は地域の観光スポットの一つになっていて、多くの客が車で直接現地まで来ているのだ。
![]() (左)オプストフェルダーシュミーデは無人駅だが… (右)登山鉄道には立派な駅舎が |
後で見に行くと、屋根付き橋でシュヴァルツァ川を渡った対岸に、数十台収容できそうな立派な駐車場が用意されていた。それで運行間隔も、シュヴァルツァタール線の1時間に対して、登山鉄道は30分と頻度が違う。
ちなみに、シュヴァルツァタール線も登山鉄道も SPNV(地方公共交通機関)に位置付けられているので、乗車券は周辺のDB路線と共通だ。ドイチュラント・チケット Deutschland-Ticket(下注)を所持していれば、追加料金はかからない。
*注 略称 D-Ticket。ドイツ全土のSPNVや市内交通機関が月単位で乗り放題の格安切符。国内旅行者はたいていこれを使っている。
![]() 駅舎全景、カブリオが山上へ向かう |
赤いクジラが10時05分に着いて、次の山上行きケーブルカーの発車は10時30分だ。それを待つ間に、かつて貨車をやりとりしていた両線の接続部を観察しておこう。
駅舎の前からシュヴァルツァタール線を終点側へ200mほどたどっていくと、分岐点があった。そこからスイッチバック式に側線が延びていて、終端は駅舎のすぐ横にある転車台だ。このときは入換用のディーゼル機関車が置いてあったが、これを90度回転させれば、ピットに収まったケーブルカーの台車上の軌道に接続できる。
![]() (左)本線からの分岐点 (右)入換機関車が休む転車台、左が側線、手前がケーブルカー側 |
そうこうするうちに坂の上手から、クリームと赤に塗り分けたお待ちかねのケーブルカーが降りてきた。運搬台車の話ばかりしてきたが、ケーブルのもう一方には、ふつうの階段型密閉車両が固定されている。すなわち、駅には密閉車とカブリオが交互にやってくるわけだ。往路は前者に乗って、後者とのすれ違いを撮りたいと思っていたので幸運だった。少なくとも今日は、山麓駅30分発が密閉車なので、00分発がカブリオということだ。山上駅ではこの逆になる。
なお、密閉車は駅舎内のホームに入ってくるが、カブリオ(を載せた台車)は直前のポイントで分岐して、先ほどの転車台前に設置された積込みランプ Verladerampe のホームに到着するようになっている(下の写真参照)。
運搬台車が安定的に走行できるよう、軌道は広軌で1800mmもある。それに対応する密閉車両も幅広で、そのため外見はリッゲンバッハのラック車両のようにずんぐりしている。車内に入ると、通路の両側の座席は3人掛けられるくらいの長さがあった。
![]() (左)ずんぐりした密閉車両 (右)車内も広々している |
![]() 山麓駅を山側から眺める 密閉車両は右へ入線、カブリオは直進して転車台前へ |
定刻になり、客車はそろりとホームを後にした。駅を出ても動きはゆっくりとしたままだ。初めのうち、周囲は背の高い針葉樹の人工森で、左に緩くカーブしていく。やがて中間の行き違いループが見えてきた。山上側からカブリオ車が降りてくる。台車より車長があり、しかも水平に載っているので、空に向かって反り返っているように錯覚してしまう。見るとフロアには日差しを遮るパラソルも開いていて、リゾート気分全開だ。確かに天気のいい日はこんな車両に乗りたい。
カブリオを下方に見送り、ループを通過した後は直線ルートになる。周りは自然林に移行し、後ろを振り返ると、前山の陰から遠くの山の稜線が姿を見せ始めた。山上駅リヒテンハイン Lichtenhain(下注)までの所要時間は18分、けっこう乗りごたえのあるケーブルカーだった。
*注 正式名はリヒテンハイン・アン・デア・ベルクバーン Lichtenhain a d Bergbahn。「登山鉄道にあるリヒテンハイン」を意味する。
![]() カブリオと行き違う |
![]() 後半、遠方の稜線が姿を見せ始める |
山上線には中間改札がなく、ケーブルカーの階段ホームが、山上線の高床ホームに直接つながっている。駅の正面口は下の階にあるため、乗継ぎ客の視界に入ることはない。山上線は9分後の発車だ。周辺散策は復路の楽しみに取っておき、まずは山上線の終点へ向かうことにしよう。
10時52分に、ベルリンSバーンの旧車に似た風貌の2両編成がホームに入ってきた。山上線もケーブルカーと同じく30分間隔で運行している。
![]() (左)リヒテンハインに到着 (右)階段ホームが山上線のホームに直結 |
手前は479.2形電動車で、DR時代の1982~84年にベルリンのシェーネヴァイデ鉄道修理工場 Raw Berlin-Schöneweide で製造(下注)されたものだ。この工場ではSバーン電車の改修を行っていたので、車体にはそれが流用された。両運転台なので、閑散期は単行で走る。
*注 コメコンによる共産圏の国際分業体制下で、東ドイツでは鉄道車両の新造ができなくなったため、479.2形(当時は279.2形と称した)は改造車とみなされた。
ちなみに、ベルリン東郊のブーコウ軽便鉄道 Buckower Kleinbahn でも同型車が走っているが、山上線のそれはケーブルカーの台車で運搬できるように、より短いホイールベース(軸距)で設計されているという。
一方、後ろの車両は479.2形の改造車(下注)で、「オリテート車 Olitätenwagen」と称する。オリテート Olität は特産のハーブオイルのことで、天窓から陽光降り注ぐ車内に、それをアピールするパネルが多数取り付けてあった。往路はこの車両が先頭に立つ。
*注 パンタグラフが撤去されたので単独では走れず、電力は併結の電動車から供給を受ける。
![]() 山上線専用の479.2形電車 |
![]() (左)電動車の車内 (右)天窓のあるオリテート車の車内 |
列車は十数人の客を乗せて、10時59分定刻に発車した。車窓はすっかり高原の風景で、牧草地と森が交錯する中をくねくねと縫っていく。平坦線 Flachstrecke と言われるとおり、勾配はごく緩い。森林公園のような雰囲気の中間駅オーバーヴァイスバッハ=デースバッハ Oberweißbach-Deesbach に停車。沿線の中心地オーバーヴァイスバッハの最寄り駅で、数人が降りた。
その後も森の中を走り、再び野原に出ると、まもなく終点のクルスドルフ Cursdorf だった。所要8分。終端が車庫になった頭端式の棒線駅で、列車は7分休んで折り返す。山上線は2.6kmの短いルートのため、1編成がこうしてシャトル運行している。
![]() (左)車窓は高原の風景 (右)オーバーヴァイスバッハ=デースバッハに停車(帰路写す) |
![]() (左)終点クルスドルフに接近 (右)折返しまでつかの間の休憩 |
ハイキング日和なので、帰りは山上駅リヒテンハインまで歩くことにした。おおむね線路に沿って、気持ちのいい小道が続いている。たまに道端にベンチも置いてあって、至れり尽くせりだ。途中視界の開ける場所で通過列車を待ち伏せしたりしていたので、50分ほどかけて山上駅に着いた。
山上駅はリヒテンハイン村の東端、標高662mに位置する。駅舎は山小屋のような木骨造の建物だ。下階にある駅の正面口の隣はマシナリウム Maschinarium という名のちょっとした博物館で、鉄道模型や資料が展示されているほか、ケーブルの巨大な巻上げ滑車もガラス越しに見ることができた。
![]() 線路に沿って野の小道が続く |
![]() リヒテンハイン駅舎、左が正面入口 |
![]() 小博物館マシナリウム (左)ケーブルの巻上げ滑車 (右)クルスドルフ駅の模型 |
駅前から坂道を上ると、山上線のヤードの前に出る。本線の両側に短い留置側線を配置したささやかなヤードだ。駅舎寄りには、その本線・側線とケーブルカーの積込みランプを接続する転車台がある。
側線に、同じクリームと赤の塗分けで、山上線より一回り小さな車両が留置されているが、これが雨の日や冬場にカブリオに替わって出動する密閉客車だ。近傍の、廃止されたシュライツ軽便鉄道 Schleizer Kleinbahn(下注)から来た付随車で、1972年から登山鉄道で使われている。隣には本線用の一般的な有蓋貨車がいるが、この客車と並ぶとやけに大きく見える。もとより貨物輸送は絶えて久しいので、貨車はふだん展示物だ。
*注 シュライツ軽便鉄道については「ヴィーゼンタタール鉄道 II-廃線跡の自転車道」参照。
![]() 駅に停車中の電車から見た転車台とヤード |
![]() (左)鋼索鉄道用の密閉客車 (右)クルスドルフ側から見た転車台と駅 |
ヤードの先端まで行くと、古い巻上げ滑車その他のモニュメントがあり、その先はリヒテンハイン森林鉄道 Lichtenhainer Waldeisenbahn という名の遊覧鉄道の敷地になっている。周回線路は軌間600mmで、650mの長さがあるが、最近は活動していないようだ。
![]() (左)巻上げ機のモニュメント (右)リヒテンハイン森林鉄道の軌道 |
そろそろ12時18分着のケーブルカーが上がってくる頃だ。この便がカブリオになることは麓で学習済みなので、谷側のお立ち台で撮り鉄してから、駅に戻る。ヤードからホームへは直接行くことができず、階下の駅入口(またはホームにつながる昇降機)へ迂回しなければならない。
ケーブルカーの階段ホームを上がっていくと、カブリオの車軸や運搬台車が目の高さに来て、構造が手に取るようだ。密閉車両と違って床が水平なので、山側の端部にのみドアがあり、ホームとの広いギャップは専用の乗降デッキで埋めている。
![]() (左)運搬台車を下から見上げる (右)専用デッキを介して乗降 |
20人ほどの客を乗せて、12時30分定刻に駅を出発した。往路で遭遇したときは車両が反り返っているように見えたが、実際に搭乗すると、谷側に突き出した先端部では空中に浮かんでいるような気分だ。ループ区間では、すれ違った密閉客車の窓から、好奇と羨望の入り混じった視線をたっぷりと浴びる。18分間、動く展望台を客に満喫させて、カブリオは静かに山麓駅の転車台前に到達した。
![]() (左)カブリオ車内は動く展望台 (右)密閉客車と行き違う |
■参考サイト
テューリンゲン登山鉄道 https://www.thueringerbergbahn.com/
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