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2026年6月

2026年6月10日 (水)

ナウムブルク市電-保存トラムが担う都市交通

ナウムブルク路面軌道 Straßenbahn Naumburg

ハウプトバーンホーフ(中央駅)Hauptbahnhof~ザルツトーア Salztor 間 2.9km
軌間1000mm、直流600V電化
1892年蒸気運転で開業、1907年電化、1991年運行休止
1994年保存運行開始

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中央駅停留所で客扱い中のレコワーゲン

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フランクフルト発のICEがお約束のごとく遅延したため、エアフルト Erfurt で乗継げるはずの RE(快速列車)に間に合わなかった。ナウムブルク Naumburg の中央駅に着いたのは予定より1時間後で、時計の針はもう正午をとうに回っている。

ナウムブルク(下注1)はエアフルトとライプツィヒ Leipzig の中間に位置する人口3万人強の地方都市だ。この町にも路面電車が走っている。ナウムブルク路面軌道 Straßenbahn Naumburg が運行する1本きりの路線で、延長2.9km。運営事業体単位では、ドイツ最小の路面軌道とされる(下注2)。

*注1 同名の町と区別するために、ナウムブルク・アン・デア・ザーレ Naumburg an der Saale と呼ばれる。ドイツ語の正式表記は Naumburg (Saale)。
*注2 路面蒸気機関車で運行されるキームゼー鉄道 Chiemseebahn が1.9kmとさらに短いが、分類は地方鉄道で、併用軌道区間もない。「キームゼー鉄道-現存最古の蒸気トラム」参照。

特色はそれだけではない。業界主流の連節低床車両が1台もなく、最も新しいもので1970年代生まれという古典単車だけで日常運行を賄っているのだ。ほかの都市なら週末の特別運転でにぎにぎしく登場するような旧車が、毎日入れ替わりで市内を行き来している。ライプツィヒに向かう途中、この町に寄り道したのは、この保存鉄道のような「市電」のようすを直接確かめたかったからだ。

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DBナウムブルク中央駅
(左)ローマ建築風の正面入口
(右)ボンバルディア製タレント Talent 2 のREで到着
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ナウムブルク市街と軌道路線図
赤の実線は現行路線、黒の破線は廃止線
© 2026 basemap.de / BKG

ナウムブルクに幹線鉄道が通ったのは1846年という早い時期だ。ハレ Halle (Saale) からエアフルト、アイゼナハ Eisenach、ベブラ Bebra に至るテューリンゲン鉄道 Thüringer Bahn の経由地の一つとされ、現在の中央駅も同時に開業した。しかし、駅はザーレ川 Saale が流れる低地に設置されたため、河岸段丘上に位置する市街地とは約1.5km離れ、高低差も30m近くあった。

両者の連絡で最初に構想されたのは馬車軌道だったが、段丘を上る坂道がネックとなり実現しなかった。ようやく1892年に蒸気運転による路面軌道が開業して、町は駅と結ばれた。当初は民間資本で運営されたが、赤字続きで1900年に倒産したため、市が買収に踏み切る。市営になったことで、1907年には念願の電化を果たした。

中心街のマルクト Markt を通って南のザルツトーア Salztor を終点としていた軌道は、まもなく市街の西側へ延伸される。1914年にはさらにその先端が中央駅まで届いて、全長5.4kmの環状線が完成した。単線ながらも、電車は時計回りと反時計回りでそれぞれ環状運転されるようになった。

東ドイツ時代も国有企業のもとで運行は続けられたが、1990年のドイツ再統一後は、自動車の増加と地域経済の不振により、利用者が激減してしまう。改修工事を理由に1991年8月に運行が中断されたまま、市は復活を断念した。

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環状線時代の路面電車(1990年)
(左)中央駅停留所
(右)マルクグラーフェンヴェーク Markgrafenweg 付近
Photo by Gustav Stehno, @ Tramwayforum.at
 

再建のきっかけは、1994年、残された軌道で保存トラムによる観光事業を企てた有志が「ナウムブルク路面軌道」を設立したことだった。最初は、車庫を起点に一部区間で散発的な運行が実施された。

会社は環状線の完全復興を目指していたが、市と意見が折り合わず、結局、東側の中央駅~フォーゲルヴィーゼ Vogelwiese 間で、2006年のイースターから毎週末の運行が始まった。事業は好評で、翌2007年から毎日運行となり、駅と旧市街の外縁を結ぶ交通手段として定着していく。

2010年にはついに、市バスのように州の補助対象となる ÖPNV(近距離公共交通機関 Öffentlicher Personennahverkehr)に認定され、事実上「市電」と呼べる存在になった。また2017年には、フォーゲルヴィーゼからザルツトーアまでの軌道延伸が実現し、現在のルートが完成している。

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停留所に掲げられた運賃表と路線図
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マリーエントーア Marientor 付近を行く電車

ナウムブルク中央駅 Naumburg Hbf は、列柱が支えるポルティコを正面に据えた古典的なデザインが印象的だ。そのファサードを出ると、目の前のささやかな駅前広場に、路面電車の乗り場「ハウプトバーンホーフ(中央駅の意)Hauptbahnhof」がある。

以前は、駅前通り Bahnhofstraße の東の角が起点だったのだが、2018年に、より駅に近い現位置まで50mほど延伸・移設された。時を遡れば、環状線時代の停留所はここにあったので、30年の歳月を経て旧に復したことになる。シンプルな棒線駅だが、すぐ先の駅前通りに行き違いループが残されている。

時刻表によれば、路面電車の運行は30分間隔だ。終点まで所要11分なので、通常1編成がシャトル運行している。土曜の日中のみ毎時1往復が増便され、途中で列車交換がある。運賃は片道2.40ユーロ(2025年現在、下注1)だが、ÖPNVなので、ドイチュラント・チケット  Deutschland-Ticket(下注2)も有効だ。

*注1 中部ドイツ運輸連合 Mitteldeutscher Verkehrsverbund GmbH (MDV) の1区運賃。
*注2 略称 D-Ticket。ドイツ全土のSPNV(地方公共交通機関)やÖPNVが月単位で乗り放題の格安切符。

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(左)中央駅手前の行き違いループ
(右)トラムのイラストが描かれた停留所標識
 

次の発車は13時ちょうど。しばらく目を離しているうちに、もう10人ほどがホームに集まってきている。5分前に電車が通りの角から姿を現し、定位置に停車した。

公式サイトによれば、本日の車両は、1973年にベルリンのシェーネヴァイデ鉄道修理工場 Raw Berlin-Schöneweide で製造された2軸、両運転台のTZ 70/1形51号車で、いわゆる「レコワーゲン Rekowagen」の仲間(下注)だ。長年、近隣イェーナ(イエナ)Jena の市内を走っていたが、2001年5月からナウムブルクで第二の人生を送っている。

*注 「レコ」は改造 Rekonstruktion の略だが、ほぼ新造車も含まれる。

系統幕に4とあるとおり、路面電車は4系統 Linie 4 を名乗る。これは、定期運行再開時に市内バスの1~3系統に準じて付番されたからだが、後にバスが101~103系統に改番されたため、1~3は現在、欠番になっている。

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(左)TZ 70/1形51号車
(右)車内はボックスシートが並ぶ
 

降車が終了すると、逆側の扉が開いて、待っていた客が乗込み始めた。その間に別の客も次々とやってきて、結局20人前後が乗車した。けっこう盛況だ。車内は、2人掛けと1人掛けの広めのボックスシートが並んでいる。バリアフリーに適合しない高床車とはいえ、乗ってしまえば快適だ。

客が多かったので、定刻より少し遅れて発車。最初は静かな駅前通りを行く。線路は右端に寄せられ、車道とも歩道とも明確に区切られているので、実態は道端軌道だ。段丘崖を覆う森の前で左に曲がると、道は上りになる。昔はもっと急坂だったのだろうが、今は切通しで勾配が緩和されていて、これなら馬が牽くトラムでも上がれそうだ。

児童公園の角で右折してすぐ、イェーガープラッツ Jägerplatz 停留所がある。ここは保存運行の初期に折返し点だったところで、道路の中央を通っていた当時の旧線の一部が、待避線とともに残っている。

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イェーガープラッツ停留所付近
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道路中央に残る旧軌道
(左)南望、待避線の一部も残る (右)北望、左は現在線
 

ポスト通り Poststraße に入り、市立公園 Stadtpark の豊かな木立を右に見ながら進んでいくと、左側にネオルネッサンス様式の煉瓦建築、マリーエンシューレ(聖マリア女子学校)Marienschule が目に入る。その隣がこの路面軌道の車庫 Depot だ。

きょうは水曜で公開日ではなかった(下注)が、扉が開いていたので、収容されている先頭の車両は外からも観察できた。右にいるのは1959年製のゴータカー Gothawagen T57形37号車だ。シュトラールズント Stralsund を皮切りに数都市を渡り歩いて、最後にイェーナからここへ引き取られた。その左は、今乗っているTZ 70/1とペアを組む付随車 BZ 70/1形19号車だが、朝夕の多客時に向けて出動待ちだろうか。

*注 3月から10月の毎週土曜午後に一般公開されている。

露天の留置線には、37号とともに定期運行に供されている38号や、1955年製でナウムブルクのゴータカーでは最古参の ET54形29号の姿もあった。塗色をそれぞれ出身都市のオリジナルカラーのままにしているところは、保存鉄道として創業した会社の矜持だろう。

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路面軌道車庫
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(左)左はナウムブルク色のゴータカー38号、
   その後ろに29号、右はゴータ色の202号
(右)イェーナ色のゴータカーT57形37号
 

車庫前を通過すると、ラウンドアバウトのハインリッヒ・フォン・シュテファン広場 Heinrich-von-Stephan-Platz を見ながら、電車の針路は南に向く。通っていくのは、旧市街を囲んでいた市壁の撤去跡に造られたリング Ring と呼ばれる環状道路だ。軌道は道路の右側のゆったりとした緑地帯に、歩道を伴って敷かれている。並木の蔭でレールは芝生に埋もれ、まるで緑のじゅうたんの上を行くようだ。

旧市街の最寄りとなるクルト・ベッカー・プラッツ(広場)Curt-Becker-Platz 停留所には、二つ目の行き違いループがあった。しばらく行くと、リングはまた右に90度曲がって、西に向かう。暫定終点だったフォーゲルヴィーゼ停留所を過ぎればもう最後の区間で、緩い右カーブの先に終点ザルツトーアのホームが見えてきた。車内の客は途中の停留所で少しずつ降りていったので、最後まで乗り通したのは数人だった。

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(左)タインブルク橋 Thainburgbrücke 付近
(右)終点ザルツトーア Salztor に到着
 

時刻表では折返しまでに3分の余裕があるが、遅れて到着した電車は、すぐに中央駅へと戻っていった。リング沿いのルートは緑が豊かで、車窓から眺めていても心が和んだが、旧市街の風景を拝まずに帰るのは口惜しい。次の電車を待つ間に、歩いて5分ほどのところにあるマルクト広場 Marktplatz へ向かおう。

マルクトは市の立つ広場で、町の中心を成し、美しい装いの建物が建ち並んでいる。路面軌道も1976年まではこの広場を経由していた。ところが、広場と周辺の街路からクルマを締め出して歩行者天国にすることになり、その際、電車の線路も道連れにされて、今のルートに付け替えられたのだ。

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旧市街のヤーコプス通り Jakobsstraße は軌道旧ルートの一部
 

旧軌道の一部は撤去を免れ、廃止から50年経ってもまだ残っている。広場の北側で、石畳に埋まる二股に分かれた線路がそれだ。ここにはマルクト停留所があった。広場の北東端まで行くと、軌道は右に急カーブして南を向く。そこでいったん途切れるが、続きはカフェのテラス席の下を通って、広場の南東端まで延びている。

もう一か所、痕跡があるのは旧市街北縁の、市立公園に沿うポストリング Postring と呼ばれる静かな通りだ。路面軌道の車庫の方から歩いていくと、木陰の石畳道に突如として線路が現れ、南へおよそ100m続いている。リングの中でも交通量の少ない区間なので、道路が再舗装されなかったのが幸いしたようだ。

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マルクトに残る旧軌道の停留所跡
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旧軌道の一部はカフェのテラス席の下に
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(左)ポストリングに残る旧軌道
(右)旧軌道は約100mで終わる
  次の交差点から先は自転車・歩行者道に転換された
 

このポストリングに続くリンデンリング Lindenring は、マルクトを中心とする市民の町と、市壁の外側にある大聖堂(下注)の門前町との境で、名前のとおり、うるわしい菩提樹の並木道だ。その中央にピンコロ石で区切られた自転車・歩行者道が走っている。これがおそらく軌道跡だ。

このあと電車は先刻歩いたマルクト広場へ向けて、商店がひしめくヘレン通り Herrenstraße をすり抜けていくのだが、かつての光景を伝えるものはもはやどこにも残っていない。

*注 ナウムブルク大聖堂 Naumburger Dom は13世紀に創建された由緒ある聖堂で、世界遺産に登録されている。

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世界遺産のナウムブルク大聖堂(2018年)
Photo by Krzysztof Golik at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
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ヘレン通り、かつてここにも電車が走っていた
 

■参考サイト
ナウムブルク路面軌道 https://naumburger-strassenbahn.de/
ナウムブルク=イェーナ近距離交通友の会(保存団体)Nahverkehrsfreunde Naumburg-Jena e.V.  https://ringbahn-naumburg.de/
ブルゲンラント郡旅客交通 PVG Burgenlandkreis https://www.pvg-burgenlandkreis.de/

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2026年6月 5日 (金)

テューリンゲン登山鉄道(旧称 オーバーヴァイスバッハ登山鉄道)

テューリンゲン登山鉄道 Thüringer Bergbahn
(旧称 オーバーヴァイスバッハ登山鉄道 Oberweißbacher Bergbahn)

鋼索鉄道線:オプストフェルダーシュミーデ Obstfelderschmiede ~リヒテンハイン・アン・デア・ベルクバーン Lichtenhain an der Bergbahn 間 1.351km
軌間1800mm、最急勾配250‰、高度差323m

山上線(粘着式):リヒテンハイン・アン・デア・ベルクバーン~クルスドルフ Cursdorf 間 2.635km
軌間1435mm、直流600V電化

1923年開通

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山上線クルスドルフ駅を出発する479.2形電車

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ドイツ中部、テューリンゲン州の山中を走るテューリンゲン登山鉄道 Thüringer Bergbahn は、ケーブルカー(鋼索鉄道)で上りきった後に、山上の平坦線が続くという2段構えの鉄道路線だ。しかも天気のいい日は、ケーブルカーに「カブリオ車 Cabriowagen」と呼ばれるオープン車両が据え付けられ、坂道を上下する間、山地の眺望が360度ほしいままになる。

このような鉄道が、他にないわけではない。このブログでも、スイスのミューレン鉄道(ラウターブルンネン=ミューレン山岳鉄道)Mürrenbahn やイタリアのリッテン鉄道 Rittner Bahn などの例を取り上げた(下注)。しかし、どちらも現在、登山区間はロープウェーに依存しているため、麓を走る鉄道とのつながりはない。

*注 詳細は「ミューレン鉄道(ラウターブルンネン=ミューレン山岳鉄道)」「リッテン鉄道 I-ラック線を含む歴史」「同 II-ルートを追って」参照。

それに対してテューリンゲン登山鉄道では、ケーブルカーの片方が車両を載せる運搬台車になっている。貨物輸送をしていた時代は、これを使って麓の路線と山上線との間で貨車を直通させていた。山上線用の電車も同じようにして下から運び上げたものだ。ケーブルカーなのに、晴れたらカブリオ、雨の日や冬場は窓のある車両と、臨機応変の置換えが可能なのは、台車装置があるからこそだ。

今回はこのユニークな登山鉄道のようすをレポートしたい。

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鋼索鉄道線の運搬台車に載るカブリオ

テューリンゲン登山鉄道は、つい最近までオーバーヴァイスバッハ登山鉄道 Oberweißbacher Bergbahn と呼ばれていた。オーバーヴァイスバッハ Oberweißbach は山上にある町の名だ。路線は、麓を走る1900年開業のロッテンバッハ=カッツヒュッテ線 Bahnstrecke Rottenbach–Katzhütte、別名 シュヴァルツァタール線 Schwarzatalbahn から町への連絡手段として構想された。

しかし、麓との高度差は300m以上ある。建設費を抑えるには、線路を山腹に長々と引き回すより、ケーブルカーを設置して一気に上りきるほうが有利だった。建設は第一次世界大戦後の雇用創出事業の一環で実施され、1923年3月に正式に開通した。

当初、運営は州と地元自治体が設立した独自の鉄道会社が行っていたが、州公社を経て、1949年にDR(ドイツ国営鉄道=東ドイツ国鉄)の路線になった。そして、1994年のDR解体により新生DB(ドイツ鉄道)に引き継がれ、2002年からはその地方子会社(下注)が、シュヴァルツァタール線と一体で運営に当たっている。

*注 DBレギオネッツ交通オーバーヴァイスバッハ登山・シュヴァルツァタール鉄道 DB RegioNetz Verkehrs GmbH Oberweißbacher Berg- und Schwarzatalbahn

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シュヴァルツァタール線125周年のリーフレット(一部)
ケーブルカーと山上線も描かれている

私がここを訪れたのは、昨年(2025年)6月のことだ。ドイツ東部を巡っていた一日を、念願だった登山鉄道の乗車体験に充てた。この路線に最も近い主要都市は、テューリンゲン州の州都エアフルト Erfurt だ。そこから南へローカル列車を乗り継いで1時間30分、テューリンゲン粘板岩山地 Thüringer Schiefergebirge(下注)の深い谷の中に、起点駅のオプストフェルダーシュミーデ Obstfelderschmiede がある。

*注 テューリンゲン粘板岩山地は、テューリンガーヴァルト(テューリンゲン森)Thüringerwald の東に隣接する山地だが、より知られたテューリンガーヴァルトに含めて語られることも多い。

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テューリンゲン登山鉄道と周辺路線図
Basemap from OpenStreetMap, License: CC BY-SA
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詳細図
Basemap from OpenStreetMap, License: CC BY-SA
 

エアフルト中央駅で乗ろうとしたシュタッドラーのレギオ・シャトル Regio Shuttle は3両編成だったが、車両の行先表示がDBアプリが示すものと違うのに気づいた。車掌氏に尋ねると、1両目に乗れとのこと。後ろ2両は途中のアルンシュタット Arnstadt で切り離されて、別方向へ行くのだった。

列車は市街地を出ると、一面の耕作地の中を延々と走っていく。やがて山に入り、シュヴァルツァタール線との接続駅ロッテンバッハ Rottenbach の3番線に到着した。ここで、1番線で客待ちしていたシュヴァルツァタール線の単行641形、赤い「クジラ」(下注)に乗り換える。

*注 その外観からドイツ語でヴァール Wal あるいはヴァールフィッシュ Walfisch(いずれもクジラの意)のあだ名がある。以前、別のローカル線でも見かけた。「テューリンガーヴァルト鉄道 I-DB線からのアプローチ」参照。

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(左)エアフルト駅から乗ったレギオ・シャトル
(右)シュヴァルツァタール線の赤い「クジラ」
 

気動車は初めに一つ峠を越えた後、シュヴァルツァ川 Schwarza が刻んだ狭い谷を遡るのだが、右に左にきついカーブが連続し、速度はいっこうに上がらない。標準軌とはいえ、規格は明らかに軽便線だった。

オプストフェルダーシュミーデは、登山鉄道の開業に合わせて設置された棒線の停留所 Haltepunkt だ。しかし、ホームに降り立つと、登山鉄道側にはちゃんとした木骨造の駅舎があり、出札と売店が開いていた。今や登山鉄道は地域の観光スポットの一つになっていて、多くの客が車で直接現地まで来ているのだ。

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(左)オプストフェルダーシュミーデは無人駅だが…
(右)登山鉄道には立派な駅舎が
 

後で見に行くと、屋根付き橋でシュヴァルツァ川を渡った対岸に、数十台収容できそうな立派な駐車場が用意されていた。それで運行間隔も、シュヴァルツァタール線の1時間に対して、登山鉄道は30分と頻度が違う。

ちなみに、シュヴァルツァタール線も登山鉄道も SPNV(地方公共交通機関)に位置付けられているので、乗車券は周辺のDB路線と共通だ。ドイチュラント・チケット Deutschland-Ticket(下注)を所持していれば、追加料金はかからない。

*注 略称 D-Ticket。ドイツ全土のSPNVや市内交通機関が月単位で乗り放題の格安切符。国内旅行者はたいていこれを使っている。

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駅舎全景、カブリオが山上へ向かう
 

赤いクジラが10時05分に着いて、次の山上行きケーブルカーの発車は10時30分だ。それを待つ間に、かつて貨車をやりとりしていた両線の接続部を観察しておこう。

駅舎の前からシュヴァルツァタール線を終点側へ200mほどたどっていくと、分岐点があった。そこからスイッチバック式に側線が延びていて、終端は駅舎のすぐ横にある転車台だ。このときは入換用のディーゼル機関車が置いてあったが、これを90度回転させれば、ピットに収まったケーブルカーの台車上の軌道に接続できる。

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(左)本線からの分岐点
(右)入換機関車が休む転車台、左が側線、手前がケーブルカー側
 

そうこうするうちに坂の上手から、クリームと赤に塗り分けたお待ちかねのケーブルカーが降りてきた。運搬台車の話ばかりしてきたが、ケーブルのもう一方には、ふつうの階段型密閉車両が固定されている。すなわち、駅には密閉車とカブリオが交互にやってくるわけだ。往路は前者に乗って、後者とのすれ違いを撮りたいと思っていたので幸運だった。少なくとも今日は、山麓駅30分発が密閉車なので、00分発がカブリオということだ。山上駅ではこの逆になる。

なお、密閉車は駅舎内のホームに入ってくるが、カブリオ(を載せた台車)は直前のポイントで分岐して、先ほどの転車台前に設置された積込みランプ Verladerampe のホームに到着するようになっている(下の写真参照)。

運搬台車が安定的に走行できるよう、軌道は広軌で1800mmもある。それに対応する密閉車両も幅広で、そのため外見はリッゲンバッハのラック車両のようにずんぐりしている。車内に入ると、通路の両側の座席は3人掛けられるくらいの長さがあった。

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(左)ずんぐりした密閉車両
(右)車内も広々している
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山麓駅を山側から眺める
密閉車両は右へ入線、カブリオは直進して転車台前へ
 

定刻になり、客車はそろりとホームを後にした。駅を出ても動きはゆっくりとしたままだ。初めのうち、周囲は背の高い針葉樹の人工森で、左に緩くカーブしていく。やがて中間の行き違いループが見えてきた。山上側からカブリオ車が降りてくる。台車より車長があり、しかも水平に載っているので、空に向かって反り返っているように錯覚してしまう。見るとフロアには日差しを遮るパラソルも開いていて、リゾート気分全開だ。確かに天気のいい日はこんな車両に乗りたい。

カブリオを下方に見送り、ループを通過した後は直線ルートになる。周りは自然林に移行し、後ろを振り返ると、前山の陰から遠くの山の稜線が姿を見せ始めた。山上駅リヒテンハイン Lichtenhain(下注)までの所要時間は18分、けっこう乗りごたえのあるケーブルカーだった。

*注 正式名はリヒテンハイン・アン・デア・ベルクバーン Lichtenhain an der Bergbahn。「登山鉄道にあるリヒテンハイン」を意味する。

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カブリオと行き違う
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後半、遠方の稜線が姿を見せ始める
 

山上線には中間改札がなく、ケーブルカーの階段ホームが、山上線の高床ホームに直接つながっている。駅の正面口は下の階にあるため、乗継ぎ客の視界に入ることはない。山上線は9分後の発車だ。周辺散策は復路の楽しみに取っておき、まずは山上線の終点へ向かうことにしよう。

10時52分に、ベルリンSバーンの旧車に似た風貌の2両編成がホームに入ってきた。山上線もケーブルカーと同じく30分間隔で運行している。

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(左)リヒテンハインに到着
(右)階段ホームが山上線のホームに直結
 

手前は479.2形電動車で、DR時代の1982~84年にベルリンのシェーネヴァイデ鉄道修理工場 Raw Berlin-Schöneweide で製造(下注)されたものだ。この工場ではSバーン電車の改修を行っていたので、車体にはそれが流用された。両運転台なので、閑散期は単行で走る。

*注 コメコンによる共産圏の国際分業体制下で、東ドイツでは鉄道車両の新造ができなくなったため、479.2形(当時は279.2形と称した)は改造車とみなされた。

ちなみに、ベルリン東郊のブーコウ軽便鉄道 Buckower Kleinbahn でも同型車が走っている(下注)が、山上線のそれはケーブルカーの台車で運搬できるように、より短いホイールベース(軸距)で設計されているという。

*注 詳細は本ブログ「ベルリン東郊の小路線-ブーコー軽便鉄道」参照。

一方、後ろの車両は479.2形の改造車(下注)で、「オリテート車 Olitätenwagen」と称する。オリテート Olität は特産のハーブオイルのことで、天窓から陽光降り注ぐ車内に、それをアピールするパネルが多数取り付けてあった。往路はこの車両が先頭に立つ。

*注 パンタグラフが撤去されたので単独では走れず、電力は併結の電動車から供給を受ける。

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山上線専用の479.2形電車
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(左)電動車の車内
(右)天窓のあるオリテート車の車内
 

列車は十数人の客を乗せて、10時59分定刻に発車した。車窓はすっかり高原の風景で、牧草地と森が交錯する中をくねくねと縫っていく。平坦線 Flachstrecke と言われるとおり、勾配はごく緩い。森林公園のような雰囲気の中間駅オーバーヴァイスバッハ=デースバッハ Oberweißbach-Deesbach に停車。沿線の中心地オーバーヴァイスバッハの最寄り駅で、数人が降りた。

その後も森の中を走り、再び野原に出ると、まもなく終点のクルスドルフ Cursdorf だった。所要8分。終端が車庫になった頭端式の棒線駅で、列車は7分休んで折り返す。山上線は2.6kmの短いルートのため、1編成がこうしてシャトル運行している。

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(左)車窓は高原の風景
(右)オーバーヴァイスバッハ=デースバッハに停車(帰路写す)
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(左)終点クルスドルフに接近
(右)折返しまでつかの間の休憩
 

ハイキング日和なので、帰りは山上駅リヒテンハインまで歩くことにした。おおむね線路に沿って、気持ちのいい小道が続いている。たまに道端にベンチも置いてあって、至れり尽くせりだ。途中視界の開ける場所で通過列車を待ち伏せしたりしていたので、50分ほどかけて山上駅に着いた。

山上駅はリヒテンハイン村の東端、標高662mに位置する。駅舎は山小屋のような木骨造の建物だ。下階にある駅の正面口の隣はマシナリウム Maschinarium という名のちょっとした博物館で、鉄道模型や資料が展示されているほか、ケーブルの巨大な巻上げ滑車もガラス越しに見ることができた。

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線路に沿って野の小道が続く
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リヒテンハイン駅舎、左が正面入口
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小博物館マシナリウム
(左)ケーブルの巻上げ滑車 (右)クルスドルフ駅の模型
 

駅前から坂道を上ると、山上線のヤードの前に出る。本線の両側に短い留置側線を配置したささやかなヤードだ。駅舎寄りには、その本線・側線とケーブルカーの積込みランプを接続する転車台がある。

側線に、同じクリームと赤の塗分けで、山上線より一回り小さな車両が留置されているが、これが雨の日や冬場にカブリオに替わって出動する密閉客車だ。近傍の、廃止されたシュライツ軽便鉄道 Schleizer Kleinbahn(下注)から来た付随車で、1972年から登山鉄道で使われている。隣には本線用の一般的な有蓋貨車がいるが、この客車と並ぶとやけに大きく見える。もとより貨物輸送は絶えて久しいので、貨車はふだん展示物だ。

*注 シュライツ軽便鉄道については「ヴィーゼンタタール鉄道 II-廃線跡の自転車道」参照。

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駅に停車中の電車から見た転車台とヤード
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(左)鋼索鉄道用の密閉客車
(右)クルスドルフ側から見た転車台と駅
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運搬台車に載る密閉客車(2005年)
Photo by Störfix at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0 DE
 

ヤードの先端まで行くと、古い巻上げ滑車その他のモニュメントがあり、その先はリヒテンハイン森林鉄道 Lichtenhainer Waldeisenbahn という名の遊覧鉄道の敷地になっている。周回線路は軌間600mmで、650mの長さがあるそうだが、最近は活動していないようだ。

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(左)巻上げ機のモニュメント
(右)リヒテンハイン森林鉄道の軌道
 

そろそろ12時18分着のケーブルカーが上がってくる頃だ。この便がカブリオになることは麓で学習済みなので、谷側のお立ち台で撮り鉄してから、駅に戻る。ヤードからホームへは直接行くことができず、階下の駅入口(またはホームにつながる昇降機)へ迂回しなければならない。

ケーブルカーの階段ホームを上がっていくと、カブリオの車軸や運搬台車が目の高さに来て、構造が手に取るようだ。密閉車両と違って床が水平なので、山側の端部にのみドアがあり、ホームとの広いギャップは専用の乗降デッキで埋めている。

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(左)運搬台車を下から見上げる
(右)専用デッキを介して乗降
 

20人ほどの客を乗せて、12時30分定刻に駅を出発した。往路で遭遇したときは車両が反り返っているように見えたが、実際に搭乗すると、谷側に突き出した先端部では空中に浮かんでいるような気分だ。ループ区間では、すれ違った密閉客車の窓から、好奇と羨望の入り混じった視線をたっぷりと浴びる。18分間、動く展望台を客に満喫させて、カブリオは静かに山麓駅の転車台前に到達した。

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(左)カブリオ車内は動く展望台
(右)密閉客車と行き違う
 

■参考サイト
テューリンゲン登山鉄道 https://www.thueringerbergbahn.com/

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