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2026年2月19日 (木)

ヴッパータールの懸垂式モノレール I

ヴッパータール空中鉄道 Wuppertaler Schwebebahn

フォーヴィンケル・シュヴェーベバーン(空中鉄道)Vohwinkel Schwebebahn~オーバーバルメン・バーンホーフ(駅)Oberbarmen Bahnhof 間 13.3km
直流750V電化、懸垂式モノレール、最大勾配40‰
1901~1903年開業

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フォーヴィンケルの街路を行くモノレール車両

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ドイツ西部、ルール地方 Ruhrgebiet の南隣に位置するヴッパータール Wuppertal は、わが国で例えるなら北九州市のような都市だ。

もちろん内陸部なので海も港もないが、ヴッパー川 Die Wupper 沿いで工業が盛んだったエルバーフェルト Elberfeld とバルメン Barmen を中心に、周辺のロンスドルフ Ronsdorf、クローネンベルク Cronenberg、フォーヴィンケル Vohwinkel、計5つの自治体が1929年に合併して誕生した。ヴッパー川の谷(タール Tal)を意味する市名も、北九州と同じように、公募で採用された新しい名称だ。

偶然なことにヴッパータールにも都市モノレールが走っているが、小倉のそれとは異なり、高架のレールから車体がぶら下がる懸垂式だ。しかも1901~03年の開通(下注)と、現存する公共交通モノレールでは世界最古で、ヴッパータール市の成立よりもずっと前になる。むしろモノレールで結ばれていたことが広域合併を後押ししたともいえ、北九州ならかつて走っていた西鉄の路面電車のような存在だ。

*注 中央部のクルーゼ Kluse ~ツォー/シュタディオン Zoo/Stadion 間が1901年3月1日、西側のツォー~フォーヴィンケル間が同年5月24日、東側のクルーゼ~オーバーバルメン Oberbarmen 間は少し遅れて1903年6月27日の開業。

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ヴッパータール空中鉄道周辺の地形図にルートを加筆
Basemap from OpenStreetMap, License: CC BY-SA
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水面に映る「鋼鉄のドラゴン」
 

世界的に見てもこの方式のモノレールは珍しい。しかもルートの8割はヴッパー川の上空を通り、両岸の基礎から斜めに差し掛けられたトラスの鉄柱が、背骨のような軌道を支えている。そのさまは「鋼鉄のドラゴン Stahlharte Drache」とも形容され、早くからヴッパータールの象徴であり、市街地のランドマークとみなされてきた。

今回はこのユニークなモノレール、ドイツ語で「宙に浮かぶ鉄道(下注)」を意味するシュヴェーベバーン Schwebebahn を訪ねてみたい。

*注 Schwebe は英語の float に当たる。日本語版ウィキペディアの当該項目では、原語のニュアンスを汲んで「空中鉄道」と訳されている。

モノレール線は全線13.3kmで、1995年に延伸された千葉都市モノレールに抜かれるまで、懸垂式では世界最長を誇っていた。ルートは東西方向に延びていて、起点は西側終端のフォーヴィンケル・シュヴェーベバーン Vohwinkel Schwebebahn に置かれている。わざわざシュヴェーベバーンと名乗るのは、DB(ドイツ鉄道)のヴッパータール・フォーヴィンケル駅と区別するためで、両者の間は500mほどの距離がある。

デュッセルドルフ中央駅 Düsseldorf Hbf からRE(レギオナルエクスプレス、快速列車に相当)に乗れば、17~18分でDBフォーヴィンケル駅に着く。南口から街路を歩き出すと、次の交差点の上空にモノレールのトラスの桁が覗いているから、道に迷うことはない。

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(左)DBヴッパータール・フォーヴィンケル駅
(右)カイザー通りの交差点を渡る
 

その交差点を西に取れば、軌道桁が街路からそれて、巨大な高架のやぐらに吸い込まれていくのが見える。それがフォーヴィンケル・シュヴェーベバーン駅だ。駅下にあるオーバーバルメン方面と記された階段を上がると、高架に載る板張りの乗車ホームに出る。地下鉄駅と違ってガラス張りの側壁から外光が差し込むので、すみずみまで明るい。西側には車庫が隣接していて、多数の車両が休んでいる。

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モノレールの起点
フォーヴィンケル・シュヴェーベバーン駅
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多くの車両が休むフォーヴィンケル車庫
 

まもなく左奥のループを回ってきた車両が、ホームの端にぬっと顔を出した。台車と軌条の構造上、車両は一方向にしか走れないので、方向転換はこうしたループ線を介さなければならない。かつては一部の中間駅(下注)にも同じ設備が残っていたが、現在は両端駅のみにある。

*注 ツォー/シュタディオーン Zoo/Stadion とクルーゼ Kluse。部分開通に際して造られた。

ホームのへりはスパッと切り落とされておらず、床が車両の下まで潜り込んで、乗降口との間に段差が生じている。床も板張りで、どこか遊園地の乗り物のような非日常感が漂うのがおもしろい。

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ループを回って乗車ホームの端に顔を出す
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(左)車両下に潜り込む板張りのホーム床(クルーゼ駅にて)
(右)乗降口との間に段差が
 

現行車両は、2016年に就役した15世代 Generation 15(下注)と呼ばれる3車体連節車だ。ライトブルーの地色をまとい、窓回りを黒で引き締めている。車幅が2200mmと狭いので、車内は片側に寄せて2人掛けの簡易シートが並び、車端だけレール方向の向い合わせシートだ。運転室がない最後尾は全面窓で眺めがよく、乗り鉄にとっては特等席だが、途中駅から乗るとたいてい先客で塞がっている。

*注 15番目の車両形式ではなく、2015年に最初の車両が納入されたことに由来するという。なお、正式名称は GTW 14 で、GTW は連節電動車 Gelenktriebwagen の意。

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3車体連接車「15世代」
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(左)車内は2人掛けシートが並ぶ
(右)最後尾は特等席
Photo by Ra Boe at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0 DE
 

懸垂式モノレールと言っても、湘南や千葉のモノレールが採用しているフランスのサフェージュ式とは走行系の構造が異なる。サフェージュ式では、ゴムタイヤの車輪がH鋼の案内軌条を転がるが、ケルンの技師カール・オイゲン・ランゲン Carl Eugen Langen が開発したヴッパータールのそれは、両側にフランジのついた鉄車輪がレールの上を転がる古典的な方式だ。

車輪は2軸のボギー台車に取りつけられていて、15世代の場合、これが1編成に4基ついている。走行中はレールの継ぎ目を通るジョイント音が聞こえてくるので、モノレールでありながら鉄道車両に乗っているような不思議な感覚に陥る。

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(左)走行系はボギー台車4基
(右)フランジつき車輪がレールに載る
 

運行本数は非常に多い。日中は平日3~5分間隔、休日でも6~8分間隔と、大都市の地下鉄並みの高頻度だ。オーバーバルメン行きが扉を開けて発車を待っている間に、向かいの降車ホームにもう次の列車が入線してくる。列車単位の輸送力不足を頻発運転で補っているのだが、結果として待たずに乗れることが大きなアピールポイントになっているに違いない。

ではその宙に浮かぶ列車に乗って、オーバーバルメンへと向かうことにしよう。

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フォーヴィンケル駅発車ホーム
 

フォーヴィンケルを出てしばらくは街路の上空を行く。この区間は「陸上線 Landstrecke」と呼ばれ、2.7kmにわたって続く。町を東西に貫く2車線路のカイザー(皇帝)通り Kaiserstraße に覆いかぶさるように、軌道桁が架かっている。それを支える鉄製支柱は、裾の絞りや角の大きな湾曲に特徴があり、当時流行していたユーゲントシュティール(青春様式)Jugendstil の影響が見て取れる。

陸上線には昔、カーテンレール線 Gardinenstangenstrecke という別称があった。乗客に家の中を覗かれては困ると、沿線住民が運行会社に室内のカーテンを取り付ける費用を負担させたという逸話がその由来だ。

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フォーヴィンケル、カイザー通りの「陸上線」
 

軌道はヴッパー川に向けて下り坂になっている。フォーヴィンケル駅が全線で最も高く、レール上面の標高は180.0m。そこから27~40‰の急勾配で標高136.1mの川端まで降下していき、その後は反転して川をゆっくり遡る。終点オーバーバルメンの標高は161.1mだ。

カイザー通りはフォーヴィンケルの中心街で、商店や商業施設が連なり、人通りも多い。しかし、2駅目のハンマーシュタイン Hammerstein 駅からはオイゲン・ランゲン通り Eugen-Langen Straße と名前が変わり、見た目も閑散としてくる。というのも、この先300mで道が行き止まりになっているからだ。

1974年に完成したアウトバーンA46が、ここで谷を南北に横断している。モノレールの走行に支障しないよう地上付近を通したので、代わりに街路が分断を余儀なくされた。車内から見ていると、街中の風景が突然、直交する高速道路に切り替わり、直後にまた同じような市街地に戻るので驚く。アウトバーンの東側はゾンボルン Sonnborn 地区で、軌道下の街路もゾンボルン通りSonnborner Straße と名を変える。

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(左)ブルッフ Bruch 駅
(右)アウトバーンA46をまたぐ(いずれも後方を撮影)
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(左)静かなゾンボルン通り
(右)街路から大きくカーブして川の上へ(いずれも後方を撮影)
 

「陸上線」はゾンボルンの福音教会の前までだ。ここで軌道は左に大きくカーブしながら、連邦道228号をまたぎ、水面に空を映すヴッパー川の上に出ていく。終点までの残り10.6kmは、流路を忠実にたどることから、通称「水上線 Wasserstrecke」だ。川を跨ぐ「鋼鉄のドラゴン」に抱きかかえられるようにして、モノレール車両はさらに東へ向かう。

続きは次回に。

■参考サイト
ヴッパータール空中鉄道 https://schwebebahn.de/

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コメント

ブログをご訪問くださりありがとうございます。
クナがヴッパータール(当時はエルバーフェルト)生まれだとは知りませんでした。地図を見ますと、生家の近くに Knappertsbuschweg という小道もありますね。Nordbahntrasse(北線廃線跡)の近くなので行けばよかった…。
https://maps.app.goo.gl/tH9QXTaVSJFyvrhTA
ご指摘いただいたチューリッヒのリギブリック・ケーブルカーは、今回行かなかったので割愛です。ユートリベルクなど粘着線でもまだ書きたい路線があるのですが、なかなか思うようにいきません。

いつも大変興味深い記述に感謝します。ヴッパータールは、一部に根強い人気を持つ往年の「名指揮者」クナッパーツブッシュが生まれた街ということです。本題の空中鉄道で、車内からの窃視を防ぐためのカーテン設置の件、神戸新交通・六甲ライナーの本州側一部区間で、窓ガラスに曇り処理されることを思い出しました。一方、パリのメトロ、高架線区間がある2,5,6号線では、高層住宅を至近に望む個所も多いですが、特段の処置はされていません。元々日除けの設置も有りません。単に「国民性」の違いでしょうか。
併せ、チューリヒ都市交通としての歯軌条鉄道で、リギブリック線は割愛ですか?

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