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2026年1月 5日 (月)

ポリ鉄道(ポリバーン)-学問の丘のミニ路線

ポリ鉄道 Polybahn

鋼索鉄道(単線交走式)
セントラル Central~ポリテラッセ Polyterrasse 間 0.176km(斜長)
軌間1000mm、最大勾配230‰、高度差41m
1889年開通

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ビルの2階から飛び出すポリ鉄道の車両

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チューリッヒ中央駅 Zürich HB の駅前から東へ歩き、リンマート川 Limmat を渡ったところにある広場が、セントラル Central だ。北側に建つ格式あるホテル・セントラル Hotel Central(下注)にちなんで命名された。1950年までレオンハルト広場 Leonhardsplatz と呼ばれていたように、名目は広場だが、実態は市電の一大ジャンクションだ。文字どおり四方から集まり散っていく線路とそのホームで、平面の多くが埋め尽くされている。

*注 1883年創業。現在の正式名称はセントラル・プラザホテル Central Plaza Hotel。central は英語またはフランス語の綴り(ドイツ語は zentral(ツェントラール))なので、ここでは英語読みとした。

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セントラルに集まる市内トラム
右端の建物がホテル・セントラル
 

市内トラムの系統6本(3、4、6、7、10、15系統)に加えて、トロリーバス路線2本(31、46系統)もここで乗換えができるが、もう一つ、忘れてならないのがポリ鉄道(ポリバーン)Polybahn だ。

これはケーブルでつながれた2台の車両が行き来する交走式ケーブルカーで、セントラルと、チューリッヒ工科大学 ETH Zürich 本館近くのポリテラッセ Polyterrasse(テラッセ Terasse はテラスの意)の間を結んでいる。全長わずか176mのミニ路線ながら、最大230‰の勾配で高度差41mを克服する(下注)。

*注 諸元は公式サイトの記述に拠る。

チューリッヒ工科大学は、相対性理論を唱えたアルベルト・アインシュタイン Albert Einstein も若かりし頃に学んだスイスの名門国立大学だ。旧市街を見下ろす高台にそのメインキャンパスがある。鉄道名の「ポリ poly」というのも、大学の旧名である国立技術専門学校 Eidgenössische polytechnische Schule(下注)の愛称に由来している。

*注 英訳では Federal polytechnic school。

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テラスの斜面を上るポリ鉄道の車両
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ポリテラッセとチューリッヒ工科大学本館(2022年)
Photo by Leonhard Lenz at wikimedia. License: CC0 1.0
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チューリッヒ市街東部の1:25000地形図
左端のZürich HBが中央駅、その右にポリ鉄道
© 2025 swisstopo
 

開業以来、学生・教員ら大学関係者が多く利用し、「ポリ」への通学路線として親しまれてきたが、もとはそのためだけに計画された鉄道ではない。

大学の裏手には、標高676mのチューリッヒベルク Zürichberg に続く西向きの傾斜地が広がっている。ドルダー鉄道(下注)と同様、そこで観光開発が目論まれていて、ケーブルカーはそのための交通手段だった。全体は2区間に分かれ、下部区間は、セントラルから現在のポリテラッセに至る交走式、それに続く上部区間は、標高600m台にある旧シュレスリ・レストラン Restaurants Schlössli 下まで循環式ケーブルカーを建設する計画だった。

*注 ドルダー鉄道については「ドルダー鉄道-チューリッヒ市内のラック電車」参照。

前者は、新たに設立された運営会社チューリッヒベルク鉄道 Zürichbergbahn が1888年に着工、翌89年1月に開業した。これが現在のポリ鉄道になる。しかし後者は、ツェントラーレ・チューリッヒベルク鉄道 Zentrale Zürichbergbahn (ZZB) が別途申請した路面軌道計画(下注)と競合するとして、建設認可を得られなかった。

*注 この路面軌道は1895年に開業したが、1905年に市に買収されて市電路線網の一部になった。現 5系統の東半区間に相当する。

時代からして、初期のポリ鉄道はウォーターバラスト(水の重り)方式で動いていたが、わずか8年後の1897年に電気式に転換されている。軌間は955mm、軌道は上下線が中央のレールを共有する3本レール、非常ブレーキ用のラックレールはリッゲンバッハ式ではなく、2枚歯のアプト式だった。

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(左)3本レール時代のポリ鉄道
  セントラル駅のパネルを撮影
(右)ブレーキ用のアプト式ラックレールを備えた旧軌道の断片
 

第二次世界大戦後は赤字に転落したため、運営会社は1970年代初めに、次の認可更新を行わないことを表明した。支援組織が運行継続を求めて活動を始めたが、それでも休止は不可避と思われていた。ところが、期限が迫った1976年、当時のスイス銀行 Schweizerische Bankgesellschaft (SBG) がにわかに救済に動き出す。銀行の出資で新会社 SBGポリ鉄道 SBG-Polybahn AG が設立され、鉄道の運営を引き継いだ。

1996年には老朽化した設備が全面改修されて全自動運転になり、車両も木製車体から鋼製に更新された。軌間が1000mm(メーターゲージ)、2本レールの単線交走式に変更されたのもこのときだ。

親会社の社名変更に伴い、現在はUBSポリ鉄道が正式名称になっている。実際の運行業務はチューリッヒ市交通局 Verkehrsbetriebe Zürich (VBZ) によって行われ、24系統として市内の公共交通網の一部を構成している。運賃は市内ゾーンの範囲内で、スイストラベルパスも通用する。

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山上へ向け鉄橋を上る

セントラルの市電ホームに立って周辺を見回しても、ポリ鉄道の乗り場はなかなか目につかない。というのも、ドルダー鉄道と同様、出入口がビルの一角にあり、乗り場自体もビルの中に組み込まれているからだ。広場の南側に建つ商業ビルの地上階、スターバックスの隣に POLYBAHN と記された赤い看板が上がっている。

中に入ると、目の前に階段状のホームがあった。2面1線の構造で、坂上に向かって右が乗車用、左が降車用になっている。5分ごとの頻繁運転なので、待つ間もなく赤い車両がホームに入ってきた。車内はコンパートメント3室と、坂上側にオープンデッキ、坂下側にクローズドデッキがある。コンパートメントにはベンチシートが向かい合うが、所要時間が1分40秒と、あっという間なので、デッキで済ませる人が多い。

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スターバックスの右隣にある駅入口
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(左)入るとすぐに階段状のホームが
(右)車両の坂上側はオープンデッキ
 

乗員はおらず、扉の開閉も完全自動だ。時間になると、ポンというチャイムとともに扉が閉まり、すぐに動き出した。ビルを出ると、主要街路のザイラーグラーベン Seilergraben(下注)をまたぐ鉄橋を渡っていく。この鉄橋はチューリッヒ市街地の名物の一つで、通りで待っていると、ビルの2階から赤い車両が斜めに飛び出すユニークな光景に出会える。タイミングが合えば、その下を走る3系統のトラムと一緒に画角に収めることも可能だ。

*注 ザイラーグラーベンは、ザイラー濠の意。道路になる前は旧市街を囲む市壁の外濠だった。ザイラーというのは綱(ザイル)職人の工房があったことに由来する。

鉄橋上の軌道がやや左に寄っているのは、3本レールのうちの右側を外した名残だろう。ただし軌間が拡張されたので、中央レールは中心位置にない。

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(左)発車してビルの外へ
(右)軌道が左に寄るのは3本レール時代の名残
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ビルの2階に吸い込まれる下り車両
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ザイラーグラーベンの上空を行く
 

鉄橋を渡り終えないうちに、早くも中間ループが始まった。左にカーブしながら進んでいき、対向車両とゆっくりすれ違う。そのループが収束する先にはもう軌道の終端が見えていて、車両は音もなく上部駅ポリテラッセのホームに滑り込んだ。

下部駅とは対照的に、駅舎は木造、切妻屋根の建物だ。窓ガラスの素朴な装飾やハーフティンバーの外壁が、アルプスの山小屋を思わせる。内壁にはしご状のものが立て掛けてあるのでよく見たら、3本レール時代の軌道の断片だった。中央にブレーキ用のアプト式ラックレールも付属している。

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(左)ザイラーグラーベンにトラムの姿も
(右)下り車両と行き違い
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(左)ループを抜けるとすぐにポリテラッセ駅
(右)到着、降車は坂上に向かって左扉から
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(左)山小屋風のポリテラッセ駅舎
(右)窓から柔らかな光が差し込む
 

セントラルから大学へは、トラム6系統か10系統でも行けるとはいえ、坂道だけを回避したいのならポリ鉄道が最適だ。まさにエスカレーター代わりで、年間170万人の利用者があるというのも頷ける。駅舎を出て右に行くと、駅名になったポリテラッセ(大学本館前のテラス)がある。比高40mの高みから中心部の町並みを見渡して、駅に戻ることにしよう。

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ポリテラッセからの市街地の眺め(2019年)
Photo by Ank Kumar at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

■参考サイト
ポリ鉄道 https://www.polybahn.ch/

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