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2025年11月30日 (日)

ルツェルン=シュタンス=エンゲルベルク線

ツェントラール鉄道ルツェルン=シュタンス=エンゲルベルク線
ZB Luzern-Stans-Engelberg-Bahn (LSE)

ヘルギスヴィール Hergiswil~エンゲルベルク Engelberg 間24.78km
軌間1000mm、交流15kV 16.7Hz電化、リッゲンバッハ式ラック鉄道(一部区間)、最急勾配105‰
1898年 シュタンスシュタート Stansstad~エンゲルベルク間開通
1964年 ヘルギスヴィール~シュタンスシュタート間開通

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エンゲルベルク駅で発車を待つ急行列車

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エンゲルベルク Engelberg は、スイス中央部、ウルナーアルプス Urner Alpen の山懐ろにいだかれたリゾート都市だ。南に横たわる主峰ティトリス山 Titlis(標高3238m)周辺での登山やウィンタースポーツの基地として、季節を問わず多くの人が訪れる。

ドイツ語で天使の山を意味するエンゲルベルクは、もと町の東にそびえるハーネン山 Hahnen(標高2607m)のことだった。その頂きから聞こえる天使の声を受けて設立されたと伝えられるベネディクト会エンゲルベルク修道院 Benediktinerabtei Kloster Engelberg の名を通じ、やがて門前町を指す地名として広まった。

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エンゲルベルク修道院とハーネン山(右奥)(2021年)
Photo by W. Bulach at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

1898年、この町に向けてメーターゲージの鉄道が開業した。現在のルツェルン=シュタンス=エンゲルベルク線 Luzern-Stans-Engelberg-Bahn (LSE) だ。麓と町のある盆地との間の大きな高低差を克服するため、先行するリギ鉄道 Rigibahn やブリューニック線 Brünigbahn と同じリッゲンバッハ式のラックレールを坂道に敷いていた。

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ツェントラール鉄道と周辺路線図
 

鉄道は当初、シュタンスシュタート=エンゲルベルク鉄道 Stansstad-Engelberg-Bahn (StEB) と称した。起点はフィーアヴァルトシュテッテン湖 Vierwaldstättersee に面するシュタンスシュタート Stansstad の港の前で、ルツェルンから湖を渡ってくる蒸気船に連絡して、乗継ぎ客を迎えた。

港にはこれとは別に1893年から、シュタンスシュタート=シュタンス路面軌道 Strassenbahn Stansstad–Stans が運行していたが、新しい鉄道に客を奪われて、早くも1903年に廃止されてしまう。シュタンス Stans というのは、港から3km南東にある町で、ニトヴァルデン Nidwalden 準州(下注)の州都だ。シュタンスシュタート=エンゲルベルク鉄道は、この歴史都市への新しい交通手段をも提供した。

*注 ニトヴァルデンは、隣のオプヴァルデン Obwalden とともにスイス原初三州の一つウンターヴァルデン Unterwalden を構成する。

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シュタンス市街の眺め
 

この鉄道がリギ鉄道やブリューニック線と一線を画すのは、これらがまだ蒸気運転だった時代に、最初から電気鉄道として建設されたという点だ。当時の技術水準に従って、電化方式は750V 32Hzの三相交流が採用されたが、同じ1898年にゴルナーグラート鉄道 Gornergratbahn やユングフラウ鉄道 Jungfraubahn の地上区間といった耳目をひく登山鉄道が同様の方式で新規開業していて、時代の先端を行く企てだったことが窺える。

反面、国内鉄道網との接続がないことは後々の弱点となった。シュタンスシュタートから先へは、船か路線バスに乗換える必要があり、利用者は不便を強いられた。最寄りのブリューニック線ヘルギスヴィール Hergiswil までは直線距離でわずか2km強だが、間にアルプナッハ湖 Alpnachersee に通じる水路と、ピラトゥス山から東に延びるロッパー尾根 Ropper という地形上の障壁が立ち塞がっている。

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ロッパー尾根(中景)と二湖をつなぐ水路
手前はシュタンスシュタート市街、遠景はピラトゥス山
鉄道は水路を跨ぐ橋の中央を走っている(2020年)
Photo by Marco Ghinolfi at wikimedia. License: CC0 1.0
 

水路に橋を架け、尾根に長いトンネルをうがつ新線で、ブリューニック線に合流するという長年の悲願が実現したのは、ようやく1964年12月のことだ。同時に、電化方式がブリューニック線の交流15kV 16.7Hzに転換され、線路施設も同線に準じる水準に改修された。こうして列車が同線を通ってルツェルンまで直通するようになったことから、社名もルツェルン=シュタンス=エンゲルベルク鉄道 Luzern-Stans-Engelberg-Bahn(以下 LSEと略す)に改称された。

2005年には、地方交通再編の一環でブリューニック線がスイス連邦鉄道SBBから移管され、LSEは、2本の路線を運行するツェントラール(中央)鉄道 Zentralbahn (ZB) として再スタートを切っている。

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ラック旧線時代の主力電車 BDeh 4/4
エンゲルベルク駅にて(1991年)
Photo by Falk2 at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0

LSE線の運行ダイヤは、インターレギオ Interregio (IR) とSバーンの2本立てだ。

前者はルツェルン=エンゲルベルク急行 Luzern-Engelberg Express と称し、ルツェルン発着で全線を完走する。1時間間隔の運行で、ルツェルンを出ると14.6km先のシュタンスまでノンストップ、あとは各駅停車だ(下注)。ラック対応の電気機関車 HGe 4/4 II(HGe101)形が牽く客車列車だが、プッシュプル運転のため、最後尾は運転台のある制御客車になっている。

*注 繁忙期の臨時列車には、シュタンスシュタートに停車する代わり、シュタンス~エンゲルベルク間がノンストップになる便もある。

SバーンはS4系統を名乗り、30分間隔の運行だ。各駅停車でシュタンス行きと、さらに足を延ばすヴォルフェンシーセン Wolfenschiessen 行きが交互に出る。また、朝夕に増発されるS44系統は、ルツェルン~ヘルギスヴィール間の小駅を通過する区間快速だ。車両は、シュタッドラー・レール社製の3車体連接車、ABe130形シュパーツ SPATZで、ブリューニック線と共通運用されている。

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ルツェルン=エンゲルベルク急行
(左)先頭は電気機関車HGe 4/4 II
(右)最後尾はシュパーツ似の制御客車
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Sバーンで運用されるABe130形シュパーツ

始発駅ルツェルンから分岐駅ヘルギスヴィールに至るブリューニック線との共用区間は、同線の項(下注)で記したので、ここではその先、LSE線の単独区間について見ていこう。

*注 「ブリューニック線(ルツェルン~インターラーケン・オスト)」参照。

ヘルギスヴィール駅南端で、複線のように見える二つのトンネルのうち、左側がLSE線のロッパー第2トンネル Lopper II tunnel だ。長さは1743mあり、内部で大きく左にカーブした後、ロッパー尾根を西から東へ貫いていく。闇を抜けるとフィーアヴァルトシュテッテン湖とアルプナッハ湖の間の水路があり、アッハーエック橋梁 Achereggbrücke でこれを渡る(下注)。

*注 アッハーエック Acheregg は、この水路に面したロッパー尾根の先端(岬)の地名。

長さ200mのこの橋は、左を並走する州道と一体の構造になっている。一方、右側にある4車線道は、ゴットハルト峠を越えてイタリアへ向かうアウトバーンA2、通称ゴットハルトルート Gotthardroute だ。スイスを南北に縦断する幹線道路なので、通行量が格段に多い。このように両側を道路に挟まれているため、景勝地にもかかわらず、列車からの眺めが単独橋ほどクリアでないのが惜しいところだ。

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(左)ヘルギスヴィール駅
(右)アッハーエック橋梁を渡る
 

橋を渡り終えると、左にLSE線の車両基地が見え、続いてシュタンスシュタート駅に停車する。ここでSバーン同士の列車交換がある。駅はヘルギスヴィール延伸の際、線路とともにここへ移設された。港の前にあった旧駅は、駅舎だけが今も残っている(下の写真参照)が、そこに至る線路敷は宅地や耕地に転用されてまったく跡をとどめない。

秀峰シュタンザーホルン Stanserhorn を右前方に仰ぎながら、A2道の上を斜めに跨ぎ越す。やがて周りは牧草地から市街地に変わり、中間の主要駅シュタンスに着く。主要駅といっても2面2線のごくふつうの構内で、この駅止まりのSバーンは、折り返しの発車までしばらく2番線で待機となる。

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(左)シュタンスシュタート車両基地をかすめる
(右)シュタンス駅
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港の前に残るシュタンスシュタート旧駅舎(2006年)
Photo by Gestumblindi at wikimedia. License: public domain
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シュタンスシュタート周辺の1:50000地形図
(左)1958年、起点はシュタンスシュタート港の前
(右)2024年、ヘルギスヴィール延伸後
© 2025 swisstopo
 

前身の路面軌道が連絡していたというシュタンザーホルン鉄道 Stanserhorn-Bahn (SthB) の駅へ行ってみた。標高1898mの山頂を目指すケーブルカーで、山麓駅へは歩いて3~4分、民族衣装のような美しいデザインの木造駅舎が迎えてくれる。

かつてこの鉄道は山頂までケーブルカーを3本乗り継いでいく方式だった。しかし山頂駅が火災で全焼したのを契機に、1975年に上部の2本が、近代的な1本のロープウェーに置換えられた。麓側の1本だけが、今もノスタルジックな木造車体のケーブルカーで運行されている。

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シュタンザーホルン鉄道
(左)山麓駅舎(右)第1区間のノスタルジックな車両
 

本題に戻ると、シュタンスの先は谷が狭まり、行く手に万年雪を戴く岩山が見え隠れするようになる。次のダレンヴィール Dallenwil では、急行どうしが列車交換する。ヴォルフェンシーセン Wolfenschiessen が山麓最後の町で、1時間に1本あるSバーンもここが終点だ。

州道とともに谷をさらに南下して、棒線駅でリクエストストップのグラーフェンオルト Grafenort を通過。そこから1.6km進んだ地点で、列車は速度を落とし、エンゲルベルクトンネル Engelberg-Tunnel に吸い込まれていく。長さ4043mの長大トンネルで、内部の大半にリッゲンバッハ式のラックレールが敷かれ(下注)、105‰の勾配で396mの標高差を上っている。通常ダイヤでは列車交換はないが、待避線も内部に2か所ある。

*注 ラック区間の延長は3797m。

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(左)深まる谷、ハペレンドルフ Chappelendorf の教会
(右)新トンネル上部出口から見える旧線跡
 

トンネルは2010年12月の供用開始で、まだ新しいものだ。2001年に着工されたものの難工事で、完成までに9年の歳月を費やした。しかしこれによって、ルツェルン~エンゲルベルク間の所要時間は14分も短縮されて47分になり(下注)、連結両数が厳しく制限されていた旧線に比べて輸送能力も倍増した。

*注 現在、日中のIRの所要時間は、エンゲルベルク行きが43分、ルツェルン行きは47分。

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ラック区間周辺の1:50000地形図
(上)1998年、旧線時代 (下)2024年、新トンネル開通後
© 2025 swisstopo
 

旧線時代のラック区間はより短く、その分坂道は険しかった。現トンネル入口からさらに2kmほど谷を遡ったオーバーマット発電所 Kraftwerk Obermatt の前に、起点となるオーバーマット駅があり、そこから最大246‰の急勾配で一気に高度を稼いでいた。ラック区間の終点は1.6km先の、地形図に Ghärst(ゲルスト)の注記がある地点だ。

三相交流の時代に、補機として使われたラック専用機関車HGe 2/2が、スイス交通博物館に保存されている。最盛期にはこの区間に同型機が4両配置されていたという。電車は、上り坂では機関車に後ろから押され、下り坂では前置された機関車をストッパーにして降りていた。時速はわずか5kmだった。

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(左)三相交流用の集電器を載せるラック機関車HGe 2/2
(右)製造所銘板
  スイス交通博物館 Verkehrshaus der Schweiz 蔵
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(左)ラック区間で電車を押すHGe 2/2
(右)オーバーマット駅のラック起点
上記車両の説明板を撮影
 

1964年の交流電化後はBDeh 4/4(BDeh140)形電車が導入されたが、これとてラック区間では2~3両しか連結できず、速度も14.5km/hに抑えられていた。繁忙期に走る長い編成の車両は、麓の駅で許容の両数に分割して、山上へ送られた。

勾配を緩和したトンネル新線の完成で、ブリューニック線で急行を率いていたHGe 4/4 II機関車が運用できるようになり、今は機関車を含め最大8両(最後尾は制御客車)でこの坂道を上り下りしている。

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旧線オーバーマット駅での列車交換(2007年)
Photo by Reinhard Kraasch at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0 DE
 

10分ほどでエンゲルベルクトンネルを抜けると、標高はもう1000mに近い。水力発電用の貯水池オイゲニ湖 Eugenisee の小さな水面を右に見ながら、列車は市街地に入る。

エンゲルベルク駅は2面3線の頭端駅だ。3階建ての駅舎はありきたりの近代建築だが、2015年の改修でホームの上屋が延長され、編成全体をカバーできるようになった。乗客を降ろした後、急行はここに9分滞在するだけで、慌しくルツェルンに向けて折り返していく。

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エンゲルベルク駅
(左)長い上屋のついたホーム (右)駅舎正面
 

(2006年6月29日付「スイス・エンゲルベルク線(LSE)のバイパストンネル」を全面改稿)

■参考サイト
ツェントラール鉄道 https://www.zentralbahn.ch/

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