新線試乗記-広島電鉄「駅前大橋ルート」
![]() 駅ビル2階に移設された広電の新ホーム |
いつも使う山陽新幹線とは違って、今回、広島市街地へのアプローチは海上からだった。所用があった四国の松山から、瀬戸内海汽船の新型フェリーで宇品(うじな)の広島港に着いた。港のターミナルビルのすぐ前に広島電鉄の電停がある。5号線(下注)の電車に乗れば、広島駅まで30分ほどだ。
*注 路線名とは別に、各運行系統を「~号線」と呼んでいる。5号線は比治山下経由で広島駅と広島港を結ぶ。
乗り込んだ電車はまもなく臨港地区を後にして、宇品本通を一路北上していく。紙屋町(かみやちょう)方面の線路が分岐する皆実町(みなみまち)六丁目を通過し、比治山下(ひじやました)までは何度か通ったことがある。
だが、その先の比治山町交差点からは、初めて乗る区間だ。従来はそのまま直進して大正橋の手前で左折、次の荒神橋(こうじんばし)のたもとで本線に合流していた。今回のルート変更で、交差点を左折した後、松川町で駅前通りに入り、稲荷町で本線と接続するようになった(下図参照)。
![]() 広島港ターミナルビル前の電停(2012年) Photo by iloverjoa at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0 |
◆
広島電鉄、通称 広電(ひろでん)は、広島市街地と西郊に約35kmにも及ぶ路線網を拡げている。2025年8月3日、このうち最も東の広島駅周辺で、運行ルートに大きな変化があった。
一つは、広島駅ビルの改築に合わせて、電車のターミナルが地上の駅前から2階駅ナカに移転したことだ。これにより、以前から2階にあったJR新幹線・在来線の改札との間で、平面での乗換えが実現した。距離も近くなり、70秒で移動できるそうだ(下注)。
*注 記載した時短効果は、下記特設サイトによる。
同時に、広島駅~稲荷町(いなりまち)電停間で、荒神橋を経由していた旧 本線をショートカットする新線「駅前大橋ルート」が開業した。これにより、到達時間が約4分短縮された。さらに、5号線の電車が通る皆実(みなみ)線もそれに接続するため、先述のとおり、松川町(まつかわちょう)経由に切り換えられたのだ。
■参考サイト
駅前大橋ルート周辺の1:25,000地形図
https://maps.gsi.go.jp/#15/34.392600/132.471800/
![]() 新旧ルート図 「駅前大橋ルート開業」特設サイトから引用 © Hiroshima Electric Railway Co.,Ltd. |
![]() 車両正面の記念プレート |
さて、駅に向かう車内で興味津々、前方を注視していると、真新しい複線の軌道が道路の中央に延びている。しかしその敷地は、交差点を除いてまだ砂利がむき出しだ。訪れたのは10月中旬で、開業から2か月以上経過しているが、仕上げ工事はこれからのようだ。
松川町交差点の前後には、同名の電停が新設された。そして、緑の街路樹が取り払われ、殺風景になった幅広の駅前通りを200m進むと、もう稲荷町交差点だ。本線が左から合流してくる。広島駅方面の停留所は交差点の手前(南側)にあり、そこで長い信号待ちをした。
![]() まだ砂利敷きの軌道 (左)比治山下~松川町間 (右)稲荷町電停 |
この間に、降車の際の運賃の決済方法について車内アナウンスが流れた。広島のご当地ICカードPASPY(パスピー)が廃止され、MOBIRY DAYS(モビリーデイズ)というQRコードのシステムが導入されたのは、今年3月下旬のことだ。ICOCAなど全国交通系ICカードも引き続き使えるが、読み取り機が別で、降車口も限定されている(下注)。
*注 降車は、MOBIRY DAYSなら全扉で可能だが、交通系ICカードは乗務員がいる扉のみ。ただし、広島駅では混雑緩和のため、ホームでも係員が降車処理をしている。
アナウンスの終了を見計らったように、タイミングよく信号が青に変わった。車道を横断すると、正面に壁のようにそびえる駅ビルが見えてくる。再び「砂利道」を進み、上り坂で駅前大橋にさしかかった。橋の縦断面が太鼓状なので、電車は急な勾配を感じさせることなく2階のレベルに上がっていく。駅前交差点の直上にあるシーサスクロッシングで右に転線し、最も東側のAホーム前に静かに到着した。
![]() 駅前大橋南詰から稲荷町交差点を望む |
![]() (左)駅前通りの奥に駅ビルが (右)駅手前のシーサスクロッシング |
![]() 広島駅ホームを3階から俯瞰 |
降りてみて改めて、周りに広がる吹き抜けの大空間に目を見張る。複数の軌道が整然と並んでいて、地上時代の狭苦しい直列型ターミナルを思い返せば、まるで別世界だ。新しい駅ビルの中に路面電車のターミナルを収容するのは富山駅の前例があるが(下注)、電車が上の階に飛び込んでくるという点ではモノレールの小倉駅にもどこか似ている。
*注 ただし、路面軌道の富山駅は通過型で、南北に路線が延びる。詳細は「ライトレールの風景-富山地方鉄道軌道線」参照。
しかし、そのどちらともかけ離れているのは、扱う便数に応じた駅の規模だろう。新しい構内は4面4線を擁し、東側からAホーム、同 降車ホーム、Bホームとその先端を切り欠いたCホーム、Dホーム、同 降車ホームの順に並ぶ。いうまでもなく路面電車の駅としては日本最大だ。
このうちAホームは5号線(広島駅~比治山下~広島港)、Cは短編成で運用される6号線(広島駅~江波)、Bは2号線(広島駅~広電西広島~宮島口)、Dは1号線(広島駅~紙屋町東~広島港)の電車が発着する。ただし、運行状況によってホームが変更になる場合がある。
![]() 2階フロア案内図 |
![]() (左)にわか雨の中を出入りする電車 (右)日中でも長い待ち行列が |
時刻は13時を回ったところだが、昼間でも電車が数分おきに出入りするし、JR改札や駅北口(新幹線口)に直結するフロアには人がひっきりなしに行き交っている。特にDホームの前には次の電車を待つ長い列ができているから、通勤通学の時間帯は推して知るべしだ。
今日は昼前から雲が厚みを増していき、午後はにわか雨に見舞われた。こういうときこそ、屋根に覆われたホームはありがたい。地上ホーム時代にも通路屋根はあったが、狭くて朝夕の混雑時に人波が収まりきらなかった。
ちなみに3階に上がると、構内全体を俯瞰することができる。左右両側に休憩スペースが設けられているので、電車の発着シーンをじっくり観察することも可能だ。しかし、無作法な撮り鉄を警戒してか、フェンス間際までは近寄れないようにしてあった。
![]() 稲荷町交差点のダイヤモンドクロッシングを通過 |
この後は駅前通りを稲荷町まで移動して、旧線跡の現状を見に行った。稲荷町から東進していた旧線のうち、荒神橋手前の旧 的場町(まとばちょう)電停までの約300mは、皆実線の旧線区間とともに、来春開業予定の循環線のルート(下注)として再利用される。
*注 循環線は、紙屋町東~市役所前~皆実町六丁目~比治山下~的場町~紙屋町東の環状ルートが予定されている。
そのため、稲荷町交差点には、高知のはりまや交差点や松山の大手町で見られるようなダイヤモンドクロッシングが設置された。また北西側には複線の渡り線が付属していて、これが本線ルートになる。循環線転用区間をざっと眺めたところ、停留所設置工事のために一部で軌道が撤去されているほかは、石畳の軌道がまだ手つかずだった。
![]() (左)循環線に転用予定の旧本線、あけぼの通りにて (右)的場町電停は改築中 |
![]() (左)的場交差点で本線に合流していた軌道跡 (右)荒神橋~広島駅前間はまだ軌道が残る |
これに対して荒神橋以北は、今回のルート切換えに伴い、廃線となる。本線に皆実線が合流していた橋の西詰ではすでに軌道が消え、跡を埋めたアスファルト舗装の真新しさが目立っている。
橋を渡り終えると旧線はすぐに左折して、駅に向かい、中間に旧 西国街道の橋の名に基づく猿猴橋町(えんこうばしちょう)電停があった。この荒神橋から駅前東交差点に至る軌道はまだそのまま残っている。しかし、バリケードに囲まれて生気がなく、朝夕、駅への入線を待つ電車がこの通りで数珠つなぎになっていた記憶はすっかり過去のものになった。
![]() 荒神三差路から広島駅方向を望む |
![]() 広島駅前 手前が地上駅時代の進入路、奥に「駅前大橋ルート」の高架が見える |
◆
ご参考までに、旧線時代の写真を以下に掲げておこう。
![]() 荒神橋を渡る650形「被爆電車」(2015年撮影、以下同じ) |
![]() 駅入線待ちの渋滞 |
![]() 人一人立つ幅しかなかった猿猴橋町電停 |
![]() 広島駅を出る5000形グリーンムーバー |
![]() パズルのような出入りを強いられた旧 広電広島駅 |
![]() 旧駅時代の構内図(2022年撮影) |
■参考サイト
広島電鉄 https://www.hiroden.co.jp/
同「駅前大橋ルート開業」特設サイト https://www.hiroden-hiroshima-st.jp/
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