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2025年8月13日 (水)

シャブレーの鉄道群-エーグル=オロン=モンテー=シャンペリー線

シャブレー公共交通エーグル=オロン=モンテー=シャンペリー線
TPC Ligne Aigle-Ollon-Monthey-Champéry (AOMC)

エーグル Aigle ~モンテー・ヴィル Monthey-Ville ~シャンペリー Champéry 間23.42km
1000mm軌間、直流1500V電化、アプト式ラック鉄道(一部区間)、最急勾配135‰
1907~1909年開通
1976年 モンテー・ヴィル Monthey-Ville ~モンテー国鉄駅 Monthey CFF 間廃止
1991年 シャンペリー終点延伸

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シャンペリー駅で発車を待つ連節電車

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エーグル Aigle 駅に集まるシャブレー公共交通 Transports Publics du Chablais (TPC) のメーターゲージ3路線の中で、エーグル=オロン=モンテー=シャンペリー線 Ligne Aigle–Ollon–Monthey–Champéry(略称AOMC、以下、シャンペリー線)は唯一、ローヌ川 Le Rhône を越えて西へ向かう。川筋には州境が通っているので、列車は、ヴォー州 Canton de Vaud から隣のヴァレー州 Canton du Valais(ドイツ語ではヴァリス州 Kanton Wallis)に足を踏み入れる。

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シャブレー公共交通の鉄道路線網
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エーグル=オロン=モンテー=シャンペリー線周辺の地形図に鉄道のルートを加筆
Image from bergfex and OpenStreetMap, License: CC BY-SA
 

全長23.42kmとTPC最長のこの路線は、異なる性格をもつ二つの鉄道会社が合併して成立した。

一つは、1907年に開業したエーグル=オロン=モンテー鉄道 Chemin de fer Aigle–Ollon–Monthey (AOM) だ。エーグルからローヌ川の谷底平野を横断して、モンテー Monthey の旧市街、プラス・デュ・マルシェ Place du Marché に通じ、ローヌ谷の東西を結ぶ短絡ルートを形成した。

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旧 鉄道2社の観光ポスター(1909年)
Photo from SBB Historic. License: CC0 1.0
 

もう一つは、1908年に開業したモンテー=シャンペリー=モルジャン鉄道 Chemin de fer Monthey–Champéry–Morgins (MCM) だ。モンテーからイリエ谷 Val d'Illiez を遡って、シャンペリー Champéry に通じている。起終点の標高差が約620mにもなるため、3か所のラックレール区間を介しながら上っていく山岳路線だ。翌1909年には、市内区間を延伸して、起点をCFF(スイス連邦鉄道、ドイツ語ではSBB)のモンテー駅前に移している。ちなみに鉄道名の末尾にあるモルジャン Morgins というのは当時人気の高かった鉱泉が湧く保養地の名で、支線を延ばす計画だったが、実現しなかった。

前者がおおむね平坦な土地を走る(以下、谷線)のに対し、後者は実質的に登山鉄道(同 山線)だが、1946年に合併して以来、一本の路線として扱われている(下注)。

*注 TPCに集約される以前の名称は、エーグル=オロン=モンテー=シャンペリー鉄道 Chemin de fer Aigle–Ollon–Monthey–Champéry。

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延伸前の旧シャンペリー駅構内(1980年ごろ)
Photo by Hans-Rudolf Berner at SBB Historic. License: CC BY-SA 4.0

エーグルのTPC線ターミナルでシャンペリー線の電車が発着するのは、駅前広場から見て右寄り、CFF線と隣り合う11・12番線だ。

3線の仕様共通化の一環でシャンペリー線では、2016年から架線電圧が1500Vに昇圧され、ラックレールがシュトループ式からアプト式に変更された。運用車両もこれに対応できるよう、シュタッドラー・レール社製GTWシリーズの新車Beh 2/6形に置き換えられた。中間に駆動ユニットを挟んだ連節電車で、7編成が就役し、541~547の車番が付されている。以来、エーグル~モンテー間の平坦線だけを往復する列車を含め、このラック・粘着式併用電車が全運行を担うようになった。

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エーグルのTPC線ターミナル
左の電車がシャンペリー線のBeh 2/6形
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(左)部分低床のBeh 2/6形車内
(右)中間の駆動ユニット
 

エーグルの新ターミナルが整備されたのは2006~2007年のことだが、このとき、周辺のシャンペリー線のルートも大きく変わっている。

以前は、駅前広場を出ると約1.4kmの間、オロン街道 Route d'Ollon に敷かれた路面/道端軌道を走っていた。しかし、その位置からでは新ターミナルに入れないため、CFF線沿いに直進する専用軌道が建設され、2006年にルートが移設された(下図参照)。

旧線時代は、エーグルを出てすぐの十字路でディアブルレ線(下注)と平面交差するのが見どころの一つだった。ディアブルレ線はもとのままだが、ダイヤモンドクロッシングは撤去され、もはや跡形もない。

*注 正式名称はエーグル=セぺー=ディアブルレ線 Ligne Aigle-Sépey-Diablerets (ASD)、前回の記事参照。

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(左)ディアブルレ線との平面交差(1984年撮影)
(右)シャンペリー線が撤去された現在
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エーグル周辺の1:25000地形図
(左)オロン街道に沿うシャンペリー線
  青で示したディアブルレ線とは平面交差(2004年版)
(右)CFF線沿いに移設後(2016年版)
© 2025 swisstopo
 

この日、エーグルを13時55分に発車する電車に乗った。シャンペリー線は日中、エーグル~モンテー間で30分(土休日は60分)間隔、その先シャンペリーへは60分間隔で運行されている。全線の所要時間はシャンペリー方面が55~66分、エーグル方面が57~61分だ。

隣を並走していたCFFの線路が遠ざかると、2001年に完成したアン・シャレー車両基地 Dépôt en Châlex の前を通過する。ここはエーグルを起点とする3路線の列車の整備拠点になっていて、ヤードには、各線で定期運用から外された旧型車両の姿も確認できた。

次いで電車は、路線名にも含まれるオロン Ollon の村に入っていく。村の中心部は山裾を埋めた扇状地の扇頂近くに立地しているため、オロン駅の標高は468mと、周囲の平地より70m以上高い。それで駅の前後は急な坂道になっていて、勾配値は平坦線では例外的な62~65‰だ。

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アン・シャレー車両基地
CFF線の列車内から撮影
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扇状地に立地するオロンの村
 

オロンの扇状地を降りると、いよいよローヌ谷の横断にかかる。この区間はほぼ直線で、畑地が広がる谷底平野や、スイス・シャブレーを代表する秀峰、ダン・デュ・ミディ Dents du Midi を眺めながら行く景勝区間だ。右手から州道145号コロンベー街道 Route de Collombey が接近してきて、道端軌道のようになる。CFFシンプロン線の複線線路、高速道路A9号を相次いでオーバークロスし、白濁したローヌの川面を渡った。田園風景の右岸に対し、左岸のヴァレー州側は工場や住宅が目に付く。モンテー周辺はスイス屈指の化学工業地区になっている。

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ローヌ谷からダン・デュ・ミディの眺め
サン・トリフォン・ヴィラージュ St-Triphon-Village 付近で撮影
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(左)ローヌ谷に広がる畑地
(右)ローヌ川を渡る
 

東から西へ4km以上続いた平野横断を終えると、突き当りのラウンドアバウトで針路が南に変わる。まだ道端軌道は続くが、初めのうちは道路との境界がないので併用軌道というのが正確かもしれない。

モンテー・アン・プラス Monthey-En Place 停留所の手前で、シャンペリー方面からの線路が道路を渡って合流してくるのが見えた(下注)。まもなく列車は一つ東の脇道に移動して、中間の主要駅モンテー・ヴィル Monthey-Ville(ヴィルは町の意)の頭端式ホームに滑り込む。

*注 アン・プラス停留所の乗り場はかつて谷線、山線別々だったが、ヴィル駅方に移設統合された。

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モンテー・アン・プラス停留所付近
谷線と山線(手前)が合流
 

谷線(旧 エーグル=オロン=モンテー鉄道)の終点は当初、ここから200m南下した旧市街のプラス・デュ・マルシェ Place du Marché(下注)にあった。しかし狭い街路を通過していたため、1921年という早い時期に廃止され、山線(旧 モンテー=シャンペリー=モルジャン鉄道)の拠点駅だった旧ヴィル駅に統合された。

*注 プラス・デュ・マルシェは市の立つ広場の意で、町の中心。ドイツ語ではマルクトプラッツ Marktplatz。

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頭端式ホームのモンテー・ヴィル駅
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モンテー・ヴィル駅の出入口
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モンテー周辺の1:25000地形図
(左)中心街とCFF駅前に線路が延びる(1932年版)
(中)中心街区間廃止後(1974年版)
(右)ヴィル駅も後退移設(2024年版)
© 2025 swisstopo
 

この旧ヴィル駅があったのは現駅の南東100mで、今はテアトル(劇場)通り Avenue du Théâtre とその付随広場になっている。1909年に線路はさらに500m延ばされ、CFFモンテー駅前に達していた。しかしその後、路線は段階的に短縮される。旧ヴィル~CFF駅間が1976年に廃止となり、ヴィル駅も都市計画に従い、1986年に現位置まで後退した。

ちなみに、2030年の完成を目標に、現ヴィル駅と市内の道端軌道区間を廃止し、線路を大規模に移設する計画が進められている。準備工事はすでに着手されていて、数年後にはCFFモンテー駅が、CFF線とシャンペリー線の共同駅に生まれ変わる予定だ。

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旧モンテー・ヴィル駅跡の道路と公園

乗ってきた電車はモンテー・ヴィル駅止まりの区間便だった。それで、これがエーグルに戻っていくシーンを撮った後、次の14時51分発の電車で改めてシャンペリーへと向かった。

電車はもと来た道をアン・プラス停留所まで戻ってから、左へ分岐する。さらに左へ急カーブを切りながら、2.3km続く最初のラック区間に突入した。最大勾配135‰で町の西側の山腹をじりじりと上っていくのだが、ラックレールの威力は絶大で、谷底を埋めるモンテーの市街地がみるみる沈んでいく。

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(左)谷線・山線分岐点
(右)ラック区間の起点を示す C(crémaillère(ラック)の頭字)標識が立つ
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眼下に沈むモンテーの市街地
 

列車は次第にイリエ谷へと入り込み、氷蝕谷の上部に残された緩傾斜地形、いわゆる谷の肩に沿って奥へ進む。緩傾斜といっても谷底を切り裂く断崖と比較してのことで、場所によってはなだれ落ちそうな斜面に大屋根の民家がへばりついている。

ラックレールはシュメ Chemex 駅の手前でいったん終わり、最大50‰の粘着区間になった。リクエストストップのルート・ド・モルジャン(モルジャン街道)Route de Morgins 停留所を通過(下注)。谷側に張り出す新しい高架橋で同名の道路を跨ぎ越すと、深い支谷を渡って長さ93m、同線唯一のトンネルをくぐる。

*注 2024年現在、モンテー・アン・プラス、トロワトラン、ヴァル・ディリエの3駅以外はすべてリクエストストップになっている。

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(左)イリエ谷を奥へ進む
(右)ルート・ド・モルジャンの高架橋
 

トロワトラン Troistorrents 駅は同名の村の代表駅で、計画どおりならモルジャン方面への分岐駅になっていたはずだ。モンテーから16分で、すでに標高770mに達している。

またしばらく緩やかな斜面を行く。延長約600mの第2ラック区間を上りきると、次の停車駅ヴァル・ディリエ Val-d'Illiez だ。谷底も上昇してきたようで、ヴィエーズ川 La Vièze の流れが木々の間からちらちらと見える。しかし、あいにく天気は下り坂で、いよいよ谷間に霧が降りてきた。晴れていればこのあたりで、ダン・デュ・ミディの印象的な鋸歯が姿を現すのだが、上方はすっかり雲に覆われている。

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(左)トロワトランの駅名標
(右)谷間を包む霧
 

ラ・クール La Cour 停留所を過ぎると、地形は急に険しさを増す。大きく迂回し、斜面にへばりつくようにして上る第3のラック区間約700mが最後の見どころだ。終点の一つ手前のシャンペリー・ヴィラージュ Champéry-Village 停留所では数人が降りた。ここはかつての終点(下注)だが、旧 構内は2車線道路の用地になり、その下に造られたギャラリー(覆道)にホームがある。

*注 当時の駅名はシャンペリー Champéry。

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第3ラック区間から下流側を望む
左隅に続きの線路が見える(復路で撮影)
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シャンペリー周辺の1:25000地形図
(左)村の北東にあった旧シャンペリー駅(1986年版)
(右)延伸でロープウェー駅に直結(2018年版)
© 2025 swisstopo
 

電車はこの道路に沿ってなおも走り、15時24分、終点シャンペリー Champéry 駅に到着した。標高は大台を超えて1035mになる(下注)。

*注 ちなみに路線で最も標高が高いのはシャンペリー・ヴィラージュで、標高1043m。

イリエ谷の町や村は、スイスとフランスにまたがるウィンタースポーツのメッカ、ポルト・デュ・ソレイユ Portes du Soleil の玄関口だ。シャンペリーも例外ではなく、1990年に完成した延長840mの路線延伸は、とりわけ冬期の訪問客の利便性を高めるのがねらいだった。それで駅は、標高1962mのクロワ・ド・キュレ Croix de Culet に上るロープウェー(下注)の山麓駅に直結されている。

*注 シャンペリー=クロワ・ド・キュレ ロープウェー Téléphérique Champéry–Croix de Culet またはシャンペリー=プラーナショー ロープウェー Téléphérique Champéry–Planachaux と呼ばれる。

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シャンペリー駅に到着
左の建物がロープウェーの山麓駅
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(左)シャンペリー駅出札所
(右)ロープウェーの発着ホーム
 

しかし、なにぶん訪れたのは夏で、天気が冴えないこともあって、ロープウェーの乗り場は閑散としていた。ついに降り出した大粒の雨を、とりあえず駅の軒先でしのぐ。伝統家屋が軒を連ねるシャンペリーの中心地区も山手へ歩いて5分ほどだが、雨具を広げて巡るか、諦めて直近の電車に乗って帰るか、ここは思案のしどころだ。

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雨模様のシャンペリー駅前
遠景の岩峰はレ・ダン・ブランシュ Les Dents Blanches
 

次回は、ベー=ヴィラール=ブルテー線を訪ねる。

■参考サイト
シャブレー公共交通 https://tpc.ch/
AOMC2030(モンテー周辺の線路改良計画)https://www.aomc2030.ch/

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