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2025年7月15日 (火)

ブロネー=シャンビー保存鉄道-1m軌のミュージアム

ブロネー=シャンビー保存鉄道 Chemin de fer-musée Bloney-Chamby (BC)

ブロネー Blonay BC~シャンビー Chamby 間2.95km
1000mm軌間、直流900V電化、最急勾配50‰
1902年開通、1966年休止、1968年保存鉄道開業

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シャンビーへの坂道を行くマレー式機関車105号機

スイス西部、レマン湖 Lac Léman を望む高台を走るブロネー=シャンビー保存鉄道 Chemin de fer-musée Bloney-Chamby は、同国の保存鉄道の中でも傑出した存在だ。開業から半世紀を超える歴史の長さもさることながら、国内や近隣諸国で引退したメーターゲージの鉄道車両を積極的に収集し、その数は80両にも達する(下注)。

*注 2025年現在、公式HPに掲載されている車両の数は、蒸気機関車11両、電気機関車5両、電動車15両、客車25両、貨車14両、その他10両。

これらは、終点近くのショーラン・シャンビー Chaulin-Chamby にある車両基地に収容され、動態機はシーズンの主として週末に、保存鉄道の専用線となっているブロネー Blonay ~シャンビー Chamby 間、約3kmのルートで公開運行される。シャンビーで折り返した後、列車が向かうショーラン車両基地での楽しみは、鉄道が誇る広範な車両コレクションの自由見学だ。

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MOBの旧車BCFe 4/4 11号

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保存鉄道の起点ブロネー駅は、レマン湖畔のヴヴェー Vevey から電車で16分、終点シャンビーは同じく湖畔のモントルー Montreux から15分だ。こうした両端でのアクセスの良さも、保存鉄道の人気を高めている要因の一つだろう。

このうちブロネーでの接続路線は、もとヴヴェー電気鉄道 Chemin de fer électriques Veveysans (CEV) と称し、2001年以降は、地方公共交通事業の再編により設立されたモントルー=ヴヴェー=リヴィエラ交通 Transports Montreux-Vevey-Riviera (MVR) の一路線になっている。

今では、背後にそびえるレ・プレイアード Les Pléiades の山上へ行く登山鉄道として知られているが、実は1902年に開業したときの終点はシャンビーで、50‰の急勾配ながら全線粘着運転の路線だった。シャンビーでは、1年前に開業したばかりのモントルー=オーベルラン・ベルノワ鉄道 Chemin de fer Montreux Oberland Bernois(MOB、下注)に接続した。ちなみに、ブロネー~レ・プレイアード間は、後の1911年にラック式で開業した支線だ。

*注 ドイツ語読みでは、モントルー=ベルナー・オーバーラント鉄道 Montreux-Berner Oberland-Bahn。近年は観光ルート、ゴールデンパス・ライン GoldenPass Line の西半区間として知られる。

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ヴヴェー電気鉄道を走る粘着・ラック式併用電車ABeh 2/6
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ブロネー=シャンビー保存鉄道周辺の路線網
 

しかし、残念ながらブロネー~シャンビー間は旅客需要が乏しく、1966年に運行が休止されてしまう。そこで、短距離だが景観の魅力に富むこのルートを保存活用しようと、その年のうちに観光鉄道創設のための協会組織が立ち上げられた。

車両の取得と線路の改修、会社設立、運行認可申請と作業は順調に進み、2年後の1968年7月20日に待望の開業式を迎える。スイスで初めての本格的な保存鉄道だった。こうした経緯から、ブロネー~シャンビー間の線路施設は今なお、ヴヴェー電気鉄道を引き継いだモントルー=ヴヴェー=リヴィエラ交通の所有で、保存鉄道会社は路線上の旅客輸送事業者という位置づけだ。

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シャンビー駅のジュネーヴ市電151号(1976年)
Photo by Alain GAVILLET at wikimedia. License: CC BY 2.0
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ブロネー=シャンビー保存鉄道周辺の地形図に鉄道のルートを加筆
Image from bergfex and OpenStreetMap, License: CC BY-SA

2024年6月のスイス滞在中にこの保存鉄道を訪れる機会があった。先にヴヴェー電気鉄道の本線をレ・プレイアードの山上まで全線乗ってから、復路のブロネーで下車する。駅には3本の簡素な発着番線と平屋の駅舎があるが、保存鉄道はその南側に、1番線から派生した独自の乗り場と切妻屋根の小さな木造駅舎を構えている。まずは出札口へ行き、往復と言って切符を買った。渡されたのは博物館入館込みの一日乗車券 carte journalière で、24スイスフラン。

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(左)一日乗車券
(右)ブロネー駅構内、左手前が保存鉄道の乗り場
 

運行日は5月から10月の間、主として週末の2日間だが、1日あたり8往復の設定があり(下注)、旅程は組みやすい。ただし、蒸気機関車が登場するのは、土曜3往復、日曜4往復のみで、他の便は電車か電気機関車が牽引する列車だ(2024年現在)。

*注 月の最終日曜は10往復走るが、蒸気機関車はそのうち3往復。

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(左)本線駅舎
(右)1955年までブロネーに来ていた路面軌道の記念壁画
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保存鉄道の小さな駅舎
 

ホームには、次の11時10分発が停車中だった。前に立つ電動車は、MOB(モントルー=オーベルラン・ベルノワ鉄道)の初期の旧車で、1914年製のBCFe 4/4 11号。後ろに、ルガーノ Lugano 近郊を走っていたというオープン客車「ジャルディニエラ Giardiniera」を従えている。

先刻レ・プレイアードに上る途中でこの駅を通ったとき、1本前の10時10分発を目撃したのだが、列車はこれとは違い、旧ベルン市電 Stadtische Strassenbahnen Bern の1914年製トラムCe 2/2 52号だった。おおむね1時間間隔の運行で、午後は蒸機も出るので、運用上、電車は1編成あれば十分なはずだが、豊富に擁する控え投手を次々に登板させているようだ。

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(左)MOBの旧車11号
(右)後ろにつく「ジャルディニエラ」(ショーラン博物館で撮影)
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(左)MOB旧車11号の車内
(右)同型車の絵葉書が額装されていた
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鮮やかな緑をまとう旧ベルン市電52号
 

急ぐ旅でもないのでこの便は撮影用に見送り、次の12時10分発でブロネーへ向かうことにした。ホームで待ち構えていると、やってきたのはオフホワイトとブルーのツートン電車で28のナンバーをつけている。旧 ローザンヌ市電 Tramways Lausannois の1913年製Ce 2/3 28号だ。車内には、1人掛けと2人掛けの背もたれ転換式シートが7列並ぶ。客は10人足らずなので、余裕で座れた。

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旧 ローザンヌ市電28号
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(左)ブロネー駅で折り返しを待つ
(右)座席は背もたれ転換シート
 

発車するとすぐに50‰の急な坂道で、レ・プレイアードの登山道路と交差し、斜面に広がる住宅街をくねくねと抜けていく。右手下方にはレマン湖の湖面がちらちらと覗くが、朝から空は曇り、湿度も高めで、遠景にはもやがかかっている。シャントメルル Chantemerle の旧停留所を過ぎると住宅街はまもなく尽きて、線路は深い谷間に入っていく。

右へ左へいくつかカーブをこなした後、行く手に、車窓のハイライトとして有名なベー・ド・クラランス高架橋 Viaduc de la Baye de Clarens が見えてきた。同名の谷川に架かる長さ80mの石造アーチ橋だが、対岸へ大きく右カーブしていて、蒸気列車なら先頭の機関車を視界に捉えることができる絶好の撮影ポイントだ(下注)。

*注 高架橋のたもとへアクセスできる登山道などはないため、地上での撮影は難しい。

しかし、訪れたときは、地盤の不安定化で危険になった一部の橋脚をPC造に置き換えるという大規模工事のさなかだった。高架橋全体が足場ですっぽり覆われていて、電車は仮設の橋桁の上を最徐行で通過した。

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ベー・ド・クラランス高架橋は工事中
対岸の橋脚はPC造に置換えられる
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工事前のベー・ド・クラランス高架橋(2016年)
Photo by Allmendstrasse at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

橋を後にし、反転カーブで長さ45mの短いコルノートンネル Tunnel de Cornaux をくぐり抜けると、列車は湖面を見下ろす広い牧草地の斜面に顔を出す。少しの間だが、スイスのリヴィエラ(下注)と称えられる美しい湖岸を眺めながら行く絶景区間だ。コルノー Cornaux の旧停留所を通過。車窓が再び森に覆われると、左車窓に車両基地への引込線が降りてきた。しかし往路はここで停車せず、引き続きシャンビー駅のホームまで上っていく。

*注 スイス国内では、州名を冠してリヴィエラ・ヴォードワーズ Riviera vaudoise(ヴォーのリヴィエラの意)と呼ばれる。

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レマン湖を眺める絶景区間
 

シャンビーは、見晴らしのいい急斜面にへばりつくように設けられたMOB(モントルー=オーベルラン・ベルノワ鉄道)の中間駅だ。ブロネー駅と同様、MOBの駅舎の横に、物置小屋と間違えそうな保存鉄道の小さな駅舎がある。

高架橋の徐行で時間が押していたのか、到着したのは12時23分ごろで、すぐに運転士が反対側の運転席に移動してきた。ホームに降りて写真の1枚でも撮ろうと様子を窺っていたのだが、結局、腰を上げるタイミングがなかった。

定刻の12時26分になり、再び発車。今来た道を戻り、先ほどの分岐点で車両基地側へ進路を変える。給炭作業中の蒸機を横に見ながらヤードに進入し、12時30分、車庫の前のささやかなホームがある位置で停車した。ここまでが往路だ。

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シャンビー駅
(左)地方様式のMOB駅舎(右)保存鉄道駅舎
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本線と車両基地との分岐点
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(左)車両基地にゆっくり進入
(右)ささやかなホームの前で停車
 

森に囲まれた保存鉄道の拠点は、自社の時刻表上でショーラン・ミュゼー(ショーラン博物館)Chaulin-Musée と案内されている(下注)。正面に見える5線収容の堂々たる車庫は1973年の建築だが、増え続ける車両で満杯になり、向かい側に1993年、3線収容でより奥行きのある第2車庫が完成した。それでも入りきらない貨車などがヤードの側線を埋めている。

*注 ただし、SBB公式時刻表(時刻表番号115、116)には、シャンビー・ミュゼー Chamby-Musée と記載されているので注意。

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(左)ビュッフェ併設の旅客駅舎
(右)野外テラスも盛況
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5線収容の第1車庫
 

両車庫とも見学は自由で、最終列車の発車まで時間制限もない。第1車庫に入ると、かつてフルカ峠を越えた旧 ブリーク=フルカ=ディゼンティス鉄道 Brig-Furka-Disentis Bahn (BFD) の3号機がまず目に入る。他にも、スイス最初の狭軌線だったローザンヌ=エシャラン=ベルシェ鉄道 Chemin de fer Lausanne-Échallens-Bercher (LEB) の1890年製5号機や、イタリア、フェラーラ Ferrara の近郊を走っていた路面蒸機2号機など、貴重な蒸気機関車が集結している。ブロネーで10時台に目撃したベルン市電と、11時台のMOB電車もここで休んでいた。

機関室や客車の内部にも入れるので、外見だけでなく、美しく整備された機器や内装をじっくり観察できるのがうれしい。

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(左)美しく磨かれたBFDの3号機
(右)銘板
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(左)ローザンヌ=エシャラン=ベルシェ鉄道5号機
(右)フェラーラの路面蒸機2号機
 

一方の第2車庫には、電車の旧車が多く格納されている。ラック線だったロイク=ロイカーバート鉄道 Leuk-Leukerbad-Bahn (LLB) が1967年に廃止になったとき、いち早く車両の取得に動いたのがブロネー=シャンビーで、その電動車10号と付随車22号がここにいた。レーティッシュ鉄道 Rhätische Bahn (RhB) のベルニナ線を走ったサロン・バーカー2号車も、豪華な内装がみごとに復元されている。

敷地内には、駅舎内のビュッフェや野外テラスが設置されていて、疲れたらそこで休めばいいと思っていたが、車庫2棟を一巡し、本線に出ていく列車を撮ったりしていたら、いつのまにか帰りのブロネー行き蒸気列車の発車時刻が迫っていた。

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3線収容の第2車庫
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ロイク=ロイカーバート鉄道の遺品
(左)ロイク駅ホームの案内板 (右)電動車10号
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(左)ベルニナ線のサロン・バーカー2号車
(右)気品漂う車内
 

列車を率いるのは、旧 南ドイツ鉄道会社 Süddeutsche Eisenbahn Gesellschaft のマレー式G 2×2/2 105号機だ。1967年に廃止されたシュヴァルツヴァルトのツェル=トットナウ線 Bahnstrecke Zell-Todtnau で走っていたもので、ブロネー=シャンビーに到来した最初の蒸気機関車になる。ブロネー方面へは下り坂なので、逆機(バック)運転だ。

後ろには、ベルナー・オーバーラント鉄道 Berner-Oberland-Bahn (BOB) のオープン客車と、この路線のオリジナル車である赤色塗装の1902年製ヴヴェー電気鉄道21号客車がついている。

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南ドイツ鉄道105号機、動輪2軸2対のマレー式蒸機
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ブロネーへ向かう蒸気列車
(ショーラン博物館13時40分発を撮影)
 

15時00分に発車。復路はシャンビーには立ち寄らない。分岐点のポイントまで引込線をゆっくり後退した後、進行方向を変えて本線を滑るように下っていく。トンネルを抜け、高架橋を渡り、約15分で起点のブロネーに到着した。

列車は手早く機回しを終えて、10分後の15時25分には再びシャンビーに向けて戻る。近くの踏切から、坂道を力行していく頼もしい後ろ姿を見送って、今回の保存鉄道訪問は無事終了した。

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シャンビーへ向け力行する105号機
 

■参考サイト
ブロネー=シャンビー保存鉄道(公式サイト) https://blonay-chamby.ch/

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 フルカ山岳蒸気鉄道 II-復興の道のり
 フルカ山岳蒸気鉄道 III-ルートを追って
 チュルヒャー・オーバーラント蒸気鉄道
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