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2025年7月24日 (木)

シャブレーの鉄道群-エーグル=セペー=ディアブルレ線

シャブレー公共交通エーグル=セぺー=ディアブルレ線
TPC Ligne Aigle-Sépey-Diablerets (ASD)

エーグル Aigle ~ル・セペー Le Sépey ~レ・ディアブルレ Les Diablerets 間22.34km
1000mm軌間、直流1500V電化、最急勾配60‰
1913~1914年開通

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エーグル郊外のブドウ畑の中を行く

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レ・ディアブルレ Les Diablerets は、スイス南西部、ベルン・アルプス Berner Alpen/Alpes bernoises の最西端に位置する巨大な山塊だ。最高峰はその頂点を意味するソメ・デ・ディアブルレ Sommet des Diablerets で、標高3216m。空を限る稜線の連なりは前後10kmに及び、ヴォー、ヴァレー(ヴァリス)、ベルン3州の境をなしている。

北麓の穏やかな谷間に広がる村もまた、山塊の名を取ってレ・ディアブルレと名乗る。19世紀までは山あいの寒村に過ぎなかったが、今では人気の休暇リゾートの一つに数えられている。そのきっかけを作ったのが、エーグル=セペー=ディアブルレ鉄道 Chemin de fer Aigle-Sépey-Diablerets (ASD)、現在のTPC エーグル=セペー=ディアブルレ線(以下、ディアブルレ線、下注)の開業だ。

*注 TPC(シャブレー公共交通 Transports Publics du Chablais)は、スイス・シャブレー地方の公共交通企業が合併して、1999年に設立された会社。メーターゲージ鉄道4路線と周辺のバス路線を運行する。

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レ・ディアブルレの山岳景観
右奥中央にソメ・デ・ディアブルレ、左手前の尖峰はセクス・ルージュ Scex Rouge
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シャブレー公共交通の鉄道路線網
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エーグル=セペー=ディアブルレ線周辺の地形図に鉄道のルートを加筆
Image from bergfex and OpenStreetMap, License: CC BY-SA
 

CFF(スイス連邦鉄道、ドイツ語ではSBB)のエーグル Aigle 駅前を起点とするメーターゲージの電気鉄道は、1913年12月に途中のル・セペー Le Sépey まで、1914年7月にこの村まで到達した。認可を受けた計画では、さらにピヨン峠 Col du Pillon を越えて、ベルン州のクシュタード Gstaad でモントルー=ベルナー・オーバーラント鉄道 Montreux-Berner Oberland-Bahn (MOB) に接続することになっていたが、第一次世界大戦の勃発とその後の経営難により、実現しないままに終わった。

ディアブルレ線が通過するのは、主にグランド・オー川 La Grande Eau が流れるオルモン谷 Vallée des Ormonts の南斜面だ。北側斜面の高原上にはレザン Leysin 村があって、前回紹介したエーグル=レザン線 Ligne Aigle–Leysin (AL) が通っている。つまり、ディアブルレ線とレザン線は、深い谷を隔てて向かい合っているのだ。

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ラ・クロワ峠 Col de la Croix からの眺望
右奥に見える鞍部がピヨン峠 Col du Pillon
 

しかし、登山鉄道仕様で一気に高原へ駆け上がるレザン線に対して、ディアブルレ線はラックレールを使用しない(=粘着式)。電気運転の強みを生かして勾配を最大60‰に設定し、じわじわと谷を上り詰めていく。将来のMOB線との直通運転を見据えて、同じ方式にこだわったためだというが、終点駅の標高は1155mで、起点との高度差は750mもある。いったいどのようなルートを走っているのか、エーグル駅から順に追ってみよう。

エーグル駅前のメーターゲージ線ターミナルに6本並ぶ線路のうち、ディアブルレ線の電車は中央の13・14番線に発着する。

車両番号はディアブルレ線が400番台、シャンペリー線が500番台のはずだが、行ったときにはディアブルレ線のホームに591のナンバーを付けた連節電車が停まっていた。シャンペリー線で運用されている2001年製のBeh 4/8だ。同線にシュタッドラー社の新車が入ったので、こちらに回されてきているようだ。とはいえ、みな同じ車体色なので、言われなければ誰も気がつくまい。

ディアブルレ線オリジナルの電動車BDe 4/4(401~404号)と制御車Bt(431~434号)のペアも、あとで見かけた(下注)。以前のクリーム地に青帯の塗装から緑系のコーポレートカラーにお化粧直しされたものの、1987年製なので、容貌はさすがに古色を感じさせる。

*注 エーグル滞在中には見なかったが、ディアブルレ線にも2車体連節の新車ABe 4/8(471~473号)が配備されて、BDe 4/4+Bt 編成を置き換えるもようだ。

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(左)エーグル駅ディアブルレ線ホームにいたBeh 4/8、本来はシャンペリー線の車両
(右)車内、大型荷物の置き場がある
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ディアブルレ線オリジナルのBDe 4/4
エーグル市街にて
 

さて、ディアブルレ線は日中1時間ごとに運行され、全線の所要時間はレ・ディアブルレ方面が50分、エーグル方面が54分だ。

エーグル駅を南へ出ると、路面軌道となって中心街のほうへ進んでいく。しかし、ただでさえ狭い街路をレザン線が貫いてしまったので、後発のディアブルレ線は町裏に回るしかない。その分、道路には拡幅の余地があったと見え、単線の線路には余裕の道幅だ。市街最寄りのプラス・デュ・マルシェ Place-du-Marché 停留所を過ぎると、行く手にエーグル城の上部が見えてきた。郊外へ出るにつれ、道はしだいに細くなり、路線のかつての拠点であるシャトー車庫 Château Dépot(下注)の前からは専用軌道に移る。

*注 エーグルを起点とするTPC 3線の車両の整備拠点は現在、シャンペリー線沿いに2001年に完成したアン・シャレー新車庫 Dépôt en Châlex に置かれている。

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(左)エーグル駅から街路に出た電車
(右)プラス・デュ・マルシェ停留所の待合室
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朝日を浴びるオリジナル編成、制御車 Bt434 が前に立つ
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ディアブルレ線のかつての拠点、シャトー車庫
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エーグル周辺の1:25000地形図
極端に引き回されたディアブルレ線のルートが描かれる
© 2025 swisstopo
 

ここまでがいわば助走区間だ。この後は車窓最大の見どころで、山に取り付くために、線路が極端に引き回されている。坂を上りながらブドウ畑の中で急なS字カーブを切っていくと、左車窓に先ほどのエーグル城や背後の市街地のパノラマが広がる。しかし、この景色は長くは続かない。パルク・アヴァンチュール Aigle-Parc Aventure 停留所の後で最初のトンネルを抜けた後、視界はほぼ森に閉ざされてしまう。線路の引き回しはまだ終わらず、次のヴェルシー Verschiez 停留所の手前に、もう一か所、オメガカーブによる折返しがある。

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エーグル城と市街を望むS字カーブの全貌
パルク・アヴァンチュール停留所付近にて
 

序盤の段階で懸命に高度を稼いでいるのは、これからたどるオルモン谷の側面浸食が激しく、まだ崩壊の爪が達していない中腹まで前もって上っておく必要があるからだ。すでに谷底とは200mの高低差がついているが、それでも深く切れ込んだいくつかの支谷を、高い鉄橋やトンネルによる迂回でカバーしなければならない。人家もほとんどなく、停留所もリクエストストップなので、停車することはなかった。

路線名にも入っているル・セペー Le Sépey の村は、この谷を隔てた北側にある。そのため、レ・プランシュ Les Planches 停留所の前でエーグル方面とレ・ディアブルレ方面の線路が合流し、道路併用橋のレ・プランシュ橋 Pont des Planches でオルモン谷をまたいでいく。

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(左)レ・プランシュで線路が合流
(右)道路併用橋でオルモン谷をまたぐ
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車窓から見るル・セペー村の家並み
 

ル・セペー駅は、島式ホームの頭端駅だ。列車の進行方向が変わるとともに、上下列車の交換が行われる。定時運行の場合、エーグル行きが先に到着し、レ・ディアブルレ行きが来るのを待つ。レ・プランシュ~ル・セペー間約1kmは一列車しか入れないので、後者が到着するのは前者の4分後だ。この時間差は両者の出発時刻にも適用される。駅では数人が降りた。

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頭端式のル・セペー駅
 

ル・セペーを発車すると、列車はもと来た道を戻り、橋のたもとのレ・プランシュで左(=上流側)に針路をとる。あとはまた先ほどと同じような谷斜面をたどる旅だ。しかし前半に比べれば、谷はずいぶん浅くなっている。森が途切れて視界が開けることも多くなった。

河畔林の間からグランド・オー川の流れがちらちらと見え、いつのまにか周囲はすっかり穏やかな谷間の景色に変わってきた。人家もいくらかあるので、停留所がバス停並みの間隔で設置されている。しかし、ホームや待合室があれば上等で、中には線路わきに1本の標識が立っているだけのところもある。確かにこれならバス停と変わらない。

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グランド・オー川とレ・ディアブルレ駅
 

短い鉄橋でグランド・オー川を渡ると、右手の山かげから、いよいよレ・ディアブルレの山塊が姿を見せた。圧倒的な岩壁の肩に残雪が縞模様を描いている。ルートの最終盤でにわかにアルプスの絶景が展開するのは、ベルナー・オーバーラント鉄道 Berner Oberland-Bahn (BOB) のグリンデルヴァルト到着前にどこか似ている。

まもなく周りに民家や商業施設が増えてきて、電車は、切妻屋根の木造駅舎がある終点駅のホームに滑り込んだ。

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レ・ディアブルレ駅で発車を待つBDe 4/4
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駅前からピヨン峠方面へは路線バスがある

ディアブルレ線はTPCの4路線の中で、最も人口の希薄なエリアを走っている。エーグルを別とすれば、沿線の常住人口は3000人に満たない(下注)。リゾートに向かう観光路線の性格も有するとは言え、早くから営業成績は振るわなかった。戦後もなお存続できたのは、並行道路が冬期にしばしば降雪で閉鎖されたからに他ならない。道路整備が進んだ1980年代初めには、連邦政府から鉄道のバス転換を要求されたが、州と地元自治体が抵抗してインフラ投資を実施したことで、かろうじて廃止は回避された。

*注 ル・セペーを主邑とするオルモン・デスー(下オルモン)Ormont-Dessous と、レ・ディアブルレを主邑とするオルモン・デシュ(上オルモン)Ormont-Dessus 両自治体の2023年末現在の人口は計2636人。

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レ・ディアブルレを後にするBDe 4/4
 

1999年にシャブレー公共交通 TPC となって以降は、他の路線と同じように車両や施設の更新が進められてきた。公式サイトには次なる段階として、レ・プランシュに三角線を整備して、ル・セペーを経由しない直行列車を走らせる計画や、終点からロープウェー「ディアブルレ急行 Diablerets Express」の乗り場前まで線路を600m延伸して、駅を新設する計画が挙がっている。いずれもまだ具体的な進展は見られないが、路線を活性化させたいという地元の強い意思をうかがい知ることができる。

次回は、エーグル=オロン=モンテー=シャンペリー線を訪ねる。

■参考サイト
シャブレー公共交通 https://tpc.ch/

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