ヴィヴァレ鉄道(トラン・ド・ラルデーシュ)
ヴィヴァレ鉄道(トラン・ド・ラルデーシュ)
Chemin de Fer du Vivarais (Train de l'Ardèche)
トゥルノン=サン・ジャン Tournon–St-Jean~ラマストル Lamastre 間28km
1891年開通、1968年一般運行廃止
1969年保存運行開業、2008年休止、2013年再開
![]() マレー式蒸機が率いる列車の出発 トゥルノン=サン・ジャン駅にて |
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前回紹介したヴレー急行 Velay Express とヴィヴァレ鉄道 Chemin de Fer du Vivarais は、姉妹路線と言っていい。どちらもヴィヴァレ路線網 Réseau du Vivarais と呼ばれたメーターゲージ(1000mm軌間)のローカル線群がルーツで、保存鉄道としても同時期にスタートした。
高原列車のヴレー急行に対して、ヴィヴァレ鉄道は、ローヌ川の支流ドゥー川 Le Doux がアルデーシュ高原 Plateau ardéchois に刻んだ谷をさかのぼる。列車がたどる自然景観は潤いと変化に富み、終点の町には名物料理も待っている。さらにドゥー川が注ぐローヌ川 Le Rhône の谷は、リヨン Lyon と地中海岸を結ぶ鉄道と道路が通る国土の交通軸だ。
このように景色、グルメ、アクセスの良さと期待要件が三拍子揃っていることが、人気の源なのだろう。その結果、ヴィヴァレ鉄道ではシーズン中、ほぼ毎日何らかの形で列車が動いている。列車に乗るだけでは物足りない向きには、軌道自転車のようなアクティビティさえ用意されている。北部のソンム湾鉄道 Chemin de fer de la baie de Somme と並び、フランスの代表的な蒸気保存鉄道と評価されるのももっともなことだ。
![]() ドゥー川を渡って峡谷へ |
![]() ヴィヴァレ路線網(赤色)と周辺の標準軌路線網(灰色) |
![]() ヴィヴァレ鉄道周辺の地形図にルートを加筆 Base map from bergfex and OpenStreetMap, License: CC BY-SA |
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ヴィヴァレ鉄道の列車が出発するのは、ローヌ右岸の歴史都市トゥルノン Tournon から、ドゥー川の谷を4kmほど入ったところにあるトゥルノン=サン・ジャン Tournon–St-Jean 駅(下注)だ。トゥルノンの北隣の小さな自治体サン・ジャン・ド・ミュゾル St-Jean-de-Muzols に作られたのでこの名がある。
*注 駅舎の壁面には、正式の地名を連ねたトゥルノン・シュル・ローヌ=サン・ジャン・ド・ミュゾル Tournon-sur-Rhône–St-Jean-de-Muzols の駅名標が掲げられている。
利用者はクルマで来る前提なので、近くにSNCF(フランス国鉄)線の駅はない。公共交通機関に頼るなら、ローヌ川の対岸を走るパリ=リヨン=マルセイユ線(PLM線)のタン・レルミタージュ Tain-l'Hermitage 駅で降りて、数少ない路線バス(下注)を捕まえるより方法がない。
*注 11系統ラルヴェスク Lalouvesc 行き。7~8月のハイシーズンのみ定期運行。他の期間はオンデマンド(事前予約)運行になる。https://www.archeagglo.fr
![]() 新しい出発駅トゥルノン=サン・ジャン |
もちろん昔、一般運行していた時代は、ローヌ右岸線(ジヴォール・カナル=グルザン線 Ligne de Givors-Canal à Grezan)のトゥルノン駅で標準軌列車(下注)に連絡していた。トゥルノンでは、標準軌駅の横に狭軌の駅と機関区があり、そこから北へ2.2kmの間、狭軌列車は標準軌線の片側(西側)の線路を借りて走った。そのため、ドゥー川の鉄橋の北側にあった狭軌線の分岐点までは、3線軌条になっていた(下写真参照)。
*注 運営は1937年末までPLM(パリ=リヨン=地中海鉄道 Chemins de fer de Paris à Lyon et à la Méditerranée)、1938 年の国有化でSNCFに。
一般運行は1968年10月末に全廃されたが、翌1969年6月にはサン・ジャン・ド・ミュゾル Saint-Jean-de-Muzols(下注)~ラマストル Lamastre 間で保存鉄道としての運行が開始されている。SNCFとの協議が整い、もとのトゥルノン駅から列車が出発できるようになったのは、その翌年(1970年)のことだ。
*注 現在の始発駅ではなく、標準軌線との分岐点から約300mの地点にあった旧駅。
ローヌ右岸線では、1973年に(標準軌の)旅客輸送が廃止され、以来、貨物列車だけが走る路線になってしまった。しかし、保存鉄道の列車は影響を受けずに運行され、トゥルノンは事実上、狭軌線の駅になった。
![]() (左)かつてのトゥルノン駅 左が標準軌、右がヴィヴァレ鉄道のホーム(1998年) Photo by Roehrensee at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0 (右)3線軌条区間を走る蒸気列車 Photo by Mouliric at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0 |
そのヴィヴァレ鉄道も2008年から2012年まで、財政難で運行が中断していた期間がある。復活のために、国や地方自治体の資金拠出による新体制が組まれたが、その際、路線の短縮が検討された。というのも、共用区間走行のためにインフラ管理会社(下注)に支払う高額の使用料が負担になっていたからだ。
*注 フランス鉄道線路事業公社 Réseau Ferré de France (RFF)。旧SNCFの鉄道インフラを管理する国有企業。
最終的に、旧駅と共用区間を放棄し、専用線上に新たなターミナルを整備することになった。これがトゥルノン=サン・ジャン駅で、運行が再開された2013年のシーズンから供用されている。ヴィヴァレ鉄道の名は新しい運営会社名(下注)にも残されたが、マーケティングの場ではもっぱら「トラン・ド・ラルデーシュ(アルデーシュの列車)Train de l'Ardèche」の名が使われるようになった。
*注 SNCヴィヴァレ鉄道 SNC Chemin de Fer du Vivarais が正式社名。保存団体である古典車両保存管理協会 Association Sauvegarde et gestion de véhicules anciens (SGVA) が実際の運営を支援している。
![]() トラン・ド・ラルデーシュの案内板 トゥルノン=サン・ジャン駅にて |
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人気路線だけに、ヴィヴァレ鉄道ではさまざまな列車プログラムが用意されている(以下は2024年シーズンの場合)。
全線を往復する列車は「(ル・)マストルー (Le) Mastrou」と呼ばれる。地名ラマストルの地元読みだ。トゥルノン=サン・ジャンを10時15分に出発し、終点ラマストルに12時に到着。復路は15時15分出発で、サン・ジャンに17時に帰着する。ヴレー急行の蒸気列車と同じような一日がかりの旅で、終点駅では食事休憩の時間がたっぷり確保されている。
短い旅程を希望する人には、「トラン・デ・ゴルジュ(峡谷列車)Train des Gorges」がある。一番の見どころ区間に絞って往復するもので、トゥルノン=サン・ジャンを一足早い10時に出発して、ドゥー峡谷 Gorges du Doux を走り抜ける。8km先のコロンビエ・ル・ヴュー Colombier le Vieux が折返し駅で、起点には11時30分に戻ってくる。日によっては、15時発16時30分帰着の午後便が追加または単独で出る。
終点側からも半日ツアーが出ている。「ラマストル急行 Lamastre Express」と呼ばれ、ラマストルを気動車で10時20分に出発、14km先のブシュー・ル・ロワ Boucieu-le-Roi まで行く。復路は上記マストルー号に乗って、12時にラマストルに帰着するというものだ。
![]() 旧トゥルノン駅に入線する「マストルー」号 牽くのは414号機関車(2012年) Photo by trams aux fils at flickr. License: CC BY 2.0 |
これらの列車が午前中または15時以降に集中して走るのには、理由がある。空いた時間帯が、ヴェロライユ(軌道自転車)Vélorail の走行に使われているのだ。中間のブシュー・ル・ロワ駅がその基地になっていて、上流はモンテイユ Monteil 停留所まで約8km(往復1時間45分)、下流はトロワ Troye 停留所まで約12km(往復2時間)を走ることができる。ヴェロライユは2人で漕ぐが、それ以外に最大3人まで同乗が可能だ。
いずれのコースも下流方向のみ自分で漕ぎ、上流方向へは気動車が代わりに、連結したヴェロライユを牽いて走ってくれる。客は気動車かオープン客車に乗り移って涼んでいればいい(下注)。
*注 自走は下流方向のみなので、終点に方向転換設備はない。
![]() (左)ヴェロライユ(軌道自転車)、前部座席の足もとのペダルを漕ぐ (右)移送時は車両を連結 |
また、マストルーとヴェロライユを組み合わせたプログラムもある。まずトゥルノン=サン・ジャンからマストルー号でブシュー・ル・ロワまで行く。昼食休憩の後、気動車+ヴェロライユで上流ルートを往復し、戻ってきたマストルー号でサン・ジャンに戻るという一日コースだ。
シーズン中、看板列車のマストルー号は土曜を除いて毎日のように運行されている(シーズン初めと終わりは月・木曜も休み)。その土曜日には半日コースのトラン・デ・ゴルジュが必ず走るので、ハイシーズンの7~8月ともなれば、鉄道会社は無休、フル操業の状態が続く。
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9月初旬のその日は本降りの雨になった。雲が低く垂れ込めて少し肌寒い。朝9時過ぎにトゥルノン=サン・ジャン駅の駐車場にクルマを停めた。あいにくの天気だが、すでにけっこう客が集まっている。さっそく駅舎に入って、ラマストル往復の乗車券を買い求めた。大人27ユーロ、券面に Voit 35, accès libre(35号車自由席)と手書きがある。
駅舎の並びで開いている休憩所を兼ねた鉄道博物館を訪ねた。かつて路線で使われていたサロンカーやドライジーネの復元・保存車両が据え付けられ、路線網の歴史を伝えるパネル展示が壁面を埋めている。
![]() 休憩所を兼ねた鉄道博物館 |
駅舎寄りのA番線では、マストルー号より先行するトラン・デ・ゴルジュ(峡谷列車)が出発を待っていた。先頭に立つのは、アルザスのグラッフェンスターデン Graffenstaden 社で1932年に製造された414号機だ。急カーブに対応するため走り装置を前後2基備えたマレー式蒸気機関車で、「アルザシエンヌ(アルザスの女)Alsacienne」(下注)の愛称がある。小柄ながら艶光りする車体は貴婦人と呼ぶのがふさわしい。
*注 フランス語では機関車 locomotive は女性名詞なので、通常、女性名がつけられる。
後ろには自転車を積込む有蓋貨車、それから8両の客車が連なる。そのほとんどに予約済 réservé の札が掛かっていて、席も埋まっているのに驚いた。団体旅行なら日程は決まっているから、悪天候もおかまいなしだ。
![]() (左)トラン・デ・ゴルジュを牽くマレー式414号機 (右)客車は予約客で満席 |
アルザシエンヌが定刻の10時に出て行くと、隣のB番線で待機していたマストルー号への乗込みが始まった。こちらの牽引機は色あせたディーゼルだ。マレー式を含め、他にも蒸機がいるはずだが、スタッフに聞くと現在修理中なのだという。車両は有蓋貨車と客車7両で、前の方には予約済の札が見える。
![]() (左)マストルー号はディーゼル牽引 (右)雨の中、列車に乗り込む |
![]() (左)1等車は1+2席のクッションシート (右)2等車は板張り |
後ろから2両目、指定された35号車の空席に落ち着く。10時15分、汽笛一声、まだ雨が降り続くトゥルノン=サン・ジャンを出発した。駅が設置されたのは人里離れたドゥー峡谷の入口なので、左車窓には早くもドゥー川の深い淵が迫ってくる。雄大なアーチで川を一跨ぎしている中世の石橋グラン・ポン(大橋)Grand Pont の橋台部を潜り抜け、列車は蛇行する川の谷壁に沿って進む。
![]() ドゥー川を一息にまたぐグラン・ポン(大橋) |
![]() 線路は橋台部を潜り抜ける(復路で撮影) |
少し走ると、左手に側線が現れた。トロワ Troye という停留所で、先述したヴェロライユ下流区間の終点だ。直後に左へ急カーブし、石造のアーチ橋で右岸に移った。このあたりの勾配は1:50(20‰)で、保存区間では最も急だという。眼下の河原との高低差がじわじわと開いていく。
早や色づいて秋の気配の山肌に、保存区間で唯一のモルダーヌトンネル Tunnel de Mordane のポータルが見えてきた。長さ265mで、ドゥー川の蛇行の首をショートカットしている。隣に同じ名の発電所施設も見える。
![]() モルダーヌトンネルと発電所 |
トンネルの闇を抜けると、川を跨ぐ高い橋脚のアーチ橋が目を引くが、これは先ほどの発電所に水を送っている水路橋だ。少し先に行くともう1本、同じ導水路の、より低い水路橋が現れる。ここで左に大きく回って、クローゼル Clauzel 停留所を通過。近くにドゥー川を堰き止めて発電用の水を取水しているダムがある。
しばらく行くとまたアーチ橋をくぐる。D234号線の道路を渡しているエトロワ(狭間)橋 Pont des Étroits だ。そしてこれを境に、あれほど険しかった谷もいくらか表情を和らげる。まもなく列車は、森に包まれたコロンビエ・ル・ヴュー駅(下注)に入っていく。
*注 正式駅名はコロンビエ・ル・ヴュー=サン・バルテルミー・ル・プラン Colombier-le-Vieux–Saint-Barthélemy-le-Plain。最寄りの二つの集落名をつなぎ合わせたもの。
![]() (左)トンネルを抜けると見える水路橋 (右)上流の、より低い水路橋、右端は導水路 |
![]() (左)早や秋の気配のドゥー峡谷 (右)エトロワ橋のたもとを通過 |
15分前に先行したトラン・デ・ゴルジュはここが折返し駅だ。現在10時45分。復路発車は11時のはずだが、すでに機関車はトゥルノン=サン・ジャン側につけ直されていて、出発の準備は完了したようだ。駅には転車台が設置され、機関車の方向転換がプログラムの見せ場の一つに挙げられている。駅舎の周りにいるのは、それを楽しんでこれから帰る人たちだ。
![]() コロンビエ・ル・ヴュー駅で復路の出発を待つ414号機 |
コロンビエ駅を後に、列車は牧草地や畑も混じるようになった谷の中をさらに進んでいく。11時ごろ、次のブシュー・ル・ロワ Boucieu-le-Roi 駅に到着。ここでは15分間停車する。蒸気機関車なら給水作業が見学できるのだろうが、残念ながらディーゼルにはそのチャンスがない。
ホームの反対側では、角ばった気動車が、正面にCFCのロゴをつけて停車している。2016年にコルシカ鉄道から到来したX5000形だ。後ろには、クラシックカーに似せた5人乗りヴェロライユがずらりと連なる。そぼ降る雨をものともせず、合羽を着込んで乗り込む人たちがいた。下流コースのスタートはこの後すぐだ。
![]() (左)ブシュー・ル・ロワ駅のX5000形 (右)ヴェロライユに乗り込む人たち |
11時15分にブシュー・ル・ロワを発車。しばらくはまた森と畑のゆったりした景色だが、そのうち谷幅が狭まってきた。蛇行する渓谷に、撮影地として知られた6連アーチのバンシェ高架橋 Viaduc du Banchet が架かる。対岸に移ってすぐ、石橋の跨線橋下でアルルボスク Arlebosc 停留所を通過した。
左車窓の川景色はいくらも続かず、また橋(ガルニエ高架橋 Viaduc du Garnier)で川を渡る。序盤のような息をのむ峡谷ではないが、自然のまま流れるドゥー川に沿う列車旅は、景色が刻々と変化して飽きることがない。
![]() アルルボスクの村を背にするバンシェ高架橋(別の日に撮影) |
![]() (左)アルルボスク停留所(別の日に撮影) (右)アルデーシュ高原の風景 |
ル・プラ Le Plat 停留所を見送り、川に付き合ってまた大きく北へ迂回していく。朽ちかけたモンテイユ停留所の小屋の上手には、ヴェロライユ上流コースの終点になっている待避線がある。その傍らに、45ème parallèle(北緯45度)と書かれた看板が立っていた。北緯45度は、北極と赤道の中間を意味する。日本での通過域は北海道の北端近く(下注)なので感覚が狂うが、フランスでは、45度以南はミディ(南部)Le Midi という意識だ。
*注 幌延町の日本海岸と、枝幸町のオホーツク海岸にモニュメントがある。
![]() (左)北緯45度の看板 (右)ヴェロライユ終点の待避線 |
間もなく左車窓に並木道が沿うようになり、周りの建物もちらほら増えてきた。列車は速度を落とし、側線にさまざまな車両が留置されたラマストル駅の構内に入っていく。どこか懐かしい風情が漂う駅舎の前に、定刻12時少し前に到着。客が降りて空いた列車の横を、ディーゼル機関車が機回しされていった。
復路の出発は15時15分だ。ラマストルは田舎町でさほど見るものもないが、評判のいいレストランがいくつかあるという。雨も上がったことだし、アルデーシュ地方の名物料理クリーク Crique でも食べて、午後のひと時をゆっくり過ごすことにしよう。
![]() (左)ラマストル駅(別の日に撮影) (右)終点に到着した列車 |
写真は特記したものを除き、2024年9月に現地を訪れた海外鉄道研究会の田村公一氏から提供を受けた。ご好意に心から感謝したい。
■参考サイト
Train de l'Ardèche https://www.trainardeche.fr/
Sauvegarde et Gestion de Véhicules Anciens (SVGA) https://train-du-vivarais.com/
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