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2025年1月17日 (金)

ゴーサウ=ヴァッサーラウエン線

アッペンツェル鉄道ゴーサウ=ヴァッサーラウエン線 AB Bahnstrecke Gossau SG–Wasserauen

ゴーサウSG~ヴァッサーラウエン間32.10km
軌間1000mm、直流1500V電化
1875~1913年開業

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ゴーサウ駅に停車中の「ヴァルツァー Walzer」

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ザンクト・ガレン St. Gallen から西行きSバーンで3駅目のゴーサウ Gossau SG(下注)。駅舎寄りの標準軌線ホームから側線を隔てて少し離れた場所に、1本の島式ホームがある。10数両分の余裕がある標準軌側に比べて格段にコンパクトで、ローカル私鉄の雰囲気が漂う。

*注 Gossau は(ゴッサウではなく)ゴーサウと発音する。SG はザンクト・ガレン州の略。他州の同名の町と区別するため。

アッペンツェル鉄道のゴーサウ=ヴァッサーラウエン線 Bahnstrecke Gossau SG–Wasserauen は、長さ32.1kmの電化メーターゲージ線だ。このホームから出発し、ヘーリザウ Herisau、ウルネッシュ Urnäsch、アッペンツェル Appenzell といった町を経て、ヴァッサーラウエン  Wasserauen に至る。個性派ぞろいの同社の路線群を見てきた目には、取り立てて特色もなさそうに映るが、実は歴史が最も古く、ルーツと言うべき路線だ。

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ゴーサウ駅地下道入口
駅名標に両社のロゴが並ぶ
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ゴーサウ=ヴァッサーラウエン線周辺の地形図にルートを加筆
ゴーサウ~アッペンツェル間
Base map from bergfex and OpenStreetMap, License: CC BY-SA
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同 ウルネッシュ~ヴァッサーラウエン間
Base map from bergfex and OpenStreetMap, License: CC BY-SA

開業したのは1875年4月(下注)、蒸気運転でスタートした。ただし、ルートは現在とは違い、ゴーサウのひと駅東のヴィンケルン Winkeln が起点で、ヘーリザウ(初代)を終点とする約4kmの小路線だった(下図1875年の項参照)。

*注 同年9月に開業したロールシャッハ=ハイデン登山鉄道 Rorschach-Heiden-Bergbahn より5か月早い。

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ゴーサウ~ヘリザウ間のルート変遷
 

ヘーリザウは、アッペンツェル・アウサーローデン準州 Appenzell Ausserrhoden の行政機関が集まる事実上の州都だ。当時、スイス東部ではザンクト・ガレンに次ぐ人口があった。しかし、高台に位置するため標準軌幹線(下注)が経由せず、町では連絡鉄道を求める声が高まっていた。

*注 1856年に開通したヴィンタートゥール=ザンクト・ガレン線 Strecke Winterthur - St. Gallen。1902年の国有化でSBB(スイス連邦鉄道)の一路線になった。

「スイス地方鉄道会社 Schweizerische Gesellschaft für Localbahnen (SLB)」が、鉄道建設に名乗りを上げる。バーゼル Basel に拠点を置き、同じように鉄道の恩恵を受けていない複数の地域で支線開設を目論む会社だった。その手始めがヘーリザウだったが、収益性の理由で、ウルネッシュとアッペンツェルへの延伸も計画に盛り込まれた。

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東側から望む初代ヘーリザウ駅と市街地(1910年以前)
Photo from wikimedia. License: public domain
 

1875年4月のヘーリザウ開業に続いて、同年9月にはウルネッシュまで完成して、運行が始まった。初代のヘーリザウ駅は、市街地の前に設けられた頭端駅だ。そのため、到着した列車は坂下の信号所までスイッチバックし、改めてウルネッシュへ向かった。

しかし、追加の資金調達が不調に終わり、会社が抱いていた他地域への拡張構想は頓挫する。結局、スイス地方鉄道会社は、1886年のアッペンツェル延伸開業を前に、アッペンツェル鉄道 Appenzeller Bahn と改称し、地元の鉄道会社として存続するしかなかった。

ヘーリザウの町にとって、次の鉄道はザンクト・ガレンから到来した。1910年に開業したボーデンゼー=トッゲンブルク鉄道 Bodensee-Toggenburg-Bahn(現 スイス南東鉄道 Schweizerische Südostbahn (SOB))だ。新駅の設置によりヘーリザウは、標準軌線でザンクト・ガレンと直接結ばれることになった。

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SOB線ジッター川橋梁、高さ99m
 

アッペンツェル鉄道にとってこれは競合路線であり、かつ自社線は遠回りで乗換えを要するため、圧倒的に不利な状況だ。すでに1904年から、ガイス Gais 経由でアッペンツェルに到達したアッペンツェル路面軌道 Appenzeller Strassenbahn(下注)によって、終点駅でも客の争奪戦が発生していて、二重の打撃となることは避けられなかった。

*注 現 ザンクト・ガレン=ガイス=アッペンツェル線 St. Gallen-Gais-Appenzell-Bahn。

これを見越してアッペンツェル鉄道は、起点をヴィンケルンからゴーサウに移す認可を申請していた。ゴーサウでの接続の利点は、ヴィンタートゥール Winterthur など西方から近いことはもとより、支線によってヴァインフェルデン Weinfelden など北側からの集客も見込める点だ。後述のようにアッペンツェル鉄道は、ゼンティス Säntis への登山ルートとしても注目されていたので、域外からの観光客の誘致は重要課題だった。

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現在のゴーサウ駅SBB線ホーム
 

町裏の浅い谷に設けられた標準軌ヘーリザウ駅とともに、アッペンツェル鉄道の新駅も、谷間をならして造られた。両駅は、駅前通りを挟んで隣接していた。これにより、初代ヘーリザウ駅は廃止された。列車がスイッチバックしていた信号場も新駅より10mほど高みにあったために使えず、前後区間のルートが付け替えられた(上図1910年の項参照)。

ゴーサウ~ヘーリザウ新線は、それから3年遅れて1913年に開通した(下注、1913年の項参照)。これに伴い、ヴィンケルンからの旧線は廃止された。35‰の勾配で谷を大きく巻きながら上っていた旧線の一部は、現在小道となって残っている。

*注 その際、手狭だった標準軌ゴーサウ駅も300m南東へ移転し、前後区間が付け替えられた。

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新旧1:25,000地形図比較 ヴィンケルン付近
(左)1904年、谷を大きく巻いて上る旧線
(右)2024年、旧線の一部が小道として残る
© 2025 swisstopo
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同 ヘーリザウ付近
(左)1904年、市街地の前に設けられた初代ヘーリザウ駅
(右)2024年、新駅(二代目)はSOB線の駅に隣接
© 2025 swisstopo
 

この時期、根元区間の付け替えだけでなく、末端部でも重要な拡張が行われた。アッペンツェル~ヴァッサーラウエン間だ。この区間は観光鉄道として、1912年にゼンティス鉄道 Säntisbahn (SB) の名で開業している。

ゼンティス山はアルプシュタイン山地 Alpsteinmassiv の主峰で、標高2502m。ボーデン湖北岸のドイツ領からもよく見えるため、スイス東部で最も有名な山の一つだ。アルプス各地にラック登山鉄道が次々と建設されていた時代、ゼンティスでも同様の構想が繰り返し提起された。この鉄道も山頂を目指していたものの、山麓の平坦区間を造ったところで第一次世界大戦が勃発し、夢は実現しなかった。

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ヴァッサーラウエン駅の終端部
 

ゼンティス鉄道は最初から電化されていたが、アッペンツェル鉄道の電化は遅れて1933年のことだ。そして第二次世界大戦を経た1947年にはゼンティス鉄道を吸収、1988年には長年ライバルだったアッペンツェル路面軌道(下注)とも合併して、現社名のアッペンツェル鉄道(複数形)Appenzeller Bahnen となった。

*注 合併当時の名称は、前者がアッペンツェル=ヴァイスバート=ヴァッサーラウエン鉄道 Appenzell-Weissbad-Wasserauen-Bahn (AWW)、後者がザンクト・ガレン=ガイス=アッペンツェル=アルトシュテッテン鉄道 St. Gallen-Gais-Appenzell-Altstätten-Bahn (SGA)。

SBB(スイス連邦鉄道)のゴーサウ駅舎は、移転改築された1913年という時期を象徴するように、曲線を多用したアールヌーボー風の外観が目を引く。ゴーサウ=ヴァッサーラウエン線は、長い地下道を渡ったメーターゲージ線専用の11番線から出発する。30分間隔の運行で、終点までの所要時間は51分だ。

電車はすでにホームにいた。2018年に就役したシュタッドラー・レール Stadler Rail 製の ABe 4/12 だ。国内の他路線でもときどき見かける3車体連節の部分低床車で、ここでは「ヴァルツァー Walzer」と呼ばれている。全体に赤をまとい、窓枠上部に白帯を巻くが、電動車の先頭部だけが黄帯で、1等室があることを示している。

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アールヌーボー風の外観をもつゴーサウ駅舎
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現在の主力車両「ヴァルツァー」(2018年)
Photo by Plutowiki at wikimedia. License: CC0 1.0
 

すいた車内に入り、発車を待っていると、向こうのSBBホームに電車が到着した。チューリッヒから来たIR(インターレギオ)だ。すると少し間を置いて、リュックを背負った人たちが地下道の階段から大勢現れ、ヴァルツァーに乗り込んできた。今日は金曜日だが、レジャー需要は思った以上に大きいようだ。

10時21分に発車。SBB線と工場群を左に見ながら徐々に高度を上げていく。森を抜けると、SOB(スイス南東鉄道)線の上を跨いで、ヘーリザウ駅に停車した。事実上の州都の玄関駅だが、乗降は多くなかった。

ここで列車交換し、この先はアッペンツェラーラントの山間地に入る。路上や道端こそ走らないが、19世紀の軽便規格で建設された線路なので、右に左に細かいカーブが連続する。最新の電車でも線形には勝てず、速度は一向に上がらない。

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ヘーリザウ駅(2010年)
Photo by Markus Giger at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

ウルネッシュタール Urnäschtal(ウルネッシュ川の谷)に出て、ヴァルトシュタット Waldstatt に停車。一見広くなだらかな谷間だが、川が比高60m以上の深い渓谷を刻んでいる。線路は道路とともに、切れ込んだ支谷を避けて、大回りしながら南へ進む。集落どころか、ぽつんぽつんと農家があるばかりで、リクエストストップの小駅は通過してしまった。

ヴァルトシュタットから10分ほど走って、ウルネッシュに停車した。リュック姿の客が数組ホームに降りた。ゼンティス山頂へはロープウェイが通じているが、その乗り場シュヴェーガルプ(シュヴェークアルプ)Schwägalp へ行くポストバスがこの駅前から出ている。

反対側から、ゴーサウ行きの対向列車が入線してきた。それを待って出発。穏やかな流れになったウルネッシュ川を渡ると、列車は左に急旋回して、今来た谷を戻る形になる。川向うの線路を、今さっき行き違った列車が走り去るのが見えた。

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ウルネッシュで行違った列車が対岸を走り去る
 

丘をゆっくり上って、クローンバッハ川 Kronbach の谷へ。視界が開けてくると、ヤーコプスバート Jakobsbad をはじめとするウィンターリゾートのゴンテン Gonten 地区を貫いていく。地形的には、ウルネッシュとアッペンツェルの間にある谷中分水界だ。ゴンテン~ゴンテンバート Gontenbad 間にある州道の踏切付近が標高905mで、この路線の最高地点になる。

ゴンテンバートからは下り坂に転じて、美しい緑の牧野を愛でながら走る。まもなく左車窓、行く手にアッペンツェルの町が見えてきた。町は、標高約780mの高地に位置する。グラールス州とともに今なおランツゲマインデ(民会)による直接民主制を維持していることで知られるアッペンツェル・インナーローデン準州 Appenzell Innerrhoden の州都だ。その玄関駅に11時00分到着、ここで最後の列車交換がある。

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車窓に映るアッペンツェル郊外の牧野風景
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アッペンツェル市街ハウプトガッセ Hauptgasse
熊を象った州旗のある建物は市庁舎
 

駅舎は1886年開業時の建築だが、1930年代に正面の外観が改修されている。現在見られる寄棟屋根と独特の曲線破風はこのときに造られた。構内は2面4線で、駅舎側からザンクト・ガレン=ガイス=アッペンツェル線(1番線)、ホームのない通過線(2番線)、島式ホームのゴーサウ=ヴァッサーラウエン線(3・4番線)の順で並ぶ。

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アッペンツェル駅
(左)駅舎正面(右)ゴーサウ=ヴァッサーラウエン線ホーム
 

拠点駅とはいえ、停車時間は長くない。乗降が終わるとすぐにまた動き出した。残り区間は、旧ゼンティス鉄道のルートだ。いっとき左車窓をザンクト・ガレン=ガイス=アッペンツェル線が並走するが、ジッター川を渡るためにまもなく左に離れていく。右手には2025年2月完成予定で、新しい車両基地アッペンツェル・サービスセンター Servicezentrum Appenzell が目下建設中だ。

河畔林を伴うジッター川を渡り、2車線の州道に沿って走る。勾配は緩やかだが、相変わらずカーブの多いルートだ。行く手に、屏風のようにそびえるアルプシュタインの岩壁が見えてきた。クーアハウスがホテルとして残る古い保養地ヴァイスバート Weissbad に停車。やがて家並みが消え、谷が狭まり、いよいよ両側を急峻な岩山が取り囲み始めた、と思ったら、もう終点だった。

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ヴァッサーラウエン駅
(左)レジャー客が多数降りる(右)岩山が取り囲む谷間の終点
 

ドアが開くと、車内に残っていたリュック姿の多くの客が一斉にホームに降り立った。ヴァッサーラウエン Wasserauen(下注)は緑の谷のどん詰まりで、もはや周りにまとまった集落はない。駅の利用者はほぼレジャー客だ。

*注 ヴァッサーラウエンは水のある Wasser +麗しい草地 Aue を意味する。語の成り立ちを尊重してヴァッサーアウエンとも書かれる。

ラック鉄道は実現しなかったが、すぐそばに、断崖を縫う展望トレールとガストハウスで有名なエーベナルプ(エーベンアルプ)Ebenalp へ上るロープウェーがある。また、徒歩で山奥にたたずむゼーアルプ湖 Seealpsee へ向かう人も多い。晴れた朝の山岳地帯に見られる荘厳な空気が、谷底のこのあたりにまで降りてきている。私のように6分で折り返す電車で帰ってしまったのでは、あまりにもったいない。

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(左)駅前を流れ下るシュヴェンデバッハ川 Schwendebach
(右)エーベナルプに上るロープウェー
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エーベナルプのベルクガストハウス・エッシャー Berggasthaus Aescher(2015年)
Photo by kuhnmi at wikimedia. License: CC BY 2.0
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ゼーアルプ湖、正面右奥の雲間にゼンティス山頂が覗く(2020年)
Photo by Giles Laurent at wikimedia/flickr. License: CC BY-SA 4.0
 

■参考サイト
アッペンツェル鉄道 https://appenzellerbahnen.ch/
アッペンツェル鉄道博物館 Museum Appenzeller Bahnen
https://www.museumsverein-appenzeller-bahnen.ch/

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アッペンツェル鉄道路線図(フラウエンフェルト=ヴィール線を除く)
 

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