新線試乗記-大阪メトロ中央線、夢洲延伸
大阪メトロ(Osaka Metro)中央線は、大阪市街地の中心部を東西に貫く地下鉄線だ。従来の運行区間はコスモスクエア~長田(ながた)間17.9km。長田で近鉄けいはんな線と相互乗入れし、列車は生駒(いこま)山地を越えてその終点、学研奈良登美ヶ丘(がっけんならとみがおか)駅まで直通運転されている(下注)。
*注 本ブログ「新線試乗記-近鉄けいはんな線」参照。
2025年1月19日に、起点側のコスモスクエアから夢洲(ゆめしま)に至るひと駅間3.2kmが延伸開業して、全長は21.1kmになった。夢洲は大阪湾を埋め立てた人工島の一つで、今年4月から10月まで開催される大阪・関西万博の会場がある。会期中、メトロ中央線は鉄道系で唯一の交通手段になる予定だ。
![]() 夢洲駅に入線する400系電車 |
![]() 大阪メトロ路線図 緑のラインが中央線、夢洲は左端 |
![]() 夢洲延伸を告げるポスター |
◆
新線ができると乗らずにはいられない性格につき、開業3日後にさっそく出かけた。新規区間だけではあまりに短いので、乗入れ先の近鉄生駒駅からけいはんな線と中央線を乗り通すことにする。
生駒駅は、近鉄の主要路線の一角である奈良線や、その支線の生駒線との接続駅だ。奈良線ホームの北側に並行して、けいはんな線の島式ホーム1・2番線がある。けいはんな線は地上に敷かれた給電レールから集電する第三軌条方式なので電柱や電線がなく、隣の奈良線に比べて、すっきりした景観だ。
![]() 生駒駅東方 右隣の奈良線と比べ、すっきりした景観のけいはんな線 |
平日日中の電車は、オフホワイト地にオレンジと水色の帯を巻いた近鉄の7000・7020系と、ドア周りが緑の縦縞になった大阪メトロの新型400系がおよそ交互にやってくる(下注)。緑は中央線のシンボルカラーで、沿線にある大阪城公園の森をイメージしているという。ただし、大阪城のあたりでは地下を走っているので、乗客にとってはあくまで心に浮かぶイメージだ。
*注 このほか、御堂筋線・谷町線の30000系と同系統で、水玉模様をあしらった新製車両(30000A系)も、万博終了までの間、中央線で運用されている。
![]() (左)大阪メトロ400系 (右)近鉄7000系 |
この400系は、2023年にデビューしてしばらく経つが、正方形を隅切りしたユニークな顔立ちが今でも目を引く。6両編成のうち1両だけ、車内に1人掛けのいわゆるぼっち席が並んでいるのもおもしろい。居心地がいいので、うっかり乗り過ごしてしまいそうだ。座席定員がロングシート車より少ないから座れる確率は低くなるが、すいていたらぜひ試してみたい。
それに対して目になじんだ従来車20・24系はもう見かけない。仲間が多く走っている谷町線などに転出してしまったそうだ。きっと車体の塗色も変更されて、もといた路線の面影は跡形もなくなっていることだろう。
![]() 400系車内 (左)5人掛けロングシート車 (右)1人掛けシート車、扉間に向き固定で3席配置 |
東から坂を上って、電車がホームに入ってきた。乗り込むと、当たり前のように車内アナウンスが夢洲行きと告げるが、どこかのレジャーランドのような響きで、まだ聞き慣れない。生駒駅を後にすると、間髪を置かず生駒トンネルに突入した。奈良・大阪府県境の生駒山地を貫くこのトンネルは4737mで、近鉄の路線網では、大阪線の新青山トンネル(5652m)に次ぐ長さがある。
4~5分かけて闇を抜け出し、新石切(しんいしきり)駅に停車。ここは高架駅で、後ろを振り返ると、屏風のように立ちはだかる生駒山を仰ぎ見ることができる。しかし、明かり区間は約3km強に過ぎない。荒本(あらもと)駅の手前で、電車はまた地下へ潜ってしまう(下注)。
*注 地形図では吉田(よした)駅の手間でトンネルに入るように描かれているが、実際は阪神高速の下(3階建ての2階部)になるだけでまだ高架上にある。
![]() 新石切駅から生駒トンネル西口を望む 背後は生駒山 |
けいはんな線は、地下鉄と同じ運行パターンで、普通列車しかない。奈良線の快速急行なら、生駒から鶴橋までノンストップの16分だが、こちらは各駅停車だ。そして長田駅で大阪メトロにバトンが渡される。
長田駅の周辺は、道路交通の要衝だ。けいはんな線の上を通っている阪神高速13号東大阪線・国道308号(中央大通)と、南北の幹線道路である近畿道・中央環状線とが交わる大規模な東大阪ジャンクションがある。しかし、長田駅のたたずまいは近隣の中間駅と何ら変わらない。特異な点があるとすれば、会社境界なので乗務員交替があることと、地下コンコースに両社の券売機が仲良く並んでいることだ。
![]() 長田駅地下コンコース 近鉄と大阪メトロの券売機が並ぶ |
高井田(たかいだ)は、2008年のJRおおさか東線開業(下注)で乗換駅になった。車内の乗客が目に見えて増えてくるのもこのあたりからだ。次の深江橋(ふかえばし)駅との間に行政界があり、東大阪市から大阪市に移る。緑橋(みどりばし)から弁天町(べんてんちょう)までは8駅連続でさまざまな鉄道路線と交差しているので、客の入れ替わりも激しくなる。
*注 「新線試乗記-おおさか東線、放出~久宝寺間」参照。
森ノ宮(もりのみや)駅で、JR大阪環状線の内側、大阪の中心市街地に入る。まだしばらく外の景色は見えないので、時間があるなら下車して、シンボルカラーの由来になった大阪城公園へ足を向けるのもいいだろう。地下道から階段を上がれば、園路と森の向こうに大阪城の豪壮な天守閣が姿を現す。西へ歩けば、南側に難波宮(なにわのみや)史跡公園も広がっていて、周辺は散策にいいところだ。
![]() 森ノ宮駅 (左)JRとメトロの出入口(右)中央線ホーム |
![]() 大阪城公園、正面に天守閣が見える |
谷町(たにまち)線と交差する谷町四丁目から先、中央線は江戸期から続く旧市街地を貫いていく。平面的な地図ではよくわからないが、立体的に見ると鉄道と道路の3層構造で、地下に中央線、地上に中央大通、そして高架上に阪神高速が通っている。1960年代に都市計画路線として一体的に建設された東西の交通軸だ。
堺筋本町(さかいすじほんまち)駅から本町(ほんまち)駅にかけての船場(せんば)地区が最も大掛かりで、中央大通の上下線の間を巨大な再開発ビルである船場センタービルが陣取り、その上に阪神高速と中央大通の立体交差が載る。ビルには地下階もあるので、それを避けて中央線の上下線の間隔がかなり開いている。本町駅では御堂筋線と四つ橋線が交差するから、線内で乗換客が最も多く、広くなった構内が効果を発揮する。中央線西行の混んだ車内もここで一気にすく。
![]() 本町駅構内図 |
![]() 船場センタービル 御堂筋との交差点にて |
次の阿波座(あわざ)駅を出ると、電車はようやく明かり区間に飛び出す。ビジネス街の中心部とはまた雰囲気が違い、九条駅の周りに延びるアーケード商店街には、下町の生活感が漂っている。従来の改札は東側だが、2009年に阪神なんば線(下注)が開通した際、乗換え用に西口もできた。
*注 「新線試乗記-阪神なんば線」参照。
弁天町駅では、再びJR大阪環状線と出会う。環状線も高架上なので、さらにその上を乗り越えなくてはならない。かつてここにJR西日本の鉄博である交通科学博物館があり、鉄道ファンの巡礼地だったのを思い出す。京都鉄博の開館に伴って2014年に閉鎖され、跡地は現在、駐車場だ。ホームからインバウンド客が多数乗り込んできた。この先はベイエリアで、1961年、中央線で最初に開通した区間になる(下注)。
*注 中央線は、1961年に大阪港~弁天町間が先行開業し、1964年から69年にかけて深江橋まで段階的に追加開業した。長田延伸は1985年。
![]() (左)九条商店街ナインモール (右)弁天町駅ホーム |
朝潮橋(あさしおばし)駅ではホームの西端から、カーブを曲がって接近してくる電車がきれいに捉えられる。中央線では一番の撮影地かもしれない。
天保山(てんぽうざん)界隈がベイエリアの人気スポットになったのは1990年、巨大水族館の海遊館(かいゆうかん)などハーバービレッジの観光施設が開業してからだろう。大阪港(おおさかこう)駅はその玄関口として、休日を中心に今も多数の客が利用する。弁天町で乗ったインバウンド客もほとんどここで下車した。彼らのお目当ては、海遊館ではなく天保山マーケットプレースの商業施設らしい。
![]() 朝潮橋駅西端のカーブ |
![]() コスモスクエア海浜緑地からの眺め 正面に湾岸線天保山大橋、右手前のカラフルな建物が海遊館 |
大阪港駅を出ると、電車はまた地下に潜っていく。海底トンネルを通って咲洲(さきしま)のコスモスクエア駅へ。この駅の中央線ホームは地下2階にあり、その上の地下1階は、接続する「ニュートラム」のホームになっている。ニュートラム、すなわち大阪メトロ南港ポートタウン線は、住宅街や倉庫群が広がる南港地区を巡って、四つ橋線の終点、住之江公園(すみのえこうえん)駅まで行く新交通システムだ。大阪港で車内に残った客もほとんどここで降り、多くは地下1階行きのエスカレーターで上がっていった。
![]() コスモスクエア駅 |
![]() (左)同 ニュートラム乗り場 (右)小柄なニュートラム車両 |
大阪港駅を終点にしていた中央線の電車がコスモスクエアに到達したのは1997年(下注)。西側のさらなる延伸はそれ以来だ。各車両とももう3~4人しか乗っていない。電車はすぐにコスモスクエアを出発し、「次は夢洲、終点です」と自動アナウンスが車内に響く。かぶりつきで見ていると、はじめ左へ、その後右へカーブを続けて直線ルートに入った。夢咲トンネルの海底横断区間だ。最後にもう一度右カーブして、夢洲駅1面2線の頭端ホームに進入していく。その間約4分だった。
*注 延伸当時は大阪市交通局の路線ではなく、第三セクターの大阪港トランスポートシステム(OTS)が運行していた。運行が市交通局に移管されたのは2005年。
![]() 夢洲駅 (左)地下2階ホーム(右)地下1階コンコース |
ホームに降り立つと、可動柵はもとより壁や柱まで黒づくめのなか、折り紙風の凝った天井パネルと、床面から立ち上がる白色光の枠が迎えてくれた。エスカレーターで上った改札階は広々として、長さ60mという大型のデジタルサイネージが万博関連の画像を映している。横一線に10数台並ぶ壮観な改札機の列は、北陸新幹線の敦賀駅を思わせる。
改札を抜けると左手に、地上に上がる大階段と上下2本のエスカレーターが現れた。動線はシンプルで、初めてでも迷うことはない。大空の下に出ると、何かと話題になる木造大屋根リングが右奥にちらりと見え、左手には入出場のための東ゲートがあった。しかし一帯は当然のことながら工事中で、関係者以外立入り禁止だ。
![]() (左)地上への大階段 (右)地上出入口 |
![]() (左)東ゲート (右)右奥に大屋根リングの一部 |
開業したてなので、私のほかにもスマホやカメラを掲げた見物客が多数うろうろしている。同じ電車に乗っていた人たちもその目的だったに違いない。デジタルの列車案内には、400系の姿を借りて「EXPO 2025まであと81日」と表示されていた。開幕に向け急ピッチで準備が進められる中、観客の最大の輸送手段にめどが立ったことはまことに喜ばしい。ただ肝心の博覧会の内容までは十分理解できておらず、3か月後にここを再訪するかどうかは、まだ決めかねている。
■参考サイト
Osaka Metro https://subway.osakametro.co.jp/
★本ブログ内の関連記事
関西圏の新線
新線試乗記-おおさか東線、新大阪~放出間
新線試乗記-北大阪急行、箕面萱野延伸
最近のコメント