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2024年9月

2024年9月28日 (土)

ドイツの保存鉄道・観光鉄道リスト-南部編 II

前回に引き続き、ドイツ南部の保存鉄道・観光鉄道から主なものを紹介する。

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シュヴァルツヴァルト線ホルンベルクの
ライヘンバッハ高架橋 Reichenbachviadukt(2021年)
Photo by Joachim Lutz at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

ドイツ「保存鉄道・観光鉄道リスト-ドイツ南部」
http://map.on.coocan.jp/rail/rail_germanys.html

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「保存鉄道・観光鉄道リスト-ドイツ南部」画面

まずは市内・郊外電車の見どころについて。

項番4 ザンクト・ペーター保存路面軌道車庫 Historisches Straßenbahndepot St. Peter

ニュルンベルク Nürnberg ~フュルト Fürth 間は、日本でいえば新橋~横浜間だ。1835年、バイエルン州中部の主要都市ニュルンベルクと、西に隣接するフュルトの町を結んでドイツ最初の鉄道、ルートヴィヒ鉄道 Ludwigseisenbahn が開通した。

それと並行して1881年には馬車軌道も敷かれる。これが後に電化されて、最盛期に73kmの路線網を拡げるニュルンベルク=フュルト路面軌道 Nürnberg-Fürther Straßenbahn に成長した。主要ルートは1972年以降、地下鉄 U-Bahn に置き換えられていったものの、現在も38kmの路線網を維持している。

路線縮小に伴い、不要となった市内東部のザンクト・ペーター車両基地 Betriebshof St. Peter で、1985年からニュルンベルク=フュルト路面軌道友の会 Freunde der Nürnberg-Fürther Straßenbahn が交通局と協力しながら、トラム博物館を運営している。

保存されている旧車両は計32両にのぼる。毎月第1土・日曜の開館で、当日は「15系統ブルク環状線 Linie 15 Burgringlinie」と称する古典電車の市内ツアーが1時間ごとに出発する。一般運行されない旧市街北側、ピルクハイマー通り Pirckheimerstraße の休止線も通過する興味深いコースだ。

これとは別に、中央駅 Hauptbahnhof 発着でシーズンの毎週月曜に催される「13系統市内環状運行 Linie 13 Stadtrundfahrten」というガイドツアーもある。わざわざ月曜日に走るのは、文化施設の休館日でも楽しめるように、という配慮だそうだ。

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ザンクト・ペーター保存路面軌道車庫のT4 200形(2019年)
Photo by Christian Mitschke at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

項番26 シュトゥットガルト路面軌道博物館 Straßenbahnmuseum Stuttgart

路面軌道の保存運行では、シュトゥットガルトの取組みも注目に値する。この都市の路面軌道網はもともとメーターゲージで運行されていたが、1985年以降、標準軌のシュタットバーン(都市鉄道)Stadtbahn への転換が進められた。長年に及ぶ更新事業が完了し、路面電車の一般運行が全廃されたのは2007年のことだ。

転換は系統ごとに実施されたので、一時的にメーターゲージと標準軌の車両が同じ区間を共有することもあった。3線軌条とされたそうした区間が、全面転換後も一部残され、シュトゥットガルト路面軌道博物館の保存運行を可能にしている。

博物館は、市内バート・カンシュタット Bad Cannstatt の旧 車両基地にあり、2009年にオープンした。引退した路面車両35両が保存されていて、毎日曜にオールドタイマー線 Oldtimerlinie と称して、2本のルートで保存運行が行われる。

21系統「中心街循環 Innenstadtschleife」は、ミッテ Mitte と呼ばれる市内中心部を巡り、所要35分で博物館に戻ってくる。もう一つの23系統「パノラマ線 Panoramastrecke」は、北側から中心部に入り、最後はテレビ塔が建つ丘の上のルーバンク Ruhbank まで行く。こちらは片道で40分かかるが、後半は市街を見晴らしながら最大85‰の急坂をぐいぐい上るルートで、地下トンネルの多い21系統に比べ、車窓の爽快感が格段に違う。

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3線軌条を走る200形、ブダペスト広場にて (2018年)
Photo by Joma2411 at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番27 シュトゥットガルト・ラック鉄道 Zahnradbahn Stuttgart

シュトゥットガルトは北東側に出口を持つ靴箱形の地形で、中心街のある底の部分は狭い。そのため、市街地は周りを囲む丘の上に拡大してきた。この丘の斜面に最初に造られた鉄道が、1884年に開通したシュトゥットガルト・ラック鉄道だ。

もとは蒸気運転だが、1902年に電化されている。また後年、起点でルート変更、終点で延伸があり、現在は山麓のマリエン広場 Marienplatz から山上のデーガーロッホ Degerloch まで、延長2.2km。リッゲンバッハ式のラックレールを用いて、最大勾配178‰、標高差205mを上りきる。鋸歯を意味する「ツァッケ Zacke」が通称で、停留所の標識にもその名が記されている。

ドイツには、ここを含めてラック鉄道が4本残っている。他はすべて観光用の鉄道だが、ツァッケは、シュタットバーンや路線バスと同様、公共旅客輸送機関 SPNV の位置づけだ。10系統を名乗り、都市交通の一翼を担っているところに特色がある。

中心街からデーガーロッホへは、シュタットバーンでも行けるが、ラック鉄道の長所は、ラッシュ時でも自転車を携行できることだ。登山鉄道によくあるように台車が坂上側についていて、セルフサービスで自転車を固定する。車両の折返し時間の関係で、積載は上り坂に限定されているが、通勤通学やレジャーに、サイクリストにとって重宝する存在らしい。

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台車をつけた第4世代車両(2022年)
Photo by Joma2411 at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
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自転車積載はセルフサービス(2022年)
Photo by Smiley.toerist at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番35 トロッシンゲン鉄道 Trossinger Eisenbahn

電化路線でありながら一般旅客輸送は気動車が担い、架線を使うのは、ここを走行線にしている保存電車だけ、という珍しい路線がある。

バーデン・ヴュルテンベルク州南部、ロットヴァイル=フィリンゲン線 Bahnstrecke Rottweil–Villingen の中間にある接続駅トロッシンゲン・バーンホーフ(トロッシンゲン駅)Trossingen Bahnhof が起点で、ここから分岐して、市街地のトロッシンゲン・シュタット(トロッシンゲン市) Trossingen Stadt に至る3.9kmの支線、トロッシンゲン鉄道だ。

国鉄線に編入されたことはなく、1898年の開業以来、事実上トロッシンゲン市営で運行されてきた。さらに、開業当初から直流600Vの電気運転だったことも特筆される。段丘上の市街地に上るために最大35‰の勾配があり、市は初め、電力事業との併営で動力を供給していた。

現在、一般列車の運行は本線の列車運行事業者であるホーエンツォレルン州立鉄道 Hohenzollerische Landesbahn (HzL) に委託され、シュタッドラー製の連接気動車で賄われている。その一方、1898年製の2軸電動車など貴重な旧車も保存されており、イベントなどで運行される。

月1回の定例行事になっているのが、車両の錆取りを兼ねて行われる原則無料の「月光運行 Mondscheinfahrten」だ。夜の時間帯に両駅間を往復し、保存車両の車庫も公開される。暖かい電球色の照明が灯る客室のベンチに腰を下ろし、ひとときレトロな旅行気分に浸りたい。

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一般運行時代のT3電車、トロッシンゲン駅にて(2003年)
Photo by Phil Richards at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

次は、ライン地溝帯の東側に、南北約150kmにわたって続く山地シュヴァルツヴァルト(黒森の意)Schwarzwald にある観光路線について。

項番36 DB シュヴァルツヴァルト線 DB Schwarzwaldbahn

シュヴァルツヴァルト線は、ドイツを代表する標準軌の山岳路線だ。オッフェンブルク Offenburg から、シュヴァルツヴァルト中部を横断し、スイス国境に近いジンゲン Singen (Hohentwiel) まで149kmの長距離幹線になる(下注)。

*注 ドイツ鉄道DBは、さらにボーデン湖畔のコンスタンツ Konstanz までの区間を含めて、シュヴァルツヴァルト線と呼んでいる。

中でもハイライトと言えるのは、ハウザッハ Hausach~ザンクト・ゲオルゲン Sankt Georgen 間38.1kmだ。ライン川 Rhein 流域から大陸分水界を越えてドナウ川 Danau の最上流域に出るまでの区間で、最高地点は標高832m、麓との標高差は591mに及ぶ。全通したのは1871年。蒸機の登坂能力からすれば、勾配は20‰までに抑えたい。それで、険しい山中に、距離を引き延ばすための2か所のS字ループと39本のトンネルを伴う苦心のルートが造られた。

路線は1975年に交流電化されたので、今では電車や電気機関車が軽々と上っていく。そのかたわら、愛好家団体のツォレルン鉄道友の会 Eisenbahnfreunden Zollernbahn が年数回、このハイライト区間で蒸気列車を走らせている。先頭に立つのは動輪5軸の大型蒸機52形で、その力強い走りっぷりは非電化時代の活躍を彷彿とさせる。

また、中間駅のあるトリベルク Triberg には、上部ループの周辺を歩いて巡る「シュヴァルツヴァルト鉄道体験歩道 Schwarzwaldbahn-Erlebnispfad」も作られている。アップダウンの激しい山道だが、谷の中を折り返す線路や重厚な石積みの構造物をじっくり観察できるのがうれしい。

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トリベルク駅(2004年)
Photo by Frans Berkelaar at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

項番39 DB へレンタール線 DB Höllentalbahn

ヘレンタール線 Höllentalbahn(下注)は、シュヴァルツヴァルト南部を東西に横断している路線だ。フライブルク・イム・ブライスガウ Freiburg im Breisgau からドナウエッシンゲン Donaueschingen まで76.2km。これも名にし負う山岳路線で、途中の峠道に最大57.14‰の急勾配があり、1887年の開業当初はラックレールが使われていた。最高地点は標高893mに達し、起点フライブルクとの標高差は625mにもなる。

*注 同名の他路線と区別するためにヘレンタール線(シュヴァルツヴァルト)Höllentalbahn (Schwarzwald) と書かれることがある。

その急勾配は、ヒルシュシュプルング Hirschsprung という廃駅通過後に始まる。初めのうちは坂がきつくなったと感じる程度だが、一つ目のトンネルを抜けた後は、右側に見える谷がどんどん沈んでいく。ラヴェンナ川 Ravenna の峡谷を高い橋梁でまたいでからも、なおトンネルと坂道が連続する。高原に出ていくまでの約7km、乗車時間にして10分ほどが一番の見どころだ。

峠道を含むフライブルク~ノイシュタット Neustadt 間は1936年から電化されているが、需要の少ないノイシュタット以東は長らく非電化のままで、2003年以降は完全に系統分離されていた。2019年にようやく電化が完了し、現在はSバーンの電車がドナウエッシンゲンを経由してフィリンゲン Villingen まで直通している。

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電化前のグータッハ高架橋を渡る611形気動車(2013年)
Photo by Stefan Karl at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

項番38 DB ドライゼーン(三湖)線 DB Dreiseenbahn

そのヘレンタール線のティティゼー駅で分岐して、ゼーブルック Seebrugg に至る19.2kmの支線は、ドライゼーン線と呼ばれている。ドライゼーン(3つの湖)Dreiseen というのは、ティティ湖 Titisee、ヴィントグフェルヴァイアー Windgfällweiher、シュルッフ湖 Schluchsee のことで、起点側から列車に乗ると、いずれも右の車窓に見える。沿線に大きな町はないので、乗っているのは主にレジャー客だ。休日のほうが乗車率が高い。

列車はS1系統で、フライブルク Freiburg 方面から直通している。ヘレンタール線内では、S11系統フィリンゲン行きの後ろに併結されて走る。ティティゼーで切り離され、20‰の勾配がある斜面を上っていく。サミットのフェルトベルク・ベーレンタール Feldberg-Bärental 駅は標高967mで、ドイツの標準軌鉄道では最高所の駅だ(下注)。ヴィントグフェルヴァイアーは池といっていい規模なので、見逃さないように。最後は、堰堤でかさ上げされたシュルッフ湖の水ぎわを走って、終点ゼーブルックに到着する。

*注 ちなみに狭軌で粘着運転の最高所駅は、ハルツ狭軌鉄道ブロッケン駅の標高1125m。ラック式を含めれば、後述するバイエルン・ツークシュピッツェ鉄道が最も高い。

ドライゼーン線では2008年から、夏の盛りに愛好家団体が観光列車を運行している。ゼーブルックとティティゼーの間を1日3往復、高原の涼風が通り抜ける古典客車で行く片道約45分の旅だ。団体は機関車を所有していないので、レンタル機で運行され、動力は蒸気、ディーゼル、電気いずれもありうる。

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湖畔のシュルッフゼー駅(2010年)
Photo by Cayambe at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
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シュルッフ湖の入江を渡る58形の保存列車(2015年)
Photo by Maximilian Grieger at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

最後は、バイエルンの南縁に連なるアルプス山中のラック登山鉄道について。

項番18 バイエルン・ツークシュピッツェ鉄道 Bayerische Zugspitzbahn

ドイツ最高峰、標高2962mのツークシュピッツェ Zugspitze は、石灰岩の肌がむき出しになった巨大な岩山だ。バイエルン・ツークシュピッツェ鉄道は、DB線と連絡するガルミッシュ Garmisch から、グライナウ Grainau を経て山頂直下のツークシュピッツプラット Zugspitzplatt まで19.0km。そこから山頂へは、ロープウェー(下注)が連絡している。

*注 ロープウェーの名称は、ツークシュピッツェ氷河鉄道 Zugspitz-Gletscherbahn、長さ1000m、高低差360m。

ルートの性格は、前半と後半で全く異なる。ガルミッシュからグライナウまでの7.5kmは、山麓線(谷線)Talstrecke と呼ばれ、広い谷底を行く粘着運転の平坦線だ。一方、グライナウから先は登山線(山線)Bergstrecke で、最大250‰のラック区間を伴う。アイプ湖 Eibsee や山裾の眺めがすばらしいが、途中から素掘りのトンネルに突入し、ユングフラウ鉄道のように、標高2588mの終点までずっと地下を走る(下注)。

*注 終点駅は地上だが、発着ホームはドームにすっぽりと覆われている。

全通は1930年だが、山上側でルートに変遷がある。もとの終点は、シュネーフェルナー氷河 Schneeferner の北斜面にあるシュネーフェルナーハウス Schneefernerhaus だった。スキー場へのアクセス改善のために、1987年に南側の現在地に移され、駅名も変更された。

ツークシュピッツェは、オーストリアとの国境に位置している。それで山頂への交通手段は、この鉄道のほかに、ロープウェーがドイツ側の山麓から1本と、オーストリア側からも1本ある。ドイツ側のロープウェーは鉄道と同じ運営会社なので、乗車券は共通だ。行きは鉄道でゆっくり上り、帰りは眺望のきくロープウェーで一気に下界へ(下注)、というのもいい選択になる。

*注 ロープウェーはアイプゼー Eibsee に降りるので、ガルミッシュへは再び鉄道に乗る必要がある。

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アイプゼー駅の列車交換(2018年)
Photo by Whgler at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番14 ヴェンデルシュタイン鉄道 Wendelsteinbahn

もう一つのラック登山鉄道は、ヴェンデルシュタイン Wendelstein に上っていく。ここは標高1838mと取り立てて高い山ではないが、オーバーバイエルン Oberbayern の平原に近く、展望台として昔から人気があった。それでこの鉄道は、ツークシュピッツェ鉄道よりずっと前の1912 年に開通している。

もとはチロルに通じるDB幹線の途中駅ブランネンブルク Brannenburg が起点で、山上駅まで延長10.0kmの路線だった。しかし、村を横切っていた平坦区間が、道路交通に支障するとして、1961年に廃止されてしまった。以来、ヴァッヒング Waching という村はずれの駅がターミナルで、全国鉄道網とは接続がない7.7kmの孤立線になっている。

ヴァッヒング駅の前後はまだ平坦だが、まもなくシュトループ式のラック区間が始まる。いったん粘着式に戻って、待避線のあるアイプル Aipl 駅へ。しかし、ラックの坂道はまたすぐに復活する。ミッターアルム Mitteralm からは岩壁を貫くトンネルが連続し、勾配は最大237‰に達する。撮影ポイント「ホーエ・マウアー(高石垣)Hohe Mauer」を渡り、半回転すれば標高1723mの山上駅 Bergbahnhof だ。

山頂には、ツークシュピッツェと同様、ロープウェーが反対側の谷から上がってきている。片道登山鉄道、片道ロープウェーというコンビ乗車券を使えば、ロープウェーで山を降り、山麓でミュンヘン近郊線の電車に乗り継ぐ(下注1)という、一筆書きの周遊コースも可能だ。

*注1 RB55系統。最寄り駅は、徒歩7分のオスターホーフェン Osterhofen。
*注2 ヴェンデルシュタイン鉄道の詳細は「ヴェンデルシュタイン鉄道-バイエルンの展望台へ」参照。

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ホーエ・マウアーを渡る(2013年)
Photo by Geogast at wikimedia. License: CC BY 3.0
 

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2024年9月24日 (火)

ドイツの保存鉄道・観光鉄道リスト-南部編 I

「保存鉄道・観光鉄道リスト」ドイツ南部編では、バーデン・ヴュルテンベルク州 Baden-Württemberg とバイエルン州 Bayern にある鉄道を取り上げている。その中から主なものを紹介しよう。

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フランケン・スイス蒸気鉄道
ムッゲンドルフ駅の2号機関車(2022年)
Photo by Reinhold Möller at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

ドイツ「保存鉄道・観光鉄道リスト-ドイツ南部」
http://map.on.coocan.jp/rail/rail_germanys.html

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「保存鉄道・観光鉄道リスト-ドイツ南部」画面

バイエルン州にはさまざまな規模の鉄道博物館があるが、中でも次の2か所は、コレクションの充実度とともに、しばしば行われる館外走行で人気が高い。

項番2 ドイツ蒸気機関車博物館 Deutsches Dampflokomotiv-Museum

北東部オーバーフランケン Oberfranken 地方の田舎町に、1977年に開業したドイツ蒸気機関車博物館がある。15線収容の扇形機関庫が展示棟に開放され、月曜を除く毎日、訪問者を受け入れている。保有する車両コレクションも大規模で、機関車だけで、蒸機約30両を含め約60両に達するという。

博物館は、DB線ノイエンマルクト・ヴィルスベルク Neuenmarkt-Wirsberg 駅の構内にある。小さな町なのでふだんはひっそりしているが、バンベルク Bamberg、バイロイト Bayreuth、ホーフ Hof と3方向の列車が集散するジャンクションだ。東側のホーフ方面に長い上り坂、通称「シーフェ・エーベネ Schiefe Ebene(下注)」が控えていて、ここは、応援部隊である補助機関車の基地だった。

*注 シーフェ・エーベネは、傾斜面を意味する。バイエルンで最初に造られた急勾配線だったので、この名が定着した。

坂道ルートは、1848年に開通した「ルートヴィヒ南北鉄道 Ludwig-Süd-Nord-Bahn(下注)」の一部だ。ザクセンにつなげるために、ここからマイン川とエルベ川の分水界、ミュンヒベルク高原 Münchberger Hochfläche へ上っていく。最大25‰の勾配が6.8km続き、蒸機の勇壮な走行シーンを求める写真家には、昔から有名なスポットだ。

*注 バイエルンで最初に建設された長距離路線。リンダウ Lindau~アウクスブルク Augsburg~ニュルンベルク Nürnberg~バンベルク~ホーフ間566km。

博物館は、この坂道や周辺の路線で保有蒸機の特別運行を年数回行っていて、当日はカメラを手にした多くのファンが沿線に陣を敷く。

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シーフェ・エーベネを上る急行用蒸機01.5形(2018年)
Photo by Stefan Hundhammer at flickr. License: CC BY-NC-ND 2.0
 

項番11 ネルトリンゲン・バイエルン鉄道博物館 Bayerisches Eisenbahnmuseum Nördlingen

中西部、ロマンティック街道が通過する地方都市ネルトリンゲン Nördlingen には、バイエルン鉄道博物館がある。市壁が取り囲む町の東側、DB線の駅裏に広がる旧 車両基地を活用して、1985年に開館した。

敷地面積約3.5haの広い構内に、扇形機関庫を中心とした業務施設が保存・再現されている。保有車両は動力車、客貨車を含めて200両を超えるといい、南ドイツでは最大規模だ。そして前項のノイエンマルクトの博物館とは、同じ「ルートヴィヒ南北鉄道」の沿線という意外な共通項を持っている。

こちらも館外に走行線を確保していて、月に何回か、保有蒸機による列車運行がある。現在よく使われているのは、「南北鉄道」の一部だったネルトリンゲン~グンツェンハウゼン Gunzenhausen 間39.5kmだ。由緒あるルートだが、後に短絡線が建設されたため、一般旅客輸送は廃止されてしまった。貨物列車を除けば、「ゼーンラント・エクスプレス Seenland-Express」と称する博物館の列車しか走らない。

もう一つは「ドナウ・リース・エクスプレス Donau-Ries-Express」で、丘の上に建つ豪壮な古城で知られるハールブルク Harburg へ行くショートコースだ。かつてはロマンティック街道と並走するネルトリンゲン Nördlingen~ディンケルスビュール Dinkelsbühl ~ドンビュール Dombühl 間も走行線に名を連ねていたが、2018年を最後に運行が途絶えている。

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博物館50周年記念行事(2019年)
Photo by Torsten Maue at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0
 

項番17 アウクスブルク鉄道公園 Bahnpark Augsburg(アンマーゼー蒸気鉄道 Ammersee-Dampfbahn)

バイエルン南部、丘陵地に大小の湖が点在する五湖地方 Fünfseenland は、ミュンヘンやアウクスブルクの市民にとって身近なレクリエーションエリアになっている。その一角にあるアンマー湖(アンマーゼー)Ammersee へ向けて、アウクスブルク Augsburg から年数回、蒸機牽引の行楽列車「アンマーゼー蒸気鉄道」が走る。

企画しているのは、アウクスブルク鉄道公園(バーンパルク・アウクスブルク)。2008年にDBから移管されたアウクスブルクの旧 車両基地を拠点にしている鉄道博物館だ。扇形機関庫や修理工場が、展示施設として保存・活用されている。電化区間にあるため、庫内まで架線が張られ、ヨーロッパ各国の電気機関車コレクションが充実しているのが特色だ。

行楽列車は、博物館からいったん北へ出発する。アウクスブルク中央駅 Augsburg Hbf で客を拾った後、改めて南下していく。メーリング Mering からは、一般運行もしている支線アンマーゼー鉄道 Ammerseebahn を経由し、湖畔のリゾート町ウッティング Utting が終点だ。そこで1時間ほど機回し休憩をした後、同じ道を戻る。

列車は1日2往復設定されていて、午前出発便は帰着後に、午後出発便は出発の前に、それぞれ鉄道公園を自由見学できるようになっている。それよりも、静かな湖畔での半日を目いっぱい楽しみたいという人には、午前便で出かけて、午後便で戻るという選択肢も可能だ。

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鉄道公園でのクロコダイル・ミーティング(2023年)
Photo by SirJannikSon at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
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スコーンドルフ Scondorf 駅にさしかかる01形蒸機(2018年)
Photo by Stefan von Lossow at flickr. License: CC BY-NC 2.0
 

次は、専用の路線を走る蒸気保存鉄道について。

項番3 フランケン・スイス蒸気鉄道 Dampfbahn Fränkische Schweiz

ニュルンベルクの北東、石灰岩の岩塔・洞窟や古城の風景が点在するフランケン・スイス Fränkische Schweiz は、19世紀ロマン主義が流行した時代に、多くの文化人から賞賛された。「ルートヴィヒ南北鉄道」のフォルヒハイム Forchheim 駅からその中心都市エーバーマンシュタット Ebermannstadt へ向けて支線が建設されたのは、1891年のことだ。

路線は段階的に谷の奥へと延伸され、1930年にベーリンガースミューレ Behringersmühle に達した。この延伸区間15.9kmの一般旅客輸送が1980年に廃止になった後、それを引き継いだのがフランケン・スイス蒸気鉄道協会 Dampfbahn Fränkische Schweiz e. V. だ。ニュルンベルクから遠くなく、今も旅行者やハイカーに人気のエリアで、鉄道は1980年の開業以来、観光アトラクションとして不動の地位を築いてきた。

観光列車は蒸機かディーゼル牽引で、シーズンの日曜祝日に1日3往復走る。ルートは終始ヴィーゼントタール(ヴィーゼント川の谷)Wiesenttal の中で、進むにつれて谷はどんどん深くなる。片道45分、最後に川を斜めに渡り返すと、まもなく終点だ。

ベーリンガースミューレ駅は周りに人家もないような場所にあるが、谷壁の山道フェルゼンシュタイク Felsensteig を登れば高原が広がり、ゲスヴァインシュタイン Gößweinstein の町に出る。あるいは谷間を小一時間歩いて遡り、奇岩そびえ立つ観光名所テュッヒャースフェルト Tüchersfeld を訪れるのも一興だろう。

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ベーリンガースミューレ駅(2022年)
Photo by Reinhold Möller at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番23 アムシュテッテン=ゲルシュテッテン地方鉄道 Lokalbahn Amstetten-Gerstetten

シュトゥットガルトからウルム、ミュンヘンに通じるDB幹線には、「ガイスリンゲン坂 Geislinger Steige」と呼ばれる急曲線と勾配の難所がある。その坂を上りきった駅がアムシュテッテン Amstetten(下注)で、2本のローカル鉄道の分岐駅として、昔から鉄道ファンにはよく知られている。

*注 同名の駅と区別するために、正式名はアムシュテッテン(ヴュルテンベルク)Amstetten (Württ) という。

標準軌のアムシュテッテン=ゲルシュテッテン地方鉄道は東へ向かう(下注)。ゲルシュテッテン Gerstetten まで19.9km、シーズンの日曜祝日限定で運行され、1日3往復ある。ただし、蒸機が走る日と気動車の日ではダイヤが異なるので注意したい。

*注 ちなみに、西へ向かうのは1000mm軌間の、通称「アルプ・ベーンレ Alb-Bähnle(高原鉄道の意)」。

というのも、蒸機の日は、ウルム鉄道友の会 Ulmer Eisenbahnfreunde e. V. が取りしきる純粋の保存運行だが、気動車はそうではなく、RB 58系統として近距離旅客輸送 SPNV の枠内で運行されているのだ。いわば休日だけ走る一般旅客列車で、運賃は近郊線と同じ、車両も1990年代製とまだ新しい。

ルートの見せ場は前半にある。アムシュテッテンを出るとすぐに25‰勾配で、谷を回り込みながら、高原面まで約100mの高度を稼ぐ。シュトゥーバースハイム Stubersheim まで上りきると、後は、点在する集落を縫いながら、広大な耕作地の中を淡々と走っていく。

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シュトゥーバースハイムを発つ蒸気列車(2020年)
Photo by KorbinianFleischer at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番37 ヴータッハタール鉄道 Wutachtalbahn(ぶたのしっぽ鉄道 Sauschwänzlebahn)

ヴータッハタール鉄道は、バーデン・ヴュルテンベルク州南西部、スイス国境近くを走る標準軌支線だ。このうち、ブルームベルク=ツォルハウス Blumberg-Zollhaus ~ヴァイツェン Weizen 間 25.6kmは、1976年に一般旅客輸送が廃止されて以来、保存鉄道の列車だけが走る。線名のヴータッハタールは、路線が沿うヴータッハ川の谷のことだが、ルートの平面形がくるくると巻いているので、「ぶたのしっぽ鉄道 Sauschwänzlebahn」の愛称でも呼ばれる。

鉄道はもともと、当時の要塞都市ウルムと、普仏戦争で獲得したアルザス地方(ドイツ語でエルザス Elsaß)を結ぶ軍事戦略路線として1875~90年に造られた。既存のホッホライン鉄道 Hochrheinbahn は、ライン川に沿って中立国のスイス領内を通過するため、有事の際に使えない可能性がある。そこでスイス領を迂回し、かつ重量貨物列車の運行に支障のないよう、勾配を10‰に抑えた新ルートが設計された。一見冗長な「ぶたのしっぽ」は、ドナウ川最上流とライン川の谷との高度差約350mをこの条件で克服するために、どうしても必要だったのだ。

現在、保存鉄道の列車は、シーズン中のおおむね木~日曜に1日1~2便走る。かつては蒸気機関車が全運行を担っていたが、現在はディーゼル機関車の比率が高くなっている。ブルームベルク=ツォルハウスから乗るなら、右側の席がお薦めだ。最初のトンネルを抜けた後、エプフェンホーフェン Epfenhofen のオメガループで、村の家並みとトラスの鉄橋が一望になる。

*注 ヴータッハタール鉄道の詳細は「ヴータッハタール鉄道 I-丘のアルブラ越え」「同 II-ルートを追って」参照。

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エプフェンホーフェン鉄橋を渡る(2021年)
Photo by Nelso Silva at flickr. License: CC BY-SA 2.0
 

項番41 カンダータール鉄道 Kandertalbahn

ドイツ、フランス、スイスの三国が境を接するバーゼル Basel の近郊でも、標準軌の蒸気保存鉄道が稼働している。シュヴァルツヴァルトから南流してライン川に注ぐ支流、カンダー川 Kander の谷に沿っていくので、名をカンダータール鉄道という。主に採石場から石材を輸送していた延長12.9kmの支線だが、1985年に廃止となり、愛好家団体が引き継いで、翌年から保存運行を始めた。

現在は5~10月の毎日曜日に運行され、1日3往復の列車がある。蒸機は、旧プロイセン国鉄のタンク機関車T3形が使われている。3軸の小型機で、かつて地方鉄道や産業用に広く使われた形式だ。乗車機会が多いことに加え、基本的にすべて蒸気機関車で列車を動かしている点が、この鉄道の人気の理由だろう。

機関庫、整備場など運行に関わる施設は終点のカンデルン Kandern にあるので、一番列車はそこが始発だ。DBラインタール線 Rheintalbahn に接続するハルティゲン Haltingen には、逆機(バック運転)でやってくる。

機回し作業を含む約30分の休憩の後、再び出発。工場群を抜ければ、車窓には集落と麦畑が交互に現れ、穏やかな山野の風景の中を列車はのんびりと走る。谷が狭まるころにはもう終盤で、まもなくカンデルンの町が見えてくる。片道35~45分、非日常の列車旅を味わうのに手ごろな時間だ。

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ハルティゲン駅で出発を待つT3形蒸機(2009年)
Photo by Gryffindor at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

項番12 キームゼー鉄道 Chiemsee-Bahn

バイエルン州南東部にあるキーム湖(キームゼー)Chiemseeは、ドイツで3番目に大きな湖だ。ミュンヘンとザルツブルクを結ぶDB幹線が西岸を通っていて、プリーン・アム・キームゼー Prien am Chiemsee という最寄り駅がある。そこと湖岸の港プリーン・シュトック Prien-Stock を連絡しているのが、キームゼー鉄道だ。

メーターゲージで、全長わずか1.9km、中間駅なし、片道8分というミニ路線だが、箱型の路面蒸気機関車が運用に入るという点がとりわけ珍しい。ルート上に併用軌道はなく、準拠した建設・運行規程も狭軌鉄道のそれだが、「ラウラ Laura」と命名されたこの機関車が1887年の開業時から列車を率いてきた。それで、世界最古の蒸気路面軌道と言われることがある。

ラウラも高齢になり、残念ながら近年は出番を減らしている。代役は、1962年製の小型ディーゼル機関車「リーザ Lisa」だ。以前は同じように緑の箱型に身を包み、一瞥しただけでは蒸機と見分けがつかなかったが、全面改修を機にふつうの姿に戻された。

キーム湖で思い浮かぶのが、湖中の島に狂王ルートヴィヒ2世が造らせた壮麗なヘレンキームゼー城 Schloss Herrenchiemsee だ。女子修道院のあるフラウエン島 Fraueninsel とともに、年間多くの観光客が訪れる。鉄道経由の客はそれほど多くないのだが、湖を渡る観光船と一体で運営されることで、安定的な運行が可能になっている。

*注 キームゼー鉄道の詳細は「キームゼー鉄道-現存最古の蒸気トラム」参照。

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プリーン・シュトック駅、機回し中の路面機関車(2013年)
Photo by Gliwi at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

項番34 エクスレ鉄道 Öchsle-bahn

750m軌間の狭軌地方鉄道は、東部地域(旧 東ドイツ)にこそ多く残っているが、旧 西ドイツでは、路線バスなどに転換されてほとんど姿を消してしまった。バーデン・ヴュルテンベルク州南東部のオーバーシュヴァーベン地方 Oberschwaben にあるエクスレ鉄道は、その点で貴重な存在だ(下注)。

*注 同州北部のヤクストタール鉄道 Jagsttalbahn(項番19)も750mm軌間の保存鉄道だが、2024年現在、路線延長は0.8kmで、本格的な復活にはまだ遠い。

1900年に全通したこの路線は、ずっと国鉄(下注)の狭軌線だったが、利用の減少と施設劣化の進行で、1983年に廃止となった。愛好家団体と沿線自治体が動いて、1985年に保存鉄道として復活を果たしたが、その後の経過は決して安泰ではなかった。

6年後の1991年末に早くも州当局から、軌道と運行管理に欠陥があるとして運行停止を命じられる。新会社を設立して1996年に再開したものの、2000年末にまたもや同様の指摘を受けて、運行停止に。それでも諦めずに2002年、三度目の開業に漕ぎつけて今に至る。

*注 開業時は王立ヴュルテンベルク邦有鉄道 Königlich Württembergische Staats-Eisenbahnen。後にドイツ帝国鉄道(DR)からドイツ連邦鉄道(DB)へと引き継がれた。

以前は運行日に3往復設定されていたが、現在は午前と午後の2往復だ。19.0kmの路線の起点は、DB線に接続するヴァルトハウゼン Warthausen(下注)で、ここから東へのどかな麦畑の中を進んでいく。中間で、丘陵の鞍部を越える25‰のアップダウンが全線のハイライトだ。終点のオクセンハウゼン Ochsenhausen までは、およそ70分かかる。

*注 もとの起点は、DB線で一駅南のビーベラッハ・アン・デア・リス Biberach an der Riß だが、DB線との並行区間のため、保存鉄道開業に際して放棄された。

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蒸気列車がオクセンハウゼンに到着(2015年)
Photo by TIG-Ulm, M.Pötzl at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
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オクセンハウゼン駅のクリスマス列車(2012年)
Photo by TIG-Ulm, M.Pötzl at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

続きは次回に。

★本ブログ内の関連記事
 ドイツの保存鉄道・観光鉄道リスト-北部編
 ドイツの保存鉄道・観光鉄道リスト-東部編 I
 ドイツの保存鉄道・観光鉄道リスト-東部編 II
 ドイツの保存鉄道・観光鉄道リスト-西部編
 ドイツの保存鉄道・観光鉄道リスト-南部編 II

 オランダの保存鉄道・観光鉄道リスト
 ベルギー・ルクセンブルクの保存鉄道・観光鉄道リスト
 フランスの保存鉄道・観光鉄道リスト-北部編
 スイスの保存鉄道・観光鉄道リスト-北部編
 オーストリアの保存鉄道・観光鉄道リスト

2024年9月 6日 (金)

ドイツの保存鉄道・観光鉄道リスト-西部編

「保存鉄道・観光鉄道リスト」ドイツ西部編では、ノルトライン・ヴェストファーレン Nordrhein-Westfalen、ヘッセン Hessen、ラインラント・プファルツ Rheinland-Pfalz、ザールラント Saarland の各州にある鉄道を取り上げている。その中から主なものを紹介しよう。

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ライン左岸線オーバーヴェーゼル Oberwesel 付近を行くEC列車(2015年)
Photo by Rob Dammers at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

ドイツ「保存鉄道・観光鉄道リスト-ドイツ西部」
http://map.on.coocan.jp/rail/rail_germanyw.html

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「保存鉄道・観光鉄道リスト-ドイツ西部」画面

まずは、ドイツを代表する観光エリアを通る一般旅客路線から。

項番28 DB ライン左岸線(ミッテルライン鉄道)DB Linke Rheinstrecke (Mittelrheinbahn)
項番27 DB ライン右岸線 DB Rechte Rheinstrecke

ドイツで車窓風景が最も美しい路線は? と問われたら、多くの人がライン川沿いのこの路線を挙げることだろう。滔々と流れる大河に行き交う船、岩山高くそびえる古城や要塞、斜面を覆うブドウ畑。ロマン派の絵画のような景色には何度乗っても目を奪われる。高速線を疾走するICEもありがたいが、時間が許すならこのルートでゆっくり旅したいと思う。

ライン左岸線は、川の左岸すなわち西側に沿うDB(ドイツ鉄道)の幹線で、ケルン中央駅 Köln Hbf を起点に、ボン Bonn、コブレンツ(コーブレンツ)Koblenz、ビンゲン Bingen(Rhein) を経由してマインツ中央駅 Mainz Hbf まで181km。近年は「ミッテルライン鉄道 Mittelrheinbahn」の呼称が浸透している。

主要都市間を連絡しているため、2002年にケルン=ライン/マイン高速線 Schnellfahrstrecke Köln–Rhein/Main が開通するまでは、優等列車が日夜頻繁に行き交っていた。速達便は高速線に移し替えられて久しいが、今でも普通列車とともに、中間都市に停車するICEやICが30分間隔で走っている。

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オーバーヴェーゼル、対岸からの眺め(2018年)
Photo by Calips at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

一方、ライン右岸線は、右岸すなわち東側を走るDB路線だ。ケルン中央駅を出てすぐ右岸に渡り、トロイスドルフ Troisdorf でジーク線 Siegstrecke を分けた後、ライン川に沿って、ヴィースバーデン東 Wiesbaden Ost 駅まで179km。中間にあまり大きな町はないので、主に長距離貨物列車の運行経路になっている。旅客列車は各停(RB)と快速(RE)だが、コブレンツ中央駅を経由または起終点にしているため、必ず左岸に戻る。

どちらのルートも全線で眺めが良いが、見どころの中心は、やはり後半のコブレンツから左岸はビンゲン、右岸はリューデスハイム Rüdesheim の間だろう。この区間は、世界文化遺産に登録された「ライン渓谷中流上部 Oberes Mittelrheintal の文化的景観」を貫いていて、有名なローレライ Loreley の断崖をはじめ、冒頭述べた古城やブドウ畑の集中度も高い。

左岸線ならザンクト・ゴアール Sankt Goar、オーバーヴェーゼル Oberwesel、バハラッハ Bacharach、右岸線ならザンクト・ゴアールハウゼン Sankt Goarhausen 等々、魅力的な町や村を次々と通っていくので、ついつい途中下車の誘惑に駆られる。

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ローレライトンネル南口(2010年)
Photo by Joachim Seyferth at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番32 DB モーゼル線 DB Moselstrecke

モーゼル線は、ライン左岸線(項番28)のコブレンツ中央駅 Koblenz Hbf から西へ向かう。ライン川の主要支流モーゼル川 Mosel に沿って、古都トリーア Trier まで長さ112kmの路線だ。

19世紀後半の帝国時代、首都ベルリンと、普仏戦争で獲得したアルザス=ロレーヌ(ドイツ語でエルザス=ロートリンゲン Elsaß-Lothringen)とをつなぐ長距離戦略路線、いわゆる「大砲鉄道 Kanonenbahn(下注)」の一部として建設された。しかし今は地域輸送とともに、ザールラント Saarland やルクセンブルク Luxembourg へ行く中距離列車(RE)のための亜幹線の地位に落ち着いている。

*注 大砲鉄道の詳細は「ドイツ 大砲鉄道 I-幻の東西幹線」「同 II-ルートを追って 前編」「同 III-後編」参照。

ライン左岸・右岸線とは異なり、風光明媚な川沿いの区間は前半区間の約60kmに限られる。具体的にはブライ Bullay の3km先、ライラーハルストンネル Reilerhalstunnel の手前までだ。その後は蛇行する川から離れ、平たい盆地の中を直進していく。

起点のコブレンツを出て最初の橋で川の左岸(北側)に移ると、しばらく川沿いをおとなしく遡る。コッヘム Cochem からブライの前後がハイライトだ。まず、長さ4205mと、高速線以外ではドイツ最長の皇帝ヴィルヘルムトンネル Kaiser-Wilhelm-Tunnel を抜ける。モーゼルワインのブドウ畑を眺めた後は、アルフ=ブライ二層橋 Doppelstockbrücke Alf-Bullay、ピュンダリッヒ斜面高架橋 Pündericher Hangviadukt と、土木工学上の名所を渡っていく。

*注 モーゼル線の詳細は「モーゼル渓谷を遡る鉄道 I」「同 II」参照。

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アルフ=ブライ二層橋(2015年)
Photo by Henk Monster at wikimedia. License: CC BY 3.0
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ピュンダリッヒ斜面高架橋(2020年)
Photo by Kora27 at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

次は、私設の鉄道博物館に着目してみよう。構内施設や車両コレクションの充実にとどまらず、館外に保存運行用の独自ルートを確保しているところが共通点だ。

項番9 ボーフム鉄道博物館 Eisenbahnmuseum Bochum

ルール地方 Ruhrgebiet で有名なのは、ボーフム Bochum 市南西部のルール川沿いにあるボーフム鉄道博物館だろう。1969年に閉鎖されたルールタール鉄道 Ruhrtalbahn の鉄道車両基地を愛好家団体、ドイツ鉄道史協会 Deutsche Gesellschaft für Eisenbahngeschichte e. V. がそのまま引き継いで、1977年に開館した。地区の名からボーフム・ダールハウゼン鉄道博物館 Eisenbahnmuseum Bochum-Dahlhausen とも呼ばれ、私設ではドイツ最大と言われる。

施設の中核になっている扇形機関庫は14線収容の大型で、その後ろにそびえるワイングラスのような給水塔も目を引く。2棟ある車庫兼展示ホールと併せて、公開日には多くの訪問者で賑わう。

保存運行は、ルールタール鉄道の線路を使って行われている。鉄道博物館を出発して、ルール川をさかのぼり、ヴェンゲルン・オスト(東駅) Wengern Ost までの23.4kmだ。ルールタール鉄道は、沿線の鉱山で採掘される石炭を搬出する目的で造られたが、現在は、一部区間がSバーンのルートに利用されている以外、休業ないし廃線状態で、通しで走るのはこの保存列車が唯一だ。

運行日はシーズン中の月3回設定され、蒸気列車の日とレールバスの日がある。距離が長いので、片道でも80~90分と乗りごたえも十分だ。ルール地方は言わずと知れたドイツの主要工業地帯だが、川沿いは緑にあふれ、のびやかな車窓風景が続いている。

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ボーフムの扇形機関庫に揃う蒸機群(2010年)
Photo by Hans-Henning Pietsch at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0 DE
 

項番26 ダルムシュタット・クラーニッヒシュタイン鉄道博物館 Eisenbahnmuseum Darmstadt-Kranichstein

ダルムシュタット Darmstadt は19世紀、ヘッセン大公国の首都だったという歴史を持つ古都だ。その北東郊に、ダルムシュタット・クラーニッヒシュタイン鉄道博物館「鉄道世界」Eisenbahnmuseum Bahnwelt Darmstadt-Kranichstein がある。

ここも大規模な標準軌車両博物館の一つで、旧ライン=マイン鉄道 Rhein-Main-Bahn(下注)の運行拠点だった車両基地の跡地を利用して、同名の愛好家団体が1976年に開設した。扇形機関庫を中心とした施設に、10両以上の本線用蒸機を含む車両コレクションが揃っている。

*注 マインツ Mainz~ダルムシュタット Darmstadt~アシャッフェンブルク Aschaffenburg 間を結んだ鉄道。現RB75系統のルート。

この団体はまた、路面軌道車両の保存にも携わっていて、それが同じクラーニッヒシュタインにある市電ターミナルの車庫に収容されていた。この路面軌道部門の名物が、路面用小型蒸機「火を吐くエリーアス Feuriger Elias」の公開運行だ。

*注 「火を吐くエリーアス」は蒸気機関車の一般的なあだ名。旧約聖書で、エリヤ(エリーアス)が火を噴く馬車とともに天に昇っていったことから。

その後、この車庫が使えなくなったため、蒸機は現在、ダルムシュタット南郊のエーバーシュタット Eberstadt にある市電車庫に保管されている。公開運行は今年(2024年)の場合、5月の日曜祝日にエーバーシュタットから市電6、8系統のルートで、終点アルスバッハ Alsbach まで往復した。主に道端軌道だが、途中のゼーハイム Seeheim に狭い街路の併用区間がある。また、9月にはダルムシュタットの市街地でイベントが開催される。こちらは、シュロス(城内)Schloß と呼ばれる中心街を蒸気列車が走行する。

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シュロスの路面軌道を行く「火を吐くエリーアス」(2009年)
Photo by Tobias Geyer at wikimedia. License: CC BY
 

項番23 フランクフルト簡易軌道博物館 Frankfurter Feldbahnmuseum

フランスのドコーヴィル Decauville 社に代表される600mm軌間の「フェルトバーン(簡易軌道)Feldbahn」は、軽量で運搬、敷設、撤去が容易なことから、産業用、軍事用として世界に普及した。ドイツでも、オーレンシュタイン・ウント・コッペル Orenstein & Koppel (O&K) を筆頭に、ユング Arnold Jung、ヘンシェル Henschel & Sohn など多数の会社が製造を手掛けて広まった。

フランクフルト・アム・マイン市内西部のボッケンハイム Bockenheim に拠点を置くフランクフルト簡易軌道博物館は、これらの狭軌車両を収集・保存している鉄道博物館だ。現在地での開館は1987年。コレクションはすでに、蒸気機関車20両(うち13両が運行可能)、ディーゼル機関車34両を含め70両以上の機関車と約200両の客貨車にも及び、この軌間ではドイツ最大だ。収容するための車庫も今や3棟目が建っている。

博物館自体は毎月第1金曜・土曜に公開されるが、列車の運行は月1回程度だ。走行軌道の総延長は約1.5kmで、博物館の北側に広がるレープシュトック公園 Rebstockpark の園内をT字状に延びている。T字の縦棒の足もとが博物館で、列車はそこから出て、見通しのいい芝生の上に敷かれたT字の横棒に移り、両端で折返しのための機回しをして、また博物館に戻ってくる。

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簡易軌道博物館の公開日(2018年)
Photo by NearEMPTiness at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

続いては、標準軌の蒸気保存鉄道について

項番18 ヘッセンクーリエ Hessencourrier

ヘッセン Hessen の速達便を意味するヘッセンクーリエは、1972年に運行を開始したヘッセン州最初の保存鉄道だ。カッセル Kassel の鉄道の玄関口、カッセル・ヴィルヘルムスヘーエ Kassel-Wilhelmshöhe 駅の南端にある保存鉄道の車庫から、蒸気列車が出発する。

ルートになっているナウムブルク線 Naumburger Bahn は延長33.4kmのローカル線で、旅客輸送は1977年に廃止され、貨物輸送も一部区間を除いてもう行われていない。終点はナウムブルク Naumburg (Hessen) という、ハーフティンバーの家並みが連なる田舎町だ。

片道90~95分の長旅だが、途中の見どころは大きく二つある。

一つは、市内トラムとの共存区間だ。フォルクスワーゲンの工場の前でカッセル市電の線路が右から合流してくる。そこからグローセンリッテ駅 Bahnhof Großenritte までの3.3kmの間は、トラムも同じ線路を走ることになる。軌間は同じ標準軌だが、車両限界が大きく異なるため、途中の停留所には、ホームの張出しや4線軌条などさまざまな工夫が施されている。蒸気列車はそこを、制限20km/hでそろそろと通過していく(下注)。

*注 詳細は「ナウムブルク鉄道-トラムと保存蒸機の共存」参照。

二つ目は、市電乗入れ区間が終わった後に控えている急坂だ。最大28.6‰の勾配で、郊外の山裾をくねくねと巻きながら上っている。蒸機にとってはまさに山場で、力強い推進音が車内にも聞こえてくる。標高403m、峠の駅ホーフ Hof まで上りきれば、残りは丘陵地帯を縫う穏やかなルートになる。

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終点ナウムブルク駅舎(2015年)
Photo by Feuermond16 at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番35 カッコウ鉄道 Kuckucksbähnel

ヘッセン州南西部のプフェルツァーヴァルト(プファルツの森)Pfälzerwald に、カッコウが鳴くのどかな谷間を行く蒸気列車がある。まだ一般運行だった時代から、地元の人は親しみを込めて「クックックスベーネル(カッコウ鉄道)Kuckucksbähnel」 と呼んできた。

鉄道の起点は、マンハイム Mannheim とザールブリュッケン Saarbrücken を結ぶDB幹線の途中駅ランブレヒト Lambrecht (Pfalz)。ここからシュパイアーバッハ川 Speyerbach に沿ってエルムシュタイン Elmstein という小さな町まで、線路は13.0km延びている。曲がりくねる谷をトンネル無しでさかのぼるため、反転カーブが連続するローカル線だ。

列車は、近くの町ノイシュタット Neustadt にある鉄道博物館(下注)で仕立てられている。上述したボーフムと同じく、ドイツ鉄道史協会が運営している旧 車両基地だ。そのため、1日2往復のうち、第1便の往路はノイシュタット中央駅発、第2便の復路は同駅着になっている。ノイシュタットとランブレヒトの間はDB線に乗入れ、架線下を走る。

*注 ノイシュタットの地名は全国各地にあるので、正式にはノイシュタット・アン・デア・ヴァインシュトラーセ Neustadt an der Weinstraße(ワイン街道沿いのノイシュタットの意)という。したがって博物館名も、ノイシュタット・アン・デア・ヴァインシュトラーセ鉄道博物館 Eisenbahnmuseum Neustadt/Wstr.。

ノイシュタットは、赤ワインの産地をつないでいるドイツワイン街道 Deutsche Weinstraße の中心都市だ。カッコウ鉄道の蒸気保存列車は、町を訪れる観光客にとってアトラクションの有力な選択肢になっている。

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カッコウ鉄道の蒸気列車
エルフェンシュタイン Erfenstein 停留所にて(2010年)
Photo by Fischer.H at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番22 フランクフルト歴史鉄道 Historische Eisenbahn Frankfurt

フランクフルト・アム・マイン Frankfurt am Main は、ヨーロッパの金融の中心地だ。マイン川のほとりに、2014年に完成した欧州中央銀行 Europäische Zentralbank のスタイリッシュな高層ビルがそびえている。その建物と川岸との間にある公園に、年数回、古典蒸機や赤いレールバスによる観光列車が現れる。

1978年に設立されたフランクフルト歴史鉄道協会 Historische Eisenbahn Frankfurt e.V. が実施しているこの保存運行は、マイン川沿いに残されたフランクフルト港湾鉄道 Hafenbahn Frankfurt と呼ばれる単線の線路が舞台だ。本来は貨物線なのだが、中心部では路面軌道や道端軌道、さらには公園の芝生軌道にも変身し、都市景観にすっかり溶け込んでいる。

列車の起終点は、旧市街レーマー広場 Römer に近い歩行者専用橋アイゼルナー・シュテーク Eiserner Steg のたもとだ。走行ルートは2方向で、東港コースは、ここから東進してマインクーア Mainkur の信号所まで(下注)、また西港コースは西進してグリースハイム Griesheim の貨物駅まで、それぞれ行って折り返してくる。

*注 東港コースでは、欧州中央銀行ビルの完成に合わせて停留所が新設され、乗降ができるようになった。

協会関連ではもう一つ、鉄道ファンが楽しみにしている年中行事がある。ペンテコステ(聖霊降臨日)に催されるケーニヒシュタイン・イム・タウヌスの駅祭り Bahnhofsfest Königstein im Taunus だ。

フランクフルトの鉄道愛好家団体がこぞって参加する祭りで、港湾鉄道ではゆっくりとしか走れない蒸機が、この日ばかりは「出力全開でタウヌスへ Mit Volldampf in den Taunus」をモットーに、フランクフルト・ヘーヒスト Frankfurt-Höchst から会場の駅まで、ケーニヒシュタイン線 Königsteiner Bahn の上り坂を数往復する。

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EZB(欧州中央銀行)停留所のレールバス(2015年)
Photo by Urmelbeauftragter at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
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ケーニヒシュタイン駅祭り(2007年)
Photo by EvaK at wikimedia. License: CC BY-SA 2.5
 

メーターゲージ(1000mm軌間)の蒸気保存鉄道もいくつかある。

項番17 ゼルフカント鉄道 Selfkantbahn

ゼルフカント鉄道は、ドイツ最西端、オランダ国境間近のゼルフカント Selfkant 地方で、1971年から50年以上の歴史をもつ老舗の保存鉄道だ。走っているルートはもとガイレンキルヘン郡鉄道 Geilenkirchener Kreisbahn といい、標準軌線から離れたこの地域の小さな町を縫いながら、オランダ国境まで延びていた延長37.7kmの軽便線だった。

衰退する軽便線の例にもれず、ここも1950年代から段階的に廃止されていくが、1973年に全廃となる前に、鉄道愛好家たちが一部区間を借りて保存運行を始めた。これが現在のゼルフカント鉄道の起源になる。現在のルートは5.5kmと、全盛時に比べればささやかな規模だが、田舎軽便の面影を色濃く残していて、貴重な存在だ。

起点のシーアヴァルデンラート Schierwaldenrath はのどかな村で、車両基地を兼ねた駅構内が不釣り合いなほど大きく見える。蒸気列車はここから東へ走る。一面の畑と疎林を縫い、いくつかの集落と停留所を経ながら、およそ25分で終点のギルラート Gillrath に到着する。かつて線路はDB線のガイレンキルヘン Geilenkirchen 駅まで続いていたが、すでに撤去され、跡地は小道になっている。

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シーアヴァルデンラート駅
20号機ハスペ Haspe と101号機シュヴァールツァッハ Schwarzach(2012年)
Photo by Alupus at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

項番30 ブロールタール鉄道「火山急行」Brohltalbahn "Vulkan-Expreß"

「ヴルカーン・エクスプレス(火山急行)Vulkan-Expreß」は、細々とした貨物輸送で存続していたブロールタール鉄道を活性化するために、地元の肝いりで1977年に走り始めた保存観光列車だ。ライン左岸の町ブロール Brohl を起点に、背後のアイフェル高原に向かう。ふだんはディーゼル牽引だが、週末には蒸機も登場する。

アイフェル高原には、小火山やマール、カルデラ湖といった火山地形が点在していて、一部は車窓からも見える。列車の愛称は、スイスの有名な「氷河急行」を連想させ、それとの対比で列車の特色をアピールするものだ。DBの主要幹線(ライン左岸線)に接するという地の利もあって、列車は確実に人気を得てきた。今もシーズン中は、月曜を除きほぼ無休という、保存鉄道には珍しく密な運行体制がとられている。

17.5kmのルートは、高原に源をもつ支流ブロールバッハ川 Brohlbach に沿って続く。しばらくは谷の中で、周囲が開けてくるのは、連邦道A61 の高架をくぐったニーダーツィッセン Niederzissen あたりからだ。サミットのエンゲルン Engeln に至る最終区間には、50‰の急勾配があり、かつてはラックレールが敷かれていた。

これとは別に、鉄道には港線 Hafenstrecke という、ブロール駅からラインの河港に通じる2.0kmの短い支線もある。こちらは現在、毎週木曜に、ライン川クルーズ船とのタイアップで列車が1往復している。

*注 鉄道の詳細は「火山急行(ブロールタール鉄道) I」「同 II」参照。

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DB線をまたぐ港線の高架橋(2010年)
Photo by tramfan239 at flickr. License: CC BY-NC 2.0
 

最後に特殊鉄道を2か所挙げておこう。

項番16 ドラッヘンフェルス鉄道 Drachenfelsbahn

ライン川を河口から遡っていくときに、右岸で最初に目に入る山がドラッヘンフェルス Drachenfels だと言われる。山名は、竜(ドラゴン)の岩山を意味する。標高321mとそれほど高くはないが、ライン渓谷の下流側の入口に位置していて、恰好の展望台だ。

1883年、リッゲンバッハ式ラックレールを用いた鉄道が、河畔の町ケーニヒスヴィンター Königswinter から山頂へ向けて建設された。延長1.5km、高度差220mを最大200‰の勾配で上る。スイスのリギ鉄道の全通から10年、ドイツで旅客用として初めて導入されたラック鉄道だった。

現在使われている車両は、全5両のうち4両が1955~60年製だ。車齢から見ればもはや古典機だが、モスグリーンの車体はよく磨かれ、艶光りしている。

鉄道には列車交換ができる中間駅がある。駅名のシュロス・ドラッヘンブルク(ドラッヘンブルク城)Schloss Drachenburg は、付近にある尖塔つきの立派な城館のことだが、実は、鉄道の開通に合わせて実業家の貴族が建てた邸宅だ。12世紀の「本物」の古城は、終点駅から小道を少し登った山頂に、廃墟となって残っている。

*注 鉄道の詳細は「ドラッヘンフェルス鉄道-ライン河畔の登山電車」参照。

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山頂駅に向かうラック電車(2021年)
© Superbass / CC-BY-SA-4.0 (via Wikimedia Commons)
 

項番11 ヴッパータール空中鉄道 Wuppertaler Schwebebahn

川の上を走る懸垂式モノレール、ヴッパータール空中鉄道 Wuppertaler Schwebebahn(下注)は、ルール地方の南に接する産業都市ヴッパータール Wuppertal のシンボル的存在だ。開業は1901~03年で、世界最古のモノレールとされる。

*注 原語の Schwebe は、英語の float に相当し、宙に浮いていることを意味する(吊り下がるという意味はない)。日本語訳の「空中鉄道」は、原語のニュアンスを汲んでいる。

実は、ヴッパータール市の歴史はそれより新しい。ヴッパー川の谷(ヴッパータール)Wuppertal にある3つの町が、南の丘陵上にある2つの町とともに1929年に合併して誕生した。市の中心軸はヴッパー川であり、それに沿うこの鉄道も、地域をまとめる役割の一端を担ったのかもしれない。

フォーヴィンケル Vohwinkel~オーバーバルメン Oberbarmen 間13.3kmのうち、起点側のざっと1/4は道路の上空で、残り3/4が川の上空を通っている。用地確保が難しい市街地を避けた結果だが、流れをまたぐ鉄骨の支柱と蛇行する高架軌道という大掛かりな構造物から、「鋼鉄のドラゴン Stahlharte Drache」のあだ名が生まれた。

モノレールは、平日日中3分おき、日曜祝日でも6分おきという高頻度で走っている。待たずに乗れる便利な移動手段だ。全線の所要時間は約25分。車両は片方向にしか走れないので、終点ではコンパクトな転回ループを通って折り返す。

ちなみに、懸垂式では長い間世界最長の路線でもあったが、1999年に千葉都市モノレールが全線開業して、首位を譲った。

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ヴッパー川の上空を行くモノレール
ファレスベッカー・シュトラーセ Varresbecker Straße 停留所付近(2016年)
Photo by Joinsi at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

次回は、ドイツ南部の主な保存・観光鉄道について。

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