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2024年2月

2024年2月22日 (木)

ニュージーランドの保存鉄道・観光鉄道リスト II-南島

前回の北島編に続いて、今回はニュージーランド南島にある主な保存・観光鉄道を見ていきたい。

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フェリーミード鉄道ムーアハウス駅(2019年)
Photo by Kevin Prince at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0
 

保存鉄道・観光鉄道リスト-ニュージーランド
http://map.on.coocan.jp/rail/rail_nz.html

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「保存鉄道・観光鉄道リスト-ニュージーランド」画面

項番17 ミッドランド線(トランツアルパイン号)Midland Line (TranzAlpine)

キーウィレール KiwiRail(下注1)による南島の定期旅客列車は、観光用の2本しか残っていない。その一つが、東岸のクライストチャーチ Christchurch と西岸のグレイマウス Greymouth との間を4時間50分かけて走るトランツアルパイン号 TranzAlpine(下注2)だ。旅行者に人気の高い列車なので、夏のシーズン中は毎日1往復、オフシーズンでも金~月曜の週4日間運行されている。

*注1 旧ニュージーランド国鉄の路線網のインフラ管理と列車運行を行っている国有企業
*注2 アルプス横断を意味する名詞 “transalpine” の、”ns” の綴りをニュージーランドの略称 ”nz” に変えた造語。

トランツアルパインの走るルートは、ミッドランド線 Midland Line と呼ばれる。南島北部本線のロルストン Rolleston で分岐してグレイマウスまで、長さは 211km。南島の背骨をなすサザンアルプス Southern Alps を越えていく本格的な山岳横断路線だ。

クライストチャーチから乗ると、広大なカンタベリー平野が尽きる山裾のスプリングフィールド Springfield を境に、車窓風景が一変する。ワイマカリリ川 Waimakariri River の深い峡谷を高い位置から見下ろし、U字谷の背後に連なるアルプスの雄大な眺めを堪能しているうちに、路線のサミット、標高737mのアーサーズ・パス Arthur’s Pass 駅に到着する。

同名の峠の下を貫く長さ8554mのトンネルは、西に向かって30.3‰の下り一方という異例の設計だ。そのため、かつては蒸機で対応できず、この区間だけ電化されていた。今でも難所であることは変わりなく、西から坂を上ってくる30両の運炭列車に強力なディーゼル機関車が5台つく。一方、トンネルを抜けた西側はU字の広い谷底になり、列車は穏やかなペースで走り抜けていく。

*注 詳細は「ミッドランド線 I-トランツアルパインの走る道」「同 II-アーサーズ・パス訪問記」参照。

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アーサーズ・パス駅に入線する
クライストチャーチ行きトランツアルパイン号(2008年)
Photo by Maksym Kozlenko at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

項番18 ウェカ・パス鉄道 Weka Pass Railway

内陸のアムリ平原 Amuri Plain を縦断する旧ワイアウ支線 Waiau branch は、主役になり損ねた路線だ。1870年代の計画では、南島本線の一部になることが想定されていた。1882年から1919年の間にワイパラ Waipara から66km進んだワイアウ Waiau まで完成したものの、ルート上に立ちはだかる峠道の険しさから、結局、より海岸に近い代替線に取って代わられた。

ウェカ・パス(ウェカ峠)Weka Pass と呼ばれるその峠道は、標高249mのサミットまで、蒸機にとって厳しい18~22‰の勾配が数km続いている。1978年に一般運行が終了した後、1984年からここで保存列車が走り始めた。運行区間は順次延伸され、1999年に峠を越えた現在の終点ワイカリ Waikari までが開通している。

列車が出発するのは、南島北部本線のワイパラ駅から約500m先に設けられたグレンマーク Glenmark 駅だ(下注)。往路は一貫して上り坂だが、とりわけ中盤以降は勾配がきつくなり、線路がカーブするたび、国鉄A形蒸機の力強い走りっぷりを目撃できる。

*注 機関庫は本線ワイパラ駅の旧ヤードにあるが、客扱いはグレンマーク駅で行われる。

往路の所要は45分。終点ワイカリ駅は、国道の踏切が廃止されたため、その手前に新設された。転車台があるので、復路でも蒸機は前を向いて走る。

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ウェカ・パスを上るA形428号機(2016年)
Photo by nzsteam at flickr. License: CC BY 2.0
 

項番19 クライストチャーチ路面軌道 Christchurch Tramway

ニュージーランドで唯一、市内の街路をトラム車両が走っているのが、南島最大の都市クライストチャーチ Christchurch だ。19世紀に開業したオリジナルの路面軌道は1954年に全廃されてしまったが、中心部の大通りの改修計画に合わせて、1995年に再敷設された。フェリーミード路面軌道の運営団体から借りた古典車両がレトロな雰囲気を醸し出し、たちまち市内を訪れる観光客の人気をさらった。

ルートは環状線になっていて、アーケードの中にあるカシードラル・ジャンクション Cathedral Junction(下注)が起点だ。トラムはそこから大聖堂前の広場を通り抜け、中心街を時計回りに巡った後、再び起点に戻ってくる。沿線には大聖堂のほか、エーヴォン川 Avon River の川舟(パント)乗り場や植物園 Botanical Garden、ハグリー公園 Hagley Park など観光スポットが点在していて、それらをつなぐ交通手段でもあった。

*注 車庫への引込線が分岐しているので、ジャンクションの名がある。

2011年2月にクライストチャーチを襲った大地震では、軌道も被害を受けて、2013年11月まで約1000日の間、運行ができなかった。その間に、ハイストリートを含む南側のショッピング街に第2の環状線の建設が進められ、追って2015年に開業した。現在、トラムはまず第2環状線を巡って起点に戻り、次に従来の第1環状線を巡るというルートで運行されている。総延長は3.9kmあり、全線の所要時間は50分だ。

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アーケードの中のカシードラル・ジャンクション停留所
手前が環状線、右への分岐が車庫への引込線(2017年)
Photo by Krzysztof Golik at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
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大聖堂広場の1910年製ブーン・トラム Boon Tram 152号
(2020年)
Photo by Bernard Spragg. NZ at wikimedia. License: CC0 1.0
 

項番20 フェリーミード鉄道 Ferrymead Railway
項番21 フェリーミード路面軌道 Ferrymead Tramway

クライストチャーチ南東郊にあるフェリーミード文化遺産公園 Ferrymead Heritage Park は、20世紀初頭の日常生活を再現した野外博物館だ。当時の町並みの中でさまざまな保存団体が実演や展示をしているなか、中心的存在となっているのが蒸気列車と路面電車の保存活動だ。前者はフェリーミード鉄道、後者はフェリーミード路面軌道と呼ばれ、どちらも公園域に古典車両を走らせる走行線を維持している。

フェリーミード鉄道は、そもそも国内初の公共鉄道として、クライストチャーチとフェリーミードの船着き場の間で1863年に開業した歴史的な路線の名称だ(下注)。より水深のあるリッテルトン港 Lyttelton Port への路線が開通するまでの5年間しか使われなかった短命の路線だが、その廃線跡が走行線に活用されている。

*注 ニュージーランドの鉄道黎明期の過程については、「ニュージーランドの鉄道史を地図で追う I」参照。

鉄道は、旧国鉄や地方の産業鉄道で稼働していた車両の保存と修復を行っているカンタベリー鉄道協会 Canterbury Railway Society が運営している。1964年からこの地で活動を始め、1977年に正式開業した。ニュージーランドでは北島のグレンブルック鉄道と並ぶ老舗の保存鉄道だ。それだけに車両コレクションも国内最大規模で、蒸気、ディーゼルのみならず、電気機関車や連節電車(EMU)もリストに含まれている。

主として毎月第1日曜に行われる保存運転は、タウンシップ(構内町)に造られたムーアハウス Moorhouse 駅から出発する。そして、南側の三角線(下注)とヒースコート川 Heathcote River の河口に沿う眺めのいい北ルートの、計2kmあまりを走って戻ってくる。後者には架線が張られており、電気運転も可能だ。

*注 三角線の一方の端部は、旧国鉄の南部本線 Main South Line に接続され、車両の出入りに使用されている。

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ムーアハウス駅を出発したD形140号機(2014年)
Photo by nzsteam at flickr. License: CC BY 2.0
 

一方、フェリーミード路面軌道は、地元クライストチャーチをはじめ南島各都市で走ったトラムを収集保存している路面軌道歴史協会 Tramway Historical Society が運営する。当地で開業したのは1968年で、以後十数年かけて施設が拡張され、現在は2棟の保存車庫と約1.5kmの走行線を持っている。

1435mm軌間、直流600V電化の走行線では、毎週末と祝日に動態車両による運行が実施される。需要に応じて続行あるいはトレーラーの連結運転が行われ、特定のイベントでは路面蒸機も登場する。

ルートは、公園域の北端にある車庫前から始まり、しばらくは専用軌道で、タウンシップに入ると併用軌道に変わる。終端は街区を回るループになっていて、鉄道のムーアハウス駅前が休憩地点だ。鉄道との間を乗継ぎするのも楽しいが、運賃はそれぞれに必要で、公園の入場料とも別建てなので注意のこと。

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1881年英国キットソン製蒸気トラム(2012年)
Photo by Bernard Spragg. NZ at wikimedia. License: CC0 1.0
 

項番25 ダニーディン鉄道(旧 タイエリ峡谷鉄道)Dunedin Railways (ex. Taieri Gorge Railway)

幻想的かつ壮麗な外観を誇るダニーディン Dunedin 駅から、この鉄道の観光列車は出発する。南島の東岸に沿う幹線の主要駅として賑わったのは遠い昔の話で、今では他に旅客列車は走っておらず、事実上、ダニーディン鉄道専用だ。

旧称であるタイエリ峡谷鉄道 Taieri Gorge Railway の運行が始まったのは1979年(下注)のことだ。それから35年の間、列車はダニーディン駅から南下し、オタゴ・セントラル支線 Otago Central Branch でタイエリ峡谷を遡ったプケランギ Pukerangi を往復していた。一部の列車はさらに上流へ進んで、ミドルマーチ Middlemarch に達した。

*注 タイエリ峡谷の観光列車は1950年代からあったが、国鉄が運行から撤退したため、この年、地元資本で設立された財団が引き継いだ。

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ダニーディン駅に停車中のタイエリ峡谷行き観光列車(2016年)
Photo by denisbin at flickr. License: CC BY-ND 2.0
 

2014年に現在の名称に変更されたのは、海沿いの南部本線 Main South Line を北上する新たな観光列車が運行され始めたからだ。現在は、タイエリと合わせて3本体制になっている。

インランダー号 The Inlander は、かつての看板を引き継いでタイエリ峡谷へ向かう。ただし、以前よりずっと手前のヒンドン Hindon で折り返す午前半日コースだ。名所のウィンガトゥイ高架橋 Wingatui Viaduct は渡るが、峡谷の側壁を上っていく後半の見どころまでは行かない。

シーサイダー号 The Seasider は午後出発の半日コースで、南部本線を北上して、45.5km先のマートン Merton 旧駅で折り返す。太平洋を高みから見下ろすパノラマ区間を通過するのがポイントだ。また、途中のワイタティ Waitati 駅またはアーク・ブルワリー(ビール醸造所)Arc Brewery 前で降りて観光した後、戻りの列車に拾ってもらうという選択肢もある。

ヴィクトリアン号 The Victorian は、白亜の建造物群で有名なオマルー Oamaru を往復する。オマルーでは約3時間滞在するので、ゆっくり街歩きができる。鉄道好きなら、港を走るオマルー蒸気鉄道修復協会 Oamaru Steam and Railway Restoration Society(項番24)の蒸気列車にも注目したい。

*注 タイエリ峡谷ルートの詳細は「タイエリ峡谷鉄道-山峡を行く観光列車」参照。

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ヒンドン駅手前でタイエリ峡谷を横断する道路併用橋(2012年)
Photo by Paul Carmona at flickr. License: CC BY-NC-ND 2.0
 

項番26 キングストン・フライヤー Kingston Flyer

キングストン・フライヤーは、ニュージーランドで最もよく知られた歴史的列車名称の一つだろう。ルーツは19世紀に遡る。1886年に、南島南部本線のゴア Gore とキングストン Kingston の間を走る旅客列車に初めてこの名称が使われた。キングストンはワカティプ湖 Lake Wakatipu の南端にある船着き場で、ここから湖畔の有名リゾート、クイーンズタウン Queenstown に向けて蒸気船が出航していた。キングストン・フライヤーはリゾート列車の走りだったのだ。

自動車の普及で1930年代以降、定期列車は廃止されたものの、臨時観光列車の伝統は、1979年に発生した水害でルートの一部が廃止されるまで続いた。現在のキングストン・フライヤーの運行は、被害を免れたキングストン~フェアライト Fairlight 間13.7kmで1982年に開始されている。

それから数十年が経つが、この間にオーナーが交替するなどで、鉄道は何度か廃止の危機にさらされてきた。とりわけ2013年末からはずっと運休続きで、ようやく2022~23年のシーズンに再開されたばかりだ。

拠点はキングストンに置かれ、ここからシーズン中、毎日曜日に列車が運行される。緑の古典客車を牽くのは、かつて本線の主役を担ったAb形と呼ばれる大型のテンダー蒸機だ。しかしこれでさえ、氷河作用で形成されたU字谷の大自然の中では小さく見える。

湖を後に約40分走って、終点フェアライトに到着する。駅といっても広い牧草地のまっただ中にホームと小さな駅舎があるだけで、周りに一軒の家さえ見えない場所だ。折返しを待つ20分の間に、蒸機は三角線で機回しされて、再び列車の先頭につけられる。

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キングストン駅で給水中のAb形778号機(2012年)
Photo by Bernard Spragg. NZ at wikimedia. License: CC0 1.0
 

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2024年2月 7日 (水)

ニュージーランドの保存鉄道・観光鉄道リスト I-北島

植民地と自治領以来の強い文化的影響を受けて、南半球のイギリス Britain of the South とさえ呼ばれるニュージーランドは、保存鉄道の分野でもその呼び名にふさわしい充実ぶりを見せている。リストに掲げた20数件の路線のうち、主なものを北島と南島に分けて紹介したい。今回は北島について。

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グレンブルック駅の国産蒸機Ja形(左)とWw形(2017年)
Photo by GPS 56 at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

保存鉄道・観光鉄道リスト-ニュージーランド
http://map.on.coocan.jp/rail/rail_nz.html

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「保存鉄道・観光鉄道リスト-ニュージーランド」画面

ニュージーランドの幹線鉄道網は、日本のJR在来線と同じ1067mm(3フィート6インチ)軌間だ。廃止された支線を復活させて、この軌間の保存蒸機やディーゼル機関車を走らせているところがいくつかある。

項番1 ベイ・オヴ・アイランズ・ヴィンテージ鉄道 Bay of Islands Vintage Railway

北島の北側に角のように延びるノースランド半島 Northland Peninsula の一角を、この保存鉄道は走っている。もとは国鉄ノース・オークランド線 North Auckland line の最北端で、オプア支線 Opua branch line とも呼ばれた、内陸から港町に向かうローカル線の一部だ。

*注 オプア支線はノース・オークランド線 North Auckland line で最初の開業区間で、1868年にカワカワの炭鉱からオプア Opua の港へ石炭を運ぶ馬車軌道として造られた。

ベイ・オヴ・アイランズ・ヴィンテージ鉄道は1985年に開業したが、その後、財政難で休止と再開を繰り返した。現在は、支線の中間駅だったカワカワ Kawakawa を拠点に、約7km下ったテ・アケアケ Te Akeake(停留所)までの区間を、蒸気またはディーゼル牽引で往復している。往復の所要時間は90分。

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カワカワ駅で発車を待つ蒸気列車(2009年)
Photo by W. Bulach at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

ルートの呼び物は、カワカワの市街地を貫いている長さ約300mの道路併用区間だ。両端の車道との交差部に信号機はなく、クルマや通行人は阿吽の呼吸で、進入する列車に道を譲る。町を出た後は農地のへりを下っていき、中間駅タウマレレ Taumarere の先に、カワカワ川(!)Kawakawa River に架かる長いトレッスル橋がある。

テ・アケアケは川べりにある暫定の折り返し点で、鉄道はこの先、オプア港までの復元を目標にしている。現行ルートでも車窓はけっこう変化に富んでいるが、将来区間にはトンネルや入江の眺めもあり、魅力はいっそう深まることだろう。

ところで、英語では保存鉄道を通常 "heritage railway" というが、ニュージーランドでは、この鉄道のように "vintage railway" と称することが多い。適切な訳が思いつかないので、リストではすべてヴィンテージ鉄道としている。

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カワカワ市街地の併用軌道(2012年)
Photo by Reinhard Dietrich at wikimedia. License: CC0 1.0
 

項番5 グレンブルック・ヴィンテージ鉄道 Glenbrook Vintage Railway

オークランドでグレンブルック Glenbrook と言えば、誰しも南郊にある同名の製鉄所を思い浮かべることだろう。この保存鉄道は、そこへの貨物線が分岐するワイウク支線 Waiuku branch の末端区間を舞台にしている(下注)。1967年に廃止された区間だが、その10年後に保存団体が、藪を切り開き、本線運行から引退した蒸気機関車や客車をここへ運んで走らせ始めた。今ではそれが、蒸機10両以上を保有する同国有数の保存鉄道に成長している。

*注 ワイウク支線のうち、根元区間のパトゥマホエ Patumahoe ~グレンブルック間は製鉄所への貨物支線として現在も使われている。

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ワイウク郊外を行くJa形重連(2013年)
Photo by GPS 56 at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

鉄道の拠点は、分岐駅のグレンブルックにある。そこから港町ワイウクのヴィクトリア・アヴェニュー Victoria Avenue 駅に至る7.4kmで、シーズンの主として日曜祝日に、かつて本線で使われた蒸機による観光列車が運行されている。

グレンブルックは台地の上で、河口のワイウクへ向けては、牧草地の中に下り坂が続く。往路の蒸機は逆機運転で、終点まで20分間ノンストップだ。機回しの後の復路は上り坂になるため、前を向いた蒸機の力強い走りが期待できる。中間地点のプケオワレ Pukeoware にある鉄道の修理工場で、15分の見学休憩があり、小旅行は往復で70分になる。

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グレンブルック駅の信号所(2013年)
Photo by itravelNZ® at flickr. License: CC BY-NC 2.0

次は、険しい峠越えに挑戦した19世紀の鉄道技術の結晶ともいうべき区間について。

項番9 ラウリム・スパイラル Raurimu Spiral

朝、オークランド Auckland から北島本線の長距離列車ノーザン・エクスプローラー Northern Explorer(下注)に乗り込むと、ちょうどお昼ごろにその鉄道名所にさしかかる。ラウリム・スパイラルとは、北島の中心部、タウポ火山群 Taupo Volcanic Zone の広大な裾野のへりにある、スパイラル(日本でいうループ線)を含んだ複雑な山岳ルートのことだ。

*注 北島の二大都市オークランドとウェリントンを結ぶ観光列車。現在、週3往復で、ウェリントン行きが月、木、土曜日に、オークランド行きが水、金、日曜日に運行される。所要10時間40分~11時間5分。

名所区間は、麓にある標高592mのラウリム Raurimu 旧駅(下注)から始まる。線路は半径151m(7チェーン半)のオメガカーブで反転した後、北斜面に回り込んで、長さ385mのトンネルに入る。この内部にスパイラルの始点があり、もう1本のトンネルを介しながら時計回りに円を描いていく。途中で左車窓に、ラウリム旧駅や先ほど通過した線路が一瞬見えるはずだ。

*注 ラウリム駅は1977年に廃止されたが、待避線は動態で現存する。

地形を巧みに利用したルートによって、鉄道は、勾配を蒸機の牽引能力内の1:50(20‰)に抑えながら、トンガリロ国立公園 Tongariro National Park の玄関口、ナショナル・パーク National Park 駅まで215mの高低差を克服した。この間の直線距離は約6kmだが、路線長は11.6kmとほぼ2倍の長さがある。

オークランドに向かう北行きのノーザン・エクスプローラーも、ナショナル・パーク駅の発車は同じ時刻だ。昼過ぎの時間帯、この名所を通って麓に降りていく。

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空から見たラウリム・スパイラル(2012年)
Photo by Jenny Scott at flickr. License: CC BY-NC 2.0
 

項番11 リムタカ・インクライン Rimutaka Incline

ウェリントンからマスタートン Masterton 方面に通じるワイララパ線 Wairarapa Line には、ニュージーランドの鉄道で第2の長さを誇る8798mのリムタカトンネル Rimutaka Tunnel がある。トンネルとその前後区間は1955年の開通だ。

それ以前の旧線は、まったく別の峠越えルートを通っていた。特に東斜面には3マイル(4.8km)の間、平均66.7‰という極めて急な勾配区間があった。そこで使われていたのがフェル式 Fell system だ。これは、2本の走行レールの間に双頭レールを横置きし、それを車両側の水平駆動輪で左右から挟むことによって推進力を高める方式で、幹線で20世紀半ばまで使用していたのは、この区間が唯一だった。

麓の基地にはそのための蒸気機関車H形が配置され、戦後に導入された気動車も、センターレールは使わないものの、それに支障しないよう車高を上げた特別仕様車だった。

新線開通後、廃線跡は峠のトンネルを含めて、リムタカ・レール・トレール(自転車・徒歩道)Rimutaka Rail Trail に転用され、保存されている。役目を終えたH形蒸機は1両だけ残され、東麓のフェザーストン Featherston に設立されたフェル機関車博物館 Fell Locomotive Museum で静態展示されている。これとは別に、西麓のメイモーン Maymorn 駅構内では、リムタカ・インクライン鉄道遺産財団 Rimutaka Incline Railway Heritage Trust が、峠区間の復元を目標にして活動中だ。

*注 詳細は「リムタカ・インクライン I-フェル式鉄道の記憶」「同 II-ルートを追って」参照。

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現役時代のサミット駅(1880年代)
Photo from Godber Collection, Alexander Turnbull Library at wikimedia. License: public domain
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サミットトンネル東口、トンネル内部に続くフェル式レール(1908年)
Photo from Godber Collection, Alexander Turnbull Library at wikimedia. License: public domain

軽便線や市内軌道、鋼索線にもそれぞれ見どころがある。

項番2 ドライヴィング・クリーク鉄道 Driving Creek Railway

3km走る間にトンネル3本、橋梁10本、オメガループが2か所、スイッチバックは5か所…。しかも7番目の橋梁は2層建てで、タイミングを合わせた続行列車と、上下両層で同時に渡っていく。最後に控えるスイッチバックは、尾根から空中に突き出たデッドエンドで、乗客は見晴らしに感嘆しつつも目の前のスリルに肝を冷やす。

ドライヴィング・クリーク鉄道は、北島コロマンデル半島のコロマンデル Coromandel 郊外にある381mm(15インチ)軌間の観光鉄道だ。技巧を凝らして手造りされたレイアウトは、テーマパークのアトラクションも顔負けのレベルに達している。

意外なことに、鉄道の創設者は陶芸家だった。彼は1975年に、陶芸工房で使う粘土と薪を山から運び下ろすために軌道を造り始めた。ところが、工房を訪れた客を乗せるサービスが評判を呼び、しだいに線路は、裏山一帯を巡るようにして上へ上へと延伸されていった。

麓に建つ工房前から、列車は出発する。線路は最大1:14(71‰)という急な上り坂だ。数々のマニアックなポイントを経て到着した終点には、2004年に完成したアイフル・タワー Eyefull Tower(アイフェル・タワー Eiffel Tower、すなわちパリのエッフェル塔のもじり、下注)という展望台がある。標高165mの高みからコロマンデル・ハーバー Coromandel Harbour や対岸の山並みの眺めを存分に楽しんだ客は、再び列車に乗り込み、麓に戻っていく。往復1時間15分。

*注 展望塔の構造は、オークランド港にある同国最古の灯台ビーン・ロック灯台 Bean Rock Lighthouse をモデルにしている。

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(左)2層建ての第7橋梁
(右)空中に突き出た第5スイッチバック(いずれも2012年)
Photo by Reinhard Dietrich at wikimedia. License: CC0 1.0
 

項番4 ウェスタン・スプリングズ路面軌道 Western Springs Tramway

オークランド市内のウェスタン・スプリングズ Western Springs にあるMOTAT(輸送技術博物館 Museum of Transport and Technology)が、館外に敷いた軌道線で、動態保存しているトラム車両を走らせている。

博物館には、グレート・ノース・ロード Great North Road とエーヴィエーション・ホール Aviation Hall という離れた2か所の構内があり、軌道線は、訪問者がこの間を移動するための交通手段という位置づけだ。そのため、クリスマスの日を除き年中無休、15分から30分間隔で運行され、運賃は取らない。

グレート・ノース・ロードの車庫から出てきたトラムは、同名の停留所で客を乗せた後、街路と公園に挟まれた専用線を走り出す。中間に停留所が4か所あるが、列車交換(下注)が行われるオークランド動物園 Auckland Zoo 以外はリクエストストップだ。約8分で、航空機の展示ホールがある終点に到着する。

*注 列車交換は、15分間隔運行のときに行われる。

MOTATの保存トラムには、地元オークランドやファンガヌイ Whanganui の1435mm標準軌車のほか、ウェリントン Wellington から来た1219mm(4フィート)軌間の車両も含まれている。どちらも走れるように、軌道は全線にわたって3線軌条だ。

なお、エーヴィエーション・ホールの敷地の奥には、1067mm軌の蒸気鉄道の機関庫と、長さ約700mの走行線がある。毎月1回のライブ・デーには機関庫が公開され、保存運行が行われる。これもまた楽しみだ。

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終点エーヴィエーション・ホールに集結した古典車両群(2015年)
Photo by GPS 56 at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

項番14 ウェリントン・ケーブルカー Wellington Cable Car

ケーブルカーで高台に上り、市街とその先に広がるウェリントン・ハーバー Wellington Harbour の絶景を眺めるというのが、ウェリントン観光の一つの定番だ。赤い車体のケーブルカーは、首都の目抜き通りラムトン・キー Lambton Quay の一角にある奥まったホームから出発する。前半はトンネルを出たり入ったりを繰り返すが、後半で一転空が開け、後方に町と海の美しいパノラマが見えてくる。

公式サイトによると、路線は長さ612m。17.86%(1:5.06)の一定勾配で、高度差120mを上りきる。山上駅はウェリントン植物園に隣接していて、テラスからの展望を楽しんだ後は、緑あふれる園地の散策に出かけるのが通例だ。

ケーブルカーは1902年の開通だが、当時のシステムは1067mm軌間の全線複線で、サンフランシスコに見られるような循環式と、釣瓶型の交走式とのハイブリッド仕様だった。すなわち、全線を循環するケーブルが通っていて、下る車両はそれを装置でつかむことにより降下する(=循環式)。もう一方の車両は、別のケーブルで山上駅の駆動力を持たない滑車を介してつながっているため、下る車両に連動して引き上げられた(=交走式)。また、緊急ブレーキ用に、フェル式レールも設置されていた。

しかし設備の老朽化が進み、1979年に軌間1000mm、単線交走式に置き換えられた。現在は、ケーブルでつながった2つの車両が、山上駅の駆動力を持つ滑車によって上下する。中間駅タラヴェラ Talavera に、行き違うための待避線がある。

英語では、循環式のケーブルカー(およびロープウェー)を "cable car" といい、交走式は "funicular" と呼んで区別する。この鉄道は今もケーブルカーを名乗っているが、これは旧方式を使っていた名残りに過ぎず、実際はフュニキュラーだ。

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上部駅のテラスから見るケーブルカーのパノラマ(2014年)
Photo by Sham's Personal Favourites at flickr. License: public domain

最後に、変わり種の鉄道ツアーを一つ。

項番8 フォゴットン・ワールド・アドベンチャーズ(ストラトフォード=オカフクラ線)Forgotten World Adventures (Stratford–Okahukura Line)

北島中部に、エグモント山麓のストラトフォード Stratford から山中を通って北島本線のオカフクラ Okahukura に至るストラトフォード=オカフクラ線 Stratford–Okahukura Line がある。全長143.5kmの間に、24本のトンネル、91本の橋梁、20‰の勾配が繰り返される山地横断路線だ。しかし、旅客列車は言うに及ばず、近年は貨物列車の運行もなく、路線自体が休止状態になって久しい。

この忘れられたようなルートで、2012年からエンジン付きレールカートによる走行ツアーを実施しているのが、フォゴットン・ワールド・アドベンチャーズ(忘れられた世界の冒険)Forgotten World Adventures という企画会社だ。ゴルフカートのような簡素な車両だが、ガイドを兼ねたドライバーがつくので、客は乗っているだけでいい。また、およそ15km走るごとに降りて、小休憩やティータイムがある。

ツアーは数種類用意されている。たとえば、最も手軽な半日コースでは、朝、タウマルヌイ Taumarunui の直営モーテル前に集合して、シャトル(乗合タクシー)でオカフクラの乗り場(下注)へ行く。レールカートで線路を40km走ってトキリマ Tokirima へ。ここでランチをとり、復路はまたシャトルに乗って、ラベンダー農場経由で起点に戻る。

*注 オカフクラの国道をまたぐ鉄道の高架橋が老朽化により撤去されたため、乗り場はオカフクラ駅から800m先の地点に変更されている。

1日コースなら、80km先のファンガモモナ Whangamomona まで行ける。さらに「究極 The Ultimate」コースでは、レールカートだけでストラトフォードまで全線を移動する。東海道線なら、東京駅から吉原か富士までの距離に等しい。途中、ファンガモモナで1泊して2日がかりの行程だが、鉄道趣味もここまで来ると体力勝負だ。

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(左)オカフクラのカート乗り場
(右)先行するカートを追って山中へ(いずれも2021年)
Photo by njcull at flickr. License: CC BY-NC-ND 2.0
 

次回は、南島の保存・観光鉄道について。

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