ニュージーランドの保存鉄道・観光鉄道リスト II-南島
前回の北島編に続いて、今回はニュージーランド南島にある主な保存・観光鉄道を見ていきたい。
フェリーミード鉄道ムーアハウス駅(2019年) Photo by Kevin Prince at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0 |
保存鉄道・観光鉄道リスト-ニュージーランド
http://map.on.coocan.jp/rail/rail_nz.html
「保存鉄道・観光鉄道リスト-ニュージーランド」画面 |
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項番17 ミッドランド線(トランツアルパイン号)Midland Line (TranzAlpine)
キーウィレール KiwiRail(下注1)による南島の定期旅客列車は、観光用の2本しか残っていない。その一つが、東岸のクライストチャーチ Christchurch と西岸のグレイマウス Greymouth との間を4時間50分かけて走るトランツアルパイン号 TranzAlpine(下注2)だ。旅行者に人気の高い列車なので、夏のシーズン中は毎日1往復、オフシーズンでも金~月曜の週4日間運行されている。
*注1 旧ニュージーランド国鉄の路線網のインフラ管理と列車運行を行っている国有企業
*注2 アルプス横断を意味する名詞 “transalpine” の、”ns” の綴りをニュージーランドの略称 ”nz” に変えた造語。
トランツアルパインの走るルートは、ミッドランド線 Midland Line と呼ばれる。南島北部本線のロルストン Rolleston で分岐してグレイマウスまで、長さは 211km。南島の背骨をなすサザンアルプス Southern Alps を越えていく本格的な山岳横断路線だ。
クライストチャーチから乗ると、広大なカンタベリー平野が尽きる山裾のスプリングフィールド Springfield を境に、車窓風景が一変する。ワイマカリリ川 Waimakariri River の深い峡谷を高い位置から見下ろし、U字谷の背後に連なるアルプスの雄大な眺めを堪能しているうちに、路線のサミット、標高737mのアーサーズ・パス Arthur’s Pass 駅に到着する。
同名の峠の下を貫く長さ8554mのトンネルは、西に向かって30.3‰の下り一方という異例の設計だ。そのため、かつては蒸機で対応できず、この区間だけ電化されていた。今でも難所であることは変わりなく、西から坂を上ってくる30両の運炭列車に強力なディーゼル機関車が5台つく。一方、トンネルを抜けた西側はU字の広い谷底になり、列車は穏やかなペースで走り抜けていく。
*注 詳細は「ミッドランド線 I-トランツアルパインの走る道」「同 II-アーサーズ・パス訪問記」参照。
アーサーズ・パス駅に入線する クライストチャーチ行きトランツアルパイン号(2008年) Photo by Maksym Kozlenko at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0 |
項番18 ウェカ・パス鉄道 Weka Pass Railway
内陸のアムリ平原 Amuri Plain を縦断する旧ワイアウ支線 Waiau branch は、主役になり損ねた路線だ。1870年代の計画では、南島本線の一部になることが想定されていた。1882年から1919年の間にワイパラ Waipara から66km進んだワイアウ Waiau まで完成したものの、ルート上に立ちはだかる峠道の険しさから、結局、より海岸に近い代替線に取って代わられた。
ウェカ・パス(ウェカ峠)Weka Pass と呼ばれるその峠道は、標高249mのサミットまで、蒸機にとって厳しい18~22‰の勾配が数km続いている。1978年に一般運行が終了した後、1984年からここで保存列車が走り始めた。運行区間は順次延伸され、1999年に峠を越えた現在の終点ワイカリ Waikari までが開通している。
列車が出発するのは、南島北部本線のワイパラ駅から約500m先に設けられたグレンマーク Glenmark 駅だ(下注)。往路は一貫して上り坂だが、とりわけ中盤以降は勾配がきつくなり、線路がカーブするたび、国鉄A形蒸機の力強い走りっぷりを目撃できる。
*注 機関庫は本線ワイパラ駅の旧ヤードにあるが、客扱いはグレンマーク駅で行われる。
往路の所要は45分。終点ワイカリ駅は、国道の踏切が廃止されたため、その手前に新設された。転車台があるので、復路でも蒸機は前を向いて走る。
ウェカ・パスを上るA形428号機(2016年) Photo by nzsteam at flickr. License: CC BY 2.0 |
項番19 クライストチャーチ路面軌道 Christchurch Tramway
ニュージーランドで唯一、市内の街路をトラム車両が走っているのが、南島最大の都市クライストチャーチ Christchurch だ。19世紀に開業したオリジナルの路面軌道は1954年に全廃されてしまったが、中心部の大通りの改修計画に合わせて、1995年に再敷設された。フェリーミード路面軌道の運営団体から借りた古典車両がレトロな雰囲気を醸し出し、たちまち市内を訪れる観光客の人気をさらった。
ルートは環状線になっていて、アーケードの中にあるカシードラル・ジャンクション Cathedral Junction(下注)が起点だ。トラムはそこから大聖堂前の広場を通り抜け、中心街を時計回りに巡った後、再び起点に戻ってくる。沿線には大聖堂のほか、エーヴォン川 Avon River の川舟(パント)乗り場や植物園 Botanical Garden、ハグリー公園 Hagley Park など観光スポットが点在していて、それらをつなぐ交通手段でもあった。
*注 車庫への引込線が分岐しているので、ジャンクションの名がある。
2011年2月にクライストチャーチを襲った大地震では、軌道も被害を受けて、2013年11月まで約1000日の間、運行ができなかった。その間に、ハイストリートを含む南側のショッピング街に第2の環状線の建設が進められ、追って2015年に開業した。現在、トラムはまず第2環状線を巡って起点に戻り、次に従来の第1環状線を巡るというルートで運行されている。総延長は3.9kmあり、全線の所要時間は50分だ。
項番20 フェリーミード鉄道 Ferrymead Railway
項番21 フェリーミード路面軌道 Ferrymead Tramway
クライストチャーチ南東郊にあるフェリーミード文化遺産公園 Ferrymead Heritage Park は、20世紀初頭の日常生活を再現した野外博物館だ。当時の町並みの中でさまざまな保存団体が実演や展示をしているなか、中心的存在となっているのが蒸気列車と路面電車の保存活動だ。前者はフェリーミード鉄道、後者はフェリーミード路面軌道と呼ばれ、どちらも公園域に古典車両を走らせる走行線を維持している。
フェリーミード鉄道は、そもそも国内初の公共鉄道として、クライストチャーチとフェリーミードの船着き場の間で1863年に開業した歴史的な路線の名称だ(下注)。より水深のあるリッテルトン港 Lyttelton Port への路線が開通するまでの5年間しか使われなかった短命の路線だが、その廃線跡が走行線に活用されている。
*注 ニュージーランドの鉄道黎明期の過程については、「ニュージーランドの鉄道史を地図で追う I」参照。
鉄道は、旧国鉄や地方の産業鉄道で稼働していた車両の保存と修復を行っているカンタベリー鉄道協会 Canterbury Railway Society が運営している。1964年からこの地で活動を始め、1977年に正式開業した。ニュージーランドでは北島のグレンブルック鉄道と並ぶ老舗の保存鉄道だ。それだけに車両コレクションも国内最大規模で、蒸気、ディーゼルのみならず、電気機関車や連節電車(EMU)もリストに含まれている。
主として毎月第1日曜に行われる保存運転は、タウンシップ(構内町)に造られたムーアハウス Moorhouse 駅から出発する。そして、南側の三角線(下注)とヒースコート川 Heathcote River の河口に沿う眺めのいい北ルートの、計2kmあまりを走って戻ってくる。後者には架線が張られており、電気運転も可能だ。
*注 三角線の一方の端部は、旧国鉄の南部本線 Main South Line に接続され、車両の出入りに使用されている。
ムーアハウス駅を出発したD形140号機(2014年) Photo by nzsteam at flickr. License: CC BY 2.0 |
一方、フェリーミード路面軌道は、地元クライストチャーチをはじめ南島各都市で走ったトラムを収集保存している路面軌道歴史協会 Tramway Historical Society が運営する。当地で開業したのは1968年で、以後十数年かけて施設が拡張され、現在は2棟の保存車庫と約1.5kmの走行線を持っている。
1435mm軌間、直流600V電化の走行線では、毎週末と祝日に動態車両による運行が実施される。需要に応じて続行あるいはトレーラーの連結運転が行われ、特定のイベントでは路面蒸機も登場する。
ルートは、公園域の北端にある車庫前から始まり、しばらくは専用軌道で、タウンシップに入ると併用軌道に変わる。終端は街区を回るループになっていて、鉄道のムーアハウス駅前が休憩地点だ。鉄道との間を乗継ぎするのも楽しいが、運賃はそれぞれに必要で、公園の入場料とも別建てなので注意のこと。
1881年英国キットソン製蒸気トラム(2012年) Photo by Bernard Spragg. NZ at wikimedia. License: CC0 1.0 |
項番25 ダニーディン鉄道(旧 タイエリ峡谷鉄道)Dunedin Railways (ex. Taieri Gorge Railway)
幻想的かつ壮麗な外観を誇るダニーディン Dunedin 駅から、この鉄道の観光列車は出発する。南島の東岸に沿う幹線の主要駅として賑わったのは遠い昔の話で、今では他に旅客列車は走っておらず、事実上、ダニーディン鉄道専用だ。
旧称であるタイエリ峡谷鉄道 Taieri Gorge Railway の運行が始まったのは1979年(下注)のことだ。それから35年の間、列車はダニーディン駅から南下し、オタゴ・セントラル支線 Otago Central Branch でタイエリ峡谷を遡ったプケランギ Pukerangi を往復していた。一部の列車はさらに上流へ進んで、ミドルマーチ Middlemarch に達した。
*注 タイエリ峡谷の観光列車は1950年代からあったが、国鉄が運行から撤退したため、この年、地元資本で設立された財団が引き継いだ。
ダニーディン駅に停車中のタイエリ峡谷行き観光列車(2016年) Photo by denisbin at flickr. License: CC BY-ND 2.0 |
2014年に現在の名称に変更されたのは、海沿いの南部本線 Main South Line を北上する新たな観光列車が運行され始めたからだ。現在は、タイエリと合わせて3本体制になっている。
インランダー号 The Inlander は、かつての看板を引き継いでタイエリ峡谷へ向かう。ただし、以前よりずっと手前のヒンドン Hindon で折り返す午前半日コースだ。名所のウィンガトゥイ高架橋 Wingatui Viaduct は渡るが、峡谷の側壁を上っていく後半の見どころまでは行かない。
シーサイダー号 The Seasider は午後出発の半日コースで、南部本線を北上して、45.5km先のマートン Merton 旧駅で折り返す。太平洋を高みから見下ろすパノラマ区間を通過するのがポイントだ。また、途中のワイタティ Waitati 駅またはアーク・ブルワリー(ビール醸造所)Arc Brewery 前で降りて観光した後、戻りの列車に拾ってもらうという選択肢もある。
ヴィクトリアン号 The Victorian は、白亜の建造物群で有名なオマルー Oamaru を往復する。オマルーでは約3時間滞在するので、ゆっくり街歩きができる。鉄道好きなら、港を走るオマルー蒸気鉄道修復協会 Oamaru Steam and Railway Restoration Society(項番24)の蒸気列車にも注目したい。
*注 タイエリ峡谷ルートの詳細は「タイエリ峡谷鉄道-山峡を行く観光列車」参照。
ヒンドン駅手前でタイエリ峡谷を横断する道路併用橋(2012年) Photo by Paul Carmona at flickr. License: CC BY-NC-ND 2.0 |
項番26 キングストン・フライヤー Kingston Flyer
キングストン・フライヤーは、ニュージーランドで最もよく知られた歴史的列車名称の一つだろう。ルーツは19世紀に遡る。1886年に、南島南部本線のゴア Gore とキングストン Kingston の間を走る旅客列車に初めてこの名称が使われた。キングストンはワカティプ湖 Lake Wakatipu の南端にある船着き場で、ここから湖畔の有名リゾート、クイーンズタウン Queenstown に向けて蒸気船が出航していた。キングストン・フライヤーはリゾート列車の走りだったのだ。
自動車の普及で1930年代以降、定期列車は廃止されたものの、臨時観光列車の伝統は、1979年に発生した水害でルートの一部が廃止されるまで続いた。現在のキングストン・フライヤーの運行は、被害を免れたキングストン~フェアライト Fairlight 間13.7kmで1982年に開始されている。
それから数十年が経つが、この間にオーナーが交替するなどで、鉄道は何度か廃止の危機にさらされてきた。とりわけ2013年末からはずっと運休続きで、ようやく2022~23年のシーズンに再開されたばかりだ。
拠点はキングストンに置かれ、ここからシーズン中、毎日曜日に列車が運行される。緑の古典客車を牽くのは、かつて本線の主役を担ったAb形と呼ばれる大型のテンダー蒸機だ。しかしこれでさえ、氷河作用で形成されたU字谷の大自然の中では小さく見える。
湖を後に約40分走って、終点フェアライトに到着する。駅といっても広い牧草地のまっただ中にホームと小さな駅舎があるだけで、周りに一軒の家さえ見えない場所だ。折返しを待つ20分の間に、蒸機は三角線で機回しされて、再び列車の先頭につけられる。
キングストン駅で給水中のAb形778号機(2012年) Photo by Bernard Spragg. NZ at wikimedia. License: CC0 1.0 |
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