オーストラリアの保存鉄道・観光鉄道リスト II
前回に続いて、オーストラリアの保存鉄道・観光鉄道を見ていきたい。今回はビクトリア、南オーストラリア、西オーストラリアの各州から主なものをピックアップする。
ウールシェッド・フラット Woolshed Flat 駅で 折り返しの発車を待つピチ・リチ鉄道の蒸気列車(2017年) Photo by Bahnfrend at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0 |
「保存鉄道・観光鉄道リスト-オーストラリア」
http://map.on.coocan.jp/rail/rail_australia.html
「保存鉄道・観光鉄道リスト-オーストラリア」画面 |
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ビクトリア州の鉄道路線網の軌間(線路幅)は、州間連絡路線および西部の一部区間を除くと、広軌の1600mm(5フィート3インチ)だ。州内には、この軌間の車両で保存運行している鉄道がいくつかある。
項番18 モーニントン鉄道 Mornington Railway
モーニントン鉄道は、州都メルボルン Melbourne の南郊にある蒸気保存鉄道だ。ビクトリア鉄道の、1981年に廃止された旧バクスター=モーニントン支線 Baxter - Mornington branch line のうち、終端側のムールーダック Moorooduc ~モーニントン間5.7kmを使って、1988年に開業した。
蒸気運転の主役は、ビクトリア鉄道で支線用として導入されたK形と呼ばれる軸配置2-8-0のテンダー機関車だ。ここには4両が収集されていて、その1両が運用に就いている。
運行は毎週日曜日に3往復で、基地があるムールーダックから出発し、モーニントンまで行って折り返す。旧モーニントン駅は商業地に転用されてしまったため、その手前に新設したホームと機回し線がある。なにぶん沿線は牧草地と宅地や工場が交錯する郊外地なので、車窓風景はやや平凡かもしれない。
朝のムールーダック車両基地(2016年) Photo by michaelgreenhill at flickr. License: CC BY-NC-ND 2.0 |
項番22 ビクトリアン・ゴールドフィールズ鉄道 Victorian Goldfields Railway
ビクトリア州中部には、旧金鉱地帯を走る蒸気保存鉄道がある。メルボルンからベンディゴ Bendigo 方面に向かうデニリクイン線 Deniliquin line の支線17kmを保存したビクトリアン・ゴールドフィールズ鉄道で、1986年に開業した。
起点カッスルメーン Castlemaine は、メルボルン・サザンクロス駅からデニリクイン線の列車で1時間30分。その3番線から、保存列車は出発する。現在先頭に立つのはビクトリア鉄道J形蒸機で、K形の後継として1954年に登場した最後の形式だ。この旧モルドン支線 Maldon branch line は高原地帯を横断するルートで、最大25‰のアップダウンが連続する。それで補機としてY形ディーゼル機関車が後ろにつく。
古典客車に揺られ、灌木林に覆われた沿線風景を眺めながら、終点モルドン Maldon まで45分。一帯は1850年代にゴールドラッシュで栄えた土地で、カッスルメーンもモルドンも、市街地の建物や街路に当時の雰囲気をとどめている。折返しの発車を待つ間の周辺散策も楽しい。
モルドン駅のJ形蒸機(2007年) Photo by Zzrbiker at English-language Wikipedia. License: CC BY-SA 3.0 |
項番14 ワルハラ・ゴールドフィールズ鉄道 Walhalla Goldfields Railway
ワルハラ・ゴールドフィールズ鉄道も同じように金鉱地帯の名が冠されているが、こちらは762mm(2フィート半)軌間の軽便鉄道だ。場所は州東部ギップスランド Gippsland の深い山の中で、かつて鉱山集落として栄えたワルハラ Walhalla の村の入口に拠点を置いている。
もとはモイ=ワルハラ線 Moe - Walhalla line というビクトリア鉄道の数少ない軽便路線の一つだった。開通したのは1910年で、鉱山はすでに衰退していたが、沿線の潤沢な木材の搬出に活用された。その廃線跡を利用して、1994~2002年に開業したのが現在の鉄道だ。
ワルハラ駅は最も上流で、長さ4kmのルートは、ストリンガーズ・クリーク Stringers Creek という谷川に沿って終始下っている。特に最初の約500mは谷幅が狭く、川を渡る橋梁と崖ぎわの桟道が計6本連続する見どころだ。最後にトムソン川 Thomson River の本流を斜めに渡って、終点トムソン Thomson に到着する。
片道20分、折返し準備を含めて往復で1時間。小型ディーゼル機関車がオープン客車を2~3両率いて、水、土、日曜に各3往復している。
終点トムソン駅(2007年) Photo by Travis Winters at wikimedia. License: CC BY 2.0 |
項番17 パッフィン・ビリー鉄道 Puffing Billy Railway
メルボルンの東縁を限るダンデノン山地 Dandenong Ranges の南麓にあるパッフィン・ビリー鉄道は、おそらくオーストラリアで最も有名な保存鉄道の一つだ。なにしろクリスマスの日を除いて年中無休で、かつ基本的に蒸気機関車が牽引する(下注)。762mmの軽便線には珍しく、10両以上も客車を連ねた長大編成で走るのも、訪問者の多さを裏付ける。
*注 夏の高温で火気全面禁止となる日はディーゼル代行となる。
鉄道は1900年に開業したが、一般運行の廃止後、1962年から一部区間で保存運行が始まった。現在のベルグレーヴ Belgrave ~ジェムブルック Gembrook 間25kmを走れるようになったのは、比較的新しく1998年のことだ。
人気の理由の一つは、メルボルンの中心地区から電車で約1時間というアクセスの良さだろう。もちろんそれだけではない。盛んに煙を吐く機関車、広軌を見慣れた目には驚くほど幅狭な線路、1920年代を模したレトロな駅設備と、客を迎える舞台装置も十分魅力的だ。
列車が走り出すと、ユーカリの森が手の届くところを飛び去り、カーブの先に華奢な木造のトレッスル橋が現れる。極めつけはオープン客車の窓枠に横座りして、足を車外に投げ出す伝統的マナー(?)が許されていることだ。乗車体験はどこまでも非日常感に満ちている。
なお、平日の運行は途中のレークサイド Lakeside 駅折返しで、終点ジェムブルックまで足を延ばす便は日曜日限定だ。この場合、片道1時間50分、折り返し待ちの時間を含めて往復するなら5時間半かかる。
モンバルク・トレッスル橋 Monbulk Trestle Bridge(2023年) Photo by Takeshi Aida at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0 |
項番16 シティ・サークル(メルボルン市電35系統)City Circle (Melbourne tram route 35)
メルボルンの市内トラムは、系統数24、軌道長は250kmもあって、南半球はおろか全世界で最大の規模を誇っている。車両の更新が進んで、1980年代以降の連接車が多数を占めるなか、一つだけ旧型ボギー単車のW形が集中投入されている系統がある。市内中心部を周回している観光ルート、35系統「シティ・サークル」だ。
主役のW形は1923年から30年以上にわたり製造されたメルボルンの看板形式だが、2010年代に全面改修を受けている。その際、塗色も特別色のマルーンから旧来の緑とクリームのツートンに戻された。レトロ感を振りまくW形は街路でもよく目立ち、ルートの明解さや運賃無料政策もあって、旅人の最初のメルボルン体験にはうってつけだ。
1994年の運行開始当初は、旧市街であるホドル・グリッド Hoddle Grid の外縁を回るルートで、一周40分だった。その後、拡張されて、現在はドックランズ Docklands のウォーターフロント・シティ Waterfront City が起点だ。ルートはP字状で、旧市街を一周した後、再び起点に戻っていく。全線56分。双方向に運行されていたが、運転士不足を理由に、2023年10月30日から時計回りの一方向運行になった。
伝統色をまとうW形トラム(2019年) Photo by Dietmar Rabich at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0 |
項番20 バララット路面電車博物館 Ballarat Tramway Museum
メルボルンの西100km、中央高地 Central Highlands と呼ばれる地域にあるバララット Ballarat も、かつて金の採掘で繁栄した都市だ。レトロな造りが印象的なバララット駅をはじめ、市内には19世紀後半ビクトリア朝の建築物が多数残され、観光スポットになっている。
かつてこの町にも、州都以外では国内最大と言われた路面軌道網が存在した。惜しくも1971年までに廃止されてしまったが、唯一、面影を宿す短い軌道が、市民の憩いの場ウェンドゥリー湖 Lake Wendouree の西岸に残っている。
湖畔道路の片側を通る単線1.3kmのこのルートは、現在、バララット路面電車博物館が所有する車両の走行線だ。週末・祝日と火曜の開館中、動態保存の古典トラムが運行されている。博物館への引込線から出発し、本線を往復して再び博物館に戻る20分ほどのツアーで、途中停留所での乗降も可能だ。
また、2022年に改築されたばかりの博物館棟には、地元バララットやメルボルンの数十両にのぼる大規模なコレクションが保存展示されていて、こちらも一見の価値がある。
ウェンドゥリー・パレード Wendouree Parade を行くトラム (2011年) Photo by Mattinbgn at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0 |
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次は、アデレードを州都とする南オーストラリア州について。
項番26 スチームレンジャー保存鉄道 SteamRanger Heritage Railway
スチームレンジャー保存鉄道は、アデレードとメルボルンを結ぶ州間連絡幹線から分岐するヴィクター・ハーバー支線 Victor Harbor branch line で、1980年代半ばから蒸気機関車による保存運行を実施している。アデレード=メルボルン線は1995年に1600mm広軌から標準軌に改軌されたが、支線のほうはすでに一般運行を終了していたため、接続が断たれて広軌の孤立線となった。
保存鉄道の拠点は、アデレード山地 Adelaide Hills の東斜面、マウント・バーカー Mount Barker にある。そこから終点ヴィクター・ハーバー Victor Harbor までの76.9kmが走行ルートだ。ヴィクター・ハーバーは都市部からの避暑客で賑わう海浜リゾートで、鉄道も格好の観光アトラクションになっている。
おおむね水曜と日曜が運行日で、通常は「コックル・トレイン Cockle Train」(下注)と呼ばれる短距離列車が、海沿いのグールワ Goolwa ~ヴィクター・ハーバー間17.6kmを往復している。ルート後半に海原を見晴らす景勝区間があり、沿線一番の見どころだからだ。
*注 海辺の住民が、釣り餌に使うコックル(ザル貝)cockle を集めるために、マレー川河口の砂浜までこの鉄道で出かけていたことに由来する。
一方、全線を走破するのは、「サザン・エンカウンター Southern Encounter」号で、隔週の日曜限定で運行される。往復150km強、ランチ付き8時間45分の大旅行だ。
ミドルトン駅付近を行くRx形224号機(2020年) Photo by Alan & Flora Botting at flickr. License: CC BY-SA 2.0 |
項番28 ヴィクター・ハーバー馬車軌道 Victor Harbor Horse Drawn Tram
ヴィクター・ハーバーにはもう一つ、名物の乗り物がある。グラニット島 Granite Island との間に架かる桟橋を渡っていく延長1.2kmの、馬が牽くトラムだ。今や世界的にも希少な存在の馬車軌道だが、海を横断するのは唯一無二だろう。
現在の施設は1986年に市営で再興されたものだが、オリジナルの歴史は古い。実は上述したスチームレンジャー保存鉄道が使っているヴィクター・ハーバー線は1854年、西オーストラリアで最初に開通した馬車鉄道がルーツだ(下注)。これがヴィクター・ハーバーまで延伸され、貨物線が(旧)桟橋を通ってグラニット島まで達した。つまり、馬が牽く貨車が桟橋へ直通していたのだ。
*注 最初の開業区間はグールワ Goolwa ~ポート・エリオット Port Elliot 間11km。ヴィクター・ハーバー延伸は1864年。
ヴィクター・ハーバー線が1884年に蒸気運転に転換された後も、桟橋の貨物線は馬力のまま残り、1894年からは乗用トラムで旅客も運ぶようになった。現在の馬車軌道は、広軌1600mmの線路を含め、1956年にいったん廃止された旧線のスタイルを再現しているのだ(下注)。
*注 馬車軌道がなかった期間は、ロードトレイン(牽引自動車。先頭が蒸気機関車の外観をしていることが多い)が走っていた。
コーズウェー causeway と呼ばれる長さ630mの連絡桟橋(下注)のたもとに、馬車軌道の乗り場がある。たくましい体躯のクライズデールが牽く古典トラムはダブルデッカーだ。強い潮風と日差しにさらされても、やはり眺めのいい2階席で行きたい。桟橋をゆっくり渡り終えたトラムは、そのまま島の北岸を進み、東端の埠頭の前が終点になる。
*注 桟橋は2021年に木造から鋼製に架け替えられた。
旧 桟橋で海を渡る馬牽きトラム(2008年) Photo by Drew Douglas at flickr. License: CC BY-NC 2.0 |
項番29 ピチ・リチ鉄道 Pichi Richi Railway
ピチ・リチ Pichi Richi というユニークな名は、保存鉄道が越えていく標高344mの峠の地名に由来する(下注)。スペンサー湾 Spencer Gulf の湾奧に位置するポート・オーガスタ Port Augusta から内陸へ進むこのルートは、そもそも大陸中央部、いわゆる「レッド・センター Red Centre」をめざした1067mm軌間の旧 開拓鉄道の一部だ。
*注 ピチ・リチの地名は、アボリジニが興奮剤として噛んでいたピチュリ pituri に由来するとされ、地域はその主産地だった。
それは現在の「ザ・ガン The Ghan」号が通過する標準軌線とは全く違う東寄りのルートをとって、1929年にアリス・スプリングズ Alice Springs に到達した(下注1)。1241kmという長距離路線で、後に一部が別線で標準軌化されるなど改良の手も加えられたものの、1980年、上記の標準軌新線(下注2)開通に伴って、すべて廃止となった。
*注1 旧「ザ・ガン」号が、このルートを通ってポート・オーガスタとアリス・スプリングズを結んだ。
*注2 1980年にアリス・スプリングズまでの南半区間が開通、2004年にダーウィンまで全通した。
ピチ・リチ鉄道は、放棄されたピチ・リチ峠を越える区間で、1974年に開業した蒸気保存鉄道だ。ルートはポート・オーガスタからクオーン Quorn までの39.8km(下注)。旧路線の規模からすればわずかな距離だが、急カーブと勾配が連続する峠道は全線のハイライト区間といっていい。
*注 ただしポート・オーガスタ~スターリング・ノース Stirling North 間は、標準軌線と並行して2001年に新設された延伸区間。
全線を走破するポート・オーガスタ発の「アフガン・エクスプレス Afghan Express」は、特定の土曜のみの運行だ。通常は、クオーン側から峠を越えて中間駅のウールシェッド・フラット Woolshed Flat で折り返す「ピチ・リチ・エクスプローラー Pichi Richi Explorer」が走る。機関車も客車も旧線を走った経歴をもつヴィンテージ車両で、未開の奥地へ向かう大旅行だった時代を追体験させてくれる。
ピチ・リチ峠の上り坂(2017年) Photo by Bahnfrend at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0 |
項番25 セント・キルダ路面電車博物館 Tramway Museum, St Kilda
アデレードの市内軌道は、初め1878年に馬車軌道として開業した。1909年から順次電化され、最盛期には119kmの路線網があったが、中心部とビーチを結ぶグレネルグ線 Glenelg line を除いて、1958年に消滅した。2000年代になって再建が始まり、現在3系統に増えているとはいえ、路線長は全部合わせても15kmに過ぎない。
その馬牽きトラムを筆頭に、アデレードで使われた路面車両やトロリーバスを体系的に収集しているのが、北郊のセント・キルダ St Kilda にある路面電車博物館だ。1967年の開館で、そのコレクションは30両以上にのぼり、歴代の主な形式を網羅している。
博物館は、町をはずれた広大な海岸平野の一角に位置する。車でないとたどりつけない場所だ。動態保存車の走行線は長さ1.6km。構内を出て、干潟を土手道で横切り、海辺にある子供冒険広場 Adventure playground の前まで延びている。開館中、古典車両が随時、海風に吹かれながらごろごろと往来する。
博物館の工場で復元された旧アデレード市電G形(2008年) Photo by William Adams at wikimedia. License: public domain |
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最後は、パース Perth を州都とする西オーストラリア州の蒸気保存鉄道(1067mm軌間)について。
項番32 ホサム・ヴァレー鉄道 Hotham Valley Railway
パースの南100kmの山中に、旧 西オーストラリア政府鉄道 Western Australian Government Railways のW形テンダー蒸機が走る本格的な保存鉄道がある。南西本線 South West Main Line の支線、旧ピンジャラ=ナロギン線 Pinjarra - Narrogin line の一部区間で、1977年から活動しているホサム・ヴァレー鉄道だ。
拠点が置かれているドウェリンガップ Dwellingup 駅は、標高270mの高地にある。保存鉄道のルートは、この駅をはさんだピンジャラ Pinjarra ~エトミリン Etmilyn 間32kmだ。
現在、列車はドウェリンガップを起点に、東へ8kmの終点エトミリン停留所で折り返す「フォレスト・トレイン Forest Train」と、西へ13.4kmのイサンドラ Isandra で折り返す「スチーム・レンジャー Steam Ranger」 の2本立てになっている。
とりわけ注目すべきは、後者のルートだ。スワン海岸平野 Swan Coastal Plain の東に長く連なるダーリング崖 Darling Scarp を横切るため、33‰の急勾配が約5kmの間続いている。上り坂になる復路は、営業運転の時代からの難所だ。乗客はここで、W形蒸機による渾身の力走シーンを目のあたりにすることになる。
ドウェリンガップ駅構内に揃った保存車両(2015年) Photo by Bahnfrend at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0 |
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