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2023年12月29日 (金)

ポルトガルの保存鉄道・観光鉄道リスト

イベリア半島の一角に位置するポルトガルには、隣国スペインと共通の広軌1668mm(イベリア軌間)の路線網があるが、独立して活動する保存鉄道は存在しないようだ。その代わり、この国は路面電車、通称エレークトリコ Eléctrico がおもしろい。首都リスボン Lisbon 市内とその郊外、そして北部にある第二の都市ポルト Porto でも、古風なボギー単車が今も健在だ。まずはそれから見て行こう。

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リスボンの「レモデラード」トラム
サン・ヴィセンテ通り Calçada de São Vicente にて(2023年)
Photo by Industrial Wales at flickr. License: CC BY-SA 2.0
 

「保存鉄道・観光鉄道リスト-ポルトガル」
http://map.on.coocan.jp/rail/rail_portugal.html

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「保存鉄道・観光鉄道リスト-ポルトガル」画面
 

項番7 リスボン路面軌道 Elétricos de Lisboa

カリス Carris 社(下注)が運行する軌間900mmの路面軌道は、イベリア軌間のCP(ポルトガル鉄道、旧国鉄)、標準軌のメトロ(地下鉄)とともに、リスボンの軌道系交通機関の一翼を担っている。

*注 正式名はリスボン鉄道会社 Companhia Carris de Ferro de Lisboa で、リスボンの路面軌道、ケーブルカー、市内バスを運行する市有企業。

現在の路線網は延長31kmで、6つの運行系統をもつ。中でも人気が高いのが、中心部のマルティン・モニス広場 Praça Martim Moniz から西部のカンポ・デ・オウリケ Campo de Ourique へ行く28E系統だ。ルート前半には城塞、大聖堂、テージョ川 Rio Tejo を見晴らす展望台など名所が集中する。そのため車内は満員御礼、乗り場に待ち行列ができている。

軌道自体も目が離せない。車幅すれすれの狭い街路、レールをきしませて曲がる急カーブ、のけぞりそうな急坂と、過酷な関門が次々と現れる。グラーサ Graça からアルファマ Alfama にかけて続くこうしたハイライト区間(下注)を、撮り鉄しながら徒歩でたどるのも一興だ。

*注 ただし、粘着式鉄道の最急勾配とされる138‰の坂があるのは、バイシャ Baixa 地区のサン・フランシスコ通り Calçada de São Francisco。

リスボンで現代的な連節車が見られるのは、テージョ川沿いをベレーン Belém 方面へ進む15E系統のみ。他の系統はすべて「レモデラード Remodelado(下注)」など、小回りの利く旧型ボギー単車の独擅場になっている。歴史地区の陰りを帯びた景観に走行シーンはよくなじみ、訪れる観光客を常に魅了してやまない。

*注 レモデラードは改修車の意。車体こそ古めかしいが、搭載機器は1990年代に全面更新されている。

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アルファマの街路を縫うリスボンの観光トラム(2016年)
Photo by Julian Walker at flickr. License: CC BY-NC-ND 2.0
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15E系統のジーメンス/CAF製連節車
ジェローニモス修道院 Mosteiro dos Jerónimos 前にて(2017年)
Photo by xiquinhosilva at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

項番6 シントラ路面軌道 Elétricos de Sintra

リスボン中心部の北西約20kmに位置するシントラ Sintra でも、市営の古典トラムがシーズン運行している。こちらはメーターゲージ(1000mm軌間)の単線で、走っているのは1904年の開業時からの在籍車両や、改軌された元リスボン車だ。リゾートエリアらしく、オープンタイプも混じる。

かつては国鉄(現 CP)シントラ駅前まで通じていた(下注)が、現在の起点は、駅から約700m離れた市街北端のエステファニア Estefânia。ルートはここから、大西洋に面したプライア・ダス・マサンス Praia das Maçãs(リンゴ海岸の意)に至る11.0kmで、大半がいわゆる道端軌道だ。路上の併用区間はほとんどない。

*注 シントラ駅~エステファニア間は1955年廃止。

シントラは、山上に建つカラフルなペーナ宮殿 Palácio da Pena などで知られた世界遺産の町だ。市街地は山地の中腹にあり、エステファニアの標高は200m。そのため走り始めてしばらくは、ヘアピンカーブを介した平均勾配37‰の下り坂が続く。降りきった後は並木道と鄙びた村里を悠然と走り抜け、終点は大西洋に臨んで陽光あふれるビーチの前だ。片道45分を要し、案外乗り応えがある。

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道端軌道を行くシントラのトラム(2010年)
Photo by Alain GAVILLET at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

項番2 ポルト路面軌道 Elétricos do Porto

ポルトのトラム路線は現在3系統。リスボンと同じように戦前製の古典車両が主役を演じるが、観光運行に特化されているところが異なる点だ。「ポルトトラムシティーツアー Porto Tram City Tour」という名称で一括され、乗車券も市内交通とは別建てになっている。市民の足はメトロ(LRT)や路線バスで確保され、トラムは市外から来る観光客向けという位置づけのようだ。

ルート構成を見ると、22系統がリスボンの28Eに相当する。急坂が多い旧市街 Centro Histórico の環状ルートで、町の中心の広場や賑やかな商店街を通過し、壁面のアズレージョ(装飾タイル)が映えるサント・イルデフォンソ教会 Igreja de Santo Ildefonso やクレーリゴスの塔  Torre dos Clérigos といった名所の前に停まる。

一方、ドウロ川沿いに足を延ばす1系統は、リスボンの15Eを思わせる。エンリケ航海王子の生家があるインファンテ Infante を出発し、川岸の古い町並みをかすめたりしながら、河口近くのパッセイオ・アレグレ Passeio Alegre まで行く。時間が許すなら途中下車して、旧車を保存しているトラム博物館 Museu do Carro Eléctrico にも立ち寄ってみたい。

*注 詳細は「ポルトの古典トラム I-概要」「同 II-ルートを追って」参照。

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カルモ電停で2本の系統が接続(2018年)
Photo by Bene Riobó at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番3 ドウロ線 Linha do Douro
項番4 ドウロ歴史列車 Comboio Histórico do Douro

ポルト市街の前を流れるドウロ川 Rio Douro(下注)は、遠くスペインの内陸部から約900kmを流れ下ってくるイベリア半島第3の大河だ。ポルトガル領内は水量豊かな渓谷が続き、名産ポートワインの原料となるブドウの段々畑が広がっている。

*注 スペイン語ではリオ・ドゥエロ(ドゥエロ川)Río Duero。

CPのドウロ線は、この川べりを遡る非電化、イベリア軌間の路線だ。かつては国境を越えてスペインにつながっていたが、現在の運行区間は、北部本線との分岐点エルメジンデ Ermesinde からポシーニョ Pocinho までの163km。ただし、列車はポルト市内のサン・ベント S. Bento またはカンパニャン Campanhã 駅から直通している。

国内きっての美しい車窓風景を誇る路線(下注1)なので、全線通しで走る列車は「ミラドウロ MiraDouro」(下注2)と命名され、観光仕様の客車で運行される。しかし、距離があるだけに、片道でも約3時間30分の長旅だ。

*注1 なお、行程の前半はドウロ川から離れた北の山中を走るため、川景色は見えない。
*注2 展望台の意味をもつ普通名詞ミラドウロ miradouro に、川の名を掛けている。

より手ごろなのは、路線の中間部にあるワインの集積地レーグア Régua からトゥア Tua の間で、1925年製の蒸気機関車が牽いている観光列車「ドウロ歴史列車 Comboio Histórico do Douro」だろう。こちらはシーズン運行で往復3時間。ドウロ川を行くクルーズ船と組み合わせたツアーも発売されている。

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ヴェンダ・ダス・カルダス橋梁 Ponte da Venda das Caldas
(2017年)
Photo by Nelso Silva at wikimedia. License: CC BY 2.0
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ブドウ畑を背に川べりを行くドウロ歴史列車(2019年)
Photo by Nelso Silva at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

項番5 ヴォウガ線 Linha do Vouga

イベリア軌間の幹線網を補完するメーターゲージのローカル線は、かつて国内各地で見られた。だが今や稼働しているのは、ポルト近郊のエスピーニョ Espinho から内陸のセルナーダ・ド・ヴォウガ Sernada do Vouga を経てアヴェイロ Aveiro に至るヴォウガ線 Linha do Vouga だけだ(下注)。

*注 ヴォウガ線は本来、セルナーダ・ド・ヴォウガから東の山中にあるヴィゼウ Viseu に至る路線であり、セルナーダ・ド・ヴォウガ~アヴェイロ間は支線。しかし前者(本線)の廃止により、支線には見えなくなっている。

しかしここも先行き安泰とは言えない。起伏の多い丘陵地帯を縦断していくため、蛇行谷線 Linha do Vale das Voltas のあだ名をもらうほど不利な線形だ。列車の速度は上がらず、クルマ社会の隅に埋没している。

もとの起点は北部本線のエスピーニョ駅だったが、同駅の地下化に伴い、次のエスピーニョ・ヴォウガ Espinho-Vouga 駅までの間700mが徒歩連絡になった。中間部のオリヴェイラ・デ・アゼメーイス Oliveira de Azeméis~セルナーダ・ド・ヴォウガ Sernada do Vouga 間28.9kmもすでに旅客列車は走らず、1日2便のタクシー代行だ。結果、列車に乗れるのは両端の計69.8kmに縮小されてしまった。

セルナーダ・ド・ヴォウガは小さな村の最寄り駅に過ぎないが、車両修理工場があるため、ヴォウガ線の運行にとっては重要だ。前述のタクシー代行区間でも、この工場への回送列車だけは通っている。また、駅の南側でヴォウガ川を渡っている道路併用橋にも注目したい。

一つアヴェイロ寄りのマシニャータ Macinhata 駅では、旧車庫がミュージアムセンター Núcleo Museológico として活用されている。国立鉄道博物館 Museu Nacional Ferroviário の分館という位置づけで、国内で唯一、狭軌車両を保存展示している貴重な施設だ。

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ヴォウガ線のクリスマス特別列車
セルナーダ・ド・ヴォウガ駅にて(2019年)
Photo by Nelso Silva at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

最後はケーブルカーについて。

項番1 ボン・ジェズス・ケーブルカー Elevador do Bom Jesus

北部の都市ブラガ Braga で、世界遺産に登録されたボン・ジェズス・ド・モンテ聖域 Santuário do Bom Jesus do Monte の丘に上っていくケーブルカーがある。ポルトガルで数々の工学的業績を残した技師ラウル・メニエ・デュ・ポンサール Raul Mesnier du Ponsard(下注)の記念すべき初期作品だ。

*注 フランス系ポルトガル人なので、姓はフランス語読みで記した。

長さは274m、高低差116m、勾配420‰。開業は1882年で、イベリア半島で最初のケーブルカーだった。それだけでなく、今なおウォーターバラスト(水の重り)方式の運行を維持していて、現存するものでは世界最古とされる。CPブラガ駅からは5km離れていて、2番バスで約30分。

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19世紀の装置を保存するボン・ジェズス・ケーブルカー(2013年)
Photo by Otto Domes at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番8 リスボンのケーブルカー Elevadores em Lisboa

ボン・ジェズスの成功によって、リスボンでも急坂の多い市内に次々とケーブルカーが設置されていった。サンフランシスコのような循環式ケーブルカー(下注)は、後にトラムに転換されてしまったが、交走式ケーブルカーは今も3本が現役で、トラムと同様、カリス社が運営する。軌間もトラムと同じ900mmで、開業当初はウォーターバランス方式だったが、蒸気運転を経て1910年代に電気式に転換されている。

*注 循環式は、路面の下を循環しているケーブルを、車両側の装置でつかむことにより走行する方式。停止するときはケーブルを離してブレーキをかける。交走式は、上部の滑車を介してケーブルでつながっている2台の車両(または1台と重り)が、つるべのように交互に上下する方式。

ビカ・ケーブルカー Elevador da Bica/Ascensor da Bica(下注)は、ミゼリコールディア Misericórdia 地区で、サン・パウロ通り Rua de São Paulo とカリャリス広場 Largo Calhariz を結んでいる。1892年の開通で、長さ283mと3路線では最も長く、高低差は45m。複線交走式だが、狭い路地に設けられた併用軌道のため、中間部以外は2本の線路が近接して、ケーブルが通る溝とともに、あたかも6線軌条のように見える。下部駅は建物の中にあるが、上部駅は街路上で屋根もない。

*注 原語の Elevador(エレヴァドール)、Ascensor(アセンソール)は、日本でいうケーブルカー(斜行昇降)にもエレベーター(垂直昇降)にも用いられる。

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中間地点ですれ違う車両(2010年)
Photo by Pedro J Pacheco at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

グローリア・ケーブルカー Elevador da Glória/Ascensor da Glória は、バイシャ Baixa 地区のレスタウラドーレス広場 Praça dos Restauradores と、展望台のあるサン・ペドロ・デ・アルカンタラ庭園 Jardim de São Pedro de Alcântara を結ぶ。旧中央駅であるCPロッシオ Rossio 駅周辺の人通りが多いエリアを行き来するので、混雑度は3線で最も高い。

1885年の開通で、路線の長さは265m、高低差44m。こちらも複線交走式、街路上の併用軌道だが、下半部では2本の線路がガントレット(単複線)化されている。客室は全床フラットのため、出入口は地面とのギャップが小さい上部側にしかないのが特徴だ。

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サン・ペドロ・デ・アルカンタラ通りに面した乗り場(2016年)
Photo by swissbert at wikimedia. License: CC0 1.0
 

ラヴラ・ケーブルカー Elevador da Lavra/Ascensor da Lavra は、カマラ・ペスターナ通り Rua Câmara Pestana とアヌンシアーダ広場 Largo da Anunciada を結んでいる。長さ188m、高低差42mで、他の2本に比べると目立たないが、交走式としてはリスボンで最初の1884年に開業している。車両はグローリア・ケーブルカーと同じ全床フラット型だ。複線交走式で、下半部がガントレット式の併用軌道という点も共通だが、上部駅にはささやかながら屋根の架かったホームがあり、乗り場の体裁が整っている。

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ベンチシートのある車内(2015年)
Photo by Aidexxx at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

このほか、メニエ・デュ・ポンサールの設計で1902年に供用を開始したサンタ・ジュスタのリフト Elevador de Santa Justa も、その特異で装飾的な外観から観光スポットとして名高い。原語では同じ "Elevador" だが、下の写真のとおり、垂直に上るエレベーターだ。これらはみな2002年以来、国の登録文化財になっているが、ケーブルカーの車両にはトラムのような車庫がなく、現場に置かれたままなので、しばしば落書き(グラフィティ)の被害に見舞われるのが悲しい。

なお現在、4番目となるケーブルカーの建設が、グラーサ Graça 地区の、ラガレス通り Rua dos Lagares~グラーサ広場 Largo da Graça 間で行われている。長さは約80mで、カリス社の運営となる予定だ。

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サンタ・ジュスタのリフト(2020年)
Photo by Ray Swi-hymn at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

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