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2023年7月28日 (金)

マヨルカ島 ソーリェル鉄道 I-列車線

マヨルカ島 Mallorca は、西地中海に浮かぶスペイン領バレアレス諸島 Illes Balears/ Islas Baleares の最大の島だ。面積は3640平方kmで、沖縄本島(1208平方km)の3倍に及ぶ。地中海性の穏やかな気候のもと、光降り注ぐビーチはもとより、自然豊かな内陸のドライブやサイクリングも人気で、観光の島としてすっかり定着している。

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ソーリェル鉄道パルマ駅での機回し作業
 
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その南西に開いた湾に臨んで、主要都市パルマ Palma(下注1)がある。バレアレス諸島の行政・経済の中心地であり、本土から航空機や船で来る客にとってマヨルカ島の玄関口になっている。ソーリェル鉄道 Ferrocarril de Sóller (FS) は、そのパルマを起点に、トラムンタナ山脈 Serra de Tramuntana の向こう側にある小さな町ソーリェル Sóller(下注2)とその港へ行く軽便鉄道だ。

*注1 パルマやラ・パルマという地名は世界各地にあるため、通常、パルマ・デ・マヨルカ Palma de Mallorca と呼んで区別される。
*注2 Sóller の音訳には揺れがあり、ソリェル、ソーイェルとも書かれる。また、現地の発音はソイヤ、ソヤのように聞こえる。

鉄道は、実質的に2本の路線から成る。


トレン・デ・ソーリェル Tren de Sóller
パルマ Palma FS ~ソーリェル Sóller 間 27.3km
軌間914mm(3フィート)、1200V直流電化
1912年蒸気鉄道で開業、1929年電化

州都パルマとソーリェルの町を結ぶ「列車線」。Tren は英語の Train で、列車を意味するが、以下では「ソーリェル鉄道」と記す。


トラムビア・デ・ソーリェル Tramvia de Sóller
ソーリェル~ポルト・デ・ソーリェル Port de Sóller 4.9km
軌間914mm(3フィート)、600V直流電化
1913年開業

内陸にあるソーリェルの町と少し離れた港を結ぶトラム路線。Tramvia は英語の Tramway で、以下では「ソーリェル路面軌道」と記す。後述する理由で「列車線」と一体のものとして建設されたが、実態は本線に対する支線のような関係だ。

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ソーリェル鉄道路線図

マヨルカ島での鉄道の歴史は、1875年に始まる。この年、914mm(3フィート)軌間、蒸気運転のマヨルカ鉄道 Ferrocarriles de Mallorca が、パルマから内陸の町インカ Inca まで通じた。ターミナル駅が建設されたのは旧市街の北東部で、現在、征服王ハイメ1世の像が建つスペイン広場 Plaça d'Espanya の向かいだった。当時はまだ旧市街を囲む市壁が残っており、その外縁に当たる。続いてここから島の各方面へ、放射状の路線網が形成されていく。

ソーリェル市民もまた、特産の柑橘類や町工場の繊維製品を輸送するために、鉄道の必要性を痛感していた。構想は1890年代からあったものの、目の前に横たわる山脈の横断という難題の解決には時間を要した。3km近い長大トンネルで山を貫くという大胆な計画が認可され、地元資本でソーリェル鉄道会社が設立されたのは、ようやく1905年のことだ。

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鉄道会社設立時の株券
Image from wikimedia. License: public domain
 

路線延長は27kmで、地方鉄道(二級鉄道)Ferrocarril secundario の補助金交付の条件である30kmに少し足りなかった。そこで、同じ軌間で線路を4km離れた港 El Port まで延長することにして、これをクリアしている。今もある路面軌道線だ。パルマ駅の土地は、マヨルカ鉄道のターミナルから通りを一つ挟んだ西側に確保され、マヨルカ鉄道と車両が直通できるように、両駅を接続する渡り線も計画された。

5年余の工事を経て、蒸気運転のソーリェル鉄道が1912年4月に開業した。運行を担うためにタンク機関車が4両購入され、「パルマ」「ソーリェル」など経由地の名がつけられた。方や軌道線は、1年半遅れて1913年10月に、最初から電気運転で開業した。

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ソーリェル駅で待機するトラム車両
 

当初は貨物輸送が主体だったが、連続勾配で酷使された蒸機はしばしば不調となり、運行に支障をきたした。乗客にとっても、トンネルで客室に入り込む煤煙は困りものでしかない。列車線の電化は開業間もない1915年から検討されていたのだが、実現に漕ぎつけたのはかなり遅れて1929年のことだ。このとき導入された旅客用電車は、今もまだ現役で動いている。

1930年代になると、主にフランスやイギリスで、マヨルカ島が観光地として注目を集めるようになった。列車線と軌道線を直通する観光列車の運行が1930年に始まっている。スペイン内戦とそれに続く第二次世界大戦の間、島への訪問客は激減したが、1950年代からは回復を見せた。それに伴い、乗車体験とセットになったソーリェルの町と港の人気も高まっていく。

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マヨルカ島の観光ポスター(1961年)
 

しかし、島全体を見渡すと、鉄道網は縮小過程にあった。モータリゼーションの影響で利用が減少したマヨルカ鉄道は経営に行き詰まり、1959年に国(国営鉄道開発局 EFE)の管理下に置かれた。EFEと1965年にそれを引き継いだ公共企業体 FEVE は、全国的に不採算路線の廃止を推し進めた。そして、当面存続させるさまざまな軌間の路線については、運用を効率化するためにメーターゲージ(1000mm軌間)に統一していった。

マヨルカ島の鉄道は、1994年に再び公営のマヨルカ鉄道輸送 Serveis Ferroviaris de Mallorca (SFM) に移管されたが、本土の狭軌線と同じメーターゲージなのは、こうした経緯による。幸いと言うべきか、ソーリェル鉄道はマヨルカ鉄道とは別会社だったため、改軌を免れ、オリジナルの3フィート軌間のままで残った。

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パルマの街路を走る列車
 

ところで、鉄道に比べてソーリェルに通じる道路の整備は遅れており、19世紀後半に開削された山道に長らく依存していた。標高497mのソーリェル峠 Coll de Sóller を、果てしなく続くつづら折りで越えていく難路だ。ようやく1997年に、鉄道トンネルに並行して長さ3023mの道路トンネルが完成し、交通事情は格段に改善された。

同時にこれが、鉄道にとって最大の脅威となることも明らかだった。事実、パルマ~ソーリェル間ではその後、トンネル経由で路線バスが30分ごとに運行され、所要時間差、料金差ともに大きい(下注)ことから、公共輸送の機能はほぼこちらに移行してしまっている。

*注 パルマ~ソーリェル間の所要時間は鉄道60分、バス30~35分(定刻の場合)。片道運賃は2023年現在、鉄道18ユーロ、バス4.50ユーロ(現金の場合)。

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パルマとソーリェル港を結ぶバス204系統
 

鉄道ではかねてから、定期列車の間を縫って、観光列車の運行にも力を入れてきた。経営陣が交替した2002年以降は、存続を図るために、地域の観光資産という性格が前面に押し出されている。スペインでは珍しい旧世代車両による運行(下注)が維持されたことで、アトラクションとしての人気は不動のものとなった。観光バスや沿岸観光船とも連絡し、島を訪れた観光客をソーリェルに呼び込む広告塔の役割を果たしているのだ。

*注 定期運行している列車線では国内唯一、トラムはバルセロナのトラムビア・ブラウ Tramvia Blau(2023年7月現在運休中)とここしかない。

パルマ港から市内バスに乗り、朝8時前、スペイン広場に着いた。マヨルカ鉄道のパルマ駅は2007年に地下に移され、郊外バスやメトロのターミナルと接続する大規模なインターモーダル駅 Estació Intermodal に姿を変えている(下注)。地上には広大な公園が整備され、昔の面影は、商業施設に転用された旧駅舎と跨線橋に残るだけだ。

*注 市内バスは地下には入らず、従来どおりスペイン広場前の停留所に停車している。

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(左)インターモーダル駅
 バスターミナルに隣接してSFMの列車ホームがある
(右)公園北端に保存された旧跨線橋
 

一方、通りを隔てて北西側のソーリェル鉄道パルマ駅は、今も変わらず地上にある。マヨルカ鉄道の規模に比べれば、敷地も建物もささやかなものだ。大通りの角では、モデルニスモ調の錬鉄格子の上に「Ferrocarril de Sóller(ソーリェル鉄道)」の文字が躍るが、朝早いので扉はまだ開いていない。

反対側の門扉まで行ってみると、フェンス越しに構内が見渡せた。パルマ駅にもかつては機関庫・整備工場があったが、ソーリェル駅に機能を集約するために1997年に廃止されてしまった。それで現在は、夜間滞泊用の簡易な車庫しかない。

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ソーリェル鉄道パルマ駅
(左)大通りに面した門扉
(右)駅舎ファサード、入口はまだ開いていない
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構内から街路に出ていく線路
 

下の写真の左手に見えるのがその車庫だ。電動車1号と4号が休んでいる。いずれも1929年の電化開業時に投入された古典機で、いかつい顔と魚眼のようなヘッドライトを特徴とする。由来は不明だが、マヨルカを愛するドイツ人の間では「赤い稲妻 Roter Blitz」の愛称(下注)で呼ばれる車両だ。全部で4両在籍していて、鉄道線の運行はすべてこの形式車で賄われている。

*注 これはドイツだけで通用する愛称。ちなみに2021年にマヨルカ島を訪れた国別観光客数はドイツ212万人、スペイン110万人、イギリス67万人の順で、ドイツ人が圧倒的に多い。

駅は2面3線の構造で、駅舎に接した片面ホームと、隣接する島式ホームがある。後者を挟み込む線路は留置線代わりになっているらしく、6連の客車が2本、朝の出番を待っている。

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朝一番の構内
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「赤い稲妻」4号機、ソーリェル駅にて
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(左)ソーリェル鉄道の社章
(右)電動車の製造銘板
 

8時30分に入口が開いた。こじんまりした駅舎の中は、出札口が2つ並ぶ。右はオンライン予約した客が対象、左は直接購入する客の窓口だ。上部のモニターに本日の列車時刻が表示されているが、主に観光客が相手なので、朝は遅い。ソーリェル行きの下り一番列車が10時10分発、次は10時50分の発車だ。その右の数字は残りの席数を示しているが、始発便でもまだ十分余裕がある(下注)。とはいえ、列車発着のようすも観察したいので、乗るのは二番列車にしよう。

*注 前日までネット予約が可能。当日は窓口売りのみ。

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パルマ駅の出札窓口
 

運賃は、列車線が大人片道18ユーロ、往復25ユーロ、路面軌道とのセット券が往復32ユーロ(片道の設定はない)だ。路面軌道の正規運賃は片道8ユーロなので、セット券だとかなり割引になる。しかし、当日限り有効のため、泊りがけの場合は片道ずつ買うしかない。

切符には乗車区間と指定された列車(の発車時刻)がプリントされているが、席は自由席だ。団体の予約が入っているなどで係員から指示がある場合は別として、電動車を含めてどこでも座れる。

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(左)列車線の片道乗車券
(右)各列車の残り席数を示すパネル
 

駅の周辺を観察してから戻ると、窓口の前にはけっこうな行列ができていた。構内にいたはずの4号機と客車1編成の姿が消えていることに気づく。この路線では、時刻表に掲載されない団体専用列車も走っている。団体客は大型車の駐車場がある郊外の停留所で観光バスから乗り継ぐので、そこまで回送されていったのだろう。構内に残った1号機も客車に連結済みで、始発便を購入した客がそちらへ向かっている。

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始発列車に乗り込む客
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二番列車の客はホームで待機
 

そうこうしているうちに、空いていた駅舎前の片面ホームへ、3号機が率いる列車が入ってきた。ソーリェルを9時に出た上り一番列車だ。入れ替わるようにして、準備の整った1号機の下り一番列車が島式ホームを出ていく。

到着した列車では、さっそく機回し作業が始まった。切り離された3号機が車止めの手前まで前進した後、中線(島式ホームの片側)へ転線していく。下り方の分岐器は出口の門扉の間際にあるため、いったん街路まで出て折り返さなくてはならない。手狭な構内ならではの面倒な儀式だ。

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パルマ駅の機回し作業
(左)街路に出て折返し
(右)転轍てこは門扉の間際に
 

二番列車への乗込みが始まったのは、出発のおよそ30分前。ホームで車掌氏から切符のチェックを受けて乗り込んだ。

列車は、電動車と客車6両の7両編成だ。電動車の客室は1等、2等が半室ずつで、1等はベル・エポック調のソファー、2等には艶光りする板張りベンチが並ぶ。後続の客車はモノクラスで、背もたれは低いが、向きを変えられる転換式クロスシートだ。天井の丸いランプといい、ラッチで固定する片上げ式の窓といい、内装にレトロ感がにじみ出ている。

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電動車の客室
(左)1等室はソファーが並ぶ
(右)2等室はベンチシート
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客車はモノクラスで、背もたれは転換式
 

発車時刻が近づくころには、席がほぼ埋まった。車掌が鳴らす名物のラッパとそれに応える汽笛が聞こえ、定刻から5分ほど遅れの10時55分ごろ、列車はゆっくりとホームを離れた。

構内から街路に出た後、しばらく中層ビルが林立する市街地を、車道に挟まれて走る。線路の建設後に町が造成されたのだろうが、今ではセンターリザベーション化された路面軌道といった雰囲気だ。交差点が多いので、しきりに警笛が鳴らされる。

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(左)パルマ駅を出て街路上へ
(右)車道に挟まれた市街地の線路
 

5分ほど走ると市街地は遠のいていき、代わりに工場群が現れた。右手から、インターモーダル駅と UIB(バレアレス諸島大学 Universitat de les Illes Balears の略称)を結んでいるメトロM1号線の線路が近づいてくる。まもなくメトロとの接続駅ソン・サルディナ Son Sardina(下注)に停車。あいにくこちらはほぼ全員が観光客なので、乗継ぎのニーズは少なそうだ。

*注 マヨルカの地名によく見られる「ソン Son」は、普通名詞では家を意味し、イスラム時代の農場に起源をもつ荘園をいう。

次のソン・レウス Son Reus 停留所では、駅前に大型バスの駐車場が確保されている。列車の旅を組み込んだバスツアーの場合、ここから列車とトラムを乗り継ぎ、ソーリェル港で沿岸観光船に乗るか、再びバスに拾ってもらう(またはその逆)という片道コースが主流のようだ。

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(左)ソン・サルディナ駅前後ではメトロが並走
(右)ソン・レウス停留所は観光バスと接続
 

しばらくの間、大平原エス・プラ Es Pla をまっすぐ北に向かう。周囲は、イナゴマメやアーモンドの木が等間隔に植わる農業地帯だ。方向転換用の三角線があるサンタ・マリア Santa Maria と、次のカウベト Caubet の両停留所を立て続けに通過した後、線路は緩やかな斜面に取りついた。風景はいつしか松林に変わり、素掘りのままの切通しがときおり視界を遮る。

やがて列車は減速し、山麓の町ブニョラ Bunyola の駅に停車した。ここは全線の中間にあたり、電化開業時からの駅舎と変電所がある。数人が乗り降りした。

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中間の主要駅ブニョラに到着
 

ここからはいよいよ山越え区間だ。駅を出ると左に大きくカーブし、山裾を縫いながら、短いトンネルを2本くぐる。行く手に、トラムンタナ山脈の一部をなすアルファビア山脈 Serra d'Alfàbia の、盾のような崖が見え隠れしている。山裾に築かれた石積みテラス「マルジェス  marges」(下注)の畑を見ながらなおも上っていき、美しいアンダルシア風庭園の最寄り停留所、ジャルディンス・ダルファビア(アルファビア庭園)Jardins d'Alfàbia に停車した。

*注 漆喰を使わずに丸石で築いたテラスを、地元でこう呼ぶ。

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(左)石積みのテラス「マルジェス」
(右)アルファビア庭園へ向かう道
 

発車して間もなく、列車は、長さ2876mのマジョルトンネル(大トンネル)Túnel Major に突入する。ソーリェル峠の下を貫くサミットトンネルで、最高地点は標高238mに達し、通過には約5分かかった。長い暗闇を抜けた後は、右手に深い谷を見ながら坂を下っていく。試しに勾配を地形図で計測すると25‰程度になる。蒸気鉄道として開業しているので、これが実用の限界だろう。

右手の線路脇に、頭像と祭壇画風の6連のパネル絵が見えた。これは鉄道開通75周年を記念して1987年に設置されたモニュメントだ。絵はソーリェルの歴史を題材にしたもので、頭像は鉄道構想を初めて提案した政治家(下注)だという。しかし、走る列車の窓からは内容を確かめるすべもない。

*注 ソーリェルの実業家ジェロニモ・エスタデス・リャブレス Jerónimo Estades Llabrés。最初の構想は山脈を迂回する軽便線だったが、資金不足で実現しなかった。

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(左)サミットのマジョルトンネル南口
(右)北口近くにある開通75周年のモニュメント
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マジョルトンネル~ソーリェル間の1:25,000地形図
Base map from Iberpix, BTN25 2023 CC-BY 4.0 ign.es
 

この先は、高度を落とすために線路が山の斜面に大きく引き回されていて、車窓きっての絶景区間だ。短いトンネルを2本くぐったところで、ミラドル・プジョル・デン・バニャ Mirador Pujol d’en Banya(下注)に停車した。本来は列車交換のための信号所だが、1988年に谷側にホームが設置されてからは、ソーリェルの盆地を俯瞰する名所になっている。下り列車はここで5~10分停車するので、乗客もホームに降りて、目の前に展開するパノラマをゆっくり鑑賞することができる。

*注 ミラドル Mirador は展望台の意。ホーム設置以来、停車サービスが観光列車 Tren turistico の特典として実施されてきた。ホームは片側(下り線側)にしかないので、通常、上り列車は通過する。

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プジョル・デン・バニャの展望台でしばし停車
 

展望台から盆地の底まで高低差が130mほどあるので、確かに眺めはすばらしい。左方には地中海を望み、正面には淡いオレンジ色の屋根がひしめく町が広がっている。その背後にそびえ立つのは、トラムンタナ山脈の主峰で、島の最高峰でもあるプチ・マジョル Puig Major(標高1436m)だ(下注)。盆地を取り囲む山並みの中で、鑿で荒削りしたような山肌がひときわ目を引いている。すでに1時間近くも列車に揺られてきた乗客にとって、この眺望はいい気晴らしになるに違いない。

*注 ただし実際に見えているのは、手前の尾根ペニャル・デル・ミチディア Penyal del Migdia(最高地点の標高1398m)。球形のレーダーが建つプチ・マジョルの山頂はその後ろに隠れている。

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展望台からのパノラマ
左奥は地中海で、港は手前の山に隠れている
右がソーリェル市街地
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市街地の背後にそびえる島の最高峰プチ・マジョル
 

もう一つの見どころは、再び発車してまたトンネルを2本くぐった先にあるシンク・ポンツ高架橋 Viaducte "Cinc Ponts" だ。またいでいる川の名に由来するモンレアルス高架橋 Viaducte de Montreals が正式名だが、5連のアーチからシンク・ポンツ(5つの橋の意)と呼ばれるようになった。長さ52mで、右にカーブしながら谷を渡っていく。木々に遮られないので見晴らしもいい。

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シンク・ポンツ高架橋を渡る
 

橋から2本目の比較的長いトンネルには、シンク・センツトンネル Túnel "Cinc-cents" という俗称がある。長さは530mで、およそ500(カタルーニャ語でシンク・センツ)というのが名の由来だ。線路はトンネルの前後で180度向きを変え、今度は左の窓に町が現れる。

山裾の短いトンネルをいくつか経る間に、高度は目に見えて下がり、町並みが近づいてきた。最後のトンネルの手前で、旧カン・タンボル Can Tambor 停留所を通過(下注)。トンネルから出るとすぐに速度が落ち、名産のオレンジ畑の中を左にカーブしていく。ほどなく車庫と周りの線路群が見えてきて、列車は、プラタナス並木の濃い影が落ちるソーリェル駅のホームに静かに滑り込んだ。

*注 路面軌道の輸送力不足を補う団体専用バスのための乗継ぎ用停留所。1990年に開設されたが、現在は使われておらず、鉄道のリーフレットにも記載されていない。

続きは次回

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プラタナスの影が落ちるソーリェル列車駅
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パルマから列車が到着
 

写真は、2022年6月に現地を訪れた海外鉄道研究会の田村公一氏から提供を受けた。ご好意に心から感謝したい。

■参考サイト
ソーリェル鉄道 https://trendesoller.com/

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