« 2023年6月 | トップページ | 2023年8月 »

2023年7月

2023年7月28日 (金)

マヨルカ島 ソーリェル鉄道 I-列車線

マヨルカ島 Mallorca は、西地中海に浮かぶスペイン領バレアレス諸島 Illes Balears/ Islas Baleares の最大の島だ。面積は3640平方kmで、沖縄本島(1208平方km)の3倍に及ぶ。地中海性の穏やかな気候のもと、光降り注ぐビーチはもとより、自然豊かな内陸のドライブやサイクリングも人気で、観光の島としてすっかり定着している。

Blog_soller1
ソーリェル鉄道パルマ駅での機回し作業
 
Blog_soller_map1

その南西に開いた湾に臨んで、主要都市パルマ Palma(下注1)がある。バレアレス諸島の行政・経済の中心地であり、本土から航空機や船で来る客にとってマヨルカ島の玄関口になっている。ソーリェル鉄道 Ferrocarril de Sóller (FS) は、そのパルマを起点に、トラムンタナ山脈 Serra de Tramuntana の向こう側にある小さな町ソーリェル Sóller(下注2)とその港へ行く軽便鉄道だ。

*注1 パルマやラ・パルマという地名は世界各地にあるため、通常、パルマ・デ・マヨルカ Palma de Mallorca と呼んで区別される。
*注2 Sóller の音訳には揺れがあり、ソリェル、ソーイェルとも書かれる。また、現地の発音はソイヤ、ソヤのように聞こえる。

鉄道は、実質的に2本の路線から成る。


トレン・デ・ソーリェル Tren de Sóller
パルマ Palma FS ~ソーリェル Sóller 間 27.3km
軌間914mm(3フィート)、直流1200V電化
1912年蒸気鉄道で開業、1929年電化

州都パルマとソーリェルの町を結ぶ「列車線」。Tren は英語の Train で、列車を意味するが、以下では「ソーリェル鉄道」と記す。


トラムビア・デ・ソーリェル Tramvia de Sóller
ソーリェル~ポルト・デ・ソーリェル Port de Sóller 4.9km
軌間914mm(3フィート)、直流600V電化
1913年開業

内陸にあるソーリェルの町と少し離れた港を結ぶトラム路線。Tramvia は英語の Tramway で、以下では「ソーリェル路面軌道」と記す。後述する理由で「列車線」と一体のものとして建設されたが、実態は本線に対する支線のような関係だ。

Blog_soller_map2
ソーリェル鉄道路線図

マヨルカ島での鉄道の歴史は、1875年に始まる。この年、914mm(3フィート)軌間、蒸気運転のマヨルカ鉄道 Ferrocarriles de Mallorca が、パルマから内陸の町インカ Inca まで通じた。ターミナル駅が建設されたのは旧市街の北東部で、現在、征服王ハイメ1世の像が建つスペイン広場 Plaça d'Espanya の向かいだった。当時はまだ旧市街を囲む市壁が残っており、その外縁に当たる。続いてここから島の各方面へ、放射状の路線網が形成されていく。

ソーリェル市民もまた、特産の柑橘類や町工場の繊維製品を輸送するために、鉄道の必要性を痛感していた。構想は1890年代からあったものの、目の前に横たわる山脈の横断という難題の解決には時間を要した。3km近い長大トンネルで山を貫くという大胆な計画が認可され、地元資本でソーリェル鉄道会社が設立されたのは、ようやく1905年のことだ。

Blog_soller3
鉄道会社設立時の株券
Image from wikimedia. License: public domain
 

路線延長は27kmで、地方鉄道(二級鉄道)Ferrocarril secundario の補助金交付の条件である30kmに少し足りなかった。そこで、同じ軌間で線路を4km離れた港 El Port まで延長することにして、これをクリアしている。今もある路面軌道線だ。パルマ駅の土地は、マヨルカ鉄道のターミナルから通りを一つ挟んだ西側に確保され、マヨルカ鉄道と車両が直通できるように、両駅を接続する渡り線も計画された。

5年余の工事を経て、蒸気運転のソーリェル鉄道が1912年4月に開業した。運行を担うためにタンク機関車が4両購入され、「パルマ」「ソーリェル」など経由地の名がつけられた。方や軌道線は、1年半遅れて1913年10月に、最初から電気運転で開業した。

Blog_soller4
ソーリェル駅で待機するトラム車両
 

当初は貨物輸送が主体だったが、連続勾配で酷使された蒸機はしばしば不調となり、運行に支障をきたした。乗客にとっても、トンネルで客室に入り込む煤煙は困りものでしかない。列車線の電化は開業間もない1915年から検討されていたのだが、実現に漕ぎつけたのはかなり遅れて1929年のことだ。このとき導入された旅客用電車は、今もまだ現役で動いている。

1930年代になると、主にフランスやイギリスで、マヨルカ島が観光地として注目を集めるようになった。列車線と軌道線を直通する観光列車の運行が1930年に始まっている。スペイン内戦とそれに続く第二次世界大戦の間、島への訪問客は激減したが、1950年代からは回復を見せた。それに伴い、乗車体験とセットになったソーリェルの町と港の人気も高まっていく。

Blog_soller5
マヨルカ島の観光ポスター(1961年)
 

しかし、島全体を見渡すと、鉄道網は縮小過程にあった。モータリゼーションの影響で利用が減少したマヨルカ鉄道は経営に行き詰まり、1959年に国(国営鉄道開発局 EFE)の管理下に置かれた。EFEと1965年にそれを引き継いだ公共企業体 FEVE は、全国的に不採算路線の廃止を推し進めた。そして、当面存続させるさまざまな軌間の路線については、運用を効率化するためにメーターゲージ(1000mm軌間)に統一していった。

マヨルカ島の鉄道は、1994年に再び公営のマヨルカ鉄道輸送 Serveis Ferroviaris de Mallorca (SFM) に移管されたが、本土の狭軌線と同じメーターゲージなのは、こうした経緯による。幸いと言うべきか、ソーリェル鉄道はマヨルカ鉄道とは別会社だったため、改軌を免れ、オリジナルの3フィート軌間のままで残った。

Blog_soller6
パルマの街路を走る列車
 

ところで、鉄道に比べてソーリェルに通じる道路の整備は遅れており、19世紀後半に開削された山道に長らく依存していた。標高497mのソーリェル峠 Coll de Sóller を、果てしなく続くつづら折りで越えていく難路だ。ようやく1997年に、鉄道トンネルに並行して長さ3023mの道路トンネルが完成し、交通事情は格段に改善された。

同時にこれが、鉄道にとって最大の脅威となることも明らかだった。事実、パルマ~ソーリェル間ではその後、トンネル経由で路線バスが30分ごとに運行され、所要時間差、料金差ともに大きい(下注)ことから、公共輸送の機能はほぼこちらに移行してしまっている。

*注 パルマ~ソーリェル間の所要時間は鉄道60分、バス30~35分(定刻の場合)。片道運賃は2023年現在、鉄道18ユーロ、バス4.50ユーロ(現金の場合)。

Blog_soller7
パルマとソーリェル港を結ぶバス204系統
 

鉄道ではかねてから、定期列車の間を縫って、観光列車の運行にも力を入れてきた。経営陣が交替した2002年以降は、存続を図るために、地域の観光資産という性格が前面に押し出されている。スペインでは珍しい旧世代車両による運行(下注)が維持されたことで、アトラクションとしての人気は不動のものとなった。観光バスや沿岸観光船とも連絡し、島を訪れた観光客をソーリェルに呼び込む広告塔の役割を果たしているのだ。

*注 定期運行している列車線では国内唯一、トラムはバルセロナのトラムビア・ブラウ Tramvia Blau(2023年7月現在運休中)とここしかない。

パルマ港から市内バスに乗り、朝8時前、スペイン広場に着いた。マヨルカ鉄道のパルマ駅は2007年に地下に移され、郊外バスやメトロのターミナルと接続する大規模なインターモーダル駅 Estació Intermodal に姿を変えている(下注)。地上には広大な公園が整備され、昔の面影は、商業施設に転用された旧駅舎と跨線橋に残るだけだ。

*注 市内バスは地下には入らず、従来どおりスペイン広場前の停留所に停車している。

Blog_soller8
(左)インターモーダル駅
 バスターミナルに隣接してSFMの列車ホームがある
(右)公園北端に保存された旧跨線橋
 

一方、通りを隔てて北西側のソーリェル鉄道パルマ駅は、今も変わらず地上にある。マヨルカ鉄道の規模に比べれば、敷地も建物もささやかなものだ。大通りの角では、モデルニスモ調の錬鉄格子の上に「Ferrocarril de Sóller(ソーリェル鉄道)」の文字が躍るが、朝早いので扉はまだ開いていない。

反対側の門扉まで行ってみると、フェンス越しに構内が見渡せた。パルマ駅にもかつては機関庫・整備工場があったが、ソーリェル駅に機能を集約するために1997年に廃止されてしまった。それで現在は、夜間滞泊用の簡易な車庫しかない。

Blog_soller9
ソーリェル鉄道パルマ駅
(左)大通りに面した門扉
(右)駅舎ファサード、入口はまだ開いていない
Blog_soller10
構内から街路に出ていく線路
 

下の写真の左手に見えるのがその車庫だ。電動車1号と4号が休んでいる。いずれも1929年の電化開業時に投入された古典機で、いかつい顔と魚眼のようなヘッドライトを特徴とする。由来は不明だが、マヨルカを愛するドイツ人の間では「赤い稲妻 Roter Blitz」の愛称(下注)で呼ばれる車両だ。全部で4両在籍していて、鉄道線の運行はすべてこの形式車で賄われている。

*注 これはドイツだけで通用する愛称。ちなみに2021年にマヨルカ島を訪れた国別観光客数はドイツ212万人、スペイン110万人、イギリス67万人の順で、ドイツ人が圧倒的に多い。

駅は2面3線の構造で、駅舎に接した片面ホームと、隣接する島式ホームがある。後者を挟み込む線路は留置線代わりになっているらしく、6連の客車が2本、朝の出番を待っている。

Blog_soller11
朝一番の構内
Blog_soller12
「赤い稲妻」4号機、ソーリェル駅にて
Blog_soller13
(左)ソーリェル鉄道の社章
(右)電動車の製造銘板
 

8時30分に入口が開いた。こじんまりした駅舎の中は、出札口が2つ並ぶ。右はオンライン予約した客が対象、左は直接購入する客の窓口だ。上部のモニターに本日の列車時刻が表示されているが、主に観光客が相手なので、朝は遅い。ソーリェル行きの下り一番列車が10時10分発、次は10時50分の発車だ。その右の数字は残りの席数を示しているが、始発便でもまだ十分余裕がある(下注)。とはいえ、列車発着のようすも観察したいので、乗るのは二番列車にしよう。

*注 前日までネット予約が可能。当日は窓口売りのみ。

Blog_soller14
パルマ駅の出札窓口
 

運賃は、列車線が大人片道18ユーロ、往復25ユーロ、路面軌道とのセット券が往復32ユーロ(片道の設定はない)だ。路面軌道の正規運賃は片道8ユーロなので、セット券だとかなり割引になる。しかし、当日限り有効のため、泊りがけの場合は片道ずつ買うしかない。

切符には乗車区間と指定された列車(の発車時刻)がプリントされているが、席は自由席だ。団体の予約が入っているなどで係員から指示がある場合は別として、電動車を含めてどこでも座れる。

Blog_soller15
(左)列車線の片道乗車券
(右)各列車の残り席数を示すパネル
 

駅の周辺を観察してから戻ると、窓口の前にはけっこうな行列ができていた。構内にいたはずの4号機と客車1編成の姿が消えていることに気づく。この路線では、時刻表に掲載されない団体専用列車も走っている。団体客は大型車の駐車場がある郊外の停留所で観光バスから乗り継ぐので、そこまで回送されていったのだろう。構内に残った1号機も客車に連結済みで、始発便を購入した客がそちらへ向かっている。

Blog_soller16
始発列車に乗り込む客
Blog_soller17
二番列車の客はホームで待機
 

そうこうしているうちに、空いていた駅舎前の片面ホームへ、3号機が率いる列車が入ってきた。ソーリェルを9時に出た上り一番列車だ。入れ替わるようにして、準備の整った1号機の下り一番列車が島式ホームを出ていく。

到着した列車では、さっそく機回し作業が始まった。切り離された3号機が車止めの手前まで前進した後、中線(島式ホームの片側)へ転線していく。下り方の分岐器は出口の門扉の間際にあるため、いったん街路まで出て折り返さなくてはならない。手狭な構内ならではの面倒な儀式だ。

Blog_soller18
パルマ駅の機回し作業
(左)街路に出て折返し
(右)転轍てこは門扉の間際に
 

二番列車への乗込みが始まったのは、出発のおよそ30分前。ホームで車掌氏から切符のチェックを受けて乗り込んだ。

列車は、電動車と客車6両の7両編成だ。電動車の客室は1等、2等が半室ずつで、1等はベル・エポック調のソファー、2等には艶光りする板張りベンチが並ぶ。後続の客車はモノクラスで、背もたれは低いが、向きを変えられる転換式クロスシートだ。天井の丸いランプといい、ラッチで固定する片上げ式の窓といい、内装にレトロ感がにじみ出ている。

Blog_soller19
電動車の客室
(左)1等室はソファーが並ぶ
(右)2等室はベンチシート
Blog_soller20
客車はモノクラスで、背もたれは転換式
 

発車時刻が近づくころには、席がほぼ埋まった。車掌が鳴らす名物のラッパとそれに応える汽笛が聞こえ、定刻から5分ほど遅れの10時55分ごろ、列車はゆっくりとホームを離れた。

構内から街路に出た後、しばらく中層ビルが林立する市街地を、車道に挟まれて走る。線路の建設後に町が造成されたのだろうが、今ではセンターリザベーション化された路面軌道といった雰囲気だ。交差点が多いので、しきりに警笛が鳴らされる。

Blog_soller21
(左)パルマ駅を出て街路上へ
(右)車道に挟まれた市街地の線路
 

5分ほど走ると市街地は遠のいていき、代わりに工場群が現れた。右手から、インターモーダル駅と UIB(バレアレス諸島大学 Universitat de les Illes Balears の略称)を結んでいるメトロM1号線の線路が近づいてくる。まもなくメトロとの接続駅ソン・サルディナ Son Sardina(下注)に停車。あいにくこちらはほぼ全員が観光客なので、乗継ぎのニーズは少なそうだ。

*注 マヨルカの地名によく見られる「ソン Son」は、普通名詞では家を意味し、イスラム時代の農場に起源をもつ荘園をいう。

次のソン・レウス Son Reus 停留所では、駅前に大型バスの駐車場が確保されている。列車の旅を組み込んだバスツアーの場合、ここから列車とトラムを乗り継ぎ、ソーリェル港で沿岸観光船に乗るか、再びバスに拾ってもらう(またはその逆)という片道コースが主流のようだ。

Blog_soller22
(左)ソン・サルディナ駅前後ではメトロが並走
(右)ソン・レウス停留所は観光バスと接続
 

しばらくの間、大平原エス・プラ Es Pla をまっすぐ北に向かう。周囲は、イナゴマメやアーモンドの木が等間隔に植わる農業地帯だ。方向転換用の三角線があるサンタ・マリア Santa Maria と、次のカウベト Caubet の両停留所を立て続けに通過した後、線路は緩やかな斜面に取りついた。風景はいつしか松林に変わり、素掘りのままの切通しがときおり視界を遮る。

やがて列車は減速し、山麓の町ブニョラ Bunyola の駅に停車した。ここは全線の中間にあたり、電化開業時からの駅舎と変電所がある。数人が乗り降りした。

Blog_soller23
中間の主要駅ブニョラに到着
 

ここからはいよいよ山越え区間だ。駅を出ると左に大きくカーブし、山裾を縫いながら、短いトンネルを2本くぐる。行く手に、トラムンタナ山脈の一部をなすアルファビア山脈 Serra d'Alfàbia の、盾のような崖が見え隠れしている。山裾に築かれた石積みテラス「マルジェス  marges」(下注)の畑を見ながらなおも上っていき、美しいアンダルシア風庭園の最寄り停留所、ジャルディンス・ダルファビア(アルファビア庭園)Jardins d'Alfàbia に停車した。

*注 漆喰を使わずに丸石で築いたテラスを、地元でこう呼ぶ。

Blog_soller24
(左)石積みのテラス「マルジェス」
(右)アルファビア庭園へ向かう道
 

発車して間もなく、列車は、長さ2876mのマジョルトンネル(大トンネル)Túnel Major に突入する。ソーリェル峠の下を貫くサミットトンネルで、最高地点は標高238mに達し、通過には約5分かかった。長い暗闇を抜けた後は、右手に深い谷を見ながら坂を下っていく。試しに勾配を地形図で計測すると25‰程度になる。蒸気鉄道として開業しているので、これが実用の限界だろう。

右手の線路脇に、頭像と祭壇画風の6連のパネル絵が見えた。これは鉄道開通75周年を記念して1987年に設置されたモニュメントだ。絵はソーリェルの歴史を題材にしたもので、頭像は鉄道構想を初めて提案した政治家(下注)だという。しかし、走る列車の窓からは内容を確かめるすべもない。

*注 ソーリェルの実業家ジェロニモ・エスタデス・リャブレス Jerónimo Estades Llabrés。最初の構想は山脈を迂回する軽便線だったが、資金不足で実現しなかった。

Blog_soller25
(左)サミットのマジョルトンネル南口
(右)北口近くにある開通75周年のモニュメント
Blog_soller_map3
マジョルトンネル~ソーリェル間の1:25,000地形図
Base map from Iberpix, BTN25 2023 CC-BY 4.0 ign.es
 

この先は、高度を落とすために線路が山の斜面に大きく引き回されていて、車窓きっての絶景区間だ。短いトンネルを2本くぐったところで、ミラドル・プジョル・デン・バニャ Mirador Pujol d’en Banya(下注)に停車した。本来は列車交換のための信号所だが、1988年に谷側にホームが設置されてからは、ソーリェルの盆地を俯瞰する名所になっている。下り列車はここで5~10分停車するので、乗客もホームに降りて、目の前に展開するパノラマをゆっくり鑑賞することができる。

*注 ミラドル Mirador は展望台の意。ホーム設置以来、停車サービスが観光列車 Tren turistico の特典として実施されてきた。ホームは片側(下り線側)にしかないので、通常、上り列車は通過する。

Blog_soller26
プジョル・デン・バニャの展望台でしばし停車
 

展望台から盆地の底まで高低差が130mほどあるので、確かに眺めはすばらしい。左方には地中海を望み、正面には淡いオレンジ色の屋根がひしめく町が広がっている。その背後にそびえ立つのは、トラムンタナ山脈の主峰で、島の最高峰でもあるプチ・マジョル Puig Major(標高1436m)だ(下注)。盆地を取り囲む山並みの中で、鑿で荒削りしたような山肌がひときわ目を引いている。すでに1時間近くも列車に揺られてきた乗客にとって、この眺望はいい気晴らしになるに違いない。

*注 ただし実際に見えているのは、手前の尾根ペニャル・デル・ミチディア Penyal del Migdia(最高地点の標高1398m)。球形のレーダーが建つプチ・マジョルの山頂はその後ろに隠れている。

Blog_soller27
展望台からのパノラマ
左奥は地中海で、港は手前の山に隠れている
右がソーリェル市街地
Blog_soller28
市街地の背後にそびえる島の最高峰プチ・マジョル
 

もう一つの見どころは、再び発車してまたトンネルを2本くぐった先にあるシンク・ポンツ高架橋 Viaducte "Cinc Ponts" だ。またいでいる川の名に由来するモンレアルス高架橋 Viaducte de Montreals が正式名だが、5連のアーチからシンク・ポンツ(5つの橋の意)と呼ばれるようになった。長さ52mで、右にカーブしながら谷を渡っていく。木々に遮られないので見晴らしもいい。

Blog_soller29
シンク・ポンツ高架橋を渡る
 

橋から2本目の比較的長いトンネルには、シンク・センツトンネル Túnel "Cinc-cents" という俗称がある。長さは530mで、およそ500(カタルーニャ語でシンク・センツ)というのが名の由来だ。線路はトンネルの前後で180度向きを変え、今度は左の窓に町が現れる。

山裾の短いトンネルをいくつか経る間に、高度は目に見えて下がり、町並みが近づいてきた。最後のトンネルの手前で、旧カン・タンボル Can Tambor 停留所を通過(下注)。トンネルから出るとすぐに速度が落ち、名産のオレンジ畑の中を左にカーブしていく。ほどなく車庫と周りの線路群が見えてきて、列車は、プラタナス並木の濃い影が落ちるソーリェル駅のホームに静かに滑り込んだ。

*注 路面軌道の輸送力不足を補う団体専用バスのための乗継ぎ用停留所。1990年に開設されたが、現在は使われておらず、鉄道のリーフレットにも記載されていない。

続きは次回

Blog_soller30
プラタナスの影が落ちるソーリェル列車駅
Blog_soller31
パルマから列車が到着
 

写真は、2022年6月に現地を訪れた海外鉄道研究会の田村公一氏から提供を受けた。ご好意に心から感謝したい。

■参考サイト
ソーリェル鉄道 https://trendesoller.com/

★本ブログ内の関連記事
 マヨルカ島 ソーリェル鉄道 II-路面軌道
 スペインの保存鉄道・観光鉄道リスト

2023年7月16日 (日)

スペインの保存鉄道・観光鉄道リスト

これからスペインにある観光鉄道についていくつか記事を書くつもりなので、調べた範囲で国内にある保存鉄道・観光鉄道のリストを作成した。西欧諸国ではフランスに次いで広大な国にしては物足りない数だが、内容はバラエティに富んでいる。

Blog_spain_heritagerail1
段丘崖の下を走るアルガンダ鉄道の蒸気列車(2018年)
Photo by CARLOS TEIXIDOR CADENAS at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0

「保存鉄道・観光鉄道リスト-スペイン」
http://map.on.coocan.jp/rail/rail_spain.html

Blog_spain_heritagerail2
「保存鉄道・観光鉄道リスト-スペイン」画面
 

項番1 パハレス坂 Rampa de Pajares

パハレス坂は、RENFE(スペイン国鉄)レオン=ヒホン線 Ferrocarril de León a Gijón の一部で、国内の在来線で最も険しいとされる山越え区間の通称だ。保存鉄道でも観光鉄道でもないが、山がちな国土を19世紀の鉄道技術でどのように克服していったのかを知る意味で注目に値する。

路線は、北海岸と中央高地を隔てるカンタブリア山脈 Cordillera Cantabrica を貫いていて、サミットと北麓の谷底との高度差は実に900m以上ある。それで、勾配を幹線規格の20‰に収めるために、大掛かりな線路の引き回しを行わなければならなかった(下図参照)。襞の多い山腹を縫って大小60本以上のトンネルと、150か所以上の橋梁が次々に現れるという、見るからに驚異のルートだ。

この坂道は1884年の開通以来、140年にわたって中央高地と北海岸との間の重要な連絡路として機能してきた。しかし目下、長さ24.6kmの新トンネルを含む高速仕様のバイパス線が建設中で、2024年にも完成が見込まれている。これが正式に開業すると、少なくとも旅客列車でパハレス坂を体験することは難しくなるだろう。

ちなみに、カンタブリア山脈を貫く路線は他にもあるが、いずれも同様の理由で羊腸の道をたどることを強いられている。たとえば、パレンシア=サンタンデル線 Línea Palencia-Santander のレイノサ Reinosa ~バルセナ Bárcena 間、カステホン=ビルバオ鉄道 Ferrocarril Castejón-Bilbao のイサラ Izarra ~オルドゥーニャ Orduña 間がそうだ。

Blog_spain_heritagerail3
パハレス坂のふもと、
プエンテ・デ・ロス・フィエロス Puente de los Fierros 駅に停車中の近郊線電車
(2020年)
Photo by Savh at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
Blog_spain_heritagerail4
パハレス坂ルート(1915年)
Image from Guide Joanne, 1915 edition. License: public domain
 

項番15 いちご鉄道 Tren de la Fresa

スペイン本土最初の鉄道は1848年にバルセロナと近郊との間で開業したが、2番目は1851年開業のマドリード=アランフエス線 Ferrocarril de Madrid a Aranjuez だ。特産のイチゴを含む果物や野菜がこの路線で首都に運ばれたことから、いつしか「トレン・デ・ラ・フレサ Tren de la Fresa(いちご列車またはいちご鉄道)」の愛称がついた。

今はセルカニアス・マドリード(マドリード郊外線)Cercanías Madrid に組み込まれ、C-3号線の通勤電車が行き交うルートだが、行楽シーズンの週末には、古典客車を使用した懐古列車ツアーも実施されている。運行開始は1984年で、かれこれ40年続く伝統イベントだ。当初は蒸気機関車が牽いていたが、最近は電気機関車またはディーゼル機関車がバトンを引き継いでいる。

マドリードでの出発駅は中央駅アトーチャ Atocha ではなく、鉄道博物館に改装されている旧デリシアス Delicias 駅だ。一路南下し、約50分で、ロドリーゴ Rodrigo の名曲でも知られた古都アランフエスに到着する。オプションで世界遺産の王宮や旧市街を巡った後、帰りの列車内で、アテンダントから乗客に新鮮なイチゴがふるまわれる。

Blog_spain_heritagerail5
蒸機が牽引していた頃のいちご列車
アランフエス付近(2012年)
Photo by Andrés Gómez - Club Ferroviario 241 at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0
 

項番3 バスク鉄道博物館 Museo Vasco del Ferrocarril

ビスケー湾に面した北海岸一帯には1000mm軌間の路線網が張り巡らされていて、さながら狭軌の王国だ。北東部に位置するバスク州には、こうしたメーターゲージの機関車や客車を動態保存しているバスク鉄道博物館 Museo Vasco del Ferrocarril(バスク語表記 Burdinbidearen Euskal Museoa)がある。

1994年にオープンした博物館は、旧ウロラ線 Ferrocarril del Urola の中間駅だったアスペイティア Azpeitia 駅を、駅舎や構内配線だけでなく、機関庫や変電所など付属施設も含めて再利用している。運営主体がバスク州の鉄道運行を担うエウスコトレン Euskotren 社ということもあって、展示車両も、鉄道用の機関車や客車から、路面電車や地下鉄車両、道路車両まで実にさまざまだ。

支線だったウロラ線はすでに廃止され、跡地の大半は自転車道などに姿を変えてしまった。しかし、アスペイティアから下流のラサオ Lasao 駅までの4.5kmだけは、保存列車の走行用に線路が残されている。シーズンの週末には、博物館の蒸気機関車が旧型客車を牽いて、ウロラ川に沿うこの渓谷区間を往復する。

*注 鉄道の詳細は「バスク鉄道博物館の蒸気列車」参照。

Blog_spain_heritagerail6
旧ウロラ線を行くバスク鉄道博物館の蒸気列車
(2004年)
Photo by Nils Öberg at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番16 アルガンダ鉄道 Tren de Arganda

メーターゲージの蒸機で運行される観光鉄道はもう1か所、マドリード南東郊にもあり、地名にちなんでアルガンダ鉄道(アルガンダ列車)と呼ばれている。拠点はマドリード地下鉄9号線のラ・ポベダ La Poveda 駅から西へ500mで、アクセスは容易だ。

路線はもとタフニャ鉄道 Ferrocarril del Tajuña と称し、首都からおおむねタフニャ川に沿ってグアダラハラ県アロセン Alocén まで、142kmも続く長大路線だった。しかし、貨物輸送をしていたマドリード側の35kmを最後に、1997年に全廃となった。その廃線跡の一部、約4kmを使って2001年に開業したのがこの保存鉄道だ。

地下鉄(下注)の駅近とはいえ、周辺は麦畑が広がり、鉄道の現役時代を彷彿とさせる。列車は春・秋の日曜日に運行され、小型タンクが古典客車を数両連ねて、マドリード方向に出発する。まもなく渡るハラマ川 Río Jarama のトラス橋が車窓の名物だ。その後、西に向きを変えて荒々しい段丘崖の下を走り(冒頭写真参照)、折返し駅ラグナ・デル・カンピリョ Laguna del Campillo に至る。

*注 郊外地なので、地下鉄といえども地上を走っている。

Blog_spain_heritagerail7
アルガンダ鉄道が保有する
1926年オーレンシュタイン・ウント・コッペル Orenstein & Koppel 製の小型タンク
(2016年)
Photo by CARLOS TEIXIDOR CADENAS at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
Blog_spain_heritagerail8
ハラマ川を渡るトラス橋(2020年)
Photo by Julio A. Ortega at Flickr. License: public domain
 

項番10 トラムビア・ブラウ(青トラム)Tramvia Blau

カタルーニャの州都バルセロナはいうまでもなく国際的な観光地だ。見どころが多数あるなか、鉄道関係ではトラムビア・ブラウがよく知られている。地下鉄7号線の終点(下注)があるケネディ広場 Plaça Kennedy から、ケーブルカー乗り場の前のドクトル・アンドレウ広場 Plaça del Doctor Andreu まで、ティビダボ山へ向かう観光客を乗せて走る青色の路面電車だ。わずか1.3kmの短区間とはいえ、急な坂道を何食わぬ顔で上っていく姿は頼もしい。

*注 駅名はアビングダ・ティビダボ Avinguda Tibidabo(ティビダボ大通り)。

使われている車両は1901~04年製の2軸車で、路線のオリジナルだ。もとから青塗装で、1979年に市営化された後も、市電のような赤色に塗り直されることはなかった。ただし129号車は旧市電を復元したので、例外的に赤をまとっている。

バルセロナには現在トラム路線が数本あるが、市電が全廃された1971年から、トラムが復活した2004年までの30数年間、これが市内唯一の路面電車だった。存続した理由は、別会社が運営していたことと、これ自体がティビダボにリンクしている観光アトラクションだったからだ。今も運賃は市内交通とは別建てで、車内で車掌が徴収する。

なお、トラムビア・ブラウは改修のために2018年から長期運休中で、その間、代行バスが走っている。

Blog_spain_heritagerail9
ドクトル・アンドレウ広場に到着した7号電車
(2014年)
Photo by Andreas Nagel at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番12 ソーリェル鉄道 Tren de Sóller
項番13 ソーリェル路面軌道 Tramvia de Sóller

西地中海に浮かぶマヨルカ島 Mallorca はスペイン最大の島で、州都パルマ Palma を起点にした複数の鉄道路線がある。公営(マヨルカ鉄道輸送 Serveis Ferroviaris de Mallorca)の通勤路線やメトロと並び、民営の観光鉄道として名を馳せているのがソーリェル鉄道 Ferrocarril de Sóller だ。914mm(3フィート)軌間で電化された鉄道線と路面軌道線をもっていて、両者はソーリェルの町で接続している。

鉄道線のほうは「トレン・デ・ソーリェル(ソーリェル列車またはソーリェル鉄道)Tren de Sóller」と呼ばれる。1912年に蒸気鉄道で開業し、1929年に電化された。パルマ市内、スペイン広場 Plaça d'Espanya の横にあるターミナル駅を起点とし、立ちはだかるトラムンタナ山脈 Serra de Tramuntana を横断して、盆地に位置するソーリェル Sóller まで27.3kmの路線だ。

並行して路線バスが30分間隔で走っていることもあり、列車の旅は観光客向けに特化されている。ホームで客を迎えるのは、艶光りする板張りの車両を長々と連ねたレトロ列車だ。乗車時間は約1時間。前半は市街地を抜けて、オリーブ畑が広がる中をひた走る。後半、峠のトンネルを出た直後に、ソーリェルの町を見下ろす展望台の駅で5~10分の小休止がある。

*注 鉄道の詳細は「マヨルカ島 ソーリェル鉄道 I-列車線」参照。

Blog_spain_heritagerail10
ソーリェル鉄道の列車、ブニョラ Bunyola 南方にて
(2017年)
Photo by Diesellokophren at wikimedia. License: CC0 1.0
 

列車が着いたソーリェルの駅前には、路面電車が発着する。町と港との間を結んでいる延長4.9kmの「トラムビア・デ・ソーリェル(ソーリェル・トラムまたはソーリェル路面軌道)Tramvia de Sóller」だ。1913年開業の貴重な旧世代トラムで、スペインでは前項のトラムビア・ブラウとここにしか見られない。

車両は「列車」と同じような板張りだが、利用者が混同しないように、前面腰板がオレンジ色に塗られている。混雑するシーズン中は、電動車2両の間に開放型客車2両をはさんだ最大4両編成で走る。さらにピーク時は2本が続行運転されて、押し寄せる客をさばく。

駅を出た電車は、市場やカフェテラスが賑わう教会前の広場をそろそろと横断する。しばらく道端をかすめ、最後は強い日差しが降り注ぐ海岸の、のびやかなプロムナードに沿って進む。「列車」とはまた違って、通り過ぎる風景との距離が近いのが魅力だ。

*注 鉄道の詳細は「マヨルカ島 ソーリェル鉄道 II-路面軌道」参照。

Blog_spain_heritagerail11
ソーリェルの街路を抜けていく路面電車(2008年)
Photo by Olaf Tausch at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

項番4 ヌリア登山鉄道 Cremallera de Núria

ラック式登山鉄道も北東部のカタルーニャ州で2本動いている。その一つ、ヌリア登山鉄道は、ピレネー山脈の山懐にいだかれたカトリックの聖地ヌリア Núria が目的地だ。延長12.5km、軌間1000mm、アプト式ラックレールを用いて、麓の駅との高度差1059mを克服する。開業が1931年と比較的遅かったので、最初から電気運転だった。

ヌリアには、ロマネスク期の聖母像が安置された教会建物があり、周辺にはスキー場も開かれている。しかし車道が通じていないので、徒歩を除けば登山鉄道が唯一のアクセス手段だ。所要時間は40分、山奥にもかかわらず、ピーク期には1日13往復もの列車が走っている。

鉄道の起点は、カタルーニャ近郊線のリベス・デ・フレゼル Ribes de Freser 駅前にあるリベス・エンリャス Ribes-Enllaç だ。Enllaç(スペイン語では Enlace)は接続、連絡を意味する。

滑り出しは粘着式で谷底を這う。5.5km地点でラック区間が始まり、中間駅ケラルブス Queralbs からは氷河谷の急斜面にとりついて上る。最大勾配は150‰。とりわけスリリングだった断崖の桟道区間が、2008年に長いトンネルに置き換えられた。車窓の醍醐味は若干そがれたが、ピレネーの神髄に迫る高揚感はいささかも失われていない。

*注 鉄道の詳細は「ヌリア登山鉄道-ピレネーの聖地へ」参照。

Blog_spain_heritagerail12
ヌリア貯水池の岸を行く(2009年)
Photo by Alberto-g-rovi at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

項番7 モンセラット登山鉄道 Cremallera de Montserrat

バルセロナの北西35km、林立する奇岩の上に建つモンセラット修道院 Monestir de Montserrat にも、ラック式登山鉄道が通じている。

カタルーニャで最も重要な巡礼地とあって、鉄道建設の機運は早くからあり、初代は1892年に開業した。しかし1930年代以降は、競合するロープウェーの開設とモータリゼーションの加速化が、会社経営に大きな影響を及ぼしていく。設備更新が滞る中で発生した脱線事故がとどめとなって、この登山鉄道は1957年に撤退を余儀なくされた。

現在運行中の2代目は、山域の環境負荷を軽減するために、旧ルートを一部利用して2003年に新設されたものだ。仕様はヌリア登山鉄道とほぼ共通で、延長5.3km、麓の駅との高度差は550m、所要15分。

起点は、カタルーニャ近郊線のモニストロル・デ・モンセラット Monistrol de Montserrat 駅(登山鉄道の駅名はモニストロル・エンリャス Monistrol-Enllaç)だ。しかし、次のモニストロル・ビラ Monistrol-Vila のほうがむしろ主要駅だろう。駅の周りに大駐車場が併設されていて、クルマで来た客はここで電車に乗り換えて山上に向かう。そのため、この駅を始発/終着とする区間便が多数ある。

*注 鉄道の詳細は「モンセラット登山鉄道 I-旧線時代」「同 II-新線開通」参照。

Blog_spain_heritagerail13
モンセラット駅を出発するラック電車(2017年)
Photo by Juan Enrique Gilardi at flickr. License: CC BY-SA 2.0
 

項番14 グアダラマ電気鉄道 Ferrocarril Eléctrico del Guadarrama(マドリード郊外線C-9号線 Cercanías Madrid Línea C-9)

ラックレールには頼らないものの、この鉄道も山の稜線に上っていくという点で、実質的な登山鉄道といえる。舞台はマドリードの北西、国立公園にもなっているグアダラマ山脈 Sierra de Guadarrama だ。山裾のセルセディリャ Cercedilla から峠に位置するコトス Cotos(ロス・コトス Los Cotos)まで、路線は延長18.2km、高低差が670mある。

メーターゲージの電気鉄道で、最大勾配は70‰だ。中間駅のプエルト・デ・ナバセラダ(ナバセラダ峠)Puerto de Navacerrada までほぼこの勾配でぐんぐん高度を稼ぎ、あとは松林の間を等高線に沿うようにして、標高1819mの終点コトスに至る。

グアダラマ電気鉄道というのは私鉄時代の旧社名で、1954年に国有化されて、RENFE(スペイン国鉄)の一路線になった。現在は、首都圏の通勤路線網セルカニアス・マドリード Cercanías Madrid に組み込まれ、C-9号線と称している。しかし、運賃は他のどのゾーンから乗っても固定額で、乗車券購入時には列車予約が必要になるなど、通勤路線とはかなり異なる扱いだ。

*注 鉄道の詳細は「グアダラマ電気鉄道-ロス・コトス峠へ行く登山電車」参照。

Blog_spain_heritagerail14
セルセディリャ駅のC-9号線発着ホーム(2022年)
Photo by Albergarri788 at wikimedia. License: CC0 1.0
 

項番9 ジェリダ・ケーブルカー Funicular de Gelida

最後にケーブルカーを一つ紹介しておきたい。バルセロナ西郊にある小さな町ジェリダ Gelida で、麓のRENFE駅(下注)と高台にある町の中心部を結んでいる路線だ。長さ884m、最大勾配22.2%で110mの高度差を克服する。

1924年の開通で、設備は1980年代に更新されているものの、板張りの車体に古めかしい雰囲気が残っている。ルートは直線で、駅前から乗ると前半は掘割の中を進む。高速道の下をくぐった後、中間点で下る車両と行違うが、そちらは客扱いがなく、重りの役割しか持っていない。周りにいっとき畑が広がるが、まもなく家並みに囲まれて上部駅に到着する。所要時間は8分だ。

*注 ロダリエス・カタルーニャ Rodalies Catalunya(カタルーニャ郊外線)R4号線の列車が停車する。

カタルーニャ公営鉄道 FGC が運営する公共交通機関で、フニ Funi(ケーブルカーを意味するフニクラル funicular の略)と呼ばれて市民に親しまれてきた。しかし、政府の補助金削減を理由に、2011年でその役割は終了した。以来、観光用に週末の日中にだけ運行されていて、ふだんの市民の足はシャトルバスが担っている。

Blog_spain_heritagerail15
(左)ジェリダ・ケーブルカーの中間地点(2019年)
(右)上部駅(2014年)
Photos by calafellvalo at flickr. License: CC BY-NC-ND 2.0
 

【付記】鉄道名の和訳について

スペイン語では鉄道のことを「ferrocarril(フェロカリル、鉄の道の意)」というが、観光鉄道の場合は「tren(トレン、列車の意)」もよく見かける。これは運行されている列車そのものを指すとも考えられるが、保存鉄道リストでは一律に「鉄道」と読み替えている。

★本ブログ内の関連記事
 フランスの保存鉄道・観光鉄道リスト-北部編
 フランスの保存鉄道・観光鉄道リスト-南部編
 ポルトガルの保存鉄道・観光鉄道リスト

« 2023年6月 | トップページ | 2023年8月 »

2024年5月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

ACCESS COUNTER

無料ブログはココログ