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2023年5月15日 (月)

新線試乗記-福岡地下鉄七隈線、博多延伸

福岡市営地下鉄七隈(ななくま)線が、2023年3月27日に念願の博多駅延伸を果たした。トンネル工事で発生した道路陥没事故の影響で、計画より2年遅れての始動となった。

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七隈線を走る3000系電車
 

七隈線は、それまで鉄道空白地帯だった福岡市西南部の公共交通事情を抜本的に改善するために建設された路線だ。室見川(むろみがわ)左岸の橋本駅から市街中心部の天神南(てんじんみなみ)駅に至る12.0kmが、2005年に開業している。天神南では、地下街を介して主要路線の空港線天神駅との間で乗継ぎができたが、改札を出て約600m、7~8分の歩きを要していた。

今回開業したのは天神南~博多間のわずか1.6km(下注)に過ぎない。しかし、博多駅では空港線と改札内でつながり、約150m、3分で互いのホームへ移動できるようになった。また、JRの在来線や新幹線への乗継ぎも便利になり、従来の天神経由に比べて10分以上時間が短縮されるそうだ。

*注 営業キロ1.6km、建設キロ1.4km。全線は13.6kmになった。

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福岡市営地下鉄路線図
オレンジが空港線、青が箱崎線、緑が七隈線

新駅のようすを見たくて、延伸開業から1か月後の4月27日に、私も乗りに出かけた。路線の正式な起点は南西端にある橋本駅だが、旅行者の視点で、新設された博多駅から追っていこう。

空港線の駅がJR駅の地下で直交しているのに対して、七隈線のそれは駅の西口である博多口の広場の下だ。駅を出て左にある既存の地下街入口から、エスカレーターをいくつか乗り継いで地下深くに潜っていく。改札があるのは地下4階で、ホームはもう1層下、地下26mの深さだという。

空港線との乗換ルートもあとで歩いてみたが、七隈線の改札階からクランク状になった広い通路を進み、エスカレーターで上がると、そこがもう空港線のホームだった。途中に動く歩道が設置されていることもあって、思ったより短い距離に感じた。

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七隈線~空港線間の連絡通路
 

駅構内のあちこちに、延伸開業を告げるデジタルサイネージやポスターがまだ見られる。「博多まで一本、博多から一本」というキャッチコピーが示すとおり、七隈線各駅と博多駅の間は、直通化で画期的に近くなった。JR線から乗り継いで七隈線沿線の高校や大学に通う学生生徒にとっても朗報で、下宿を引き払って自宅通学に切り替える動きも報じられている。

一方、博多駅が空港線との接続駅になったことで、従来の天神南・天神間の改札外乗継ぎによる運賃通算制度は廃止された。そのため、「一本」で行けない地下鉄利用者にとってはかえって不利になるケースが出てきた。

たとえば、橋本方面から七隈線で来て空港線の天神以西へ行く場合、博多駅経由は遠回りだ。運賃は高くなるし、徒歩連絡は軽減されるものの所要時間も若干延びるようだ。また、箱崎線方面へは、中洲川端で再度乗換が必要になる。そこで激変緩和措置として、2024年3月まで、ICカード「はやかけん」のポイントでの一部還元や、天神経由特別定期券の発売が実施されている。

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七隈線博多駅
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延伸開業を告げるポスター
 

ホームに降りると、橋本行の電車が停車中だった。七隈線は、都営大江戸線などと同じく、鉄輪式リニアモーターカーで運行されるミニ地下鉄だ。車両は、開業時から走る窓周りが緑の3000系に加えて、延伸を機に水色の3000A系が増備された。

車両寸法は車長16.5m、幅2490mm、高さ3145mmで、片側3扉。JR筑肥線と直通する空港線の20m車(幅2860mm、高さ4135mm、片側4扉)に比べると、車内はいかにも狭く感じる(下写真参照、下注)。しかも空港線の6両編成に対して、七隈線は4両だ。まだ早朝なのですいているが、通勤通学時間帯の混雑は相当なものらしい。

*注 軌間は逆に七隈線が1435mmで、空港線はJR在来線と同じ1067mm。

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橋本車両基地に並ぶ3000系(手前)と3000A系
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(左)七隈線3000系車内
(右)空港線1000系車内
 

電車に乗り込み、次の櫛田神社前(くしだじんじゃまえ)駅へ移動する。博多旧市街の一角に位置していて、延伸区間では唯一の中間駅だ。すぐ西で博多川と那珂川の下を横断するため、ホームは地下25mと博多駅に匹敵する深さがある。改札階へは長いエスカレーターで上っていかなくてはならない。

駅名のとおり、ここは博多の夏の一大行事、祇園山笠が奉納される櫛田神社の最寄り駅だ。それでコンコースのあちこちに、神社と祭事にちなむ壁面装飾が施されている。ずらりと並んだ博多人形や博多織など伝統工芸品のディスプレーも見ごたえがあった。

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櫛田神社前駅
コンコースの伝統工芸品展示
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(左)高さのあったかつての祇園山笠を描いた線画
(右)パネル柵にも旧市街を描いた切り絵が
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築地塀に嵌るパネル画
 

ひととおり鑑賞してから、地上に上がった。祇園町西交差点を渡って、南門から櫛田神社の境内に入ると、早朝から一人二人とお参りに来ている。出勤前だろうか、スーツ姿の人も見かけた。

駅はまた、市内有数の商業施設、キャナルシティ博多にも直結している。これまで博多駅から歩くと10分程度かかったから、至近に出現した駅は便利な存在に違いない。日中、橋本からの折返しで乗った電車でも、多くの人がここで降りた。

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櫛田神社
(左)中神門から見た拝殿・本殿
(右)境内にある飾り山の常設展示
 

再び電車に乗れば、次はもう天神南だ。空港線なら天神は3駅目で、博多から5分かかる。対する七隈線はこの間をショートカットしているので、2駅目、所要3分と有利だ。到着したホームで駅名標を撮ろうとしたら、製作費を節約したのか、上り方の行先「櫛田神社前」は既存のパネルにシールを貼って済ませてあった。文字がバックライトを通さないため、暗くて目を凝らさないと読めないのが寂しい。

改札を出ると、突き当りが天神地下街の南端になる。延伸開業は、朝な夕な空港線との乗継ぎのためにここを行き交っていた人の流れに、少なからず影響を及ぼしただろう。それだけではない。天神にある西鉄の電車とバスのターミナルは、1990年代に1ブロック南に移転した結果、空港線より七隈線のほうが近くなっている。JRと西鉄との乗継経路も七隈線にシフトしていくのかもしれない。

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天神南駅
(左)シール貼りした行先
(右)天神地下街からのアプローチ
 

新線試乗はこれで完了だが、この後いくつかの駅に途中下車しながら、既存区間を最後まで乗り通した。降りた一つ目は、渡辺通(わたなべどおり)駅だ。福岡の地下鉄駅はそれぞれユニークなデザインのシンボルマークを持っていて、駅名標などに描かれている。たとえば、博多駅は博多織の模様、櫛田神社駅は境内にある銀杏(ぎなん)の葉と祇園山笠の舁縄(かきなわ)、天神南は「通りゃんせ」をして遊ぶ子ども、といった調子だ。

鉄道とは縁のない図柄が大多数を占める中、唯一、渡辺通駅だけはポール集電、ダブルルーフの路面電車があしらわれている。駅名になっている大通りに、かつて西鉄福岡市内線が通っていたことにちなみ(下注)、渡辺というのも、前身の博多電気軌道設立に尽力した呉服商の名なのだそうだ。大通りに出ても軌道の痕跡は残っておらず、歴史を思い起こさせてくれるのは、駅に掲げられたこのマークだけだ。

*注 渡辺通りを通っていた循環線は、貝塚線とともに福岡市内線で最後まで残っていたが、1979年に廃止された。

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渡辺通駅
(左)シンボルマークは路面電車
(右)渡辺通りに面した地上出入口
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パネル画も路面電車がテーマ
 

二つ目は桜坂(さくらざか)駅。往年のヒット曲とは関係がないのだが、南へ歩いて7~8分のところに周囲を一望できる高台があるというので、行ってみた。

標高約60mの小さな広場に建つ南公園西展望台だ。最上階から北を望むと、中心街の高層建物に寸断されながらも博多湾の水面が広がり、能古島(のこのしま)や志賀島(しかのしま)が見渡せる。南は南で、背振(せふり)山地の、幾重にも重なる青い稜線が美しい。地下鉄の旅は車窓を眺める楽しみがないから、いい気晴らしになった。

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南公園西展望台から北望
左の山が能古島、正面に見える志賀島から右へ、海の中道が続く
 

七隈線はここから六本松(ろっぽんまつ)を経て、城南学園通りを南下し、福大前(ふくだいまえ)を過ぎると再び西に針路を戻す。福岡高速環状線の下をしばらく進み、室見川を渡ったところが路線の起点、橋本駅だ。

駅から出て、地上に広がる七隈線の車両基地を金網越しに眺めた後、川べりの園地でしばらく休憩した。対岸こそすっかり住宅街だが、上流を望むと緑の山並みが意外に近い。風景にはどことなく、まだ高速道路も地下鉄もなく、のどかな田園地帯だったころの名残がある。

駅に戻った際、出入口の窓に「博多まで28分」の太文字が躍っているのに気がついた。途中の各駅でも同様のものが掲げられて、時短効果をアピールしている。今回の延伸で、七隈線は一段と利用価値を高めることになった。それに伴い、ピーク時の混雑度も厳しさを増しそうだ。

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橋本駅
(左)ホーム
(右)出入口、「博多まで28分」の文字が目を引く
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外環室見橋から室見川上流を望む
 

路線には、博多駅からさらに福岡空港国際線ターミナルまで延伸する構想があると聞く。地下鉄空港線の終点は国内線ターミナルであって、滑走路の反対側にある国際線のほうに鉄道は達していないからだ。関係者の期待は大きいのかもしれないが、果たしてこの狭く混んだ車内に、国際線利用客の大型スーツケースが多数持ち込まれる日がいつか来るのだろうか。

■参考サイト
福岡市地下鉄 https://subway.city.fukuoka.lg.jp/

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