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2023年5月

2023年5月31日 (水)

コンターサークル地図の旅-小滝川ヒスイ峡と旧親不知トンネル

日本列島を西南と東北に分けるフォッサマグナ(大地溝帯)、その西縁が糸魚川-静岡構造線、略して糸静線と呼ばれる断層群だ。糸静線が日本海に接する糸魚川周辺には地学上の見どころが点在していて、洞爺・有珠、雲仙とともに2009年に日本で初めて「世界ジオパーク(現 ユネスコ世界ジオパーク)」に認定されている。2023年5月20日のコンター旅は、そのいくつかをレンタカーで巡ろうと思う。

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ヒスイ峡にそびえる石灰岩の絶壁、明星山
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図1 糸魚川周辺の1:200,000地勢図
(1988(昭和63)年編集)

富山から乗り継いできた普通列車で、糸魚川駅に8時45分ごろ着いた。集合時刻までまだ少し時間があるので、改札の前で会った山本さんと、駅舎1階のジオパルを見に行く。名称からするとジオパークのインフォメーションセンターのはずだが、展示内容は鉄道ものに重点が置かれていて、私たちもそれが目当てだ。

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糸魚川駅ジオパル
(左)大糸線を走ったキハ52は休憩室に
(右)大糸線をイメージした大型レイアウト
 

10時11分着の新幹線はくたかで、大出さんと中西さんが到着して、本日の参加者4名が揃った。レンタカーの営業所で、予約してあった日産ノートに乗り込む。まずは国道148号で、姫川(ひめかわ)の谷を遡ろう。

掲げたテーマとはのっけから乖離するが、最初の訪問地は大糸線の根知(ねち)駅だ。ここで10時48分に行われるキハ120形同士の列車交換シーンに立ち会う。存廃が議論されているローカル線で、列車本数が少ないので、この駅での行き違いは午前中、一度だけだ。

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キハ120形の列車交換、根知駅にて
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図2 1:25,000地形図に歩いたルート(赤)等を加筆
根小屋周辺
 

続いて、根知川右岸(北岸)にあるフォッサマグナパークへ。道路脇の駐車場から森の中の小道を歩き始めると、すぐ山側に、「大切にしましょう 水準点」の標識が立っていた。地形図に93.2mの記載がある一等水準点だ。標石は健全そのもので、刻字が明瞭に読み取れ、四隅に保護石も従えている。近年は金属標や蓋された地下式も多い中、これは見本にしたくなるような外観だ。点の記では1986(昭和61)年の設置とされているが、標石自体はもっと古いものだろう(下注)。

*注 側面に、国土地理院の前身で1945~60(昭和20~35)年の間存在した地理調査所の名が刻まれている。

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根知川右岸の一等水準点
 

小道は大糸線のトンネルの上を越えていく。目の前が根知川を渡る鉄橋で、さっきの列車交換がなければ、ここで一枚撮りたいところだ。そう考えるのは私だけではないらしく、フェンスに親切にも列車通過時刻表が掲げてあった。今日は地学系の旅のつもりだが、核心にたどり着かないうちに、道中の誘惑が多くて困る。

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トンネルの上から望む大糸線の線路
奥が根知駅
 

道なりに5~600mほど進んだ先で、いよいよ「Fossa Magna Park」の壁文字が見えてきた。地層の露頭は、階段を降りていくと明らかになる。斜面が漏斗状に開削され、その上部に、境界と記された標柱と、その両脇に「東」「西」と大書された看板が立っている。

看板の意味するところは、糸静構造線のどちらの側かということだ。東はフォッサマグナで、プレート理論でいう北アメリカプレートに、西ははるかに古い地層でユーラシアプレートに属する。その境界は強い力が作用するため破砕帯になっていて、模式図のようなスパッと切れた断面ではない。

ちなみに、糸魚川寄りには、よく似た名のフォッサマグナミュージアムという観光施設がある。鉱物の好きな人なら一日でも居られると言われる展示館だが、今日は予定が目白押しで、訪問は難しい。

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フォッサマグナパーク
根知川の対岸に、糸静線上に建つ酒造会社の大屋根が見える
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「東」と「西」の看板の間に
構造線の位置を示す「境界」の標柱が立つ
 

フォッサマグナパークから、さらに上流へクルマを走らせた。次の行先は小滝川ヒスイ峡だ。小滝(こたき)で横道にそれて、1車線の坂道を延々と上っていく。小滝川に沿う林道入山線が最短経路だが、落石の影響で通行止めになっており、2倍以上の遠回りを強いられる。とはいえ、一帯を見下ろす展望台や、高浪(たかなみ)の池といった名所を経由するから、迂回もまた楽しからずや、だ。

道のサミット付近にあるその展望台からは、森の中にたたずむ高浪の池が眼下に望めた。後ろに控えるのは、石灰岩の切り立つ岩壁で知られる明星山(みょうじょうさん、標高1189m)だが、あいにく中腹まで雲に覆われている。視界を占有している斜面は、実は大規模な地すべりの跡で、池も、押し出された土砂の高まりの内側に、地下水が染み出してできたものだ。しかし、荒々しい地形の成因など忘れさせるほど、しっとりとしてもの静かな光景だ。

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展望台から望む高浪の池
後ろの明星山は雲の中
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図3 同 小滝川ヒスイ峡周辺
 

高浪の池までクルマで降りて、池の周囲をしばし散策した。薄霧が漂うなか、畔の木々が水面に映る姿はなかなかに幻想的で、東山魁夷の絵を思わせる。なんでもこの池には、「浪太郎」の名で呼ばれる巨大魚が棲んでいるそうな。

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森を映す高浪の池
 

池のほとりの食堂で昼食をとった後、ヘアピンが連続する山道をクルマでさらに下っていった。渓谷を見下ろす展望台まで来ると、さすがに明星山も霧のヴェールから姿を現した。川床から約450mもの高さがあるという剥き出しの岩肌が、威圧するようにそそり立っている。この景観を作り上げたのは、眼下を流れる小滝川で、南隣の清水山にかけて続く石灰岩の地層を侵食した結果だ。ロッククライミングの名所でもあるそうだが、どうすればこの絶壁を上れるのか、素人には想像もつかない。

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小滝川の渓谷をはさんで向かい合う石灰岩の山塊
左が明星山、右が清水山
 

遊歩道を歩いて上流へ向かう。まが玉池という人工池の前からは、ヒスイ峡の河原まで降りていくことができた。渓流の間に直径数mもあるような巨石が多数転がっていて、案内板によると、あの中にもヒスイの原石が含まれているらしい。漢字で翡翠と書くので緑色という印象が強いが、実際は白っぽいものが多く、緑色の部分は貴重なのだそうだ。

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小滝川ヒスイ峡
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(左)青みを帯びた渓流
(右)矢印がヒスイの原石(現地案内板を参考にして表示)
 

縄文時代から古墳時代にかけてヒスイは、装身具や勾玉に加工されて珍重された。驚くことに、それらはすべて糸魚川産だったという。ところが奈良時代以降、その文化が途絶えたことで、原産地がどこかもすっかり忘れられ、渡来品とさえ考えられていた。この峡谷でヒスイが再発見されたのは、それほど古い話ではなく、1935(昭和10)年のことだ。

もと来た道を戻り、北陸自動車道経由で今度は親不知(おやしらず)へ向かった。東隣にある子不知(こしらず)とともに、北アルプス(飛騨山脈)が日本海に直接没する景勝地として有名だ。海岸線に断崖絶壁が連なっているため、江戸時代まで、通行には波間を縫って狭い岩場を走り抜けるよりほかに方法がなかった(下注)。漢文風の珍しい地名は、親子といえども互いを気遣う余裕がないほどの難所という意味だ。

*注 南の坂田峠を越える山道もあったが、距離が長く、標高600mまで上らなければならない悪路だった。

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断崖が連続する親不知海岸
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図4 同 親不知周辺
 

その断崖の中腹に道路が開削されたのは、1883(明治16)年のことだ。越中越後を結ぶ主要街道として、その後何度か改修整備が行われたが、1966(昭和41)年に、山側に長さ734mの天険トンネルが完成したことにより、旧道となった。

方や、鉄道の開通は1912(大正元)年で、道路の直下に単線で長さ668mの親不知トンネルが通された。日本海縦貫線としての重要性から、こちらも1966年に、現在の親不知トンネル(長さ4536m)を含む複線の新線が完成して、廃線となった。

旧道と廃線トンネル(下注)は遊歩道として開放されていて、階段道を介して周遊することができる。私たちは親不知観光ホテル前の駐車場にクルマを停めて、旧道を西へ歩き始めた。張り出し尾根を回ったところに、さっそく展望台があった。そこに立つと、正面は真一文字の青い水平線、左右には険しい断崖が幾重にも折り重なって見える。

*注 旧道は「親不知コミュニティロード」の名がある。廃線トンネルは、案内板で「親不知煉瓦トンネル」と紹介されていた。

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(左)コミュニティロード展望台から望む日本海
(右)日本アルプスの父、ウォスター・ウェストンの銅像
 

旧道を少し進むと、「如砥如矢(とのごとく、やのごとし)」の文字が刻まれた岩壁の前に出た。明治の開削時に彫られたもので、砥石のように平らで、矢のように真直ぐだと、完成したての道路を称える記念碑だ(下注)。140年風雨にさらされてもなおくっきりと残り、当時の人々の喜びが伝わってくる。だが残念なことに、旧道はここで通行止めになっていて、廃線トンネルの西口へ回ることができない。

*注 左隣の岩壁にも「天下之嶮」、「波激す 足下千丈 親不知」などの刻字がある。

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岩壁に刻まれた「如砥如矢」の文字
 

一方、先ほどの駐車場から谷間の階段道を降りていくと、トンネルの東口に達する。ポータルはいたって普通で、記念の扁額などは嵌っていなかった。親不知子不知に穿たれた旧線トンネルは数本あり(下注)、その中でこれが最長というわけでもないからだろう。

*注 前後のトンネルも残っていることが肉眼で確認できるが、接近は困難。

内部も通行可能だ。直線なので出口の明かりは見えるものの、湿度が高いせいか、ぼんやりしている。枕木の撤去跡には凹凸が残り、ごつごつしたバラストも散らばっていて、足を取られやすい。それで、線路跡の海側に土盛りして歩道のようにしてある。照明の間隔が開いていて足元が暗いから、これはありがたい。

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旧 親不知鉄道トンネルの東口
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(左)西口から東望、内壁の黒ずみは蒸機の煤
(右)東口、次のトンネルが見えるが近づけない
 

東口ではまた、階段を伝って波打ち際まで降りることができる。そこは猫の額ほどの浜で、打ち上げられた大小の丸石で埋め尽くされていた。東も西も岩場に断崖が迫り、打ち寄せる波が激しく砕け散っている。確かに、ここを越えていくのは命懸けだ。

クルマに戻って、風波川東側の国道脇に設けられた親不知記念広場にも立ち寄った。ここも展望台になっているが、目を引いたのは、隅にあった一等水準点だ。金属標をコンクリートで固めてあり、経緯度や標高を刻んだ記念碑を伴っている。やはり親不知は特別の場所らしい。

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(左)波打ち際へ降りる階段
(右)丸石で埋まった浜に断崖が迫る
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親不知記念広場の一等水準点と記念碑
 

糸魚川への帰り道、青海(おうみ)にあるデンカ(旧 電気化学工業)の専用貨物線を訪れた。この工場では、青海黒姫山の石灰石を利用してカーバイドやセメント製品を生産している。かつてはその製品や原料を積んだ貨物列車が、旧 北陸本線青海駅との間を行き来していたのだが、運行は2008年をもって終了した。

先に上流へ向かうと、道路の御幸橋(みゆきばし)に並行して青海川を斜めに横断している鉄橋と、前後の線路がまだ残っていた。これは採掘地と工場を結ぶ通称「原石線」だが、レールや枕木は粉まみれで、しばらく使われていないように見える。一方、工場から青海駅へ出ていく貨物線はすでに撤去され、草ぼうぼうの廃線跡と化していた。地形図にはまだ現役のように描かれているものの、実態は遠い過去の記憶となりつつある。

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デンカ専用貨物線
(左)青海川を渡る鉄橋
(右)草生した青海駅手前の線路敷
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図5 同 青海周辺
 

掲載の地図は、国土地理院発行の20万分の1地勢図富山(昭和63年編集)および地理院地図(2023年5月25日取得)を使用したものである。

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2023年5月15日 (月)

新線試乗記-福岡地下鉄七隈線、博多延伸

福岡市営地下鉄七隈(ななくま)線が、2023年3月27日に念願の博多駅延伸を果たした。トンネル工事で発生した道路陥没事故の影響で、計画より2年遅れての始動となった。

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七隈線を走る3000系電車
 

七隈線は、それまで鉄道空白地帯だった福岡市西南部の公共交通事情を抜本的に改善するために建設された路線だ。室見川(むろみがわ)左岸の橋本駅から市街中心部の天神南(てんじんみなみ)駅に至る12.0kmが、2005年に開業している。天神南では、地下街を介して主要路線の空港線天神駅との間で乗継ぎができたが、改札を出て約600m、7~8分の歩きを要していた。

今回開業したのは天神南~博多間のわずか1.6km(下注)に過ぎない。しかし、博多駅では空港線と改札内でつながり、約150m、3分で互いのホームへ移動できるようになった。また、JRの在来線や新幹線への乗継ぎも便利になり、従来の天神経由に比べて10分以上時間が短縮されるそうだ。

*注 営業キロ1.6km、建設キロ1.4km。全線は13.6kmになった。

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福岡市営地下鉄路線図
オレンジが空港線、青が箱崎線、緑が七隈線

新駅のようすを見たくて、延伸開業から1か月後の4月27日に、私も乗りに出かけた。路線の正式な起点は南西端にある橋本駅だが、旅行者の視点で、新設された博多駅から追っていこう。

空港線の駅がJR駅の地下で直交しているのに対して、七隈線のそれは駅の西口である博多口の広場の下だ。駅を出て左にある既存の地下街入口から、エスカレーターをいくつか乗り継いで地下深くに潜っていく。改札があるのは地下4階で、ホームはもう1層下、地下26mの深さだという。

空港線との乗換ルートもあとで歩いてみたが、七隈線の改札階からクランク状になった広い通路を進み、エスカレーターで上がると、そこがもう空港線のホームだった。途中に動く歩道が設置されていることもあって、思ったより短い距離に感じた。

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七隈線~空港線間の連絡通路
 

駅構内のあちこちに、延伸開業を告げるデジタルサイネージやポスターがまだ見られる。「博多まで一本、博多から一本」というキャッチコピーが示すとおり、七隈線各駅と博多駅の間は、直通化で画期的に近くなった。JR線から乗り継いで七隈線沿線の高校や大学に通う学生生徒にとっても朗報で、下宿を引き払って自宅通学に切り替える動きも報じられている。

一方、博多駅が空港線との接続駅になったことで、従来の天神南・天神間の改札外乗継ぎによる運賃通算制度は廃止された。そのため、「一本」で行けない地下鉄利用者にとってはかえって不利になるケースが出てきた。

たとえば、橋本方面から七隈線で来て空港線の天神以西へ行く場合、博多駅経由は遠回りだ。運賃は高くなるし、徒歩連絡は軽減されるものの所要時間も若干延びるようだ。また、箱崎線方面へは、中洲川端で再度乗換が必要になる。そこで激変緩和措置として、2024年3月まで、ICカード「はやかけん」のポイントでの一部還元や、天神経由特別定期券の発売が実施されている。

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七隈線博多駅
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延伸開業を告げるポスター
 

ホームに降りると、橋本行の電車が停車中だった。七隈線は、都営大江戸線などと同じく、鉄輪式リニアモーターカーで運行されるミニ地下鉄だ。車両は、開業時から走る窓周りが緑の3000系に加えて、延伸を機に水色の3000A系が増備された。

車両寸法は車長16.5m、幅2490mm、高さ3145mmで、片側3扉。JR筑肥線と直通する空港線の20m車(幅2860mm、高さ4135mm、片側4扉)に比べると、車内はいかにも狭く感じる(下写真参照、下注)。しかも空港線の6両編成に対して、七隈線は4両だ。まだ早朝なのですいているが、通勤通学時間帯の混雑は相当なものらしい。

*注 軌間は逆に七隈線が1435mmで、空港線はJR在来線と同じ1067mm。

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橋本車両基地に並ぶ3000系(手前)と3000A系
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(左)七隈線3000系車内
(右)空港線1000系車内
 

電車に乗り込み、次の櫛田神社前(くしだじんじゃまえ)駅へ移動する。博多旧市街の一角に位置していて、延伸区間では唯一の中間駅だ。すぐ西で博多川と那珂川の下を横断するため、ホームは地下25mと博多駅に匹敵する深さがある。改札階へは長いエスカレーターで上っていかなくてはならない。

駅名のとおり、ここは博多の夏の一大行事、祇園山笠が奉納される櫛田神社の最寄り駅だ。それでコンコースのあちこちに、神社と祭事にちなむ壁面装飾が施されている。ずらりと並んだ博多人形や博多織など伝統工芸品のディスプレーも見ごたえがあった。

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櫛田神社前駅
コンコースの伝統工芸品展示
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(左)高さのあったかつての祇園山笠を描いた線画
(右)パネル柵にも旧市街を描いた切り絵が
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築地塀に嵌るパネル画
 

ひととおり鑑賞してから、地上に上がった。祇園町西交差点を渡って、南門から櫛田神社の境内に入ると、早朝から一人二人とお参りに来ている。出勤前だろうか、スーツ姿の人も見かけた。

駅はまた、市内有数の商業施設、キャナルシティ博多にも直結している。これまで博多駅から歩くと10分程度かかったから、至近に出現した駅は便利な存在に違いない。日中、橋本からの折返しで乗った電車でも、多くの人がここで降りた。

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櫛田神社
(左)中神門から見た拝殿・本殿
(右)境内にある飾り山の常設展示
 

再び電車に乗れば、次はもう天神南だ。空港線なら天神は3駅目で、博多から5分かかる。対する七隈線はこの間をショートカットしているので、2駅目、所要3分と有利だ。到着したホームで駅名標を撮ろうとしたら、製作費を節約したのか、上り方の行先「櫛田神社前」は既存のパネルにシールを貼って済ませてあった。文字がバックライトを通さないため、暗くて目を凝らさないと読めないのが寂しい。

改札を出ると、突き当りが天神地下街の南端になる。延伸開業は、朝な夕な空港線との乗継ぎのためにここを行き交っていた人の流れに、少なからず影響を及ぼしただろう。それだけではない。天神にある西鉄の電車とバスのターミナルは、1990年代に1ブロック南に移転した結果、空港線より七隈線のほうが近くなっている。JRと西鉄との乗継経路も七隈線にシフトしていくのかもしれない。

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天神南駅
(左)シール貼りした行先
(右)天神地下街からのアプローチ
 

新線試乗はこれで完了だが、この後いくつかの駅に途中下車しながら、既存区間を最後まで乗り通した。降りた一つ目は、渡辺通(わたなべどおり)駅だ。福岡の地下鉄駅はそれぞれユニークなデザインのシンボルマークを持っていて、駅名標などに描かれている。たとえば、博多駅は博多織の模様、櫛田神社駅は境内にある銀杏(ぎなん)の葉と祇園山笠の舁縄(かきなわ)、天神南は「通りゃんせ」をして遊ぶ子ども、といった調子だ。

鉄道とは縁のない図柄が大多数を占める中、唯一、渡辺通駅だけはポール集電、ダブルルーフの路面電車があしらわれている。駅名になっている大通りに、かつて西鉄福岡市内線が通っていたことにちなみ(下注)、渡辺というのも、前身の博多電気軌道設立に尽力した呉服商の名なのだそうだ。大通りに出ても軌道の痕跡は残っておらず、歴史を思い起こさせてくれるのは、駅に掲げられたこのマークだけだ。

*注 渡辺通りを通っていた循環線は、貝塚線とともに福岡市内線で最後まで残っていたが、1979年に廃止された。

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渡辺通駅
(左)シンボルマークは路面電車
(右)渡辺通りに面した地上出入口
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パネル画も路面電車がテーマ
 

二つ目は桜坂(さくらざか)駅。往年のヒット曲とは関係がないのだが、南へ歩いて7~8分のところに周囲を一望できる高台があるというので、行ってみた。

標高約60mの小さな広場に建つ南公園西展望台だ。最上階から北を望むと、中心街の高層建物に寸断されながらも博多湾の水面が広がり、能古島(のこのしま)や志賀島(しかのしま)が見渡せる。南は南で、背振(せふり)山地の、幾重にも重なる青い稜線が美しい。地下鉄の旅は車窓を眺める楽しみがないから、いい気晴らしになった。

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南公園西展望台から北望
左の山が能古島、正面に見える志賀島から右へ、海の中道が続く
 

七隈線はここから六本松(ろっぽんまつ)を経て、城南学園通りを南下し、福大前(ふくだいまえ)を過ぎると再び西に針路を戻す。福岡高速環状線の下をしばらく進み、室見川を渡ったところが路線の起点、橋本駅だ。

駅から出て、地上に広がる七隈線の車両基地を金網越しに眺めた後、川べりの園地でしばらく休憩した。対岸こそすっかり住宅街だが、上流を望むと緑の山並みが意外に近い。風景にはどことなく、まだ高速道路も地下鉄もなく、のどかな田園地帯だったころの名残がある。

駅に戻った際、出入口の窓に「博多まで28分」の太文字が躍っているのに気がついた。途中の各駅でも同様のものが掲げられて、時短効果をアピールしている。今回の延伸で、七隈線は一段と利用価値を高めることになった。それに伴い、ピーク時の混雑度も厳しさを増しそうだ。

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橋本駅
(左)ホーム
(右)出入口、「博多まで28分」の文字が目を引く
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外環室見橋から室見川上流を望む
 

路線には、博多駅からさらに福岡空港国際線ターミナルまで延伸する構想があると聞く。地下鉄空港線の終点は国内線ターミナルであって、滑走路の反対側にある国際線のほうに鉄道は達していないからだ。関係者の期待は大きいのかもしれないが、果たしてこの狭く混んだ車内に、国際線利用客の大型スーツケースが多数持ち込まれる日がいつか来るのだろうか。

■参考サイト
福岡市地下鉄 https://subway.city.fukuoka.lg.jp/

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