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2023年2月 3日 (金)

ベルギー・ルクセンブルクの保存鉄道・観光鉄道リスト

ベネルクス三国と呼ばれるベルギー、オランダ、ルクセンブルクにも、多様な保存鉄道・観光鉄道が多数運行されている。標準軌の蒸気機関車を走らせている路線はもとより、トラムタイプの小型車両(標準軌およびメーターゲージ)の保存運行にも積極的な点が一つの特色と言えるだろう。

2023年1月現在で更新したリストの中から、今回はベルギーとルクセンブルクの主なものをピックアップする。

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ブリュッセル都市交通博物館の保存トラム(2016年)
Photo by NearEMPTiness at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0

「保存鉄道・観光鉄道リスト-ベルギー・ルクセンブルク」
http://map.on.coocan.jp/rail/rail_belgium.html

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「保存鉄道・観光鉄道リスト-ベルギー・ルクセンブルク」画面
 

項番12 3河谷蒸気鉄道 Chemin de fer à vapeur des Trois Vallées (CFV3V)

標準軌の路線では、南部のフランス国境近くを走る3河谷蒸気鉄道 Chemin de fer à vapeur des Trois Vallées、略称 CFV3V がまず挙げられる。1973年の開業から50周年という歴史だけでなく、走行線の長さ、車両の保有数、開館日数のいずれをとっても、ベルギー最大規模の保存鉄道だ。

鉄道名の3河谷(トロワ・ヴァレー Trois Vallées)というのは、鉄道沿線のヴィロワン川 Le Viroin と、その源流のオー・ブランシュ L'Eau Blanche およびオー・ノワール L'Eau Noire が流れる三つの谷を指している。

起点は、SNCB(ベルギー国鉄)のマリアンブール Mariembourg 駅から約800m東にある扇形機関庫の前だ。そこから列車は、開けた谷の中を下流へ向かう。ヴィロワン自然保護区 Réserve naturelle du Viroin の瑞々しい風景を眺めながら14km、30~40分でかつての国境駅トレーニュ Treigne に到着する。

マリアンブールの車庫や側線にも車両が多数留置されているが、トレーニュでは、ヨーロッパ各国から収集された車両を展示する大きな鉄道博物館が来客を待っている。見学しているうちに、折り返しを待つ1時間強はたちまち過ぎてしまうだろう。夏は週5日運行しているのも、評判の高さを証明している。

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トレーニュ駅での機回し作業(2010年)
Photo by Mark Deltaflyer at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番3 マルデヘム=エークロー蒸気鉄道 Stoomtrein Maldegem - Eeklo (SME)

ヘント Gent とブルッヘ Brugge を結ぶ鉄道には、現在の直進ルート(50A号線)とは別に、エークロー Eeklo 経由の北回り線(58号線、下注)が存在した。しかし今も一般運行されているのは、東側のヘント~エークロー間だけだ。残りは廃止されて、中央部の10kmが保存鉄道の走行用になり、西側のほとんどは自転車道に転換された。

*注 直進ルートはイギリス航路の連絡鉄道として港町オーステンデまで1839年に開通。エークロー経由の路線開業は後の1861~62年。

その保存鉄道がマルデヘム=エークロー蒸気鉄道だ。西の終点マルデヘム  Maldegem が拠点駅で、蒸気センター Stoomcentrum と称する保存車両の車庫がある。ここからエークローに向けて、気動車か蒸気牽引の観光列車が走る。

沿線の見どころは、中間のバルヘルフーケ Balgerhoeke 駅の手前で渡るスヒップドンク運河 Schipdonkkanaal の昇開橋だ。第二次世界大戦で損傷したが再建され、文化財指定を受けている。

お楽しみは標準軌列車にとどまらない。マルデヘム駅では、西側の廃線跡に600mm軌間で1.2kmの線路が敷かれている。観光列車の運行日は、狭軌線でも往復運転が行われる。子どもたちには、本線の大きすぎる列車より、身の丈に近いこちらのほうが人気だ(下注)。

*注 2023年現在、蒸機は改修中で、列車は小型ディーゼルが牽いている。

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スヒップドンク運河の昇開橋(2018年)
Photo by Paul Hermans at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
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マルデヘムの600mm軌間を行く蒸気列車(1992年)
Photo by Smiley.toerist at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番11 ボック鉄道 Chemin de Fer du Bocq

南部のアルデンヌ高地は、ムーズ川 La Meuse に注ぐ支流によって無数の谷筋が刻まれている。その一つ、ボック川 Le Bocq の谷に沿って、高原上のシネー Ciney からムーズ川べりのイヴォワール Yvoir へ降りていく線路が、ボック鉄道の舞台だ。

保存運行では、SNCB駅のあるシネーと、ボーシュ Bauche にある仮設ホームまでの間、約15kmが使われている。激しく蛇行する谷を縫っていく列車の前に、4本のトンネルと11か所の橋梁が次々に現れる。ベルギーの保存鉄道では一番の渓谷区間といえるだろう。

拠点は、中間駅のスポンタン Spontin に置かれている。列車はここを出発して、シネーとボーシュの間を振り子のように往復し、約1時間30分で起点に戻ってくる。特別行事のときを除いて、気動車かディーゼル機関車による運行だ。ただし2023年現在、シネーの SNCB駅が工事中のため、特定の日を除いて、駅のかなり手前での折り返しになっている。

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ドリンヌ・デュルナル Dorinne-Durnal 駅を出る保存列車(2011年)
Photo by Noben k at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

続いて、トラムの保存鉄道を見ていきたい。

項番5 ブリュッセル都市交通博物館 Musée du transport urbain bruxellois (MTUB)

首都ブリュッセルには、かつて市内交通を担った旧型トラムやバスを保存するブリュッセル都市交通博物館、愛称「ミュゼ・デュ・トラム(トラム博物館)Musée du Tram」がある。場所は首都圏東部の、美しい公園や高級住宅街があるウォリュウェ・サン・ピエール Woluwe-Saint-Pierre の市電車庫の一角だ。

そこには60両を超える車両が展示されているが、この一部を使って市内軌道線で観光運行も行われている。コースは3方向に分かれ、博物館を出て東のテルヴューレン駅 Tervuren Station、または西のサンカントネール Cinquantenaire、北東のストッケル Stockel でそれぞれ折返す(運行日はコースごとに異なる)。

このうち最も知られているのは、トラム44系統のルートを共用するテルヴューレン線だろう。麗しい並木道のテルヴューレン大通り Avenue de Tervueren に沿い、広大なソニア(ソワーニュ)の森 Forêt de Soignes に分け入り、大都市とは思えない豊かな緑に包まれたルートを終始走っていく。

これとは別に博物館は、1930年代のPCCカーを使った「ブリュッセル観光路面軌道 Brussels Tourist Tramway (BTT)」も運営している。市内の観光名所を、途中50分の昼食休憩込みで4時間かけて巡るというものだ。観光バスで行くのとは一味違ったツアーが楽しめる。

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ソニアの森を行く保存トラム(2018年)
Photo by Smiley.toerist at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番4 キュストトラム De Kusttram

ブリュッセルの市内トラムは標準軌だが、他都市を含めてベルギーではむしろ、メーターゲージ(1000mm軌間)が主流だ。こうしたトラムは1870年代以降、市内だけでなく地方路線にも広く導入されたが、第二次世界大戦後は、自動車交通に押されて大半が壊滅した(下注1)。その中で唯一、長距離の路線が今も活用されているのが、北海沿岸の港湾都市やリゾートを結んで走るキュストトラム(下注2)だ。

*注1 地方軌道は、SNCB(国鉄、蘭 NMBS)とは別組織の、国有地方鉄道会社 Société Nationale des Chemins de fer Vicinaux (SNCV、蘭 NMVB) により運営されていた。そのため、1950年代から政策的なバス転換が一気に進んだ。
*注2 英語では The Coast Tram(海岸トラム)。

東のクノッケ Knokke から西のデ・パンネ De Panne に至る67kmのルートは、ベルギーの海岸線をほとんどカバーしている。一番の見どころは、北海の海岸線に沿うマリーアケルケ Mariakerke とミッデルケルケ Middelkerke の間だろう。構築物では、デ・ハーン・アーン・ゼー De Haan aan Zee の古い駅舎や、ゼーブルッヘ Seebrugge の運河に架かる跳開橋のストラウス橋 Straussbrug(下注)などが注目ポイントだ。

*注 海側の旋回橋が通行できないときの迂回線上にあるため、通常運行では経由しない。

この路線でも旧型トラムの保存活動が見られる。「TTOノールトゼー TTO Noordsee」という協会組織が、デ・パンネ市街の西にある旧車庫を拠点に行っているもので、夏の週末のデ・パンネ駅を往復する40分の本線走行など、公式サイトにはさまざまなイベントの案内が挙がっている。

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(左)デ・ハーン・アーン・ゼー駅舎(2006年)
Photo by Vitaly Volkov at wikimedia. License: CC BY 2.5
(右)跳開橋ストラウス橋(2014年)
Photo by Marc Ryckaert (MJJR) at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
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イベント「トラメラント」での保存トラム(2014年)
Photo by Wattman at flickr. License: CC BY-NC 2.0
 

項番13 ロブ=テュアン保存軌道 Tramway Historique Lobbes-Thuin (ASVi)

フランス語圏である南部のワロン地方には、ローカルトラム(地方軌道)tram vicinal の走行シーンが見られる保存鉄道がいくつかある。シャルルロワ Charleroi に程近い町、テュアン Thuin に拠点を置くロブ=テュアン保存軌道、略称 ASVi もその一つだ。

テュアンの町はずれにある ASVi博物館から3方向に延びるルートは、どれも個性的だ。一つは西へ向かい、隣村ロブ Lobbes の山手に至る約4km。二つ目は、テュアンの下町(ヴィル・バス Ville Basse)に入る400mほどの短い支線。この2本は、かつてシャルルロワ Charleroi 市内まで続く1本のトラム路線(92系統)だった。

三つ目は、2010年に開業した南のビエーム・スー・テュアン Biesme-sous-Thuin に至る3km区間で、標準軌の廃線跡にメーターゲージを再敷設してある。非電化のため、ディーゼルトラムで運行される。

注目はやはり前者だ。走行線が道路上の併用軌道から専用軌道へ、さらに路肩に沿う道端軌道へと目まぐるしく移り変わる。点在する田舎町をこまめに結んでいたローカルトラムの見本のようなルートで、SNCV時代のトラム車両を多数展示している博物館とともに、ぜひ訪れたいところだ。

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テュアン・ヴィル・バスの街路を行くトラム(2009年)
Photo by Smiley.toerist at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
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ビエーム・スー・テュアン線は遊歩道併設(2012年)
Photo by BB.12069 at flickr. License: CC BY 2.0
 

項番9 エーヌ観光軌道 Tramway touristique de l'Aisne (TTA)

地方のトラム路線には、非電化のところも多かった。こうした区間には、最初は蒸気機関車、後にディーゼル動力のトラム車両が導入された。この青い煙を吐きながら走るトラムが、エーヌ観光軌道の主役だ。

保存鉄道は1966年の開業で、ベルギーで最も長い歴史を持っているが、所在地は、リエージュの南40kmの辺鄙な山中にある村のはずれだ。起点ポン・デルゼー(エルゼー橋)Pont d'Erezée を後にした旧型トラムは、人家もまばらなエーヌ川 L'Aisne の谷間を延々と遡っていく。2015年の延伸で、線路は丘の上のラモルメニル Lamorménil に達し、路線長が11.2kmになった。

残念なことに、コロナ禍と2021年7月の洪水による線路損壊というダブルパンチを受けて、観光軌道はこのところずっと運休したままだ。運営母体の協会が資金不足で復旧の見通しが立たないため、見かねた自治体が支援に乗り出したと報じられている。保存活動の歴史を途絶えさせないためにも、無事の再開を待ちたい。

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車庫のあるブリエ Blier 駅付近を行くディーゼルトラム(2009年)
Photo by Frans Berkelaar at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

項番10 アン鍾乳洞トラム Tram des grottes de Han

エーヌ観光軌道から南西30kmのアン・シュル・レス Han-sur-Lesse にも、観光客を町の中心部からアン鍾乳洞 Grottes de Han の入口へと運ぶトラムがある。路線長3.7km、ディーゼルトラムの後ろにオープン客車を連ねた姿は遊園地の乗り物のようだが、開業は1906年、キュストトラムと並ぶ地方軌道の貴重な生き残りだ。

周辺は自然動物保護区で、クルマはもとより人の立ち入りも制限されている。鍾乳洞にアクセスする唯一の交通手段が、このトラムだ。ミニ路線が1世紀以上も存続してきた理由はここにある。

かつてトラムはアンの町の教会前から出発し、主要道を通る短い併用軌道を経ていた。しかし、1989年に道沿いの公園に終端ループが新設されてからは、そこが乗り場になった。

列車はレス川に沿って、上流へ進む。鍾乳洞の出口近くで車庫の横を通過すると、いよいよ森の中だ。緩やかな尾根を大きく回り込んで行くうちに、機回し側線のある終点に到着する。鍾乳洞の入口はすぐそばにある。出口は町に近く、徒歩で戻ることができるので、通常、列車の復路は回送だ。

*注 鉄道の詳細は「ベルギー アン鍾乳洞トラム I」「同 II」参照。

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アン・シュル・レスの教会前で発車を待つトラム(1987年)
後の区間短縮でこの光景は見られなくなった
Photo by Smiley.toerist at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

最後は、隣国ルクセンブルクの保存鉄道について。

項番14 トラン1900 Train 1900
項番15 鉱山鉄道(ミニエールスブン)Minièresbunn

「トラン1900」は標準軌の、「鉱山鉄道(ミニエールスブン)」は700mm軌間の路線で、どちらも南西端のフランス、ベルギーとの3国国境地帯に位置するフォン・ド・グラース Fond-de-Gras を起点にしている。

ここはロレーヌやザールラントにまたがる鉱業三角地帯 Montandreieck の一角だ。かつて周辺には、鉄鉱山から周辺の製鉄所や積出し駅に向けて、産業鉄道が網の目のように敷設されていた。2本の保存鉄道はその廃線跡を利用していて、他の鉱山施設とともに、産業遺跡公園「ミネットパルク Minettpark」(下注)の名のもとにまとめられている。

*注 ミネット Minett は、この地域で産出される燐鉱石を意味する。

「トラン1900」(下注)の蒸気列車は、折返し駅フォン・ド・グラースからV字形に出ている線路を右にとって東へ向かう。張り出す丘を巻いたカーブだらけのルートを走り、約25分でCFL(ルクセンブルク国鉄)線と接続するペタンジュ Pétange に到達する。

*注 トラン1900の名は、1973年の開業当時使用されていた蒸機が1900年製だったことに由来する。

一方、V字路の左側の線路もボワ・ド・ロダンジュ Bois-de-Rodange までの約1.5kmが運行可能で、列車が走らない日はドライジーネ(軌道自転車)の走行に使われている。

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フォン・ド・グラース駅の蒸気列車(2015年)
Photo by Daniel BRACCHETTI at flickr. License: CC BY-NC-ND 2.0
 

「鉱山鉄道(ミニエールスブン)」(下注)は、より観光要素が濃いアトラクションだ。近隣の採鉱地からフォン・ド・グラース駅へ鉱石を運搬していた700mm軌間の線路 約4kmが、保存運行に供されている。

*注 Bunn はドイツ語の Bahn に相当するルクセンブルク語で、ミニエールスブンは鉱山の鉄道を意味する。

ルートは大きく3つの区間に分かれる。第1区間はクラウス Krauss 蒸機の先導で、スイッチバックのギーデル Giedel 駅を経て、鉱石の加工設備が残るドワール Doihl まで行く。第2区間では、電気機関車が牽くトロッコに乗り換えて長さ1400mの坑道を通り抜け、山向こうのラソヴァージュ Lasauvage に出る。途中、坑内で採掘跡のガイドツアーがある。

最後の区間はオプション(乗車は随意)で、ラソヴァージュの教会を往復する便と、国境を越えてフランス側のソーヌ Saulnes まで足を延ばす便が運行される。トラン1900やフォン・ド・グラースの鉄道博物館と組み合わせるならもはや一日がかりで、鉄道漬けの充実した訪問機会になるだろう。

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ラソヴァージュ駅の鉱山列車(2019年)
Photo by Robert GLOD at flickr. License: CC BY-NC-ND 2.0
 

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