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2023年2月12日 (日)

オランダの保存鉄道・観光鉄道リスト

オランダの保存鉄道は、標準軌の蒸気鉄道線と都市型トラム軌道が全土にバランスよく配置されている。遠くまで出向かなくとも、滞在地の近くでタイプの異なる鉄道風景に出会うことができる。2023年1月現在で更新した下記リストの中から、主なものを見ていこう。

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ブーケローに向かう地方鉄道博物館の保存蒸機(2019年)
Photo by Rob Dammers at wikimedia. License: CC BY 2.0

保存鉄道・観光鉄道リスト-オランダ
http://map.on.coocan.jp/rail/rail_netherlands.html

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「保存鉄道・観光鉄道リスト-オランダ」画面
 

まず、標準軌の蒸気鉄道から。

項番1 スタッツカナール鉄道財団 Stichting Stadskanaal Rail (STAR)

北東部の平原地帯で活動するこの財団は、オランダの保存鉄道で最も長い路線を有している。フェーンダム Veendam からスタッツカナール Stadskanaal を経てミュッセルカナール・ファルテルモント Musselkanaal-Valthermond まで、その距離は26kmにもなる。

フェーンダムには州都フローニンゲン Groningen から一般列車が入るようになったので、アクセスは容易だ。1910年築の歴史ある駅舎は、以前から保存鉄道が使っている。中間のスタッツカナールが機関庫のある拠点駅で、通常の保存運行では、この2駅間15kmを往復する。テンダー蒸機またはディーゼル機関車が先導し、片道40分の旅だ。

特別ダイヤの日に限り、一部の列車がスタッツカナールからさらに3.5kmのニーウ・ボイネン Nieuw Buinen まで足を延ばす。しかしその先は、線路の劣化により、2018年を最後に運行区間から外されたままになっている。

他方、フェーンダム~スタッツカナール間では、一般列車を延長運転する計画が進んでいて、2024年末の開業予定だ。保存財団は今ある線路を売却し、使用料を払って運行する形になるという。

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スタッツカナール駅にて(2016年)
Photo by Smiley.toerist at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番3 地方鉄道博物館 Museum Buurtspoorweg (MBS)

地方鉄道博物館というのは、この保存鉄道を運営する財団の名称だ。原語の Buurtspoorweg(ビュールトスポールウェフ)は一般用語ではないが、幹線網から離れた地方の町や村を結んでいたローカル線を意味している(下注)。他に先駆けて1967年に設立された財団は、こうした歴史的な地方鉄道の設備を取得し、維持・活用することを目的としてきた。

*注 この単語自体は、ベルギーにあった旧 国有地方鉄道会社 Nationale Maatschappij van Buurtspoorwegen (NMVB) の名称に用いられたことで知られる。

活動の舞台は、ドイツ国境に近い東部のハークスベルヘン Haaksbergen とブーケロー Boekelo の間にある約7kmの旧地方鉄道線だ。もとは近くの主要都市エンスヘデ Enschede に通じていた路線だが、高速道路の建設により、根元を断たれた形で現在に至っている。

鉄道の拠点はハークスベルヘンにあり、ここから地方線用のタンク蒸機に牽かれた観光列車(またはレールバス)が出発する。畑と並木が続く平原をまっすぐ進んだ列車は、約25分で折り返し駅のブーケローに到着する。

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黄塗装6号機が牽く保存列車(2016年)
Photo by Rob Dammers at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

項番5 フェーリュウェ蒸気鉄道協会 Veluwsche Stoomtrein Maatschappij (VSM)

オランダ中部、森が広がるフェーリュウェ丘陵 Hoge Veluwe の縁辺を、テンダー機関車が地響きを立てて疾駆する。フェーリュウェ蒸気鉄道協会が運営する路線は、大型蒸機の迫力ある走行シーンを身近に体験できることで知られている。NS(オランダ国鉄)線のアペルドールン Apeldoorn 駅から乗り込めるというアクセスの良さもあって、夏場は週6日のフル操業だ。

ルートは、アペルドールンから南下し、同じくNS線に接続するディーレン Dieren までの全長22kmだが、通常運行では、15km地点のエールベーク Eerbeek で折返す。列車は、アペルドールン市街地で運河に並行した後、平野に出て、畑地と森のパッチワークを縫っていく。復路では同6kmのベークベルヘン Beekbergen で休憩時間があり、保有車両を格納した機関庫を見学できる。

夏はディーレンまで全線を運行する日もある。列車を片道にしてエイセル川 IJssel 下りの遊覧船に乗り継ぎ、ジュトフェン Zutphen からNS線の電車でアペルドールンに戻るという別コースも可能だ。

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アペルドールン運河に沿って走る(2017年)
Photo by Rob Dammers at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

項番7 ホールン=メーデムブリック保存蒸気軌道 Museumstoomtram Hoorn-Medemblik (SHM)

NS線に隣接する拠点ホールン Hoorn 駅からメーデムブリック Medemblik まで20km。真っ平なポルダー(干拓地)を横断していくこの蒸気列車は、言わずと知れたオランダの代表的観光スポットの一つだ。4月から9月まで週6日、さらに夏の間は無休という運行日の多さが、人気ぶりを如実に物語る。

標準軌とはいえ、もとは蒸気トラム stoomtram が走っていた地方の軽便線だ。保存鉄道は、その全盛期だった1920年代の鉄道風景の再現に努めている。運行の主役を担うのは、小型のタンク蒸機や箱型のトラム蒸機で、レンガ造りの駅舎や沿線の跳ね橋、風車も、気分を盛り上げる大事な舞台装置だ。

これも当時のままなのか、列車は自転車でも追いつけるくらいに、のんびりと走る。全線の所要時間は85分。そこで、メーデムブリックの駅裏から観光船が、波静かなエイセル湖 IJsselmeer を渡ってNS線の駅があるエンクハイゼン Enkhuizen まで運航されている。同じ道を往復するのは退屈だとお思いなら、この三角ルート(逆回りも可)がお薦めだ。

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ウォホヌム・ニビックスワウト Wognum-Nibbixwoud 駅付近(2008年)
Photo by Maurits90 at wikimedia. License: CC0 1.0
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メーデムブリック駅の列車と観光船(2017年)
Photo by Tedder at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番16 百万フルデン線、南リンブルフ蒸気鉄道協会 Miljoenenlijn, Zuid-Limburgse Stoomtrein Maatschappij (ZLSM)

オランダ南東端にも、丘陵地を行く標準軌の蒸気鉄道「百万フルデン線 Miljoenenlijn」(下注)がある。風変りな名称は、1934年に完成した路線の工事に1km当たり100万フルデンの費用がかかったことに由来する。起伏の多い土地を横断するルートで、大量の土砂を移動させなければならなかったからだ。

*注 Miljoenenlijn(ミリューネンレイン)は、直訳すると「百万線」だが、原意に基づき、通貨単位を補足した。

南リンブルフ蒸気鉄道協会が運行するこの保存列車は、拠点のシンペルフェルト Simpelveld から北、西、東の3方面に進んでいく。

北は、「百万フルデン線」を通ってケルクラーデ Kerkrade へ。西は、旧アーヘン=マーストリヒト線 Spoorlijn Aken - Maastricht を通ってスヒン・オプ・フール Schin op Geul へ。東は、同じ路線で国境を越えてドイツのフェッチャウ Vetschau(下注)へ。いずれもそこで折り返して拠点に戻ってくる。

*注 現在は国境手前のボホルツ Bocholtz 折返しになっている。

テンダー蒸機とともに、旧DB(ドイツ連邦鉄道)仕様の赤いレールバスの運行が見られるのも、国境に近い路線ならではだ。本来、フェッチャウ延伸用に購入された車両だが、使い勝手がいいと見え、今では他の2方面でも活用されている。

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スヒン・オプ・フール駅のレールバス(2006年)
Photo by Robert Brink at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

項番13 旧RTM財団 Stichting voorheen RTM (RTM)

南西部の北海沿岸にあるこの保存鉄道は、1067mm(3フィート半)軌間であるところが貴重だ。かつては南ホラント Zuid-Holland 州一帯の地方軌道をはじめ、オランダ国内でもふつうに見られた軌間だが、今やここにしか残っていない。

RTMの名は、周辺の路線網を運営していたロッテルダム軌道会社 Rotterdamse Tramweg Maatschappij の略称に由来する。1966年に最後のRTM軌道線が廃止された後、財団はその車両を廃棄の危機から救い出し、保存鉄道を立ち上げた。アウトドルプ Ouddorp 郊外のデ・プント De Punt に、活動の拠点としている鉄道博物館がある。

列車が走る約8kmのルートもまたユニークだ。ほぼ全線が、ブラウウェルスダム Brouwersdam と呼ばれる締切堤の上を通っている。南北二つの島(下注)の間を締め切る長さ6.5kmの長大堤防で、拠点を出発した列車は、転回ループで反転の後、堤防に沿って南へ向かう。周辺はすっかりリゾート化していて、車窓にはマリーナやビーチが点在するのびやかな水辺の景色が続いている。

*注 フーレー・オーファーフラッケー島 Goeree-Overflakkee とスハウエン・ダイフェラント島 Schouwen-Duiveland。デ・プントは英語の the point(岬)で、フーレー島の先端にある。

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ブラウウェルスダムの上を行く蒸気列車(2012年)
Photo by Smiley.toerist at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

項番10 カトウェイク=レイデン蒸気鉄道 Stoomtrein Katwijk Leiden (SKL)

オランダでは数少ないナローゲージの保存鉄道だ。大学都市レイデン(ライデン)Leiden の西郊、ファルケンブルフ湖 Valkenburgse Meer のほとりに、古様式で建てられた駅舎と機関庫、そして湖岸を半周する700mm軌間、約2kmの専用軌道がある。

もとは海岸砂丘の貨物線で運行されていたが、砂丘への立入りが制限されることになり、1993年に今の場所に移ってきた。線路はその際、新たに敷かれたものだ。湖自体、煉瓦製造用の砂を採取した跡に造られた人造湖だが、すでにのどかな自然風景としてなじんでいる。

シーズン週末には、このルートを小型蒸機が数両の客車を連ねてとことこと走る。終点まで行って戻ってくると、駅で別のディーゼル列車が待っていて、そのまま機関庫へと案内してくれる。

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狭軌鉄道の駅構内(2014年)
Photo by NearEMPTiness at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番8 アムステルダム保存電気軌道 Electrische Museumtramlijn Amsterdam (EMA)

ベルギーと同様、トラムの保存鉄道も各地で見ることができる。中でも他と一線を画しているのが、アムステルダム市南部にあるこの電気軌道だ。長さ7.2kmの専用線をもち、非公式ながら、市電30系統を名乗っている。

ルートは、のどかな運河とアムステルダムの森 Amsterdamse Bos に沿って延びる。瑞々しい緑に包まれた軌道を、国内およびヨーロッパの各都市から集められた古典電車が行き交う。観光客だけでなく、森の中の公園や施設へ行く地元市民も利用するフレンドリーなトラム路線だ。

路線はもとハールレマーメール鉄道 Haarlemmermeerspoorlijnen(下注)という、首都南郊に120kmの路線網を広げる地方鉄道の一部だった。当時のレンガ建て駅舎が、ターミナルのハールレマーメール駅 Haarlemmermeerstation と途中のアムステルフェーン駅 Station Amstelveen に残され、文化財に指定されている。

*注 ハールレマーメール Haarlemmermeer は、アムステルダムの南西にあったハールレム湖のことだが、干拓されて今は存在しない。鉄道名は、その路線網が湖の東岸にあったことに由来する。

なお、高速道路の拡幅に伴い、現在、軌道が通過する高架橋の架替え工事が行われている。そのため、運行は5.3km地点パルクラーン Parklaan 止まりになっていて、全線復活は2026年の予定だ。

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カルフィエスラーン Kalfjeslaan 停留所での列車交換(2022年)
Photo by Alf van Beem at wikimedia. License: CC0 1.0
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(左)ハールレマーメール駅舎(2005年)
Photo by Rijksdienst voor het Cultureel Erfgoed at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
(右)アムステルフェーン駅舎(2013年)
Photo by DennisM at wikimedia. License: CC0 1.0
 

項番11 ハーグ公共交通博物館 Haags Openbaar Vervoer Museum (HOVM)
項番12 ロッテルダム路面電車博物館 Trammuseum Rotterdam

アムステルダムに負けじとばかり、ハーグとロッテルダムにもトラムを展示する博物館がある。週末等には、現代の低床車に混じって古典車両も営業用の軌道に姿を見せる。

ハーグ公共交通博物館は、ハーグ市内にある文化財指定の旧トラム車庫が拠点だ。毎週日曜に開館され、その日の午後に2回、市内または郊外へ向けて観光トラムの運行がある。

現在、使用車両はクリームにグリーン帯の伝統色をまとった1960年代のPCCカーだ。行先は月ごとの週替わりで、ビーチリゾートのスヘーフェニンゲン Scheveningen や、フェルメールの故郷デルフト Delft など魅力的な観光スポットが含まれている。

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PCCカーでデルフトへ(2014年)
Photo by FaceMePLS at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

一方、ロッテルダム路面電車博物館は、NS線の北駅に近い旧トラム車庫で、毎月第1土曜日に開館する。所在地が中心部からやや遠いからか、10系統を名乗るトラムツアーは博物館を経由せず、中心部周辺の路線網を循環する形で行われている。シーズンの木曜から日曜にかけて30~45分間隔で運行され、比較的利用しやすい。

なお、どちらも市内交通の乗車券は有効ではなく、博物館やトラム車内などで専用乗車券を購入する必要がある。これを持っていれば、当日の途中停留所での乗降は自由だ。

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市内ツアー中の旧型トラム(2022年)
Photo by Eriksw at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番6 オランダ野外博物館軌道線 Tramlijn Nederlands Openluchtmuseum (NOM)

最後に、古典トラムの走行シーンが楽しめる場所をもう1か所挙げておこう。

中部のアルンヘム(アーネム)Arnhem 北郊で、オランダの昔の日常文化を保存展示しているオランダ野外博物館 Nederlands Openluchtmuseum だ。1918年開設の歴史ある施設で、国内各地の古い家屋や農場、工場などの建物が移築・再建され、そこで営まれていたさまざまな作業の実演も見学できる。

ここに1996年、動く展示物として、また広大な構内の移動手段も兼ねて、標準軌のトラム軌道が造られた。構内を一周する単線、全長1.8kmのルートだ。アルンヘムの1929年製トラムのレプリカ(下注)をはじめ、近隣各都市から収集されたトラムが、6か所の停留所を結んで走っている。

*注 アルンヘムの市内軌道は 1067mm軌間だったが、レプリカは標準軌に設計変更された。

1周15分の乗車体験を終えた後は、展示施設に立ち寄りながら軌道に沿って散策するといい。明るい緑の森や古びた建物のレンガ壁に古典トラムがよく似合い、思わずカメラを向けたくなるはずだ。

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(左)構内を行くロッテルダム車(2014年)
Photo by Baykedevries at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
(右)同上(2019年)
Photo by Smiley.toerist at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

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