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2022年8月

2022年8月27日 (土)

イギリスの保存鉄道・観光鉄道リスト-ウェールズ編

イングランド編に引き続き、ウェールズで特に興味をひかれる保存鉄道、観光鉄道を挙げてみたい。

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フェスティニオグ鉄道
ポースマドッグ・ハーバー駅(2015年)
Photo by Markus Trienke at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0
 

「保存鉄道・観光鉄道リスト-ウェールズ」
http://map.on.coocan.jp/rail/rail_wales.html

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「保存鉄道・観光鉄道リスト-ウェールズ」画面

項番7 フェスティニオグ鉄道 Ffestiniog Railway

標準軌の保存鉄道が幅を利かせているイングランドに対して、ウェールズは狭軌の王国だ。「ウェールズの偉大なる小鉄道 Great Little Trains of Wales」というプロモーションサイトには、12本もの狭軌保存鉄道が名を連ねている。

■参考サイト
Great Little Trains of Wales https://www.greatlittletrainsofwales.co.uk/

なかでもフェスティニオグ鉄道は、後述するタリスリン鉄道と並ぶ代表的存在だ。2021年には、タリスリンともども「ウェールズ北西部のスレート関連景観 Slate Landscape of Northwest Wales」の構成資産として、世界遺産に登録された。

軌間は1フィート11インチ半(597mm)。北部の小さな港町に置かれた拠点駅ポースマドッグ・ハーバー Porthmadog Harbour から、東の山懐にあるブライナイ・フェスティニオグ Blaenau Ffestiniog まで21.9kmを、列車は1時間10分前後かけて走破する。

鉄道は、もともとブライナイ・フェスティニオグ周辺で採掘されたスレート(粘板岩)を、ポースマドッグの海港まで運び下ろすために建設されたものだ。1836年というかなり早い時代のことで、まだ狭軌用の蒸気機関車は開発されていない。それで、スレートを積んだ貨車を下り勾配の線路で自然に転がすという、重力頼みの運行方式だった。貨車には馬も載せられていて、帰りはこの馬が、荷を下ろして軽くなった貨車を牽いて上った。

今はもちろん、行きも帰りも蒸機が牽引する。19世紀生まれのハンスレット小型機とともに、自社工場で復元された関節式フェアリーなど、独特な設計の機関車が活躍しているので、途中駅での列車交換シーンも見逃せない。

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(左)シングル・フェアリー式「タリエシン Taliesin」(2018年)
Photo by Hefin Owen at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0
(右)ダブル・フェアリー式「デーヴィッド・ロイド・ジョージ David Lloyd George」(2010年)
Photo by Peter Trimming at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0
 

車窓の主な見どころは、ポースマドッグを出発してすぐの、ザ・コブ The Cob と呼ばれる長い干拓堤防の横断、中間のタン・ア・ブルフ(タナブルフ)Tan-y-bwlch 駅前後で広がる雄大なカンブリア山地の眺め、そしてジアスト Dduallt にある珍しいオープンスパイラル(ループ線)だ。

終点ブライナイ・フェスティニオグ駅は、標準軌(1435mm)であるナショナル・レールのコンウィ・ヴァレー線 Conwy Valley line と共有している。線路幅は大人と子供ほどの差があるが、保存鉄道のホームは屋根つきで、切符売り場もあって、充実度はこちらが勝る。

*注 鉄道の詳細は「ウェールズの鉄道を訪ねて-フェスティニオグ鉄道 I」「同 II」参照。

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ザ・コブを横断する重連の蒸気列車(2008年)
Photo by flyinfordson at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0
 

項番3 ウェルシュ・ハイランド鉄道 Welsh Highland Railway

ポースマドッグ・ハーバー駅に発着するのは、フェスティニオグ鉄道だけではない。旧来の1番線の隣に新設された2番線には、ウェルシュ・ハイランド鉄道の列車が入ってくる。

同じ1フィート11インチ半(597mm)軌間で、標準軌と狭軌の廃線跡を利用して再敷設されたものだ。メナイ海峡 Menai Strait 沿いのカーナーヴォン Caernarfon からスノードン Snowdon 西麓の峠を越えて、ポースマドッグに至る。延長39.7kmは、イギリスの保存鉄道では標準軌を含めても最長で、全線を乗り通すと2時間以上かかる。

実はこれも、フェスティニオグ鉄道会社が運行している。同社は1836年の創業で、現存する世界最古の鉄道会社とされているのだが、今や合計60km以上の路線を有するイギリス最大の保存鉄道運行事業者でもある。

世界遺産の城郭近くにあるカーナーヴォン駅から、列車は南へ向けて出発する。ディナス Dinas で東に向きを変えた後は、スノードニア国立公園 Snowdonia National Park の山岳地帯に入っていく。車窓を流れる風景はすこぶる雄大で、保存鉄道有数の絶景区間だ(下の写真参照)。名峰スノードン山の西麓で峠を越えると、今度は2か所のS字ループで一気に高度を下げ、観光の村ベズゲレルト Beddgelert に停車する。

終盤は農地が広がる沖積低地を横断していくが、ポースマドックに近づいても、ナショナル・レール線(標準軌)との平面交差や、ブリタニア橋 Britania Bridge の併用軌道など、注目ポイントが次々に現れて、乗客を飽きさせることがない。

*注 鉄道の詳細は「ウェールズの鉄道を訪ねて-ウェルシュ・ハイランド鉄道 I」「同 II」「同 III」参照。

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スノードン山麓を降りてくる列車
リード・ジー Rhyd-Ddu 北方(2013年)
Photo by Andrew at flickr.com. License: CC BY 2.0
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ブリタニア橋の併用軌道(2013年)
Photo by Gareth James at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0
 

項番11 ウェルシュプール・アンド・スランヴァイル軽便鉄道 Welshpool and Llanfair Light Railway

ナショナル・レール(旧国鉄)のカンブリア線 Cambrian line を走る下り列車が、イングランドとウェールズの「国」境を越えて最初に停車するのが、ウェルシュプール Welshpool だ。しかし、軽便鉄道の駅はその周りにはなく、市街地を西へ通り抜けた1.5km先に孤立している。もとの軽便線は、町裏を通って標準軌の駅前まで来ていたのだが、1956年の廃線後、町が跡地をバイパス道路や駐車場に転用する方針を固めたため、鉄道を復活できなかったのだ。

現在の起点ウェルシュプール・レーヴン・スクエア Welshpool Raven Square 駅は、旧線にあった棒線停留所を新たに拡張したものだ。軽便鉄道はそこから西へ向かい、バンウィ川 Afon Banwy 沿いにあるスランヴァイル・カイレイニオン Llanfair Caereinion の町まで13.7kmのルートを走っている。

駅を出て間もなく、蒸機の前には、北側の山の名にちなみゴルヴァ坂 Golfa Bank と名付けられた峠越えが立ちはだかる。34.5‰勾配がほぼ1マイル(1.6km)続くという険しい坂道で、カーブも多く、蒸機の奮闘ぶりをとくと観察できる。峠を降りると、ルートは一転穏やかになり、途中でバンウィ川を渡って終点まで、のどかな谷間に沿っていく。

鉄道は2フィート6インチ(762mm)の、いわゆるニブロク軌間だが、国内の現存路線では意外に少数派だ。それで使用車両もオリジナルに加えて、世界各地の同じ軌間(メートル法による760mm軌間を含む)の鉄道から集められた。とりわけ客車は出身鉄道のロゴがよく目立ち、国際色にあふれている。

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バンウィ川の川べりを行く(2008年)
Photo by Tim Abbott at flickr.com. License: CC BY-NC-ND 2.0
 

項番15 タリスリン鉄道 Talyllyn Railway

ボランティアを主体とするイギリスの鉄道保存活動は、ウェールズ中部にあるこのタリスリン鉄道から始まった。ここもフェスティニオグと同様、もとは沿線の採掘場からスレートを搬出するための路線で、1866年に開業している。だが、スレートの生産は第一次世界大戦を境に縮小し、1950年にオーナーが亡くなったのを機に、鉄道は運行を終えた。

タリスリンでは貨物輸送を行う傍ら、夏に観光客向けの旅客列車を走らせていた。それで、事情を知った愛好家たちから、すぐに休止を惜しむ声が上がった。集まった有志が協会を設立し、設備を譲り受けて翌1951年に列車の運行を再開した。こうして、ボランティアによる世界で最初の保存鉄道が誕生したのだ。

鉄道が採用している2フィート3インチ(686mm)軌間は世界的に見ても珍しい。ほかに動いているのは、2002年に復活した近隣のコリス鉄道 Corris Railway ぐらいのものだ。もう一つ珍しいのは、客車の扉が片側(終点に向かって左側)にしかないことだろう。これは、工事の完了検査で指摘された、跨線橋の内寸が車両限界より小さいという致命的問題の解決策だった。

起点のタウィン・ワーフ Tywyn Wharf は、カンブリア線のタウィン駅から300mほど南にある。出発するとすぐ、問題の跨線橋をくぐり、町裏の切通しを抜けて、広々とした牧場の中へ出ていく。やがて線路は浅いU字谷をゆっくりと上り始める。終点ナント・グウェルノル Nant Gwernol まで11.8km、所要55分。ハイキングに出かける客を降ろした列車は、機回しの後すぐに折り返す。

*注 鉄道の詳細は「ウェールズの鉄道を訪ねて-タリスリン鉄道」参照。

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タウィン・ワーフ駅(2015年)
Photo by Markus Trienke at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0
 

項番17 ヴェール・オヴ・レイドル鉄道 Vale of Rheidol Railway

カンブリア線の線路に並行して、ウェールズ中部アベリストウィス Aberystwyth の町から出発するヴェール・オヴ・レイドル鉄道は、近隣の保存鉄道とは「血筋」が違う。というのも、1フィート11インチ3/4(603mm)の狭軌線ながら、国鉄 British Rail が分割民営化されるまで、その所属路線だったからだ。しかも、ずっと蒸気運転のままで。

言うならば国鉄直営の保存鉄道だったのだが、ローカル線を根絶やしにした1960年代の厳しい合理化策「ビーチングの斧 Beeching Axe」にも生き残れたのは、観光路線として一定の人気を得ていたからに他ならない。

路線長は18.9kmあり、片道1時間かかる。車窓の見どころは、ヴェール・オヴ・レイドル(レイドル川の谷)Vale of Rheidol を俯瞰するパノラマだ。後半の坂道で谷底との高度差がじりじりと開いていくにつれ、眺めは一層ダイナミックになる。さらに、終点駅の近くに、マナッハ川 Mynach の5段の滝と、その上に架かる石橋デヴィルズ・ブリッジ(悪魔の橋)Devil's Bridge という名所があり、列車を降りた多くの客が足を延ばす。

保存列車を牽くのは、1923~24 年にこの路線のために製造されたタンク機関車だ。小型ながらも力持ちで、当時路線が属していたグレート・ウェスタン鉄道 Great Western Railway のロゴと緑のシンボルカラーをまとい、20‰勾配の険しいルートに日々挑んでいる。

*注 鉄道の詳細は「ウェールズの鉄道を訪ねて-ヴェール・オヴ・レイドル鉄道」参照。

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終点デヴィルズ・ブリッジはまもなく(2015年)
Photo by Peter Trimming at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

項番20 ブレコン・マウンテン鉄道 Brecon Mountain Railway

ウェールズの保存鉄道は北部と中部に集中している。それに対して、ブレコン・マウンテン鉄道は南部にあり、かつシーズン中ほとんど毎日運行している唯一の狭軌保存鉄道だ。鉄道は、ヴェール・オヴ・レイドルと同じ1フィート11インチ3/4(603mm)軌間で、廃止された標準軌の線路跡を利用して、1980年から2014年にかけて順次、延伸開業した。

この鉄道の特色は、アメリカのボールドウィン社製の蒸気機関車を使っていることだ。稼働中の2両はもとより、自社工場で新造中の2両もボールドウィンの設計図に基づいているという。列車の後尾にはアメリカンスタイルのカブース(緩急車)も連結され、異国で開拓鉄道の雰囲気を放っている。

拠点のパント Pant 駅は、カーディフの北40km、国立公園になっている山地ブレコン・ビーコンズ Brecon Beacons の入口に位置する。駅自体、村はずれの寂しい場所にあるが、列車はさらに山地の中心部に向かって約7kmの間、坂を上り詰めていく。

序盤の車窓はタフ川 Taff の広くて深い谷間の風景だが、2km先で谷は貯水池で満たされる。その後は斜面を上って、人の気配がない終点トルパンタウ Torpantau に達する。復路では、貯水池べりのポントスティキス Pontsticill 駅で30分前後の途中休憩がある。

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貯水池に沿って走るアメリカンスタイルの列車
最後尾にカブースを連結(2013年)
Photo by Gareth James at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0
 

項番9 スランゴスレン鉄道 Llangollen Railway

ウェールズでは数少ない標準軌の保存鉄道の一つが、麗しいディー川 Dee の渓谷を走っている。拠点が置かれているのは、国際音楽祭や、近くにある世界遺産の運河と水路橋で知られたスランゴスレン Llangollen だ。町の名を採ったスランゴスレン鉄道は現在、ここから西へカロッグ Carrog までの12kmを運行している。

華やかな市街からディー川を隔てた対岸に、スランゴスレン駅がある。駅舎と跨線橋は、2級文化財に指定された歴史建築で、古典蒸機によく似合う。列車は、ここから終始ディー川をさかのぼる。前半は両側から山が迫る渓谷が続き、車窓の見どころも多い。とりわけ一つ目の駅ベルウィン Berwyn は、ハーフティンバーの駅舎や石造アーチの二重橋がアクセントとなって、絵のような風景だ。

現在、カロッグから4km先のコルウェン Corwen に至る延伸工事が進行中で、新しい終着駅となるコルウェン・セントラル Corwen Central がすでに姿を現している。今年(2022年)開業の予定だったが、コロナ禍の長期運休で2021年に運営会社が倒産したことも影響して、まだ次の見通しが示されていない。

*注 鉄道の詳細は「ウェールズの鉄道を訪ねて-スランゴスレン鉄道」参照。

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グリンダヴルドゥイ Glyndyfrdwy 駅での列車交換(2017年)
Photo by Andrew at flickr.com. License: CC BY 2.0
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ベルウィン Berwyn の二重橋に虹が掛かる(2017年)
Photo by Andrew at flickr.com. License: CC BY 2.0
 

項番6 スノードン登山鉄道 Snowdon Mountain Railway

スノードン Snowdon、ウェールズ語でアル・ウィズヴァ Yr Wyddfa は標高1085mで、ウェールズの最高峰だ。グレートブリテン島でも、これより高い地点はスコットランドのハイランドにしかない。この山頂を目指して1896年、アプト式ラックレールを用いた登山鉄道が開通した。すでにアルプスをはじめ世界各地で運行実績のあった方式(下注)だが、イギリスでは初の導入だった。それから120年以上、スノードン登山鉄道は、国内唯一のラック登山鉄道として高い人気を保ち続け、イギリスの代表的観光地の一つに数えられている。

*注 ヨーロッパ初のラック登山鉄道(リッゲンバッハ式)は、スイスのリギ鉄道 Rigibahn で1871年に開通。また、アプト式は、ドイツ、ハルツ山地のリューベラント線 Rübelandbahn で1885年に初採用。

列車が出発する駅は、山麓の町スランベリス Llanberis の外縁にある。山を目指して押し寄せる客をさばくために、ハンスレット社のディーゼル機関車と客車1両のペアが30分間隔で忙しく出発していく。開業時に導入されたスイスSLM社製のラック蒸機もいまだ健在だが、運行はハイシーズンのみとなり、かつ便数も限られているので、早めの予約が必須だ。

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蒸機列車は期間・便数限定
客車は旧車の足回りを利用して新造(2014年)
Photo by Peter Trimming at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

ルートは7.5kmあり、最大勾配は1:5.5(182‰)に及ぶ。機関庫を右に見送ると、いきなり急勾配で石造アーチ橋を渡り、その後は緩やかに傾斜した広々した谷を行く。S字カーブで登山道を横切り、スノードンの北尾根に取りつき、坂がいったん落ち着いたところにクログウィン駅がある。その先はスノードン本体の急斜面を、頂きまで一気に上っていく。

標高1085mは、日本の感覚では高山とは言えないだろう。しかし、高緯度で森林限界を超えているので、山頂に立つと、目の前にスノードニア国立公園を一望する360度の大パノラマが開ける。ただし、海からの湿った西風がまともに吹き付けるため、雲が湧きやすく、遠くまで眺望のきく日は稀だ。山頂が悪天候の場合、列車は手前のクログウィン Clogwyn 駅で折り返しとなる。

*注 鉄道の詳細は「スノードン登山鉄道 I-歴史」「同 II-クログウィン乗車記」参照。

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クログウィンを後に山頂へ向かう列車(2005年)
Photo by Denis Egan at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

項番2 グレート・オーム軌道 Great Orme Tramway

ウェールズ北部、アイリッシュ海に臨む保養地スランディドノ Llandudno の町の西に、グレート・オーム Great Orme と呼ばれる標高207mの台地がある。この山上へ行楽客を運んでいるのが、グレート・オーム軌道と呼ばれる古典スタイルのケーブルカーだ。

鉄道は1902~03年に開通した。全長1.6kmだが、ハーフウェー Halfway 駅を境に2区間に分かれている。下部区間800mは、大半が道路との併用軌道で、最初は路地のような狭い道をくねくねと進む。一見すると路面電車だが、走行レールの間の溝の中にケーブルが通されている。広い道路に出ると下り車両と交換し、後は、ローギアでエンジンを唸らせながら追い越すクルマの横を、涼しげに上っていく。

一方、上部区間750mは広い台地の上を行くので、専用軌道となり、ケーブルも露出している。山頂には売店、レストランが入居する休憩施設があり、羊の牧場の向こうには、見渡す限りの大海原が広がる。

輸送力に限りがあるため、1969年に、並行する形で長さ1.6kmの空中ゴンドラが造られた。確かにこちらのほうが時間は短く、途中乗換が不要だ。高さがあるため、見晴らしもいい。しかし風が強いと運休になるし、第一、乗り物自体のファッション性の点で、100年選手とは比較にならない。

*注 詳しくは「ウェールズの鉄道を訪ねて-グレート・オーム軌道」参照。

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ハーフウェー駅下方(2005年)
Photo by AHEMSLTD (assumed) at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

次回は、スコットランドと北アイルランドの保存鉄道・観光鉄道について。

★本ブログ内の関連記事
 イギリスの保存鉄道・観光鉄道リスト-イングランド北部編
 イギリスの保存鉄道・観光鉄道リスト-イングランド中部編
 イギリスの保存鉄道・観光鉄道リスト-イングランド南部編 I
 イギリスの保存鉄道・観光鉄道リスト-イングランド南部編 II
 イギリスの保存鉄道・観光鉄道リスト-スコットランド・北アイルランド編

 ベルギー・ルクセンブルクの保存鉄道・観光鉄道リスト
 フランスの保存鉄道・観光鉄道リスト-北部編
 フランスの保存鉄道・観光鉄道リスト-南部編

2022年8月18日 (木)

イギリスの保存鉄道・観光鉄道リスト-イングランド南部編 II

「保存鉄道・観光鉄道リスト-イングランド南部編」から、前回割愛したサウス・ウェスト South West のデヴォン Devon、コーンウォール Cornwall にある鉄道路線をいくつかピックアップしよう。

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サウス・デヴォン鉄道
リヴァーフォード橋 Riverford Bridge 付近(2015年)
Photo by Geof Sheppard at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

「保存鉄道・観光鉄道リスト-イングランド南部」
http://map.on.coocan.jp/rail/rail_englands.html

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「保存鉄道・観光鉄道リスト-イングランド南部」画面

項番39 ダートマス蒸気鉄道 Dartmouth Steam Railway

高い人気を維持する保存鉄道は、何かしら支持される理由をもっている。規模やアクセスの良さ、ディナー列車やスチーム・ガラ(蒸機まつり)などのイベントの質はもちろんだが、著名な観光地を走る、またはそこへ通じているという地の利も大きい。車窓から見える景色が美しければなおさらだ。

ダートマス蒸気鉄道は、ナショナル・レールのリヴィエラ線(後述)と接続して、ペイントン Paignton ~キングズウェア Kingswear 間10.8kmを走る標準軌の保存鉄道だ。起点があるデヴォン南岸のトーベイ Torbay 一帯は高級保養地で、日照時間が長く、気候が穏やかなことから、「イングランドのリヴィエラ English Riviera」と称えられてきた。

ペイントン駅を出発した列車は、トー湾 Tor Bay の晴れやかなビーチの前を通過した後、海原を見下ろす丘陵地へ上っていく。サミットのトンネルを抜けると、今度は三角江の深い谷の縁に降下する。終点キングズウェア駅はダート川の三角江 Dart Estuary に面し、対岸の港町ダートマス Dartmouth へフェリーが連絡している(下注)。

*注 フェリーが着くダートマスの埠頭には、列車が来ない「駅」が設置されていた。駅舎は保存され、レストランに活用されている。

この片道25分余の鉄道とフェリーでつなぐダートマスは、トーベイの滞在客にとって気軽に行ける行楽地だ。立地の良さを反映して、シーズン中、列車は5往復から、繁忙日には11往復もの設定がある。

蒸気鉄道を運営するのは、ボランティア主体の非営利組織ではなく、事業会社のダート・ヴァレー鉄道会社 Dart Valley Railway Ltd だ。同社およびグループ会社は周辺のバスやフェリー、クルーズ船も運行していて、各種乗り物に有効な周遊乗車券が発売されている。

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ダート川三角江を行く蒸機71000号(2011年)
Photo by Geof Sheppard at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番40 サウス・デヴォン鉄道 South Devon Railway

国立公園のダートムーア Dartmoor を水源に、南へ流れ下るダート川 River Dart は、なぜか保存鉄道に縁が深い。河口には上述のダートマス蒸気鉄道が来ているし、中流域のトットネス Totnes とバックファストリー Buckfastleigh の間にも、川筋に沿ってサウス・デヴォン鉄道がある。

地理的に近いだけでなく、2本の路線は1991年まで同じ事業会社に属していて、いわば姉妹鉄道の関係にあった。サウス・デヴォン鉄道は当時ダート・ヴァレー鉄道 Dart Valley Railway という名称だったが、1991年に会社が不採算を理由に手を引いた後(下注)、現在の非営利組織が運行を引き継いだ。

*注 現在、ダートマス蒸気鉄道を運行しているダート・ヴァレー鉄道会社は、もともとサウス・デヴォン鉄道(旧ダート・ヴァレー鉄道)の運営のために設立された会社だった。

ダートマス蒸気鉄道を海線とすれば、サウス・デヴォン鉄道は谷線だ。トットネス発の列車では、川は左側に現れる。緑うるわしい谷あいで、近づいては遠ざかるこの川を眺めながら、バックファストリーまで10.7km、片道30分の旅だ。途中に待避線をもつ信号所があるが、通常ダイヤでは列車交換は行われない。

なお、起点のトットネス・リヴァーサイド Totnes Riverside 駅は、ナショナル・レール、エクセター=プリマス線 Exeter–Plymouth line のトットネス駅の川向う、フットパスの橋を渡って徒歩5~6分のところにある。

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バックファストリー駅に入る蒸気列車(2011年)
Photo by Nilfanion at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

項番46 ボドミン・アンド・ウェンフォード鉄道 Bodmin and Wenford Railway

19世紀前半までコーンウォールは海上交通に多くを依存していた。それで、丘の上の町ボドミン Bodmin に最初に通じた鉄道(下注)は、北岸の河口港ウェードブリッジ Wadebridge からやってきた。1834年のことだ。一方、1859年に開通した幹線鉄道(現 コーンウォール本線 Cornish Main Line)は、町から南東に5km離れた谷の中に通された。この間を結んだのが1887~88年に開通したボドミン・アンド・ウェンフォード鉄道だ。

*注 ボドミン・アンド・ウェードブリッジ鉄道 Bodmin and Wadebridge Railway という。このボドミン駅は町の北西にあり、後に、ジェネラル駅と区別するためにボドミン・ノース Bodmin North に改称。

ボドミンのターミナル駅は、最初の鉄道とは市街を隔てた反対側に設けられ、ボドミン・ジェネラル(総合駅)Bodmin General と称した。頭端式の構造で、到着した列車はここで進行方向を変えて出発する。1986年に活動を開始した保存鉄道も、この駅が拠点だ。東はコーンウォール本線と接続するボドミン・パークウェー Bodmin Parkway、西はボスカーン・ジャンクション Boscarne Junction(下注)の間10.5kmのルートで走っている。

*注 旧ボドミン・アンド・ウェードブリッジ鉄道との接続点に位置する。

丘の上の駅から見れば、東も西も25‰勾配のある険しい下り坂だ。それでボドミンへの帰り道では、タンク機関車に坂道での力闘が求められる。所要時間は東が20分、西が14分、ボドミン・ジェネラルを交互に発着する形でダイヤが組まれている。

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(左)ボドミン・ジェネラル駅(2017年)
Photo by The Basingstoker at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0
(右)ボスカーン・ジャンクション駅(2015年)
Photo by Andrew at flickr.com. License: CC BY 2.0
 

デヴォンやコーンウォールでは、一般路線にも見どころが多い。

項番37 リヴィエラ線 Riviera Line

北部のセトル=カーライル線 Settle–Carlisle line などとともに、イギリスの絶景列車を紹介するサイトで常に最上位を争っているのが、リヴィエラ線だ。線名は、先述の「イングランドのリヴィエラ English Riviera」に由来している。列車は、エクセター Exeter(セント・デーヴィッズ St Davids 駅)~ニュートン・アボット Newton Abbot ~ペイントン Paignton の45kmを直通する(下注)。

*注 このうち、エクセター・セント・デーヴィッズ~ニュートン・アボット間はエクセター=プリマス線との共有区間。

リヴィエラ線最大の見せ場が、ドーリッシュ・ウォレン Dawlish Warren からテインマス Teignmouth の手前までの約6kmだ。イングランド南西部は三角江が深く入り込み、海岸線には断崖が続く。そのため、幹線鉄道の大半は内陸に通されているのだが、ここでは珍しく、断崖直下の波打ち際を列車が通過する。海が荒れると波しぶきをかぶるような場所で、過去に何度も護岸が流失して不通になったことがある。

しかし穏やかな日なら、車窓には英仏海峡の青い水平線が一文字に延び、乗客の目をいやおうなしに奪う。本家リヴィエラのような断崖を貫く連続トンネルも、憎いアクセントだ。護岸の上は遊歩道に開放されているので、途中下車して、海原と列車を眺めながらのハイキングもいい選択だろう。

海岸区間だけでなく、その前後も見過ごせない。線路はエクス川 River Exe とテイン川 River Teign の三角江に沿っていて、外海とは対照的に、波静かな水面(干潮時は干潟)を存分に眺めることができる。これらを含めれば、約21kmにわたって水辺の景色が断続する特異な路線だ。

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ドーリッシュの海岸線を行くHST(2015年)
Photo by Kabelleger / David Gubler at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番43 テーマー・ヴァレー線 Tamar Valley Line

海辺を走るリヴィエラ線に対して、テーマー・ヴァレー線は内陸を拓く支線だ。港湾都市プリマス Plymouth から北へ23km、ガニスレーク Gunnislake という町のはずれの小さな駅まで行く。沿線に目立った観光地もなく、実際に存続しているのが奇跡なくらいのローカル線だ。

鉄道がたどるテーマー川の谷 Tamar Valley は、幅の広い三角江が奥まで続いている。そのため、代替ルートになる道路橋がないという理由で、これまで廃線を免れてきた。それだけに橋梁は路線のアドバンテージで、かつ車窓景観上も重要なポイントになっている。

列車は、名橋ロイヤル・アルバート橋 Royal Albert Bridge の下をくぐった後、自らも長さ453m、17スパンのテーヴィー橋 Tavy Bridge で三角江を渡る。ビア・オールストン Bere Alston でスイッチバックした後は、長さ約270m、高さ37m、12のアーチを連ねるカルストック高架橋 Calstock Viaduct の上からの壮大な眺望が待っている。

ガニスレークまで45分。合間に見えるテーマー川の、蛇行する谷と丘の織り成す景色も美しく、単純往復でも訪ねる価値のある路線だ。

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テーマー川をまたぐカルストック高架橋(2005年)
Photo by Ben Harris at wikimedia. License: public domain
 

項番45 ルー・ヴァレー線 Looe Valley Line

内陸を通る幹線からは、河口の港町へ向けて支線がいくつか建設されてきた。ルー・ヴァレー線もその一つで、コーンウォール本線 Cornish Main Line のリスカード Liskeard からイースト・ルー川 East Looe River の谷を通って河口のルー Looe まで14kmを、気動車が約30分で結んでいる。

もともとこの路線はコーンウォール本線とは関係がなく、ボドミン・ムーア Bodmin Moor の採石場からルーの港へ直接、花崗岩を運び出す貨物鉄道だった。後に旅客輸送の便を図って、クーム・ジャンクション Coombe Junction とリスカードの間に連絡線が建設された。両駅間は、距離こそ1km未満だが、高度差は60mを超えるため、オメガループとスイッチバックを駆使してアクロバティックにつなげたところが見ものだ。

クーム・ジャンクションで進行方向を変えた列車は、イースト・ルー川の狭い谷をゆっくり下っていく。潮位が高い時間帯なら、ルー駅到着の数分前から右手の谷に水が満ちてくるはずだ。この三角江の感潮域を眺めているうち、前方にルーの市街地が近づいてくる。

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ルー川三角江の築堤(2019年)
Photo by Steve Edge at flickr.com. License: CC BY-NC 2.0
 

項番49 セント・アイヴズ・ベイ線 St Ives Bay Line

一般路線では、コーンウォール半島の先端近くにあるセント・アイヴズ・ベイ線も忘れるわけにはいかない。コーンウォール本線のセント・アース St Erth から、北海岸のリゾート地セント・アイヴズ St Ives に至る支線だ。わずか6.8kmの短い路線だが、リヴィエラ線と同様、車窓風景には定評がある。

列車はセント・アースから、最初ヘイル川 River Hayle の三角江のへりをたどって、河口に出る。それから海岸線に沿って、崖の上の緩斜面を西へ向かう。一つ目の岬を回ると、カービス・ベイ Carbis Bay のビーチが視界に入ってくる。リヴィエラ線よりかなり高所を走るので、俯瞰形のパノラマがすばらしい。もう一度岬を回れば、早や終点が近づく。

観光エリアは駐車場が混むことから、セント・アース駅前に車を置いて列車でセント・アイヴズに移動するパーク・アンド・ライド利用者も多い。そのため、列車は日中30分間隔で発車する。ところが、中間に待避線がないため、1編成でのシャトル運行だ。片道12分かかるので、両端駅では到着の3分後に、さっさと折り返さなくてはならない。絶景車窓もさることながら、イングランド最西端の支線がこれほど忙しいとは予想外だ。

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カービス・ベイのビーチを見下ろす(2018年)
Photo by www.sykescottages.co.uk. License: CC BY 2.0
 

項番35 シートン軌道 Seaton Tramway

イングランド編の締めくくりに紹介するのは、デヴォン東部の海沿いの町シートン Seaton を走っているユニークなトラム(路面電車)の観光鉄道だ。どこがユニークかというと、使われているトラムが、実際に市内で使われたオリジナルではなく、それを1/2から2/3にリサイズした複製品なのだ。

保有する車両は、スランディドノのダブルデッカーやブラックプールのボートトラムなど15両に上る。どれも本物と見分けがつかないほど精巧に造られていて、人の背丈と比べなければ縮小寸法であることさえ気づかないかもしれない。

もともとこれは、小型自動車メーカーのオーナーだったクロード・レーン Claude Lane が、第二次大戦後間もないころから趣味で手造りしていたものだ。彼は、走らせる場所を探して各地を転々とした後、最終的にシートンにあった標準軌の廃線跡を買い取った。そして2フィート9インチ(838mm)軌間で線路を敷き直し、駅や車庫を建てていった。1970年開業のこの軌道で、運行会社は主亡き後も操業を続けている。

ルートは、海岸にほど近いシートンのターミナルから、車庫のあるリヴァーサイド Riverside を経て、内陸のコリトン Colyton までの4.8kmだ。リヴァーサイドから先は旧線跡で、自然保護区に指定されたアックス川 River Axe の三角江と湿地帯をほぼ直線で貫いていく。終点まで25分前後かかる。

なにぶん車内は狭く、乗れる人数には限りがある。それでトラムは20分ごとに次々と出ていく。天気が良ければ、野鳥観察ができるというダブルデッカーの2階席がお薦めだ。

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アックス川三角江のへりを行くリサイズトラム(2010年)
Photo by Markus Schroeder at flickr.com. License: CC BY-NC-ND 2.0
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(左)トラム2階席からの眺め(2005年)
Photo by David P Howard at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0
(右)リヴァーサイド車庫(2021年)
Photo by Chris j wood at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

次回は、ウェールズの保存鉄道・観光鉄道について。

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 イギリスの保存鉄道・観光鉄道リスト-イングランド北部編
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 イギリスの保存鉄道・観光鉄道リスト-イングランド南部編 I
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 イギリスの保存鉄道・観光鉄道リスト-スコットランド・北アイルランド編

 ベルギー・ルクセンブルクの保存鉄道・観光鉄道リスト
 フランスの保存鉄道・観光鉄道リスト-北部編
 フランスの保存鉄道・観光鉄道リスト-南部編

2022年8月11日 (木)

イギリスの保存鉄道・観光鉄道リスト-イングランド南部編 I

「保存鉄道・観光鉄道リスト-イングランド南部編」では、ロンドン London、サウス・イースト South East、サウス・ウェスト South West の各地方 Regions の路線を取り上げた。地理的にはドーヴァー海峡沿岸からコーンウォール半島まで東西500kmの範囲で、保存鉄道や観光鉄道の密度はかなり高い。

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グロスタシャー・ウォリックシャー蒸気鉄道
ゴザリントン Gotherington 駅(2017年)
Photo by Juan Enrique Gilardi at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0
 

「保存鉄道・観光鉄道リスト-イングランド南部」
http://map.on.coocan.jp/rail/rail_englands.html

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「保存鉄道・観光鉄道リスト-イングランド南部」画面

項番9 ブルーベル鉄道 Bluebell Railway

保存運行のパイオニアであり、貴重な蒸機を30両以上も保有するブルーベル鉄道が、イギリスを代表する標準軌の保存鉄道であることを疑う人はいないだろう。

1960年8月開業のブルーベル鉄道は、標準軌では北部のミドルトン鉄道 Middleton Railway に次いで、2番目に古い保存鉄道だ。ただし2か月先んじて始動したミドルトンは、その後9年間貨物輸送に集中していたので、単純には比較できない。それまで狭軌線しか例のなかった鉄道保存の動き(下注)が標準軌の路線に拡がっていく過程で、先導役を担ったのはブルーベルだったはずだ。

*注 保存鉄道化は狭軌線のほうが早く、1951年のタリスリン Talyllyn、1955年のフェスティニオグ Ffestiniog、1960年のレーヴングラス・アンド・エスクデール Ravenglass and Eskdale などの例がある。

運行はまず、南端の拠点シェフィールド・パーク Sheffield Park と、駅のない北側の折返し点との間を往復するところから始まった。その後、ルートは段階的に北へ延伸されていき、1994年にはキングズコート Kingscote に、そして2013年にはついにイースト・グリンステッド East Grinstead に達して、線路は再び全国路線網とつながった。ロンドン中心部からオクステッド線 Oxted line の電車で約1時間と、アクセスも大きく改善された。

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キングズコート駅での列車交換(2013年)
Photo by Peter Trimming at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

美しく整備された客車で行く旅はもとより、さまざまな時代の様式で復元された駅舎にも注目したい。シェフィールド・パークは路線が開通した1880年代を、またホーステッド・キーンズは1920年代、ビッグ・フォー(四大鉄道)の一角だったサザン鉄道 Southern Railway の様式を、それぞれ再現している。建物ばかりか、看板や荷物などさりげなく配置された小道具もノスタルジーを盛り上げる。

路線長は17.7kmあり、片道40~50分を要する。ハイ・ウィールド High Weald と呼ばれる丘陵地を横断していくため、坂道が続くが、それは取りも直さず、蒸機の見せ場が多いことを意味する。高架橋やトンネルなど、目印となる構築物にも事欠かず、乗っても撮っても魅力の尽きない保存鉄道だ。

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看板や小道具にも注目
(左)ホーステッド・キーンズ駅5番線(2019年)
Photo by www.mgaylard.co.uk at wikimedia. License: CC BY 2.0
(右)同 3・4番線(2013年)
Photo by James Petts at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0
 

項番5 ケント・アンド・イースト・サセックス鉄道 Kent and East Sussex Railway

同じように南東部の美しい田園地帯を通過していく路線に、ケント・アンド・イースト・サセックス鉄道がある。ブルーベルほど完璧に仕上がっていないかもしれないが、むしろそうしたのどかさが心地よいと思うファンも多いだろう。

路線は、1896年に成立した軽便鉄道法に基づいて建設された支線の跡を利用している。沿線はローザー・レヴェルズ Rother Levels と呼ばれるローザー川の氾濫原だ。低地で線路を通しやすい反面、乾いた丘に立地する集落からは遠かった。利用不振で1961年に路線は廃止され、1974年に保存鉄道として再スタートを切った。

列車は現在、テンターデン・タウン Tenterden Town 駅とボディアム Bodiam 駅の間16.2kmを走る。シーズン中は週3~4日、8月はほぼ毎日の運行で、蒸気列車または気動車が3~5往復している。

かつて旧線はボディアムからさらに西へ進み、ロバーツブリッジ Robertsbridge 駅でナショナル・レール(旧国鉄)のヘースティングズ線 Hastings line に接続していた。目下、このミッシングリンクを埋める作業が進行中だ(下注)。完成するとブルーベルのように、電車から直接乗り換えが可能になるとともに、総延長は21.7kmと、イギリスの保存鉄道で十指に入る長さになる。

*注 ロバーツブリッジ駅のホームや配線は完成し、試験列車も運行されているが、駅間の廃線跡は農地に転用されており、買収交渉が進められている段階。

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テンターデン・タウン駅(2015年)
Photo by Train Photos at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0
 

項番17 ワイト島蒸気鉄道 Isle of Wight Steam Railway

ポーツマス Portsmouth から、フェリーで海峡を渡ってワイト島 Isle of Wight、ライド Ryde の港へ。さらに桟橋からアイランド線 Island line の電車に乗って約10分。到着したささやかな片面ホームが、蒸気鉄道への乗換駅だ。

スモールブルック・ジャンクション Smallbrook Junction と呼ばれるこの駅は乗換専用で、周りに公道がなく外に出られない。それでアイランド線の電車も、保存鉄道の運行時間帯に限って停車するという特殊な扱いになっている。

島の主要な観光資源に数えられているワイト島蒸気鉄道は、ここから西9kmのウートン Wootton まで、鄙びた田園地帯の中を行く路線だ。中間のヘーヴンストリート Havenstreet 駅に機関庫があり、列車はそこを起点に、ルートの両端で折り返し、またヘーヴンストリートに戻る形で運行されている。1往復の所要時間は50~60分だ。

鉄道は、19世紀生まれのヴィンテージ機関車や客車に出会えることでも知られている。かつて島の路線は新車を購入する余裕がなく、本土からもたらされる中古車両に依存していた。そのため、廃止後に残されたのも、こうした古い世代のものだった。島の苦しい台所事情が、今では保存鉄道の価値を高めるのに一役買っている。

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1891年生まれの蒸機W24「カルボーン Calbourne」
ウートン駅にて(2014年)
Photo by ARG_Flickr at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

項番18 グロスタシャー・ウォリックシャー蒸気鉄道 Gloucestershire Warwickshire Steam Railway

コッツウォルズ Cotswolds は、波打つ草の丘と蜂蜜色をした石壁の村の風景で、高い人気を保つ観光エリアだ。その一角を、グロスタシャー・ウォリックシャー蒸気鉄道の列車が走っている。名称にコッツウォルズの名こそ入っていないが、地域の観光アトラクションとしてよく知られた存在だ。

鉄道の拠点は、ルートの中間、トディントン Toddington 駅にある。1984年開業時の走行線は、この駅から1マイル(1.6km)南の停留所までのささやかなものだった。その後、線路は南へ北へと延伸されて、今や、チェルトナム競馬場 Cheltenham Racecourse からブロードウェー Broadway まで、23kmに及ぶ保存鉄道界有数の長距離路線に成長している。

ルートは、コッツウォルド丘陵の西麓に沿っている。北に向かうと、右手に森に覆われた丘の斜面が、左手にはイヴシャム谷 Vale of Evesham ののびやかな牧野の眺めがどこまでも続く。片道55~60分だが、1日5~6往復運行されているので、途中下車して、駅周辺の散策も楽しんでみたい。トディントンの駅前には、2フィート(610mm)軌間の軽便鉄道(下注)という別の見どころもある。

*注 蒸気鉄道とは別の団体が、トディントン狭軌鉄道 Toddington Narrow Gauge Railway の名で運行している。走行線の長さは約800m。

なお、どの駅もナショナル・レールとは接続しておらず、公共交通機関で行こうとすると、路線バスの利用が必須だ。

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トディントン駅に入線(2017年)
Photo by Juan Enrique Gilardi at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0
 

項番23 ブリストル・ハーバー鉄道 Bristol Harbour Railway

今では少なくなってしまったが、かつて港の埠頭や、周辺に立地する工場、倉庫に多数の貨物線が張り巡らされていた。ブリストル・ハーバー鉄道は、こうした臨海線の一部を保存活用した観光鉄道で、イギリスではここでしか見られない。

ブリストルの臨海鉄道はもと8kmの路線網を持っていた。しかし、港の機能がエーヴォン Avon 川河口の外港に移ったことで需要が減退し、1964年に全廃されてしまった。1978年にこのうち2km強の線路を使い、ブリストル工業博物館 Bristol Industrial Museum が産業遺産の動態展示として蒸気列車を走らせたのが、ハーバー鉄道の始まりだ。工業博物館は2011年に拡張されて、エム・シェッド博物館 M Shed Museum と改称されたが、鉄道も新博物館に引き継がれた。

使われているタンク機関車が地元ブリストル製ということも手伝ってか、鉄道はすっかり旧港の名物になっている。乗り場は博物館前で、同じく動態展示物として残されている荷揚げクレーンの建ち並ぶ一角にある。列車は観光客がそぞろ歩く埠頭をゆっくりと通り抜けた後、裏手のエーヴォン川沿いに出ていく。

ルートは2017年に若干短縮され、ヴォクソール橋 Vauxhall Bridge のたもとを終端とする約1.2kmになった。列車はここで折返して、乗り場に戻る。乗車時間は約15分だ。

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埠頭を行く蒸気列車(2011年)
Photo by Geof Sheppard at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番27 スワニッジ鉄道 Swanage Railway

スワニッジ鉄道は、ドーセット Dorset の南岸に向かっていた旧線を復活させた蒸気保存鉄道だ。旧線の終点だったスワニッジ Swanage に拠点があり、列車は、約9km内陸に戻ったノーデン Norden 駅まで、25分かけて進む。

シーズン中、鉄道はほぼ毎日運行されている。しかも蒸機で5往復、繁忙日にはディーゼルの増便により9往復が走っている。「保存鉄道ベスト」の一つにも挙げられるほどの人気の理由は何だろう。

スワニッジは港町で、英仏海峡に面してビーチがあり、西側は世界遺産にも登録されたジュラシック・コースト Jurassic Coast の海食崖が続いている。サセックスの海岸ほど混んではおらず、小ぢんまりとした心地のいい町だ。また、鉄道沿線の丘の上にはコーフ城 Corfe Castle という中世の城跡があり、ハイキングの適地になっている。町を訪れた観光客にとって、鉄道はアトラクションの一つであるとともに、名所旧跡への足としても機能しているのだ。

なお、保存鉄道の線路はナショナル・レールのウェアラム Wareham 駅までつながっているのだが、専用ホームがないため、特別行事を除いて接続輸送は実施されていない。

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コーフ城を背にして(2015年)
Photo by Twosugars47040 at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番28 ウェスト・サマセット鉄道 West Somerset Railway

イングランドで最も長い距離を走る保存鉄道が、ウェスト・サマセット鉄道だ。自社線の長さは22マイル3/4、メートル法に換算すると36.61kmになる。これはナショナル・レールとの分岐点(駅はない)と、ブリストル海峡に面した終点マインヘッド Minehead の間の距離だ。

しかし、ナショナル・レール(下注1)の常時走行は線路容量その他の関係で難しく、列車は通常、自社線内の最初の駅ビショップス・リディアード Bishops Lydeard とマインヘッドの間で運行されている。走行距離は20マイル半(33.0km)に縮まるが、それでもなお走破に80~90分を要する(下注2)。

*注1 幹線格のブリストル=エクセター線 Bristol–Exeter line。
*注2 長距離第2位は北部のウェンズリーデール鉄道 Wensleydale Railway で22マイル(35.4km)だが、こちらも通常は全線運行していない。

このような長い支線がまるごと保存されたのは、1971年の営業廃止と前後して、地元で独自運行の検討が始まり、自治体が鉄道資産の一括取得に動いたからだ。保存鉄道会社は、これをリースして列車を走らせている。

ビショップス・リディアードを出た列車は、まず上り坂に挑む。次の駅クロークーム・ヒースフィールド Crowcombe Heathfield がサミットだ。その後、坂を下り、ウォチェット Watchet 駅の手前とブルー・アンカー Blue Anchor 駅付近では一時的に海が見える。沿線の駅はどれも地方線の素朴な風情をよく保存しているし、内部を博物館にしている駅舎もあって、途中下車の誘惑に抗いがたい。

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ウォチェット東方(2011年)
Photo by Geof Sheppard at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番2 ロムニー・ハイス・アンド・ディムチャーチ鉄道 Romney, Hythe and Dymchurch Railway

ブルーベルが標準軌の代表格なら、狭軌ではロムニー・ハイス・アンド・ディムチャーチ鉄道を挙げないわけにはいかない。

15インチ(381mm)軌間のミニマムゲージながら、ハイス Hythe(下注)からダンジネス Dungeness まで、路線長は実に21.7kmもある。イングランドの狭軌保存鉄道ではもちろん最長で、標準軌を含めても十指に入る長さだ。しかも前半の13kmは複線化されている。

*注 "Hythe" には「ハイス」の表記が定着しているが、実際の発音は「ハイズ [haɪð]」。

歴史も古くて、1927~28年の開通だ。鉄道のオーナーになることを夢見る大金持ちのレーシングドライバーがいて、既存の狭軌鉄道を買収しようとしたがうまくいかない。それなら自分で新しい路線を造ろうと決心して、見つけた場所がここだった、という建設の経緯が伝えられている。しかし彼は、遊覧鉄道ではなく軽便鉄道令に基づく「公共鉄道 public railway」として、これを建設した。すっかり観光化された今でも、公共交通網の一翼を担うという法的位置づけは変わっていない(下注)。

*注 今でこそ孤立線だが、1967年まではニュー・ロムニーで標準軌線との接続があった。

起点のハイス駅は、町の西はずれに位置する。列車は、低湿地帯ロムニー・マーシュ Romney Marsh を縁取る砂州に沿って南下していく。鉄道名とは違い、停車はハイス、ディムチャーチ Dymchurch、それからニュー・ロムニー New Romney の順だ。この後、線路は単線になって、ダンジネス岬の旧灯台前まで行く。終端は機回しが不要なバルーンループ(ラケット状ループ線)になっていて、その途中にダンジネス駅がある。片道約60分。

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5月ガラの一シーン、ハイス駅にて(2017年)
Photo by Peter Trimming at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

項番11 ヴォルクの電気鉄道 Volk's Electric Railway

南東岸のトップリゾート、ブライトン Brighton のビーチを名物トラムが走っている。車体に書かれたVRまたはVERのイニシャルが示すとおり、名称を「ヴォルクの電気鉄道 Volk's Electric Railway」という。ヴォルクというのは、これを建設し、最初に運行した発明家マグナス・ヴォルク Magnus Volk のことだ。

開業したのは1883年、すでにロシアやドイツで実用化されていたとはいえ、イギリスでは初の電気動力による鉄道だった。先行例がすべて廃止された今では、世界最古の電気鉄道としてギネスブックにも載る貴重な存在になっている(下注)。

*注 ギネス世界記録の表記は、「今も運行している最初の公共電気鉄道 First public electric railway still in operation」。

鉄道は市営で、軌間2フィート8インチ半(825mm)。直流110Vで電化され、走行レールの間に設置されたサードレール(第3軌条)から集電している。

1990年に東端の区間が若干短縮されたため、現在の路線長は1.64kmだ。西の乗り場はビーチの中心、パレス・ピア(宮殿桟橋)Palace Pierの近くにある。そこから東へ、海岸道路とビーチの間にフェンスで囲まれた単線のか細い線路が延びている。ルートの中央に待避線のある駅があり、通常はそこで東行と西行が行き違いする。潮風を浴びながら東端まで10分ほどだ。

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1971年の電気軌道
Photo by wilford peloquin at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0
 

項番6 イースト・ヒル・クリフ鉄道(ヘースティングズ)East Hill Cliff Railway, Hastings
項番7 ウェスト・ヒル・クリフ鉄道(ヘースティングズ)West Hill Cliff Railway, Hastings

北部のスカーバラ Scarborough や南部のボーンマス Bournemouth と並び、高台と崖下を結ぶケーブルカー、いわゆるクリフ(崖)鉄道が複数残っている町が、南東岸の海浜リゾート、ヘースティングズ Hastings だ。旧市街をはさんで東と西に1本ずつあり、どちらも、架台の上に平床の車体を載せた小型車両で運行されている。

イースト・ヒル・クリフ鉄道は、ヘースティングズの旧市街 Old Town の東を限るイースト・ヒル East Hill に上っていく。1902年の開通で、長さ81m、高低差約50mで、勾配は780‰と険しく、イギリスで最も急勾配の鉄道とされる。

線路は、砂岩の層をなす崖に張り付くように設置されている。それで乗車中も、ビーチにある漁船団の本拠地ザ・ステード The Stade や英仏海峡の、晴れやかな眺めが楽しめる。頂部にある芝生の公園からは海景の大パノラマが広がるが、休憩施設などはない。

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(左)イースト・ヒル・クリフ鉄道再開の日(2010年)
Photo by Oast House Archive at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0
(右)山上駅の車内からの眺め(2010年)
Photo by Les Chatfield at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

対するウェスト・ヒル・クリフ鉄道は歴史がより古く、1889年の開通だ。長さ150m、高さ52m、路線長が長い分、勾配は330‰に緩和される。

ウェスト・ヒル West Hill は、ナショナル・レールの駅がある中心街と、古くからの旧市街とを隔てている標高50~60mの丘で、頂部には海を見下ろす古城の廃墟がある。しかしクリフ鉄道そのものは、切通しの後、ずっとトンネルが続くため、山上駅を出るまで、外の景色はおあずけだ。

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(左)ウェスト・ヒル・クリフ鉄道下部駅入口(2010年)
Photo by Les Chatfield at wikimedia. License: CC BY 2.0
(右)ルートの大半はトンネル(2010年)
Photo by Les Chatfield at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

上記2本のクリフ鉄道の下部駅は、500mほど離れている。それで、間隙を埋めるようにビーチを走る10インチ1/4(260mm)軌間のヘースティングズ・ミニチュア鉄道 Hastings Miniature Railway に乗るのもいいだろう。1948年の開業で、蒸機に似せたディーゼル機関車がオープン客車を牽いて走っている。

項番29 リントン・アンド・リンマス・クリフ鉄道 Lynton and Lynmouth Cliff Railway

リントン Lynton は、ブリストル海峡 Bristol Channel に面した断崖上にある町だ。背後はエクスムーア Exmoor と呼ばれる山深い土地のため、かつては貨物も旅客も海路に依存していた。船は崖下のリンマス Lynmouth 港に着く。貨物はそこで荷馬車に積み替えられて、リンマスまで高度差150mの急坂を上っていた。

この険路を解消すべく、1890年に完成したのがクリフ鉄道だ。長さ263m、高低差152m。動力はウォーターバラスト(水の重り)で、上部駅にいる車両の床下タンクに水を注入し、下部駅の車両との質量の差で、坂を上下させる仕組みだ。

貨物輸送が主体だった鉄道も、道路の整備が進んだ1960年代以降は、観光客が利用の中心になった。この間に各地のクリフ鉄道はほとんど電気動力に転換されたが、リントンでは昔と変わらず、水の重りを利用している。乗車時間は2分余り、車両の海側のオープンデッキに立てば、海峡とそそり立つ断崖の迫力ある景観に目を奪われる。

なお、リントンには、バーンスタプル Barnstaple から軽便鉄道が通じていた時代があったが、現在はごく一部が保存鉄道(下注)として運行されているだけだ。町への公共交通機関は路線バスしかない。

*注 名称は商業運行時代と同じ、リントン・アンド・バーンスタプル鉄道 Lynton and Barnstaple Railway だが、わずか1.4kmの小規模路線。

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(左)上部駅の車両(2018年)
Photo by Steven Manning at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
(右)車両デッキからの眺望(2014年)
Photo by Velvet at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

南西部のデヴォンとコーンウォールにも、注目すべき保存鉄道・観光鉄道が多数ある。
続きは次回

★本ブログ内の関連記事
 イギリスの保存鉄道・観光鉄道リスト-イングランド北部編
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 イギリスの保存鉄道・観光鉄道リスト-イングランド南部編 II
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 フランスの保存鉄道・観光鉄道リスト-北部編
 フランスの保存鉄道・観光鉄道リスト-南部編

2022年8月 3日 (水)

イギリスの保存鉄道・観光鉄道リスト-イングランド中部編

「保存鉄道・観光鉄道リスト-イングランド中部編」では、イースト・ミッドランズ East Midlands、ウェスト・ミッドランズ West Midlands、イースト・オヴ・イングランド East of England の3地方 Regions にある保存鉄道や観光鉄道を取り上げている。前回と同様、特に興味をひかれた路線を挙げてみたい。

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グレート・セントラル鉄道の蒸気列車
ラフバラ・セントラル駅南方にて(2009年)
Photo by Duncan Harris at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0
 

「保存鉄道・観光鉄道リスト-イングランド中部」
http://map.on.coocan.jp/rail/rail_englandc.html

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「保存鉄道・観光鉄道リスト-イングランド中部」画面
 

項番10 グレート・セントラル鉄道 Great Central Railway

まず標準軌線では、レスター北郊で運行されているグレート・セントラル鉄道を推したい。保存鉄道では他に例のない全線複線の直線路を、重量級のテンダー機関車が小気味よいスピードで行き来する光景が、蒸機が支配した最後の黄金時代を彷彿とさせるからだ。

グレート・セントラル(大中央)という壮大な名称が示すように、このルートは、もとミッドランド地方とロンドンのメリルボーン Marylebone 駅を結んで19世紀末に開通した同名の幹線鉄道だった。全線複線はもとより、緩曲線、緩勾配、全面立体交差に大陸標準の車両限界と、高速直通運転を前提にした高水準の設計で大いに注目された。

ところが、国鉄時代に入ると、並行するミッドランド本線 Midland Main Line で代替できるとして、「ビーチングの斧」の合理化リストに挙げられ、1969年までに多くの区間が廃止されてしまった。こうした不運な歴史が、保存運動を支えるファンの熱意をかき立てる。

因縁のミッドランド本線の駅(下注)から1.5kmほどの場所に、拠点駅のラフバラ・セントラル Loughborough Central がある。列車はここから南へ、レスター・ノース Leicester North まで13.3kmを約30分で走りきる。ダイヤ通りなら、走行中に列車同士のすれ違いが体験できるはずだ。

*注 ナショナル・レールのラフバラ Loughborough 駅。ここから保存鉄道駅まで徒歩20分。レスター~ラフバラ間には保存鉄道とほぼ並行する路線バスもある。

ちなみに、北側の廃線跡はミッドランド本線を乗り越した後、ノッティンガム保存鉄道(項番9)が使っている線路に続いている。この二つの保存鉄道の接続構想が以前からあるのだが、実現の時期はまだ見通せない。

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スウィズランド貯水池 Swithland reservoir 付近
(2009年)
Photo by Duncan Harris at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0
 

項番20 セヴァーン・ヴァレー鉄道 Severn Valley Railway

セヴァーン・ヴァレー鉄道の起点キダーミンスター・タウン Kidderminster Town は、レンガ壁とゆったりした空間の貫禄ある駅舎が印象的だ。広場の向かいに建つナショナル・レール(旧国鉄)駅と見比べるまでもなく、有力な保存鉄道の存在感を再認識させられる。この敷地がもとは国鉄のヤードで、保存鉄道の駅は1984年に基礎から新設されたものだとは、とても想像できない。

鉄道はイギリス最長の川、セヴァーン川 River Severn 中流の、丘陵を刻む渓谷の中を上流へ向かう。川の最も美しい流域を通過し、バーミンガム都市圏にも近いことから、訪れる人が引きも切らない。シーズン中は水曜から日曜まで週5日、毎日6~8往復の列車が運行されている。

出発して一つ目のビュードリー Bewdley 駅を過ぎると、左の車窓にその川面が現れる。以後、列車はゆったりと流れる川に沿っていくのだが、途中、ヴィクトリア橋 Victoria Bridge を渡って対岸に移る。橋は全長61m、シングルスパンの細身のフォルムが美しく、沿線の好撮影地の一つだ。

終点ブリッジノース Bridgnorth 駅は、市街地の南の谷間にある。かつて線路は町の下をトンネルで抜けて、名所アイアン・ブリッジ Iron Bridge の方へ続いていたが、今は路線バスに乗り継ぐしかない。

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(左)キダーミンスター駅正面(2014年)
Photo by Juan Enrique Gilardi at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0
(右)同 コンコース(2011年)
Photo by mattbuck at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0
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セヴァーン川を渡るヴィクトリア橋(2010年)
Photo by Duncan Harris at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0
 

項番25 ノース・ノーフォーク鉄道 North Norfolk Railway

ポピー・ライン Poppy Line(下注)の愛称とともに、北海の水平線を遠望する車窓がノース・ノーフォーク鉄道の売り物だ。イングランド中部では唯一、海の見える保存鉄道なので、「保存鉄道ベスト」や「絶景車窓」のランキングにも顔を出す。

*注 ポピー(ひなげし)は、ノーフォークの代表的な花とされている。

ノーフォーク Norfolk(下注)の鉄道網は、収益悪化を理由に早くから路線整理が行われ、1970年ごろにはもはや骨格を残すだけになってしまった。後にいくつかの区間が保存鉄道として再生されたが、その中で最も成功したと言えるのがこの路線だ。シーズン中は毎日運行され、蒸機と古典ディーゼルで1日8~9往復をこなす。

*注 "Norfolk" には「ノーフォーク」の表記が定着しているが、実際の発音は [nɔːrfək] で、ノーファクが近い。同様に「サフォーク Suffolk」もサファク [sʌfək]。

鉄道の起点は、海沿いの町シェリンガム Sheringham にある。セヴァーン・ヴァレーと同じく、立派なレンガ駅舎と広い構内を擁し、隣接するナショナル・レール、ビターン線 Bittern Line(下注)の駅を圧倒している。なぜならこれが旧国鉄駅で、ビターン線は道路の向こうに、廃線を見越して仮設で置かれたという経緯があるからだ。廃止計画は後に撤回されたものの、駅施設の配置や構成は変わっていない。

*注 ノリッジ Norwich ~シェリンガム間の路線。

両駅間の線路は、道路によって長らく分断されていたが、2010年に踏切の復活により再接続された。一部の特別列車はこの境界線を越えて、ビターン線のクローマー Cromer まで遠征する。

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北海の水平線を背に、ウェイボーン Weybourne 駅へ
(2019年)
Photo by The Basingstoker at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0
 

項番30 エッピング・オンガー鉄道 Epping Ongar Railway

エッピング・オンガー鉄道は、2004年に運行を始めた新世代の保存鉄道だ。2007年にいったん休止になったが、2012年に再開されて現在に至る。それだけでなく、前身がロンドン地下鉄中央線 Central line の一部だった(下注)という点でも異彩を放っている。

*注 戦後1949年にロンドン旅客運輸公社 London Passenger Transport Board が運行を引き継ぎ、中央線の一部になったが、エッピング以遠は閑散区間で1994年に廃止されていた。

鉄道は、ロンドン北郊に残された貴重な森、エッピング・フォレスト Epping Forest の北側の丘陵地帯に、長さ10.5kmの走行線を持っている。拠点は、中間にあるノース・ウィールド North Weald 駅だ。シーズンの週末と祝日にここから蒸気列車や旧型気動車が出発し、起伏のある野中のルートを折り返し運転している。

注意すべきは、列車が地下鉄中央線の終点エッピング Epping 駅まで行かないことだ。時刻表には「エッピング・フォレスト Epping Forest」の着時刻が記載されているが、ここは約1km手前の単なる折返し点で、乗降はできない。そのため、保存鉄道に乗車するには、地下鉄エッピング駅前から連絡バスでノース・ウィールドまで出向く必要がある。

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(左)ノース・ウィールド駅の列車交換(2014年)
Photo by mattbuck at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0
(右)DL牽引によるロンドン地下鉄1959型の特別運行(2014年)
Photo by Paul David Smith - Epping at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0
 

次は狭軌鉄道を見てみよう。

項番24 ウェルズ・アンド・ウォールシンガム軽便鉄道 Wells and Walsingham Light Railway

ウェルズ・アンド・ウォールシンガム軽便鉄道は、ノーフォーク北海岸のウェルズ・ネクスト・ザ・シー Wells-next-the-Sea にある。軌間はわずか10インチ1/4(260mm)と極小ながら、軽便鉄道令 Light Railway Order で認可を受けた路線だ。同じ手続きで開業した381mm軌間のロムニー・ハイス・アンド・ディムチャーチ鉄道(南部編で記述)よりまだ小さいことから、世界最小の公共鉄道 Public Railway と言われる。

見かけは遊園地のおとぎ列車でも、走る線路は、標準軌だった旧国鉄ワイモンダム=ウェルズ線 Wymondham - Wells line の跡地(下注)に敷かれている。長さも6.4kmあり、所要40分と乗りごたえ十分だ。

*注 ちなみに、同線の南方の一部区間は、標準軌の蒸気保存鉄道であるミッド・ノーフォーク鉄道 Mid-Norfolk Railway(項番24)が使用している。

起点駅は、町の名とは修飾語が違うウェルズ・オン・シー Wells on Sea を名乗っているが、これは国鉄時代の駅名を踏襲したものだ。終点ウォールシンガム Walsingham は国教会の巡礼地で、歩いて回れる範囲に修道院跡や聖母教会がある。列車は機回しの後、すぐ折り返してしまうが、鉄道に並行して路線バス(下注)も走っているから、帰りの足は心配ない。

*注 ウェルズ・オン・シー駅前にはクローマー Cromer ~ウェルズ間の路線バスが停車する。停留所名は Light Railway。また、ウォールシンガムでは、市街地を通る路線バスでウェルズに戻れる。

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ノーフォーク・デュオ、3号機と6号機
(2011年)
Photo by Gerry Balding at flickr.com. License: CC BY-NC-ND 2.0
 

項番26 ビュア・ヴァレー鉄道 Bure Valley Railway

ビュア・ヴァレー鉄道もまた、ノーフォークにある標準軌の廃線跡を活用した蒸気観光鉄道だ。軌間は15インチ(381mm)、路線長は14.5kmもあり、この軌間ではロムニー・ハイスに次いで2番目の長さを誇る。

鉄道の拠点は、ビュア川 River Bure 中流の町、エイルシャム Aylsham にある。用地と施設を地方自治体が所有する公設民営型の鉄道なので、駅も頭端式、3線収容、全面屋根の立派なものだ。立派と言えば、駅を出てまもなく幹線道路A140の下を通過する長さ166mのトンネルもそうで、国鉄時代は踏切だったが、保存鉄道建設に際して立体交差化された。山らしき山のないノーフォークでは、唯一の現役鉄道トンネルだという。

列車はビュア川流域の広大な平野をひた走る。川はバクストン Buxton 駅の先で渡るとき以外、車窓には姿を現さない。線路際を並行するフットパスから手を振る人に答えながら、終点ロクサム Wroxham まで45分ほどの小旅行だ。

ロクサムは、ノーフォークの水郷地帯ザ・ブローズ The Broads の玄関口で、マリーナを訪れるレジャー客が多く、活気が感じられる。ナショナル・レール、ビターン線 Bittern Line のホフトン・アンド・ロクサム Hoveton & Wroxham 駅は歩いてすぐだ。

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エイルシャム駅構内(2016年)
Photo by The Basingstoker at wikimedia. License: CC BY-SA 2.0
 

項番33 レイトン・バザード鉄道 Leighton Buzzard Railway

ウェスト・コースト(西海岸)本線 West Coast Main Line が通るレイトン・バザード Leighton Buzzard の町に、2フィート(610mm)軌間の保存鉄道がある。町の名を冠したこの鉄道は、標準軌の廃線跡に後から造ったものではなく、郊外の採取場から幹線網へ山砂を運び出していた、もとからの軽便線だ。

鉄道は、第一次世界大戦が終わり、不要となった野戦鉄道の資材を転用して造られた。第二次大戦後、輸送手段が道路に移り、ほとんど使われなくなったため、1968年から愛好団体が引き継いで列車を走らせている。保存鉄道の第1世代と言ってよく、開業50年を超える老舗路線だ。

レイトン・バザードはロンドン・ユーストンから列車で1時間圏内で、1970年代以降、住宅開発が急速に進んだ。田園地帯を走っていた全長4.5kmのうち、2/3が今や住宅街に囲まれてしまい、末端区間だけが、かつての面影を残す郊外地だ。この間を、周辺の採石場などから来た小型タンク蒸機が、90分の往復ツアーを率いて走る。

*注 軽便駅ページズ・パーク Page's Park へは、ナショナル・レールのレイトン・バザード駅から2.3km、路線バスで最寄りの Narrow Gauge Railway 停留所まで10分。

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保存列車の重連運転(2014年)
Photo by R~P~M at flickr.com. License: CC BY-NC-ND 2.0
 

項番31 サウスエンド・ピア鉄道 Southend Pier Railway

ロンドンの東、テムズ川 River Thames 河口に広がる三角江の北岸に、サウスエンド・オン・シー Southend-on-Sea の町がある。町一番の名所となっているのが、海岸から水深のとれる沖合まで延々と続く、世界最長のレジャー桟橋だ。鉄道がまだなかった時代に、ロンドンから蒸気船で来る観光客を迎えるために建設された。

その桟橋の上を観光列車が走っている。初めは馬車軌道だったが、19世紀末の改築で電気鉄道に置き換えられ、1986年から気動車運行になった。現在の桟橋は長さが2.2km、先端まで歩けば30分かかるが、列車なら、車窓いっぱいに広がる海原(干潮時は干潟)をのんびり眺めながら、約8分で到着する。

線路は3フィート(914mm)の狭軌線で、延長1.9km(下注)。単線だが、中間に待避線を持つ。通常は1本の列車を使い、30分間隔でシャトル運行されている。多客時には2本を投入し、待避線で交換させることで15分間隔にできる。

*注 公式サイトでは延長1.25マイル(2.01km)としているが、ウィキペディア英語版では2046ヤード(1871m)で、図上実測値でも後者のほうが近い。

ちなみに、こうしたピア(桟橋)鉄道は、イギリスではサウスエンドのほか、サウサンプトン Southampton 対岸のハイズ Hythe、ワイト島ライド Ryde, Isle of Wight(アイランド線 Island Line の一部)の2か所に残っている。北西岸のサウスポート Southport にもピア・トラムがあったが、惜しくも2015年に廃止されてしまった。

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桟橋の上を先端へ向かう(2012年)
Photo by Beata May at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

最後に、トラムウェー(路面軌道)Tramway とケーブルカーの代表格について。

項番6 クライチ路面電車村(全国路面電車博物館)Crich Tramway Village (National Tramway Museum)

ダービーシャー中部(ダービー Derby 市北方)は、イングランドでも保存鉄道が特に集中する地域だが、その中に、クライチ路面電車村、あるいは全国路面電車博物館 National Tramway Museum(下注)の名で知られるユニークな野外博物館がある。

*注 公共施設ではなく、非営利団体が独自に開設運営しているので、館名の "National" は「国立」とせず「全国」と訳した。また、クライチ Crich は博物館のある町の名。

ここには、1960年代以前に主としてイギリスの各都市で運行されていた路面電車が動態保存されている。おもしろいのは、1.4kmある走行軌道の最初の数百mが、当時の街角を再現した舞台装置の中に通されていることだ。走るトラムも道行く客も、時代がかった都市風景に溶け込んでしまう。

街の境には市門のような跨線橋があり、複線軌道はガントレットになってそれをくぐる。次はヴィクトリア朝時代の公共公園前の停留所、その後、採石場の横を通り、ピーク・ディストリクト Peak District の山々を見晴らす丘の上に出ていく。車両コレクションを収容する展示館も随時見学可能で、路面電車ファンには心踊る時間が過ごせるだろう。

残念なことに、現地へのアクセスはやや不便だ。公共交通機関の場合、ダーウェント・ヴァレー線 Derwent Valley Line のホワットスタンドウェル Whatstandwell 駅から2.1km、高低差160mのきつい坂を歩いて上るか、周辺都市から本数の少ない路線バスで向かうことになる。

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都市風景の舞台装置に溶け込むトラム(2006年)
Photo by Jon Bennett at wikimedia. License: CC BY 2.0
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博物館の展示ホール(2018年)
Photo by Chris j wood at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番19 ブリッジノース・クリフ鉄道 Bridgnorth Cliff Railway

セヴァーン・ヴァレー鉄道の終点でもあるブリッジノース Bridgnorth は、セヴァーン川の谷を見下ろす丘の上に、城跡と旧市街がある。このハイ・タウン High Town と川沿いのロー・タウン Low Town の間を結んでいるのがクリフ(崖)鉄道と呼ばれるケーブルカーだ。

1892年に開通したときは、当時の一般的な駆動方式、ウォーターバラスト(水の重り)で上下していた。丘の上では水は貴重なので、下の駅で車両のタンクから排水した後、上の駅までポンプアップしていたという。電気方式に転換されたのは1944年だ。一見小型バスのようなユーモラスなモノコック構造の車体は1955年から使われている。

鉄道は複線で、長さ61m、高低差34m、勾配は640‰。市民の大切な足として、クリスマスや年末年始などを除き年中無休で運行している。片道約1分15秒、上るにつれて、セヴァーン川に寄り添うロー・タウンの眺めが眼下に開ける。

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上部駅からロー・タウンを望む(2004年)
Photo by Thryduulf at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

次回は、イングランド南部の保存鉄道・観光鉄道を取り上げよう。

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