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2021年3月26日 (金)

オーストリアの保存鉄道・観光鉄道リスト

保存鉄道・観光鉄道リスト作成の第2弾として、オーストリア編を更新した。従来、サイトに上げていたのは2005年時点のデータだから、16年も経てばさすがに状況は変化している。盛業中の鉄道が多数を占める中で、不幸にも活動を停止したり、今後の存続が危ぶまれているものもあった。

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ÖBBブレンナー線ザンクト・ヨードック St. Jodok 付近を行く
ユーロシティ(2019年)
Photo by Frans Berkelaar at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

フランス編と同じように、スペクタクルなルートを通る一般路線を含めて、1ページにまとめているので、ご覧いただければ幸いだ。

「保存鉄道・観光鉄道リスト-オーストリア」
http://map.on.coocan.jp/rail/rail_austria.html

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「保存鉄道・観光鉄道リスト-オーストリア」画面

オーストリアの保存鉄道事情は、ドイツやフランスとは様相が異なり、760mm軌間の狭軌路線が過半を占める。760mmは、イギリス由来の2フィート半(30インチ、762mm)をメートル法で再定義した軌間だが、今のボスニア・ヘルツェゴビナに大規模な路線網があったことから、ドイツ語ではボスニア軌間 Bosnische Spurweite/Bosnaspur という。

オーストリアでこの軌間が採用されたのは、1890年前後から第一次世界大戦ごろまでに建設された地方支線だ。幸いにも、多くが改軌や廃止を免れて残っている。標準軌線の駅を起点に谷筋を遡っていくルートが多いが、中には谷を上り詰めて峠越えを果たすものもある。後者はたいてい急勾配急曲線の険しい線形のため、蒸気機関車泣かせの、しかしファンには見せ場の多い人気路線になっている。

以下に掲げる3線はいずれも旧ÖBB(オーストリア連邦鉄道)線で、2010年に地元のニーダーエースタライヒ州に移管され、地域の観光資源として活用されている例だ。

 

項番1 ヴァルトフィアテル鉄道 Waldviertelbahn

首都ウィーンから北西に向かう列車で2時間余、ヴァルトフィアテル鉄道は、チェコ国境の町グミュント Gmünd を拠点にしている路線だ。北線と南線、それに北線の途中から分岐するハイデンライヒシュタイン Heidenreichstein 支線を合わせて、計82kmの長さがある。

北線と南線は州への移管後、ともに観光鉄道として再生された。夏のシーズンに毎日気動車が走っているが、日を限って蒸機が旧型客車を牽くノスタルジー列車も登場する。また、ハイデンライヒシュタイン支線でも別途、愛好団体が保存蒸機を運行している。

北線では、本線と支線が約2km並行する区間を舞台にした「アルト・ナーゲルベルクの並走 Parallelausfahrt von Alt-Nagelberg」がおもしろい。2本の蒸気列車が同時発車し、線路が離れていくまで抜きつ抜かれつの競争を繰り広げる。もちろん演出なのだが、列車の乗客も応援に加わって、大いに盛り上がる。

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「アルト・ナーゲルベルクの並走」を終えた列車が
本線(右)と支線に分かれていく(2005年)
Photo by Herbert Ortner at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

一方、南線にはヨーロッパの中央分水界を越える約8kmの峠道、通称「ヴァルトフィアテルのゼメリング Waldviertler Semmering」がある。最急勾配28‰の急坂に挑むMh形蒸機の奮闘ぶりが見ものだ。

*注 鉄道の詳細は「オーストリアの狭軌鉄道-ヴァルトフィアテル鉄道 I」「同 II」「同 III」参照。

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「ヴァルトフィアテルのゼメリング」に挑むMh形蒸機
(2019年)
以下、コピーライト表示のないものは筆者撮影

項番10 マリアツェル鉄道 Mariazellerbahn

マリアツェル鉄道は、オーストリアの代表的なカトリックの巡礼地マリアツェル Mariazell に向かう電化路線だ。一般旅客輸送を行うかたわら、週末には旧型電気機関車または蒸機が牽く特別列車も運行される。

全線86kmのうち、特に後半の山線 Bergstrecke は、小回りの利く狭軌の特性を如何なく発揮した区間だ。まずは、ヘアピンカーブを介した3段折り返しのアクロバティックな坂道で峠を上っていく。長いトンネルの後は、高峰エッチャー Ötscher を遠望しながらエアラウフ峡谷の桟道をたどり、模型レイアウトのような迂回路で山中の貯水池を巻く。車窓風景はどこも変化に富んでいて、見飽きることがない。

ちなみに終点マリアツェル駅には、非営利団体が運営する1435mm標準軌の「マリアツェル=エアラウフゼー保存路面軌道 Museumstramway Mariazell–Erlaufsee」がある。路面機関車や近隣都市の旧型トラムなどを走らせているのだが、本線がナローゲージで、支線のような保存鉄道が標準軌というのは、なかなか見られない光景だ。

*注 鉄道の詳細は「オーストリアの狭軌鉄道-マリアツェル鉄道 I」「同 II」「マリアツェルの「標準軌」保存路面軌道」参照。

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ザウグラーベン高架橋 Saugrabenviadukt にさしかかるET形電車
(2017年)
Photo by Liberaler Humanist at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0

項番12 イプスタール鉄道 Ybbsthalbahn

支線を含め延長77kmと、上記2線にも匹敵する長大路線だったイプスタール鉄道だが、需要の少ない山間部を貫いていたため、すでに大半で一般輸送が廃止されて、見る影もない。幸い、東部にある峠越えルートでは線路が維持され、「イプスタール鉄道 山線 Ybbsthalbahn Bergstrecke」の名で、愛好団体により保存運行が維持されている。

牽引するのは、蒸機または旧型ディーゼル機関車だ。最急勾配31.6‰、最小曲線半径60mと、他線に劣らず険しいルートで、途中にある2本の華奢なトレッスル橋が行路のアクセントになっている。

*注 鉄道の詳細は「オーストリアの狭軌鉄道-イプスタール鉄道 I」「同 II」参照。

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ヒューナーネスト高架橋 Hühnernest-Viadukt を渡る蒸機
(2007年)
Photo by Herbert Ortner at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0

非電化線ばかりでなく、電車が走る狭軌線にも見どころがある。

項番14 ペストリングベルク鉄道 Pöstlingbergbahn

リンツ Linz の旧市街と、巡礼教会が建つ北郊の丘を結んでいるペストリングベルク鉄道は、ラックレールなし(=粘着式)で116‰もの急勾配を上り下りするという驚異の鉄道だ。世界的に見ても粘着式でこれを超える勾配は、リスボン市内の路面軌道にしかない。

現在は900mm軌間の連節トラムが市内から直通するが、2008年まではメーターゲージ(1000mm軌間)の独立路線で、特殊な非常用ブレーキを備えた専用車両が山上との間を往復していた。その旧車の一部が足回りを交換のうえ、週末の定期運行に投入されており、かつての様子をしのぶことができる。また、山麓の旧ターミナル駅は駅舎やホームが保存され、鉄道博物館に活用されている。

*注 鉄道の詳細は「ペストリングベルク鉄道 I-概要」「同 II-ルートを追って」参照。

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起点ハウプトプラッツ Hauptplatz に停車中の改造旧車
(2018年)

項番40 インスブルック・ミッテルゲビルゲ鉄道 Innsbrucker Mittelgebirgsbahn
項番41 シュトゥーバイタール鉄道 Stubaitalbahn

どちらもインスブルック Innsbruck 市街から南方に出ていくメーターゲージの電化トラム路線だ。ミッテルゲビルゲ鉄道というのは開通時の名称で、1930年代にインスブルック市電(IVB)に統合され、それ以来、6系統を名乗っている。終点イーグルス Igls は、ジル峡谷 Sillschlucht 上部のテラス(棚状地)に載る村で、そこまでトラムが、山岳路線顔負けの連続オメガループを上っていく。残念ながら、並行バス路線との競合から廃止が検討されており、現状は日祝日のみの運行だ。

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終点イーグルスで発車を待つトラム(2017年)
Photo by Simon Legner at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

一方、シュトゥーバイタール鉄道は健在で、インスブルック駅前から、市内軌道を経由して谷奥の終点フルプメス Fulpmes までトラムが直通する。6系統に比べて走行距離が長いだけでなく、ルートの平面形もはるかに技巧的だ。アルプスの高峰群に囲まれた見晴らしのいい高台を走り通すので、オーストリア屈指の美しい車窓風景が長く楽しめる。

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ノルトケッテ Nordkette の山並みを望む
クライト Kreith 停留所にて(2019年)

数は少ないものの、標準軌(1435mm)の保存鉄道、観光鉄道ももちろん存在している。

項番9 ヴァッハウ鉄道 Wachaubahn

ÖBBドナウ河畔線 Donauuferbahn は、ドナウ川の渓谷に沿う景勝路線としてトーマス・クックの鉄道地図にも描かれていた。しかし輸送路としては傍流のため、中間部の廃止で東西に分断されてしまった。ニーダーエースタライヒ州に移管された東側のうち、クレムス Krems とエンマースドルフ Emmersdorf 間34.1kmでは、ヴァッハウ鉄道の名で夏のシーズン中、観光列車が走る。古城やブドウ畑が織りなす渓谷の景観を愛でながら、連節気動車でたどる約1時間の列車旅だ。

復路は、ドナウ下りの船に乗って視点を変えるもよし、路線バスで有名な修道院のある対岸のメルク Melk へ出るのもお勧めだ。

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ドナウ河畔のブドウ畑を貫く
デュルンシュタイン Dürnstein 付近の線路(2015年)
Photo by Chris De Wit at wikimedia. License: CC0 1.0
 

項番24 エルツベルク鉄道 Erzbergbahn

オーストリア最大の鉄鉱山から鉱石を搬出していたエルツベルク鉄道には、最大71‰の急勾配があり、1978年までアプト式ラックレールが使われていた。

峠を越える中央区間での定期輸送は2001年が最後となり、現在はフォルデルンベルク・マルクト Vordernberg Markt~エルツベルク間で行われている旧型レールバスによる保存運行が、かつての産業路線を体験できる唯一の方法だ。鉱山自体は今も稼働しており、列車が峠のトンネルを出ると、露天掘りの荒々しくも壮大な採掘現場が見えてくる。

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エルツベルクに向かうレールバス
フォルデルンベルク Vordernberg 付近にて(2019年)
Photo by Liberaler Humanist at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

項番33 ローゼンタール蒸気列車 Rosenthaler Dampfzüge

ケルンテン南部、ローゼンタール Rosental の旧ÖBBフェルラッハ線 Ferlacher Bahn で実施されている保存運行で、ヴァイツェルスドルフ Weizelsdorf とフェルラッハ Ferlach の間を蒸気列車が走る。これ自体は片道30分程度の短いものだが、終点に待機している路面電車(またはボンネットバス)が、訪問者を駅近くの製鉄所跡に造られた交通博物館「ヒストラーマ Historama」へ連れて行ってくれる。往復券(コンビチケット)には、これら一連の料金が含まれている。

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ローゼンタール蒸気列車のチラシ
© 2021 Nostalgiebahnen in Kärnten

急坂を上るラック鉄道についても触れておこう。上記のエルツベルク鉄道ではラックレールが解体されてしまったが、オーストリアにはほかにも3か所で残っている。これらに共通しているのは、スイスのような電化の洗礼を受けなかったことで、そのため、今なお蒸機か気動車が運行の役を担っている。

項番6 シュネーベルク鉄道 Schneebergbahn

ウィーナー・ハウスベルゲ(ウィーンの地元の山々)Wiener Hausberge の代表格、シュネーベルク山 Schneeberg に上っていくのがシュネーベルク鉄道だ。ラックはアプト式を使っている。長らくÖBBに属していたが、上記の狭軌線などに先駆けて1997年から、州とÖBBが設立した別会社が運行を担うようになった(インフラ移管は2012年)。

定期運行では、奇抜なまだら模様をまとった気動車「ザラマンダー Salamander(サンショウウオの意)」が、約50分で山麓と山上の間を結んでいる。貨物を運ぶ小さなトレーラー「ザラマンダー・ベイビー Salamander-baby」を前につけ、親子連れで走る姿が微笑ましい。山上駅の周辺でも眺めは十分いいが、ここはまだ前座だ。シュネーベルク山の本体に到達するには、さらに3kmの山歩きを必要とする。

*注 鉄道の詳細は「オーストリアのラック鉄道-シュネーベルク鉄道」「シュネーベルク鉄道再訪記」参照。

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山上のエリーザベト教会前を通過する「ザラマンダー」
(2018年)

項番22 シャーフベルク鉄道 Schafbergbahn

標高1782mのシャーフベルク山 Schafberg は、ザルツカンマーグート Salzkammergut の三つの湖を眼下に望む天然の展望台で、オーストリアの代表的観光地の一つに数えられている。シャーフベルク鉄道はそこへ上るアプト式ラックの登山鉄道で、映画「サウンド・オブ・ミュージック」の一カットにも登場した有名路線だ。老齢になった旧型蒸機をカバーするため、石油焚きの新型が導入されており、煙の迫力は劣るものの、映画のイメージがまだ保たれている。

*注 鉄道の詳細は「オーストリアのラック鉄道-シャーフベルク鉄道」参照。

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シャーフベルクアルペ Schafbergalpe で対向列車を待つ新型蒸機
(2010年)
Photo by brandiatmuhkuh at wikimedia. License: CC BY 2.0

項番37 アッヘンゼー鉄道 Achenseebahn

アッヘンゼー鉄道はチロル州にあるラック鉄道だが、その目的地は山頂ではなく、高台の湖畔だ。そこで、湖上を渡る船に連絡している。開通時期が1889年と他より古いので、ラックレールは初期の方式だったリッゲンバッハ式だ。

開業当時から石炭焚き蒸機が大事に使われ続けていることでも注目を集めてきたが、残念なことに2020年3月に運営会社が破産して、運行が止まった。現地の報道によれば、新会社が設立され、2022年5月の再開を目指している。

*注 鉄道の詳細は「オーストリアのラック鉄道-アッヘンゼー鉄道 I」「同 II」参照。

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終点ゼーシュピッツ Seespitz で湖上船に連絡する蒸気列車
(2005年)
Photo by Herbert Ortner at wikimedia. License: CC BY 2.5

オーストリアの国土の西部から中央にかけては、スイスから続くアルプスが占めている。ユネスコ世界遺産に単独登録されたゼメリング鉄道 Semmeringbahn(項番8)は、その東端を横断する鉄道だ。ほかにも、タウエルン線 Tauernbahn(項番35)、ミッテンヴァルト線 Mittenwaldbahn(項番39)など、ÖBBの一般路線に景勝ルートがたくさんある。点在する小鉄道を訪ね歩くのはもとより、その道中でさえ、列車旅の楽しみはいくらでも発掘できるだろう。

*注 ゼメリング鉄道の詳細は、「ゼメリング鉄道はなぜアルプスを越えなければならなかったのか」「ゼメリング鉄道を歩く I」「同 II」参照。

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