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2021年2月 8日 (月)

フランスの保存鉄道・観光鉄道リスト-北部編

一般運行から引退した機関車や客車を保存・整備し、休廃止された路線などを利用して走らせる活動を「保存鉄道 Heritage railway」と呼ぶ。熱心なボランティアが運営全般に携わり、活動資金の多くを支えているのも篤志家の寄付だ。観光イベントとしても人気があり、コアなファンだけでなく一般市民も多数訪れる。

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ソンム湾鉄道の蒸気列車
サン・ヴァルリー・ヴィル St-Valery Ville 駅にて(2016年)
Photo by Didier Duforest at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

こうした保存鉄道はイギリスが中心だと思われていて、メディアで紹介されるのもたいていイングランドかウェールズの蒸機運行だ。確かに鉄道発祥の地であり、アンティーク好きな国民性からしてもイメージが合致するのだが、もとよりこれはイギリスの専売特許ではない。

先ごろ、フランスの鉄道遺産をまとめた「鉄道観光ガイド Guide du tourisme ferroviaire」(Sélection du Reader's Digest, 2005) という本を読んで、フランスにも多数の保存鉄道・観光鉄道が存在していることを知った。そこで、運営団体の公式サイトその他の資料も参考にしながら、HP「官製地図を求めて」の中にある一コーナーに、これらの鉄道を紹介するページを加えようと考えた。

純粋な保存鉄道にとどまらず、スペクタクルなルートを走る普通路線や登山鉄道、大規模な鉄橋などにも網を広げたので、取り上げた項目は全部で80か所にもなる(下注)。とりあえず北部編(およそ北緯46度以北)をアップしたので、ご覧いただければ幸いだ。

*注 「鉄道観光ガイド」にはこのほか、軌道自転車で走れる休止線も多数紹介されているが、当ページは列車に乗れるものに絞っている。

「保存鉄道・観光鉄道リスト-フランス北部」
http://map.on.coocan.jp/rail/rail_francen.html

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「保存鉄道・観光鉄道リスト-フランス北部」画面
 

リストでは、鉄道の地理的位置がわかるよう、グーグルマップと、IGN(フランス国土地理院)が開設する地形図サイトにリンクするようにしている。

グーグルマップは、ルート検索や周辺の施設情報など、特定の地点とそこへのアクセスに関する情報を調べるのに適した地図サイトだ。しかし、地形や鉄道のルートに関しては、必ずしも満足のいく情報が得られるとはいえない。その点、IGNサイトで表示されるのはまさに地形図で、かつ保存鉄道のルートが注記や赤紫のマーカーで強調されており、沿線風景を把握するのに威力を発揮する(下注)。

*注 IGN地形図サイトの操作方法は、本ブログ「地形図を見るサイト-フランス」で解説している。

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IGN地形図サイトでの観光鉄道の表示例
(上)鉄道記号に Ligne touristique(観光鉄道)の注記
  旅客扱いする駅は赤で塗られる
(下)より大縮尺の図では、鉄道記号に赤紫のマーカーが重ねられる
  Train touristique は観光列車の意
© 2021 IGN
 

なお、IGN地形図を最初に表示したときに、下図のような薄暗い画面が出てくる場合があるが、これは操作機能の説明画面だ。画面上の任意の場所をクリック/タップすれば、明るさが戻る。

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薄暗い画面になるときは
画面上をクリック/タップする
© 2021 IGN

では、北部編で特に興味を引かれた鉄道をいくつか挙げておこう。

項番1 ドゥール谷観光路面軌道 Tramway touristique de la vallée de la Deûle

路面電車ファンなら心踊る、フランスではおそらく唯一の、トラム(路面電車)車両を専門とする保存鉄道だ。1995年の開業で、リール Lille 市内やその近郊の路面軌道で使われていたクラシックスタイルの車両を保有し、休日などに運行している。ハイシーズンは20分ごとに出発するので、中間停留所でトラム同士の行き違いシーンが目撃できる。

走行ルートもまた魅力的だ。閉じられた敷地の中を循環するのではなく、リール北郊の運河化されたドゥール川 Canal de la Deûle の右岸に造られた、かつての曳舟道 chemin de halage(英語ではトウパス towpath)に沿う約3kmを行く。のどかな運河べりの風景を背にして走る電車は、かつてヨーロッパ各地の田園地帯で見られた郊外軌道の情景を再現しているようだ。

乗車券を売るマルケット・レ・リール Marquette-lez-Lille の車庫へは、リール・フランドル Lille-Frandres 駅前からバスの便がある。

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ワンブルシーを走る古典トラム(2008年)
Photo by Velvet at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

項番3 ソンム湾鉄道 Chemin de fer de la baie de Somme

ソンム湾鉄道は、フランスの代表的なメーターゲージ蒸気保存鉄道の一つで、1971年に開業した。舞台になっているソンム湾(下注)は英仏海峡に面し、地形的に見れば、ソンム川 La Somme の河口に広がる三角江だ。満潮時には海水で満たされるが、潮が引くと見渡す限りの干潟に変わる。

*注 「ソンムの戦い」のように、日本語では「ソンム Somme」と言い慣わされているが、実際の発音は「ソム」が近い。

27kmのルートは湾を廻る形に延びている。北岸のル・クロトワ Le Crotoy から時計回りで、湾奧にあるSNCF(フランス国鉄)と接続するノワイエル・シュル・メール Noyelles-sur-Mer へ。ここでスイッチバックして南岸の港町サン・ヴァルリー・シュル・ソンム Saint-Valery-sur-Somme、さらに英仏海峡に面したカイユー・シュル・メール Cayeux-sur-Mer まで足を延ばす。

このうち、広大な汽水域に築かれた堤の上を走るノワイエルとサン・ヴァルリーの港の間は、かつてSNCF線の貨物列車が乗り入れていた。それで、標準軌の内側にメーターゲージを入れ子に敷いた4線軌条が残っている。

安定した人気を反映してシーズン中はほぼ無休だが、距離が長いことから、乗り通すだけでも2時間近くかかる。繁閑に応じて設定されている区間便を乗り継ぎながら、海辺の町の散策を含め、一日過ごすつもりで出かけるのがよさそうだ。

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汽水域の築堤上をサン・ヴァルリーに向かう蒸気列車(2009年)
Photo by P.poschadel at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

項番5 オート・ソンム軽便鉄道 P'tit Train de la Haute Somme

ソンム川 La Somme を河口から約100km遡ったところに、600m軌間のオート・ソンム軽便鉄道がある。第一次世界大戦中に軍用鉄道として敷設され、戦後はドンピエール Dompierre にあった製糖工場からソンム運河 Canal de la Somme へ貨物を輸送するのに使われていた。

全長7kmのルートは、中間のカッピー Cappy 駅を境に、性格の異なる二つの区間に分けられる。前半は、ソンム川の谷に沿って山際を進む平坦路だ。後半はトンネルの後、Z字のスイッチバックで段丘崖を一気に上りきって、比高40mの台地上に出る。スイッチバックは列車をそのつど停止させてポイントを切り替えなければならず、運行効率はよくない。応急的に造った路線ならではの高度克服法だが、今やそれがこの軽便鉄道の一番の見どころになっている。

起点のフロワッシー Froissy では、動態保存の小型蒸機が列車の先頭に立つ。しかし、坂道の負荷を回避するため、通常はカッピーでディーゼル機関車に交替して、終点ドンピエールに向かう。下の写真では、より強力な蒸機がスイッチバックを通過していくが、これは特別運行のときだけらしい。

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スイッチバックを行く蒸気列車
通常、この区間はディーゼル機関車で運行される
(2014年)
Photo by Manfred Kopka at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番13 アブレッシュヴィレル森林鉄道 Chemin de fer forestier d'Abreschviller

アブレッシュヴィレル Abreschviller はフランス東部、ヴォージュ山地 Massif des Vosges の西斜面に立地する町だ。一帯はかつて林業が盛んで、木材の搬出のために、ドイツ時代の1880年代から森林鉄道網が築かれていった。軌間は700mmで、プロイセンの軍用鉄道で使われていた規格だ。

伐採事業は1960年代に中止され、それに伴い、鉄道施設もほとんど撤去されてしまった。今ではこの観光列車が走る約5.3kmの区間とその前後しか線路が残っておらず、貴重な産業遺構になっている。蒸機またはディーゼル機関車に率いられた列車はすっかり遊覧仕様だが、か細い軌道でほの暗いモミの森に分け入っていく行程には、何かしら高揚感を覚える。

アブレッシュヴィレルの駅からシーズン中、一日数回催行されるツアーは所要90分。谷の奥にある終点グラン・ソルダ Grand-Soldat で、復元された製材所の見学時間がある。

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サール・ルージュ川に沿って山を下りる観光列車(2007年)
Photo by Torsade de Pointes at wikimedia.
 

項番14 ライン川観光鉄道 Chemin de fer touristique du Rhin

保存鉄道は往復乗車が基本になる。しかし、単に行って帰るだけでは変化がないので、終点あるいは途中の駅で、マーケットや施設見学といったイベントが催されることもしばしばだ。さらに、片道を別の交通手段にすることで、集客を図る鉄道も見られる。

ライン川観光鉄道の蒸気列車は、世界遺産にも登録されたヴォーバンの要塞都市ヌフ・ブリサック Neuf-Brisach の東、フォルゲルサイム Volgelsheim 駅から出発する。すぐに左に折れ、後はライン川の河畔林に沿って走っていくが、終点サン・スーシ Sans-Souci まで約12kmのルートのうち、川の流れが見えるのはわずかな間だ。

それで船会社と提携することで、復路では観光船の旅が選択できるようにしている。ラインの船旅といっても、このあたりは平地で、山並みも古城も見えないのだが、視点が変わればいい気分転換になるはずだ。船で車庫近くの桟橋に着いた後は、再び列車で起点駅まで送ってくれる。

片道を軌道自転車で走るエトルタ=ペイ・ド・コー観光鉄道(項番10)も同じような例だ。

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蒸機030T形の重連運転
フォルゲルサイム駅にて(2008年)
Photo by DEUTZ159 at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

項番16 トリュー蒸気鉄道 Vapeur du Trieux

ブルターニュ半島の海岸線は複雑で、丘陵地を刻んだ谷に海水が侵入して、三角江を形成している。同じ三角江でもソンム湾(項番2)とは様相が異なり、丘と丘の間に細く深く湾が入り込むイメージだ。

ここではトリュー Trieux 川のそうした溺れ谷の縁をなぞるように、蒸気列車が通過していく。トリュー蒸気鉄道の活動拠点は半島の北側、英仏海峡に面する港町パンポル Paimpol にある。そこから内陸のポントリュー Pontrieux まで約15kmが走行ルートだ。

標準軌ながら急カーブが続出する、まるで軽便線のようなルートなので、列車の速度も控えめだ。その分、車窓からは丘陵と入江の、変化に富んだ風光を堪能できる。さらに往路のポントリュー行きでは、途中のトラウ・ネ Traou-Nez 停留所で下車し、三角江に臨む旧邸 Maison de l'Estuaire を見学する。

このルートはSNCFの現役路線で、TERの普通列車が走っている。片道はそれを利用することも可能だ。

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トリュー川の三角江
線路の対岸からの眺め
Photo by Colsu at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番29 レ・コンブ鉄道 Train des Combes

1981年のTGVパリ~リヨン間開業当時、唯一の中間停車駅だったのが、ル・クルーゾ Le Creusot だ。最初は利用者が伸び悩んだというから、1990年に在来線のル・クルーゾ駅近くで開業したパルク・デ・コンブ(コンブ公園)Parc des Combes も、需要喚起策の一つなのだろう。

郊外の山をまるごと開発したこの山上遊園地で、園内を周回しているのがトラン・デ・コンブ(レ・コンブ鉄道)Train des Combes だ。遊園地の遊具といえばそれまでだが、山腹に降りてトンネルやヘアピンカーブを繰り返すなど、インドのマテラン(マーテーラーン)鉄道を彷彿とさせる技巧的なルートが楽しい。

1999年には、在来線のル・クルーゾ駅前まで線路が延伸され、二つ谷鉄道 Train des deux vallées の名がつけられた。公園の山が二つの谷に挟まれているのが由来だと想像するが、残念なことに運行休止になってしまった。現在は、1周35分の園内周回ルートのみ運行されている。

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SNCF線に隣接する
レ・コンブ鉄道のル・クルーゾ駅(2019年)
Photo by Andrzej Otrębski at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番32 SNCF イロンデル(燕)線 Ligne des hirondelles

イロンデル線という名称は SNCF の登録商標だそうだ。モレ Morez にある、ツバメが飛ぶ軌跡のような巧妙な線形から名づけられた。路線は本来、ドル Dole やブザンソン Besançon 方面とジュラ南部のサン・クロード Saint-Claude を結ぶ全長123kmの普通鉄道なのだが、ジュラ山地を行くあまたの鉄道の中でも観光要素が強い。

*注 正確には、ドル・ヴィル Dole-Ville~アンドロ Andelot 間はディジョン・ヴィル=ヴァロルブ(国境)線 Ligne Dijon-Ville - Vallorbe (frontière)、アンドロ~サン・クロード間はアンドロ=ラ・クリューズ線 Ligne Andelot - La Cluse のそれぞれ一部。123kmはイロンデル線の公式サイトに示された距離だが、根拠となる起終点駅は不明。

サミットのラ・サヴィーヌトンネル Tunnel de la Savine を抜けた時点で、線路の標高は約900mだ。ところがモレ駅は736mで、160m以上も低い(それでも町から40mほど上にある)。ループ線形は、勾配を25~30‰に抑えながらこの高度差を克服するために考案された。

下の写真はその一部で、サミットへ向かう列車が左からモレ高架橋 Viaduc De Morez を横断しようとしている。列車はこの後、行き止まりのモレ駅に停車し、スイッチバックして右の谷を大きく迂回した後、写真上部のレ・クロット高架橋 Viaduc des Crottes に達する。下から見上げてもすばらしいが、空中回廊のような高架橋から俯瞰するモレの谷もさぞかし絶景だろう。

しかし何分、過疎地を行くローカル線につき、列車は朝、昼、夜に各1~2本しかない。乗りに行くにしても、事前に時刻表をよく確認しておく必要がある。

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モレの高架橋を行く気動車(2010年)
Photo by Nadege Bonnet Mathieu at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

次回は、南部編のあらましを紹介する。

 

【付記】鉄道名の和訳について

フランス語では鉄道のことを「chemin de fer(シュマン・ド・フェール、鉄の道の意)」という。観光鉄道の名称にはこのほか、小列車を意味する「petit train(プティ・トラン)」や、観光列車を意味する「train touristique(トラン・トゥーリスティーク)」も好んで使われる。

しかし、日本語では「~列車」が鉄道名になることは稀であり、和訳としてなじみにくい。そう考えて、保存鉄道リストでは敢えて直訳せず、petit train を「軽便鉄道」、train touristique を「観光鉄道」と読み替えている。

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コメント

私はドイツの保存鉄道ばかり追い駆けていますが、フランスの保存鉄道もこんなに頑張っているのですか。ワクワク感が高まり、行きたくなります。フランス南編も期待していますので。よろしく。

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