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2021年2月

2021年2月28日 (日)

フランスの鉄道時刻表

各国の冊子時刻表に興味を抱き、手元に集めていたのは1990年代のことだ。フランス国鉄SNCF の時刻表もその頃に一度だけ買ったことがある。住所をどこで知ったのかは忘れたが、パリにあるSNCFの販売部局 Magasin général du service に注文書を送ったら、20日ほど経って重量のある国際小包が届いた。

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SNCF公式時刻表 1991/92冬号 全5冊
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同 内容の一部
 

こういう取引は通常、前払いで、まず見積書が届き、それに基づいて銀行や郵便局から送金する。先方は口座への入金を確認したうえで、商品を発送する、というのが一般的な流れだ。ところが、今回はいきなり品物が送られてきたので驚いた。もちろん請求書も同封されていたのだが…。

ドイツDBの時刻表が電話帳ばりの分厚さだという話を以前に書いたが(「ドイツの鉄道時刻表」参照)、フランスのそれもA4判全5冊で、セットの厚みは約7cmあった。内容は以下の通り。


「SNCF公式時刻表 Indicateur officiel de la SNCF」1991/92冬号

1.駅及び列車内におけるサービス Services offerts en gare et à bord des trains 322ページ(表紙含まず、以下同じ)
2.北東路線網 Réseau Nord-Est 568ページ
3.南東およびコルシカ島路線網 Réseau Sud-Est et Corse 752ページ
4.大西洋岸路線網 Réseau Atlantique 624ページ
5.国際連絡 Relations Internationales 104ページ

計 2370ページ


1が時刻表の説明書で、駅索引や運送約款、列車設備一覧などが盛り込まれている。2~4は地方別のテーブル形式時刻表、5は国際列車の時刻表だ。フランスの鉄道網も1990年代にはすでに相当数の閑散路線が廃止または休止の憂き目にあっていたはずだが、それでもまだこのボリュームが必要だったのだ。

当時、公式時刻表は春に、その年の夏ダイヤ版と冬ダイヤ版が同時に刊行されていた。説明書に記載されている年間購読の案内も読んだはずだが、さすがに7cm厚の冊子を今後も続けて購入するかどうかを悩んだ形跡はない。

ところで、公式時刻表には、これとは別に「ヴィル・ア・ヴィル Ville à Ville(町から町への意)」と題した1冊ものの時刻表(下の写真参照)もあった。5冊セットが業務用とすれば、こちらは一般向けで、駅の書店で販売していた。内容は、主要駅間の列車の運行日、出発時刻、到着時刻(直通でない場合は乗換駅と時刻も)、列車番号、車種、車室等級などを一覧にしたものだ。

全908ページの冊子には、発駅基準で約250駅、駅同士の組み合わせで約1250の項目が挙がっている。駅は国内だけでなく、ロンドン、ブリュッセル、フランクフルト、チューリッヒ、ミラノ、マドリッドといった近隣諸国の都市の名も見られる。実際、列車旅行者の動きは、主要都市相互間や、地方から首都パリへの往来などに集中しているから、こうした形式の時刻表のほうが見やすく、需要に即していたのだろう。

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「ヴィル・ア・ヴィル」1987年夏版の表紙と内容の一部

各国とも冊子時刻表はおおむね廃刊となってしまい、ウェブサイトでの提供に移行している。フランスの場合、それがどのような形で実現されているのか、操作の手順を含めて見ていこう。

(掲載のURLや画像は、2021年2月現在のものである)

1.条件指定による列車検索

発駅、着駅、日時などの条件指定で最適の列車を表示してくれるサービスは、SNCFの旅行者向けサイトである OUI.sncf(OUI はウイと読む)のトップページにある。

OUI.sncf
https://www.oui.sncf/

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OUI.sncf 初期画面
 

2.テーブル形式の時刻表ダウンロード

テーブル形式の時刻表をフランス語表記のサイトで探すときは、"fiche horaire(フィッシュ・オレール 、複数形は fiches horaires)" をキーワードにするとよい。フィッシュ・オレールとは、時刻に関するシート、つまり(一枚ものの)時刻表という意味だ。また、ダウンロードすることは télécharger(テレシャルジェ)という。

しかし、ドイツDBのような全国の時刻表がダウンロードできる便利なサイトは、探した限りではなかった。類似のものとして、OUI.sncf には、発着駅や日時を入力することで、条件に適合した時刻表を作成してくれるサービスがある。また、トランシリアン Trancilien(首都圏のローカル列車)のサイトでは一部路線、TER(その他地域のローカル列車)のサイトでは多くの路線について、テーブル形式の時刻表が確認できた。

OUI.sncf - 個人用時刻表 La fiche horaire personnalisée
https://www.oui.sncf/services-train/fiches-horaires

条件指定による時刻表は「個人用時刻表 fiche horaire personnalisée」と呼ばれている。作成方法は単純だ。まず発地と着地を入力する。正確な駅名でなく、都市名などで入力しても、ドロップダウンリストに選択肢が表示される。下の画面の青地に表示されているように、Toutes gares intramuros(市内全駅)という選択も可能だ。また、外国の地名にも対応している。

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OUI.sncf 個人用時刻表作成画面
発着地を入力
 

次に日時を指定する。時間を0時から24時までとすれば、一日分の時刻表になる。あとはダウンロードボタンをクリックするだけだ。

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日時を入力してダウンロード
 

Trancilien - 時刻表 Les fiches horaires
https://www.transilien.com/fr/les-fiches-horaires

トランシリアン Trancilien、すなわちイル・ド・フランス(首都圏)Île-de-France で運行されるローカル列車のサイトにも、OUI.sncf のそれに似た「個人用時刻表 La fiche horaire personnalisée」を作成するサービスがある。ただし、同じ系統内の駅相互間に限られる。

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Trancilien 個人用時刻表作成画面
 

Trancilien - 路線群 Les lignes
https://www.transilien.com/fr/lignes

上記のような任意の2駅間の時刻表ではなく、全駅全列車が掲載されたテーブル形式の時刻表も、一部の路線(運行系統)で提供されている。利用可能な路線は以下のとおり。

RER(エルウーエル、地域急行路線網 Réseau express régional):E線のみ
TRAIN(郊外線):H、J、K、L、P、R線

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路線選択画面
 

例えばE線の場合、そのページに、路線図(運行系統図)PDFのダウンロードボタンと、時刻表PDFを選択するドロップダウンリストが含まれている。

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E線の路線図、時刻表ダウンロード画面
 

TER
https://www.ter.sncf.com/

SNCFがイル・ド・フランス以外で運行するローカル列車群は、TER(テーウーエル、地域圏急行輸送 Transport express régional)と呼ばれる。これは、州に相当する行政単位である地域圏 Région ごとに運営されており、ウェブサイトの構成もそれに従っている。そのため、発駅や着駅がどの地域圏に属しているかをあらかじめ調べておく必要がある(下注)。

*注 例えば、ウィキペディアの当該地名の項には、属する地域圏の情報も記載されている。

TERのサイトでは、トップページ(の下方)にあるフランス本土全図のクリッカブルマップか、その下のドロップダウンリストで、まず地域圏を選択する。

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TER 初期画面で地域圏を選択
 

以下は、最北部のオー・ド・フランス Hauts-de-France 地域圏のページを例にしているが、左メニューの "Horaires & Trafic(時刻表と運行)" のサブメニューに "Fishes horaires(時刻表)" が見つかる。時刻表は路線別にファイル化されている。Ligne(路線)のドロップダウンリストで選択するか、Gare(駅)に調べたい駅名を入力し、Rechercher(検索)ボタンをクリックする。

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時刻表を表示する路線の検索
 

ここでは路線の、"Amiens<>Abancourt<>Rouen(アミアン~アバンクール~ルーアン)" を選択した。すると、往路と復路のダウンロードリンクが表示された。ちなみに駅名で検索した場合は、正確な駅名の候補が表示されるので、改めてそこから選択するという手順になる。ダウンロードリンクは、当該駅を経由するすべての路線について表示される。

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ダウンロード画面
 

地域圏を変更したいときは、初期画面まで戻らなくても、ページ最上段にあるメニューの "Changer de région(地域圏を変更する)" で再選択できる。

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地域圏の変更
 

なお、時刻表検索の際の参考になる運行系統図(路線図)も、各サイトで提供されている。内容や取得方法は、本ブログ「フランスの鉄道地図 III-ウェブ版」を参照されたい。

★本ブログ内の関連記事
 フランスの鉄道地図 I-IGN刊行図
 フランスの鉄道地図 II-テリトワール社
 フランスの鉄道地図 III-ウェブ版
 フランスの鉄道地図 IV-ウェブ版
 フランスの鉄道地図 V-テリトワール社新刊
 フランスの鉄道地図 VI-シュヴェーアス+ヴァル社

 ベルギーの鉄道時刻表
 ルクセンブルクの鉄道時刻表
 ドイツの鉄道時刻表
 スイスの鉄道時刻表

2021年2月21日 (日)

フランスの保存・観光鉄道リスト-南部編

フランス南部(およそ北緯46度以南)の保存鉄道・観光鉄道リストができあがった。例によって、スペクタクルなルートを走る普通路線や大規模な鉄橋も含めたので、件数は北部編を上回る。その理由は、北部に比べて様相の異なる南部の地勢にあると思う。

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オー・ケルシー観光鉄道
ミランドルの断崖からの眺め(2015年)
Photo by Lieutenant Crowe at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

北部は概して丘陵地だ。東に行くにつれ次第に標高が上がっていくものの、山地は東部のヴォージュ Vosges かスイス国境のジュラ Jura 地方にしかない。対照的に南部は、西岸と南西の内陸に平野や丘陵地が広がるものの、他は山がちだ。中央にその名どおりの中央高地 Massif Central がどっしりと横たわり、南のピレネー Pyrénées、東のアルプス Alpes が衝立のように立ち塞がる。鉄道の建設と運行にとっては大きな障壁だが、その分、車窓はすこぶる変化に富んだものになる。

南部にはどのような鉄道があるのか、リストの中からいくつかピックアップしてみよう。

「保存・観光鉄道リスト-フランス南部」
http://map.on.coocan.jp/rail/rail_frances.html

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「保存・観光鉄道リスト-フランス南部」画面

項番1:サン・トロジャン軽便鉄道 P'tit train de Saint-Trojan
項番4:フェレ岬軽便鉄道 Tramway du Cap-Ferret

項番1から4までは大西洋岸かその近くにある観光鉄道だ。西岸には砂浜が200kmも続いていて、点在するビーチリゾート(仏語でプラージュ Plage)に、実用とアトラクションを兼ねたプチ・トラン(小列車)が走っている。

一つは、オレロン島 Île d'Oléron のサン・トロジャン軽便鉄道だ。波静かな内海に面したサン・トロジャン・レ・バン St-Trojan-les-Bains の町裏に乗り場がある。軌間600mmの線路が松林の中を岬に向かって延び、ガッゾー Gatseau、モーミュッソン Maumusson の2か所のビーチへの足となっている。岬周辺は車の乗入れができないので、特に後者は、列車でしか行けないビーチだ。

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サン・トロジャン軽便鉄道
ガッゾービーチ付近(2013年)
Photo by Mutichou at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

フェレ岬軽便鉄道も状況は似ていて、集落や港のあるのは、アルカション湾 Bassin d'Arcachon、すなわち内湾側にあるベリゼール Bélisaire だ。大西洋側のビーチまでは2km弱あり、船で港へ着いた行楽客にとって、鉄道が便利な交通手段になっている。のんびりとトロッコ列車に揺られて海水浴に行けるとは、まことにうらやましい。

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フェレ岬軽便鉄道
ビーチ前に到着(2013年)
Photo by Echtner at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

項番8:オー・ケルシー観光鉄道 Chemin de fer touristique du Haut Quercy
項番30:セヴェンヌ蒸気鉄道 Train à vapeur des Cévennes

保存鉄道はたいてい季節運行だ。冬はクリスマスなどの特別運行を除いて休業し、気候が良くなる5~6月からが活動期になる。中でも7~8月のバカンスシーズンは書き入れ時で、どの路線も繁忙期と位置付けてフルサービスを実施する。この期間に曜日を問わず毎日運転するか、あるいは週末のみかで、その鉄道の人気度も推測できる。

標準軌の蒸気機関車を走らせている鉄道のうち、この2本は繁忙期に毎日運行している。人気の理由は何なのだろうか。

オー・ケルシー観光鉄道は、片道6.5kmと短距離ながら、乗客限定の印象的な光景を売りにしている。それは、起点マルテル Martel 駅から2本目のトンネルを抜けたところにある展望台だ。ミランドルの断崖 Falaise de Mirandol をうがった比高80mの高台で、ドルドーニュ川 La Dordogne が流れる緑の渓谷が一望になる(冒頭写真参照。グーグルマップでは Moulin de Briance(ブリアンスの風車小屋)のピンが立てられている地点)。そこまではトンネルと掘割が続くだけに、車窓の展開は劇的で、列車はしばらく停車し、乗客に眺めを愛でる時間を提供する。

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オー・ケルシー観光鉄道
マルテル駅の機関庫(2015年)
Photo by kitmasterbloke at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

セヴェンヌ蒸気鉄道もまた、渓谷探索列車の性格を持っている。起点は、セヴェンヌの門 Porte des Cévennes と呼ばれる断崖を背にしたアンデューズ Anduze の町だ。列車はこの天然の門、すなわち山地への入口をトンネルで貫いた後、ゴルドン川(正確にはアンデューズのゴルドン川 Le Gordon d'Anduze)の渓谷をゆっくりと遡る。特に前半は高架橋やトンネルが繰り返し現れ、車窓の変化に事欠かない。

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セヴェンヌ蒸気鉄道
ゴルドン川渓谷を行く(2013年)
Photo by Okki at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

項番14: AGRIVAP レ・トラン・ド・ラ・デクヴェルト(発見列車)AGRIVAP Les trains de la découverte
項番15: オー・フォレ鉄道 Chemin de fer du Haut Forez

フランスではかつて、ルノー Renault 社製のユニークな気動車(オートライユ autorail)が活躍していた。セヴェンヌ線(項番12)やアルプ線(項番23)の花形急行列車に使われたパノラマカー X4200形や、運転台が屋根から突き出した異様な容貌から、シュルレアリスムの画家ピカソ Picasso の名で呼ばれる X3800形などだ。こうした名物車両は今も根強い人気があり、蒸気運転を導入していない保存鉄道ではたいてい主役の座についている。

AGRIVAPは、オーヴェルニュ Auvergne 中央部にある旧線で、その貴重なパノラマカーを動態保存する。本来の走行路線ではないものの、同じような標高1000m級の高原地帯を行くので、現役時代を想い起こすには十分だ。それに加えて、終点の村ラ・シェーズ・デュー La Chaise-Dieu には中世の修道院建築が残っている。帰りの列車時刻まで自由見学できるのもうれしい。

*注 AGRIVAP はもともと蒸気動力の農業機械 matériel agricole à vapeur の保存公開を目的に設置された協会組織で、名称もそれに由来する。

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パノラマカーX4200形(2007年)
Photo by Pedelecs at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

一方、ピカソ形気動車は量産されたので、各地の保存鉄道で見ることができる。AGRIVAP も所有しているし、近隣のオー・フォレ鉄道もそうだ。エスティヴァレイユ Estivareilles~ラ・シェーズ・デュー間を走る後者は、地元自治体が観光振興を目的に所有し、非営利団体が委託を受けて運行している。おもしろいことに、2本の保存鉄道の間で発着時刻が調整されており、ラ・シェーズ・デューで相互乗換えが可能だ。

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オー・フォレ鉄道のピカソ形気動車(2009年)
Photo by X2426 at wikimedia.
 

項番16:ヴレー急行 Velay Express
項番17:ヴィヴァレー鉄道 Chemin de Fer du Vivarais

19世紀後半、公共事業大臣シャルル・ド・フレシネ Charles de Freycinet のいわゆるフレシネ計画 Plan Freycinet により、全土で8800kmの鉄道路線網の整備が進められた。これらはすべて地方路線で、需要がさほど見込めないことから、規格を落として建設されたものが多い。

メーターゲージの蒸気保存鉄道であるヴレー急行とヴィヴァレー鉄道も例外ではない。前者は高原、後者は渓谷が舞台だが、もとはどちらもCFD社(下注)のヴィヴァレー路線網 Réseau du Vivarais に属し、ル・シェラール Le Cheylard 経由で路線がつながっていた。地形図には廃線跡が明瞭に描かれている。

*注:CFD、正式名称 県鉄道会社 Compagnie de chemins de fer départementaux は、「県営」ではなく、各地の地方鉄道網を運営していた民間会社。

ヴレー急行は、標高1000m前後のヴレー高原 Plateau du Velay を走ることからこの名があるが、旧名のヴァレー鉄道 Voies Ferrées du Valais のほうが通りがいいかもしれない。1970年の開業以来、運行区間は、標準軌線(すでに廃止)との接続駅デュニエール Dunières とサンタグレーヴ Saint-Agrève の間だった。しかし2015年に現在のロクール・ブロセット Raucoules-Brossette 以南に短縮され、同時に新たな車庫・整備工場が整備されている。

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ヴレー急行
モンフォーコン Montfaucon 駅にて(2011年)
Photo by Didier Duforest at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

一方、ヴィヴァレー鉄道は、トラン・ド・ラルデーシュ(アルデーシュの列車)Train de l'Ardèche と称する。終始ローヌ川支流のドゥー川 Le Doux の谷間を走る路線だが、こちらも区間短縮を経験済みだ。以前はトゥルノン Tournon の旧SNCF駅(下注)が起点で、2.2kmの間3線軌条で標準軌線と共有していた。ところが資金難により、2008年から全線で運行ができなくなった。ようやく2013年に再開したものの、運営経費を縮減するために、線路使用料が必要な共有区間の走行を断念したのだ。

標準軌線(ローヌ右岸線 Ligne de la rive droite du Rhône)では1973年から旅客列車が走っておらず、トゥルノン駅で乗換える客がいたわけではない。それで起点をここに維持し続ける必然性はなかった。以来、列車は、専用線上にあるトゥルノン・サン・ジャン Tournon-Saint-Jean 駅から出発している。

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ヴィヴァレー鉄道
コロンビエ・ル・ヴュー Colombier le Vieux 駅のマレー式414号機
(2018年)
Photo by Peter_Glyn at wikimedia. License: CC0 1.0
 

項番11:パノラミック・デ・ドーム Panoramique des Dômes
項番25:トラムウェー・デュ・モン・ブラン(モン・ブラン軌道)Tramway du Mont-Blanc
項番26:モンタンヴェール鉄道 Chemin de fer du Montenvers
項番31:ラ・リューヌ軽便鉄道 Petit Train de la Rhune

フランス国内に残っているラック式登山鉄道は、すべて南部編のエリアにある。ここに掲げた4路線はいずれも電気運転で、ラック方式は平底レールの踏面に歯を加工したシュトループ Strub 式だ(下注)。

*注 このほかリヨン・メトロC線の一部に、索道(ケーブルカー)から転換されたフォン・ロール式のラックレール区間がある。

このうち、パノラミック・デ・ドームは2012年に開業したばかりの新路線だ。中央高地のピュイ・ド・ドーム Puy de Dôme 山頂に上っていた自動車道が、そのまま鉄道に転換された。車で来た旅行者も山麓の駐車場にそれを置いて、電車を利用する必要がある。観光分野におけるモーダルシフトの実践例で、富士山登山鉄道のモデルになるかもしれない。

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パノラミック・デ・ドーム
ピュイ・ド・ドーム山頂付近(2015年)
Photo by Calips at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

トラムウェー・デュ・モン・ブランとモンタンヴェール鉄道は、いずれもアルプス最高峰モン・ブラン Mont Blanc の周辺で、氷河の眺望を売りにしている。一帯の観光施設も併せてモン・ブラン社 Compagnie du Mont-Blanc という企業が運営していて、ウェブサイトが共通なのはそのためだ。前者はトラムウェーと名乗るだけあって、起点駅から少しの間、道路上の併用軌道を進む。終点は鉄道で到達できるフランスの最高地点だが、駅舎どころか、線路の終端の車止めすらない。

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トラムウェー・デュ・モン・ブラン
ニ・デーグル Nid d'Aigle の終点で途切れる線路(2019年)
Photo by Florian Pépellin at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

ラ・リューヌ軽便鉄道は1924年開業の登山鉄道で、ピレネー山脈西端近くにあるラ・リューヌ山に上っていく。山頂は標高わずか900mに過ぎないが、大西洋を見晴らす展望台として人気のスポットだ。電化方式は低電圧の三相交流(3000V 50Hz)で、開通した時代を感じさせる(下注)。

*注 三相交流は初期の電化方式の一つで、スイスのユングフラウ鉄道 Jungfraubahn などにも残っている。

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ラ・リューヌ軽便鉄道
大西洋を見晴らす山上駅
Photo by Smiley.toerist at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

項番10:ル・カピュサン・ケーブルカー Funiculaire du Capucin
項番33:ピック・デュ・ジェール・ケーブルカー Funiculaire du Pic du Jer
項番21:サンティレール・デュ・トゥヴェ・ケーブルカー Funiculaire de Saint-Hilaire-du-Touvet

登山鉄道の一環で、クラシックな外観を保つケーブルカーもいくつか挙げた。

ル・カピュサン・ケーブルカーは、オーヴェルニュの温泉町モン・ドール Mont-Dore にあり、1898年に開業した。電気運転のケーブルカーではフランスで最も古い。方や、ピック・デュ・ジェール・ケーブルカーは、カトリックの主要巡礼地ルルド Lourdes の郊外にある山で1900年から動いている。どちらも古参の索道で、著名な観光地近くの見晴らし台に上っていく点が共通している。

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ピック・デュ・ジェール・ケーブルカーの山麓駅舎
Photo by Père Igor at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

対するサンティレール・デュ・トゥヴェ・ケーブルカーは、高地の療養所への交通手段として造られたもので、谷底と、断崖の上に載るプティット・ロッシュ高原 Plateau des Petites Roches を結んでいる。830‰と世界有数の急勾配で、わが国で最も急な高尾山ケーブルカーの608‰と比べても、険しさが際立つ。その分、イゼール川 L'Isère の谷を見下ろす車窓風景はすばらしく、ぜひ車端のオープンデッキに出て楽しみたい。

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サンティレール・デュ・トゥヴェ・ケーブルカー
急勾配を上る車両
Photo by Ragnhild&Neil Crawford at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

項番24:SNCF サン・ジェルヴェ・レ・バン・ル・ファイエ=ヴァロルシーヌ線 
Ligne de Saint-Gervais-les-Bains-Le Fayet à Vallorcine
項番35:ル・トラン・ジョーヌ(黄列車、SNCFセルダーニュ線)Le Train Jaune (Ligne de Cerdagne)

サン・ジェルヴェ・レ・バン・ル・ファイエ=ヴァロルシーヌ線(以下、シャモニー線)がアルプスのシャモニー谷 Vallée de Chamonix を貫くのに対し、ル・トラン・ジョーヌ(以下、セルダーニュ線)はピレネーのセルダーニュ高原 Plateau de Cerdagne を越えていく。二者は東西に遠く離れた位置関係にあるが、実は双子のように共通項が多い。すなわち、

・メーターゲージ(1000mm軌間)である
・直流電化かつ給電用レールから集電する第三軌条方式(電圧は前者800V、後者850V)である
・急勾配を粘着運転する(最急勾配は前者90‰、後者60‰)
・終点が国境に接近している(前者はスイス側と直結、後者はスペイン国境駅が終点)
・SNCFが直営する

さらに、沿線人口が多くないため、分類としては一般路線ながら、観光客輸送に軸足を置いている点も同じだ。

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シャモニー線
レズーシュ Les Houches 駅にて
Photo by Florian Pépellin at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

歴史的にはシャモニー線が先輩で、パリ=リヨン=地中海鉄道会社 Compagnie des chemins de fer de Paris à Lyon et à la Méditerranée (PLM) の手で1901~1908年に開業した。セルダーニュ線は、ミディ(南部)鉄道会社 Compagnie des chemins de fer du Midi が1910年以降に建設した路線だ。

その設計にあたって、地形的な共通点などから、先行するシャモニー線の技術仕様が参考とされたのは確かだろう。しかし、沿線にはセジュルネ橋やカッサーニュ橋といった独自のシンボリックな橋梁があり、ミディ社の担当技師の、単なる模倣を超えようとする強い主張のようなものも感じられる。

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セルダーニュ線
セジュルネ橋を渡る黄列車
Photo by Thierry Llansades at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

ここに挙げたもののほかにも、標準軌の山岳路線であるセヴェンヌ線(項番12)やタンド線(項番39)、メーターゲージ山岳路線のプロヴァンス鉄道(項番37)やコルシカ鉄道(項番40)、さらには、ロープウェーと山上鉄道を乗り継ぐアルトゥスト軽便鉄道 Petit Train d'Artouste(項番32)など、南部には興味深い路線が目白押しだ。現地に行くのは難しくとも、地図や写真・動画でフランスの鉄道旅を楽しんでいただきたい。

★本ブログ内の関連記事
 フランスの保存・観光鉄道リスト-北部編

 スイスの保存・観光鉄道リスト-北部編
 スイスの保存・観光鉄道リスト-南部編 I
 スイスの保存・観光鉄道リスト-南部編 II
 オーストリアの保存・観光鉄道リスト

2021年2月 8日 (月)

フランスの保存・観光鉄道リスト-北部編

一般運行から引退した機関車や客車を保存・整備し、休廃止された路線などを利用して走らせる活動を「保存鉄道 Heritage railway」と呼ぶ。熱心なボランティアが運営全般に携わり、活動資金の多くを支えているのも篤志家の寄付だ。観光イベントとしても人気があり、コアなファンだけでなく一般市民も多数訪れる。

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ソンム湾鉄道の蒸気列車
サン・ヴァルリー・ヴィル St-Valery Ville 駅にて(2016年)
Photo by Didier Duforest at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

こうした保存鉄道はイギリスが中心だと思われていて、メディアで紹介されるのもたいていイングランドかウェールズの蒸機運行だ。確かに鉄道発祥の地であり、アンティーク好きな国民性からしてもイメージが合致するのだが、もとよりこれはイギリスの専売特許ではない。

先ごろ、フランスの鉄道遺産をまとめた「鉄道観光ガイド Guide du tourisme ferroviaire」(Sélection du Reader's Digest, 2005) という本を読んで、フランスにも多数の保存鉄道・観光鉄道が存在していることを知った。そこで、運営団体の公式サイトその他の資料も参考にしながら、HP「官製地図を求めて」の中にある一コーナーに、これらの鉄道を紹介するページを加えようと考えた。

純粋な保存鉄道にとどまらず、スペクタクルなルートを走る普通路線や登山鉄道、大規模な鉄橋などにも網を広げたので、取り上げた項目は全部で80か所にもなる(下注)。とりあえず北部編(およそ北緯46度以北)をアップしたので、ご覧いただければ幸いだ。

*注 「鉄道観光ガイド」にはこのほか、軌道自転車で走れる休止線も多数紹介されているが、当ページは列車に乗れるものに絞っている。

「保存・観光鉄道リスト-フランス北部」
http://map.on.coocan.jp/rail/rail_francen.html

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「保存・観光鉄道リスト-フランス北部」画面
 

このコーナーはもともと、鉄道のルートが載っている地形図の図番一覧表だった。作成した2005年ごろ(16年前!)はまだ使いやすい地形図サイトが少なく、印刷図が貴重な情報源だったからだ。しかし昨今では形勢が全く逆転し、むしろ紙の地形図のほうが入手困難になりつつある。

そのため、フランス編では方針を変更して、グーグルマップと、IGN(フランス国土地理院)が開設する地形図サイトにリンクするようにした。「地図」欄の「Google」「IGN」の文字をクリック/タップすると、鉄道の起点駅または拠点駅の位置が表示される。

グーグルマップは、ルート検索や周辺の施設情報など、特定の地点とそこへのアクセスに関する情報を調べるのに適した地図サイトだ。しかし、地形や鉄道のルートに関しては、必ずしも満足のいく情報が得られるとはいえない。その点、IGNサイトで表示されるのはまさに地形図で、かつ保存鉄道のルートが注記や赤紫のマーカーで強調されており、沿線風景を把握するのに威力を発揮する(下注)。

*注 IGN地形図サイトの操作方法は、本ブログ「地形図を見るサイト-フランス」で解説している。

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IGN地形図サイトでの観光鉄道の表示例
(上)鉄道記号に Ligne touristique(観光鉄道)の注記
  旅客扱いする駅は赤で塗られる
(下)より大縮尺の図では、鉄道記号に赤紫のマーカーが重ねられる
  Train touristique は観光列車の意
© 2021 IGN
 

なお、IGN地形図を最初に表示したときに、下図のような薄暗い画面が出てくる場合があるが、これは操作機能の説明画面だ。画面上の任意の場所をクリック/タップすれば、明るさが戻る。

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薄暗い画面になるときは
画面上をクリック/タップする
© 2021 IGN
 

また、「写真」欄の「Wmedia」は、ウィキメディアにその鉄道に関するカテゴリが設定されている場合のリンクだ。駅舎や保有車両などさまざまな画像が集められているので、文字情報にはない臨場感が得られるのではないだろうか。

では、北部編で特に興味を引かれた鉄道をいくつか挙げておこう。

項番1:ドゥール谷観光路面軌道 Tramway touristique de la vallée de la Deûle

路面電車ファンなら心踊る、フランスではおそらく唯一の、トラム(路面電車)車両を専門とする保存鉄道だ。リール市内および郊外の路面軌道で使われていたクラシックスタイルの車両を保有し、休日などに運行している。

走行ルートも魅力的で、閉じられた敷地を循環するのではなく、ドゥール運河 Canal de la Deûle の右岸に造られたかつての曳舟道 Chemin de halage(英語ではトウパス Towpath)に沿う約3kmを行く。のどかな運河べりの風景を背にして走る電車は、かつてヨーロッパ各地の田園地帯で見られた郊外軌道の情景を再現しているようだ。

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ワンブルシーを走る古典トラム(2008年)
Photo by Velvet at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

項番3:ソンム湾鉄道 Chemin de fer de la baie de Somme

フランスにある蒸気保存鉄道のなかで最も知られたものの一つだろう。舞台のソンム湾(下注)は英仏海峡に面し、地形的に見れば、ソンム Somme 川の河口に広がる三角江(エスチュアリーまたはエスチュエリー)だ。満潮時には海水で満たされるが、潮が引くと見渡す限りの干潟に変わる。列車は、SNCFとの接続駅ノワイエル Noyelles とサン・ヴァルリー St-Valery の間、この広大な汽水域に築かれた堤の上を走っていく。

*注 「ソンムの戦い」のように、日本語では「ソンム Somme」と言い慣わされているが、実際の発音は「ソム」が近い。

さらにこの路線では、SNCF線の貨物列車がサン・ヴァルリーの港まで乗り入れていた。それで線路は、標準軌の間に1000mm軌(メーターゲージ)を入れ子にした珍しい4線軌条だ。これも大いに注目したい。

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汽水域の築堤上をサン・ヴァルリーに向かう蒸気列車(2009年)
Photo by P.poschadel at wikimedia. License: CC BY 2.0
 

項番5:オート・ソンム軽便鉄道 P'tit Train de la Haute Somme

これは、ソンム川を河口から約100km遡ったところにある600m軌間の軽便鉄道だ。第一次世界大戦中に軍用鉄道として敷設され、戦後はドンピエール Dompierre にあった製糖工場からソンム運河 Canal de la Somme へ貨物を輸送するのに使われていた。

乗り場は運河のそばで、出発からしばらくはそれに沿って進む。しかし、目的地は比高40mの台地の上なので、トンネルを抜けた後、Z字のスイッチバックで一気に上りきる。スイッチバックは列車をそのつど停止させてポイントを切り替えなければならず、運行の効率はよくない。応急的に造った路線ならではの高度克服法なのだが、今やそれがこの軽便鉄道の価値を高めている。

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スイッチバック区間を走行する蒸気列車(2014年)
Photo by Manfred Kopka at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番13:アブレッシュヴィレル森林鉄道 Chemin de fer forestier d'Abreschviller

アブレッシュヴィレル Abreschviller は、フランス東部、ヴォージュ山地 Massif des Vosges の西斜面に立地する町だ。一帯はかつて林業が盛んで、木材の搬出のために、ドイツ時代の1880年代から森林鉄道網が築かれていった。軌間は700mmで、プロイセンの軍用鉄道で使われていた規格だ。

伐採事業は1960年代に中止され、それに伴い、鉄道施設もほとんど撤去されてしまった。今ではこの観光列車が走る区間とその前後しか線路が残っておらず、貴重な遺構になっている。客車はすっかり遊覧仕様だが、ほの暗い森に分け入っていく簡易軌道には、何かしら高揚感を覚える。

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サール・ルージュ川に沿って山を下りる観光列車(2007年)
Photo by Torsade de Pointes at wikimedia.
 

項番14:ライン川観光鉄道 Chemin de fer touristique du Rhin

保存鉄道は往復乗車が基本になる。しかし、単に行って帰るだけでは変化がないので、終点あるいは途中の駅で、マーケットや施設見学といったイベントが催されることもしばしばだ。さらに、片道を別の交通手段にすることで、集客を図る鉄道も見られる。

ライン川観光鉄道は、ヴォーバンの要塞都市ヌフ・ブリサック Neuf-Brisach の東側から出発する。すぐに左に折れ、後はライン川に沿って走るが、川本体が見える区間はわずかだ。それで船会社と提携することで、復路で観光船の旅も選べるようにしている。ラインの船旅といっても、このあたりは平地で、山並みも古城も見えないのだが、視点が変わればいい気分転換になるだろう。

片道を軌道自転車で走るエトルタ=ペイ・ド・コー観光鉄道(項番10)も同じような例だ。

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蒸機030T形の重連運転
フォルゲルサイム駅にて(2008年)
Photo by DEUTZ159 at wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

項番16:トリュー蒸気鉄道 Vapeur du Trieux

ブルターニュ半島の海岸線は複雑で、丘陵地を刻んだ谷に海水が侵入して、三角江を形成している。同じ三角江でもソンム湾(項番2)とは様相が異なり、丘と丘の間に細く深く湾が入り込むイメージだ。

この鉄道はトリュー Trieux 川の谷の、そうした湾入の縁をなぞるように蒸気列車で通過していく。標準軌ながら急カーブが続出し、まるで軽便線のようなルートなので、速度も控えめだ。三角江の風光を堪能できるのは、ポントリュー Pontrieux 行きが右車窓、パンポル Paimpol 行きは左車窓になる。

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トリュー川の三角江
線路の対岸からの眺め
Photo by Colsu at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番29:レ・コンブ鉄道 Train des Combes

1981年のTGVパリ~リヨン間開業当時、唯一の中間停車駅だったのが、ル・クルーゾ Le Creusot だ。最初は利用者が伸び悩んだというから、1990年に在来線のル・クルーゾ駅近くで開業したパルク・デ・コンブ(コンブ公園)Parc des Combes も、需要喚起策の一つなのだろう。

郊外の山をまるごと開発したこの山上遊園地で、園内を周回しているのがトラン・デ・コンブ(レ・コンブ鉄道)Train des Combes だ。遊園地の遊具といえばそれまでだが、山腹に降りてトンネルやヘアピンカーブを繰り返すなど、どこかインドのマテラン(マーテーラーン)鉄道を彷彿とさせる。

1999年には、在来線のル・クルーゾ駅前まで線路が延伸され、二つ谷鉄道 Train des deux vallées の名がつけられた。公園の山が二つの谷に挟まれているのが由来だと想像するが、残念なことに最近、運行休止になってしまった。

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SNCF線に隣接する
レ・コンブ鉄道のル・クルーゾ駅(2019年)
Photo by Andrzej Otrębski at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

項番32:SNCF イロンデル(燕)線 Ligne des hirondelles

イロンデル線という名称はSNCFの登録商標だそうだ。モレ Morez にある、ツバメが飛ぶ軌跡のような巧妙な線形から名づけられた。路線は本来、ドル Dolle やブザンソン Besançon とジュラ南部を結ぶ普通鉄道なのだが、ジュラ山地を行くあまたの鉄道の中でも観光要素が強い。

サミットのラ・サヴィーヌトンネル Tunnel de la Savine を抜けた時点で、線路の標高は約900mだ。ところがモレ駅は736m(それでも町から40mほど上にある)で、差が160mを超える。ループ線形は、勾配を25~30‰に抑えながらこの高度差を克服するために考案された。

写真の上部に写っているレ・クロット高架橋 Viaduc des Crottes はまるで空中回廊だ。下から見上げるのもすばらしいが、橋を渡る列車から俯瞰するモレの谷もさぞかし絶景だろう。

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モレの高架橋を行く気動車(2010年)
Photo by Nadege Bonnet Mathieu at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0

次回は、南部編のあらましを紹介する。

 

【付記】鉄道名の和訳について

フランス語では鉄道のことを「chemin de fer(シュマン・ド・フェール、鉄の道の意)」という。観光鉄道の名称にはこのほか、小列車を意味する「petit train(プティ・トラン)」や、観光列車を意味する「train touristique(トラン・トゥーリスティック)」も好んで使われる。

しかし、日本語では「~列車」が鉄道名になることは稀であり、和訳としてなじみにくい。そう考えて、保存鉄道リストでは敢えて直訳せず、petit train を「軽便鉄道」、train touristique を「観光鉄道」と読み換えている。

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 フランスの保存・観光鉄道リスト-南部編

 スイスの保存・観光鉄道リスト-北部編
 スイスの保存・観光鉄道リスト-南部編 I
 スイスの保存・観光鉄道リスト-南部編 II
 オーストリアの保存・観光鉄道リスト

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