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2020年8月 3日 (月)

モンセラット登山鉄道 II-新線開通

1957年の旧 登山鉄道の廃止によって、モンセラット修道院に到達するルートは、既存のロープウェーに乗るか、つづら折りの山岳道路を車で上るかの二択になった。とはいえ、ロープウェーの輸送能力は1時間当たり350人にとどまり、方や車道も、修道院前で行き止まりとなる片側1車線の一本道だ。

案の定、山上の沿道に設けられた駐車場は満車になりがちで、出入りと空き探しの車により、しばしば渋滞した。登山鉄道を代行する路線バスもそれに否応なく巻き込まれて、運行に支障をきたすことになる。さらに、道路や駐車場は自然公園区域内にあるため、環境保護の観点からも問題視された。

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モンセラットの山腹を上るラック電車
 

カタルーニャ州政府は、公共交通機関を再建する必要性を認識していた。2本目のロープウェーやケーブルカーの新設案もあったが、それと比較してラック式鉄道は、輸送能力の高さや旧線跡が利用できるという点で有利だ。整備計画が1989年に公表され、細部を見直しのうえ、1999年10月に最終決定を見た。

そして2001年7月に着工、2年弱の工期を経て、2003年6月11日に新しいモンセラット登山鉄道はめでたく開業したのだ。実に46年ぶりの復活だった。では、21世紀生まれの新路線は、旧路線と何が同じで、何が違うのだろうか。

旧線は非電化で、小型の蒸気機関車が客車2両を押していたが、新線は電車で運行される。この点は大きく異なる。しかし、軌間1000mm、アプト式ラックという線路の仕様は同じだ。

ちなみに新線はFGC(カタルーニャ公営鉄道 Ferrocarrils de la Generalitat de Catalunya)により運行され、接続するFGCの狭軌線(下注)と軌間、電圧を共通化してある。このため登山鉄道の電車をFGC線のマルトレイ・エンリャス Martorell Enllaç にある車庫・整備工場へ回送したり、FGC線の電車を登山鉄道の粘着式区間に(モニストロル・ビラ Monistrol-Vila 駅まで)乗り入れることが可能になっている。

*注 リョブレガト=アノイア線 Línia Llobregat-Anoia。

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(左)新線を走るシュタッドラー GTW 2/6形
(右)部分低床の車内
 

次に路線の起終点はどうか。起点は変更されたが、終点は同じ位置だ(下図参照)。前回紹介したように旧線は、この地域で初めて開通した広軌線の駅と修道院を結ぶのが目的だったので、起点はそこに置かれた。現在モンセラットへの主なアクセス路線となっているFGCの狭軌線は、後になってできた路線だ。

新線は広軌線とは接続せず、対FGC線でも、かつての接続駅(後に廃止)ではなく、一駅バルセロナ寄りのモニストロル・デ・モンセラット Monistrol de Montserrat(旧駅名 モニストロル・セントラル Monistrol Central)に起点を定めた。このため、当駅からモニストロル・ビラ駅までの区間はまったくの新設になった。

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旧線と新線のルート
 

その先はほぼ旧線跡をたどるが、一か所だけ、モンセラットへ上る車道と交わる地点の前後は移設された。旧線は踏切だったが、新線では立体交差させる必要があったためだ。また、終点モンセラット駅は、旧線廃止後、駅用地が契約に基づき修道院に返還されていたので、再使用に当たってホームを地下式とし、広場の直下に建設した。

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モンセラット駅地下ホームへの入線
 

開業新線の主な目的は、モンセラット訪問者の経路を分散させて、道路の混雑を緩和することだ。これを実現するには、ふだん車で旅行する人にも電車を使ってもらわなければならない。そこで、モニストロル・ビラ駅の周りに、幹線道からすぐに入れて、乗用車1000台、大型バス70台を収容できる無料の大駐車場が造成された。

修道院一帯が自動車通行禁止になったわけではないが、山上の駐車場は有料で、収容台数も限られている。麓を通る幹線道には、各駐車場の空き状況を示す電光掲示板が設置され、山上まで車で行くか、麓でパーク・アンド・ライドするかをドライバーが判断できるようにしている。

では、モンセラットに向けて列車で旅に出るとしよう。出発地は、バルセロナ市内、プラサ・エスパーニャ(スペイン広場)Plaça Espanya の地下にあるFGCの狭軌線ターミナルだ。登山鉄道の乗換駅まで、R5 または R50系統マンレザ Manresa 行きの電車で65分。朱色のアクセントカラーをまとう213系が、平日は1時間に1~2本、休日は毎時1本(朝は2本)走っている。

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(左)プラサ・エスパーニャ駅の213系
(右)券売機でモンセラット連絡切符を買う
 

乗車券は個別に買ってもいいが、狭軌線+登山鉄道のモンセラット連絡切符 combined ticket(片道または往復)が便利だ。同じように、狭軌線+ロープウェー(英語では cable car)の連絡切符、さらに山上のケーブルカー(英語では funicular)や博物館でも使えるオールインワンの切符も売られている。

いずれも券売機やホーム前の窓口で入手できるが、注意すべきは、購入後のルート変更(登山鉄道をロープウェーに、またはその逆)ができないことだ。これは、ロープウェーがFGCの運営でないためだ。登山鉄道とロープウェーは狭軌線の降車駅も違うので、よく確かめてから購入したい。

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モンセラット登山鉄道と関係路線のルートを1:50,000地形図に加筆
Map derived from Atles topogràfic de Catalunya 1:50 000 of the Institut Cartogràfic i Geològic de Catalunya (ICGC), License: CC BY-SA 4.0

電車は地上に出ると、リョブレガト川 el Llobregat の谷筋を遡っていく。といっても、渓谷らしくなるのは最後の10分ほどに過ぎない。左の車窓、進行方向に観光写真で見覚えのある突兀とした岩山が現れると、まもなくアエリ・デ・モンセラット Aeri de Montserrat の急カーブしたホームに停車する。駅名が示すとおり、モンセラット修道院に上るロープウェー「アエリ・デ・モンセラット」の乗換駅だ。このほうが速く着けるので(ロープウェーの待ち行列の長さにもよるが)、降車客が多い。

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リョブレガト川の渓谷を行く
左奥にモンセラットが姿を現す
 

再び走り出し、トンネルを一つくぐると、目的のモニストロル・デ・モンセラットに到着だ。狭軌線は2面3線で、ホームは駅舎側から2、1、3番と付番されている。一方、登山鉄道の駅名はモニストロル・エンリャス(ジャンクションの意)Monistrol Enllaç で、電車は、2番ホームの駅舎寄りにある切り欠きの4番ホームに入る。

駅舎は、切妻白壁2階建ての小ぶりな建物だが、タイルの帯模様の間に「MONISTROL CENTRAL(モニストロル中央)」と旧称が残されているのが目を引く。駅名が二つあるだけでも紛らわしいのに、そのどちらでもない昔の名前が出ているわけで、土地不案内な者にはとまどいのもとだ。

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モニストロル・デ・モンセラット駅
(左)FGC線発着ホーム
(右)旧駅名が残る駅舎
 

モンセラット行きは8時台が始発だ。山から下りてきた列車が35分に入線し、40分ごろ(上下とも)到着のFGC線列車との間で乗客を交換し、48分に山へ向けて出発する。このパターンが1時間毎に繰り返される。山上までの所要時間は20分だ。

使われている車両は、スイス シュタッドラー・レール Stadler Rail 社のGTW 2/6形。部分低床の客車2両の間に短い駆動ユニット車が挟まった関節式と呼ばれるタイプで、新規開業時に5編成(AM1~5)が投入された。このときヌリア(下注)にも同形式の2編成(AM10~11)が入ったが、モンセラットの乗客増に対応するため、移籍されることになった。すでに1編成が塗色を緑に改めて、車列に加わったという。

*注 ピレネー山中を走るラック式登山鉄道。本ブログ「ヌリア登山鉄道-ピレネーの聖地へ」参照。

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モニストロル・ビラ駅に入る登山電車
Photo by The STB at wikimedia. License: CC BY-SA 4.0
 

登山電車はマンレザ方向に発車する。最初の1.1kmはごく緩い勾配で、ラックは使わない(=粘着式 adhesion)。すぐにトンネルを2本くぐる。1本目のモニストロルトンネル Túnel de Monistrol は狭軌線と共用で、もともと複線仕様で造られていたものを、片側だけラック線に転用した。2本目との間の短い明かり区間で、狭軌線は右へ去っていく。

2本目のラ・フォルダダトンネル Túnel de la Fordada(164m)は新たに掘られたものだ。その直後、列車はリョブレガト川のはるか上空に躍り出る。渡っていくセンテナリ(百年)橋梁 Pont del Centenari は長さ480m、高さも37mあり、新線最大の構造物だ。橋は対岸に渡りきってからも続き、旧線跡と幹線道路を一気にまたいで、モニストロル・ビラ Monistrol Vila 駅の高架ホームに接続している。

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センテナリ橋梁とラ・フォルダダトンネル
(モニストロル・ビラ側から撮影)
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センテナリ橋梁からの眺め
モニストロルの町とモンセラットの山並み
 

モニストロル・ビラでは4分ほど停車する。ここは路線で唯一の中間駅であるとともに、拠点駅の性格も併せ持っている。というのも、パーク・アンド・ライドの利用客のために、当駅始発の列車が1時間当たり閑散期に1本、繁忙期は2本挿入されるからだ。結果、繁忙期には山上駅との間が20分間隔の運行になる。通常は中央の島式ホームで乗降をさばくが、混雑時は、進行方向左にある片側ホームが降車専用に使われる。

なお、駅前の緑地には、旧線時代の駅舎と線路の断片が残されており、駅舎は鉄道の展示館として内部公開されている。また、駅前広場には、旧線を走ったラック蒸機4号機(1892年製)が、復元客車とともに置かれている。

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モニストロル・ビラ駅前広場の4号機と復元客車
 

これ以降、車窓はずっと進行方向左側に開ける。駅構内を出るとさっそく、最急勾配156‰のラック区間の始まりだ。右カーブしながら、切通しに続くごく短いトンネルを抜け、モンセラットに上る車道を、下路トラスの鉄橋でオーバークロスする。この辺りでは左前方の山上に、モンセラットの奇岩カヴァイ・ベルナト Cavall Bernat(1111m)が天空を刺す姿を捉えることができる。

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天空を刺すカヴァイ・ベルナト(中央の細長い岩山)
 

石造アーチのギリェウメス橋梁 Pont de les Guilleumes の手前から、延長420mの複線区間が始まる。下りてくる列車とは走りながら交換する。振り返れば、今通ってきた山腹の上に、聖ベネト修道院 Monestir de Sant Benet の塔が覗くだろう。

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複線区間で走りながらの列車交換
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山上に建つ聖ベネト修道院
 

左手には、リョブレガト川が流れる谷の壮大なパノラマが展開している。朱屋根に埋め尽くされたモニストロルの町が見え、ラック線のルートも起点駅からの一部始終を追うことができる。わずか数分でずいぶん高くまで上ってきたものだ。一方、右の山側は落石除けのネットが張り巡らされ、ものものしい雰囲気がある。礫岩の地層が風雨による侵食に抵抗して、急峻な崖を成しているからだ。

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車窓からのパノラマ
右が起点駅と駅前集落、
中央がモニストロルの町、その奥にセンテナリ橋梁
 

剥き出しの岩肌をうがったアポストルス(使徒)トンネル Túnel dels Apòstols が、路線最長かつ最後のトンネルになる。これを抜けると、あと少しの上りだ。ロープウェーの山上駅の前を通って、列車はモンセラット駅の地下ホームに滑り込む。

駅は、線路を両側からホームが挟む2面3線の構造だ。天井が低くやや圧迫感を覚えるが、ホームは70mの長さがあり、2編成を縦列に収容できる。奥のエスカレーターまたは階段を伝って表の広場に出れば、修道院の荘厳な建物群が目の前だ。

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モンセラット駅
(左)駅上の広場から山麓方向を見る
  奥の建物はロープウェーの山上駅
(右)列車が駅に到着
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モンセラット駅の地上入口
後ろの建物はケーブルカー乗り場
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モンセラット修道院
 

写真は別途クレジットを付したものを除き、2019年7月に現地を訪れた海外鉄道研究会の田村公一氏から提供を受けた。ご好意に心から感謝したい。

■参考サイト
モンセラット登山鉄道 https://www.cremallerademontserrat.cat/
モンセラット・ロープウェー https://aeridemontserrat.com/
Trens de Catalunya - Cremallera i Funiculars de Montserrat
http://www.trenscat.com/montserrat/

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