« ポルトの古典トラム I-概要 | トップページ | モンセラット・ラック鉄道 I-旧線時代 »

2020年7月20日 (月)

ポルトの古典トラム II-ルートを追って

前回概要を記したポルトのトラム(路面電車)について、車窓風景や沿線の見どころを追っていこう。

Blog_porto21
カイス・ダス・ペドラス Cais das Pedras の
旧道を行く1系統トラム
(写真はすべて2009年7月撮影)
Blog_porto_map2
青・赤・緑のラインがトラム、なお18・22系統の電停名は下図参照
灰色はポルト・メトロ(LRT)
旗竿記号はCP(ポルトガル鉄道)
"Funicular" はギンダイス・ケーブルカー
Blog_porto_map3
市街地を拡大
© OpenStreetMap contributors

1系統 パッセイオ・アレグレ Passeio Alegre ~インファンテ Infante

起点は河口側のパッセイオ・アレグレとされているが、観光客の視点に従って、中心街に近いインファンテから話を進める。

インファンテという地名は、15世紀に西アフリカを「発見」し、大航海時代の幕を開いたエンリケ航海王子 Infante Dom Henrique にちなむものだ。電停の近所、リベイラ Ribeira 地区に生家とされる「王子の家 Casa do Infante」がある。ポルト大聖堂 Sé do Porto の丘を仰ぐこの辺りはポルトの旧市街で、石畳の街路を多くの人が行き来している。

Blog_porto22
(左)丘の上に大聖堂付属司教館が見える
(右)リベイラ、ドウロ河岸のプロムナード
 

電停の北側はゴシック建築の聖フランシスコ教会 Igreja de São Francisco、南側は道路を隔ててドウロ川の川岸が迫る。この川は箱型の谷の中を流れていて、すぐ上手にドン・ルイス1世橋 Ponte de Dom Luís I が架かっている。ギュスターヴ・エッフェルの弟子が設計した長さ395m、高さ85mの壮大な2層アーチ橋だ。見上げる高さの上部デッキを、ポルト・メトロ Metro do Porto の黄帯の電車が渡っていく(下注)のを眺めるのも楽しい。

*注 2003年まで上層も通常の道路だったが、2005年のメトロD線開通により、上層はLRVと歩行者の専用路になっている。

Blog_porto23
ドン・ルイス1世橋を渡るポルト・メトロ
Blog_porto24
対岸セラ・ド・ピラール Serra do Pilar から見た
ドン・ルイス1世橋と旧市街リベイラ
 

さて、インファンテ電停の引上げ線の端にもレモンイエローのトラムがいるが、これは臨時の案内所、兼切符売り場だ。パッセイオ・アレグレ方から接近してきた1系統トラムがその手前に停車して、乗客を降ろした。それから運転士が外に出てきて、トロリーポールを反対側へ回す。

Blog_porto25
1系統の起点インファンテ
(左)トラム車両が案内所兼切符売り場に
(右)運行用トラムが到着
 

時刻になると停留所の位置まで移動し、新しい客を迎えた。ワンマン運転につき、運賃収受も運転士が行う。名物の川景色は、往路でもっぱら左車窓に展開するのだが、座席は両側ともけっこう埋まった。

Blog_porto26
(左)レトロ感あふれるダブルルーフの車内
(右)出発
 

出発すると、一路西へ向かう。軌道は本来複線で、車道上に敷設(=併用軌道)されていたが、観光鉄道化に際し、単線で山側に寄せられ、歩道と一体化された。これで車の通行が円滑になるとともに、電車も渋滞に巻き込まれることがなくなった。軌道と歩道をセットにするのは一見大胆な発想だが、トランジットモールの変形と思えば違和感はない。

並行する道路の左側に大きな建物が見える。現在は博物館と会議場に改装されているが、ここはかつてドウロ川からの荷上場に使われ、税関と貨物駅(下注)があった。川べりの駐車場が貨物駅のヤード跡で、本線のカンパニャン Campanhã 駅から貨物線が来ていたのだ(1888年開通)。木陰のアルファンデガ Alfândega(税関の意)電停では、逆方向のトラムと交換する。

*注 地図に Antigo Terminal Ferroviário da Alfândega(旧アルファンデガ鉄道ターミナル)と注記がある。

Blog_porto27
(左)軌道は歩道と一体化
  左は貨物駅跡、奥の建物は旧税関
(右)木陰のアルファンデガ電停
 

次のモンシーケ Monchique とカイス・ダス・ペドラス Cais das Pedras の電停間には、川岸を走っていた昔の風景を彷彿とさせる区間がある。車道を川の上に張り出させ、それによって軌道を旧道や護岸とともに残しているのだ。元の複線が単線化されてはいるものの、トラムの走る姿は、道の絶妙な曲がり具合とあいまって、絵になる光景だ。

Blog_porto28
カイス・ダス・ペドラス旧道区間
(左)単線化されたものの昔の風情を残す
(右)反対側から撮影
 

そこを過ぎると、右手から18系統の複線が合流して、トラム博物館前の電停に着く。以前はマッサレーロス Massarelos と称し、位置ももう少し手前(インファンテ寄り)だったが、博物館の正面に移設された。

トラム博物館 Museu do Carro Eléctrico は、STCP(ポルト公共輸送公社 Sociedade de Transportes Colectivos do Porto)が運営している鉄道博物館だ。かつてこの鉄道に電気を供給していた火力発電所跡の建物を利用して、1992年に開設された。館内には、馬車鉄道から電気鉄道、トロリーバスに至る多彩な歴史的車両が展示され、19~20世紀のポルトの公共交通史が概観できる。

■参考サイト
トラム博物館 https://www.museudocarroelectrico.pt/

Blog_porto29
トラム博物館
(左)正面
(右)内部に保存(一部復元)車両を展示
 

博物館前を出発すると、前方にドウロ川をまたぐ巨大アーチの道路橋、アラービダ橋が見えてくる。橋の真下のポンテ・ダ・アラービダ(アラービダ橋の意)Ponte da Arrábida 電停で、また逆方向のトラムと交換した。

オウロ Ouro あたりまで来ると、対岸がみるみる遠のいて、河口の川幅の広がりを実感する。フルヴィアル Fluvial からカンタレイラ Cantareira 電停にかけては、川岸との間が散策可能な公園にされ、野鳥の観察場所も作られている。

Blog_porto30
(左)アーチ橋の真下にあるポンテ・ダ・アラービダ電停
(右)カンタレイラ電停付近
 

小さな灯台施設のある岬を回りきったところが、終点のパッセイオ・アレグレ Passeio Alegreだ。ここはもう河口の町フォス Foz の一部で、緑濃い公園の中を7~8分も歩けば、大西洋の波が洗う広い砂浜に出られる。

本来の路線は、フォスから海岸線を北上して、カステロ・ド・ケイジョ Castelo do Queijo、ポルトの外港マトジーニョス Mattosinhos まで達していた。しかし、今では路上の軌道はすっかり撤去され、500番の路線バスが代走している(下注)。

*注 終点パッセイオ・アレグレ~マトジーニョス間、および起点のインファンテ~サン・ベント駅前間の延長計画があるものの、具体的な実現の見通しは立っていない。

Blog_porto31
終点パッセイオ・アレグレ
ポールを回して折り返しの準備
Blog_porto32
(左)電停案内板、当時は30分間隔の運行だった
(右)終点から先、街路に残されていた複線の軌道
  現在は撤去済
 

前回にも記したが、パッセイオ・アレグレからの帰路で、トラムが混雑している、あるいは乗車時間を節約したいという場合、この500番バスに乗ると、ポルトの中心部、サン・ベント駅 Estação de São Bento やリベルダーデ広場 Praça da Liberdade まで直通で戻れる。

18系統 マッサレーロス Massarelos(現 トラム博物館 Museu do Carro Eléctrico)~カルモ Carmo

18系統は、1系統のトラム博物館電停が起点だ。そこからカルモまで、ルートは観光客に人気の1系統と22系統を橋渡しする形に設定されている。ポルトの主要市街地が展開するのは、起伏の多い台地上だ。起終点間の標高差は約80mあり、トラムの行く手にはきつい上り坂が待ち構えている。

Blog_porto33
(左)マッサレーロス(現 トラム博物館)電停の18系統トラム
(右)左折して上り坂の併用区間に入る
 

出発すると、すぐに左折して1系統の軌道と別れる。そして複線のまま、道路上の併用区間に進入すし、その状態がエントレ・キンタス Entre Quintas 電停前まで続く。察するにこの区間は道幅が狭く、両側に建物も迫っており、1系統のように歩道側に寄せて単線化することができなかったようだ。言い換えれば、一般運行していた頃の姿が残された貴重な区間ということになる。

エントレ・キンタスでようやく軌道は単線になり、右側の歩道に移る。プラタナスのうるわしい木陰道で、右車窓にドウロ川が望める。距離は短いものの、写真映えのする区間だ。次のパラーシオ Palácio 電停には交換用の待避線があり、ついでに線路の位置は道路の左側に変わる。

Blog_porto34
(左)プラタナスの木陰道
(右)パラーシオ電停で道路の反対側に移る
  (後方を撮影)
Blog_porto35
右車窓からドウロ川が望める
 

飾り気のないレスタウラソン(復興)通り Rua da Restauração をさらに上ると、ヴィリアート Viriato 電停。上り勾配はここで収まる。線路の分岐が見えるが、行きは直進して、そのままコルドアリア庭園 Jardim da Cordoaria に入る。そして左折し、ポルト大学本部棟の横に設けられたカルモ電停に至る。

Blog_porto36
カルモに到着
 

一方、帰りは北回りの軌道を通る。カルモ教会前から聖アントニオ総合病院 Hospital Geral de Santo António の敷地を迂回し、先述の分岐でヴィリアート電停に戻っていく。

22系統 カルモ Carmo ~バターリャ Batalha(現 バターリャ・ギンダイス Batalha Guindais)循環

カルモ電停は、中心市街地の西の入口で、ポルト大学本部棟に接する広場に置かれている。軌道が2本並び、あたかも複線のように見える。片方(西側)には南から18系統のトラムが到着し、もう一方には北から22系統バターリャ行きが入線してくる。

Blog_porto37
カルモ電停
(左)透かし文字の行先表示板を交換
(右)両系統のトラムが連絡
 

22系統は2007年9月に観光路線としての運行を開始している。中心市街の軌道は1970年代後半に撤去されたので、30年ぶりの復活だった。ルートはバイシャ・ド・ポルト Baixa do Porto(ポルト中心街)を循環しており、どの電停から乗っても同じ場所に戻ってこられる。一周にかかる時間は標準30分だ。

カルモを南向きに発車すると、すぐに左折して、コルドアリア庭園の中を通過する。そしてクレーリゴスの塔 Torre dos Clérigos を正面に見ながら、通りを斜めに横断する。市街地で最も高い展望台として知られるこの鐘塔は、クレーリゴス教会の付属施設だ。

Blog_porto38
クレーリゴスの塔の裾を狭いアスンサン通りへ
 

トラムはクレーリゴス電停を通過し、教会横の狭い小路、アスンサン通り Rua da assunção をすり抜ける。再び大通りのクレーリゴス通り Rua dos Clérigos に顔を出し、急な坂を下り続ける。周りは商店街で、そぞろ歩く人も多いから、運転には気を遣うことだろう。

Blog_porto39
(左)坂の上のクレーリゴス教会(後方から撮影)
(右)クレーリゴス通りを下りきる
 

坂の下の、リベルダーデ広場 Praça da Liberdade 電停で停車。左手がその広場で、ドン・ペドロ4世の騎馬像と、その後方に白亜の市庁舎が見える。なお、CP(ポルトガル鉄道)とポルト・メトロのサン・ベント駅 Estação de São Bento へ行く場合は、ここが最寄り電停になる。

Blog_porto40
リベルダーデ広場を北望
奥に見えるのが市庁舎
Blog_porto41
CP サン・ベント駅正面
Blog_porto42
アズレージョの壁画に囲まれたサン・ベント駅のホール
 

地形的に見れば、市庁舎~リベルダーデ広場~モウジーニョ・ダ・シルヴェイラ通り Rua de Mouzinho da Silveira のラインに深い谷筋が走っている。22系統のルートは行きも帰りもそれを横断する形だ。そのため、サン・ベント駅横で、今度は急な上り坂が始まる。1月31日通り Rua 31 de Janeiro と呼ばれるこの街路は直線かつ一定勾配で、坂上の突き当りに、ファサードを飾る美しいアズレージョ(装飾タイル)で知られる聖イルデフォンソ教会 Igreja de Santo Ildefonso が建つ。

Blog_porto43
1月31日通りの急坂を上る
Blog_porto44
(左)聖イルデフォンソ教会の角を右折
(右)聖イルデフォンソ教会のファサード
 

その教会前で右折すると、北回りの軌道と合流する。もう一度左に曲がったところが、バターリャ広場 Praça da Batalha だ。従来、電停名もバターリャ広場だったが、STCPの最新資料ではバターリャ Batalha に改称され、そのため終点バターリャが、バターリャ・ギンダイス Batalha Guindais になっている。ちなみに、広場の南側に、カンパニャン駅方面へ分岐していた軌道を利用した三角線がある。運行中のトラムはすべて両運転台車なので、通常使われることはないのだろうが。

Blog_porto45
バターリャ(旧 バターリャ広場)電停のT系統
 

広場から南下すると、まもなく終点バターリャ・ギンダイスだ。軌道はここが行き止まりで、トラムはポール回しをして、元来た道を引き返す。2本敷かれた軌道の間にある地下階段を降りていくと、川岸へ降りるギンダイス・ケーブルカー Funicular dos Guindais の乗り場に通じる。

Blog_porto46
バターリャ・ギンダイス電停
(左)トラムの右がケーブルカーへの地下道入口
(右)折り返し出発を待つ
Blog_porto47
ギンダイス・ケーブルカー
 

さて、カルモへの復路は、先述の聖イルデフォンソ教会前までは同じだが、そこで往路の軌道と別れて北へ直進する。ポルトきってのショッピング街、聖カタリーナ通り Rua de Santa Catarina では、舗道のモザイク模様にも注目したい。軌道が狭い車道上に敷設されているため、トラムはしばしば渋滞に巻き込まれる。サンタ・カタリーナ Santa Catarina 電停通過後、次の角で左折し、長い下り坂に入る。

Blog_porto48
買い物客で賑わう聖カタリーナ通り
 

降りきったあたりに、ドン・ジョアン1世広場 Praça D. João I の電停がある。その後すぐ、リベルダーデ広場の北に延びる広場、アリアードス Aliados を横断する。往路で遠望した市庁舎が近くに見える。広場の地下には、メトロD線のアリアードス駅があり、乗り換えが可能だ。先述の通り、ルートは谷を横切っているので、後は上り坂だ。セウタ通り Rua de Ceuta とそれに続く街路を道なりに進んでいくと、見覚えのあるカルモの教会が見えてくる。

Blog_porto49
アリアードスからセウタ通りを上る
Blog_porto50
(左)ギレールメ・ゴーメス・フェルナンデス(広場)電停
   Guilherme Gomes Fernandes
(右)カルモ教会前に戻ってきた
 

写真はすべて、2009年7月に現地を訪れた海外鉄道研究会の田村公一氏から提供を受けたものだ。ご好意に心から感謝したい。

■参考サイト
STCP https://www.stcp.pt/
Porto-north-portugal.com https://porto-north-portugal.com/
The Trams of Porto(愛好家サイト)http://tram-porto.ernstkers.nl/

★本ブログ内の関連記事
 ポルトの古典トラム I-概要

« ポルトの古典トラム I-概要 | トップページ | モンセラット・ラック鉄道 I-旧線時代 »

南ヨーロッパの鉄道」カテゴリの記事

保存鉄道」カテゴリの記事

軽便鉄道」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« ポルトの古典トラム I-概要 | トップページ | モンセラット・ラック鉄道 I-旧線時代 »

2020年8月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          

BLOG PARTS

無料ブログはココログ