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2020年4月

2020年4月26日 (日)

地形図を見るサイト-デンマーク

世界に先駆けて2002年に紙地図の更新を廃止したデンマークだが、その後2013年に、国が作成する地理データを、過去のものを含めてすべて無償開放した。商用と非商用を問わず、複写、配布、公開、変更、他の素材との合成が、出典を明示するだけで(下注)無制限に可能となった。国土の状況を記録した地理データは公共インフラの一部であり、誰でも必要な時に容易に利用できるようにすることが、社会価値の創造に貢献するという考え方に基づいた措置だ。

*注 出典の記述形式については本稿末尾に記載。

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リレベルト Lillebælt(小ベルト海峡)付近の
1:25,000地形図(4cm地図)
 

現在、デジタル地図は言うに及ばず、紙ベースの旧版図(下注)も高精度のスキャニングによりデータ化され、専用サイトで公開されており、国外からもアクセスできる。今回はその状況を紹介しよう。

*注 デンマークの地形図の概要については、本ブログ「デンマークの地形図」参照。

(記述は2020年4月現在の仕様に基づく)

SDFE地図ビューアー SDFE kortviser

地図作成を担当する政府機関、データ供給・効率化局 Styrelsen for Dataforsyning og Effektivisering (SDFE) は、国土の地理データを公開する「SDFE地図ビューアー SDFE kortviser」というサイトを運営している。表記がデンマーク語のみであるのが惜しいが、現行図とともに19世紀中盤以降に作成された1:20,000~1;25,000図も見ることができ、利用価値は高い。

SDFE kortviser
https://sdfekort.dk/

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初期画面
 

初期画面では、左側に提供されている地理データのカテゴリーの一覧があり、上部に操作ツールが並んでいる。操作ツールのうち、印刷、検索などを選択するとドロップダウンリストが出てくる。その意味するところは下の画像のとおりだ。

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上部メニュー
 

左メニューに見えるデータのカテゴリーに、さまざまな地図データが包含されている。そのうち地形図類は、下の2行、「Historiske baggrundskort(旧版ベースマップ)」と「Baggrundskort(ベースマップ)」にある。前者は過去データ、後者は最新のデータだ。それぞれ内容を簡単に記しておこう。

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左メニュー
 

旧版ベースマップ Historiske baggrundskort

オルソフォト Orto(foto)
 正射写真、すなわち地表の高度差や、写真の中心からの距離によって生じる歪みを修整した空中写真で、1999年から2008年にかけて3年間隔で撮影されたものがシームレス画像で見られる。

地形図 Topografisk kort
 1953年から紙地図の最後となった2001年までに更新された1:25,000全国地形図(「デンマーク地形図 Danmarks Topografiske Kortværk」、略称 DTK)のシームレス画像(下注)。20世紀後半の国土の状況を表している。

*注 画面に記された期間は、地図の刊行年 Publication year ではなく、更新年 Revision year を示している。以下も同じ。

平板測量図 Målebordsblade
 地上測量(平板測量)の成果に基づく1:20,000地形図。19世紀中盤から20世紀前半にかけての国土の状況を表している。なお、南ユラン(南ユトランド)Sønderjylland は1865~1920年の間プロイセン領だったため、同国が作成した1:100,000地形図が別項目(プロイセン平板測量図 Preussiske målebordsblade 1877-1920)として立てられている。

(現行)ベースマップ Baggrundskort

オンライン地図 Skærmkort
 各種主題図の背景図に用いるために設計された簡易仕様のデジタル地図。Skærmkort(スケアムコート)は画面地図を意味する。なお、SDFE地図ビューアーの初期画面でも、このデータで透明度を上げたもの(Skærmkort dæmpet)を使っている。

ジオデンマーク GeoDanmark
 デンマークの地理データベースの3本柱の一つで、地名 Stednavne、標高モデル Højdemodel 以外の地理データを扱う。

デジタル地図 DTK
 紙地図(地形図 Topografisk kort)の後継である現行の地形図ラスタデータで、Kort25(1:25,000)から Kort500(1:500,000)までの5段階の縮尺図が見られる。なお、1:25,000は紙地図の図式に従ったデータ(Kort25 klassisk)が用いられている。

地理データは、それぞれのメニューの右端にあるスイッチアイコンをクリックすると表示される(アイコンは緑色に変わる)。複数の地理データを選択することは可能だが、画面に表示されるのは最上段にあるものだけだ。ワンタッチでレイヤーを切り替える機能はないようだ。

したがって、下位の地理データが見えるようにするには、上位の地理データを閉じる(=再度クリックしてアイコンをグレーに変える)か、レイヤーの上下を入れ替える(=項目ごとドラッグアンドドロップする)必要がある。

下の画像では、不要なカテゴリーを畳んで、見たいカテゴリーを展開し(画面左)、次にデフォルト表示されている Skærmkort dæmpet を閉じ(画面中)、見たい DTK50/Kort50 を開く操作をしている(画面右)。

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カテゴリーから地図を選択
 

これでDTK50/Kort50(現行デジタル地図1:50,000)が表示される。

地図を拡大縮小するには、+-ボタンを使うほか、ダブルクリックでも行える。図上でダブルクリックすると、1段階ずつ拡大する。Shiftキー+ダブルクリックで1段階ずつ縮小する。また、マウスホイールを使うと、連続的に拡大縮小できる。

地名で検索する場合は、右上の検索窓に入力すると、候補が表示される。例として、フュン島の中心都市オーゼンセ(オーデンセ)Odense を検索しよう。ドロップダウンリストの中から「Odense kommune(オーゼンセ自治体)」を選択する。

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地名検索画面
 

該当のエリア(オーゼンセ市域)が、赤色で面塗りされた形で現れる。

面塗り(選択表示)を消去するには、上部メニューにある消しゴムアイコンを選択してから、地図上の面塗り部分をクリックする。このアイコンはこうした画面で選択したものを解除する場合に使うものだ。

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地図表示画面
 

現行地形図だけでなく、旧版地形図も同じ要領で表示が可能だ。時代順に選択していくと、市街地や交通網が発展するようすをつぶさに追うことができて興味深い。

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後期平板測量図に切替えた例
 

地図をプリントするには、上部メニューの「Udskriv(印刷)」をクリックする。すると、印刷形式を指定するウィンドウが表示される。印刷フォーマットは、「A4 liggende(A4ヨコ)」がデフォルトになっている。タテ形にするなら「stående」と記されているものを選択する。またこのとき、印刷範囲 Udskriftsområde が地図画面に赤枠で表示されるので、マウスで位置を調整することができる。印刷形式の指定が終わったら、「Udskriv(印刷)」ボタンをクリックする。

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印刷手順
 

下の画像のようなポップアップブロック Popup blokeret の警告が出るかもしれない。続行するなら、「Hent(ダウンロード)」ボタンを選択する。中止する場合は「Luk(閉じる)」だ。印刷データはPDF形式で生成される。

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ポップアップブロック
 

歴史地図オンライン Historiske kort på Nettet

シームレス画像を扱うSDFE地図ビューアーに対して、もとになった地形図単体のスキャン画像を提供するサイトが「歴史地図オンライン Historiske kort på Nettet」だ。ここにはビューアーにはない各図葉の改訂版が網羅されているほか、18世紀の王立科学協会地図も取得できる。

Historiske kort på Nettet
https://hkpn.gst.dk/

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初期画面
 

初期画面には、地図のカテゴリー別タブが並んでいる。全国地形図は左から3番目の「Topografiske kort - landsdækkende」にある。

タブをクリックすると、ドロップダウンリストが現れる。名称だけでは区別がつかないので、下の画面画像には各地図群の作成期間を添えている。

科学協会 Videnskabernes selskab(1766-1841)
 同国の近代測量の先駆けとなるデンマーク王立科学協会 Kongelige Dansk Videnskabernes Selskab の平板測量図。18世紀後半から19世紀前半にかけて銅版印刷により刊行された縮尺1:120,000図および1:360,000等の広域図。

平板測量図等 Målebordsblade o.l.(1842-1971)
 上記「SDFE地図ビューアー」の項参照。19世紀後半から20世紀前半にかけて刊行された1:20,000図。

センチメートル地図 Centimeterkort(1953-2001)
 上記「SDFE地図ビューアー」で「地形図 Topografisk kort」と称されているものと同じで、20世紀後半に刊行された1:25,000図(=4cm地図)。なお、センチメートル地図の呼び名は、縮尺を実長1kmが図上何cmになるかで表すことに由来する。

見たい時代のものを選択すると、次に地名選択のドロップダウンリストが現れる。

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地図の種類と地名の選択
 

一例として、同じように「Odense(オーゼンセ)」を選択すると、該当する図葉の一覧が現れる。下の画像では、1:20,000の図番3616 Odense図葉が9種所蔵されていることがわかる。最初の測量は1863年だが、地表の経年変化を反映させながら1970年まで何度も更新されている。このリストで見たい図葉があれば、左端の「Vis(見る)」リンクをクリックする。

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所蔵図葉表示画面
 

別タブに地図画像が表示される。ここにも簡単な操作メニューがあり、「Metadata(メタデータ)」は当該地図の属性データ、「Kopi(コピー)」はファイルのダウンロード機能だ。

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地図表示画面
 

ダウンロード形式はPDFかJPEGで、さらに後者は、選択範囲を指定する方法と地図画像全体を対象とする方法の二択になっている。選択範囲を指定する場合、「Vælg udsnit(範囲を選択)」ボタンをクリックする。これで、地図上に表示された印刷範囲を示す赤枠がマウスで移動できるようになる。画面に「Ønsker du at forsætte?(続けますか?)」とメッセージが表示されるので、続行するならOKボタンをクリックする。

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印刷手順
 

このほかにデータ供給・効率化局は、ポータルサイト「地図サービス Kortforsyningen」を設けている。ここから各種地図データをダウンロードできる。上記サイトで扱っていないフェロー諸島やグリーンランドの地図もある。ただし、実行するにはユーザ登録(無料)が必要だ。

Kortforsyningen - download
https://download.kortforsyningen.dk/
 初期画面 > Topografiske kort(地形図)

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初期画面
 

グリーンランドの地形図は、初期画面の上位にリンク(Grønlandske data と表示)があるが、フェロー諸島は初期画面に見当たらない。まず「Topografiske kort(地形図)」を選択し、次画面左上にある Korttype(地図形式)のドロップダウンリストで「Færøerne(フェロー諸島)」を選択する必要がある。

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地図形式の選択
 

冒頭に記したように、これらのデータはパブリックドメインに位置付けられており、無償で二次利用が可能だ。ただしその場合、以下の文言により出典を明示しなければならない。

「Contains data from Styrelsen for Dataforsyning og Effektivisering(データ供給・効率化局からのデータを含むの意)、データセットの名称、データセットを当サイトから取得した年月またはデータサービス名」

記述例
「Contains data from Styrelsen for dataforsyning og effektivisering, "Kort 25", April 2020」
(データ供給・効率化局からのデータを含む、「Kort 25」(1:25,000図)、2020年4月)
「Contains data from Geodatastyrelsen, Matrikel kort, WMS Service」
(データ供給・効率化局からのデータを含む、地籍図、WMSサービス)

使用した地形図の著作権表示
Contains data from Styrelsen for dataforsyning og effektivisering, "Kort 25" and "Lave Målebordsblade", April 2020

★本ブログ内の関連記事
 デンマークの地形図
 デンマークの地形図地図帳
 デンマークのサイクリング地図
 フェロー諸島の地形図
 グリーンランドの地形図

 地形図を見るサイト-スウェーデン
 地形図を見るサイト-ノルウェー
 地形図を見るサイト-オランダ
 地形図を見るサイト-イギリス

2020年4月19日 (日)

地形図を見るサイト-イギリス

イギリスの国土測量を担っているオードナンス・サーヴェイ Ordnance Survey(OS、英国陸地測量部)は、地形図を公開するウェブサイトを設置していない。旧版図を含めて、地形図の提供を原則有償としているためだ。かつては地図を通販する「Get-a-map」という自局サイトで地形図データが使われていたが、今は別仕様のデジタル地図に切り替えられてしまっている。

しかし、OSの許諾を得たいくつかの民間サイトで、現行地形図(下注)の閲覧が可能だ。また、旧版図についても、刊行後50年を経過した時点でパブリックドメインに移行するため、まとまった量を公開しているサイトが存在する。その中から主なものを紹介しよう。

*注 OSの刊行する地形図については、本ブログ「イギリスの地形図-概要」参照。

(記述は2020年4月現在の仕様に基づく)

現行地形図

チャールズ・クロース協会 Charles Close Society

現行地形図がみられるサイトの多くは、1:50,000(ブランド名:ランドレンジャー Landranger)とそれ以下の小縮尺図の公開にとどまっている。OS図を研究対象としているチャールズ・クロース協会のサイトもその一つだ。

Charles Close Society - Modern OS Mapping On-line
http://www.charlesclosesociety.org/OSMap

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初期画面
© Crown copyright 2020
 

初期画面はロンドン市内の1:50,000だが、この地図画像が現れるまでに少し時間がかかるかもしれない。操作機能は単純で、地図画像の移動、拡大縮小、地名または郵便番号による検索のみだ。

地図の拡大縮小は、画面左上のスケールバーで行う。拡大すると、残念ながら1:25,000地形図ではなく、等高線なしの市街図になる。縮小すると、OS 1:250,000図、次いでOS 1:550,000図が現れる。

地名による検索は、初め少々とまどうだろう。画面左上の "enter a place/postcode(場所/郵便番号を入力)" と表示のあるボックスに地名や郵便番号を入力して、その下の "Find(検索)" ボタンをクリックするのだが、ボックスの表示がすぐに "enter a place/postcode" に戻ってしまうからだ。よく見るとその下に "Select a place(場所を選択)" と書かれたボックスが現れている。その右端のVマークをクリックすると、候補の地名一覧が表示される。ここから、見たい場所を選択する。

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地名による検索手順
 

このサイトには、他の地形図公開サイトを列挙した広範なリンク集もあり、たいへん参考になる。この画面の上部にある、"For Historic OS mapping online see HERE" または、左メニューの "Online Resources" から、リンク集に移れる。

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リンク集
 

Streetmap.co.uk

1:50,000図のサイトがいくつかあるのに対して、1:25,000図が見られるサイトは(OSとの契約料が高額(?)なためか)、Streetmap.co.uk ぐらいだろう。賑やかな広告が画面の余白を埋め尽くし、いささか目障りだが、1:25,000図の詳細がわかる貴重な存在になっている。

http://www.streetmap.co.uk/

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初期画面
 

初期画面には地図画像はなく、見たい場所の地名や郵便番号をまず入力しなければならない。ここでは街路名、経緯度、ナショナルグリッドの値などでも検索が可能だ。試しに "London" と入れてみると、60件以上の地名がヒットした。

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地名による検索手順
 

見たい地名を選択すると、ようやく1:50,000図が現れる。右下のスケールバー(Zoom Control)で一段階拡大させると、1:25,000図になる。さらに拡大するとA-Z図風の市街図になる。縮小側では1:100,000、続いて1:200,000と表示されるが、データはOSの1:250,000図を用いている。どの縮尺も紙地図に比べればかなり拡大表示されており、細部まではっきり読み取れる。

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地図表示画面
© Crown copyright 2020
 

なお、図上にホテルの位置を示すアイコンなどが表示される場合があるが、これはOSの地図記号ではないので、地図の右上にある "Icons off" をクリックして消すことができる。

地図の表示枠を拡げるには、右下の "Map Size" アイコンで、大きいほうのタイルイメージを選択する。

地図をプリントするときは、"Print" アイコンをクリックすると、印刷プレビュー画面が現れる。プレビュー画面でも、右下にある+-ボタンで地図の縮尺を変更できる。また、"Portrait" ボタンで縦長に、"Landscape" ボタンで横長に切替えられる。ただし、プリンタ側でもそれに合わせて縦/横の設定を変更する必要があるのはいうまでもない。

旧版地形図

スコットランド国立図書館 National Library of Scotland (NLS) 

イギリスの旧版地形図をウェブ上で見るなら、迷わずスコットランド国立図書館 NLS の公式サイトを訪れるべきだ。ここでは、16世紀から1960年代までのスコットランドに関する膨大な地図画像が無償公開されている。OS図については、収録範囲がイングランド及びウェールズにも及んでおり、充実度では間違いなくイギリス随一だ。

National Library of Scotland - Map Images
http://maps.nls.uk/

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初期画面
 

初期画面には、地図データへの多様なアプローチが提示されているが、左の項目列にあるテーマ別索引がわかりやすい。"Maps of Scotland" ではスコットランドの地図が年代順に、"County maps" ではカウンティ(郡)別にまとめられている。また、"Ordnance Survey maps" にはOS図のシリーズ(旧エディション)別リンクがある。

その "Ordnance Survey maps" へ進んで、次の画面で "1:25,000 maps of Great Britain - 1937-1961" を選んでみた。これは「暫定版Provisional Edition」と呼ばれた最初の1:25,000図シリーズだ(下注)。

*注 1:25,000のシリーズについては「イギリスの1:25,000地形図 I」参照。

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操作選択画面
 

こうしたシリーズものは、区分図の単体画像と、隣接図を貼り合わせたシームレス画像の2種が用意されている。単体画像は "graphic index"、シームレス画像は "seamless layer on a Google maps" からリンクしている。また、図番がわかっている場合は、その下の "Browse list by sheet number" で直接選択できる。

単体画像の場合は、図郭の選択画面が現れるので、左上のボタンで拡大して、見たい図郭を選択する。

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図郭選択画面
 

選択した図郭に応じて、右側に候補となる図葉のサムネールが表示されるので、必要なものを選択する。

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図葉選択画面
 
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図葉表示画面
 

シームレス画像の場合は、縮小画像が表示されるので、必要に応じて画面左上の+ボタンで拡大する。また、背景レイヤーをたとえば空中写真などに変更して、地表のようすを地形図と照合することもできる。この際、透明度は左メニューのスライドバーで調整する。

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シームレス画像表示
 

さらに、画面上部にある "Full Screen/Draw" でフルスクリーン化、"Spy" で背景レイヤーの上に拡大鏡風に重ねる方法、"Side by Side" で、2枚のレイヤーを左右に並べる方法も選択できる。

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Side by Side(並列表示)の例
reproduced with the permission of the National Library of Scotland https://maps.nls.uk/
 

このようにNLSのサイトは、単なる地図画像の表示にとどまらず、よりわかりやすく見せようという工夫が各所に施されており、使い慣れれば地図の世界を自由自在に回遊できるようになるだろう。

惜しいことに、スコットランド政府の予算で運営されているためか、イングランド及びウェールズに関するOS図のコレクションは不完全だ。それでも、イングランドにもウェールズにもこれに比肩するような地図画像公開サイトは未だ構築されていない。

A Vision of Britain

NLSが公開するイングランド及びウェールズの1インチ図は、19世紀から20世紀への変わり目に刊行された「改訂ニューシリーズ Revised New Series」が最も古い。それ以前、19世紀前半に作られた最初の1インチ図「オールドシリーズ Old Series」を公開しているのが、「A Vision of Britain」だ。

A Vision of Britain - Historical Maps
http://www.visionofbritain.org.uk/maps/

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初期画面
 

これはポーツマス大学地理学部 Department of Geography of the University of Portsmouth による広範な歴史資料サイトだが、"Historical Maps" のページに、照会できる地図のリストがある。

1行目の "Ordnance Survey First Series 1:63360" が、1インチ図オールドシリーズのことだ。4行目、8行目、10行目にも1インチ図(1:63360)シリーズの名があるが、これらは上記NLSのコレクションにも含まれている。

それでは、1インチ図オールドシリーズを選択するとしよう。次の画面では、湖水地方 Lake District の北辺付近の図が現れるだろう。

 

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地図表示画面
 

これはシームレス画像になっており、マウスドラッグで移動できる。また画面の下方には、シームレス画像に該当する区分図の情報とともに、サムネールが表示されている。ここからデータのダウンロード(zip圧縮、5MB程度)も可能だ。ただし実行前に、許諾条件の承認と簡単な問いに対する回答が必要になる。

どういうわけか、地名による検索はこの画面ではできず、「A Vision of Britain」のトップページに戻る必要がある。そうでなければ、地図画面右下に表示されている位置図の赤枠を地道に動かしていくしかないようだ。

現行および旧版地形図を公開しているサイトは他にもある。「官製地図を求めて-イギリス」の「地図閲覧」の項を参照されたい。

なお、OS図は、刊行後50年を超えた時点でパブリックドメインに移行するので、各公開サイトの許諾条件(商用不可、引用元の明示など)に従い、二次利用が可能になっている。

★本ブログ内の関連記事
 イギリスの地形図-概要
 イギリスの地形図略史 I-黎明期
 イギリスの地形図略史 II-1インチ図の展開
 イギリスの地形図略史 III-戦後の1インチ図
 イギリスの地形図略史 IV-旅行地図の系譜
 イギリスの1:25,000地形図 I
 イギリスの1:25,000地形図 II
 イギリスの1:50,000地形図
 イギリスの1:100,000地形図ほか
 イギリスの1:250,000地形図 I-概要
 イギリスの1:250,000地形図 II-歴史

 地形図を見るサイト-フランス
 地形図を見るサイト-ベルギー
 地形図を見るサイト-オランダ
 地形図を見るサイト-デンマーク

2020年4月12日 (日)

イギリスの1:100,000地形図ほか

縮尺1:25,000や1:50,000の地形図図式は、実際に現地でトレッキングやサイクリングの道案内に使えるように設計されている。だが、縮尺がそれより小さくなると、もはや小道や通行権などは細かすぎて描くことができない。そのため1:100,000や1:250,000のような小縮尺図の内容は、クルマが走れる道路網と市街地の位置関係を表すことに重点が移る。いわゆる道路地図や広域旅行地図のたぐいだ。

ハーフインチ図 Half-inch map

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ハーフインチ図
(大型図郭)表紙
 

かつて帝国単位の体系の時代には、1インチ図の次に小さい縮尺としてハーフインチ図が用意されていた。実長1マイルを図上1/2インチで表し、分数表示では1:126,720になる。これはもともと軍用として作成されたものだった。

それ以前、ハーフインチ図の市場は、民間の地図会社ジョン・バーソロミュー・アンド・サン John Bartholomew and Son の独擅場(下注)で、軍もそれを使っていた。ところが、同じ流れで軍が同社に特注品の作成を依頼したところ、財務省から待ったがかかった。OS(陸地測量部)という政府機関があるのに、なぜ商業地図に予算を投じるのか、という指摘だった。バーソロミューの地図に著作権侵害の疑いをかけていたOSもそれに同調し、その結果作られたのが、OSオリジナルのハーフインチ図だ。

*注 バーソロミューのハーフインチ図は、OS 1インチ図を資料として、1875年にスコットランドの刊行を開始、1897年からはイングランド及びウェールズにも拡大された全62面のシリーズ。1974年まで維持された後、翌75年から縮尺を1:100,000に変更、1999年廃刊。

地図は1インチ図から編集され、1903年に初めて刊行された。このときは縦12×横18インチの図郭だったが、1906~08年に当時の1インチ図(第3エディション)と同じ縦18×横27インチの大型図郭に改められ、74面で全国をカバーした。

地図は、低地50フィート間隔、中高地100フィート間隔の等高線と、緑から茶色に遷移する段彩で地勢を表現する。赤と黄に塗り分けた主要道で、道路網の骨格も強調されている。バーソロミュー図に似てはいるが、明度がより高く、色版の数も多いので、ライバルの仕様を超えるものを追求したことが見て取れる。

一般販売用の表紙には、1インチ図と同じようにエリス・マーティン Ellis Martin の描くイラストがあしらわれた。しかし、絵柄はハイカーではなく、オープンカーを走らせる旅行者のグループだ。縮尺に応じてセールスターゲットも変えているようだ。

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ハーフインチ図の比較
(上)OS図
  図番36 デヴォン南部 South Devon 1925年
(下)バーソロミュー図
  図番36 デヴォン南部 1923年
reproduced with the permission of the National Library of Scotland https://maps.nls.uk/
 

第二次世界大戦中、OSのあるサウサンプトンはドイツ軍の空襲を受け、多くの原版が灰燼に帰した。そのため、戦後改めてハーフインチ図 51面の新規製作が計画された。これが第2シリーズと呼ばれるもので、1956年に最初の1点、図番51「カンタベリー Canterbury」が現れた。しかしその後、追加で4面、すなわち計5面刊行されただけで、計画は放棄されてしまった。知名度の高いバーソロミュー図の前で売り上げが伸びず、1マイル図やクォーターインチ図との差別化も不十分だったのが原因とされる。

最後まで残されていた図番28「スノードニア Snowdonia」が1990年に絶版となり、ハーフインチ図は市場からすべて姿を消した。

OSツアーシリーズ OS Tour Series

現行OSツアーシリーズの登場までに、10年の空白がある。OSツアーは2000年3月に図番1「コーンウォール Cornwall」が刊行されたのが最初で、2004年まで続刊され、計23面のシリーズになった。図葉の多くが縮尺1:100,000だが、中には1:110,000から1:175,000、さらには1:500,000のスコットランド広域図など、縮尺の異なる図葉が混じっている。

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(左)「トラベルマップ-ツアー」表紙
(右)現行「OSツアー」表紙
 

戦前のハーフインチ図とは違って全国をカバーする意図はなく、「ツアー」の名が表すように、人気のある旅行適地に絞って刊行された。また、地図の仕様も大きく異なり、汎用図ではなく、レジャー情報を加えた道路地図といった印象だ。また、1:250,000(「ロードRoad」)のデータを拡大して使用しているようで、ハーフインチ図の繊細な描写とは雲泥の差がある。

地勢表現は段彩とぼかし(陰影)だけで表され、市街地の描写も、広がりがわかる程度のラフなものだ。一方、道路網は強調されている。主要道は太めで、道路区分はカラフルに塗り分けられ、道路番号とマイル単位の区間距離がつく。

「ロード」との違いは、レジャー情報が豊富なことだ。47種もの記号が用意され、どの町、どの道筋に何の施設があるかが一目で把握できるようになっている。図郭の余白には、主要市街地の拡大図や地名索引がつけられ、片面印刷の地図にしては情報量が多い。

残念なことに、2010年に費用対効果を重視した地形図体系の整理が行われ、小縮尺図は大きな影響を受けた。1:250,000「ロード」と1:625,000「ルート」の刊行が中止され、OSツアーも23面中15面が廃版となった。残り8面は今も残されているが、縮尺1:100,000の図は3面と過半数を割り、もはや1:100,000のシリーズとは言えなくなっている。

クォーターインチ図 Quarter-inch map
OSロードシリーズ OS Road Series

縮尺1:250,000のOSロードシリーズとその前身であるクォーターインチ図等については、別稿「イギリスの1:250,000地形図 I-概要」「イギリスの1:250,000地形図 II-歴史」で詳述している。

OSルート OS Route

OSの製品で最小縮尺となるのは、1:550,000の「OSルート」だ。イギリス全土(北アイルランドを除く)をこれ1点でカバーする。といっても、図郭はナショナル・グリッドの北500km線で南北に分割されており、これが表裏に印刷されている。

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(左)「ルートプランナー」表紙
(右)現行「OSルート」表紙
 

この形式で刊行されたのは2017年3月と、ごく最近のことだ。しかし、そのルーツは、1インチ図の索引図として作られた1817年にまで遡ることができる。縮尺は、実長10マイルを図上1インチで表す1:633,600で、10マイル図 10-mile map と呼ばれた。単独図としての刊行は1903年からで、1930年には全2面の道路地図として登場している。

1940年代以降、縮尺は1:625,000とやや拡大され、軍用図や戦後復興計画図を含めたさまざまな主題図の基図に用いられた。全国道路地図もその一つで、1946年から南北2面で刊行され、1964年からは「ルートプランニングマップ Route Planning Map」の名で定期更新された。アメリカのそれのように白地図上に道路網を描いたもので、地勢表現は入っていない。

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1:625,000図をベースにした全国道路地図 1946年
reproduced with the permission of the National Library of Scotland https://maps.nls.uk/
 

1993年から、1:250,000図とともに「トラベルマスター Travelmaster」のブランド名が冠され、2002年には「トラベルマップ-ルート Travel Map - Route」とされたが、名称が改まっただけで、内容に特段の変化はなかった。

ところが、2010年の体系見直しでは、「ルート」も廃止の対象となった。道路地図の分野には民間地図会社も製品を多数投入しており、デジタル化の趨勢もあって、勝算がないと判断されたようだ。そのため、2017年に復活するまでの7年間、1インチ図に次ぐ長い伝統はいったん途切れていたのだ。

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1:625,000
ルートプランナー グレートブリテン 1993年
© Crown copyright 2020
 

現行の「OSルート」は、旧版と同じ用紙寸法ながら、それを最大限使うことで地図の縮尺を1:550,000に拡大している。余白に配置された主要都市拡大図の数は旧図の10から14に増えた。道路網だけでなく、ぼかしによる地勢表現やいくらかのレジャー情報も入っている。眺める楽しみがあり、イギリスの地理的な基本資料としても常備に値するものになっている。

一つ注文をつけるとすれば、縦93cm×横120cmという大判用紙につき、裏面に刷られた北半部を見ようとすると、裏返すのに一苦労するという点だ。OSの製品にはこのような大判用紙に両面印刷された図葉が多数ある。片面印刷と売価が変わらないので、ユーザーにとって歓迎すべきサービスではあるのだが。

230年に及ぶイギリスOSの地形図の歩みを、ここまで駆け足で見てきた。18世紀、内乱や外国の侵攻に備えて作られた軍用図が、二度の大戦を経て一般市民に浸透し、今や情報ツールとして一層の深化を遂げている。こうした用途拡大は多くの先進国で経験されてきたことだが、とりわけイギリスの場合は、商業的なアプローチで利用者のニーズにいち早く応え、商品としての付加価値を高めているところに特色がある。デジタル全盛の現代においてなお、充実した紙地図のラインナップを維持できる秘訣もそこに求められるだろう。

本稿は、Tim Owen and Elaine Pilbeam, 'Ordnance Survey: map makers to Britain since 1791', Ordnance Survey, 1992; Chris Higley, "Old Series to Explorer - A Field Guide to the Ordnance Map" The Charles Close Society, 2011; Richard Oliver, 'Ordnance Survey maps: a concise guide for historians' Third Edition, The Charles Close Society, 2013 および参考サイトに挙げたウェブサイトを参照して記述した。

■参考サイト
Ordnance Survey http://www.ordnancesurvey.co.uk/
The Charles Close Society https://www.charlesclosesociety.org/

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2020年4月 5日 (日)

イギリスの1:50,000地形図

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戦後の1インチ~1:50,000シリーズの変遷
 

イギリス陸地測量部 Ordnance Survey (OS) が刊行する1:50,000地形図には、当初「第1シリーズ」と「第2シリーズ」の区別があった。その後、販売促進のためにブランド名がつけられ、今ではその「ランドレンジャー Landranger」の名で知られている。各シリーズの成立過程と特色を見ていこう。

第1シリーズ First Series

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第1シリーズ表紙
 

1マイル1インチ図(1:63,360、以下1インチ図という。下注)から1:50,000図への転換は、イギリス地形図史上、エポックメイキングな出来事の一つだった。長い歴史をもつ1インチ図は地図ユーザーに深く浸透しており、切替えの期間中、隣り合う図葉が異なる縮尺になっては、実用上著しい不便が生じる。そのため、切替えの手順は慎重に計画された。

*注 転換前の1インチ図については「イギリスの地形図略史 III-戦後の1インチ図」参照。

具体的には、1:50,000全204面をイングランド北部のランカスター Lancaster を通るラインで南北に分け、南の103面は1974年3月、北の101面は1976年2月にそれぞれ一斉に刊行することとされた。

大量の地形図を短期間で準備するために、新たな描画はせず、1インチ図第7シリーズ Seventh Series の最終版を写真拡大し、新しい図郭に合わせて切り貼りするという方法が取られた。全面改訂されたのは18面で、他の図葉は部分改訂にとどめられた。これらは「第1シリーズ First Series」と呼ばれたが、実態は、正式図である第2シリーズが揃うまでの暫定版の位置づけだった。

表紙は、1インチ図の赤をマゼンタに置き換えただけで、デザインに変化はない。図名の下にあった「One-Inch Map」の語句は、「1:50 000 First Series」に改められている。

1インチ図と1:50,000を同じエリアで比べてみよう(下の画像参照)。1インチ図に比べて、縮尺1:50,000の図では地物が1.27倍大きく描かれる。いわゆる「でか字版」と同じで、読み取りが楽になる反面、1インチ図を見慣れた目に大味に映るのはやむを得ない。

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同じエリアの1インチ図(左)と1:50,000第1シリーズ(右)
市街地、等高線、2級道路の色が置換えられ、森林の記号が省かれた
1-inch 158 Oxford & Newbury 1967年
1:50,000 164 Oxford 1974年
© Crown copyright 2020
 

図式は1インチ図のままだが、配色が変更されているので、ずいぶんと明るく開放的に感じる。最も目立つのが市街地(総描家屋)の塗りで、アミの色が黒からオレンジに置き換えられた。等高線と2級道路 Secondary road の塗りも、茶色をやめてこのオレンジを使っている。一方、高速道路 Motorway の塗り色は、水系で使われている青になり、赤で塗られた幹線道路 Trunk road や主要道路 Main road(一級道路)と区別された。1km間隔のグリッド(格子)と図郭外に記された値も、黒から青に変えられている。

色のほかにも見直しが多少ある。森林は、1インチ図で範囲を表す塗りの上に、針葉樹か広葉樹かを示す樹木を象った記号を置いていたが、1:50,000では完全に省かれた。そのため、樹相が判断できなくなった。

等高線は、1インチ図の50フィート間隔のままで、数値のみメートルに換算表記されている(下の画像)。そのため、付された値は低い方から15m、30m、46m、61mと来て、76mが最初の計曲線だ。次が91mになるが、参考資料によれば、61や91は逆さにすると19、16と誤読される恐れがあるため、南向きの斜面にのみ(つまり正位置で)記されているという。

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同じエリアの1インチ図(左)と1:50,000第1シリーズ(右)
標高点、等高線の数値はメートル換算に
北向きの斜面(右図の左上)には61mと91mの記載がない
1-inch 28 Inverness 1961年
1:50,000 26 Inverness 1976年
© Crown copyright 2020
 

図郭は、1インチ図の縦45km×横40km(実寸は縦約71cm×横約64cm)に対して、1:50,000は40km四方(実寸80cm四方)をカバーしている。縮尺が大きい分、用紙も一回り大きくなり、従来図の下にあった凡例などの整飾は、図の右側に移された。

下図は1974年現在の1:50,000索引図だ。左端に注釈が追加されており、「(中央の破線より北側では)1976年に1:50,000が刊行されるまでの間、1インチ図の入手が可能」とある。このように1976年には、北半分の第1シリーズの一斉刊行が予定されていた。しかしその間にも次の第2シリーズの図葉の製作が進んでおり、初めから第2の仕様で刊行された図葉が半数近くの44面にのぼった。

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第1シリーズ索引図
 

第2シリーズ Second Series

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第2シリーズ表紙
 

1インチ図の拡大版だった第1シリーズに対して、「第2シリーズ Second Series」は、各種資料に基づいて新たに編集・描画された1:50,000オリジナルの地図群だ。刊行開始は1974年、すなわち第1シリーズと時を同じくする。というのは、第1を一斉に刊行しておき、第2は完成したものから順次刊行して第1を置き換えていくという計画だったからだ。

そのため、最初に完成した図番176、177のロンドン市街と図番115のスノードン Snowdon は、第1なしで初めから第2での刊行となった。なお、表紙デザインには変化がなく、図名の下の記載が「1:50,000 Second Series」である以外、前シリーズと見分けがつかない。

1:50,000用の図式が適用されたことで、1インチ図式のままだった前シリーズとはいくつかの点で異同がある。

まず、注記のフォントだ(下の画像)。前シリーズはギル・サン Gill Sans の斜体やローマン Roman を使っていたが、イメージを一新すべく、サンセリフのユニヴァース Universe に統一が図られた。等高線は、1:10,000の再測量の成果を使って10m刻みで描かれ、メートル化を完了した。さらに国際化に対応して、凡例の一部に、フランス語とドイツ語の訳がつけられている。

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同じエリアの第1シリーズ(上)と第2シリーズ(下、注)
注記フォントがユニヴァースに統一された
1:50,000 26 Inverness 1976年
*注 ランドレンジャー図で代用
© Crown copyright 2020
 

鉄道記号では、複線と単線の区別が廃止され、鉄道発祥の国というのに、堂々たる幹線も心細げなローカル線も一括りに扱われるようになった。利用者にとって図示するほどの重要性はないという判断だろうか。同時に、狭軌鉄道の記号も見直され、1インチ図式の梯子形から、日本の私鉄複線に似た細い実線に短線2本を頻繁に交差させる記号に変わった。また、踏切には LC(Level crossing の略)の注記が付された。イギリスでは立体交差が主流であり、少数派かつ危険を伴う平面交差は伝統的に目立つ描き方がされている。

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第1シリーズ(上)と第2シリーズ(下)の地図記号
鉄道の単複線・軌間の区別が廃され、踏切の記号が改訂された
 

描画の自動化を進めるために、手描きの記号は廃止されるか、パターンに置き換えられた。たとえば砂丘、泥や小石交じりの浜、藪、ヒース、荒れ地、汀線など土地の状況を表すものがそうだ。また、伝統的な教区界 Parish border も記載されなくなった。

一方で、追加された記号もある。インフォメーションセンター、駐車場、展望地、キャンプ場など、レジャー関連の情報を示す記号だ。OSは地形図をベースにしてこうした情報を記載した旅行地図 Tourist map を、1インチの時代から多数製作してきた(下注)。しかし、汎用図に盛り込むようになったのはこのときからだ。記号の種類は図式改正のたびに増やされ、地図の性格をより余暇を楽しむ人に応えるものにしていった。

*注 1インチ旅行地図については「イギリスの地形図略史 IV-旅行地図の系譜」参照。

ランドレンジャーシリーズ Landranger Series

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現行ランドレンジャーシリーズ表紙
 

「ランドレンジャー Landranger」は造語で、土地を歩き回る者といった意味がある。OSではすでに1:25,000の旅行地図「アウトドアレジャー Outdoor Leisure」(1972年~)や、1:250,000の「ルートマスター Routemaster」(1978年~)など、マーケティング戦略の一環で縮尺別のブランド名付与を試みていた。

1979年からこれが本格的に実行され、1:50,000図には「ランドレンジャー Landranger」の名が与えられた。また、1985年には、表紙に風景写真が配されるようになり、店頭での訴求力がいっそう高まった。シリーズ名は変更されたものの、図郭変更や図式改正を伴っておらず、従来のシリーズ区分の定義には合わない。そのため、愛称がついただけで、第2シリーズはまだ終わっていないという見方もある。

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ランドレンジャーシリーズ表紙の変遷
 

1970年代の第2シリーズと最新のランドレンジャーシリーズを、同じエリアで比べてみると(下の画像)、40年間の経年変化は別として、後者はずいぶん賑やかに見える。特に、中央に横たわっている森、エッピング・フォレスト Epping Forest で顕著だ。要因の一つは、いったん廃止された樹種を表す記号(図では広葉樹林)が復活したことだろう。面積当たりの記号の密度も、日本の地形図より高い。

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同じエリアの第2シリーズ(左)とランドレンジャーシリーズ(右)
森林の記号が復活し、レジャー情報も多数追加
177 East London 1974年及び2016年
© Crown copyright 2020
 

もう一つの要因は、駐車場(白抜きの P )やナショナルトレール(赤のダイヤ)といったレジャー情報関連の記号や注記が加わったことだ。レジャー情報はすでに第2シリーズで盛り込まれていたが、記号の種類は当時に比べて倍増している。ビジターセンターやパークアンドライドを示す記号が新設され、展望台には180度と360度の区別さえされた。トレールやサイクリングのルート上に赤や緑の目立つ記号が並び、アクセスランド Access land が薄紫の境界線で囲まれた。

こうしたデータに埋め尽くされて、近年のランドレンジャーはかなり濃密な図面になっている。第2シリーズの初期はまだスポットカラーの6色刷だったが、1978年からプロセスカラー(CMYKの4色)印刷が採用され、色数の制限がなくなったことも影響しているだろう。

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現行のランドレンジャーシリーズ索引図
© Crown copyright 2020
 

最後に、参考資料に記されていたおもしろい話題を一つ紹介しておこう。これは図番196に描かれたワイト島 Isle of Wight の海岸線だが、崖の記号に紛れて人名らしきものが読みとれるというのだ。Birse、Mike、Bill など、これだけ並ぶと単なる空似とは言えないだろう。地図作成に携わったスタッフの名を記念に書き留めたものだろうか。

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ワイト島の断崖に隠された人名?
上図左からREV(TREV?), BIRSE, ROB
下図左からMIKE, BILL と読める
196 The Solent & Isle of Wight 2016年
© Crown copyright 2020
 

次回は、1:100,000以下の小縮尺図について。

本稿は、Tim Owen and Elaine Pilbeam, 'Ordnance Survey: map makers to Britain since 1791', Ordnance Survey, 1992; Chris Higley, "Old Series to Explorer - A Field Guide to the Ordnance Map" The Charles Close Society, 2011; Richard Oliver, 'Ordnance Survey maps: a concise guide for historians' Third Edition, The Charles Close Society, 2013 および参考サイトに挙げたウェブサイトを参照して記述した。

■参考サイト
Ordnance Survey http://www.ordnancesurvey.co.uk/
The Charles Close Society https://www.charlesclosesociety.org/
FieldenMaps.info http://www.fieldenmaps.info/info/
 各縮尺図の歴史とともに地形図表紙の変遷が見られる

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 イギリスの1:100,000地形図ほか
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