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2020年3月29日 (日)

イギリスの1:25,000地形図 II

「パスファインダー Pathfinder」の名を冠した1:25,000の第2シリーズは、1989年に全国(下注)をカバーした。1:50,000よりも明らかに詳細な情報が得られるようになったが、期待に反して、シリーズの販売数はいっこうに伸びなかった。他方、同じ縮尺でも利用者から好評を博していた商品群がある。それが「アウトドアレジャーシリーズ Outdoor Leisure Series」だ。

*注 ここでいう全国とは、OSの担当範囲であるイングランド、ウェールズ、スコットランドを指す。

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パスファインダーに比べ、アウトドアレジャーは
道路区分が着色され、レジャー情報(案内所、駐車場など)も充実
(上)第2シリーズ(パスファインダー)
  1067 Winchcombe & Stow-on-the-Wold 1990年
(下)アウトドアレジャー
  OL45 Cotswolds 1998年
© Crown copyright 2020
 

アウトドアレジャーシリーズ Outdoor Leisure Series

前回も触れたように、これは第二次大戦以前からある縮尺1マイル1インチ(1:63,360)の旅行地図 Tourist map(下注) を、より大縮尺の1:25,000でも実現しようという意図から生まれたものだ。

*注 1インチ旅行地図については、「イギリスの地形図略史 IV-旅行地図の系譜」で詳述。

1:25,000図は詳しい分、収録範囲が狭い。そのため、旅行では何枚も用意しなければならず、利用者に敬遠されがちだった。そこでアウトドアレジャーシリーズは、できるだけ少ない面数でカバーできるよう、特大の図郭を採用した。そのうえで部分改訂を施し、1インチ旅行地図のようにレジャー情報を追加した。さらにアピールのために、利用目的を想起させるブランド名を初めてつけた。

最初の図葉は1972年刊行の、イングランド中部、ピーク・ディストリクト Peak District の中心部を描いた「ダーク・ピーク Dark Peak」だ。第1シリーズ6面を集成したもので、図郭は縦20km×横26kmと、第1シリーズ(縦横とも10km)の5倍以上ある。表紙には、黄土色の地色に、ハリー・ティットコム Harry Titcombeが描いた山野を背景に野鳥が舞う彩色画があしらわれた。

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野鳥のイラストをあしらった初期のアウトドアレジャー表紙
(左)黄土色の表紙は、第1シリーズをベース(基図)とする
(右)レモン色は、第2シリーズがベース
photo from www.charlesclosesociety.org
 

追加されたレジャー情報はまだ少なく、ピクトグラム記号ではキャンプサイト、ユースホステルなど10数個だ。観光の見どころは注記部分に青のマーカーが引かれ、公共通行権 Public rights of way とともに、代表的なフットパスや国立公園界などが緑で記されている。

この企画は当たり、15,000部が売れたという。それを受けて翌年以降、ヨークシャーのスリー・ピークス Three Peaks、スコットランドのケアンゴームズ Cairngorms などと続刊された。当初、ベースの地図は第1シリーズだったが、第2シリーズが利用できるようになると、それに移行していった。両者は表紙の色で区別でき、前者は黄土色、後者はレモン色だ。

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アウトドアレジャー図の例
Brecon Beacons National Park Eastern area 1976年
© Crown copyright 2020

1984年からは、表紙が風景写真に変わり、個々の図葉に図番も振られた。付番方式に特別な法則はなく、単に他の図葉と区別するための番号だ。地図印刷がプロセスカラー(CMYKの4色)方式になったことで、道路区分など、色による表現が豊かになった。この頃の図はまた、陸地部分に地色として、表紙のそれを薄めたような黄色が塗られているのが特徴だ。

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表紙は風景写真になり、図番も記載
 

1インチ図の場合、旅行地図と汎用図は用途が異なるとして、最後まで並行して販売されていた。1:25,000も同じ扱いだったが、1986年に、アウトドアレジャーと図郭が完全に重複するパスファインダー(第2シリーズ)の図葉は廃刊とされた。前者の影で売れ行きが鈍く、維持するのが困難と判断されたからだ。

1998年時点の索引図(下の画像)を見ると、アウトドアレジャーの図番は1から45まで振られている。ただし、欠番が3つあるので、実際の刊行は42点ということになる。おそらくこれがシリーズの最終到達点だろう。このあと2002年3月に、後述するエクスプローラーブランドに統合され、30年続いたシリーズは消滅した。

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アウトドアレジャー索引図(1998年)
エクスプローラー(オレンジ色のエリア)がすでに南部をカバーしている
 

エクスプローラーシリーズ Explorer Series

現在1:25,000図には、「エクスプローラーシリーズ Explorer Series」の名が定着している。刊行中のすべての1:25,000図が、このブランドを象徴するオレンジ色の表紙をまとっている。シリーズの刊行開始は1994年3月のことだが、当時OSの担当者は、将来これが全国をカバーするようになるとは考えてもいなかっただろう。

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エクスプローラーの表紙はオレンジ色
 

アウトドアレジャーシリーズの商業的成功は、図郭の大型化と、旅行情報を重視した編集の有効性を実証した。これは国立公園とそれに準じる著名観光地が対象だったが、同じスキームを他の旅行適地にも拡大しようとしたのが、エクスプローラーシリーズだった。

最初に刊行されたのは、イングランド最北の貯水池キールダー・ウォーター Kielder Water、ロンドン北西郊のチルターン・ヒルズ Chiltern Hills(南北2面に分割)、サマセット州のメンディップ・ヒルズ Mendip Hills(東西2面)の計5面、続いてランズ・エンド Land's End やボドミン・ムーア Bodmin Moor など、知られたエリアの図葉が刊行されていった。

地図の仕様はアウトドアレジャーに準じており、地色の薄黄色が省かれたほかに大きな違いは見られない。基本は片面刷りだが、両面刷りの図葉もあった。図郭の大きさはパスファインダー(第2シリーズ)の約3倍で、完全に重複するパスファインダーは置き換えられ、廃刊とされた。

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(上)アウトドアレジャー、陸地に地色あり
  OL17 Snowdonia 1996年
(下)エクスプローラー、地色以外に仕様の違いはない
  108 Lower Tamar Valley 1997年
© Crown copyright 2020
 

こうして1:25,000は、レモン色のアウトドアレジャー、オレンジ色のエクスプローラー、緑色のパスファインダーのシリーズ3本立てになったのだが、併存した期間は短かった。市場のさらなる開拓と商品管理の効率化を目的として、1996年後半に、パスファインダーをエクスプローラーに置き換えていく方針が決定したからだ。

全国をカバーするのに、前者では1372面が必要なところ、大型図郭を採用する後者であれば415面と、7割もカットできる(下注1)。これは管理上有利なだけでなく、利用者にとっても価格差(下注2)を超える経済的なメリットがあった。方針に沿って、刊行のペースは1997年半ばから加速された。

*注1 パスファインダー1372面のうち、一部の図葉はアウトドアレジャーシリーズで代用されたため、未刊行のままとなった。エクスプローラー415面には、アウトドアレジャーからの転籍45面を含む(2003年現在)。
*注2 1995年の価格表による1面あたりの価格は、パスファインダー3.95ポンド、エクスプローラー4.50ポンド、アウトドアレジャー5.25ポンド。

エクスプローラーの図郭は、ナショナル・グリッドにとらわれず、旅行適地や市街地が極力複数の図葉に分割されないように設定されている。そのため、図郭の大きさは一定でなく、隣接図葉との間に重複を持たせたものも多い。図郭の重なりは、先行する1:50,000ランドレンジャーシリーズと同じ考え方だが、索引図を見る限り、より不規則で複雑だ。

図番は、国土の南西端、シリー諸島 Isles of Scilly を101とした昇順で、シェトランド諸島 Shetland Islands の北東端が470になる。付番方式が、北東端を1とするパスファインダーやランドレンジャーと真逆なのは、エクスプローラーの整備がイングランド南部から段階的に進められたことによる。

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現在のエクスプローラー索引図(2016年)
© Crown copyright 2020
 

パスファインダーの置き換えがかなり進行していた2002年3月、最終的な体系整理が実行に移された。それがアウトドアレジャーの、エクスプローラーシリーズへの統合だ。後者の図番はすでに確定しており、付け直しは利用者の混乱を招くため、旧アウトドアレジャー図葉は、接頭辞OLをつけたうえで、もとの図番が維持された(例:OL10)。表紙は橙色に統一されたが、右肩にある図番の背景色には今もオリジナルのレモン色が残されている。

2003年3月、パスファインダー最後の図葉がエクスプローラーの新刊に置き換えられて、1:25,000は単一のシリーズ「エクスプローラー」への集約を完了した。

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統合後の表紙
図番(表紙右肩)に「OL」がつくのが旧アウトドアレジャー図葉
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モバイルダウンロードサービスが導入された最新の表紙
 

次回は、1:50,000について。

本稿は、Tim Owen and Elaine Pilbeam, 'Ordnance Survey: map makers to Britain since 1791', Ordnance Survey, 1992; Chris Higley, "Old Series to Explorer - A Field Guide to the Ordnance Map" The Charles Close Society, 2011; Richard Oliver, 'Ordnance Survey maps: a concise guide for historians' Third Edition, The Charles Close Society, 2013 および参考サイトに挙げたウェブサイトを参照して記述した。

■参考サイト
Ordnance Survey http://www.ordnancesurvey.co.uk/
The Charles Close Society https://www.charlesclosesociety.org/
FieldenMaps.info http://www.fieldenmaps.info/info/

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