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2020年2月22日 (土)

イギリスの地形図略史 I-黎明期

まずは下の絵葉書をご覧いただきたい。中央に配置されているのは、イギリスの測量機関オードナンス・サーヴェイ Ordnance Survey(略してOS)の創設200年を記念して1991年に発行された切手(4種セットのうちの1枚)の拡大図だ。オリジナルの24ペンス切手は右側に貼られ、初日印が押されている。

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OS創設200年記念切手の初日印はがき
 

地図は、イングランド南東部、ケント州にあるハムストリート Hamstreet という小村の18世紀末ごろの姿を描いている。これは、OSが創設後初めて刊行した1マイル1インチ地形図(以下、1インチ図という。下注)の一部分だ。

*注 実長1マイル(1609.344m)を図上1インチ(25.4mm)で表す地形図。分数表示では 1:63,360になる。

OSは、政府の一機関であった軍需局 Board of Ordnance(下注)の測量部門を発祥とする。Ordnance Survey という組織名もこれに由来しており、日本語に訳すときは旧 陸軍の「陸地測量部」を当てるのが慣わしだ。組織の成立過程は、イギリスにおける地形測量と地図作成がたどった歴史に他ならない。

*注 ordnance は、兵器などの軍需品を意味する言葉。軍需局はもともとロンドン塔にある王室の兵器庫の管理部局だったが、やがて陸軍や海軍に軍需品その他の装備を供給し、国内外の兵器庫や要塞を所管する大規模な政府組織に発展した。

話の発端は1745年、スコットランドで起きたジャコバイト軍の蜂起(下注)だ。そのとき、軍需局副局長であったデイヴィッド・ワトソン David Watson は、作戦用の詳細な地図の必要性を痛感していた。この地方を表す地図は1680年代の測量に基づくものしかなく、縮尺もまちまちで非常に不完全だったからだ。ワトソンは、カンバーランド公爵ウィリアムにそのことを進言した。

*注 1688~89年の名誉革命で追放されたカトリック勢力であるジャコバイト軍が、王位回復を狙って起こした内乱。

最後の戦い(カロデンの戦い Battle of Culloden、1746年)でイギリス軍が勝利した後、国王からの裁可が下り、カンバーランド公爵の命で1747年からスコットランドで軍用測量が始まった。実務の進行を委ねられたのは、ワトソンの有能な民間人助手であったウィリアム・ロイ William Roy だ。彼が率いた6個の測量隊による精力的な作業の結果、1752年にハイランドの大半が、1755年までにスコットランド南部の地図が、それぞれ完成する。図上1インチが実長100ヤードになる縮尺1:36,000で描かれたこの地図群は、後に「カンバーランド公爵図 Duke of Cumberland's Map」と呼ばれるようになる。

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カンバーランド公爵図 インヴァネス周辺
(c) The British Library Board
 

その後、ロイは英国陸軍工兵隊 Royal Engineers に籍を置き、イングランド南部その他の測量などに従事するが、とりわけ彼の名を高らしめたのは、晩年に指揮したグリニッジとパリの両天文台間の相対位置の測定、いわゆる英仏測量 Anglo-French Survey だ。1784年から1790年にかけて実施され、その結果、英仏海峡をまたぐ広域の三角測量網が構築された。

三角測量を始めるには、まず地上の見通しの利く土地に基線 Base Line を設定し、その正確な長さを測定する必要がある(下注)。最初の基線は、ロンドン西郊ハウンズロー・ヒース Hounslow Heath に設けられた。

*注 基線は測量の基準となる三角形の一辺。基線の長さが決まれば、その両端から見通せる任意の一地点への角度を測定して、地点の座標値(経緯度)を求める。

下図は、時代が下がって1945年の1インチ図だが、基線がまだ「General Roy's Base(ロイ将軍の基線)」の注記とともに破線の記号で描かれている。図にはまた、基線西側のヒースロー Heathrow 集落周辺に「Aerodrome(飛行場)」という注記が見つかる。第二次世界大戦後これが拡張されてイギリス最大の国際空港になり、今ではその敷地が基線を横断してしまっている。

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General Roy's Base の注記がある1インチ図
170 London SW 1945年
(c) The British Library Board
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上図と同じ範囲の現在図
基線の北端をヒースロー空港の用地が横断
Image from OpenStreetMap, License: CC BY-SA
 

ロイは1790年に亡くなるが、1年後の1791年、軍需局は、彼が確立した三角測量網に基づき、イングランド南部の地図作成に着手した。作業に用いるラムズデン経緯儀が新たに購入され、OSの沿革年表はこのことをもって組織創設の承認としている。

イングランド南部を最初に手掛けた理由は、ほかでもない。海を隔てたフランスでその頃、封建制を崩壊させた市民革命、いわゆるフランス革命(1789~99年)の嵐が吹き荒れていたからだ。とどまるところを知らない勢いに周辺諸国は深刻な脅威を感じ、対仏同盟を結成して牽制した。1793年、イギリスはフランスから宣戦布告を受ける。南東海岸は、フランスが侵攻してきたときに防衛の最前線となるため、地図作成は急務だった。

1795年に、リッチモンド公爵 Duke of Richmond の資金により、進行中の測量成果を使ってサセックス州 Sussex の1インチ図が刊行されている。続くケント州 Kent の実測は1マイル6インチ(1:10,560)の精度で始めたものの、作業を加速させるために途中から1マイル3インチ(1:31,680)に落とされた。こうして描かれた原図は、1マイル1インチ(1:63,360)に縮小編集のうえ、銅版印刷に付された。

OS最初の1インチ図とされるケント州図4面は1801年に完成した。ただし、この図の刊行者名はOSではなく、サセックス州図と同じく宮廷地理学者W・H・フェイドン W. H. Faden だ(下注)。また、地図には隣接州域が描かれず、空白にされている。こうした仕様の違いから、後世の分類では、作業を指揮したOS長官ウィリアム・マッジ William Mudge の名にちなみ、「マッジ図 Mudge map」と呼ばれ、1インチ図の初期シリーズ「オールドシリーズ Old Series」には含まれない。

*注 OS自体が刊行するのは下掲のエセックス州図からだが、名義は「三角測量部 Trigonometrical Survey」だった。OSの名が初めて記載されるのは、1810年刊行のワイト島 Isle of Wight 図(オールドシリーズ第10面)。

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ケント州全図
マッジ図を1/2に縮小(=1インチ2マイル)し、原図4面を1面にまとめた集成図
1807年刊行のため、隣接する州のエリアも描かれている。

Image from http://www.mernick.org.uk/cc/kentmap/
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上図の部分拡大
 

テムズ河口の南側に位置するケント州の次は、河口北側のエセックス州 Essex が作成対象とされ、1805年に完成した。続いて1809年にはデヴォン州 Devon の図ができあがった。こうして1820年ごろには、イングランドとウェールズの1/3で図化が終了した。すでに1795年ごろには測量事業をイングランド全域、可能ならイギリス全土に拡大するという遠大な構想が立てられており、各図にはそれを踏まえた全国規模の図番が振られた。

その1820年、急逝したマッジの跡を継いで2代目のOS長官 Director General に就任したのが、トーマス・コルビー Thomas Colby だ。彼はマッジの助手として、以前から測量作業に携わっていた。

次の対象地域は、1801年にイギリスに併合されていたアイルランド島だった。測量は1824年から始まり、コルビーは現地に滞在して、直接指揮に当たった。新しい計測器具(下注)を導入し、地名の系統的な収集法を確立するなど、地図作成技術の進歩にも貢献した。長官職にありながらも、彼は相変わらず測量隊と、山野を渡り歩く長旅を共にする。そして作業が終わりに近づくと、巨大なプラムプディングを用意して山頂で慰労会を催すのを信条としていたという。

*注 コルビーの補正棒 Colby's compensation bars として知られる。

アイルランド島の計画は、全域を1マイル6インチの縮尺(以下、6インチ図)でカバーするという壮大な規模で、1846年までかかった。

冒頭で述べたように、地形図の作成は当初、軍事目的だったが、しだいに国内の民生需要も高まった。その背景の一つは、鉄道の建設ブームだ。知られているように、ジョージ・スティーブンソン George Stephenson が自作の蒸気機関車ロコモーション号で、ストックトン~ダーリントン間に鉄道を開業したのは1825年だ。続くリヴァプール=マンチェスター鉄道の成功で、1830年代半ばには最初の鉄道ブームが起き、1840年代には支線網の建設が熱を帯びる。こうした鉄道路線のプランニングに、OSの正確な測量図が活用された。

別の背景としては、1836年に成立した十分の一税転換法がある。これは古代からタイズ Tithe、すなわち十分の一税と呼ばれ継承されてきた物納制(下注)を、金銭での支払いに置き換える税制改革だが、実行には、課税対象となる土地の境界を示す地図の整備が不可欠だった。

*注 十分の一税は本来、土地の農作物や漁獲物の1割を教区牧師に寄進していたのが由来。修道院の解散等により、世俗地主がこれに代わった。

しかしそれには、1インチでは精度が足りず、アイルランドと同様に、グレートブリテン島でもより詳細な地図の必要性が叫ばれるようになる。1840年からOSは、6インチ図作成に着手する。翌1841年には陸地測量部法 Ordnance Survey Act が制定され、測量目的であれば測量士が私有地に立ち入ることができる法的権利が与えられた。

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6インチ図
Gloucestershire XXVIII.NE 1882~83年
This work is based on data provided through www.VisionofBritain.org.uk and uses historical material which is copyright of the Great Britain Historical GIS Project and the University of Portsmouth 

1854年からは農村部でさらに詳細な1:2,500(実長1マイルが図上25.344インチになるため、25インチ図と呼ばれた)の整備も始まった。この頃、どの縮尺を基本図とすべきかについては、6インチ派と1インチ派の間で長い論争があったものの、比較的広域を1面に表せる1インチ図は、これら大縮尺図からの編集で存続することになる。最終的にイングランドとウェールズで1インチ図刊行が完了するのは1870年、スコットランドでは1895年のことだ。

その後の1インチ図の展開については、次回に。

本稿は、Tim Owen and Elaine Pilbeam, 'Ordnance Survey: map makers to Britain since 1791', Ordnance Survey, 1992; Chris Higley, "Old Series to Explorer - A Field Guide to the Ordnance Map" The Charles Close Society, 2011; Richard Oliver, 'Ordnance Survey maps: a concise guide for historians' Third Edition, The Charles Close Society, 2013 および参考サイトに挙げたウェブサイトを参照して記述した。

■参考サイト
Ordnance Survey http://www.ordnancesurvey.co.uk/
The Charles Close Society https://www.charlesclosesociety.org/
National Library of Scotland - Maps https://maps.nls.uk/
Stanfords http://www.stanfords.co.uk/
Cassini publishing http://www.cassinimaps.co.uk/

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 イギリスの地形図-概要
 イギリスの地形図略史 II-1インチ図の展開
 イギリスの地形図略史 III-戦後の1インチ図
 イギリスの地形図略史 IV-旅行地図の系譜

 イギリスの復刻版地形図 I-カッシーニ出版社
 アイルランドの地形図-概要

2020年2月14日 (金)

イギリスの地形図-概要

イギリスの国家測量機関であるオードナンス・サーヴェイ Ordnance Survey(OS、英国陸地測量部)は、1791年、兵器庫や要塞を管理していた軍需局 Board of Ordnance の測量部門としてスタートし、以来約230年間、国土の測量と地図作成に携わってきた。

OSの所管範囲はイングランド、ウェールズとスコットランド、すなわちグレートブリテン島と周辺島嶼だ。歴史的経緯から北アイルランドには別の地図作成組織があり、王室属領 Crown dependency であるマン島とチャンネル諸島も、OSが事業協力しているものの、各行政府が所管する(下注)。

*注 ただしマン島の1:50,000図はOSの刊行物。OS所管外の地形図についての詳細は、本ブログ「北アイルランドの地形図・旅行地図」「マン島の地形図」「英仏海峡 チャンネル諸島の地形図」参照。

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1インチ図の例
173 East Kent 1969年
 

そのOSが刊行する地図の縮尺別一覧を以下に掲げる。

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OS地図 縮尺別一覧
 

1:10,000以上の大縮尺図はデジタルデータのみで提供されるため、紙地図として一般の店頭に並んでいる最大縮尺は1:25,000の「エクスプローラー Explorer」だ。これと1:50,000の「ランドレンジャー Landranger」がOSの主軸製品で(下注)、トレッキングその他の野外活動に有用な情報がふんだんに盛り込まれている。

*注 1:25,000については「イギリスの1:25,000地形図 I」、1:50,000は「イギリスの1:50,000地形図」参照。

一方、1:100,000の「ツアー Tour」は、全国をカバーするものではなく、人気のある観光エリアに絞って刊行されている。1:250,000「OSロード」(下注)とともに、旅のプランニングやドライブの際に使う縮尺図だ。最小縮尺の1:550,000「OSルート」は、両面印刷によりこれ1点でOS所管の全域を収録する。

*注 1:100,000および1:550,000については「イギリスの1:100,000地形図ほか」、1:250,000は、「イギリスの1:250,000地形図 I-概要」参照。

地図の縮尺は、もともと帝国単位(ヤード・ポンド法)に基づいていた。上表の右側の欄に示したとおり、各縮尺図の通称は、実長1マイル(1609.344m)が図上何インチで表されているかを示している。たとえば6インチ図 6-inch map は、1マイルを図上6インチで表した地図だ(下注)。同様にハーフインチ図は、1マイルを1/2インチ(=2マイルを1インチ)で表したものになる。ただし、小縮尺の1:633,600は1/10インチ図と言わず、10マイル図(実長10マイルを図上1インチで表す)と表現する。

*注 6-inch map は略称で、正しくは six inches to the mile map(1マイル6インチ図)という。

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1インチ図の縮尺
マイル、ヤード、キロメートルの順に縮尺が並ぶ
 

これら帝国単位による縮尺図は、おおむね1970年代までにメートル法に基づくものに置き換えられた。同時に、図上の標高値や等高線間隔もメートル表記に改められた。しかし、現地の道路標識に記される距離や制限速度がそうであるように(下注)、実生活ではいまだにマイルやヤードが通用している。それで地図の上でも、到達地への距離表示はkmとマイルの併記だ。

*注 ちなみに道路標識に 50m などとあるのは、50マイルを意味する。短距離はヤードで表す。

図式の特徴をいくつか挙げておこう。

地勢表現は、中縮尺図と小縮尺図で明らかに描き方を変えている。中縮尺図である1:25,000、1:50,000は等高線のみで、段彩やぼかしは入らない。こうした視覚的効果は大陸諸国の地形図でよく使われるが、OSでは1930年代の1インチ図で一度試みられたきりだ。イギリスの中縮尺図は線描主体で、絵画的要素は乏しい。段彩とぼかしは、1:100,000以下の小縮尺図で初めて加えられる。

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地勢表現の違い
(左)1:50,000は線描主体
(右)1:250,000は段彩やぼかしで地形を立体的に見せる
© Crown copyright 2020
 

地図記号では、鉄道の駅に小さな正円を使うのがユニークだ。日本でも時刻表の路線図ではおなじみだが、イギリスの地形図では1:25,000のような駅構内の範囲が示せる縮尺でも、中心位置に正円を置く。さらに円に赤の塗りを入れるので、市街地でも見つけやすい。また近年は、LRT、狭軌線、路面軌道などに適用されるライトレールの記号(日本の私鉄記号に似ている)が新設されたが、こちらの駅(電停)は黄色に塗られる。

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鉄道と駅の表示
赤の円がヘビーレールの駅、黄の円はライトレールの停留所
1:25,000 220 Birmingham 2015年
© Crown copyright 2020
 

イングランドとウェールズの図葉には、公共通行権 Public rights of way の記載がある。公共通行権とは、私有・公有を問わずその土地を通行できる法的権利のことで、現 図式では4種類の記号が設定されている。すなわち、歩行のみ可能なフットパス Footpath(自然歩道)、乗馬での通行も可能なブライドルウェー Bridleway(乗馬道)、クルマなどの通行に制限があるバイウェー Restricted byway(脇道)、公共交通に開放されているバイウェー Byway open to the traffic だ。

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公共通行権(左)と遺跡(右)の記号
 

下図左はコッツウォルズの一角だが、フットパスが網の目のように走っているのが読み取れる。しかし、これらは必ずしも明瞭な道とは限らない。牧場や林の中など、道のないところを横断していることもしばしばだ。なお、スコットランドでは通行権の定義が異なる(下注)ため、地形図に表示はない。

*注 イングランド及びウェールズの法では、州議会で指定されたルートに通行権が発生するので、そのルート(道路とは限らない)が図上に明示されるが、スコットランドの法では、一定の条件を満たす道路に自動的に通行権が生じるので、明示は必要とされない。

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フットパスの表示
1:25,000(左)では緑色、1:50,000(右)では赤で示される
菱形の記号はナショナル・トレール等のルートを表す
OL45 The Cotswolds, 163 Cheltenham & Cirencester
© Crown copyright 2020
 

歩き旅に役立つ情報はこれだけではない。凡例には、公共通行権と並んで、「他のパブリックアクセス Other Public Access」、「アクセスランド Access Land」(イングランドとウェールズのみ)という項目が見られる。前者には、ナショナル・トレール National Trail のような長距離自然歩道や、パーミティド・フットパス Permitted footpath、すなわち通行権は設定されていないものの、土地所有者が通行を許可している道、といった地図記号が含まれている。

一方後者は、誰でもローミングする(歩き回る)ことが法的に許可された土地、アクセスランド Access land に関する記号だ。かつてはナショナル・トラスト National Trust などの管理地が濃い紫色の太枠で括られていた。現在は、2000年施行の田園地帯及び通行権法 Countryside and Rights of Way Act に基づくアクセスランドの範囲を、レモン色で面塗りし、オレンジ色のアミの枠線で囲んで表す。

OSの地図は、こうした歩道や土地の権利について一般市民に示し、広める役割を担っている。

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「他のパブリックアクセス」と「アクセスランド」の記号
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アクセスランドは淡い黄色で塗られ、オレンジ色の枠で囲まれる
1:25,000 Eastbourne & Beachy Head
© Crown copyright 2020
 

古きものをこよなく愛する国民気質の表れか、遺跡の記載が多いことにも注目すべきだろう。考古遺跡は、ローマ時代とそれ以外を、注記のフォントで区別さえしている。下図右には、斜めに走るほぼ直線の道路があるが、これはローマン・ロード Roman Road(ローマ時代の軍事道路)のフォス・ウェー Foss way をなぞっている。そのため、周辺には当時の旧跡が点在しており、注記が各所に見られる。

こうした古代の道や鉄道の廃線跡 Dismantled Railway(下注)などの記載は、地表の状態を写し取るという地形図の趣旨を超えている。小道 Path などに再利用されているものはもとより、地表に痕跡がない区間でも、破線の間隔を狭めた特別な記号でルートを示しているからだ。廃線跡をこれだけ律儀に描いている地形図は、イギリス以外ではあまり見かけない。

なお、廃線跡の記号表示は1:50,000に限って見られるものだ。1:25,000では注記のみになるが、帯状に延びる地籍界によって廃線跡を識別することができる。

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遺跡や廃線跡の表示
廃線跡は1:25,000(左)では地籍界で判別できるが、
地籍界を描かない1:50,000(右)では別の記号で示される
OL45 The Cotswolds, 163 Cheltenham & Cirencester
© Crown copyright 2020
 

旅行情報 Tourist information もまた多彩だ。1:25,000の凡例には37種、1:50,000でも18種のピクトグラム記号が用意されている(下の画像)。さらに、トレールやサイクリングルートには円や菱形の記号が点々と置かれ、図上で容易にたどることができる。汎用図として見ると錯雑感がなくもないが、活用する人には専用地図に匹敵する価値があるだろう。

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1:25,000の旅行情報の記号群
 

地図は数年ごとに最新版に置き換えられるが、おのおのの版のことを「エディション Edition」と呼ぶ。1950年代から英数字方式で管理されており、大規模な改訂はアルファベット(A、B、C…)で、その間の小改訂は数字(1、2…)や記号(/* など)で表していた(例:A/*、A/*/*、B1、C2/)。これは地図の整飾部分にひっそりと書かれていたが、2015年6月版から省かれた。

OSの地図は、厚紙の表紙の中に折り畳まれている。これは1897年に1インチ図に導入されて以来の伝統だ。地図用紙の材質も早くから工夫され、普通紙と並んで、これにリネンの裏打ちを施した堅牢なバージョン(表紙に mounted on cloth と表示)があった。リネン紙版は1967年後半まで販売されていた。

最近はそれに代わるものとして、ラミネート加工紙版が登場している。ややごわごわするが、耐水・耐擦性があり、イギリスの変わりやすい天気に持ち出しても心配がない。これはブランド名に「アクティヴ Active」をつけて呼ばれ(例:ランドレンジャー・アクティヴ Landranger Active)、普通紙版と並行して刊行されている(下注)。

*注 販売サイトでは、普通紙が Standard、加工紙は Waterproof などと案内されている。

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ランドレンジャー・アクティヴの表紙の例
 

紙地図は、OSの公式サイトや、スタンフォーズ Stanfords をはじめ同国内のネットショップで販売され、国外にも送ってくれるので、入手は容易だ。モバイル用データも利用可能だが有償で、月ぎめか年ぎめで利用契約を結ぶ必要がある。

2015年からは、紙地図とモバイル機器とリンクさせる興味深いサービスが開始された。地図表紙に「モバイルダウンロード Mobile download」のロゴがついていれば、対象の商品だ。これは紙地図と同じ範囲のデジタルデータがダウンロードできるというもので、アクセスに必要なキーコードが表紙の裏面にスクラッチ印刷されている。説明書きによれば、デバイスに専用アプリをインストールし、このキーコードを入力すると、ダウンロードが可能になる。

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モバイルダウンロードのロゴがついた新表紙の例
 

OSは現在、ビジネス・イノベーション・職業技能省 Department for Business, Innovation and Skills の所管下にあるが、組織的には、特定の省庁に属さない事業執行機関 Executive agency だ。そして財務面では、担当事業の運営財源のうち 50%以上を自己収入で賄うことができるトレーディング・ファンド Trading fund とされている。そのため、地形図データの販売を積極的に行っており、OSのロゴをつけた民間事業者の出版物が多数出回っている。

このような事情もあって、OSではウェブサイトを含め、地形図を無償公開していない。しかし、OSの許諾を得たいくつかの民間サイトで閲覧が可能だ。また、刊行後50年を超えるものはパブリックドメインに移行するので、スコットランド国立図書館 National Library of Scotland などが公開サイトを構築している。各URLは「官製地図を求めて-イギリス」の「地図閲覧」の項を参照されたい。

ここまでイギリスの地形図の主な特徴を見てきたが、こうした実用本位の仕様はどのように形成されてきたのだろうか。全国測量が初めて実施された18世紀に遡って、時代順にその過程を追ってみよう。続きは次回に。

本稿は、Chris Higley, "Old Series to Explorer - A Field Guide to the Ordnance Map" The Charles Close Society, 2011; Richard Oliver, 'Ordnance Survey maps: a concise guide for historians' Third Edition, The Charles Close Society, 2013 および参考サイトに挙げたウェブサイトを参照して記述した。

■参考サイト
Ordnance Survey http://www.ordnancesurvey.co.uk/
The Charles Close Society https://www.charlesclosesociety.org/

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 北アイルランドの地形図・旅行地図
 マン島の地形図
 英仏海峡 チャンネル諸島の地形図

2020年2月 4日 (火)

半額カードで鉄道旅行-オーストリアの場合

個人で行く海外旅行では、交通機関の乗車券をどう調達するかがいつも思案のしどころだ。駅で逐一買い求めるのは時間もかかって面倒なので、おなじみのユーレイルパスや国別パスについ頼ってしまう。

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オーストリアの半額カード「フォアタイルスカード66」
 

ユーレイルのグローバルパス(フレキシータイプ)の場合、Eurail.com(販売サイト)では3日用が 217ユーロだ(下表参照)。1日当たり 72ユーロ(1ユーロ120円として8,640円)になる。7日用でも1日 48ユーロ(5,760円)かかる。1か国パスはそれより割安だが、たとえばオーストリアの3日用は 146ユーロで、1日 49ユーロ(5,880円)だ。

ちなみに、首都ウィーンからの2等運賃は、リンツまで 37.40ユーロ、ザルツブルクまで 55.60ユーロで、オーストリアの3日用(1日 49ユーロ)ではザルツブルクまで片道300km以上乗らないと元が取れない計算だ。拠点の宿に荷物を置いて、軽装で周辺を回るという旅のスタイルなので、いくら楽でも、毎日5000円以上も交通費にかけるのはどうかと思う。

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ユーレイルパスと通常運賃の比較
 

もっと安く行ける方法はないのだろうか。それで思い出したのが半額カードだ。これは、事前にそのカードを購入しておき、出札窓口で提示すれば運賃が半額になるというものだ。ドイツやスイスの例は知っていたので、オーストリアにもないかと調べたところ、「フォアタイルスカード Vorteilscard」という名称で売られていた。ドイツ語の Vorteil は英語の advantage、merit に相当することばで、要するに「お得カード」という意味だ。

参考までに、ドイツ語圏3か国の旧 国鉄が発行している半額カードの内容をまとめてみた。

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ドイツ語圏3か国の「半額カード」比較
 

ドイツ「バーンカード BahnCard」

Bahnはここでは鉄道を意味する。代表的なものは25%引になる「25」、50%引の「50」、フリーパスの「100」の3種(下注)で、有効期間は1年だ。さらに期間を3か月に縮めた「プローベ・バーンカード Probe Bahncard」もある。Probeとはお試しという意味で、1年カードがけっこう高額なため、最初は3か月カードでお試しください、というシステムだ。したがって、継続する場合は自動的に1年カードが送られてくる。

*注 記載の通り割引率はさまざまだが、以下では「半額」カードの呼称で記述する。

■参考サイト
DB (in English) https://www.bahn.com/en/view/index.shtml
> Offers > BahnCard

スイス「ハルプタックス Halbtax」

英語では Half Fare Card、まさに半額カードだ。本来1年有効だが、インバウンドの旅行者向けに1か月有効のカードが用意されている。自国民は購入できないので、SBB公式サイトでは、説明書きが外国人向けページにのみある(下記参考サイト参照)。そこでネット購入が可能だ。

■参考サイト
SBB (in English) https://www.sbb.ch/en/
> Leisure & Holidays > Travel in Switzerland > International guests > Swiss Half Fare Card

オーストリア「フォアタイルスカード Vorteilscard」

「クラシック Classsic」と「66」の2種類があるが、後者はネット専用で、前者に比べて価格を2/3に設定した新商品だ。

ネット専用とは何を意味するのだろうか。一つには、このカード自体がネット経由でしか購入できないということだ。二つには、このカードを使っての乗車券の購入も、駅の窓口ではできず、スマホのアプリ、ウェブサイトまたは駅の券売機(アウトマート Automat)で行わなければならない(下注)。つまりこれは鉄道会社の窓口応対を減らすための企画商品だ。

*注 券売機では、購入手続の途中でカード所持の有無を問う画面が出てくるので、半額カードを所持していると答えればよい。この段階では自主申告になるが、列車内の検札で通常、乗車券とともに半額カードの提示を求められる。

こうしたカードは、(旧)国鉄路線の運賃が割引かれるだけでなく、私鉄、路線バス、市内交通でも何らかの割引が効くことが多い。また、国際列車の乗車券では、国外区間についても、各国の国鉄が締結している RAILPLUS協定により、一律15%引になる(下注)。

*注 従来25%引だったが、2016年から割引率が見直された。

なお、カードの解約(自動継続の解除)については、注意が必要だ。表の欄外に各国のルールを記したが、ドイツと、スイスの1年用は解約手続きをとらないと自動継続となり、登録したクレジットカードから料金が引き落とされ続ける。一方、スイスの外国人向け1か月用は1回限り(解約手続不要)。オーストリアも継続する旨の書面を提出しなければ、1回限りだ。

比較表で明らかなように、オーストリアの半額カードはかなりお得だ。ドイツのプローベ50は3か月有効で80ユーロ(9,600円)、スイスの外国人向けは1か月で109ユーロ(120スイスフラン、13,080円)するが、オーストリアは「クラシック」でも年間99ユーロ、「66」ならわずか66ユーロ(7,920円)で済む。

これで乗車券がすべて半額になるのなら、使わない手はないだろう。さっそくÖBB(オーストリア連邦鉄道)のサイトで「66」を申し込むことにした。

■参考サイト
ÖBB (in English) https://www.oebb.at/en/
> Tickets & Customer Cards > ÖBB Customer Cards > ÖBB Vorteilscard

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ÖBBの半額カード紹介ページ(英語版)
 

新規の場合、まずアカウントを作る画面が現れる。メールアドレスやパスワード、氏名などを登録する。続いて、生年月日や決済用のクレジットカード情報を入力する。

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アカウントの作成
 

こうして購入手続きが完了すると、メールが送られてきた。メールの添付ファイルの中に、「This is your preliminary ÖBB Vorteilscard(これがあなたの暫定フォアタイルスカードです)」と記されたPDF文書があった(下の画像)。半額カードは購入日の翌日から有効なのだが、プラスチック製の生カードはウィーンから郵送されてくるので、届くのに時間を要する(日本へは1週間前後)。それまでは、自分でプリントした暫定カードで代用できるのだ(ただし暫定カードの有効期間は2週間)。

私は、旅行出発の前日に慌てて購入手続をしたので、とうてい間に合わない。それでこれをプリントして旅先に持っていき、車内検札で提示した。生カードも、留守宅にちゃんと届いていた(冒頭写真)。

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暫定カード
 

次の課題は、このカードでどうやって切符を購入するかだ。駅の券売機で紙の乗車券を買ってもいいのだが、今回はスマホでモバイル乗車券を購入する方法を実践してみた。最近注目されている MaaS(マース、下注)の機能を有するシステムだ。

*注 MaaS (Mobility as a Service) は、情報通信技術を活用して移動手段をシームレス化する次世代交通システム。後述するとおり、ÖBBのシステムは、鉄道、バスなど公共交通機関を組み合わせたルート検索や乗車券購入が可能。

ÖBBはユーザサービス用のアプリを提供している。アプリストアで「Oebb(下注)」を検索し【画像1】、これをインストールした。詳細は省略するが、画面の指示どおり、さきほど登録したアカウントを入力すると、アプリに情報がセットされる。半額カードの番号も登録される。

*注 「Oe」は「Ö(オー・ウムラウト)」の代用文字。

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【画像1】専用アプリを検索
【2】初期画面はドイツ語、左上メニューから…
【3】アカウント情報の変更画面へ
 

アプリを起動すると、初期画面【画像2】はドイツ語だ。このままでは心もとないので、画面左上のメニュー > Mein Konto (My Account) 【画像3】から、 Deutsch(ドイツ語)【画像4】を English にした【画像5】。初期画面に戻ると、「Tickets and Services」と、表示が英語に変わっている【画像6】。

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【4】Deutsch(ドイツ語)を…
【5】Englishに変更、左上矢印から…
【6】初期画面に戻ると英語版に
 

では、試しに乗車券を買ってみよう。まず、乗車日とおよその時刻を入力する【画像7】。現在の時刻が表示されているので、これでよければこのまま、別の日時ならそのように修正する【画像8】。入力したら右上の DONE をタップする。

次に、出発駅と到着駅を入力する【画像9】。タイピングしていくと駅名の選択肢が表示される。この例は、ザンクト・ペルテン St. Pölten からキーンベルク・ガーミング Kienberg-Gaming という場所(バス停)まで、保存鉄道(イプスタール鉄道山線 Bergstrecke Ybbsthalbahn)に乗りに行ったときのものだが、このように鉄道だけでなく、路線バスの停留所も検索できる。

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【7】乗車日と時刻を入力
【8】入力したらDONEをタップ
【9】出発駅と到着駅を入力
 
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【10】切符の種類を選択
【11】旅程を選択
【12】切符のオプションを選択(ウィーン~リンツ間の例)
 

駅名を入力し終えると、この画面【画像10】になった。赤が片道乗車券、青は定期券、グレーは乗車券をすでに持っていて、座席指定だけする場合に使う。

片道乗車券をタップすると、候補となる旅程が複数表示される【画像11】。目的地は田舎につき、2時間間隔のローカル便(鉄道から路線バスに乗継)しかないが、主要幹線を経由するときはレールジェット(特急)などの優等列車も複数表示される。今回は、現実的な選択肢が8時05分発しかないから、これを選択しよう。

タップすると、次は切符のオプションを選択する画面になる(下注)。旅程に優等列車が含まれている場合、1等席へのアップグレードや座席指定ができる(座席番号は指定できない)【画像12】。目的地の市内交通乗車券なども一緒に買える。

*注 この時点で乗継時刻など行程の詳細を知りたいときは、画面下の「Journey Preview」をタップすると表示される。

2等の座席指定は本来3ユーロかかるが、半額カードのおかげでなんと1ユーロ(120円)だ。通常満席にはならないから自由席で十分とはいえ、日や時間帯によっては混雑する列車もありうる。その場合、画面に「座席指定を推奨します」と親切な注意書きが表示されるので、1ユーロを惜しまないようにしたい。

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半額カードと正規運賃の比較
【13】ザンクト・ペルテン~キーンベルク間
【14】ウィーン~ザルツブルク間
 

次はいよいよ決済だが、その前に、提示されている8.90ユーロはほんとうに半額なのか、というさもしい疑問がふと脳裏をかすめた。後で確かめてみると、ザンクト・ペルテン~キーンベルク間は、アプリの 8.90ユーロに対して、ÖBBサイトで検索した通常運賃は 14.90ユーロだった【画像13】。1-8.90÷14.90=0.403、約4割引で、半額には届かない。ただし、この旅程はローカル線と田舎のバス路線を乗り継ぐため、割引率が異なる可能性がある。

よりメジャーな区間で試すと、ウィーン~ザルツブルク間はアプリで 27.80ユーロ、ÖBBサイトでは 55.60ユーロだった。まさに半額だ【画像14】。他の区間でも調べてみたが、ローカルルートでは半額に達しないケースがあるものの、幹線系では看板に偽りはなかった。

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【15】乗車券を買う。買物かごに入れて
【16】支払ボタンをタップ
【17】購入完了
 

納得したところで、乗車券を購入しよう。右上の「Add to Basket(買物かごに加える)」をタップし【画像15】、次の画面で、「Pay now(今支払う)」をタップすると【画像16】、「Thanks for buying from us!(ご購入ありがとうございます)」と表示され、これで購入完了だ【画像17】。代金は、登録したクレジットカードから引き落とされる。乗車券は【画像17】の円で囲んだ矢印をタップすると表示されるが、もし間違って買ってしまったというときは、3分以内なら「Undo purchase(購入を取消す)」でキャンセルできる。

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【18】乗車券。下の方にアズテックコード(画像を加工)がある
【19】座席指定した場合の乗車券
【20】指定席券
 

乗車券はドイツ語表記で、英語版はない。下へスワイプしていくと、QRコードのようなもの(名称はアズテックコード AztecCode)が見える【画像18】。車内検札ではこれを見せると、車掌が手持ちのタブレットで読み取ってくれる。

座席指定も選択した場合は、乗車券画面の右上に1/2と表示されており【画像19】、2/2が指定券になっている【画像20】。指定券の列車番号、車両番号、座席番号(Fenster=窓側、Gang=通路側)を確認して、席につこう。

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【21】購入後の初期画面。購入済みの切符の情報が表示される
【22】旅程の詳細表示
 

購入した切符の情報は、アプリを立ち上げたときの初期画面にも表示されている【画像21】。それで「発車まで12分、ホームは6番C-D」という表示を気にしながら、駅へ向かうことになる。これをタップすれば、乗継ぎや発着ホーム、さらには遅延状況など旅程の詳細も確認できる【画像22】。また、万一予定の列車に乗り遅れた場合でも、2時間以内に発車する列車であれば、乗車券は有効だ。

このアプリの長所は、ルート選択と乗車券購入がリンクしており、しかも半額割引が自動で適用されるという点だ。また、レールパスでは対象外の、市内交通(地下鉄・トラム・バス)や地方の路線バスにも対応している。これなら間違った切符を買ってしまうリスクはまずないし、宿にいるうちに購入手続を完了しておけば、列車の発車時刻を見計らって宿を出ればよい。窓口や券売機の前に並ぶ時間を見込まなくていいのは、大きなメリットだ。

ただし、乗車券の情報はすべてスマホに格納されているから、当然のことだがスマホの紛失や破損、そうでなくても電池切れには要注意だ。また、山間部では通信圏外、繁忙期にはÖBBサイトの混雑という可能性もあるので、乗車中は、不意にやってくる検札に備えて、乗車券画面を裏画面で立ち上げたままにしておくのが望ましい。

最後に、半額カード利用の総決算をご報告しておきたい。本当にお得だったのかどうかの検証結果だ。

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半額カード利用の総決算
 

今回、主としてオーストリアと周辺国を正味13日間旅したが、ÖBBに支払った金額は、カード購入費用 66ユーロと運賃 327ユーロで、計 393ユーロだ。正規運賃を計算すると 557.50ユーロになるので、差引 164.50ユーロ、円換算で約2万円節約できたことになる。支払運賃が正規の半額に届かないのは、割引率が異なる国際列車の乗車券や市内交通の乗車券などもこれで購入したからだ。

ちなみにユーレイルの国別パスを使ったとすると、少なくとも10日分、519ユーロ必要になるので、半額カードによる支払額を超える。加えてバス・トラムや国際列車の国外区間などは別途支払うことになるから、正規運賃の 557ユーロをも上回ってしまうことは確実だ。

このように、一括前払い型のレールパスほどの簡便さはないものの、コストパフォーマンスの点で半額カードは圧倒的だ。また、毎回乗車券を購入するという面倒な手続きも、モバイル乗車券というツールを使うことでかなり軽減されることがわかった。旅費の節約をお考えなら、試してみる価値はあると思う。

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