火山急行(ブロールタール鉄道) II
車掌氏からもらった火山急行 Vulkan-Express の沿線案内は続く("Tour-Info on Brohltalbahn" 英語版を和訳、内容一部略)。
![]() 整備工場の前の蒸気機関車 11sm |
「私たちの旅は、標高67mのブロールBEで始まります。ここに鉄道の本部があり、絵のような小さな駅舎、側線、機関庫、修理工場があります。ここで機関車と客車は保守され、修理されています。」
「駅を勾配で離れると、すぐに線路はブロールバッハの谷へ左折し、続く12kmの間それに沿って走ります。少し行くと、初めて主要道を横断し、すぐに鉄橋でブロールバッハ Brohlbach を渡ります。線路は主要道と並行しており、時速20kmで安定して走るので、追い越していく多くのドライバーに手を振るチャンスがあります。機関車の警笛がドライバーに、踏切で停止するよう促すでしょう。」
![]() ブロールバッハの谷を行く火山急行(帰路撮影) |
「もう少し上り、小川を渡ると、近くの城の名にちなんだシュヴェッペンブルク Schweppenburg 停留所(下注)に着きます。続いて、今でもトウモロコシを粉に挽くのに水力を使用する数少ない製粉所の一つ、モーゼンミューレ Mosenmühle があります。テーニスシュタイン鉱泉 Tönissteiner Sprudel の看板は、ローマ人が既に2千年前に使っていたドイツ最古の鉱泉の一つへ行く道を示しています。」
*注 正式名はシュヴェッペンブルク・ハイルブルンネン Schweppenburg-Heilbrunnen。リクエストストップにつき、実際には通過することが多い。後述のヴァイラー Weiler とブレンク Brenk も同じ。
![]() 地形図にブロールタール鉄道のルートを加筆 黒の破線は廃止区間 Base map from bergfex and OpenStreetMap, License: CC BY-SA |
「ここで谷が狭まり、勾配が1:40(25‰)に高まります。エンジン音からそれが聞き取れ、速度の低下に気づくはずです。約1km進んだ後、谷の高みにある次の停留場バート・テーニスシュタイン Bad Tönisstein で停まります。小さな緑色のブリキ小屋が、列車を待つ旅人に休む場所を提供します。谷の反対側に、柔らかい凝灰岩に掘られたいくつかの洞穴が見えますが、この地質は、ラーハ湖火山 Laacher See Vulkan の激しい噴火の後(下注1)、谷を巻き下りてきた火山灰がとどまってここに堆積したものです。柔らかい石は最初ローマ人が建築用の石に用いましたが、粉砕すれば、水中で硬化するコンクリートとして使えます(下注2)。」
*注1 爆発により火山は陥没し、カルデラ湖である現在のラーハ湖 Laacher See が生じた。ブルクブロールの南5kmに位置するこの湖は、面積3.3平方kmでアイフェル最大。
*注2 トラス Trass と呼ばれる特産の凝灰岩で、特にオランダで干拓事業に用いられた。
![]() (左)バート・テーニスシュタイン停留所の緑色の待合所 (右)テーニスシュタイン高架橋を渡る |
「カーブを回り、着実に上るとすぐ、長さ120m、高さ12mの『テーニスシュタイン高架橋 Tönisstein Viadukt』で再び谷を渡り、いったん長さ95mのトンネルに潜ります(下注)。さらに少し上ると、標高145mのブルクブロール Burgbrohl 駅に着きます。駅舎は、地元産の石材とハーフティンバーの塔部から造られ、一部にスレートを葺いた、路線で最も美しいものです。」
「短時間停車した後、また上り、谷のへりに沿って家並みの裏手を進むと、向こう側に古城のそびえるブルクブロールの村を見渡すことができます。」
*注 テーニスシュタイン高架橋は路線で最大規模の高架橋で、蒸気列車の撮影ポイントでもある。また、テーニスシュタイントンネルは路線で唯一のもの。
![]() (左)テーニスシュタイン高架橋、列車の最後尾から撮影 (右)渡り終えると路線唯一のテーニスシュタイントンネル |
![]() (左)見栄えのするブルクブロール駅舎 (右)A61号線の高架橋の下を通る |
「次はヴァイラー Weiler に停車します。ここにある側線は、巨大なヘルヘンベルク Herchenberg の採石場が使っており、かつて非常に多忙だった積み出し駅の唯一の忘れ形見です。ここから谷が広がり、遠方にもう火山起源のアイフェル山地の丸い山頂が見えています。A61号線を載せる巨大な道路橋の下を通ります。」
「右手、その隣に高さ340mのバウゼンベルク Bausenberg のクレーターがあります。約14万年前のもので、ヨーロッパで最もよく保存された馬蹄形の火口です。ニーダーツィッセン Niederzissen(下注)を通り、しばらく主要道と小川に沿ってオーバーツィッセン Oberzissen へ進んでいくと、アイフェルの高い山々に囲まれた畑や牧草地や小さな森のある美しい田園風景が楽しめます。」
*注 ニーダーツィッセンは往路の休憩地で、時刻表では7分停車。通常施錠されている駅のトイレがこのときだけ開放される。
![]() (左)ニーダーツィッセンは往路の休憩地 (右)オーバーツィッセンの町を後にして、50‰の急勾配に挑む |
「オーバーツィッセン駅を発車後、この路線が山岳鉄道と呼ばれる理由を実感することができるでしょう。というのは、鋭い左カーブで谷を離れ、美しい3径間のアーチ橋で通りをまたぎ、最後の、そして最も壮大な旅の区間にさしかかるからです。勾配は、続く5.5kmの大部分で 1:20(50‰)と険しくなります。1934年までここはラック鉄道でしたが、より強力なエンジンによってラックなしで上れるようになりました(下注)。」
*注 開通時はアプト式(2枚レール)ラック区間だったが、マレー式機関車や旅客輸送用の気動車の導入により、ラックレールは1934年に撤去された。
「急坂に入ると、エンジンが必死に働いているのが聞こえてきます。速度は徒歩並みに落ちますが、これは、ほかにはないアイフェルの田舎、畑や牧草地や森がゆっくりと客車の窓を通り過ぎるのを眺める時間を与えてくれます。列車の騒音で鹿がたいてい逃げていく一方で、線路のそばに放たれている馬はそれに慣れています。」
「右手には、古い火山の丘の上にオールブリュック城 Burg Olbrück が見えます。それは975年に遡り、何度か増築されました。フォン・ヴィート伯爵 Graf von Wied によって建てられたこの城は、1689年にフランス人によって破壊され、その後は地元民が石採り場として使っていました。2000年に城の欠損部が復元されて、今では巨大な塔に登り、上から壮大な景色を楽しむことができます。晴れた日には約50km離れたケルン大聖堂が見えるのです!!」
![]() 古火山に立つオールブリュック城と麓の村ハイン Hain |
「列車は3km上った後、ブレンク Brenk で側線と採石場の建物を通過します(下注)。ここではフォノライトが採掘されています。火山岩は粉砕されて細粒となり、コンテナでガラス工場に出荷されて、高品質のガラスの生産に使われます。利点の一つは融点を下げることで、コスト削減に役立ちます。採石場は、路線上の定期貨物輸送で唯一残っている顧客です。」
*注 ブレンクの採石場はシェルコプフ Schellkopf という火山をまるごと採掘しており、すでに山の形を成していない。乱開発を防止するため、他の火山群は自然保護区に指定されている。
「もうひと踏ん張りです! 美しい森の中を少し上り、それから高い築堤で谷を渡り、木々が列をなす切通しを抜けて再び開けた土地へ出ていきます。警笛の爆音が、17.5kmの旅を終えて標高465mの終着駅エンゲルン Engeln に到着したことを伝えてくれます。」
![]() (左)複線に見えるのはブレンク貨物駅の側線 (右)木々が列をなす切通しを抜ける。終点まであと少し |
「ここが路線の終点ですが、かつてはケンペニッヒ Kempenich の村まであと5km(下注)走っていました。残念ながら、その区間の線路は1974年に撤去されました。」
*注 ドイツ語版ウィキペディアでは、エンゲルン~ケンペニッヒ間は6.32km、廃止日が1974年10月1日で、撤去は1976年としている。
「エンゲルンからは、バスで旅を続けるか、標識の整ったハイキングルートを歩くか、あるいは駅のビュッフェで短い休憩と軽食をとった後、起点のブロール駅に列車で戻りましょう。」
![]() エンゲルン駅 (左)乗客は火山食堂で休憩 (右)すぐに機回し作業が始まる |
![]() 折返しの発車準備完了 |
◆
そのエンゲルンでは折返しの発車まで30分の待ち時間があり、その間に機回し作業が行われる。駅舎は1997年に改築された木造の平屋で、ブルカーンシュトゥーベ(火山食堂) Vulkanstube と名付けられた軽食堂が開いている。乗客はここで休憩をとることができる。
駅の周囲は緩やかにうねる農地が広がり、人家は、西へ少し行った丘の麓にあるエンゲルンの小さな集落だけだ。地形的には高原の分水界で、なぜここが終点なのか、不思議に思う人もいるだろう。ケンペニッヒへの末端区間が廃止されたとき、ここに線路が残されたのは、一つ手前のブレンクでフォノライト(響岩)の貨物扱いが継続中だったからだ。ブレンクは急勾配区間に挟まれて手狭なため、坂を上り切ったエンゲルンを折返し駅にしたようだ。
線路に沿ってケンペニッヒ方へ少し歩いてみる。線路は駅舎から200mほどで途絶え、跡地はいったん畑に取り込まれた後、農道に姿を変えて続いていた。北を望むと、火山起源ののっぺりとした緑の丘(エンゲルナー・コプフ Engelner Kopf)を背景に、菜の花が満開で畑を黄色に染めている。のどかな春の景色に心が和んだ。
![]() エンゲルン駅周辺 火山起源の丘を前にして黄色に染まる菜種畑 |
復路では、予定通りオーバーツィッセンで蒸気機関車 11sm に引き継がれて、ブロールに着いた。一仕事終えた蒸機は、側線を伝ってエンゲルン方にある修理工場の前まで行き、石炭と水の補給を受ける。工場の扉は開放されていて、見学が可能だ。4軸ボギーの大型ディーゼル機関車 D5 や、改修中の気動車 VT30 がこの中にいた。
![]() ブロール駅構内で、石炭の補給を受ける蒸気機関車 11sm |
![]() ブロール駅の整備工場 (左)大型ディーゼル機関車 D5 (右)気動車 VT30 は改修中 |
◆
工場の手前から、ライン河港へ行く支線が右へ急カーブしていく。このいわゆる港線 Hafenstercke は、河畔まで実質500mほどの間に、DB線、連邦道と、難しい障害物をまるで軽業師のようにクリアしていくのがおもしろい。ブロールタール鉄道探訪の最後に、鉄道模型顔負けのこのユニークな軌跡を歩いて追ってみた。
![]() ブロール付近の1:25,000地形図 基図は GeoBasisViewer RLP から取得 © Landesamt für Vermessung und Geobasisinformation Rheinland-Pfalz 2018 |
まず線路はS字カーブを切りながら、高架に上がった連邦道412号線と平面交差する。次に、その高度を維持したまま、駅前通り Bahnhofstraße とDB線を乗り越える。高架橋の橋台には鉄道名の立体文字板が誇らしげに掲げられ、DB線を走る列車からも一瞬見える。かつてこれは、仕込まれたネオン管で光っていたらしい。
DB線に並行して下り勾配を下りたところが、ブロール積替駅 Brohl Umladebahnhof のヤードだ。標準軌のDB線と接続しているので、線路は大部分3線軌条化されている。構内北端にはブロールタール鉄道の機関庫の建物も残っているが、もはや使われていない。
![]() (左)工場の手前で右へ分かれていく港線 (右)連邦道412号線と平面交差(ブロール方を望む) |
![]() (左)右上写真の反対側を望む。下路トラス橋でDB線を越えている (右)左写真のトラス橋を412号線の跨線橋から望む |
![]() (左)トラス橋の橋台にある鉄道名の立体文字板 (右)ブロール積替駅、構内はほとんど3線軌条 |
港へ向かう線路は、構内の北東で分岐する。ここでもS字を切りながら、通行量の多いライン左岸の主要道、連邦道9号線を大胆にも平面で横断し、河畔に出る。岸辺のビアガーデンの前に低いプラットホームがあり、「ブロール・ラインアンラーゲン(ライン埠頭)Brohl-Rheinanlagen」と記された駅名標が立っていた。毎週火曜日になると、ここに火山急行の特別列車が停まり、ライン川の観光船から降りてきた客を迎えるのだ。訪れた日曜日はビアガーデンが大賑わいで、ホームはすっかり客用駐車場にされていたが…。
3線軌条は、港の護岸に沿ってなおも北へ延び、ブロール・ハーフェン(港)Brohl Hafen の貨物駅に達する。粉塵の飛散を防ぐため、鉄道が運ぶフォノライトはコンテナ方式に移り、ブロール積替駅でトラックに引き継がれるようになった。それ以来、港の駅は仕事を失い、吹き通るラインの川風が、静かな水面にさざ波を立てるばかりだ。
![]() (左)港へ向かう3線軌条、連邦道9号線と平面交差 (右)ライン河畔を走る |
![]() ラインアンラーゲン(ライン埠頭)停留所 (左)プラットホームと駅名標(画面左端) (右)河岸には、火山急行のロゴを掲げたライン川観光船の船着き場が |
![]() (左)3線軌条は河港へ延びる (右)静まりかえるブロール・ハーフェン(ライン河港) |
■参考サイト
火山急行 http://vulkan-express.de/
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