地形図を見るサイト-オランダ
2009年にオランダの官製地形図について少し調べたことがある(「オランダの地形図」参照)。それから早や9年、しばらくご無沙汰しているうちに、地形図サイトがすっかり様変わりしていた。
「テイドライス」で見る1934年のデルフト フェルメールの街がアップルグリーンの牧草地の中にくっきりと浮かぶ |
オランダの国土測量はカダステル Kadaster(地籍局)という機関が担っているのだが、当時は historiekaart.nl(historiekaart は古地図の意)というサイトが提供され、グーグルの空中写真と対比しながら1829~1949年の1:25,000地形図を縦覧することができた。また、それとは別に、19世紀の軍用地形図を含むオランダの古地図が見られる watwaswaar.nl(Wat was waar は、何が真実だったのかの意)というサイトもあった。オランダはこうした古地図を収録した地図帳(アトラス)の刊行も盛んで、モニター画面と印刷物の両方で、19世紀前半から現代までさまざまな地形図を渉猟できたのだ。
ところが、今見ると上記のサイトはどちらも消えて、カダステルは新たに、時間旅行を意味する「Tijdreis(テイドライス)」という閲覧サイトを開設している。1815年に地形測量局 Topographisch Bureau が設立されて200年になるのを記念して、この間の国土の変貌を地図でたどるためのサイトだ。
(記述は2018年1月現在の仕様に基づく)
◆
Tijdreis(テイドライス) http://www.topotijdreis.nl/
「テイドライス」初期画面 |
初期画面では、1925年のオランダ全図が現れる。時代的には戦間期で、南西部ゼーラント州 Seeland の陸化は完了し、ゾイデル海 Zuiderzee(現在のアイセル湖 IJsselmeer)の大規模干拓事業が始まった段階だ。地図は1929年から1:400,000行政区分図 Gemeentekaart に置き換わり、1937年にはその図上にゾイデル海を締め切る大堤防 Afsluitdijk が現れるはずだ。
「テイドライス」のバナーや右上のiのアイコンをクリックすると、オランダ語の解説が表示される。「よくある質問 Veelgestelde vragen」が含まれているので、日本語に訳しておこう。
Q:どのブラウザならアプリを最適に見られますか?
A:ブラウザの最新バージョンを使用することをお勧めします。このアプリは、Google Chrome と Mozilla Firefox で最もよく作動します。
Q:初期の地図と現代の地図では位置の変動がありますが、どうしてですか?
A:クライエンホフ図 Kraijenhoff-kaart と郵便路線図 Postroutkaart の絶対位置は、相互間や他図との間で大きく異なります。差異は最大15kmに達することがあります。これは、地図作成の基準に適用される非常に単純な投影法に関係しています。加えて、縮尺が一定でないことが問題です。縮尺は、地図のデジタル統合によって改良されましたが、地図画像の歪みを正しく修正することはできません。この歪みは主に、曲がるべき緯線が直線で描かれているという事実から来るものです。クライエンホフ図の利用で重視したのは、地図相互間の良好な接続であり、歪みを解決することではありません。
Q:このアプリではどの地図が見られますか?
A:いくつかの古い縮尺図が、このアプリの地図コレクションに使用されています。コレクションには1815~2015年の期間が含まれ、以下の地図シリーズの複数の版があります(下注)。
・小縮尺: 1810年郵便路線図 Postroutkaart、ネーデルラント全図 Algemene Kaart Nederland および行政区分図 Gemeentekaart
・やや中縮尺: クライエンホフ図 Kraijenhoffkaart
・中縮尺: 軍用地形図 Topografische Militaire Kaart (TMK) RD050(1:50,000)
・大縮尺: ボンヌ区分図 Bonnebladen および軍用地形図 RD025(1:25,000)
*注 1810年郵便路線図は、ナポレオン時代の道路網(郵便馬車ルート)を描いた古地図で、図上約13cmで徒歩10時間の距離を表す。
クライエンホフ図は、1798~1822年に作成(印刷は1809年~)されたオランダ最初の全国規模の地形図で、縮尺は1:115,200。
軍用地形図 TMK は、1850~64年に作成された石版単色刷り、縮尺1:50,000、全62面の地形図シリーズ。
ボンヌ区分図は、TMK完成後の1865年から作成された多色刷り、縮尺1:25,000の地形図で、1884年ごろに全土をカバーした。名称はボンヌ図法に由来。
Q:地図はどのくらいの縮尺で表示され、どの投影法が使われているのですか?
A・地図は複数の縮尺で構成され、1:12,288,000(レベル0)から1:6,000(レベル11)までオランダの更新スケジュールに従ってデータが表示されます。使用している地図投影法は、国定三角図法 Rijksdriehoekstelsel です。
地勢をケバで表現する1:50,000軍用地形図 (TMK) レーネン Rhenen 付近 |
手描きのタッチが味わい深い1:25,000ボンヌ区分図 ネイメーヘン Nijmegen 旧市街 |
このサイトは Esri のシステムを利用しており、操作は単純でわかりやすい。
特定の地域を表示するには、検索窓で地名(例:Amsterdam)を指定する。
地図を拡大縮小するには、左上の+-ボタンを使うほか、画面をダブルクリックしても一段階ずつ拡大する(shift+ダブルクリックは効かない)。また、マウスホイールを使うと、連続的に拡大縮小できる。Shiftキーを押しながらマウスで矩形を描けば、その範囲を拡大できる。
任意の時代を指定するのも3通りのやり方があり、一つは、時間バーの上にある年次のドロップダウンリストから選ぶ方法、二つ目はバー上のポインターをスライドさせる方法、そして三つ目はバー左端のグレー部分の任意の箇所をクリックする方法だ。
時代を連続的に変えるには、左上のプレイボタンをクリックする。画面は1年ずつゆっくりと進んでいくが、地形図の更新間隔は一般に数年おきのため、表示内容に変化のない期間も当然ある。
画面操作はこれだけだ。別の言い方をすれば、これしかできない。ただ地表の変化を眺めて楽しむだけなら問題は少ないが、資料として活用するには物足りなさが募る。たとえば、シームレス画像であっても、もとの地図の属性情報(縮尺、図名、作成年次など)は何らかの形で表示できるようにすべきだろう。画面に縮尺(スケールバー)の表示がないのも不親切だ。
また、画面解像度の関係で細かい注記文字が読めないため拡大しようとすると、自動的に大縮尺の地図に置き換わってしまう。結局、細部を確認できるのは、その時代で最大縮尺の地図(1:25,000など)だけになる。元のファイルがいくら高解像度で作成されていても、これでは宝の持ち腐れだ。フランスのように縮尺別のレイヤーに分けるか、詳細画像のダウンロード機能を付加すれば、この難点はカバーできると思うのだが(下注)。収載図はどれも高品質で絵画的にも美しいものばかりなので、仕様が改良・拡張され、より洗練されたサイトに進化する日を待ちたい。
*注 ダウンロードや印刷は別途有料サービスがあるため、それへの影響を懸念しているのかもしれない。
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現行地形図を見るだけなら、公的な地理情報を一括している PDOK Viewer(PDOK=Publieke Dienstverlening Op de Kaart(地図での公共サービスの意))のサイトのほうが、同じ縮尺図を拡大縮小でき、画像も鮮明だ。PDOKは、カダステルをはじめ、社会基盤・環境省、経済省、水資源局 Rijkswaterstaat などが共同出資する公共企業体で、全国規模の地理情報をウェブサイトで提供している。
PDOK Viewer https://www.pdok.nl/viewer/
PDOK Viewer 画面で、TOP25raster を表示 |
初期画面の左メニューが、閲覧できるデータの一覧(ABC順)だ。ツリーを下へスクロールしていくと、TOP10NL、TOP25raster などの地形図データが見つかるはずだ。ちなみに名称の TOP は Topografisch(地形の)、25は縮尺1:25,000、raster はラスタデータを意味する。左端の-をクリックして表示される下位項目(下注)にチェックを入れると、該当データが中央のビューワーに現れる。地図はレイヤーになっており、後述する方法で透明度を調整したり、重ね順を入れ替えたりできる。
*注 項目名の末尾にある tms (Tile Map Service), wmts (Web Map Tile Service), wms (Web Map Service) はウェブマッピングの仕様を示しているが、閲覧だけならどれを選んでも問題ない。画像をコピーするときは wms を使うとよい(tms, wmtsでは256×256 pixの小さなタイル単位になってしまう)。
注意すべきは、オランダ全土が表示されている初期画面では、チェックボックスがアクティブにならないものがあるということだ。各縮尺図は、表示できる画面縮尺に一定の範囲があり、それ以上でも以下でも選択ができない。+-のボタンかスケールバーで地図を拡大/縮小していくと、どこかの時点でチェックボックスがアクティブに転じる(色がグレーから黒に変わる)のが確認できるはずだ。
レイヤーの透明度を調整するには、左メニューの Actieve Lagen(アクティブレイヤーの意)の右の+をクリックし、該当レイヤーの透明度バーを適宜スライドさせる。
レイヤーの重ね順を変えるには、該当レイヤーのサムネールを変えたい位置にドラッグドロップする。
メニューを畳むには、右上端の≫をクリックする(右側の凡例も同じ)。
地図をプリントする機能は見当たらず、ブラウザの印刷機能を使うか、コピーした画像ファイルから印刷するしかないようだ。なお、PDOKで公開されているデータ(地図画面に CC-BY の著作権表示があるもの)は、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスに従って、無償かつ自由な使用が許されている。
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最後に官製地形図そのものではないが、それをしのぐ完成度を誇るオランダ全土のデジタル地形図をお目にかけよう。上記PDOKビューワーのデータツリーにも名が挙がっている OpenTopo だ。閲覧はPDOKで試していただくとして、これを大サイズのJPEG画像でダウンロードできるサイトがある。
OpenTopo.nl http://www.opentopo.nl/
OponTopo.nl 初期画面 |
提供される縮尺は6段階で、100pix/km(実長1kmあたり画素数100ピクセル)は1:100,000、200pix/kmは同 1:50,000、400pix/kmは同 1:25,000に相当するという。最大縮尺は3,200pix/kmで1:3,125相当と非常に詳細なデータが得られる。等高線は2.5m間隔(100pix/kmでは省略)と官製図と同等で、かつ地勢を表すぼかしが入り、地図記号もより多彩だ。地形はカダステルの Top10NL、建物は地方自治体、水路は水資源局 Rijkswaterstaat の公式データを使用し、OpenStreetMap と組み合わせているという。
カダステルの官製地形図と同じエリアを比べてみよう(下図参照)。まずアムステルダム中心部だが、左の1:25,000官製図では市街地が面塗りで埋められ、施設の注記は、著名な観光地でもある国立美術館 Rijksmuseum、計量所 Waag、アンネ・フランクの家 Anne Frankhaus、マヘレの跳ね橋 Magere Brug 程度だ。一方、右の OpenTopo では建物の平面形が読み取れ、主要施設の注記もかなりの量に上る。地図を携えて街歩きが可能なほど、情報が豊富であることがわかるだろう。
官製地形図(左)と OpenTopo (右)の比較 アムステルダム旧市街 |
次は北海沿岸のリゾート、エフモント・アーン・ゼー Egmond aan Zee の周辺だ。海岸砂丘の複雑な起伏が、 OpenTopo では等高線を読まずとも、ぼかしによって直観的に、かつ詳細に確かめられる。官製地形図(1:25,000、1:50,000など)でもかつては砂丘にぼかしをかけていたのだが、1990年代に改訂された新図式で省かれてしまい、現在は等高線だけになっている。訴求力の点でどちらが勝るのかは敢えていうまでもない。
同 エフモント・アーン・ゼー |
使用した地形図の著作権表示 © Kadaster, 2018, © OpenTopo, 2018
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