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2017年6月24日 (土)

ニュージーランドの1:50,000地形図

ニュージーランドは、2つの大きな島と周辺の小島から成る国だ。北島は本州の約1/2、南島は同じく約2/3の広さがあり、雄大な自然美で冒険好きの人々を惹き付けてきた。代表的な景観を挙げれば、北島ではトンガリロ国立公園やタラナキ山(エグモント山)に代表される際立った風貌の火山群、南島では背骨を成すサザンアルプスの氷河や、西岸の険しいフィヨルドだろうか。変化に富んだ地形はまた、それを写し取る地図に対する興味をも刺激し続ける。

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南島、ミルフォードサウンド
Photo by Wikikiwiman at English Wikipedia.
 

同国の地形図はかつて土地測量局 Department of Lands and Survey(1987年から、測量・土地情報局 Department of Survey and Land Information)が製作していた。1996年の組織改革により、同局はニュージーランド土地情報局 Land Information New Zealand、略称 LINZ に再編され、その際、測量事業部門が切り離されて、新設の国有企業 テラリンク・ニュージーランド有限会社 Terralink New Zealand Ltd に移管された。1998年からはさらに競争入札で民間委託されるなど事業の扱いは二転三転したが、2007年にLINZの直営に戻されて、現在に至る。

LINZは、ウェブサイトでの全面公開や二次利用の許諾など地図利用の制限緩和を進めるかたわら、採算的には厳しい紙地図(オフセット印刷図)の供給も維持している。多様なニーズに応えようとするニュージーランドの地形図事情について、3回にわたり紹介したい。

ニュージーランドの本格的な地形図作成は、まだイギリスの自治領だった1930年代に始まる。軍事戦略問題を研究する帝国防衛委員会 Committee of Imperial Defence が、全国の詳細な地形図の開発を政府に求めていた。その背景には、アジア・太平洋圏への進出拡張を図る日本に対する強い警戒心があった。

航空写真測量による最初の1マイル1インチ地形図(略してワンインチマップ 1 inch map と呼ばれる)は、1939年に刊行されている。これはイギリスの方式に倣った、実長1マイルを図上1インチで表す縮尺図だ。分数表記では1:63,360とされる。NZMS 1(下注)と呼ばれたシリーズは、1947年の国家独立後も作成が続けられ、1975年に360面で全土をカバーした。更新はその後も1989年まで行われた。

*注 NZMS は New Zealand Mapping Service の略。ニュージーランドの政府刊行地図は「NZMS+シリーズ連番」の形で体系化されている。1マイル1インチ地形図は、図郭が東西45km×南北30kmの範囲、地勢表現は100フィート間隔の等高線とぼかし(陰影)による。

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1マイル1インチ地形図の例
南島カイアポイ Kaiapoi 周辺
Sourced from NZMS 1 Map S76 Kaiapoi. Crown Copyright Reserved.
 

同国では1969年にメートル法が採用されたが、そのときはまだ、NZMS 1が南島のフィヨルド地方で完成していなかった。そこで、当面このシリーズで全土を覆うことが優先されたという。しかし並行して、メートル法による新しい地形図の研究も進められた。NZMS 1の完成から間もない1977年には、縮尺1:50,000による新シリーズ NZMS 260 の刊行が開始されている。これは1997年に296面で全土をカバーし、2007年まで更新が続けられた。

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NZMS 260シリーズ表紙
(左)旧表紙 Wellington 1986年部分修正版
(中)Topomapロゴ入り Taumarinui 1987年版
(右)新表紙 Te Anau 2000年版
 
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Topo50表紙
Wellington 2014年版
 

NZMS 260は足掛け30年間使われたなじみ深いシリーズだったが、2009年9月に、デジタル編集技術の進歩と新測地系採用を反映したNZ Topo50 シリーズ451面に切り替えられた。縮尺は同じく1:50,000だ。地域座標系NZGD49を使用していたNZMS 260に対し、Topo50は、世界測地系WGS84に基づくニュージーランド測地系2000 New Zealand Geodetic Datum 2000 (NZGD2000) で投影されている。そのため、両者はグリッド位置がずれており、互換性がない。

ニュージーランドでも昨今、利用の大勢はオンラインに移行しているが、冒頭で述べたように、新シリーズ Topo50 でも紙地図の供給が継続されたことは注目すべきだろう(下注)。しかも図郭は、NZMS 260が東西40km×南北30kmの横長判なのに対して、Topo50は汎用のA1判を縦長に使っている。東西24km×南北36kmとカバーする面積が小さくなり、その分、面数は25%も増加した。

*注 対照的に、官製旅行地図(ハイキング地図)の印刷版は廃止された。旅行地図については「ニュージーランドの旅行地図 I-DOC刊行図」「ニュージーランドの旅行地図 II-現在の刊行図」参照。

在庫管理の手間がかさむにもかかわらず小判化を断行した理由は明らかでないが、表紙に記されている「エマージェンシー・サービス使用 Used by New Zealand Emergency Service」という語句が一つのヒントになる。南オーストラリア州などでも見られるように(下注)、消防や災害救助といった公共分野では紙地図の需要があり、それに応える形で刊行が維持されているようだ。紙寸や折りをコンパクトにしたのも、現場に向かう狭い車内での扱いやすさを考慮した可能性がある。

*注 南オーストラリア州ではエマージェンシー・サービスの名を冠した地図帳が刊行されている。「オーストラリアの地形図-南オーストラリア州」参照。

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Topo50およびTopo250索引図の一部
Topo250(1:250,000、黒枠の範囲)の図郭を縦横5等分したのがTopo50の図郭(緑枠)

では、1:50,000の仕様を詳しく見てみよう。地勢表現は、20m間隔の等高線にぼかし(陰影)が併用されている。等高線は茶色ではなく道路の塗りと同じ橙色で、サザンアルプスなどに見られる氷河と万年雪のエリアでは青に変わる。平野部では10mの補助曲線も用いられる。

地勢を際立たせるぼかしの技法は、1960年代にNZMS 1シリーズの図式改訂で初めて採用されたものだ。NZMS 260までは比較的濃いアミで立体感が強調され、見栄えがしたが、Topo50ではやや控えめになった。色彩では、植生のミントグリーンに、道路記号の塗りとして鮮やかな赤と橙が加わる。この2色の帯は明瞭なアクセントとなって図を引き立てている。

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同国最高峰クック山 Mt. Cook
NZMS260では、氷河が青の等高線とぼかしで美しく描かれる
Sourced from NZMS 260 Map H36 Mount Cook. Crown Copyright Reserved.
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北島東岸マウント・マウンガヌイ Mount Maunganui
陸繫島と砂州上の市街地
Sourced from NZMS 260 Map U14 Tauranga. Crown Copyright Reserved.
 

地図記号では、まず道路の路面状態を3種に分類するのが目を引く。通常は舗装か未舗装かの2パターンしかないが、ここではアスファルト sealed、マカダム舗装 metalled(砕石舗装のこと、さらにタールで固める場合もある)、未舗装 unmetalled と分けている。また、1車線橋梁 one lane bridge、渡渉地 ford などの記号もあって、原野を貫く一本道といったアウトバックの典型風景を彷彿とさせる。

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Topo50凡例 道路・その他
 

鉄道記号は、複線に旗竿形、単線に太い線が充てられて、やや違和感があるが、路線そのものが少なく、かつ複線区間は北島の都市部に限られている。そのほか、パイプライン pipeline(地中 underground と地上 above ground の別あり)、送電線 power line(鉄塔 on pylons と電柱 on poles の別あり)、電信線など、線状に延びる施設が細かく分類されているのも特色だ。

水部には、青と赤の×印を用いた冷泉 cold spring/温泉 hot spring の記号がある。また、大型の赤い×印が噴気孔 fumarole、それを〇で囲むと地熱採取孔 geothermal bore を表す。いずれも、活発な火山活動を前提にした記号だ。

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Topo50凡例 水部・植生
 

Topo50は1インチ地図から数えて3代目のシリーズだが、各シリーズの間で地図表現はどのように変化してきたのか。同じウェリントン Wellington 図葉から、都市と郊外(海岸、山地)のエリアを抜き出してみた(下図参照)。それぞれ左/上は1インチ図であるNZMS 1、中央がNZMS 260、右/下がTopo50だ。

NZMS 1とNZMS 260は、用いられる縮尺や単位(マイル・フィート/メートル)だけでなく、見た目もかなり異なる。特に目立つのは市街地の表現だろう。NZMS 1では、密集していない市街地で、道路と総描家屋をひとまとめにしたような特異な描き方をするが、NZMS 260では灰アミに変わる。実はどちらもイギリス流で、本家の図式改訂が持ち込まれた形だ。また、注記フォントは、セリフ書体(先端に飾りのある)からサンセリフ(飾りのない)になり、鉄道や道路など交通路の記号は太く強調されて、図上での視認性はかなり良くなった。

これに比べて、NZMS 260からTopo50へは、地図デザインも記号も軽微な変更にとどめられ、親和性が高い。ただしよく見ると、都市図ではTopo50 のほうが施設の注記(Schs=学校、Hosp=病院、Substn=変電所など)が充実している。郊外図でも、ウェリントン図葉では海岸の崖(海蝕崖)や山地の沢など、Topo50のほうが情報量が多く、目立たないところで改良の手が加えられているようだ。

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ウェリントン市街
(左)NZMS 1 1974年版
(中)NZMS 260 1983年版
(右)Topo50 2016年版
Sourced from maps of NZMS 1 Wellington, NZMS 260 Wellington and Topo50 Wellington. Crown Copyright Reserved.
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テラウィティ岬 Cape Terawhiti 周辺(ウェリントン西方)
(上)NZMS 1 1974年版
(中)NZMS 260 1983年版
(下)Topo50 2016年版
Sourced from maps of NZMS 1 Wellington, NZMS 260 Wellington and Topo50 Wellington. Crown Copyright Reserved.
 

次回は、1:50,000以外の縮尺図を紹介する。

■参考サイト
Land Information New Zealand (LINZ) http://www.linz.govt.nz/

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