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2017年2月11日 (土)

ウェールズの鉄道を訪ねて-アベリストウィス・クリフ鉄道

アベリストウィス・クリフ鉄道 Aberystwyth Cliff Railway

延長237m
鋼索鉄道(ケーブルカー)、高度差130m
1896年開通

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コンスティテューション・ヒルを上る
アベリストウィス・クリフ鉄道

ポースマドッグ滞在中で一番の長旅をして、南60kmにあるアベリストウィス Aberystwyth を訪れた。往きはカンブリア線を使ったのだが、ポースマドッグ方面からアベリストウィスへの直通列車はなく、途中で乗換えが必要だ。しかし、乗換駅ダヴィー・ジャンクション Dovey Junction は、寂しい原野のまん中の、常に風に吹き曝される場所にある。ここで20分近くも待つのはつまらないと思った。

実際、上下列車の交換は次のマハンレス Machynlleth で行われる。ダヴィー川沿いでは一番大きな町の玄関口だ。定時運転されているようなので、そこまで乗って折り返すことにした。時刻表ではわずか3分の接続だったが、問題なく乗り継ぐことができてほっとする。

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立派な駅舎が残るマハンレス駅での列車交換
 

カンブリア線は、アベリストウィス方面が実質的な本線だ。それを反映して、列車本数もいくらか多い。ダヴィー・ジャンクションから先は、まずダヴィー川 Dovey River (Afon Dyfi) の三角江の左岸に沿って海岸近くまで走る。ポースマドッグ方面への線路が川を渡る古い鉄道橋が、しばらく見えている。

対岸のアベルダヴィー(アバダヴィー)Aberdovey の町を見届けた後、ボルス Borth を経て内陸に入っていく。波打つ丘陵地を越える切通しが終わると、左からヴェール・オヴ・レイドル鉄道 Vale of Rheidol Railway の狭軌線が寄り沿ってきて、いっしょに終着駅へ滑り込む。

*注 カンブリア線については本ブログ「ウェールズの鉄道を訪ねて-カンブリア線」も参照。

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ダヴィー川を渡る鉄橋(ポースマドッグ方面の路線)が見え続ける
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(左)ヴェイル・オヴ・レイドル鉄道の狭軌線が寄り沿う
(右)アベリストウィス駅に到着
 

アベリストウィスは、カンブリア山地から流れ出るレイドル川 Afon Rheidol とイストウィス(アストウィス)川 Afon Ystwyth が合流する河口近くに位置する町だ。地名もイストゥイス川の河口(Aber + Ystwyth)から来ている。人口は1万数千人だが、中部ウェールズでは最大規模で、商業の中心地であり、1872年創立の大学を擁する教育センターの一面も持っている。

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アベリストウィス・クリフ鉄道(星印の位置)と周辺の鉄道網
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アベリストウィス市街周辺の地形図
1:25,000地形図 SN68 1954年版 に加筆
 

行止りの線路の正面に建つ駅舎を出ると、目の前が市街地だ。北ウェールズの町に比べて都会的な雰囲気があるのは、通りの建物が黒い石積みではなく、煉瓦や漆喰の色壁だからだろう。駅前からテラス・ロード Terrace Road を直進し、目抜き通りを横断した先に、海が見えてくる。

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アベリストウィスの市街地
(左)テラス・ロード
(右)ノース・パレード North Parade
 

カーディガン湾に臨むこの浜辺には、スランディドノで見たような弧状のプロムナード Promenade(海岸遊歩道)が延びる。なにしろ、鉄道が開通した当時、「ウェールズのビアリッツ Biarritz of Wales」(下注)と謳われて評判になったという町だ。高さの揃ったパステルカラーの建物やロイヤル・ピア Royal Peer のドーム屋根が、当時の面影を伝えている。だが、残念なことに今朝は曇り空で、リゾート気分に浸ろうにも、人影がほとんど見られない。

*注 いうまでもなくビアリッツは、フランス南西部ビスケー湾に面した高級リゾート。

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プロムナードを遠望
右端がロイヤル・ピア Royal Peer
 
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アベリストウィス・クリフ鉄道のリーフレット
 

アベリストウィスに来た主目的は、さっきの駅を起点とするヴェイル・オヴ・レイドル鉄道という蒸気鉄道だが、その前に、近くの丘に上っていく別の鉄道に乗ろうと思っている。プロムナードの北端、コンスティテューション・ヒル Constitution Hill(ウェールズ語:クライグ・グライス Craig Glais)にあるアベリストウィス・クリフ鉄道 Aberystwyth Cliff Railway という鋼索鉄道(ケーブルカー)だ。

鉄道は、市街地と丘の上の公園を結んで1896年に開業した。こうした丘や崖の、麓と頂の間を行き来する鋼索鉄道は、その時代盛んに建設されていて、設計の第一人者がマークス卿 The Lord Marks と呼ばれたジョージ・クロイドン・マークス George Croydon Marks だった。

彼が手掛けた鋼索鉄道はイギリス各地に今も残っている。ノースヨークシャーのソルトバーン・クリフ・リフト Saltburn Cliff Lift(1884年開業)、ブリストル海峡に面したリントン・アンド・リンマス・クリフ鉄道 Lynton and Lynmouth Cliff Railway(1890年開業)、あるいはセヴァーン川 Severn 沿いのブリッジノース・クリフ鉄道 Bridgnorth Cliff Railway(1892年開業)などがそうだ。

*注 その他、廃止されたものでは、ブリストル Bristol のクリフトン・ロックス鉄道 Clifton Rocks Railway(1893年開業、1934年廃止)、スウォンジーのコンスティテューション・ヒル斜行鉄道 Swansea Constitution Hill Incline Tramway(1898年開業、1901年廃止)などがある。

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プロムナードから見たコンスティテューション・ヒル
Photo by Lesbardd from wikimedia. License: CC BY-SA 3.0
 

アベリストウィスの鋼索鉄道も、彼の主要な業績に数えられてきた。なぜなら、2001年12月にスコットランドのケアンゴーム登山鉄道 Cairngorm Mountain Railway が開通するまで、イギリス諸島における最長の鋼索鉄道だったからだ。

開通当時はウォーターバランスといって、上の駅で車両に設けたタンクに水を注ぎ入れ、その重みで斜面を下りる方式で運行されていた。下の駅にいる車両は水を抜かれて軽くなっているので、連動しているケーブルで引き上げられる。上の駅で必要とされる大量の水は、近くの泉や井戸から引いていた。地形図でも、上の駅の東方に "W"(井戸 Well の略)や "Spring" の注記が数か所見つかる。しかし、鉄道は1921年に電気動力に転換され、今に至っている。

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上の駅(サミット駅)の東方に井戸や泉の注記(青の円内)がある
1:25,000地形図 SN68 1954年版 に加筆
 

現在の運行は4月から10月の毎日で、始発が10時、最終は17時だ。その始発時刻が近づいてきたので、山麓駅(プロムナード駅)のほうに足を向けた。市街地の北端、プロムナードから右に折れて少し上っていくと、"RHEILFFORDD Y GRAIG / CLIFF RAILWAY" とウェールズ語と英語で書かれた古めかしい煉瓦壁の建物が見つかる。これが乗り場だ。中の出札で4ポンドの往復乗車券を買い、階段ホームへ出ると、日曜大工で拵えたような飾り気のない車両が待っていた。

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山麓(プロムナード)駅
(左)煉瓦造りの外観
(右)飾り気のない車両が発車を待つ
 

定員は30名だが、初回の乗客は私のほかに、女性が一人のみ。景色には目もくれずスマホをいじっていた彼女は、山上のレストランの従業員だった。発車の合図があったかどうかもわからないうちに、車両は動き出した。時速は4マイル(6.4km)、ケーブルの動く音がするだけで、静かに上っていく。線路は全線複線で、車両がすれ違う区間だけ、線路の間隔を拡げてある。

延長778フィート(237m)のルートの大半が、掘割の中だ。しかし、麓側の窓から、アベリストウィスの市街地と弧を描く海岸線が見えている。それを写真に撮ろうとするのだが、上空を木柵の跨線橋が何本も横断しているので、そのたびに視界が途切れる。実は、線路設計に際して、以前からあった丘を巡るフットパスを切断しないように、わざわざ線路を切通しにして跨線橋を渡したのだそうだ。そのために、工事では12,000トンもの岩を切り出す必要があった。

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(左)山麓駅を後にする
(右)海岸線の眺望はしばしば跨線橋で遮られる
 

正味の乗車時間は5分程度だろう。麓の駅に比べて、サミット駅は掘っ立て小屋のような簡素な造りだ。駅の外にはコンスティテューション・ヒルの高台が広がっている。遊戯施設やレストランが立ち並び、ちょっとした遊園地の雰囲気がある。朝早いので、どこもまだ稼働していないが、それでも続行便で、カップルや家族連れが何組か上がってきた。

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(左)山上(サミット)駅に到着
(右)山麓駅に比べて簡易な造り
 

この丘は、地形的に見れば、東のカンブリア山地から延びてきた丘陵が海に没する先端部に当たる。上からは見えないが、足元の海岸には高さ数十mの波蝕崖が連なっているはずだ。それだけに展望は抜群で、市街地とプロムナード、その南端の古城がある岬や、市街の背後に横たわる丘陵地まで一望になる。風のない穏やかな日で、陸上は靄でかすんでいるが、滞在中に少しずつ晴れ間が広がってきた。

ケーブルカーを前に置いてこの風景が眺められる場所を探し回った。上ってくる車内では疎ましく思ったのに、最適のお立ち台になってくれたのは、あの跨線橋だった。

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コンスティテューション・ヒルからの眺め
(左)南方向 (右)北方向
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アベリストウィス市街のパノラマ
 

次回は、ヴェイル・オヴ・レイドル鉄道の蒸気列車に乗る。

■参考サイト
アベリストウィス・クリフ鉄道(公式サイト)
http://www.aberystwythcliffrailway.co.uk/
アベリストウィス観光サイト https://www.aberystwyth.org.uk/

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