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2016年6月25日 (土)

新線試乗記-札幌市電ループ化

札幌市電のミッシングリンクが埋められる日が、ついにやって来た。2015年12月20日、駅前通に敷設された真新しい線路に、営業運転の電車が走り始めたのだ。路面軌道の新設は、駅前延伸のケースを別にすると、2009年の富山市内の環状線以来(下注1)とあって、これに乗らないわけにはいかない。

コンターサークル-S(下注2)の席でそのことを話したら、堀淳一さんが「札幌に住んでいても乗る機会がないから、一緒に行きましょう」と、案内してくださることになった。以下は、今年(2016年)5月に堀さんと敢行した試乗の記録だ。

*注1 富山市内の環状線については「新線試乗記-富山地方鉄道環状線」参照。
*注2 コンターサークル-S については「コンターサークル地図の旅-中舞鶴線跡」参照。

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西4丁目電停から駅前通に出てきた電車
 

札幌市電は1960年代が最盛期で、総延長が25kmあった。しかし1972年の冬季オリンピック開催に向けて地下鉄の整備が始まると、それと引換えに次々と廃止されていき、1974年には現在の8.5kmまで縮小してしまった。

最後に残された路線(成り立ちから言うと3路線の部分接合)は、上辺が右に突き出た縦長の矩形をしているのだが、地下鉄南北線と並行するために廃止となった西4丁目~すすきの間だけが途切れている。そのわずか400mの失われた環が今回接続されて、めでたく環状線として再生されたのだ。

■参考サイト
西4丁目電停付近の最新1:25,000地形図
http://maps.gsi.go.jp/#15/43.058900/141.352100

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路線図。右上の西4丁目~すすきの間が新設区間
札幌市交通局リーフレット「路面電車のループ化で変わること」より
 

三越前でタクシーを降りて、さっそく西4丁目の電停(正式には停留場)へ向かった。以前、この電停は1本の線路を2本のホームがはさみ、電車は折返し運転されていたと思うが、今は外回り(下注)専用だ。ホームが拡幅され、白塗りのしっかりした屋根と横壁も設置されている。

*注 路面電車はクルマと同じく左側通行なので、駅前通を南下するほうが外回り。

一方、内回り線の乗場はこの南1条通ではなく、直交する駅前通の4プラ(4丁目プラザ)前に移された。駅前通では、軌道が道路の中央でなく、サイドリザベーションと言って両側の歩道に寄せて敷かれている。それで、電停も歩道に直結だ。乗降に際して信号待ちや車道の横断が不要になり、便利で安全性も高まった。道路脇だと冬は雪がたまるので、軌道上や路肩にはロードヒーティングも入っているらしい。

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西4丁目電停
(左)外回りホームは元の位置で全面改修
(右)内回りホームは駅前通の4プラ前に移設
 

電停にやってきたのは、広告を巻いた旧型電車だった。札幌にもポラリスと名付けた新しい低床連節車(A1200形)が導入されているが、まだ3編成で断然少数派だ。「低床車が入るといっても、1年に1編成ですから」と堀さん。時刻表によると、1時間に片道1本程度しか走っておらず、平日日中に巡りあえる確率は1/7に過ぎない。

旧型車は乗降ステップの段差が大きく、踏面も狭いので、お年寄りには大変だ。手間取るばかりか、降り口では転倒の危険もぬぐえない。新型車は最終的に11編成まで増備されるそうだが、行政が事業の採算性を気にかけるあまり、不便の解消がなかなか進まないのは問題だ。

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低床連接車ポラリス
 

扉が閉まり、出発の準備が整った。しかし、路面電車用の黄色の右折信号が表示されず、交差点に出るのにだいぶ待たされた。ぐいっと大回りして、南行車線の最も左側につける。新設区間では、片側3車線のうち左端の1車線が軌道敷に転用され、クルマは通行禁止の措置が取られた。荷捌き停車やタクシーの客扱いもできなくなり、その機能は東西の通りに移されている。

それで電車の進路に支障物は見当らない。大きく成長した街路樹の葉陰を滑らかに走り始めたが、すぐに狸小路(たぬきこうじ)の停留場が見えてくる。札幌を代表するアーケード街の前なので、乗降が少なからずあった。ここでも信号に引っかかる。「信号が多いですね」と言うと堀さんが、「一つ一つの通りが広いので、そのたびに信号で停められるんです」。それに歩車分離式のため、信号1個の待ち時間自体も長いのだ。

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駅前通を北上する内回りの車内から
 

外回りは駅前通の出入りが右折になるので、とりわけこの区間の通過に時間がかかる。後日、西4丁目電停のそばで、信号の切替えパターンを観察してみた。

外回りの乗降が完了した段階で、南1条通(電車が待機している東西の通り)の信号が青だったとする。進む順番として次は電車だと思いたいが、残念ながら、先に駅前通(南北の通り)が青になる。それから車道が全赤に変わるとともに、歩行者信号が全青(スクランブル)になる。

もうこれで発車するだろう、と誰しも思うが、そうではないのだ。また南1条通の青、駅前通の青、歩行者の青と、ひととおり繰り返され、その後ついに電車の黄色矢印が出る。結局この車両は、交差点前にスタンバイしてから、優に6分は待たされていた。これは極端な例かもしれないが、少なくとも狸小路が目的地の人は、西4で降りて歩いたほうが早く着くに違いない。優先信号を再考できないものかと思ったことだ。

南東角に立つニッカウヰスキーのローリー卿に見守られながら、電車はすすきの交差点で右折して、月寒通へと進む。すすきの電停は、従来どおり道路の中央に両方向のホームがあるが、環状化に伴い2線に拡張された(下注)。また、西側の折返し用中線にも別の乗場が設けてあり、後日見たら、貸切電車専用停留場の札が掛けてあった。ポラリスの貸切もできるらしい。

*注 従来は、西4丁目と同じ折返し2面1線の構造だった。

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(左)すすきの交差点を曲がる
(右)すすきの電停はもとの位置で2面2線に改修
 

新設区間はここまでだ。「降りて写真を撮りますか」と聞かれたので、「せっかくですから、まず全線に乗りましょう」と、既設区間に踏み込んだ。広い月寒通はすぐに左折して、西7丁目通を南下する。「この辺に住んでいた頃は、これに乗って大学へ通ってました」と堀さんは目を細める。市電沿線には母校もあって、若い頃の思い出がたくさん詰まっているのだろう(下注)。車窓からはほとんど見えないが、中島公園や創生川もすぐ近所だ。

*注 「地図の中の札幌-街の歴史を読み解く」(亜璃西社、2012)の224ページ以下に、堀さんの札幌市電の思い出が綴られている。

幌南小学校前電停を過ぎると、軌道は右へ曲がる。そして藻岩山を左前方に眺めながらしばらく進み、また右折すると電車事業所前電停だ。「ここから車庫にいる電車が見えますよ」と教えていただいた。この後は、福住桑園通を北上する。「西側は住宅街ですから、単調な駅名が多いんです」。学校名や直交する通り名が付された東側に比べて、西側は、西線何条というナンバー電停が続く。かつてこちらは別の系統で、お古の電車が回されていたそうだ。

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(左)既存区間の南西端、電車事業所前電停
(右)車庫に集う車両群
 

師範学校付属小の跡地を突っ切る西15丁目の斜めの道を経て、南1条通に帰ってきた。商業施設が増えてきたように思ったら、もう振出しの西4丁目電停に着くところだった。ループツアーを無事終えて、再び駅前通を南へ去っていく電車を見送った。堀さんが「新しいルートはどうでしたか」と尋ねる。「全然違和感がなくて、昔からあったように見えます」と答えると、堀さんは笑いながらも、「ここまで来るのが大変だったんですよ」としみじみと言った。

札幌市の資料によると、今回のループ化は、中心市街地の活性化に寄与する公共交通政策の一つのステップで、今後も札幌駅方面や創生川以東、桑園地域などへ軌道の延伸を検討していくのだそうだ。欧米の都市では一般的な施策だが、日本ではクルマ中心の固定観念や財源捻出のハードルが高くて、なかなか実現しない。札幌のメインストリートに進出した路面電車がショーウィンドーの役割を果たし、人々の気づきを喚起してくれるといいのだが。

■参考サイト
札幌市交通局 https://www.city.sapporo.jp/st/

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