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2016年3月21日 (月)

台湾の1:25,000地図帳

台湾の民間会社が作る地図は、国の地形図データをベースにしながらも、おおもとの官製地形図に比べてはるかに進化している。その先導役を務めたのが上河文化社で、2001年刊行の「台灣地理人文全覽圖」全2巻は、台湾全土を縮尺1:50,000でカバーする画期的な地図帳だった。これはその後3回の全面改訂を経て、現在に至る(本ブログ「台湾の1:50,000地図帳」で詳述)。

今回紹介するのは、内容から見てその延長線上に位置する地図帳だ。「台灣1/25000全覽百科地圖集(台湾1:25000全覧百科地図集)」全4冊。北から南へ4つに分冊され、主要都市で言えば第1冊に台北、第2冊に台中・花蓮、第3冊に嘉義、第4冊に台南・高雄・台東の市街地が含まれる。

Blog_taiwan_atlas3
台灣1/25000全覽百科地圖集第1冊
(左)表紙(右)裏表紙の索引図
 

刊行しているのは旅行書出版の大手、戶外生活圖書股份有限公司(英語名 Outdoor Life Books Co.,Ltd. 以下、戸外生活社)だ。判型は、B4判の上河文化社版に比べて一回り小さく、ほぼA4判の21.5×30.5cm。日本の道路地図帳によくあるタイプだ。そのため1冊あたりのボリュームは450ページ前後、4冊合せて1800ページを超える大著になっている。

タイトルの示すとおり、メインの地図の縮尺は1:25,000(図上1cmが実長250m)で統一されている。等高線は10m間隔で、精度も高そうだ。そこに明瞭なぼかし(陰影)が加えられ、地色もアップルグリーンの低地から、標高1500mあたりを境にベージュ系へとシームレスに変化する。細かい起伏や山襞が手に取るようにわかり、平地、低山と高山域の違いも一目瞭然になる。

筆者はつい地形図としての出来栄えに目を奪われがちだが、この地図帳の真価はそれを超えて、百科地図と銘打った内容そのものにあるだろう。地図記号や注記で与えられる情報の豊かさが尋常ではないからだ。

Blog_taiwan_atlas3_legend
凡例
 

詳細は図例(凡例)をご覧いただくとして、まず道路の記号を見てみよう。赤色の高速公路から無色の農道小径まで、記号形状ではなく塗りの色で区別するのが特徴だ。主要道路は日本の道路地図のそれよりやや太めに描かれ、道路網の骨格を強調しようとしている。加えて、市街地のたいていの街路、郊外でも郷道/区道まで、道路名が確実に記載されているのには驚く。道路記号に重ねて記し、かつ字体にいわゆる教科書体を使っているので、視認性も良好だ。

描く対象はクルマの走る道ばかりではない。山地には百岳歩道や古道といった登山道、平地には各所に自転車のマークを添えた自行車道(自転車道)のルート表示が見られ、自然に親しもうとする人々のニーズにも応えている。

公共施設や観光施設を表す地図記号にも、実に多くの種類がある。古典的な幾何学模様から現代風イラストや企業のロゴまでデザインも様々で、眺めるだけでも飽きることがない。おもしろいのは日本の地形図記号との共通点だ。交差する警棒を象った警察局、「公」の字に由来する其他政府機関、赤十字マークの衛生所、「文」の字の大専院校(大学、専門学校)、逆さくらげの温泉、それに三角点、水準点などいくつも見つかる。日治時期の官製地形図から引き継がれてきたのだろうか。

対する名勝與休旅場所(名所とレジャー施設)のくくりでは、一般的な宿泊施設やレジャー施設の記号の間に、古蹟、牌楼、原住民祭典、廟舎、民族祭などご当地らしさが窺える。南の島とあって、柑橘、草苺、水蜜桃、葡萄、揚桃と果樹園の記号もバラエティに富む。いずれも一見して認識でき、かつ旅情を誘うものばかりだ。こうしたカラフルで発想豊かな記号が、地図上の至る所に散りばめられ、律儀に固有の名称が付されているのだ。

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表紙の一部を拡大
 

大小の行政地名や自然地名、道路・街路名、そして地図記号に伴う固有名称を加えれば、注記は膨大な数に上る。しかし、フォント(字体)を選び、色を分けることで区別を可能にしているのは見事だ。漢字表記のため文字数が少なくて済むという利点はあるにせよ、ただでさえ記載事項が錯綜する市街地にこれだけの地図記号と文字情報を収めるのは、並大抵の工夫ではないだろう。

巻末には索引集がある。こちらも充実していて、項目数の最も多い第1冊では130ページにも及ぶ。リストは行政機関、学校、交通関係、観光施設、街路名などに分類され、クロスリファレンス(相互参照)とともに、住所と電話番号が付される。山岳の項では標高、等級、三角点番号までセットになっている。

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第2冊~第4冊表紙
 

「台灣1/25000全覽百科地圖集」が1:25,000地形図の地図帳としてだけでなく、台湾の道路地図、旅行地図としても秀逸だということがご理解いただけただろうか。お断りしなければならないが、この地図帳は2012年3月の刊行で、すでに4年が経過している。当時、台湾在住の方から情報を頂いていたにもかかわらず、今まで紹介しそびれていた。そのため、出版社のサイトによれば、第1冊については単品販売がすでに終了しており、第1冊が入用ならセット販売を選択するしかない。

最後に注文方法だが、戸外生活社のウェブサイトに発注書(信用卡訂購證と記載)のPDFファイルがある。決済用のクレジットカードの内容を含め、必要事項を記入して同社に直接FAXすればよい。同社では日本語によるメールの問合せにも対応している。

■参考サイト
戸外生活社 http://www.outdoorlife.com.tw/
戸外生活社 台灣1/25000全覽百科地圖集
http://www.outdoorlife.com.tw/Taiwanview25K.htm

なお、戸外生活社は、上記地図帳のほかに「台灣全覽地圖百科大事典」という全5冊の地図帳シリーズを最近完成させた。こちらは市街、近郊、村落・丘陵地、高山によって1:5,000から1:40,000まで縮尺を変え、観光写真も付けた合理的でビジュアルな編集を特色としている。筆者としては、全国地形図のもつ意義に照らして、全土を一律の基準で製作する「百科地圖集」の方針を支持したいところだが、実用性の点ではこちらも捨てがたい。

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