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2016年2月 9日 (火)

スコットランドの名物地図

その土地ならではの名物を求めて訪ね歩くのは、旅の大いなる楽しみだ。スコットランドが目的地ならさしずめ、湖のほとりに静かにたたずむ古城、あるいはスモーキーな香りに満ちたスコッチ・ウイスキーの醸造所。それからお土産には、タータンチェックの小物がよさそうだ。コリンズのピクトリアルマップシリーズ Collins Pictorial Maps Series は、4点の主題図でスコットランドの代表的な名物のありかを親切に教えてくれる。

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アイリーン・ドナン城 Eilean Donan Castle
Photo by DAVID ILIFF at wikimedia. License: CC-BY-SA 3.0
 

刊行しているのは、ニューヨークに本拠を置く世界有数の出版社、ハーパーコリンズ HarperCollins。しかし、元をたどれば19世紀前半の創業で、タイムズ地図帳やハーフインチ図の刊行によりイギリスを代表する地図出版社として名を馳せていたバーソロミュー社 John Bartholomew and Son の製作だ。バーソロミュー社はスコットランドの首都エディンバラ Edinburgh が拠点だったので、地元愛あふれる地図があったとしても何の不思議もない。

シリーズは古いものでは1970年代から幾度か改訂が重ねられていて、そのつどカバーデザインも変化してきた。現在は藍地のカバーに統一されている。一種ずつ特色を見ていこう。

「スコットランドの古城地図 Collins Castles Map of Scotland」

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これは、スコットランドの古城や要塞化された邸宅の位置を地図上に克明にプロットしたものだ。その数、実に735か所に上る。ベースマップは縮尺約1:1,000,000(100万分の1)のスコットランド全図と、特に存在が集中する地域、グラスゴーからエディンバラにかけてや、アバディーンシャー北部の拡大図だ。地勢を表す段彩を施し、交通網(主要道路と道路番号、鉄道、空港)や観光案内所が記されている。

凡例によると、リストアップの基準は、今日でも何か興味を引くものが残る石造りの城、宮殿、要塞化された邸宅で、12世紀のモット城 motte castle(土盛りした基部に建てられた木製の構造物)の一部を含むが、中世の堀で囲まれた敷地や湖上住居(人工島)crannog は含まない。

地図上では、施設の記号が3色に分けられているが、これは公開の可否を表している。すなわち緑は、通常訪問者に開放されているもの(例えば観光施設や宿泊施設化されているもの)、橙は、ふだん外側からよく見える城や城跡(ただし私有の場合がある)、赤は私邸で原則非公開だ。

記号には連番が振られていて、併載のABC順索引とすぐ照合できる。この索引を見れば、城・邸宅の名称、公開可否、クロスリファレンス(地図との相互参照)のほか、築造形式と時代、連絡先電話番号、ウェブサイトまでわかる。余白には古城の写真がキャプションつきで散りばめられ、お薦めの名城10か所、子どもが特に喜ぶ場所5か所というコラムもある。一読すれば、ある程度の予備知識を仕入れることができる。

「スコットランドのウイスキー地図 Collins Whisky Map of Scotland」

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スコットランドで操業中のウイスキー醸造所とウイスキー関連の見どころを地図に落とし込んだもので、醸造所108か所、関連観光施設4か所が網羅されている。ベースマップは古城地図と同じ体裁だが、緑~茶系の定番的段彩を使った古城地図に対して、こちらは灰紫系で統一され、陰鬱な冬景色を想像させる。

醸造所を表す記号は、キルン Kiln と呼ばれる麦芽を乾燥させる建物を象っている。これも公開の可否で3色に分けられ、緑は通常一般公開しているもの、芥子色は事前予約者のみに公開するもの、赤は非公開の施設だ。併載の索引は、醸造所名、会社名、公開可否、クロスリファレンス、連絡電話番号、ウェブサイトのリストになっている。

たっぷり取られた余白には、原料となるピート、水、大麦からウイスキーが作られる工程を写真つきで見せるコラムや、ジョニー・ウォーカー Johnnie Walker、J&B、バランタイン Ballantine's など世界に知られたブレンドウイスキーのブランドトップ10の紹介、その輸出先と輸出額を示す地図、スコッチ・ウイスキーに関する詳細情報の入手先など、さまざまなデータが列挙されて興味深い。

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ウイスキー地図(旧版)を縮小
中央のスコットランド全図の色調などは現行版と異なる。
(画像はAmazon.co.ukから取得)
 

■参考サイト
スコッチ・ウイスキー協会 Scotch Whisky Association
http://www.scotch-whisky.org.uk/

「スコットランドのタータン地図 Collins Tartans Map of Scotland」

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上記2種とは趣を異にしていて、スコットランドの氏族すなわちクラン Clan と、格子柄のタータン(日本でいうタータンチェック)の関係を地図で示そうというのがこの地図の趣旨だ。

用紙の中央に、17世紀初めにおける各クランの勢力範囲を塗り分けたスコットランド全図が配置されている。それを取り囲むように、2.5×4.0cm角のタータンの織り見本が整然と並んでいるのだが、その数なんと247種。スコットランド・タータン・オーソリティ Scottish Tartans Authority 承認のロゴがついているだけのことはある。

クランシップ(氏族制度)は中世、特に北部のハイランド地方で自治制度の基盤を成すものだった。ところが、名誉革命で王位を追われたジェームズ2世を支持してイングランド政府に抵抗したため(彼らはジャコバイト Jacobite と呼ばれた)、1746年、カロデン・ムーアでの敗戦を境に解体させられてしまう。それ以降スコットランドでも、生活慣習のイングランド化が浸透していくのだが、18世紀半ばにロマン主義の風潮が強まると、民族の誇りの象徴としてクランが再評価されるようになる。そしてあまり普及していなかった南部ローランド地方にも広まったのだ。

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タータン地図の一部を縮小
(画像はAmazon.co.ukから取得)
 

クラン地図を見ると、私たちにも馴染みのある名が並んでいる。Mac、Mc(息子の意)が前につくマクドナルド MacDonald(下注)、マッキントッシュ MacKintosh、マッカーサー MacArthur、マッケンジー MacKenzie、ほかにもキャンベル Campbell、カーネギー Carnegie、ダグラス Douglas、ゴードン Gordon など。

*注 マクドナルドだけでも Macdonald、MacDonald、Mcdonald、McDonald、M'donald、M'Donald など綴りには揺れがある。

19世紀後半にタータン・クレーズ Tartan craze(タータン熱)と呼ばれる流行期があり、このときクランとタータンの1対1の関係が定められた。この地図はいわばその見本帳のような体裁になっている。一口に格子柄と言っても実に多くの美しい組合せが生み出されていて、織り方の妙を目で追うだけでも見飽きることがない。

■参考サイト
スコットランド・タータン・オーソリティ http://www.tartansauthority.com/

「旧きスコットランド クラン地図 Scotland of Old Clans Map」

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これもクラン関連の地図だが、上記と同じクランの勢力分布図を取り囲んでいるのは、色も意匠もさまざまなクランの紋章だ。標語 Motto、兜の飾り Crests、盾形紋章 Arms の1セットで、その数174種を配した豪勢なイラストマップになっている。

兜の飾りのモチーフには、人物や鳥獣のほかに王冠、剣、帆船、竪琴なども見られる。盾形紋章も獅子、帆船、幾何学文様などバラエティに富む。いずれもクランに伝わる民話や伝説や史実が背景にあるのだろう。異国の紋章について語る知識は全く持ち合わせていないが、これだけ集まれば素人目にも圧巻だ。スコットランドに興味がおありなら、タータン地図とともに一度手に取ってみる価値はある。

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クラン地図の一部を縮小
(画像はAmazon.co.ukから取得)
 

■参考サイト
スコットランド族長常設協議会 Standing Council of Scottish Chiefs
http://www.clanchiefs.org.uk/

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