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2015年12月27日 (日)

ドイツのサイクリング地図-ADFC公式地図

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ぶどう山の自転車旅行
(c)ADFC/Marcus Gloger
 

2014年に実施されたEUの調査(下注)によれば、EU市民に聞いた「ふだんどの交通手段を最もよく使うか?」という質問に対して、自転車と答えた人の割合は、オランダの36%を筆頭に、以下デンマーク(23%)、ハンガリー(22%)、スウェーデン(17%)、フィンランド(14%)、ベルギー(13%)の順となっている。ドイツは7位の12%で決して高いとはいえない。しかし、ドイツの総人口はオランダの4.8倍もあるから、日ごろ自転車に親しんでいる人の実数ははるかに多いはずだ。

*注 "QUALITY OF TRANSPORT Report", Special Eurobarometer 422a, European Union, 12/2014

それを傍証するように、サイクリングルートや周辺情報を案内する自転車道専用地図(サイクリングマップ Fahrradkarte、下注)の種類は、他国にもまして豊富だ。全国規模でカバーしているものに限っても、筆者の知る範囲で3つのブランドがしのぎを削っている。

*注 ドイツ語で自転車はファールラート Fahrrad またはラート Rad、自転車道はラートヴェーク Radweg、サイクリング地図はファールラートカルテ Fahrradkarte。

一つ目はヨーロッパの旅行地図最大手のコンパス社 Kompass が刊行するシリーズ。縮尺1:70,000でドイツ全土をほぼ網羅する。二つ目はオーストリアのエスターバウアー出版社 Esterbauer Verlag が刊行する縮尺1:50,000~1:75,000のバイクライン Bikeline シリーズ、三つ目が今回紹介するBVAビーレフェルト出版社のシリーズになる。コンパス社は一般的な旅行地図も作っているが、後2社は自転車旅行に焦点を絞ったいわば専門店だ。

*注 このほか、各州の測量局あるいはそこから事業を引き継いだ民間会社が製作している「官製」旅行地図にも、自転車道の記載がある。本ブログ「ドイツの旅行地図-ライン渓谷を例に」参照。

とりわけBVAビーレフェルト出版社 BVA Bielefelder Verlag のサイクリング地図の特徴は、ドイツのサイクリング同好者のための組織「全ドイツ自転車クラブ Allgemeiner Deutscher Fahrrad-Club、略称ADFC」(下注)の公式地図 offizielle Karte に位置づけられていることだろう。ADFCとの共同編集を謳い、「サイクリストによってサイクリストのために von Radfahrern für Radfahrer」のモットーに従ってADFCが、調査したデータを提供し、内容を保証している。表記がドイツ語のみで外国人には使いにくいのが難だが、凡例(下の画像に和訳を付記)さえ理解すれば、読図に大きな支障はないはずだ。

*注 ちなみに、日本にも同様の目的で創設された「日本サイクリング協会」がある。

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ADFC自転車旅行地図
「オーバーバイエルン/ミュンヘン」
2010年版表紙
 

同社の刊行地図のうち代表と言えるのが、縮尺1:150,000 の「ADFC自転車旅行地図 ADFC-Radtourenkarte」シリーズだ。ADFCのサイトによると、累計280万部以上と世界で最もよく売れているサイクリング地図だそうだ。野外への携帯を考慮して耐水・耐擦紙が使われている。体裁は片面印刷の折図で、27面でドイツ全土をカバーする。フーバー地図製作社 Kartographie Huber 製のベースマップは、5km間隔のグリッドが入り、等高線とぼかし(陰影)で地勢を表現している。森林を表す緑色(シャトルーズグリーン)に比べて市街地のグレーは控えめで、見る人を町から郊外に誘い出す効果が期待できそうだ。

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ADFC自転車旅行地図 索引図
 

主要テーマである自転車道は、彩度の高い赤や緑を使って強調される(下の凡例参照)。赤色は長距離自転車道 Radfernweg などネットワークの骨格をなすルートで、中でもDルート D-Route(集合体としてDネッツ D-Netz)と呼ばれる全国規模の基幹ルートは、ピンクでマーキングされ、別格の扱いだ。他方、緑色は地域内に張り巡らされた補完ルートを示している。

ルート上には、修理工場、食堂、キャンプ場など沿線で利用できる施設のピクトグラムが置かれ、急な坂道には勾配に応じた注意表示もある。また、別添された冊子には、風景の美しい自転車道の紹介や、旅行案内所の連絡先、「ベット・ウント・バイク bett+bike」(ベッドと自転車の意)と呼ぶADFC提携宿泊施設のリストなどが簡潔にまとめられている。自転車での旅行計画を立てるなら十分な情報量といえるだろう。

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ADFC自転車旅行地図 2010年版
凡例の一部(和訳を付記)
 
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ADFC地域図
「バイエルンの湖沼群」表紙
 

しかし1:150,000という縮尺では、地図から実位置を特定するのはやや難しい。実際に自転車を駆って旅に出れば、もう少し詳しい情報が欲しくなる。縮尺1:50,000または1:75,000の「ADFC地域図 ADFC-Regionalkarte」シリーズは、そうした希望に応えるものだ。シリーズの既刊は60数点に上るが、全土をカバーしているわけではなく、川沿いなどの人気ルートや都市近郊の日帰りルートが中心の品揃えだ。

上記の旅行地図に比べて、同じエリアが2~3倍に拡大表現されているから、盛り込まれた情報の量が格段に違う。記載されている自転車ルートの数が多いし、おのおのの道路状況に関する情報も詳しい。凡例(下図参照)でおわかりいただけるように、静かに走れる道、中程度の交通量の道、クルマが多くて避けるべき道、玉石舗装や砂利敷きなどで走りにくい道、あるいは走れない道など、実走調査に基づく細かい仕分けには、ドイツらしい周到さが滲み出る。ADFCのサイトでは、サイクリング旅行のための頼りになる同伴者と紹介されているが、決して誇張ではない。

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ADFC地域図 索引図
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ADFC地域図 2013年版
凡例の一部(和訳を付記)
 

どちらのシリーズも8~9ユーロ(1ユーロ130円として1,040~1,170円)と手ごろな価格なので、机上のプランニングは旅行地図で、実地走行中は地域図で、というように使い分けるとなおいいだろう。

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ADFC自転車旅行ガイド
「ライン自転車道中部」表紙
 

また、こうした大判のサイクリング地図とは別に、リング綴じの冊子も多数刊行されている、こちらは地図つきの自転車旅行用ガイドブックで、主に鉄道駅を起点にした日帰り旅行のための「ADFC自転車日帰り旅ガイド ADFC-Radausflugsführer」と、長距離自転車道を使った長旅向けの「ADFC自転車旅行ガイド ADFC-Radreiseführer」の2種類がある。

横長判で天綴じされ、専用ホルダーで自転車に装着すれば、実際に走りながらでも参照できるのが大きな特徴で、用紙も厚めの耐水・耐擦紙だ。地図はルート順にページ建てされていて、メインの縮尺は1:50,000か1:75,000だが、大きな町については縮尺1:15,000程度の市街図が挿まれている。ルート上の主要分岐点には道案内の説明文も用意され、初めての道でも迷わないための工夫がある。名所・見どころの紹介はガイドブックならではのもので、地図で位置を照合しながら、旅行プランを膨らませることができそうだ。

ビーレフェルト出版社のADFC地図は、日本のアマゾンや紀伊國屋などのショッピングサイトでも購入できる。"ADFC-Radtourenkarte"、"ADFC-Regionalkarte"などで検索するとよい。

コンパス社とバイクラインのサイクリング地図については次回

冒頭の写真はADFC公式サイト http://www.adfc.de/pressefotos/ で提供されている画像「Fahrradtour in den Weinbergen(葡萄山の自転車旅行)」を使用した。

■参考サイト
BVAビーレフェルト出版社 http://www.fahrrad-buecher-karten.de/
ADFC(全ドイツ自転車クラブ) http://www.adfc.de/
D-Netz http://www.radnetz-deutschland.de/

★本ブログ内の関連記事
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 ドイツの旅行地図-ライン渓谷を例に

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