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2015年10月 1日 (木)

テューリンガーヴァルト鉄道 I-DB線からのアプローチ

テューリンガーヴァルト鉄道 Thüringerwaldbahn

ゴータ中央駅 Gotha Hauptbahnhof ~タバルツ Tabarz 間 22.7km
ヴァルタースハウゼン・グライスドライエック Waltershausen Gleisdreieck ~ヴァルタースハウゼン駅 Waltershausen Bahnhof 間 2.4km
軌間1000mm(メーターゲージ)、直流600V電化
1929年開通

DB フリードリヒローダ線 Friedrichrodaer Bahn

フレットシュテット Fröttstädt ~フリードリヒローダ Friedrichroda 間 9.9km
軌間1435mm(標準軌)、非電化
1848年開通(フレットシュテット~ヴァルタースハウゼン Waltershausen)
1876年フリードリヒローダへ延伸

ハルツ狭軌鉄道を乗り尽くした翌日、前から気になっていたライトレールに乗りに出かけた。名称はテューリンガーヴァルト鉄道 Thüringerwaldbahn、地元では略してヴァルトバーン Waldbahn(「森の鉄道」の意)と呼んでいる。

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終点タバルツで出発待ちするトラム
 

テューリンガーヴァルト(テューリンゲン森)Thüringerwald というのは、ドイツ中部テューリンゲン州に横たわる山地で、ハルツ山地の120~150km南に位置する。鉄道は、ゴータ Gotha 市内を出てそのテューリンゲン森の麓にある保養地の町へと向かう。名前のとおり、深い森とそれに続く野を駆け抜ける24.1km(市電との共用区間および支線を含む)のトラムだ。

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市内トラムが郊外の町や村まで足を延ばすこうした鉄道は、郊外路面軌道 Überlandstraßenbahn に分類されている。第一次世界大戦までは、馬車に代わる輸送手段としてドイツのみならずヨーロッパ各地で見られた形態だ。しかし、自動車交通の普及が進むなか、旧 西ドイツでは1950~60年代までにバスに転換されるなどして、ほぼ例外なく廃止されてしまった。幸いというべきか、東ドイツだったこの地方では温存され、今も市民や旅行者の足となっているのだ。

今回の訪問の主目的は、珍しくなったこの郊外路面軌道を取材することだが、もう一つ注目したのは、この鉄道に絡むように延びているドイツ鉄道DBのローカル支線だ。さほど需要がありそうもない田舎町に、鉄道が2本も通じている。その理由を探るために、往路はDBの列車を使い、行った先でトラムに乗換えて戻ってくる、という少々慌しい半日行程を編んだ。見たままの状況を2回に分けて紹介したい。

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テューリンガーヴァルト鉄道周辺図

ヴェルニゲローデを朝7時台に出ても、ゴータ中央駅に着くのは11時半になる。長旅を終えて駅前に出ると、DB駅舎のみすぼらしさに引き換え、駅前広場のトラム・バスターミナルは明るくスタイリッシュな装いで、その格差に愕然とした。DBの旅行センターでさえ、自社駅の中ではなくトラムターミナルの横にこぎれいなオフィスを構えているではないか。

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ゴータ中央駅前
(左)DB駅舎
(右)整備された駅前のトラム・バスターミナル
 

時間に余裕があったのでトラムの初乗りを試みたが、そのことは後で触れるとして、DB支線探訪のほうに話を進めよう。ゴータから西行きの普通列車で一駅目のフレットシュテット Fröttstädt が、支線の分岐駅だ。南側の扇形に開いたホームに、1両きりの真っ赤な気動車が停車している。アルストーム社のコラーディア Coradia を使った641形、閑散線用の両運転台車だ。その形状からドイツでは、クジラを意味するヴァールフィッシュ Walfisch とあだ名される。2001~02年の製造だが、見かけは十分新しい。

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フレットシュテット駅
(左)本線ホーム
(右)本線側から支線の気動車が見える
 

このDB支線は現行の時刻表で、終点の駅名そのままフリードリヒローダ線 Friedrichrodaer Bahn と案内されている。延長9.9km、今は行止りの盲腸線だが、かつては先にあるゲオルゲンタール Georgenthal まで延び、別の路線に接続していた(下注)。テューリンゲン森と平原の境を走るので、ヴァルトザウム鉄道(森の縁鉄道)Waldsaumbahn の別名もあった。

*注 最盛時はフレットシュテット=ゲオルゲンタール線 Bahnstrecke Fröttstädt–Georgenthal と呼ばれ、全長18.9kmの路線だった。

路線の歴史は古く、1848年にヴァルタースハウゼン Waltershausen まで馬車鉄道として開通したのが始まりだ。1876年にフリードリヒローダ Friedrichroda へ延長されるとともに、蒸機運転に転換され、1896年にはゲオルゲンタールまで全通した。しかし、ドイツが第二次世界大戦に敗れると、ソ連が要求した戦争賠償に充てるために、東半分のフリードリヒローダ~ゲオルゲンタール間が廃止となり、設備はすべて撤去されてしまった。辛うじてフリードリヒローダまでが残された理由は、ここが多数の別荘や保養所、療養所が立地する山麓の保養地だったからだ。

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ヴァルタースハウゼン駅で半分降りた
 

12時37分に発車した赤いクジラの乗客は十数人、しかし、ヴァルタースハウゼンで半分以上が降りた。この町へはトラムも来ているのだが、街中を通ってくるため、ゴータ中央駅から乗換時間込みで48分かかる。一方、DB線の列車なら同じ1回乗換で18分と、圧倒的に速い。エアフルト Erfurt やアイゼナハ Eisenach といったDB幹線沿いの都市だとなおさら有利で、そうした需要があるのが廃止宣告を免れてきた理由なのだろう(下注)。

*注 ウィキペディア ドイツ語版「フレットシュテット=ゲオルゲンタール線」http://de.wikipedia.org/wiki/Bahnstrecke_Fröttstädt–Georgenthal によれば、当路線のDBレギオとの運行契約は2016年末で終了するが、2017年からテューリンゲン地方交通事業会社 Nahverkehrsservicegesellschaft Thüringen が運行を引き継ぐとしている。

ここから谷に分け入っていく。森の中に2km半続く、トラムとの並走区間の始まりだ。シュネプフェンタール Schnepfenthal で、向かいの停留所にトラムがほぼ同時に停まったのが見えたのだが、あちらは意外に出足が速い。並走するどころか、すぐに姿が見えなくなってしまった(下注)。

*注 後でタバルツからトラムで戻る時に併走を捉えることができた。詳細は次回。

次の停車は、ラインハルツブルン=フリードリヒローダ Reinhardsbrunn-Friedrichroda(下注)。ここでもトラムと乗換えができる。駅舎は、英国のカントリースタイルとテュービンゲンのハーフティンバー様式を融合させた建物で、州の文化財指定を受けている。ドイツ統一以前、この地を治めていたザクセン=コーブルク=ゴータ公国のアルフレート公爵 Herzog Alfred は、英国ヴィクトリア女王の次男だった。それが縁で、近くに建てられた貴賓館の玄関口となるこの駅にも、祖国の建築様式が取り入れられたのだ。

*注 ラインハルツブルンはラインハルトの泉の意。中世、この谷間には同名の修道院が存在し、その跡に公爵の狩猟邸として貴賓館が建てられた。

しかし、華やかな過去も邯鄲の夢のごとし。後でこの駅に降り立ったが、無人となって久しい駅舎は朽ちるがままにされ、壁は心ない落書きで覆われていた。幽霊屋敷さながらの荒れようで、日が暮れたら到底近づきたくない雰囲気だ。ウェブサイトを見ると、駅舎は長らくDBの所有だったが、2015年6月に市が取得して活用方法を検討しているらしい。少しでも人が寄りつくような施設になるといいが。

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(左)荒れ果てたラインハルツブルン=フリードリヒローダ停留所
(右)フリードリヒローダトンネルを抜ける
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フリードリヒローダ付近の1:25,000地形図
旧東独官製1:25,000 M-32-46-A-c Waltershausen 1986年版に加筆
 

気動車は長さ279mのトンネル(下注)をそろりと抜けて、12時56分、終点フリードリヒローダに到着した。ここも無人だが、リゾート地の玄関口として造られた歴史から、ホームはたっぷり余裕があり、屋根もかかっている。貨物側線も残されているらしいが、ほとんど雑草に埋もれて見えない。旅の出立ちの人が数人降りたあとは、昼下りのがらんとした空間に気動車のエンジン音だけがこだました。

*注 名称はフリードリヒローダトンネル Friedrichrodaer Tunnel。越える山の名をとって、ラインハルツベルクトンネル Reinhardsberg-Tunnel ともいう。

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終点フリードリヒローダ駅の赤いクジラ
 

列車は7分で折返す。周辺の写真を撮っていると、運転士氏が近づいてきて、「また乗るのか」と聞く。次の駅までと答えたら、「ふつうは停まらないので、降りる合図ができないから運転室へ来い」とのこと。そこで初めて、さっきの駅がリクエストストップ(乗降客があるときのみ停車)であることに気づいた(下注)。声を掛けてもらえなかったら、下車しそびれるところだった。

*注 DB公式時刻表にはその旨の注記がある。私が確認を怠っていただけだ。

思いがけず運転室に添乗する機会を得、ワイドな前面車窓をひととき愉しんだ。トンネルを抜け、幽霊駅舎の前で降ろしてもらう。親切な運転士氏に礼を言って、草ぼうぼうの線路に消えていく赤いクジラを見送った。地図に従い小道を少し下りると、そこだけ森がぽっかり空いていて、目指すトラムの線路と乗場が見つかった。

トラムの乗車記は次回に。

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ラインハルツブルン=フリードリヒローダ
(左)気動車が草むらの線路を遠ざかる
(右)これでも駅舎は文化財!
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森の中のトラム停留所
 

本稿は、Peter Kalbe, Hans Wiegard, "Nahverkehr in Gotha - Die Geschichte der Gothaer Straßenbahn, der Thüringerwaldbahn und der Industriebahn Gotha" Verlag Dirk Endisch, 2009、参考サイトに挙げたウェブサイトを参照して記述した。

■参考サイト
TWSB(テューリンガーヴァルト鉄道・ゴータ路面軌道会社)
http://www.waldbahn-gotha.de/
テューリンゲン中部運輸連合 Verkehrsverbund Mittelthüringen (VMT)
http://www.vmt-thueringen.de/

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