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2015年8月22日 (土)

新線試乗記-仙石東北ライン

朝8時台、仙台駅2番線に青、ピンク、緑という不思議なカラーコーディネートの列車が4両で入ってきた。仙石東北(せんせきとうほく)ラインを走るハイブリッド型気動車HB-E210系だ。

既存の線路で構成した新しい列車走行ルートのことを、JR東日本では、「~ライン」と呼んでいるようだ。仙石東北ラインは、仙石線と東北本線を経由して、県第二の都市石巻を県都仙台に直結する新ルートになる。震災後、一部区間がバス代行のままだった仙石線が全通再開するのに合わせて、今年(2015年)5月30日、運行を開始した。

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仙石東北ラインに投入されたHB-E210系
 

具体的なルートはこうだ。仙石線と東北本線は、松島を望む一部の区間で並走している(下記参考サイト参照)。そこで、松島駅/高城町(たかぎまち)駅の西方で両者が接近する地点に、接続用の線路300mを新設して、列車の相互乗入れを可能にした。ここを境に列車は、石巻方では仙石線、仙台方は東北本線を走る。

東北本線は、戦中(1944年)に完成した新線区間、いわゆる海線を含んでおり、線形が比較的よく、スピードアップが期待できる。震災前にも仙石線を通しで走る快速列車があったのだが、線内に十分な追抜き設備がないため、先行する各停より先着できなかった。これに対して、仙石東北ラインは事実上、別線を建設したのと同じ意味を持つ。そのメリットを最大限生かすために、全便が一部の駅を通過する快速の扱いになっている。

■参考サイト
仙石・東北接続線付近の最新1:25,000地形図
http://maps.gsi.go.jp/#15/38.376300/141.060700

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仙石東北ライン路線図
 

しかし、問題は両線の電化方式が異なることだ。仙石線は、私鉄の宮城電気鉄道を戦時中(1944年)に国有化した路線で、直流1500Vを使用する。一方の東北本線は、戦後の電化になるため、交流20000V 50Hzだ。従来運用されている電車では両線をまたいで走行することはできない。といって、交直流電車は価格が高く、デッドセクション(無電区間)も必要になるだろう。

最終的に導入されたのは、小海線その他で実績を積んでいるハイブリッド型の気動車(下注)だった。架線集電の必要がないので、接続線には架線が張られていない。

*注 ハイブリッド型は蓄電池を備えた電気式気動車。エンジンで発電機を回し、蓄電池に蓄える。その電力で車軸を駆動させるだけでなく、回生ブレーキから得られる電力も蓄電し再利用することで、省エネ化を図っている。

8月に仙石東北ラインを試乗した。仙台駅で石巻行きの電車といえば、ふつう地下にある仙石線ホームから出るものだ。しかし、新ルートは地上の東北本線ホームに発着する。両ホームの間はかなりの距離があるので、事情を知らないと乗継ぎに冷や汗をかくことになるだろう。平日の朝、郊外へ出ていく便だが、発車までにボックス席に2~3人は座った。まずまずの利用者数だ。

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仙台駅2番線から発車する石巻行き
 

停車中、電力は蓄電池から供給されているのでエンジンのアイドリングがなく、静かさは電車と変わらない。乗客は気動車に乗っていることを全く意識することがないだろう。走り出して暫くすると、エンジンのうなりが聞こえてきた。発進時も蓄電池からの電力を使用し、時速15kmに達するとエンジンが起動するのだそうだ。

仙台~石巻間が最速52分と宣伝されているが、それは上下各1本しかない特別快速の所要時間だ。それ以外は、朝夕走る仙台~塩釜間ノンストップの赤い快速が59分前後、日中の緑の快速は東北本線内の各駅に停まり、さらに3~4分余計にかかる。といっても、高城町までに中間駅は5つしかないから、私鉄並みの駅間距離の仙石線に比べれば、快速の名を汚すほどではない。

塩釜から先は山が海に迫り、長短のトンネルが連続する。10本目を抜けたところで、例の接続線との分岐点にさしかかった。かぶりつきで見ていると、今走ってきた東北下り線からいったん上り線に合流し、再び右手へ出ていく形になっている。ポイントはすでに分岐側に開いているが、その直前で一旦停止した。それから徐行で接続線に入る。すぐに仙石線への合流点が見えてくるが、手前の「第一場内」と書かれた信号が赤のため、再停止。青に変わるのを待って、おもむろに合流した。

帰り(上り列車)も同じ手順を踏んだので、上下ともここで2分程度のロスが生じている形だ。列車運行管理システムが両線で統合されておらず、手動で切替えを行う必要があるからだと聞いた。改良されるのは2~3年後になるそうだ。

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接続線分岐点
(左)東北下り線から右へ分岐
(右)接続線に入る
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(左)接続線から仙石線への合流点で信号待ち
(右)高城町駅の行先表示に「塩釜」が加わった
 

高城町から先、陸前小野までは今回再開した区間になる。陸前富山から陸前大塚の間では、海岸すれすれの場所を走り、出来立ての真っ白な護岸が目を引く。高さがさほどでないのは、湾口に連なる松島が防波堤となって津波の勢いが減衰するからだという。線路は、架線柱が新調され、一部でロングレールも敷かれているが、線路の位置はほぼもとのままだ。

ところが、陸前大塚から先、陸前小野までの間は大きく様変わりした。集落の高台移転計画に伴い、海沿いの平地を迂回していた線路を500mほど北へ移設するという大規模なルート変更が実行されたからだ。これによって、両駅間は4.7kmから3.5kmに短縮され、東名(とうな)、野蒜(のびる)の2駅が移設の対象となった(下の地形図参照)。

高架の新線がまっすぐ東の山手に上っていく。山上ではURによる宅地造成が進行中で、各所で重機が唸りを上げている。帰りに野蒜駅で下車してみた。駅は無人ながら、空調の効いた待合室とトイレが備わっている。しかし駅前広場の周りは全面、工事現場の仮囲いに覆われていて、視界が効かない。もとの集落に通じる道路は大回りしているので、炎天下では降りる気にもなれず、完成予想図の説明板を見るほかにできることがなかった。

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野蒜駅
(左)駅舎と仮囲いに覆われた駅前広場
(右)駅舎2階から造成現場を望む
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(左)交通路の位置関係を示す案内板
(右)鳴瀬川橋梁から野蒜方へ続く高架橋を望む
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陸前大塚~陸前小野駅の旧版1:25,000地形図(1978年改測)に
新線の位置を加筆
 

■参考サイト
野蒜駅付近の最新1:25,000地形図
http://maps.gsi.go.jp/#15/38.379000/141.156900

野蒜を出た新線は、再び高架になって山を下り、そのまま頑丈そうな鳴瀬川のPC橋を渡っていく。この橋梁は今回の新設ではなく、2000年に架け替えられたもので、津波にもよく耐えた。陸前小野では山が遠のき、平野の中を直線で進んでいく。この周辺も一部ロングレールになって、一時ジョイント音が消えた。矢本からは家並みが連なり、車内の客も駅ごとに増えていく。

石巻線が左隣に寄り添うようになれば、終点は近い。到着した石巻駅のホームには、まだ「仙石東北ライン開業2015.5.30」の垂れ幕が下がり、夏の風になびいていた。

同ルートには今回、上下各14本の列車が設定された。およそ1時間毎で、震災前の仙石線快速とほぼ同数だ。しかし、時刻表を見ると、下りは仙台発11時台、上りは折返しとなる石巻発12時台がぽっかり空いている。また、上りの通勤通学時間帯、仙台に8時台に到着する列車も設定がない。東北本線の線路容量その他の事情があるのだとは思うが、毎日の利用者にとっては増便を検討してほしいところだろう。

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石巻駅
(左)開業記念の垂れ幕が下がるホーム
(右)石ノ森章太郎のキャラクターが飾られる駅舎
 

石巻まで来た足で、石巻線に乗換えて、女川(おながわ)を往復した。こちらも震災で大きな被害を受け、最後の区間である浦宿(うらしゅく)~女川間は今年3月21日に再開されたばかりだ。旧北上川の鉄橋を徐行で渡り、山を貫いて渡波(わたのは)へ南下する。次いで万石浦(まんごくうら)の岸辺をくねくねとたどり、浦宿からトンネルを抜けると、女川だ。

新たに造成された土地に、1面2線のホームとコミュニティ施設を併設した真新しい駅舎ができていた。旧駅より200m山手で、標高も5m嵩上げされているという。野蒜と同様、駅の周辺では造成工事が真っ最中だ。待合室にある「私たちは海と生きる」と書かれたポスターが胸を打つ。

駅前広場に出てみた。まっすぐ延びるプロムナードに若木が2列に植えられ、港の方へ続いている。これが大きく育ち、樹陰ができる頃には、町にもとの賑やかさが戻るように、と祈らずにはいられなかった。

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女川駅
(左)新しいホームの周辺はまだ造成中
(右)駅舎正面
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女川駅前からプロムナードが港のほうへ延びる
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女川周辺の旧版1:25,000地形図(1974年修正測量)に
新駅の位置を加筆
 

■参考サイト
女川駅付近の最新1:25,000地形図
http://maps.gsi.go.jp/#15/38.446700/141.443900

掲載の地図は、国土地理院発行の2万5千分の1地形図小野(昭和53年改測)、女川(昭和49年修正測量)を使用したものである。

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