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2015年7月19日 (日)

新線試乗記-上野東京ライン

北陸新幹線の開業に沸いた2015年3月14日、首都圏のいくつかの駅で、それとは別の記念式典が催されていた。「上野東京ライン」の出発を祝う催しだ。開業式ではなく出発式とされたのは、完成したのが厳密に言うと新線ではなく、既存区間の線増だからだろうが、通勤・通学客にとっては、たまに乗る新幹線よりこちらのほうがはるかに重要だったに違いない。

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秋葉原駅付近の上野東京ライン(右の高架線路)
 

上野東京ラインは、上野駅と東京駅の間に中距離電車線を新設し、従来上野が終点だった宇都宮・高崎線、常磐線と、東京が終点だった東海道線の列車を相互に乗入れさせるというものだ(下注)。もともとこの間は線路がつながっていて、回送列車や一部の優等列車の運行に使われていたのだが、東北新幹線の東京延伸に際して、用地捻出のために分断された経緯がある。

*注 車両運用の都合上、常磐線電車の乗入れは品川まで。また、東海道線電車は常磐線には入らない。

撤去されずに残っていた部分はともかく、新幹線に場所を譲った神田駅周辺では、もはや2線分の新たな土地を確保することは不可能に近い。そこで、上野東京ラインの線路は、新幹線が走る高架の上空にもう1層高架を立てて、その上に敷設されることになった。夜間、列車が通らない時間帯に、架線が張られた新幹線の線路を足場にして橋脚を組立てるという、極めて難度の高い工事が続けられた。

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開業を知らせるパンフレット表紙
 

列車の往来が復活した距離はわずか3.6kmだが、それが及ぼす効果は計り知れない。まず、中距離電車の利用者にとっては、この区間で山手・京浜東北線への乗換が不要になった。乗換客が減れば朝夕の乗換駅の混雑が緩和されるので、当該駅の利用者にとってもこれは朗報だ。車内が最も混む区間として名を馳せていた上野~御徒町間も、実際目に見えてすいたらしい。

それとともに、上野~東京間はノンストップで走るため、時刻表によれば5分で着く。片や山手線は途中3駅に停車して8分かかっているので、先述の乗換時間を加味すれば、トータルでかなりの時間短縮(下注)になった。山手線の西半分における埼京線や湘南新宿ラインの機能が、東側でもようやく実現したことになる。

*注 JR東日本のプレスリリースでは、上野~品川間で約11分の短縮としている。

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開業後の路線図(紫が上野東京ライン)
 

直通するのは料金不要の列車だけではない。常磐線の特急も、日中を中心に上野から足を延ばして、品川に発着するよう改められた(下注)。東海道新幹線からの乗継ぎが便利になり、常磐方面が近くなったと感じる。また、都心の高架線路を見慣れないE657系が通過するという広告効果も侮れないだろう。

*注 2015年3月ダイヤでは、下り38本中22本が品川始発になった。

車両運用も、東海道線と宇都宮・高崎線で共通化された。その副次効果として、品川駅北側の車両基地の縮小が可能になるようだ。今後、この付近の山手・京浜東北線は海側に移設され、余剰となった土地に、新駅開設を伴う大規模な再開発が進められる。JRとしても、上野東京ラインの莫大な建設資金のいくばくかをここで回収しようと目論んでいるに違いない。

■参考サイト
上野駅付近の1:25 000地形図
http://maps.gsi.go.jp/#15/35.713500/139.776300
品川駅付近の1:25 000地形図
http://maps.gsi.go.jp/#15/35.628500/139.738800

5月に東京へ行った折、上野東京ラインに初乗りしたので、その様子を少し書いておこう。

品川駅で新幹線を降りた。せっかくの試乗なので、東海道線では珍しい交直両用車に始発から乗ってみようと思ったのだ。東京方がやたらと広いこのホームは、今回常磐線の専用に充てられた。10番線に青帯を巻いたE531系、隣の9番線にはE657系特急「ときわ」が停まっている。上野駅が南に引っ越してきたような妙な感覚だ。

*注 「ときわ」の名はまだ耳慣れないが、「フレッシュひたち」(停車駅の多い常磐線特急)を、上野東京ライン開業に合わせて改称したもの。

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品川駅
(左)9、10番線は常磐線専用に
(右)駅名標の表示も新橋方面のみ
 

特急の出発を見送ってE531系の車内に入ると、「この列車は上野東京ライン、常磐線直通、勝田行きです。」とアナウンスが流れていた。昼間の当駅始発なので、十分すいている。走り始めて2か月、すでに日常の存在になっているはずだが、まだ、運転室の後ろ、いわゆるかぶりつきに陣取る数人の中年男性のグループがある。

品川駅を出発すると、すっかり新しくなった車両基地を右に見ながらゆっくりと進んだ。本線に合流してもその調子で走り、加速を始めたのは田町を過ぎてからだった。途中、新幹線N700系に抜かれながら新橋に停車し、東京駅では左側の7番線に入った。

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東京駅
(左)駅名標に上野の文字が!
(右)常磐線特急E657系が出ていく
 

ここからは未知の区間になるので、先客の傍らで前方を注視する。少し前までは、終点東京だったはずなのに、もうそんな感覚はどこにも残っていない。あっさりと「勝田行き、ドアが閉まります」の告知があり、電車は動き出した。左の大外を走る中央線の線路が降りてきて、いっとき10本の線路がほぼ水平位置に並ぶが、首都高の高架をくぐるや否や、今度はこちらが35‰の急勾配にかかる。新幹線の上に重なる区間、「神田坂」の始まりだ。

がっしりとした4本のレールが空へ上っていく。真新しいまくらぎや防音壁、鈍く光るステンレスの架線柱の列も、新線らしい雰囲気を漂わせている。サミット区間は、神田駅のホームの膨らみをなぞるため、緩くくねっていた。周りを高いビルに囲まれているせいか、高さの感覚はあまりない。

天空の走りは長く続かなかった。秋葉原に向けてまた35‰で急降下していき、直交する総武線ホームの下すれすれをくぐる。隣の緩行線と同じ高さに戻ると、右側には新幹線に代って、上野駅から引き込まれてくる電留線が現れた。御徒町を前に見る頃、早や減速が始まる。この付近は、上野東京ラインの複線と電留線に通じる単線の計3本が仲良く並んでいるが、電車はポイントを渡って中央の線路へ移り、そのまま上野駅6番線へ滑り込んだ。

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(左)東京方から「神田坂」を望む
(右)秋葉原で総武線の下をくぐる
(いずれも南行列車の最後尾から撮影)
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秋葉原駅
(左)上野東京ラインの列車が坂を上って新幹線の上へ
(右)新幹線は上野東京ラインの下へ
 

興味深げに前面を眺めていた中年グループは、「もう着いたよ!」と軽い感嘆の言葉を残して降りていく。乗ってしまえば確かにあっけない。東京~上野間ってこんなに近かったのかと率直に思う。しかし、それと同時に、「神田坂」のうねる急勾配は、どこかの山越えを彷彿とさせた。南北ルートの再構築という画期的な大事業にとって、文字どおりあれが最大の山場だったのだと実感させるものがあった。

常磐線の電車は上野駅を出た後、宇都宮・高崎線の上り線を平面横断して、本来の常磐線線路に入っていく。ダイヤ編成上はここが難所だ。上野で降りてしまうのはもったいない。もう一駅、日暮里まで前面車窓の続きを楽しむことにしよう。

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上野駅の駅名標にも東京の文字が加わった
 

■参考サイト
JR東日本-上野東京ライン
http://www.jreast.co.jp/hitachi_tokiwa/uenotokyoline/

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コメント

ブログをご覧くださりありがとうございます。
話題になった上野東京ラインも開通から早や2年、
ふだんの景色になってしまいましたね。

こんばんは。
検索結果より参りました。
上野東京ライン、神田近辺は工事をしている頃から、近くを通りがかったときには興味深く見ていました。
新幹線の高架の直上に、さらに高架を建設する工事は、確かに大工事だったと思いますし、そのようなことが可能になること自体が不思議に思えました。
列車に乗ってその区間を通り抜ければ、昔ならばなかったような急勾配で上り下りし、電車の性能向上も感じさせてくれました。
記事に書かれているように、多くの利用者の日々の利便性に影響する線路の復活、大都会でこのようなことがあるのも興味深い出来事でした。
風旅記: http://kazetabiki.blog41.fc2.com/

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