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2015年7月12日 (日)

新線試乗記-北陸新幹線、金沢延伸 II

長野から先、下り列車では左側に勇壮な山のパノラマが広がり、旅する人を魅了し続ける。そのため、つい右の車窓への注意は疎かになりがちだ。しかし、糸魚川駅付近は右手に日本海が眺められる貴重な数分間なので、見逃さないようにしたい。なにぶん昼間は空と海の境目がはっきりしないが、駅を過ぎてまもなく渡る姫川では、白濁した水流が青い海と混じり合うのを見届けることができるだろう。

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糸魚川駅西方を行くE7/W7系、背後は青海黒姫山
(2015年5月撮影、以下5月)
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日本海に注ぐ姫川(5月)
 

在来線のえちごトキめき鉄道(旧 北陸本線)を海側に見送ると、再びトンネル区間に入る。海岸線は、言わずと知れた親不知子不知の難所だが、新幹線はその山側を直線的に抜けていく。トンネルは数本に分かれているものの、青海、歌、新親不知の3本はシェルターでつながっているため、次の明かり区間は境川の谷までない。谷は名前のとおり越後と越中の境で、今も新潟・富山の県境を成している。

とはいえ、もう富山か、と思う時間も無いに等しい。またすぐに、今回の開通区間で2番目に長い朝日トンネル(7,570m)に突入するからだ。闇を抜ければ今度こそ山地が後ろに下がって、黒部川が造った広い扇状地の上に出る。春は一面に水を張った田んぼに、点在する屋敷森とその背後の雪山が柔らかく映り込んでいる。きらきらと光を返す黒部川を開通区間最長の橋梁(759m)で渡りきると、黒部宇奈月温泉(くろべうなづきおんせん)駅だ。

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(左)黒部川扇状地の田園風景(5月)
(右)黒部川を渡る(5月)
 

駅は黒部(三日市)市街の東の、富山地方鉄道(地鉄)本線と直交する地点に設けられた。長い駅名は、黒部峡谷や宇奈月温泉への玄関口を意味している。その方面への足となる地鉄にも新駅が設置されたが、さすがに同じ駅名では自社の既存駅と混同されるので、新幹線駅の仮称だった新黒部が採用されている。

駅前広場はひっそりしていた。傍らで黒部の名水がオブジェからほとばしっていたので、一口すくって飲む。地鉄側では、オレンジ色に塗られたトロッコ列車の静態展示が目を引いている。凸形電気機関車と二軸客車のペアで、説明板によれば、前者は1934年製、後者は1926年製、どちらも1994年ごろまで現役だったそうだ。なんだか峡谷へ行きたくなってきた。

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黒部宇奈月温泉駅
(左)トロッコ車両(凸形電気機関車と2軸客車)の展示
(右)黒部の名水、飲用可
 

地鉄の駅は道路を隔てて新幹線駅と対面していて、乗継ぎはスムーズだ。小さいながら案内所を兼ねた待合室があり、アテンダントも詰めている。従来JRから地鉄へ乗換える駅は富山か魚津だったと思うが、新幹線の開通でその機能はここへ移ったようだ。

その証拠に、がらすきの状態でやってきた9時台の宇奈月温泉行きに、ここで15人ぐらい乗り込んだ。宇奈月からの到着便(10時台の上り列車)は25人も下車して、狭いホームがいっとき人で溢れた。今のところ、ここと宇奈月を結ぶ路線バスはないようなので、新幹線で着いた観光客は地鉄かタクシーを使う以外に方法がないのだ。

残念なことに、案内所は駅の機能を託されていない。アテンダントさんに切符の買い方を尋ねたら、申し訳なさそうに、ここは無人駅なので、乗車の際、整理券を取って、着駅で精算してくださいと返された。ICカードもSUICA、ICOCAのような全国相互利用カードは使えない。これだけ利用者があるのなら、切符の手売りはともかく、自動券売機ぐらい置いてもいいように思うが。

■参考サイト
黒部宇奈月温泉駅付近の1:25 000地形図
http://maps.gsi.go.jp/#15/36.873800/137.480900

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地鉄新黒部駅
(左)奥にあるのは案内所
(右)新幹線からの乗継ぎ客が待つホームに宇奈月温泉行きが入線
 

新幹線に戻ろう。黒部宇奈月温泉駅を出ると、左車窓には厳しい冬の装いのままに横たわる立山連峰が眺められる。東から張出してくる隆起扇状地をいくつかの短いトンネルでかわしていくので、そのたびに絶景が遮られるのが少し残念だ。しかし、明かりと闇の交錯も、北陸自動車道と早月川との二重交差を越えたところで終わる。ここからはまさに富山平野で、早月川の扇状地を滑らかに下っていき、地鉄本線と再び交差するあたりでほぼ水平勾配になる。

常願寺川(じょうがんじがわ)を渡る頃には、列車の速度も落ちて、車内に富山停車を告げるアナウンスが流れてくる。富山は在来線の駅に併設されているが、そのために、東側で在来線を真似るようなクランク状のルートをとる必要があった。まず左に大きくカーブを切って、あいの風とやま鉄道に転換した在来線(旧 北陸本線)に寄り添い、次に右に曲がりながら、ようやく駅に接近していく。

富山駅は目下、工事中だ。もちろん新幹線の駅施設はきれいに完成しているが、隣ではまだ在来線を高架に上げる作業が終わっていない。上り線は、4月再訪時に高架に切替えられていた(4月20日供用開始)が、下り線の完成にはあと3年ほどかかるという。地上階を南北に貫通する予定の自由通路もまだ南半分しかできておらず、北側は在来線の改札で塞がれている。ライトレールが待つ北口へ抜けるには、東側にある従来の地下道に回る必要がある。

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2015年の富山駅周辺図
 

未完成の駅とはいえ、注目すべきは、新幹線改札を出て正面に見える地鉄市内電車のホームだ。これまで「富山駅前」電停は、駅正面の桜橋通り上にあったのだが、新幹線開通と時を同じくして(2015年3月14日)、駅舎内に線路が引き込まれ、新たに「富山駅」電停として開業した。

新電停はスマートなデザインで、近年導入が進むセントラムやサントラムといった新型車両によく似合う。それだけではない。乗車と降車のホームが分離された3面2線の構造で、動線がスムーズになった。通勤・通学客で乗車口に長い列ができる朝の時間帯には、効果を発揮している。とやま鉄道線などからの乗換えに要する時間もずいぶん短縮されたし、上屋がない旧電停に対してこちらは駅舎の中で、雨や雪の日に傘をさす必要がなくなった。

現在、すべての電車が、桜橋通りまたはすずかけ通りの路面からいったんここへ立ち寄る。車内のアナウンスも「次の富山駅で進行方向が変わります」と告げる。旧電停は市内線の途中駅という印象だったが、新電停を観察していると、もはやターミナルの雰囲気さえ窺えた。3年後(2018年度)に北口のライトレールともつながれば、中心的な位置づけがさらに強まるだろう。

*注 旧「富山駅前」電停は「電鉄富山駅・エスタ前」と改称された。南富山方面から来た場合、地鉄電車や地下道へは今でも時間的に有利だ。

■参考サイト
富山駅付近の1:25 000地形図
http://maps.gsi.go.jp/#15/36.701400/137.213200

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新幹線富山駅
(左)ホームで列車を見送る(3月)
(右)新幹線改札前の自由通路、チューリップフェアをアピール中(5月)
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新しい「富山駅」電停
(左)1番線は南富山行き、3番線は大学前行きと環状線(3月)
(右)乗り場から新幹線改札が見通せる(5月)
 

富山駅を出た新幹線列車は、神通川を渡り、JR高山線を左に見送ると、ごく短い新呉羽山(しんくれはやま)トンネルを抜ける。富山から西では、心なしか防音壁が高い個所が多い気がする。もとより沿線は平野部で、集落の間を突っ切っていくのでやむを得ないのだが、車窓の楽しみは半減してしまう。新高岡までの前半は在来線の北側を走り、途中で南側に移るのも、地図を見ていなければ気づくことはないだろう。川幅の広い庄川を渡ると、すぐに新高岡だ。

新高岡駅は、在来線の高岡駅から南に1.5kmほど離れた位置に造られた。イオンモールをはじめ、郊外商業施設が立ち並ぶエリアで、幹線道路にも近く、クルマでのアクセスは便利そうだ。しかし、鉄道の利用者は既存の高岡駅でもう一度乗換える必要がある。公共交通体系としては機能的とはいいがたい。高岡駅の北口に発着している万葉線の延伸構想もあると聞くが、交流電化の線路(現 あいの風とやま鉄道)を横断するという難題が控えており、容易には実現しないだろう。

今さら言っても仕方ないのだが、本当に在来線の駅に併設できなかったのだろうか。地形図を見ると、高岡駅の富山方は、在来線がおおむね直線的に伸びているし、金沢方も街道筋さえ抜ければ、すぐ小矢部(おやべ)川の田園地帯に出る。郊外に比べて用地買収費がかさむのは当然だが、腹付けも全く不可能ではなさそうだ。呉西の中心都市として求心力を高めるつもりなら、極の二分化はなんとしても回避すべきだったと思うのだが。

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新幹線新高岡駅
(左)南口
(右)ブロンズ製の高岡大兜
 

ともあれ現実問題として、両駅間を結ぶ公共輸送は、10分間隔で運行するシャトルバスと、昔ながらのJR城端(じょうはな)線に任されている。北陸本線は並行在来線として第三セクターに転換されたが、支線はJRの経営下に残され、連絡のための新駅が新幹線駅の金沢方に設けられた。

城端線の列車は1時間に1本程度、しかも轟音と鈍足で評判の芳しくないキハ40系がいまだに使われている。これでは到底シャトルバスにかなうまい、と思ったが、案に相違して新高岡では下り列車から30人以上が降りた。上り列車はそれ以上で、高校生も多数下車したから、新幹線への乗継ぎだけではなさそうだ。

この賑わいにもかかわらず、新高岡は地鉄の新黒部と同じく無人駅で、通常、「後ろのドアは開きません」と告げられる。降車完了までに時間がかかることは言うまでもない(下注)。現状維持がせいぜいのJRより地元密着の三セクに転換した方が、よほどサービスが向上するのではないだろうか。

*注 目撃した限り、混雑する下校時間の列車はさすがに全部のドアから降車させ、運転士がホームで切符をチェックしていた。

■参考サイト
新高岡駅付近の1:25 000地形図
http://maps.gsi.go.jp/#15/36.727000/137.011700

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城端線新高岡駅
(左)入口
(右)チューリップフェアの客を含め、予想外の降車客があった(5月)
 

新幹線の旅もあと1区間を残すのみだ。石動(いするぎ)付近までは散村で知られる砺波平野を滑るように走っていくが、相変わらず高い防音壁がしばしば視界をさえぎる。鉄道ファンとしての注目は、長さ6978mの新倶利伽羅(しんくりから)トンネルに入る直前、右手に在来線が接近してくるところだ。この線路配置には訳がある。北陸新幹線では、建設費を抑えるため、狭軌列車が新幹線規格の新線に乗り入れる「スーパー特急」方式が想定された時期があった。ここは、富山方から在来線を走ってきた列車が高速新線に移る西石動信号場になるはずだったのだ。

さらに話を遡れば、高岡~金沢間のルートは当初の構想から大幅に見直されている。もとは高岡の西方で北側の山間部を直線的に貫いていく予定だった(下図参照)。その一部となる加越トンネル(6130m)が、先行して1989年に着工されていた。だがこの頃すでにJRは、新線を引受ける条件として並行在来線の経営分離を求めていたため、それに従うと当該区間はJR線でなくなってしまう。

方針に反対する地元の声の高まりを受けて、富山県は、新線を石動以西とするよう国に要望した。そうすれば、分離される区間が駅のない県境付近だけで済むからだ。先述の西石動信号場はこのとき登場したものだ。県の案が承認されたことで、掘削中だった加越トンネルは一転、無用の長物となった。中止までにかかった工事費は、県の負担とされた。地図を見ると、新倶利伽羅トンネルは在来線の北側へ迂回するような形になっているが、当初の構想に接合させるためのルート設定であることは間違いない。

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高岡~金沢間旧ルート(推定)
 

石川県に入ってからもトンネルが断続する。ようやく明かり区間が続くようになると、在来線が右側に寄り添ってくる。やがて左の車窓前方に、ビル群の合い間を通して金沢城のこんもりとした森と背後の山並みが現れる。

「まもなく金沢です。お忘れ物のないようお支度ください」。終点に近づいていく時間はいつも慌しい。古都の散策を楽しみに遠方からやってきた人、東京出張を終えて地元に帰ってきた人、あるいは在来線特急に乗り継いで旅を続ける人、誰もがくつろいだ気分を切り替えて、そそくさと降りる準備にとりかかる。

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(左)小矢部川と砺波平野(3月)
(右)ビルの向こうに金沢城の森が見える(5月)
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金沢駅
(左)東京からの列車が到着
(右)駅のシンボル鼓門(つづみもん)(5月)
 

■参考サイト
金沢駅付近の1:25 000地形図
http://maps.gsi.go.jp/#15/36.578400/136.647900
眺め-北陸新幹線-(前面車窓) http://www.jreast.co.jp/nagame/
JR東日本-meets新幹線 http://www.jreast-shinkansen.com/
JR西日本-北陸新幹線 http://hokuriku-w7.com/
Wikipedia - 加越トンネル https://ja.wikipedia.org/wiki/加越トンネル

最後に、これから北陸新幹線の旅を目論んでいる方へ。「北陸新幹線鳥瞰絵巻」(信濃毎日新聞社 2015年3月刊、右写真)という、興味深い刊行物がある。鳥瞰図絵師として数々の優れた作品を発表してこられた村松 昭氏による長尺の絵図で、起点の高崎から終点金沢まで沿線の見どころが、野鳥や獣や魚類の生き生きとした姿とともに丹念に描かれている。旅への期待が高まること請け合いだ。

さらに付録として、今尾恵介氏の手描きによる線路縦断面図ほか、鉄道ファンも納得の資料集がついている。私も本稿を書く際、大いに参考にさせていただいた。改めてお礼を申し上げたい。

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掲載の地図は、地理院地図(2015年7月12日現在)を使用したものである。

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