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2015年5月13日 (水)

アイルランドの鉄道地図 III-ウェブ版

意欲的な鉄道地図を多数公表してきたイギリスのサイト、プロジェクト・マッピング Project Mapping にアイルランドのページが創設されてから、早や数年が経つ。このページには、オンラインで入手できるアイルランドの現行鉄道地図がおよそ網羅されている。

■参考サイト
Project Mapping - Ireland and Northern Ireland
http://www.projectmapping.co.uk/Europe World/ireland_train_rail_maps.html

Blog_ireland_railmap_hp1

まず、ページ左上の図は、アイルランド共和国の鉄道網を運営するアイルランド鉄道 Iarnród Éireann (IÉ)/ Irish Rail が自社サイトでも公開している「インターシティ路線図 IÉ intercity map」だ。自社線は緑、接続する北アイルランド鉄道は黄緑色で描いている。ダブリンなど後述する詳細図のあるエリアを除いて停車駅をすべて掲げ、西海岸近くで開業準備中の駅も薄いグレーで書き入れてある。インターシティ(都市間急行)に限定しているとはいえ、ダブリン近郊を別とすればこれが島の全旅客路線になる。

デザインは、距離や方角をデフォルメしたスキマティックマップ(位相図)だ。首都ダブリンを右中央に置き、そこから各地へ放射状に広がる路線を縦・横・対角線だけを用いて描いている。影響を受けてか、島の形状も実際と違って東西にやや長い。「やれやれ、これがアイルランド島の形なのか? Oh dear, is that the shape of Ireland?」というキャプションはそのことを指している。

なお、自社サイトのほうのURLは以下の通り。こちらにはインタラクティブマップも用意されている。

■参考サイト
Irish Rail - Station and Route maps
http://www.irishrail.ie/travel-information/station-and-route-maps

左端列の下の方には、近年、南東岸のコーク Cork で整備されたコミューター(通勤通学)路線の図がある。

これに対して、左から2列目には、本サイトを運営するアンドリュー・スミザーズ Andrew Smithers 氏による「アイルランド鉄道地図 Ireland rail network map」が並んでいる。最上段が最新版で、以下旧版が続く。鉄道の自社版路線図を参考にしながらも、私ならこうデザインするという主張が明確な作品群だ。

自社版は、ハリー・ベック Harry Beck がデザインした有名なロンドンのチューブマップ Tube map(地下鉄路線図)のスタイルに基づいていた。対するプロジェクト・マッピング版は、ルートを直線主体で描くものの、向きを強制的に縦・横・対角線に揃えることはせず、地理的な位置関係にも配慮する。それで、島の輪郭は直感的に正しい形を保ち、各路線も本来進むべき方向に延びている。

また、自社版で別図となっているダブリンやコーク近郊の拡大図は、ベルファストのそれとともに余白に挿入され、一面で島の旅客全線全駅の把握が可能になっている。ダート DART やコミューター Commuter といった日本でいう「国電」が走る区間が全国図にも表示され、拡大図とすぐに対照できるのも親切だ。

3列目は、ダブリンの近郊路線図を集めている。最上段はアイルランド鉄道が公開している「ダブリン地域路線図 IÉ Dublin area rail map」だ。近郊列車の走るルートと停車駅を、色分けによってすべて描いている。実線は鉄道、破線は連絡バスを意味する。まるで多数の路線が並行しているように錯覚するが、サバーバン Suburban とダート DART は同じ線路を走る快速と各停の関係だ。また、むりやり路線を折り曲げているので、「スライゴー線は折返し!ヒューストンから出る線は南行き? The Sligo line goes back on itself! And the line from Heuston south?」とキャプションは皮肉っている。

2段目からは、スミザーズ氏の「ダブリン地域鉄道・トラム地図 Dublin area rail and tram map」になる。上のダブリン図と比較すれば、同じ横長のレイアウトながら、地図表現がずいぶんと改良されていることが実感できる。すなわち、線路を共有しているインターシティ(上図では省略)とサバーバンとダートは束にして描かれ、路線が進む方向もおおむね正しい。さらに、二大鉄道ターミナルであるコノリー Connolly 駅とヒューストン Heuston 駅の間を、ルアス LUAS と呼ばれる市内トラムが連絡していることも明らかになる。緑色を別の線に使っているため、ルアスのグリーンライン Green Line(下注)が緑っぽく見えないのが玉に瑕だが、この図さえあれば、ダブリンとその近郊の鉄道は問題なく乗りこなせるだろう。

*注 現在、セント・スティーヴンズ・グリーン St.Stephen's Green が起終点のルアス・グリーンラインは、2017年完成予定で北方への延伸工事が行われている。レッドラインと交差し、ブルームブリッジ Broombridge でコミューター路線と接続する。

ページ右端は、北アイルランドに舞台が移る。最上段は、スミザーズ氏の「北アイルランド鉄道地図 Northern Ireland rail map」で、3段目からが北アイルランド鉄道 NI Railways のオリジナル路線図になる。ベルファストBelfastのグレート・ヴィクトリア・ストリート Great Victoria Street 駅を起点にする4系統と、セントラル Central 駅からダブリンへ向かうエンタープライズ Enterprise 号のルートが描かれている。

自社製作図は繰り返すまでもなくベックスタイルのデザインだが、スミザーズ氏の改良図と比べると、たとえば、ロンドンデリー線 Londonderry Line コールレーン Coleraine 駅のぎこちない表現(線路の向きが不明)、バンガー線 Bangor Line の上下交互の駅名配置(連続性が把握しにくい)、ダブリン線 Dublin Line とニューリー線 Newry Line の不自然な乖離といった点が目につく。

なお、同鉄道は、この地域の公共交通を一手に担う公営企業トランスリンク Translink(正式社名は、北アイルランド運輸持株会社 Northern Ireland Transport Holding Company)が運営している。同社の公式サイトには、路線バス(アルスターバス Ulsterbus、メトロ Metro)を含めた公共交通地図も見つかる。

■参考サイト
トランスリンク(公式サイト) http://www.translink.co.uk/

前回、アイルランドの鉄道網の今昔を比較する地図帳を紹介したが、ウェブサイトにもモノクロながら1906年当時の鉄道地図が挙がっていた。いうまでもなく鉄道輸送全盛の時代であり、レールが全土をくまなく覆っていたことがよくわかる。現状と比較すれば(比較するまでもないかもしれないが)、あまりの変わりように言葉を失う。

■参考サイト
1906年の鉄道地図(Viceregal Commission)-軽鉄道を含む
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Map_Rail_Ireland_Viceregal_Commission_1906.jpg

★本ブログ内の関連記事
 アイルランドの鉄道地図 I
 アイルランドの鉄道地図 II-今昔地図帳
 アイルランドの旅行地図
 北アイルランドの地形図・旅行地図

 近隣諸国のウェブ版鉄道地図については、以下を参照
 イギリスの鉄道地図 V-ウェブ版
 ヨーロッパの鉄道地図 V-ウェブ版

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