« アイルランドの旅行地図 | トップページ | アイルランドの鉄道地図 I »

2015年4月 5日 (日)

北アイルランドの地形図・旅行地図

Blog_northernireland_50k1
OSNI 1:50,000
ベルファスト
2000年版表紙
 

アイルランド島の北東部6州は、北アイルランド Northern Ireland としてイギリス(グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国)の一部を成している。しかし、この地域の官製地形図を作成してきたのは、イギリスの陸地測量部 Ordnance Survey(下注)ではなく、北アイルランド政府に属するオードナンス・サーベイ・ノーザン・アイアランド Ordnance Survey Northern Ireland (OSNI)、日本語でいう北アイルランド陸地測量部だ。

*注 イギリス(グレートブリテン島と周辺島嶼)の地形図については、本ブログ「イギリスの地形図-概要」で詳述している。

アイルランドの地形図-概要」の項にも記したとおり、アイルランドの近代測量は、イギリスの統治下にあった1824年に始まる。この年、アイルランド陸地測量部が設立され、トーマス・コルビー Thomas Colby 率いる調査隊によって、1846年までの間に全島の1マイル6インチ図(1:10,560)が完成した。しかし、1920年にアイルランド統治法が成立したことで、連合継続を望む北東6州と分離独立を求める他の26州(後のアイルランド共和国)は、それぞれ独自の政府と議会を有することになった。これに従い、陸地測量部の機能も南北に分割され、北アイルランドではOSNIが業務を引き継いだのだ。

OSNIは2008年に行政改革の一環で、財務・人事省に属する国土・資産局 Land and Property Services に統合され、独立した組織ではなくなった。しかし、ブランド名としては今も継続して使用されている。今回はOSNIブランドで刊行されている汎用地形図・旅行地図の概要を、適宜アイルランド共和国陸地測量部 Ordnance Survey Ireland (OSI) の製品とも比較しながら紹介しよう。

1:250,000は、北部、西部、東部および南部の4面でアイルランド全島をカバーする。このうち「北部 North」がOSNIの担当だ。というのも、この1面に北アイルランドの全域が収まるからで、同地域の都市の位置関係や道路網などを概観するには格好の地図といえるだろう。地図の仕様は共和国のOSIが受け持つ3面と共通なので、詳細は「アイルランドの1:50,000と1:250,000地形図」を参照願いたい。

Blog_northernireland_126k
OSNI
ハーフインチ地図表紙
図番2 北東部
1968年版復刻
 

1:126,720(ハーフインチ地図 Half-inch map)もかつては全島にわたって整備されていた。図上1/2インチで実長1マイルを表し、クォーターインチ地図 Quarter-inch map(≒1:250,000)と1インチ地図 One-inch map(1:63,360)の中間の縮尺という位置づけだった。正規の図郭は全島を25面でカバーするのだが、それとは別にOSNIは、4面で島の北部をカバーする集成図を作成していた。管理や販売の手間を省くためだろう。このため、北アイルランドでは、正規図が在庫限りとされ、更新も行われなかった。1990年代のカタログでは、図番5 ベルファスト Belfast が絶版と記されている。

Blog_northernireland_126k_sample
ハーフインチ地図 図番2の一部

これに対して1:50,000は現存のシリーズだ。同じく全島統一の図郭で作成され、全92面のうちOSNIは18面を担当している。座標系はもとより図式などの基本仕様はOSNI、OSIとも共通なのだが、販売の体裁は異なる。OSIが全体を「ディスカヴァリー(発見)シリーズ Discovery Series」と名付けるのに対して、OSNIは「ディスカヴァラー(発見者)シリーズ Discoverer Series」と少し変え、表紙デザインにいたってはまるで別物のようだ。

Blog_northernireland_50k2
OSNI 1:50,000地形図表紙
(左)図番27 上アーン湖 2001年版
(右)図番4 コールレーン 2012年版
 

ディスカヴァラーシリーズは、18×11.5cmの厚紙カバーがついた折図で、各図幅40km×30kmのエリアをカバーする。グリッドは1km単位で刻まれている。地勢表現は10m間隔の等高線で、さらに段彩が施される。この段彩の仕様はOSIとOSNIで異なり、前者が100mごとに色を変えているのに対して、後者は50mごとと小刻みだ。配色も、低地を表す緑系で見ると、前者は標高0~100mで最も濃くなるが、OSNIは0~50mが最も薄い。色面は視覚に直接訴えるだけに、双方の図を見比べると少し違和感を覚えるかもしれない。

なお、1990年代までは伝統的な1:63,360(1マイル1インチ図)も供給されていたが、1978~85年の第3版刊行を最後に、1:50,000に道を譲った。

Blog_northernireland_50k_index
1:50,000索引図
赤色の数字がOSNI担当の図葉
Blog_northernireland_50k_sample
1:50,000図の一例
OSNI公式サイトより

1:25,000は全域をカバーしておらず、人気の高い旅行スポットに限定した旅行地図として刊行されている。OSNIの2003年版カタログには、域内最高峰を擁するモーン・カントリー Mourne Countryのほか、湖水地方の下アーン湖 Lower Lough Erne、上アーン湖 Upper Lough Lake、東部のスリーヴ・クルーブ山 Slieve Croob、計4面の案内がある。10m間隔の等高線で地勢を表すとともに、1:10,000図を縮小したベースマップの上に道路などを重ね描きしてあり、色調が淡泊なだけに、赤いピクトグラムで示される旅行情報がよく目立つ地図だった。

Blog_northernireland_25k1
1:25,000旧版
(左)モーン・カントリー 1996年版
(右)下アーン湖 1995年版
 

2015年の現行版はかなり様変わりしている。「アクティヴィティ(活動)シリーズ Activity Series」という総称がつき、すでに6点のラインナップがある(下注)。表紙も、風景写真に人目を引く特大の文字を重ねた、官製らしからぬデザインだ。用紙も横95cm×縦84cmと大きく、かつ両面印刷なので、掲載範囲はかなり広い。例えば、世界自然遺産のジャイアンツ・コーズウェー(巨人の土手道)Giant's Causeway を図郭に含む「コーズウェー海岸及びラスリン島 Causeway Coast and Rathlin Island」は、東西60kmものエリアがすっぽり収まる。等高線間隔は10mで、標高200mの前後で色を変える段彩が施されている。

*注 内訳は、紹介したコーズウェー海岸図葉のほか、「スリーヴ・クルーブ山を含むモーン山地 The Mournes including Slieve Croob」「アントリム峡谷 Glens of Antrim」「アーン湖 Lough Erne」「スペアリンズ山 The Sperrins」「ストラングフォード湾 Strangford Lough」

Blog_northernireland_25k2
1:25,000現行版
コーズウェー海岸およびラスリン島 2010年版
(左)表紙(右)裏表紙
Blog_northernireland_25k2_sample
1:25,000図の一例(モーン山地)
OSNI公式サイトより
 

OSIも同じ趣向の「アドヴェンチャーシリーズ Adventure Series」を発表している(下注)が、地図の印象はだいぶ異なる。OSI図は、等高線、地籍界、森林・岩石地を表すパターンの三者が似た色を使っているため、重なると視認性が落ちてしまうのが難だ。その点、OSNIは色を変え、森林は薄い網掛けにするなど、読取り易さに配慮が感じられる。

*注 アドヴェンチャーシリーズについては、本ブログ「アイルランドの旅行地図」参照。

旅行情報の充実については、両者とも力を入れている。OSNIのシリーズでは、観光案内所や駐車場、キャラバンサイトのような一般的な項目に加えて、ウォーキング、サイクリング、ポニートレッキング、ロッククライミング、スキューバダイビング、カヌー、サーフィンなど、野外活動適地の記号が盛りだくさんで、アクティヴィティマップと呼ぶにふさわしい。

イギリス(グレートブリテン島)では縮尺1:25,000の「エクスプローラーシリーズ Explorer Series」が、最も詳しい旅行地図として定着している。OSNIの「アクティヴィティシリーズ」もそのような水準を目指しているのだろう。

■参考サイト
OSNI地図(公式サイト) http://www.nidirect.gov.uk/osni
同 オンラインショップ https://mapshop.nidirect.gov.uk/

★本ブログ内の関連記事
 アイルランドの地形図-概要
 アイルランドの1:50,000と1:250,000地形図
 イギリスの地形図-概要

 アイルランドの旅行地図
 アイルランドの道路地図帳
 スコットランドの名物地図
 イギリスの旅行地図-ハーヴィー社

« アイルランドの旅行地図 | トップページ | アイルランドの鉄道地図 I »

西ヨーロッパの地図」カテゴリの記事

旅行地図」カテゴリの記事

地形図」カテゴリの記事

コメント

1801年の合同法で成立した連合国家とされているのは本当はエリザベスで有名なバッテン家のエドワードの宗教都市の宗教施設の支配権獲得である叙任である。このときのエリザベスで有名なバッテン家のエドワードはジュリーサンローランと関係のあるエドワードである。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« アイルランドの旅行地図 | トップページ | アイルランドの鉄道地図 I »

2025年1月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

ACCESS COUNTER

無料ブログはココログ