アメリカ合衆国の道路地図-カッパ・マップ、AAA他
前回紹介したランド・マクナリー社以外にも、多くの出版社がアメリカ合衆国の道路地図を手掛けている。アメリカン・マップ社などの流れを汲むカッパ・マップ・グループ、AAAの略称で知られるアメリカ自動車協会、科学雑誌のブランドで知られるナショナル・ジオグラフィックなどだ。本国以外でもイギリスのAA出版社 AA Publishing、フランスのミシュラン Michelin などが刊行しているが、ここでは国産3社の、主として道路地図帳について紹介したい。いずれも、アメリカ合衆国とカナダの州別地図にメキシコの小縮尺図を加えた北米道路地図帳だ。
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合従連衡を繰り返して今や地図出版の最大手に躍り出たカッパ・マップ・グループ Kappa Map Group だが、そのカタログには数多くの道路地図帳が載っている。カッパの名はギリシャ文字に由来するが、地図出版界での知名度はまだ低い。それもそのはずで、1955年創立以来、雑誌出版社だった同社が地図出版の買収を活発化させたのは、2007年以降だからだ。
カッパ・マップ 「最も読み易い」北米道路地図帳 2013年版表紙 |
この年まず、ユニヴァーサル・マップ・エンタープライズ Universal Map Enterprise を傘下に収めた。2010年にはテキサス州拠点のマプスコ Mapsco を買収、さらにランゲンシャイト出版グループ Langenscheidt Publishing Group から、傘下のアメリカン・マップ American Map、ハモンド・マップ Hammond Map 等を買収した。印刷地図事業がデジタル地図に圧迫されるなか、カッパは、各社が持つリソースを糾合することで競争力を高める戦略をとった。地域別地図帳や市街図などは、表紙のスタイルをグループ全体で統一しながらも、通りの良い旧ブランドを名乗り続けているが、ユニヴァーサル・マップの名を残していた北米道路地図帳は、2011年からカッパ・マップのブランドへ切替えを行った。
この中でフラグシップに位置付けられているのは、「北米デラックス道路地図帳 North America Deluxe Road Atlas」だ。ランド・マクナリーなら黄表紙の道路地図帳(下注)に相当する。横27.6×縦35.6cmの大判、週刊誌と同じ中綴じ式で144ページ。そのほか、次のようなバリエーションがある。地図を3割拡大した「最も読み易い拡大版 Easiest to Read Large Print Road Atlas」は、判型はデラックスと同じでスパイラル綴じ、280ページ。判型を小ぶりにした「中判 Mid-Size Road Atlas」は中綴じ、64ページ。その地図を30%拡大した「大縮尺版 Large Print Road Atlas」は大判、スパイラル綴じ、96ページ。
*注 ランド・マクナリー社の道路地図については、本ブログ「アメリカ合衆国の道路地図-ランド・マクナリー社」参照。
デラックス版をマクナリーの黄表紙と比べてみると、州別図を見開き2ページに展開する基本構成は変わらない。大きく違うのは、ページの余白には、市街図ではなく地名索引が優先的に配置されていることだ。索引を巻末にまとめていないので、探したい地名が地図のどこに描かれているかがすぐに検索できる。これが、マクナリーに対抗するセールスポイントだ。ただし、掲載スペースを捻出するために、市街図の掲載数がより少なくなる、あるいはメインの州別図が若干小さく、つまり小縮尺になってしまうのはやむを得ない。一方、道路、公園・保護区、都市域などの地図表現は似たり寄ったりだが、地名の書体や地方道の色分けなどでは、マクナリーのほうがいくらか見易く感じる。
■参考サイト
カッパ・マップ・グループ https://www.kappamapgroup.com/
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日本のJAF(日本自動車連盟)に相当するアメリカ自動車協会 American Automobile Associationにも、独自の道路地図帳がある。AAA(トリプルAと読む)の略称で知られる協会は、合衆国各地で運営されている51の自動車クラブ motor club の連合体だ。1902年の設立からまもない1905年に1枚ものの道路地図を提供し始め、1985年には、今も続く北米道路地図帳の刊行を開始している。
AAA道路地図帳 2013年版表紙 |
現在、地図帳は2種類あり、標準版の「AAA道路地図帳 AAA Road Atlas」と拡大版の「AAA読み易い道路地図帳 AAA Easy Reading Road Atlas」だ。標準版は中綴じ、144ページ。上記マクナリーの黄表紙やカッパのデラックス版と同じタイプで、地名索引はやはり地図と同じページに配される。カッパに比べて文字サイズがやや大きいので読取りはしやすい。地図表現もカッパに似ている。黒塗りの箱に白抜き数字を入れた高速道路の出口番号が目立ち、図の印象を重くしているが、肯定的に言えば、識別性が高いということになる。当然のことながら、市街図にはAAAのステーションの位置が示されていて、会員にとっては便利だ。
拡大版「読み易い」のほうは中綴じ、104ページ。標準版より4割拡大する代わりに、市街図などは標準版300点に対して50点にとどめている。これによって、全体のページ数は4割減となり、むしろ軽装版といった印象だ。
■参考サイト
アメリカ自動車協会AAA http://www.aaa.com/
日本から閲覧すると国際版のページが表示される。
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ナショナル・ジオグラフィック協会 National Geographic Society の商業地図部門といえば旅行地図が主だが、1点だけ北米道路地図帳、正確には「ナショナル・ジオグラフィック道路地図帳アドベンチャー版 National Geographic Road Atlas Adventure Edition」がある。スパイラル綴じ、168ページ。筆者の手元にあるものは2012年のコピーライトが記載されているが、表紙で強調していないところから察すると、毎年新版を出すつもりはないのだろう。
ナショナル・ジオグラフィック 道路地図帳アドベンチャー版 2012年版表紙 |
タイトルにあるアドベンチャー版というのは、各種野外活動の情報が盛り込まれているという意味だ。冒頭に、1999~2009年の間刊行されていた雑誌「ナショナル・ジオグラフィック・アドベンチャー National Geographic Adventure」の編集者が選ぶ全米の優良野外活動適地100か所の簡潔な紹介記事があり、次いで全米の国立公園に関する地図と紹介文がある。20数ページを費やすこの巻頭記事が、地図帳の最大の特色だ。
ナショナル・ジオグラフィック道路地図サンプル (同地図帳裏表紙より) |
その後に続く道路地図は州別地図で、デザインはマクナリーに似ている。これは協会の独自編集ではなく、アンテナ・オーディオ社 Antenna Audio, Inc から供給を受けたものだ(下注)。ここでも野外活動の目的地となる名所その他のスポット(地図帳の表現では point of interest)の記載が多数見られる。地名索引は巻末にまとめているので、その分、市街図や国立公園図などの挿図も豊富だ。市街を表す塗色には協会のシンボルカラーである黄色が充てられている。また、州別地図の背景には地勢を表すぼかしが控えめに付加され、この点でも他の道路地図帳と一線を画している。
*注 ミシュランの全米道路地図帳もアンテナ・オーディオ社から供給を受けているので、記載内容は協会とほぼ同一だ。ただし、ミシュランの場合は州別地図ではなく、経緯度で区分している。
■参考サイト
ナショナル・ジオグラフィック・マップスのページ http://www.natgeomaps.com/
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以上、商業出版による北米道路地図帳を見てきた。スタイルで端的に分類すると、ランド・マクナリーとナショナル・ジオグラフィックはモダン派、カッパとAAAは伝統派になろう。前者はフォントや彩色などが洗練されており、市街図や公園図も豊富に盛り込まれている。一方、伝統派は、1枚もののレイアウトを踏襲して、地図と索引が同一ページに配置されている点がメリットだ。情報量については、取り立てて言うほどの優劣はないように思う。
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