アメリカ合衆国の地形図-廃止された旧体系 II
今回は、2008年以前のUSGSの地形図体系を縮尺別に見ていこう。
1:1,000,000(100万分の1)
いわゆる国際図(IMW)図式によるシリーズだが、陸軍地図局AMSのクレジットが入った1950年代の編集図(変更多円錐図法 Modified Polyconic Projection による)と、1962年の国連技術会議の決定を受けたUSGS製作のシリーズ(ランベルト正角円錐図法 Lambert conformal Conic Projection による)の2系統があり、図郭によっては併存する。本来ならUSGS版で置換えを完了すべきところ、予定面数の半分にも達しないうちに事業が中止されてしまったからだ。そのため、最も新しいものでも1979年の編集で、資料としてはいささか古びている。しかし、州を越えた100km単位の広域で地勢、鉄道網などを概観したいときには、今でも役に立つ。
緯度4度、経度6度の図郭で、地勢表現は等高線と段彩による。高度表示は日本人にとって扱い慣れたメートル法のため、読図に抵抗がない。国際図については、下記サイトで、合衆国エリアを含む世界各地の地図画像が公開されている。
■参考サイト
ペリー・カスタネダ図書館地図コレクション > 国際図
http://www.lib.utexas.edu/maps/imw/
1:1,000,000 Cascade Range 1951年版 |
1:500,000
州別地図 State map の形式をとっているので、州域全体をある程度詳しく見たいときに適した地図だ。1州1面が原則だが、州の面積は、最小のロードアイランド州と最大の(アラスカは別として)テキサス州で170倍以上の開きがある。そのため、ニューハンプシャーとバーモント、コネチカット(下注)とマサチューセッツとロードアイランド、デラウェアとメリーランドはそれぞれ複数州で1面となる一方、カリフォルニア、ミシガン、モンタナの各州は2面に、テキサス州は4面に分割されている。
*注 コネチカット州の州別地図は、1:125,000の単独版もカタログに掲載されている。
用紙サイズもかなり大きいものがあり、例えばカリフォルニア州は北部版、南部版とも54×44インチ(137×112cm)と、平図のままでは取扱いに苦労する。
州別地図には、3つの異なる版が存在した(必ずしも全ての州で3つの版が揃っているわけではない)。1つ目は「基本図 Base map」で、交通網、水部、居住地、行政界、公有地界など地図の基本項目は網羅しているが、等高線は省かれている。2つ目は「地形図 Topographic map」で、「基本図」に等高線が入る。3つ目は「ぼかし地図 Shaded-relief map」で、「地形図」にさらに地勢を表すぼかし(陰影)が加わる。日本の1:200,000地勢図に似た仕様だが、多くの場合、ぼかしは濃いめにかけられ、立体感が強調されている。なお、どの版も州の外側はほぼ完全に白紙で、道路や河川が州境を越えるとどの方向へ進んでいくのかはわからない。
1:500,000 「地形図」California South 1981年版 |
1:500,000 「ぼかし地図」Colorado 1980年版 |
なお、州別地図については、1:1,000,000(100万分の1)バージョンも一部の州、一部の版で刊行されていた。また、アラスカの州別地図には1:500,000がなく、カタログに掲載されているのは1:1,584,000(158万4千分の1)、1:2,500,000(250万分の1)、1:5,000,000(500万分の1)、1:12,000,000(1200万分の1)などだ。
◆
1:250,000からは、図郭の経緯度幅を用いた独特の名称がある。1:250,000は"1x2 (one by two) degree map"といい、緯度1度、経度2度の範囲の図郭という意味だ。個々の図は1x2 degree quadrangle(クウォドラングルは四角形の意)とも表現する。同じように1:100,000は"30x60 minute map"、図郭は緯度30分、経度60分(=1度)になる。たまたま経緯度の区切りがそうだというだけで、縮尺との間に有意の関係はないのだが、通称としてよく見かける。
1:250,000(1×2度地図)
150km程度の幅のまとまった地域を概観することができる地形図で、合衆国本土(アラスカ州を除く)を489面でカバーする。このシリーズはUSGSのオリジナルではなく、1950年代に陸軍地図局AMSが作成した軍用地図をベースにしている。USGSがそれに適宜、経年変化の修正を加えてきた。
出自の違いは、他の中縮尺図と異なる地図記号にも表れている。合衆国の地図では、鉄道は概して不遇で、省かれるか、そうでなくても消え入りそうな細線で描かれることが多いが、ここでは太めの目立つ実線だ。また、市街地には他で使われない黄色の面塗りが配され、図面上のアクセントになっていた(改訂図式では色数が減らされたため灰色のアミとなり、効果は薄れた)。
地勢表現は原則として等高線のみによるが、初期の図にはぼかし(陰影)を加えたものも散見される。等高線間隔や高度表示はフィート単位で、距離もマイルで示される。カタログでも図上1インチが実長約4マイルと記されていて、実用上は1/4インチ地図 Quarter-inch Map(分数化すると1:253,433)と同等に扱われているようだ。従来は平図で頒布されていたが、近年の刊行図は折図仕様で、表紙の色は等高線の茶色を用いる。
1:250,000 San Francisco 1956年版 |
1:250,000 Kansas City(ぼかし付加) 1954年版 |
なお、ハワイ州の1:250,000は、島の位置に合わせた特別図郭で4面ある。また、アラスカ州では、アラスカ探査シリーズ Alaska reconnaissance series と呼ばれる旧版が153面で本土と付属島嶼をカバーしていたが、より精度を高めた新シリーズへ置換えが順次実施された。
下記サイトで、合衆国全土の1:250,000の地図画像を見ることができる。ページ最上段にある索引図で図名を検索するとよい。
■参考サイト
ペリー・カスタネダ図書館地図コレクション>合衆国地形図1:250,000
http://www.lib.utexas.edu/maps/topo/250k/
1:100,000(30×60分地図)
緯度30分、経度60分(=1度)の図郭をもつ地形図で、1面で東西80km、南北50km程度の範囲をカバーする。かつて中縮尺図として1:125,000(下注)が作られていたが、第二次大戦後、1:24,000から新たに編集されたこのシリーズに置換えられた。旧図に比べて図郭は、東西方向が2倍に拡大されている。
*注 1:250,000を2倍に拡大した縮尺。図上1インチが実長2マイルを表す1/2インチ地図 Half-inch Map とほぼ同等。
比較的新しい設計のため、等高線間隔、高度表示ともメートル法に統一され、図上1cmが実長1kmという切りの良さと相まって、使い易いものに仕上がっている。地勢表現は、等高線のみの簡潔なスタイルで、表紙の色は水色だ。一部の図葉では等高線を省いたプラニメトリック(平面図)版 Planimetric edition も用意されていた。
なお、この地形図をベースにして、土地管理局 Bureau of Land Management は、国有地などの範囲を加刷した土地管理区分図 Surface Management Status および表層鉱物管理区分図 Surface Minerals Management Status を製作している。これは主として西部各州をカバーする。
1:100,000 Cumberland 1981年版 |
1:62,500または1:63,360(15分地図)
緯度15分、経度15分の図郭のため、15分地図 15 minute map と称する。本土48州とハワイ州では縮尺1:62 500で作成された。これは1:125,000を2倍に拡大した縮尺で、図上1インチが実長でおよそ1マイルとなる。東部では19世紀から着手されていたが、全国をカバーすべく本格的に製作が始まったのは1910年とされ、それ以来1950年代まで、合衆国の基本地形図に位置付けられていた。比較的遅い時期まで残っていたので、目にする機会は多い。ハワイ州では、最大のハワイ島を除き、1島を1面に収めた図郭拡大版が作成されている。
1:62,500 Georgetown 1903年版 |
一方、アラスカ州では、本来の1インチ地図(図上1インチが実長1マイル)である1:63,360で作成された。2008年のカタログでは、州域2920面のうち97%が製作済とされている。いずれも等高線間隔、高度表示はフィート単位だ。
これら15分地図の作成・更新は、アラスカ州を除いて、より大縮尺の1:24,000に主役の座を譲る形で廃止された。そのため、合衆国は、先進国では縮尺1:50,000かそれと同等の区分地形図を維持していない唯一の国となっていた(下注)。
*注 ただし、各郡域を描く郡別地図 County Map の多くは、旧版1:62,500から編集された1:50,000地形図だ。
アラスカ州 1:63,360 Seward D-5 1952年版 |
1:24,000(7.5分地図)
緯度、経度とも7分30秒の図郭をもつこのシリーズの普及で、アラスカ州を除くと、これが合衆国の基本地形図になった。いうまでもなく最大の地形図シリーズで、1947年から鋭意製作が進み、本土48州については1991年に整備が完了した。オンラインカタログによると、面数は48州とハワイ州、海外領土 U.S. Territories を合わせて約57,000面あるとされる。ちなみに、日本の1:25,000地形図は全部で4,372面(2013年3月現在)だ。1面の大きさが日本の2倍以上あるのに面数が約13倍だから、全体のボリュームは想像を超えている。
なお、アラスカ州は、先述のとおり1:63,360が基本地形図とされているが、アンカレジ Anchorage、フェアバンクス Fairbanks、プルードー湾 Prudhoe Bay 周辺で1:25,000が作成されている。
1:24,000 Washington West 1956年版(再掲) |
1:24,000 Washington West 1983年改訂版 改訂個所はマゼンタで加刷されている |
1960年代後半からは並行して改訂作業も始まったが、予算上の制約により、各原版に手を入れる全面改訂ではなく、主として、変化した個所をマゼンタ(赤紫色)で加刷する方式(訂補 minor revision あるいは基本修正 basic revision)が採られた。修正は空中写真や行政資料に基づくもので、現地調査はしていないという断り書きも見られる。
これとは別に、農務省森林局 U.S. Forest Service が改訂を加えた版(刊行はUSGS)も流通している。そこでは、国有林 National Forest 内にある山道の状態や道路番号、管轄地の分布といった情報が付加されている。
ところで、ふつうなら1:25,000とすべきところを、なぜ1:24,000という半端な縮尺にしているのだろうか。それはこの地形図が、図上1インチで実長2,000フィート(=24,000インチ)を表すという、純然たるヤード・ポンド法で描かれているためだ。当然、等高線間隔や高度の表示もフィート単位になる。イギリス、アイルランド、ニュージーランドなどもかつて地形図にヤード・ポンド法を用いていたが、とうにメートル法への切替えを完了している。それに比べて合衆国の場合、測地測量の単位がフィート(測量フィート)のままという理由もあるようだが、地形図体系は混乱気味だ。
むろんUSGSも状態を放置していたわけではなく、縮尺を1:25,000に変え、高度もメートル法表示にした新版の刊行に着手していた(下注)。このバージョンは、図郭を東西方向で2倍(経度15分)に拡大し、7.5×15分地図と称した。薄緑色の表紙もつけて、先述の1:250,000や1:100,000と仕様を共通化しようとしていたのだ(下図参照)。しかし、予算不足で更新は遅々として進まず、結局、新しいデジタル地図(次回詳述)では、図郭も縮尺も単位系も、多数派である旧来のものを採用せざるを得なかった。メートル法への統一は、当面おあずけの状況だ。
*注 ただし、等高線は描き直さず、等高線間隔10フィートは3mに、20フィートは6mに換算表示していた。
1:25,000 Boston South 1987年版 |
ここまでがUSGS地形図の旧体系の概要だが、新体系ではこれがどのように整理され、変貌したのだろうか。次回はその内容を見ていきたい。
Map images courtesy of the U.S. Geological Survey.
■参考サイト
合衆国地質調査所 USGS http://www.usgs.gov/
ナショナル・マップ(国勢地図) http://nationalmap.gov/
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